ガルヴォルスX 第11話「近づく思い、離れる心」
シャークガルヴォルスからひとみを守ろうとして、健太は彼女の前でシャドーガルヴォルスになった。
(健太が・・怪物に・・・!?)
変貌を遂げた健太にひとみは目を疑っていた。
「いくら誰から見ても正しいことだとしてもな、あんまり押し付けられるのは気分が悪くなってくるんだよ!」
「邪魔をしてくる害虫の味方が!」
文句を口にする健太に、シャークガルヴォルスが怒号を言い放つ。
「ひとみ、さっさと逃げろ!ここにいると危ないぞ!」
健太がシャークガルヴォルスに目を向けたまま、ひとみに呼びかける。しかしひとみは恐怖と愕然で動けなくなっている。
「早く行け、ひとみ!」
健太が怒鳴りかかり、ひとみがようやく我に返った。彼女は健太の叫びに突き動かされるように、立ち上がってこの場から駆け出していった。
「これで思い切りやれる・・とことん相手してやるよ!」
「お前はオレが叩きつぶす!邪魔者も許しはしない!」
健太とシャークガルヴォルスが言い放ち、同時に拳を繰り出す。ぶつかり合った拳から衝撃が巻き起こる。
「オレも実は、警察にはいい思いがないんだよな・・追いかけられる方が多いぐらいか・・!」
健太が警察について言いかける。
「けど、ぶっ潰していいとは思っちゃいない!追っかけられるのを逃げ切るのも、オレの醍醐味だからな!」
「いつまでもふざけたことを!」
自分の意思を示す健太に、シャークガルヴォルスが怒号を放つ。彼の体の角がさらに生えてきて、刺々しいものへと変わっていく。
「何っ!?」
シャークガルヴォルスの変化に健太が驚愕する。シャークガルヴォルスの力も高まり、健太が押し込まれて突き飛ばされる。
「うっ!」
突き付けていた拳が押されたことで、健太が右腕を痛める。
「パワーがさらに増してきてる・・いくらオレでも、骨までバラバラになっちまう・・・!」
健太が右腕を押さえて、痛みに顔を歪めながら声を振り絞る。シャークガルヴォルスが健太を鋭く睨みつけてくる。
「倒す・・オレの敵は、全て倒す!」
「こ、ここは逃げるしかねぇ!」
怒号を放つシャークガルヴォルスから、健太が慌てて逃げ出す。
「逃げるな!」
シャークガルヴォルスが憎悪をむき出しにして、健太を追いかけていく。彼のスピードも今までよりも上がっていた。
「マジでしつこいっての!」
健太が毒づいて、シャークガルヴォルスを振り切ろうと角を曲がる。そのとき、彼は地面のマンホールを目にした。
(あれに賭けるしかねぇか!)
思い立った健太が地面を強く踏みつけて、その衝撃でマンホールを跳ね飛ばした。彼はその穴の中に飛び込んだ。
シャークガルヴォルスも穴に飛び降りた。だが着地した先に健太はいなかった。彼は着地すると同時に、全速力で地下道を駆け抜けていた。
「卑怯な・・・アイツも、警察も・・・!」
憎悪をさらに膨らませたシャークガルヴォルスが、そばの壁に拳を叩きつける。彼の怒りが衝撃となって、地震のように地面を揺るがした。
健太も怪物だった。その瞬間を目の当たりにしたひとみは、彼の言う通りにして逃げてきたが、驚愕を募らせていた。
(そんな・・・健太も・・健太も怪物だったなんて・・・!?)
健太を信じることができなくなり、ひとみが困惑する。
(僕は・・怪物を追いかけてたってこと・・・!?)
