ガルヴォルスX 第9話「想い」
憎悪をむき出しにするシャークガルヴォルスに対して、健太が力を込めて拳を繰り出す。彼の一撃がシャークガルヴォルスの体に叩き込まれる。
重みのある一撃を受けて、シャークガルヴォルスが怯む。
「か・・体が、言うことを・・・!」
思うように動けなくなり、シャークガルヴォルスがうめく。
「どんなもんだ!思い知ったか!」
健太が手応えを感じて喜びを見せる。
「今日のところはこのぐらいで勘弁してやる。これに懲りて、美女に手を出そうだなんて思わないことだな!」
健太がシャークガルヴォルスを指さして言い放つ。するとシャークガルヴォルスが鋭い視線を向けてきた。
「勝手なことを言うな・・オレは、このまま振り回されるつもりはない・・・!」
「強情なヤツだな・・!」
憎悪を傾け続けるシャークガルヴォルスに、健太が呆れてため息をつく。
そのとき、2人の耳にパトカーのサイレンの音が入ってきた。
「やべぇ・・ここは逃げたほうが・・・!」
健太が慌ててこの場から離れる。ところがシャークガルヴォルスは近づいてくる警察にも牙を向けようとしていた。
「どこまでも後味悪くしやがって・・・!」
健太が毒づき、シャークガルヴォルスに向かって拳を振り下ろす。拳の衝撃が地面にぶつかって、爆発を巻き起こす。
「ぐっ!」
シャークガルヴォルスが衝撃にあおられて吹き飛ばされる。彼は押されて、地下道にまで転がり落ちる。
「くっ・・これでややこしいことにならなくなるかな・・・」
ビルの屋上に着地した健太が安堵を覚える。
「オレもここはおとなしく引き上げないとな・・」
健太が屋上から飛び移って離れていった。
健太の拳の衝撃による揺れで、警察の増援であるパトカーの到着が少し遅れた。彼らが現場に来たときには、健太もシャークガルヴォルスもいなくなっていた。
「こりゃひどい有様ッスね・・」
「目撃者はバケモノを見たって言ってるみたいだが・・破壊行為はバケモノじみてるのは間違いなさそうだ・・」
刑事たちが破損した地面や建物の壁やガラスを見て、ため息をつく。
「上は突然のことで見間違った、犯人の犯行の恐怖で混乱していると判断しているみたいスけど・・」
「現場の状況を実際に見ない人たちの判断というヤツだ・・」
「その判断に従うオレらは何なんスかね・・」
「さぁな・・詮索するのもご法度扱いだ・・」
刑事たちが言葉を交わして、さらにため息をつく。
「ひとまず現場整理をするぞ。周辺もまだまだ混乱が続いているぞ・・」
「了解ッス!気を引き締めてかからないと・・!」
刑事たちが人々の救助と犯人の捜索に乗り出す。騒動に巻き込まれた人々を救い出すことはできたが、犯人を見つけることはできなかった。
健太に痛めつけられて、シャークガルヴォルスはいら立ちを募らせていた。
「どいつもこいつも・・オレを追い込んで・・・!」
シャークガルヴォルスが青年に戻って、さらに憤りを噛みしめていく。
「アイツも・・オレを追い込もうとする敵・・・!」
青年が健太のことを思いだして、憎悪の矛先を向ける。
「邪魔をしてくるなら・・アイツも叩きつぶす・・・!」
健太も倒す対象にして、青年は地下道を歩いていった。
