ガルヴォルスX 第7話「本当の大事」
ジュンを守れなかったことを、健太は強く悔やんでいた。自責の念に駆られたまま、彼は自分の部屋に戻って、ベッドに横になっていた。
(ジュンさん・・オレがもっとしっかりしてれば・・もっと力があれば・・君を守れたのに・・・!)
悲しみを募らせて、健太が体を震わせていく。
(それにしてもアイツら・・ガルヴォルスだからって好き勝手なことしやがって・・・!)
健太が士蓮の部隊に対して憤りを感じていく。
(アイツらに、オレや他の美女に手を出させるわけにいかねぇ・・今度出しゃばってきたら叩きのめしてやる・・!)
美女のためというだけに行動していくことを、健太は改めて心に誓った。
ジュンを死に追いやったことと健太に出動していた部隊を全滅させられたことを、士蓮は聞かされていた。
「まさか、我々に完全に牙を向けるとは・・」
士蓮が健太の行動に肩を落とす。
「ヤツも結局はガルヴォルスだということか・・思い通りに動かすのは困難か・・」
健太に対する懸念を感じて、士蓮が次の手を考える。
「金城健太の監視を続けろ。ただし拘束や攻撃はするな。気づかれたと判断したらすぐに中断して引き返せ。」
“了解。監視を行います。”
通信で部隊に連絡する士蓮。通信を終えた士蓮が、再びため息をつく。
「私も戦いに臨めるようにしないといけないようだ・・」
健太や他のガルヴォルスとの戦いに備えて、士蓮は気を引き締めなおしていた。
ジュンの死から一夜が明けた。健太は自分の部屋のベッドにふさぎ込んでいた。
そんな健太のいる部屋のドアがノックされた。
「健太、いる?・・入るよ・・」
声をかけて部屋に入ってきたのはひとみだった。ひとみは健太がベッドの中にいることに気付く。
「珍しいよね・・健太がこんな時間まで部屋にいるなんて・・休みの日でもね・・」
ひとみが元気なく健太に声をかけていく。しかし健太はベッドの布団から顔を出そうともしない。
「昨日はゴメンね、健太・・何だか取り乱しちゃって・・・」
ひとみが笑みを作って謝る。彼女は昨日混乱してしまったことを思い出していた。
「怪物をホントに見たんだよ・・何だっていうんだよ・・・」
ひとみが怪物を見たことを思い出して、不安を口にする。
「健太・・アンタまさか、とんでもないことに巻き込まれてるんじゃ・・・!?」
さらに不安を投げかけるひとみだが、ベッドの中にいる健太は何も言ってこない。反応がないことに不満を感じるも、ひとみは文句を言うのを思いとどまる。
「また後で来る・・いつもみたいに、勝手にいなくなって、ヘンなことしないでよ・・」
ひとみは肩を落としてから、健太の部屋を後にした。それから少ししてから、健太がベッドから顔を出した。
(ひとみ・・ガルヴォルスのこと、話すわけにはいかないよな・・姿見ただけでショックなんだから・・)
健太がひとみの心配をして、心を痛めていく。
(話をしたら、巻き込むことになる・・最後まで黙ってよう・・・)
ひとみのことを気にしながら、健太はベッドから起きた。彼は服と髪型を整えてから、1人部屋を出た。
外へ出向いていた健太はジュンのことを考えていた。彼女を守れなかった自分を、健太は呪っていた。
そのため、健太は他の女子たちを目にしても手を出そうとしなくなっていた。
「ハァ・・すっかり気が乗らなくなっちまった・・・」
気が滅入ってしまい、健太が肩を落としてため息をつく。
「やっと外に出てきたね。アンタらしくない。」
そこへ声をかけられて、健太が顔を上げる。振り返った彼の前にひとみがいた。
「ひ、ひとみ!?いつの間に!?」
「ちょっと前からいたよ。健太、考え事してたのか、全然気付かないんだから・・」
驚きの声を上げる健太に、ひとみが呆れながら言いかける。
「ねぇ健太、ホントに何が起こってるの?・・何に首突っ込んでんの・・!?」
「ひとみ、まだそんなこと聞いてくるのかよ・・」
問い詰めてくるひとみに、健太が呆れた素振りを見せる。
「それは作り物か見間違い。現実にバケモンなんていないって・・」
「待ってって、健太!」
立ち去ろうとした健太の前に、ひとみが回り込んでくる。
「ちゃんと教えて・・何が起こってるんだよ、健太・・・!?」
「だから何が起こってるって言われても、何が?って言うしか・・」
問い詰めてくるひとみに対し、健太はしらを切り続ける。