これまでの健太を思い出して、ひとみはさらに体を震わせる。
そのとき、シャークガルヴォルスから逃げてきた健太が、ひとみの前に戻ってきた。彼はこのときは人の姿に戻っていた。
「ひとみ・・平気か・・・?」
健太が声をかけるが、ひとみがさらに恐怖して後ずさりする。
「け・・健太・・・ぼ・・僕・・・」
「ひとみ・・・」
弱々しく声を発するひとみに、健太が困惑を覚える。
「やっぱ、ビビるよな・・マジでバケモンに出てこられたら・・・」
健太が肩を落として、ひとみに背を向ける。
「ユキが危ないんだったな・・連れ帰ってくる・・寮で待ってろ・・・」
ひとみに呼びかけてから、健太はユキを助けに歩き出す。ひとみは震えるばかりで、健太を呼び止めることができなかった。
(とうとう、見られちまった・・ひとみのトラウマに、追い打ちをかけちまった・・・)
自分がガルヴォルスであることをひとみに知られて、健太は絶望を感じていた。彼もひとみも互いに向き合うことができなくなっていた。
(今は、ユキを助けるのが先か・・・!)
健太は迷いを振り切ろうとしながら、ユキを助けに駆け出していった。
士蓮たちの部隊を振り切ろうとするユキ。しかし黒ずくめたちの監視と包囲網は彼女を逃がさない。
(もう・・ホントにしつこいんだから・・・!)
追い詰めてくる黒ずくめたちに、ユキが心の中で文句を言う。
(でも人殺しはよくない・・こうなったらアレで巻いてみるかな・・)
考えを巡らせたユキが、風を巻き起こして白いバラの吹雪を放った。彼女はバラの吹雪で黒ずくめたちの視界を封じることにした。
「ぐっ・・!」
バラの吹雪にあおられてうめく黒ずくめたち。バラを振り切る彼らだが、ユキを見失う。
「しまった・・すぐに探せ!」
黒ずくめたちが散開してユキの行方を追う。しかし彼らはユキの姿を目にすることはできなかった。
何とか黒ずくめたちを振り切ったユキ。人の姿に戻って、彼女は安堵の吐息をついた。
「ふぅ・・何とか逃げ切れたよ〜・・・さーて。ひとみちゃんとこに行かないと・・」
深呼吸をしてから、ユキはひとみのところへ向かう。路地から飛び出したところで、ユキは人影を目撃して、思わず足を止める。
「わっ!」
「うわっ!」
思わず驚きの声を上げるユキ。彼女の前に現れたのは健太だった。
「け、健太!・・ビックリしちゃったよ〜・・」
「ユキ、無事だったか・・・!」
互いに安堵を見せるユキと健太。
「健太、ひとみちゃんに会ってない・・!?」
ユキがひとみのことを聞くと、健太が困惑を浮かべる。
「そ、それなんだけど・・・」
健太が声を振り絞り、ひとみにガルヴォルスであることを知られたことを話した。
「えっ!?・・ひとみちゃんの前で、あの姿になったの・・!?」
「あぁ・・そうしなかったら、オレもひとみもやられてた・・・」
驚きの声を上げるユキに、健太が不安を込めて言いかける。
「それで、ひとみちゃんは・・・!?」
「寮の近くにいる・・すっかりビビっちまって、連れてくることができなかった・・・」
ユキの問いかけに健太が気落ちしたまま答える。
「と・・とりあえず、ひとみちゃんのところに行こう・・話は、あたしがするから・・・」
「ユキ・・わりぃな、こんなときに・・」
「こんなときだからこそ、健太の力になんないとね。」
謝意を見せる健太にユキが笑顔を見せる。その満面の笑みは作り笑顔で、彼女は健太とひとみのことを深く心配していた。
「行こう、健太・・ひとみちゃんが待ってる・・」
「あ・・あぁ・・」
ユキが呼びかけて、健太が困惑を抱えたまま答える。2人はひとみのところに戻っていった。
黒ずくめたちとは別行動を取っていた士蓮は、黒ずくめからの報告を通信で聞いていた。
「すぐにこちらと寮のほうに隊員を集めろ。私には分かっている。2人の居場所が・・」
“了解。散開して向かいます。”
士蓮の命令に黒ずくめが答える。通信を終えた士蓮が、移動している健太とユキを見据えていた。