シャークガルヴォルスを撃退した健太は、人の姿に戻って街外れに来ていた。
「やれやれ・・すっかり騒ぎになっちまったな・・」
健太が街のほうに目を向けてため息をつく。
「しばらくは近づかないほうがいいかも・・かわい子ちゃんに巡り会えないのはすっごく残念だけど〜・・」
大きく肩を落として、健太は街から離れることにした。
「けんた〜♪」
道を歩いていた健太に駆け込んできたのはユキだった。
「げっ!ユキ!」
気まずくなった健太にユキが飛びついてきた。
「健太、大丈夫だった!?どこもケガとかしてない!?」
「な、何だよ、急に!?オレは何ともないぞ!」
「ホント!?よかった〜・・街で怪物が現れたってニュースでやってて・・!」
健太が滅入りながら答えると、ユキが安心して胸をなでおろす。
「そんなに騒ぎになってたのか・・まぁマジでバケモンが出てきても、そいつがきれいなお姉さんを狙うなら、オレは容赦しねぇ!」
健太が目を輝かせて高らかに言い放つ。
「お姉さんを傷付けるヤツは、何だろうと許しちゃおかない!オレがボッコボコにしてやるぜー!」
「エヘヘヘ♪やっぱり健太だね♪」
意気込みを見せる健太をユキが喜ぶ。
「こんなときにまで不純な行為を!」
そこへひとみがやってきて、健太に不満を見せてきた。
「げげっ!ひとみ!」
「どさくさに紛れてハレンチなことを働くなんて〜!今度という今度はー!」
気まずくなる健太にひとみが詰め寄る。
「アンタも分かったでしょ!健太はそういうヤツなんだよ!」
「うんうん♪ホントに健太らしいね♪」
ひとみが注意をしてくるが、ユキは考えを変えず笑顔を見せるばかりである。その彼女にひとみが呆れ果てる。
「もう、やってられない・・近くに怪物がいるかもしれないと思うと・・・」
ひとみが怪物と遭遇したことを思い出して、体を震わせる。
(ひとみ・・バケモンのことがトラウマになってるのか・・)
彼女の心境を察して、健太が困惑を覚える。
(やっぱ巻き込むわけにいかないな・・ひとみもユキも・・)
ガルヴォルスのことを知らせるわけにいかないと、健太は思っていた。
シャークガルヴォルスの襲撃は、士蓮の耳にも入っていた。
(これほどの騒ぎを引き起こしてくるとは・・)
士蓮が椅子にもたれかかりため息をつく。
(ガルヴォルスの存在が公になれば、混乱をきたすことになる・・我々とてそれは避けたいところだ・・)
あくまで秘密裏に事を運ぶことを考える士蓮。
(金城健太より先に、あのガルヴォルスを処分する必要がある・・)
シャークガルヴォルスを優先的に対応することを、士蓮は考えていた。
ひとみとユキを振り切った健太は、今夜もこっそりと寮に戻ってきていた。自分の部屋に入ったところで、彼は深呼吸をした。
「ひとみや寮長だけじゃなく、ユキにも警戒しないといけなくなったから参っちまう・・ま、オレは軽々とかわしてみせるけどな。」
健太が呟いて気さくに呟いていく。
(それにしてもアイツ、ガルヴォルスの中で強力だったな・・オレほどじゃないみたいだけど。)
シャークガルヴォルスのことを思い出して、健太が自信を感じていく。
(アイツもワケありなんだろうけど、かわい子ちゃんを傷付けるんだったらただじゃおかねぇよ・・・!)
