ガルヴォルスX 第12話「正義の暴走」
怪物への恐怖に駆り立てられていたひとみだが、同じくガルヴォルスだった士蓮に守られた。
(人を守る怪物・・健太も・・・)
士蓮の言葉と行動で、ひとみは健太に対する思いを呼び起こしていた。
「1度場所を変える。他に怪物、ガルヴォルスが潜んでいないとも限らない。」
「でも・・僕・・どうしたら・・・」
「今は直面した非日常的なことが多すぎて、不安に押しつぶされている。我々に促されることだけを考えて、他のことを考えるのは極力避けるべきだ。」
困惑を募らせているひとみに士蓮が呼びかける。彼の伸ばした手が彼女の腕をつかむ。
「とにかくここを離れるぞ。これ以上危険に巻き込まれたくなければ。」
士蓮に促されて、ひとみはこの場を離れることになった。
ひとみを必死に探す健太に、シャークガルヴォルスが迫ってきた。彼の強く鋭い気配に、健太はすぐに気付いた。
健太は即座にシャドーガルヴォルスになって、シャークガルヴォルスが突き出してきた爪をかわす。
「またお前かよ!・・こんなときに!」
健太が毒づき、足を出してシャークガルヴォルスを蹴り飛ばす。少し押されたシャークガルヴォルスだが、すぐに踏みとどまる。
「今はお前の相手をしてる場合じゃねぇんだ!相手なら後でしてやるから!」
「お前も消えなければならない害虫だ!害虫は、オレが残らず叩きつぶす!」
健太の呼びかけを聞かずに、シャークガルヴォルスが飛びかかる。彼が突き出してくる爪と角を、健太は紙一重でかわしていく。
(また逃げるしかねぇ・・またあんなとんでもねぇパワーを出されたらたまんねぇ・・・!)
シャークガルヴォルスが変貌を遂げたのを思い出して、健太が彼から逃げ出そうとする。
「逃げるな!」
怒号を放つシャークガルヴォルスが刺々しい姿へと変わる。能力を一気に飛躍させて、彼は健太を追って飛びかかる。
「ぐっ!」
追いつかれた健太の右肩を、シャークガルヴォルスの爪がかすめた。その拍子で横転した健太の前に、シャークガルヴォルスが回り込んできた。
「今度こそ・・お前を倒す!」
シャークガルヴォルスが足を上げて、倒れている健太を踏みつけようとした。
そのとき、2人のいる場所に獣性が響き、シャークガルヴォルスが足を止める。
「そこまでだ!」
駆けつけた警官たちが健太とシャークガルヴォルスを取り囲み、銃を取り出して構えていた。
(け、警察・・誰かが通報して、駆けつけてきたってとこか・・・!)
警察の登場に健太が胸中で毒づく。
「お前たちは包囲されている!大人しくして、こちらの指示に従え!」
警部が健太とシャークガルヴォルスに向けて呼びかける。しかしこの言葉がシャークガルヴォルスへの憎悪を逆撫でする。
「オレたちを狂わせたお前たち・・全員叩きつぶす!」
「お、おい、待て!」
激情をあらわにするシャークガルヴォルスに、健太が声を上げる。しかし彼の呼び止めも聞かずに、シャークガルヴォルスが警官たちに飛びかかる。
「い、いかん!撃て!」
警官たちがとっさに発砲するが、弾丸はシャークガルヴォルスには通じない。
「ぐあっ!」
体を切り裂かれて、警官たちが昏倒していく。
「おい、やめろよ!」
激高した健太がシャークガルヴォルスに飛びかかる。彼に飛びつかれたシャークガルヴォルスが、警官たちから引き離される。
「おめぇ、人殺しになるつもりかよ!?」
「オレは潰す!ここにいるような害虫どもを!」
怒鳴りかかる健太にシャークガルヴォルスが怒号を放つ。シャークガルヴォルスに蹴り飛ばされて、健太が横転する。
シャークガルヴォルスがさらに警官たちを切りつけていく。
「下がれ!体勢を整える!」
「警視庁に連絡を!」
警官たちが後退して、シャークガルヴォルスから離れようとする。その彼らを、シャークガルヴォルスは怒りのままに執拗に襲い掛かる。
「マジで・・マジで人殺しをするのかよ・・・!?」
シャークガルヴォルスの暴挙に、健太も憤りを募らせていく。
「こんなヤツを野放しにしてたら・・かわい子ちゃんが・・ユキやひとみまで・・・!」
激情に駆り立てられた健太が、全身に力を込める。彼は右手を強く握りしめて、シャークガルヴォルスに拳を叩き込んだ。
だがシャークガルヴォルスは少し押されただけで、ダメージをほとんど受けていない。
「おいおい・・もろに食らったってのに・・・!?」
自分の力が通じないことに、健太は愕然となる。シャークガルヴォルスが右ひじの角を健太に突き立てようとした。
そのとき、2人のいる場所に白いバラの花びらが降り注いできた。シャークガルヴォルスが花びらによって視界をさえぎられる。
(この花びら・・ユキ・・・!)
