ガルヴォルスX 第10話「本当の正義」
ユキもガルヴォルスだった。その事実を知って、健太は少なからず驚愕していた。
「ユキ、そのことは他に誰か知ってるのか?」
「ガルヴォルスの数人に、ガルヴォルスになるとこを見せてる・・それ以外には誰も言ってない・・」
健太の質問にユキが深刻さを込めて答える。
「そうか・・オレも極力ばらしてないが・・ガルヴォルスについて知ってる連中がいる・・」
「怪物のことを知ってる連中・・?」
「オレを思い通りにして、他のガルヴォルスを倒させようとしてるみてぇだ。もっとも、オレはそいつらには従っちゃいないけどな。」
健太がユキに士蓮たちの部隊のことを話していく。
「アイツはオレたちや他のみんなを、自分の思い通りにしようとしてる。そんなヤツらに、かわい子ちゃんたちを好き勝手にされてたまっかよ!」
「怪物になっちゃっても、健太は健太だね・・」
自分なりの不満を口にする健太に、ユキが笑みをこぼす。
「そんな調子なら、力に振り回されて暴走しちゃう・・なんてことはないよね・・」
「ユキ・・?」
ユキが口にした言葉に、健太が疑問符を浮かべる。
「知らないうちに暴走して、見境なく誰かを襲ったりしてないかって・・」
「なるほど・・ユキなら大丈夫だろ?けっこうガンコだからな、お前も・・」
「エヘヘヘ・・健太にそう言ってもらえると嬉しいよ。」
健太に励まされて、ユキは再び照れ笑いを見せた。
「あと、ひとみにはバケモンのことは内緒にするだけじゃなくて、その手の話もしないようにな。バケモンに会ってアイツ、すっかりトラウマ抱えちまってるから・・」
「ひとみちゃんが・・だから、怪物のことを怖がって・・・」
健太の話にユキが納得する。彼女もひとみのことを気に掛けていた。
「健太、ちょっとー・・・!」
そこへひとみが現れて、ユキと一緒にいる彼を見て鋭い視線を向けてきていた。
「ひとみ!?こんなときに!?」
振り返った健太がひとみを見て後ずさりする。
「寮まで引っ張って、女子のみんなに謝らせてやる!ユキさんも健太を寮まで連れていくを手伝って!」
「えっ?でもそれって、健太に悪いんじゃ・・」
呼びかけてくるひとみに、ユキが苦笑いを見せる。
そのとき、ひとみとユキが健太がそばからいなくなっていることに気付いた。
「い、いない!?」
ひとみが周りを見回すが、健太の姿がない。
「あ〜!また逃げられた〜!もー、けんたー!」
健太への不満と怒りを叫ぶひとみ。
「ホントに手を打つのが早いね、健太。」
健太の行動に対して、ユキは喜んで笑みをこぼしていた。
ユキもガルヴォルスであるという情報は、士蓮にすぐに伝わった。
「新たに現れたガルヴォルスか・・しかも金城健太の旧知の仲とは・・」
士蓮がユキに関する情報に目を通していく。
「春日のユキ・・彼女を思い通りにできれば、金城健太に何らかの影響が出るだろう。」
ユキに狙いを定めた士蓮が、部隊に指示を出した。
「金城健太だけでなく、春日野ユキも監視を行え。」
“了解。”
ひとみから慌てて逃げ出した健太は、先に寮に戻ってこっそり自分の部屋にもぐりこんでいた。
「やれやれ・・あれでホントにトラウマ抱えてんのか・・・?」
ひとみのことを考えて、健太がため息をつく。
(あのガルヴォルス、力がますます跳ね上がってた・・オレが力負けするほど・・・)
健太がシャークガルヴォルスのことを考えて、右手を握りしめる。
(オレも何とかして、強くならないといけないのか・・・)