美女に手出しするなら戦うという決意を、健太はさらに強めるのだった。
「さて、明日のために休息を取るとするか。」
健太は明日に備えて、ベッドに入って睡眠を取ることにした。
そして翌朝、健太は再び街に繰り出していた。街はシャークガルヴォルスの襲撃の騒ぎと不安がまだ残っていた。
「やれやれ・・これじゃかわい子ちゃん探しはお預けにしたほうがよさそうだ・・」
街の様子を見渡して、健太がため息をついて場所を変える。
(この近くにアイツがいたら、また一大事になりそうだ・・)
シャークガルヴォルスがまた暴走してくるのではないかと思い、健太は警戒を強めていた。
そのとき、健太は強く鋭い気配を感じ取り足を止めた。
(思ってた途端にこれか・・ったく、落ち着きないな、アイツ・・参っちまうぜ・・)
健太が不満を感じながら、気配のしたほうに向かって走り出す。彼は地下への階段を駆け下りて、地下道を進んでいく。
「この近くにいるのか・・・!?」
健太が地下道の真ん中で足を止めて、周囲を見回す。すると彼の耳に足音が入ってきた。
(やっぱりいるな。しかも、こっちに近づいてきてる・・)
健太はシャークガルヴォルスが近づいてきていること、さらに自分の気配も察知されていることも気づいていた。
そして青年が健太の前に現れた。
「もしかして、お前があのバケモノ・・・!?」
「お前は・・あのとき、オレの邪魔をしてきた・・・!」
健太が声をかけると、青年が目つきを鋭くする。
「邪魔をしてくるなら、お前もオレの敵だ・・・!」
怒りをあらわにした青年の姿がシャークガルヴォルスへと変わる。
「1つ言っといてやるよ!オレはかわい子ちゃんや、きれいなお姉さんの味方だ!お前が何を考え、どいつに恨みを持っていようが、美女を傷付けようとしてくるなら・・!」
言い放つ健太の頬に紋様が走る。
「オレは迷わずにお前を返り討ちにする!」
健太が右手を握りしめて、拳を繰り出す。シャークガルヴォルスの拳とぶつかり合い、地下道が激しい衝撃に揺さぶられる。
「警察がオレたちを狂わせた!自分勝手な考えで、アイツらはオレたちを悪人扱いしたんだ!」
シャークガルヴォルスが怒号を放ち、肘の角を振りかざす。健太はとっさに後ろに飛んで、角をかわす。
「アイツらが勝手なマネをしてきたせいで、オレは・・・!」
「警察への復讐か。なるほどな・・」
シャークガルヴォルスの言い分に健太が納得する。
「邪魔をするな・・オレは身勝手な害虫を駆除するんだ!」
「それで納得できりゃいいなって、言いたいとこだけどな!」
怒鳴りかかるシャークガルヴォルスに言い返して、健太が再び拳を繰り出す。
「きれいなお姉さんには手出しはさせねぇよ!」
「どこまでも邪魔をするのか!」
言い放つ健太とシャークガルヴォルスが、また拳をぶつけ合う。
「ならお前も倒すべき敵だ!許してはおかない!」
「マ、マジで強引なヤツだな、お前・・!」
力を込めるシャークガルヴォルスに、健太が毒づく。徐々にシャークガルヴォルスの力が増して、健太を押し始める。
(コイツ、どんどん力が・・押される・・・!)
大きくなる力を痛感した健太が、シャークガルヴォルスに押し切られて突き飛ばされる。シャークガルヴォルスが飛びかかり、立ち上がる健太に右手を突き出す。
「ぐっ!」
必死によける健太だが、シャークガルヴォルスの手の爪が彼の左頬をかすめた。
「このっ!」
健太がとっさに左足を振り上げて、シャークガルヴォルスを蹴り飛ばす。彼が壁に叩きつけられている間に、健太は地下道を駆け出した。
(やばくなってきた・・アイツ、戦いながら強くなるタイプかよ・・・!)
健太が緊張を膨らませて、地下道を突き進んでいく。だが行き止まりに行き着いて足止めを食らう。
「や、やべぇ!」
声を荒げる健太に、シャークガルヴォルスが追いついてきた。
「逃げるな!」
シャークガルヴォルスが健太に拳を振るう。
「ぐっ!」
重みのある一撃を体に受けて、健太がうめく。彼はそのまま壁に押し付けられて、さらに壁が破れて外の地下鉄の線路に投げ出される。
体勢を整えて着地した健太が、外への出口を探して再び駆け出す。シャークガルヴォルスも追いかけて、線路を駆け抜けていく。
健太は線路の途中のある横穴に入り込んだ。彼が駆け抜けた先に、地下鉄の駅の地下道があった。
「うわあっ!」
シャドーガルヴォルスになっている健太を目の当たりにした人々が、悲鳴を上げて後ずさりする。健太は出口に向かって進み、シャークガルヴォルスも飛び出して追いかける。
地下鉄の地下道から外に飛び出した健太は、悲鳴を上げる人々を気に留めることなく、人のいないほうに向かっていく。
「お姉さんたちに危険が及ぶわけにはいかないもんな!」
被害を最小限に抑えることを考える健太。彼は人気のない広場で立ち止まり、シャークガルヴォルスを迎え撃つ。
「いつまでも逃げるな!」
シャークガルヴォルスが怒号を放って、健太に飛びかかる。力だけでなく、スピードも増していた。
回避することもままならなくなり、健太がシャークガルヴォルスの爪に切りつけられる。
「やべぇ・・このままじゃやられる・・・!」
絶体絶命を痛感する健太に、シャークガルヴォルスが角を振りかざす。
「やめてー!」
そこへ声が飛び込み、シャークガルヴォルスが手を止めた。彼と健太の前に現れたのはユキだった。
(ユ、ユキ!?)