健太が花びらをユキが放ったものだと直感する。その直後、ローズガルヴォルスとなったユキが飛び込み、健太を抱えてシャークガルヴォルスから離れた。
「健太、大丈夫!?」
「ユキ・・来たのか・・・!」
声をかけてきたユキに、健太が困惑を見せたまま答える。
「今は逃げろ・・今のアイツには、オレたちじゃ歯が立たねぇぞ・・・!」
「分かってる!さすがにちょっとまずいから!」
健太の呼びかけにユキが頷く。彼女もシャークガルヴォルスの高まった力を痛感していた。
「それでひとみちゃんは見つかったの!?」
「いや、見つかってない・・この近くじゃなけりゃいいけど・・・!」
ユキの問いかけに、健太が不安を込めて答える。
「こうなったら、血眼になっても見つけ出すよー!」
「張り切ってんな、ユキ・・こっちはヘトヘトなのに・・」
「さすがの健太も弱気だね。エヘヘ・・」
「相手が相手だからしょうがないって・・」
健太と言葉を交わしてから、ユキは彼を連れて、ひとみを探しに走り続けた。
ユキの放ったバラの花びらに視界をさえぎられて、健太を見失ったシャークガルヴォルス。彼が花びらを振り払ったときには、健太とユキの姿は消えていた。
「どいつもこいつも、オレを陥れて・・・!」
健太の打倒を妨害されたことで、シャークガルヴォルスの怒りは頂点に達していた。
「許してはおかない・・オレたちを陥れる害虫どもも、その駆除を邪魔するヤツらも・・・!」
怒りの重くむままに雄たけびを上げるシャークガルヴォルス。彼の体がさらに刺々しいものへと変貌した。
シャークガルヴォルスはうなり声を上げながら、敵を倒そうと歩き出していった。
士蓮に連れられて、ひとみは人気のない道まで移動してきた。
「ここで1度集合をかけるか。あのガルヴォルスも金城健太も大きく動いているようだ。」
部下を呼び集めようと考える士蓮。そこへひとみが当惑を浮かべて声をかけてきた。
「話、聞いてもいいですか?・・あの怪物は何なんですか?・・あなたも、怪物になって・・・」
「それはガルヴォルスと呼ばれている。常人を大きく超えた人間の進化だ。」
「人間の進化!?あれが・・!?」
士蓮の話を聞いて、ひとみが驚愕する。
「もしかして、僕も怪物に・・・!?」
「そうなるとは限らない。むしろガルヴォルスに転化する可能性は低い。」
不安を募らせるひとみに、士蓮が語りかけていく。
「人間が何をきっかけにしてガルヴォルスになるのかはまだ正確に解明されていない。それも我々は研究を続けているのだが・・」
士蓮は話を続けて、困惑しているひとみに目を向ける。
「検査をしなければ詳細は分からないが、現時点でガルヴォルスとなることはないだろう、君は。」
「大丈夫、ですか・・僕は、ならない・・・」
士蓮が投げかけた言葉に励まされて、ひとみは安堵を感じた。しかしその直後、ひとみは深い罪悪感に襲われた。
(健太も怪物なのに・・・僕、安心してた・・・)
ひとみの脳裏に健太の顔がよぎっていた。
(人間を守る怪物・・僕なんかじゃ想像もつかない大変なことだらけのはずなのに・・・僕は、なんて悪いことを・・・)
自責の念に駆られて、胸を締め付けるような辛さを感じていくひとみ。彼女は健太に思いを傾けつつあった。
「どうした?何かあったか?」
士蓮に声をかけられて、ひとみが我に返る。
「い、いえ・・何でもないです・・」