憎悪を膨らませたことで、ガルヴォルスとしての力を上げた青年。彼は警察や健太への憎悪に駆り立てられて、道を歩いていた。
「許しはしない・・オレを、オレたちをムチャクチャにした害虫どもを、この手で根絶やしにする・・・!」
青年は憎悪をさらに募らせて、1人歩いていく。怒りが心を満たすあまり、彼は無意識に周りの全てが敵だと認識してしまっていた。
ひとみのいた場所に戻ってきた健太とユキ。しかしその場にひとみがいない。
「なっ!?ひとみがいない!?」
「寮にいるんじゃ・・あたし、行ってみる!」
辺りを見回す健太と、寮に向かうユキ。2人はひとみの行方を必死に探す。
「ひとみちゃん、どこ!?・・ひとみちゃん!」
寮の中を駆け回ってひとみに呼びかけるユキ。しかしひとみを見つけることができない。
(寮にもいない!?・・怖くなってるなら、寮にいたほうが安全だと思うのに・・・)
ひとみのいる場所が思い当たらず、ユキが困惑していく。彼女は1度健太と合流した。
「いない・・そっちは・・・!?」
「見つかんないよ〜・・どこに行っちゃったんだろう・・・寮以外に行くとこなんて・・・」
健太とユキが声を掛け合って、ひとみへの心配を膨らませていく。
「オレが、ひとみを追い詰めちまったのか・・追い詰められてるのは、いつもオレのほうだっていうのに・・・」
ひとみに追いかけられていることを思い出して、健太が思わず笑みをこぼす。
「オレが見つけてやらないとな・・今度はオレが・・・」
「健太・・・」
ひとつの決意を胸に秘める健太に、ユキが戸惑いを見せる。
「オレ、もう1回外を探してみる・・」
「健太・・あたしは寮に残るよ・・もしかしたら健太が探している間に、ひとみちゃんが帰ってくるかもしれないし・・・」
呼びかける健太にユキが困惑しながら答える。
「もし帰ってきたら健太に知らせるね。そして、ひとみちゃんの面倒はあたしが見るよ・・」
「ユキ・・ありがとうな・・・」
微笑みかけるユキに励まされて、健太も笑みをこぼす。彼は自分の頬を叩いて気合いを入れてから、ひとみを探しに駆け出していった。
(そうだよ。迷ったり悩んだりしてるのは健太らしくないよ・・)
健太を見送るユキが、彼が元気になったことを心の中で喜んでいた。
健太と会うのが怖くなったひとみは、1人で外を歩いていた。彼女は力なくただただ道を進んでいた。
(僕、健太に近づけない・・・怪物だから、健太が怖くてたまんない・・・)
シャドーガルヴォルスとなった健太を思い出して、ひとみは不安を膨らませて、体を震わせていく。
(どうしたらいいんだ・・僕はこれから・・健太とどう向き合ったら・・・)
健太と会うことが怖くて、ひとみが精神的に追い込まれていく。彼女は健太から逃げるように、足早になっていく。
そして人通りの多い道に差し掛かろうとしたときだった。何かが付いてきていると感じて、ひとみが突然足を止めた。
「ちょっと・・僕に、何か用・・・?」
ひとみが恐る恐る後ろに振り返る。その先にいたのは士蓮だった。
「怪物に襲われてショックを抱えているようだな。」
「あ、あなたは・・・!?」
声をかけてきた士蓮にも、ひとみが警戒を見せる。
「怯えることはない。私はお前が恐れている怪物と戦っている者だ。」
「怪物と・・戦ってる・・!?」
「私は兵頭士蓮。怪物の犯行に恐怖している君は、我々が保護する。」
困惑しているひとみに、士蓮が冷静に言いかける。
「怪物はお前だけではない。罪のない人間を無差別に襲っている。私利私欲のために。」
「怪物が・・みんなを・・・!?」
「我々はその怪物から人々を守るために行動している。お前のように怪物に恐怖している者は少なくない。」
語りかけてくる士蓮に、ひとみが困惑するばかりになっていた。
「怪物の数はもちろん、怪物によって蹂躙される人も増やしたくはない。我々の保護を受けてもらいたい。」
「でも・・僕・・・」