突然のユキの登場に健太が驚きを覚える。ユキがシャークガルヴォルスの前に立ち、健太を守ろうとする。
「健太を傷付ける人は、誰だろうと、どんな理由でも許さない!」
「なっ!?」
シャークガルヴォルスに言い放つユキに、健太がさらに驚く。
「健太、もう大丈夫だからね・・その姿でも分かるから・・・!」
「知ってたのか、オレのこと・・・!?」
振り向いて微笑みかけるユキに、健太が声を振り絞る。ユキは頷いてから、シャークガルヴォルスに視線を戻す。
「また、オレの邪魔をしてくるヤツが出てきたのか・・・!」
シャークガルヴォルスがユキにも鋭い視線を向ける。
「逃げろ、ユキ!殺されちまうぞ!」
健太が呼びかけるが、ユキはシャークガルヴォルスの前から逃げようとしない。
「健太・・実は・・実は私も・・・」
言いかけるユキの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の変化に健太が目を疑う。
「健太と、同じだから・・・」
健太の目の前でユキの姿が変わった。異形の姿となった彼女は、白いバラの花びらを舞い上がらせていた。
「ユキ、お前・・!?」
ユキもガルヴォルスだったことに、健太は驚きを隠せなくなった。シャークガルヴォルスもユキの変化に驚いていた。
「これ以上、健太に手を出すなら、あたしがあなたを倒すしかなくなる・・・」
「ふざけるな・・そいつは、オレの邪魔をする敵だ!」
ユキが忠告を送るが、シャークガルヴォルスは聞き入れずに飛びかかる。
「それなら、仕方ないね・・・!」
ユキが目つきを鋭くして、白い花びらをまき散らす。シャークガルヴォルスが花びらにまかれると、体の自由が利かなくなっていく。
「な、何だ、これは・・!?」
思うように動けなくなり、シャークガルヴォルスがうめく。
「こんなことで、止まっているわけにはいかない・・・!」
シャークガルヴォルスが全身に力を込めて、花びらによる麻痺を振り切ろうとする。
「力が強くなってる・・それなら・・・!」
ユキがさらに白い花びらを放つ。花びらが刃となって、シャークガルヴォルスの体に傷をつけていく。
「オレは・・オレはこれ以上、振り回されることはない!」
シャークガルヴォルスは大きく飛び上がり、花びらを振り切る。しかし体力の多くを消耗した彼は、健太とユキの前から去っていった。
「ふぅ・・ホントにすごいガルヴォルス・・・」
大きく肩を落として力を抜くユキ。彼女と健太がガルヴォルスから人の姿に戻る。
「ユキ・・お前も、ガルヴォルスだったのかよ・・・!?」
「健太もそうだったのは、あたしもビックリだったよ・・・」
問いかける健太に、ユキが戸惑いを見せる。彼女は白いバラを力と武器とするローズガルヴォルスだった。
「とりあえず寮に帰ろう、健太・・ボロボロだよ・・」
「あ、あぁ・・」
ユキの呼びかけに健太が小さく答えた。2人は1度寮に戻ることにした。
次回
「新たに現れたガルヴォルスか・・」
「健太を守りたい・・ただ、それだけ・・」
「金城健太のために、力を貸してもらおう。」
「腐った害虫は、この世界にいてはいけない・・・!」