健太はだんだんと、自分の無力さと力への渇望を感じるようになっていた。
「気合い入れりゃパワーアップ・・とかになんのか?さすがにちょっと都合よすぎかもな、そういうのは・・」
いろいろと考えを巡らせて、健太が笑みをこぼす。
「ま、そういうのは追々考えることにするか・・」
健太は気持ちを切り替えて、椅子に腰を下ろして休みに入った。
健太を見失い、ひとみは不満とため息を見せていた。そんな彼女のそばに、ユキが気軽な気分で付いてきていた。
「もー・・健太は反省って言葉を知らないわけー!?」
健太への不満でふくれっ面を浮かべるひとみ。それを見てユキが笑みをこぼす。
「ちょっと!何がおかしいんだよ!?」
「あ、ゴメンゴメン、エヘヘ・・でも君に気に掛けてもらって、健太は幸せ者だって思って・・」
ひとみから文句を言われて、ユキが苦笑いを見せて謝る。
「そりゃ好き勝手にハレンチなことしてたら、気分は十分幸せ者だよね・・」
するとひとみがため息まじりに言いかけた。
「ねぇ、ひとみちゃんは、大学に入ってからずっと健太を追っかけまわしてるの?」
ユキが唐突にひとみに問いかけてきた。
「追っかけまわしてるっていうか・・僕がやんないと、健太はずっと好き放題にやるだけだからね・・といっても、それでも気休めにもなってるかどうか・・」
「なるほど・・健太は簡単には捕まらないからね・・」
ひとみが呆れながら答えていくと、ユキが納得する。
「ほっとけないんだね、健太のこと・・」
「べ、別にそういうんじゃなくて・・ホントに、健太のやることに我慢なんなくて・・・!」
ユキが投げかけた言葉に動揺を見せるひとみ。その反応にユキがさらに笑みをこぼす。
「それでもほっとけないんだね・・何度もやられたら諦めちゃうとこだって感じながらも、それでも諦めきれないって・・」
「だから、それは健太が悪いことをするからであって・・・!」
ユキの言葉に対し、ひとみは動揺を募らせるばかりだった。
「あたし、健太のそばにいたいって思う・・健太に助けられることがあったらって・・・」
ユキが健太への自分の想いをひとみに打ち明けた。
「健太にそこまでほれ込むなんて、君はホントにどうかしてるよ・・」
それに対してひとみが呆れて肩を落とす。
「でも、健太はあたしと一緒にいるのをよく思ってないみたい・・あたしがくっつきすぎるから、きっと思うようにできなくなったんじゃないかって・・」
「健太は我が道を行くってタイプだからね・・その我が道がものすっごく邪道なんだけど・・」
「お互い、健太のことでいろいろ大変にだね。エヘヘ・・」
「ユキちゃん・・そうだね。僕たち、健太に手を焼かされてばっか・・」
健太のことを話していくうちに、ユキとひとみは次第に打ち解けあうようになっていた。
「健太を探そうか・・またどっかで女の子でも追いかけてるだろうから・・」
「うん♪あたしが先に見つけちゃうよー♪」
「そんなことはさせないよ!待ちなさいよー!」
笑顔を振りまいて走り出すユキと、彼女を追いかけていくひとみ。2人の間に友情が芽生えつつあった。
そのとき、ユキが突然足を止めて、ひとみは驚いて慌てて立ち止まる。
「ち、ちょっと、急に止まんないでよ・・!」
文句を言ってくるひとみだが、ユキが血相を変えていることに気付く。
「どうしたの、ユキ?・・何かいるの・・?」
ひとみが声をかける前で。ユキが緊張を感じながら辺りを見回す。
(この気配・・人間だけど、大勢いる・・・それも、あたしたちを狙って・・・!?)