「だから怪物がホントにいたんだって・・見間違いなんかじゃないよ・・・!」
「ホントに強情なんだから、ひとみは・・」
詰め寄ってくるひとみに、健太がすっかり滅入っていた。
「かわい子ちゃんがいたんだけど・・オレはその子を守れなかった・・・」
健太がジュンのことを打ち明けた。
「自分が情けなくて・・美少女1人守れないのかって・・・」
「何言ってんだよ。健太が情けないのは昔からだよ・・」
しかしひとみに軽く言われて、健太がさらに落ち込む。
「おいおい、ひとみ・・・」
「ハレンチなことばっかりして、みんなに迷惑かけてるのが健太なんだから・・そしてそんな健太を取り締まるのがこの僕ってわけ。」
「お前は警官かって・・」
「そうだね。健太に対しての警官の第一人者ってね。」
完全に落ち込む健太に、ひとみが笑みを見せる。
「おとなしくしてくれるのは嬉しいけど、逆に健太らしくないっていうか、しっくりこないんだよね・・」
「ひとみ、お前なぁ・・」
「イヤだなぁ、こういうことに慣れちゃうっていうのは・・でもそれが僕たちの日常なんだよね・・」
「日常・・日常かぁ・・・」
ひとみが投げかけた言葉を受けて、健太が呟きかける。
「オレの日常は・・やっぱり・・」
健太が言いかけて、ふと空を見上げる。
「かわい子ちゃんとのハーレムだ〜♪」
健太が笑顔を振りまいて、軽やかに駆けだしていった。
「あっ!ちょっと、コラー!」
ひとみが健太に文句を叫ぶが、すぐに笑みをこぼした。
(健太はそうでないとね・・それでもうちょっと健全だったら非の打ちどころがないんだけどね・・)
心の中で健太のことを呟くひとみ。
(ありがとうね、健太・・)
気分が落ち着けて、ひとみが健太に感謝を感じていた。
立て続けに起こる怪物の事件に、警察は苦悩を深めていた。
「いったい犯人はどんな手口で犯行を・・」
「怪物がやったって噂が広まってるけど、怪物なんて現実にいるわけないって。オレたちは現実的に犯人を見つけ出して捕まえるってね。」
警官たちが事件について話していた。2人とも怪物のことを信じておらず、笑い話にしていた。
「あの公園を見回るぞ。隠れられる場所があるからな。」
「今回は徹底的に見回ってみよう。」
警官たちが声を掛け合い、公園を見回っていった。
「けど、こんな真昼間にコソコソ隠れてたら怪しいって、誰でも分かるけどな。」
「そりゃそうだけど。アハハ・・」
警官たちが話を続けながら、公園の中を見回っていく。
その途中、警官たちが公園の脇の草むらで座り込んでいる1人の青年を見つけた。
「ん?どうした、こんなところで?」
警官が声をかけるが、青年はうずくまって震えるばかりである。
「どこが具合でも悪いのか?何か答えてくれ・・」
「け・・警察・・警察なのか・・・」
呼びかける警官に、青年が声を振り絞る。
「警察は勝手なヤツらだ・・僕を悪者だと決めてかかって・・僕の言うことを聞こうともしない・・・」
目つきを鋭くする青年の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。
「いないほうがいいんだよ、お前たちなんか!」
立ち上がった青年の姿が変わった。サメの姿をしたシャークガルヴォルスに。
「バ、バケモノ!?」
「バ、バカな!?」
警官たちが驚愕して後ずさる。
「警察なんてものは、オレが全員叩きつぶす!」
シャークガルヴォルスが怒号を放って飛びかかる。警官たちがとっさに拳銃を手にして発砲する。
弾丸は命中したが、シャークガルヴォルスは平然としていて、体にも傷はついていない。
「ほ、本当に怪物が!?うわあっ!」
シャークガルヴォルスに襲われて、警官たちが絶叫を上げた。角に切り裂かれて鮮血をまき散らして、警官たちは倒れた。
「警察をオレは認めない・・オレが滅ぼす・・・!」
シャークガルヴォルスが青年の姿に戻る。彼は憎悪を胸に宿して、公園を後にした。
ひとみに励まされて、健太は悩みと迷いを振り切っていた。彼は人の行き交う街に繰り出していた。
(ジュンさん、オレはこれからもオレのやり方を貫いていくぜ・・かわい子ちゃんのために・・・)
健太が心の中で自分の考えをまとめていく。その中で彼がジュンのことを思い出していく。
(ジュンさん・・守ってあげられなくてゴメン・・もう君みたいな子を増やさないためにも、オレは・・・!)