「そうか。そろそろ私の部隊が到着する。その後、君を我々の施設に向かう。」
首を横に振るひとみに、士蓮が表情を変えずに言いかける。
(健太・・ホントは、健太は・・・)
ひとみは次第に、健太は心までは怪物になっていないと思うようになっていた。
シャークガルヴォルスから辛くも逃げ切った健太とユキ。2人は人の姿に戻って、ひとみの行方を追っていた。
「アイツからは逃げられたけど・・・!」
「ひとみちゃんは見つかんない・・どこにいるの、ホントに・・・!?」
呼吸を整えながら、健太とユキが周りを見回していく。
「ところで、健太を捕まえて利用しようとしているあの人たちのことなんだけど・・」
「ん?士蓮たちのことか・・?」
ユキが切り出した話に健太が答える。
「もしかして、あの人たちがひとみちゃんを連れてったってことは・・・!?」
「そんなバカな!?・・ひとみはガルヴォルスじゃねぇんだぞ・・!」
ユキの話を聞いて、健太が思わず声を荒げる。
「そうだよね・・そんなことないよね、アハハハ・・・」
ユキが首を横に振って苦笑いを見せる。
「ハァ・・気を取り直してひとみを探すか・・」
健太はため息をついてから、ひとみの捜索を続けた。
「健太、あそこにいるの・・・」
そのとき、ユキが指をさして、健太がそのほうに振り向く。その先にいたのはひとみと士蓮だった。
「ひとみちゃん!」
「アイツ・・・何でアイツと一緒に・・・!?」
ユキが声を上げて、健太がひとみのそばにいる士蓮に驚く。
「アイツのそばにいさせたら、何をされるか分かんないぞ・・!」
「健太!ちょっと待ってー!」
健太がひとみと士蓮に向かって駆け出し、ユキも慌てて追いかけていった。
黒ずくめたちが来るのを待っていた士蓮。その彼に向けて連絡が入った。
「どうした?」
“金城健太、春日野ユキがそちらへ向かっています。”
応答する士蓮に黒ずくめが報告をする。
(健太とユキちゃん・・・!?)
その通信の声はひとみの耳にも入っていた。彼女は健太とユキが来ることに戸惑いを覚える。
「監視を続けろ。接触は避けろ。私も場所を変える。」
“もうそちらに着きます。”
指示を出したところで、士蓮の前に健太とユキが駆けつけた。
「ひとみちゃん!」
「ユキちゃん!・・健太・・・!」
ユキと声を掛け合って、ひとみが健太に目を向けて戸惑いを募らせる。
「アンタ、今度は何を企んでんだ・・・!?」
「彼女は我々が保護する。彼女が恐怖しているガルヴォルスから。」
問い詰める健太に、士蓮は表情を変えずに答える。
「アンタのそばにいるほうが危なっかしいっての・・」
愚痴をこぼす健太が士蓮を鋭く睨みつけてくる。
「アンタはオレや他のヤツの言うことを聞かず、何もかも自分の思い通りにしようとしてる。ガルヴォルスってだけで、バケモンってだけで始末しようとして・・」
「我々のことを独自の解釈で語るとは・・そういうお前も、自分勝手に行動している男だというのに・・」
「命を弄ぶようなアンタらとオレを一緒にすんな!」
表情を変えずにあざけてくる士蓮に、健太が言い返す。
「オレはアンタらとは違う・・かわい子ちゃんを守って仲良くなるのが、オレの1番の喜びだ!」
「健太・・やっぱり健太は健太だね♪」
自分なりの意思を貫く健太に、ユキが笑顔を見せる。
(健太・・いつもの健太だ・・怪物のはずなのに・・・)