「お前や他の市民に危害を加える怪物は、我々が打ち倒そう。」
後ずさりするひとみに、士蓮が手を差し伸べてくる。ひとみには冷静に選択を選ぶことができなくなっていた。
そのとき、士蓮は後ろに数人の男たちが近づいてきたことに気付いて、そのほうに視線を向ける。
「お前たち、ガルヴォルスだな?人の姿を取っていても、殺気がむき出しだぞ。」
「これ以上、おめぇらにいいようにされてたまるかよ・・・!」
「ここで貴様の息の根を止めてやる・・・!」
表情を変えない士蓮に、男たちが鋭く言いかける。
「オレたちは自由になるんだよ!」
叫ぶ男たちの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼らの異変を目の当たりにして、ひとみが恐怖を膨らませる。
ひとみと士蓮の前で、男たちが怪物の姿へと変わっていく。
「お前はたった1人!そこの小娘もただの人間みたいだし!」
「お前を八つ裂きにした後、勝利の祝いにそこの小娘で楽しんでやるぜ!」
怪物たちが士蓮とひとみに目を向けて言い放つ。ひとみが体を震わせる中、士蓮は冷静さを崩さない。
「私を部下がいなければ何もできないヤツと思っているようだが・・」
ため息をついてみせる士蓮の頬にも紋様が走る。彼の変化に怪物たちが驚愕を覚える。
「そう考えることが致命的であることを思い知るのだな。」
目つきを鋭くする士蓮の体から異形の怪物に変わる。体格の大きいタイタンガルヴォルスへと、彼は変化した。
「お、お前もガルヴォルスだったのか!?」
「バカな!?ガルヴォルスがガルヴォルスを処分するなど!?」
ガルヴォルスたちが士蓮に対して驚愕を隠せなくなる。
「あなたも怪物!?・・あなたも誰かを襲って・・・!?」
「襲っているとしたら、その相手は他の怪物たちだ。」
声を荒げるひとみに、士蓮は落ち着いたまま言葉を返す。
「怪物でありながら人間を味方をして怪物と戦う。そういう点では金城健太と同じか・・」
「健太と・・同じ・・」
士蓮が口にした言葉を聞いて、ひとみが戸惑いを覚える。
「たとえ同じガルヴォルスでも、お前にいい気になられるわけにはいかねぇ!」
「一気に叩きつぶしてやるよ!」
ガルヴォルスたちが士蓮に向かって一斉に飛びかかる。
「ここまで相手を侮るとは、滑稽だな。」
士蓮がため息をつくと、右手を握って拳を振りかざす。彼の一撃の衝撃で怪物たちが大きく吹き飛ばされる。
「ぐっ!」
地面や壁に叩きつけられて、ガルヴォルスたちがうめく。
「ガルヴォルスとしての力に溺れて、相手との力の差も推測できない。それがお前たちの敗因だ。」
士蓮は呟くと、体から数本の針を体から出して、立ち上がったガルヴォルスたちに向けて放つ。針が次々にガルヴォルスたちの体に命中し、貫いた。
「おとなしくこちらの言う通りにしていれば、無意味に命を落とすこともなかったのに・・」
士蓮がため息をついてから、ガルヴォルスから人の姿にも戻った。彼は冷静さを保ったまま、ひとみに振り向く。
「もう恐れることはない。私がお前を保護しよう。もちろん、その心のケアもな。」
改めて手を差し伸べてきた士蓮に、ひとみは戸惑いを感じていた。
(人を守る怪物・・この人も・・健太も・・・)
ひとみは健太に対する思いも膨らませていた。
ひとみを探して外を駆け回る健太。彼はひとみを見つけられないまま、大通りの近くまで来た。
「ひとみ・・マジでどこに行ったんだ・・・!?」
不安を募らせていく健太が、さらに周辺を駆け回っていく。
「ここにいたか・・・!」
そんな彼を青年が目撃していた。
「今度こそ、お前を倒す・・・!」
いきり立った青年がシャークガルヴォルスとなり、健太に向かって駆け出した。
次回
「お前たちは包囲されている!」
「マジで・・マジで人殺しをするのかよ・・・!?」
「僕が・・僕が信じるのは・・・」
「もうオレは、お前を絶対に許さない!」