周辺に隠れている人たちに警戒を抱く。
「ひとみちゃん、すぐにここから離れて・・寮にでも戻ってて・・」
「ユキちゃん・・いきなりどうしたの・・・?」
ユキが呼びかけるが、ひとみは疑問符を浮かべるばかりで動き出そうとしない。
「早く逃げてって!」
ユキがさらに呼びかけたところで、黒ずくめの男たちが出てきて2人を取り囲んできた。
「な、何なんだ、この人たち!?」
ひとみが黒ずくめたちを目の当たりにして声を荒げる。
「春日野ユキだな?一緒に来てもらおう。」
黒ずくめの1人がユキに呼びかけてきた。
「ひとみちゃん、こっち!」
ユキがひとみの手を取って、黒ずくめたちから逃げ出す。黒ずくめたちもすぐに2人を追う。
「ユキちゃん、あの人たち何!?どうして君のことを!?」
「あたしもよく分かんないよ〜!」
問い詰めてくるひとみに、ユキが声を荒げる。彼女はひたすら黒ずくめたちから逃げることを考えていた。
(あの人たちが健太の言ってた、あたしたちを思い通りにしようとしてる人たち・・・!)
ユキは黒ずくめたちの正体と目的を察した。
(だったらひとみちゃんをこれ以上巻き込めない・・まして、ガルヴォルスのことをさらに知られたら・・・!)
ガルヴォルスとの遭遇を気に病んでいるひとみのことを気にして、ユキは考えを巡らせていく。ひとみを安全な場所まで連れて行って、自分が注意を引き付けようと、ユキは考えていた。
「ひとみちゃん、あたしがアイツらを引き付けるから、その間に逃げて・・・!」
ユキが声を振り絞り、ひとみに呼びかける。
「でも、それじゃユキちゃんが・・!」
「ありがとうね、心配してくれて・・それじゃ健太に声かけてみて・・!」
声を荒げるひとみに微笑んでから、ユキは引き返して走り出していった。
「ユキちゃん!」
ユキに向かって声を上げるひとみだが、追いかけることができずに離れることにした。
ひとみを逃がして自分が囮になろうとするユキ。彼女の周りを黒ずくめたちが取り囲んできた。
「あたしに用があるんでしょ・・ひとみちゃんには手を出さないで!」
ユキが目つきを鋭くして、黒ずくめたちに言いかける。
「功を焦ってしまったようだ。失礼したな。」
黒ずくめたちの間をかき分けて、士蓮がユキの前に現れた。
「あなたがこの人たちのボスってわけ!?」
「そういうことになるな。お前が春日野ユキだな?金城健太とも知り合いとも聞いている。」
問い詰めてくるユキに、士蓮は表情を変えずに声をかけてくる。
「単刀直入に言う。我々に力を貸してもらおう。」
「自分の思い通りにしようって魂胆でしょ・・健太の言ってた通り・・!」
士蓮が投げかけた要求に対し、ユキが疑いの眼差しを送る。
「これはお前や我々だけでない。金城健太のためにもなることだ。」
「そんな言葉で騙されるあたしじゃないよ!もちろん脅しも効かないから!」
「お前も強情なヤツだ。金城健太の影響か?」
言い返すユキの考えに、士蓮が皮肉を浮かべる。
「金城健太のために、力を貸してもらおう。ヤツのために戦うことが、お前の1番の望みではないのか?」
「そう・・健太のために戦うのが、あたしの1番の望み・・・でも・・・!」
士蓮に言い返すユキの頬に、異様な紋様がかび上がる。
「それは、あなたたちのシナリオじゃないところで!」
言い放つユキの姿がローズガルヴォルスに変わる。黒ずくめたちがとっさに銃を手にして構える。
「一筋縄ではいかんか、お前も・・拘束だ。ただし深追いはするな。危険を感じたらすぐに下がれ。」
「了解。」
士蓮が命令を下し、黒ずくめたちが慎重な行動に出る。ガルヴォルスとなったユキだが、構えるだけで何もしかけてこない士蓮たちに手出しをしない。
「何もしてこないのか?大人しく来る気になったか?」
「そんなつもりはないよ・・でも、何もしてこなければ、こっちも何もしない・・それだけ・・・」
士蓮が疑問を投げかけるが、ユキは表情を変えることなく、冷静さを保つ。
(そう・・あたしは、健太のためにがんばりたいだけ・・・)
ユキは心の中で健太への想いを膨らませていく。
(健太を守りたい・・ただ、それだけ・・)
彼女は大きく飛び上がり、そばの建物の屋上に飛び移った。
「待て。まだ撃つな。」
士蓮がユキの動きを見据えたまま、黒ずくめたちを制止する。
(金城健太より先に、私が戦う相手がいるようだ・・)
士蓮は改めて自ら戦う決意を固めていた。
ユキに助けられて、ひとみは黒ずくめたちから逃げ切ることができた。彼女は寮の近くまで来たところで、ユキのいるほうに振り向いた。
(ユキちゃん・・・早く、警察に知らせないと・・・!)