ひとみが健太に対して戸惑いを感じていた。怪物でありながらも、今までと変わらない、ハレンチな考えの持ち主の健太がそこにいた。
「相変わらずだな、お前は。だがそのように自己満足な考えの持ち主で、なおかつ怪物であるお前を危険視しないわけにはいかない。」
士蓮が言いかけて、健太に鋭い視線を向ける。
「ひとみちゃん、こっちに戻ってきて!悪いのはその人のほうだよ!」
ユキがひとみに向けて手を差し伸べる。すると士蓮が右手を出して止めに入る。
「金城健太も春日野ユキもガルヴォルス。お前の恐れる怪物。私と違い、自分の目的のためにその力を使っている。」
士蓮から言われて、ひとみが健太とユキに目を向ける。
「僕・・僕は・・・」
「深く考えるな。気に病めば逆に自分自身を苦しめることになるぞ。我々に任せておけばいい。」
困惑するひとみに士蓮が呼びかける。
「自分で考えで選んじまえばいいだろうが!」
そこへ健太が声を張り上げて、ひとみに呼びかけてきた。
「ウジウジしてるなんてひとみらしくねぇぞ!いつもみたく、オレを追っかけてくれねぇと張り合いがねぇぜ!」
強気に言いかける健太に、ひとみが心を揺さぶられていく。
(怪物になっても、いつもの健太と変わんない・・・)
ひとみは健太が今までと今と何も変わっていないことを実感していく。
「僕が・・僕が信じるのは・・・」
彼女が迷いを振り切り、真剣な面持ちを浮かべた。彼女は士蓮の制止を振り切って、健太とユキのそばまで来た。
「いつもバカとエッチなことをしてる健太のほう!」
「ひとみちゃん・・・」
健太への思いを打ち明けたひとみに、ユキは安堵を感じていた。
「人間かガルヴォルスかという違いよりも、長く培ってきたつながりか・・人間であっても滑稽になるのだな。」
士蓮がひとみのこの決断に嘲笑をもらしてきた。
「オレたちを思い通りにしようとするお前らのほうがよっぽど滑稽っての・・」
そんな士蓮に健太が愚痴をこぼす。
「オレやかわい子ちゃんだけじゃなく、ひとみやユキまで思い通りにしようとして・・・!」
怒りをあらわにする健太の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「もうオレは、お前を絶対に許さない!」
怒号を放つ健太がシャドーガルヴォルスになる。彼の変化を目の当たりにしても、ひとみは恐怖することなく真剣な面持ちを崩さなかった。
「つながりが人を変える、か・・だが、同じ変わるでも、愚かになるのは受け入れられないな・・」
肩を落とす士蓮の頬に紋様が走る。彼が健太たちの前でタイタンガルヴォルスとなった。
「えっ!?」
「アンタもガルヴォルスだったのかよ・・ガルヴォルスを取り締まるようなことをしてるのに・・・!」
ユキが驚きの声を上げて、健太も緊迫を覚える。
「ガルヴォルスだからこそ、ガルヴォルスの暴挙を撲滅しなければならない。私が、ガルヴォルスを殲滅する。」
士蓮が目つきを鋭くして、健太に攻撃を仕掛けた。
健太と警察に強い憎悪を抱いているシャークガルヴォルス。怒りのままに行動していた彼がたどり着いたのは、警視庁だった。
「オレたちを陥れる害虫は、オレが滅ぼす・・・!」
両手を握りしめるシャークガルヴォルスが、警視庁に足を踏み入れた。
次回
「お前たちと我々では、くぐった死線が圧倒的に違う。」
「怪物撃破のため、一斉射撃を開始する!」
「叩きつぶす・・みんな叩きつぶす!」
「健太・・・健太!」