ユキを心配したひとみが警察に知らせようとした。そのとき、彼女は健太が通りがかったのを目にした。
「健太!」
ひとみに声をかけられて、健太が驚きの反応を見せてきた。
「健太、ユキちゃんが大変!おかしな人たちに囲まれて・・!」
「ユキが!?」
ひとみがユキのことを話して、健太が真剣な面持ちを浮かべる。
(ひとみがちゃんと知らせてきたってことは、ガルヴォルスが相手じゃねぇ・・ということは、士蓮の部隊か・・・!)
「オレが連れ戻してきてやる・・ひとみは寮にでも隠れてろ・・・!」
思い立った健太が、ひとみに呼びかけてからユキを助けに行こうとした。
そのとき、健太は強い気配を感じて息をのんだ。
(この感じ・・間違いなくガルヴォルス・・しかも、アイツ・・・!)
さらに緊迫を募らせた彼が振り返った先に、青年が現れた。
「今の警察もお前も、オレたちを狂わせる・・・」
健太に鋭い視線を向ける青年の頬に紋様が走る。彼の変化にひとみが目を疑う。
「腐った害虫は、この世界にいてはいけない・・・!」
「ひとみ、逃げるぞ!」
言い放つ青年から、健太がひとみを連れて走り出す。青年の姿がシャークガルヴォルスになる。
「か、怪物!?イヤアッ!」
ひとみがシャークガルヴォルスの姿を見て、恐怖を覚えて悲鳴を上げる。彼女は以前に会ったガルヴォルスを思い出した。
「怪物・・怪物が・・・!」
「お、おい、ひとみ!」
震えて動けなくなってしまうひとみに、健太が声を上げる。
(やべぇ!ひとみのトラウマが!・・ここは早く逃げないと・・!)
「ひとみ、逃げるぞ!」
健太がひとみを連れて逃げ出す。だがひとみを引っ張っていく健太は、すぐにシャークガルヴォルスに回り込まれる。
「逃げるな!お前も始末しないといけない!」
「冗談じゃねぇ!こっちにはひとみがいるんだ!オレが狙いなら、コイツは関係ないだろうが!」
互いに怒鳴りかかるシャークガルヴォルスと健太。
(これじゃ逃げ切れない・・かといって、ひとみの前でガルヴォルスになるわけには・・・!)
ひとみのことを気にして、健太がためらいを抱く。
「邪魔をするものもオレの敵だ・・誰だろうと、容赦しない!」
シャークガルヴォルスが怒号を放ち、健太に向かって右手を振りかざす。健太がとっさに彼の手を受け止める。
「いつまでも押しつけがましいことぬかしやがって・・・!」
シャークガルヴォルスへの怒りに駆られて、健太が鋭く言いかける。彼の頬にも紋様が走る。
「えっ!?・・・健太・・・!?」
健太の異変にひとみが目を疑う。彼女の目の前で健太の姿がシャドーガルヴォルスに変わった。
健太が両腕に力を込めて、シャークガルヴォルスを押し返す。
「け・・・健太・・・!?」
ひとみは健太にも驚愕していた。彼も彼女が恐怖している怪物の1人だった。
次回
「とうとう、見られちまった・・」
「僕、健太に近づけない・・・」
「今度こそ、お前を倒す・・・!」
「君は我々が保護する。」
「お前や他の市民に危害を加える怪物は、我々が打ち倒そう。」