新たな決意をジュンに対して立てて、健太は気分を落ち着けていった。
そのとき、健太は笑みを消して、人込みから離れていった。人気のない地下道に入って、彼は足を止めた。
「相変わらずコソコソ隠れるのが好きだな、お前ら・・」
健太は振り向くことなく声をかける。すると士蓮の部下である黒ずくめたちが物陰から出てきて、彼から離れようとする。
次の瞬間、健太が即座にシャドーガルヴォルスになって、床を強く踏みつけた。周囲に衝撃と轟音が広がり、黒ずくめたちがたまらず足を止める。
「そして危なくなったら逃げるのも、お前らの好みか・・・!?」
健太が鋭く言いかけて、ここで黒ずくめたちに振り向いた。健太は黒ずくめたちに鋭い視線を向けてきた。
「挑発や威圧に乗るな。引き上げるぞ。」
「了解・・!」
健太の脅しを真に受けることなく、黒ずくめたちは撤退していった。
「ったく、ひねくれ者ばっかだ・・」
健太が黒ずくめたちに呆れ果てて肩を落とす。人の姿に戻った彼が、気分を落ち着かせていく。
(ガルヴォルスになったからって、いいってわけじゃないってことか・・)
ガルヴォルスのことを考えて、健太が小さくため息をつく。
(ジュンさんみたいに、辛くなってる人もいる・・だからもう、この力を自慢する気にはなれない・・・)
彼は自分のガルヴォルスとしての姿と力を快く思わなくなっていた。
(アイツらのいいようにはさせねぇ・・思い通りにはならねぇ・・オレもかわい子ちゃんも・・・!)
「そうだ・・やっぱオレは、かわい子ちゃんの味方ってことだ!」
健太が喜びと意気込みを浮かべて、地下道から外に向かって駆け出していった。
健太に監視が気づかれたことは、士蓮にすぐに報告された。
「そうか・・その調子で、気付かれたらすぐに引き返せ。相手の挑発に乗ることはない。」
「了解。」
士蓮の指示に黒ずくめが答える。
「それから私も現場に向かう。」
「隊長も出られるのですか・・?」
「金城健太は我々に敵対の意思を示している。それも我々の素性を知った上で・・このまま野放しにするわけにはいかない。」
士蓮が黒ずくめに呼びかけていく。
「いざとなれば私が相手をする。このまま監視を続けるのだ。」
「了解。そのように伝達しておきます。」
士蓮の指示に黒ずくめが答える。
(今はまだ藪をつつけばヘビが出る程度だ。こちらからわざわざ刺激してやることはないだろう。)
あくまで健太の動向をうかがうことを健太は優先させていた。
士蓮の部隊を追い払うことになった健太。彼は気分をよくして寮に向かっていた。
「オレは美少女のために動き、美少女のためにがんばる!それがオレなんだー!」
健太が自分の正直な考えを叫んで、意気込んでいく。
「相変わらずエッチなことを考えてるみたいだね、健太は。」
そこへ声をかけられて、健太が足を止めて振り返る。そこには1人の少女がいて、笑顔を見せてきていた。
「ユ、ユキ!?何でこんなとこに!?」
健太が少女、春日野(かすがの)ユキに驚いて後ずさりする。
「エヘヘ。ちょっといろいろあってね。健太が通ってる大学に転入することになったよ♪」
「な、何だってー!?」
笑顔を見せてくるユキに、健太が悲鳴を上げる。
「健太に会いたくて会いたくて、ずっとさみしかったんだよ〜・・でもなかなか場所が分かんなくて、困ってたんだよ〜・・」
「でもあまりにしつこくされるとなぁ、逆に萎えちゃうっていうか、気が滅入っちまうっていうか・・」
「そんなこと言わないでって〜!けんた〜!」
健太に文句を言われて、ユキが悲鳴を上げて彼に近寄ってきた。
「だから近づくなって!抱き付くなってー!」
すると健太が慌てて、ユキを引き離そうとする。
「照れなくていいって〜♪」
「照れてないって!勝手にオレの気持ちを決めるな!」
喜びを振りまくユキに、健太が文句を言う。彼が無理やりユキを引き離す。
「オレにはオレの考えとやり方があるんだ!それを止めることは、たとえどんな至極の美女であってもできないのだー!」
「健太・・すごーい♪かっこいいよ〜♪」
自分の意気込みを見せる健太に、ユキが感動を見せて拍手を送る。
「というわけでオレはお前の相手をしてる場合じゃないんだ。これからもオレはオレのハーレムタイムを堪能していくんだから!」
「そうやってみんなにハレンチなことをするんだったら、あたしを相手にしたらいいって。今のあたし、スタイルに自信が出てきたんだから♪」
言いかけて歩き出そうとする健太に、ユキがさらに声をかける。
「だから勝手にオレのことを決めんなって・・!」
ユキに呆れる健太だが、彼女のボディスタイルを目の当たりにして、思わず見とれてしまう。
「確かに・・しばらく会わないうちに・・すっかりかわいらしくなっちまって・・・!」
健太がユキを見つめて戸惑いを感じていく。自分が見られていると実感して、ユキが喜びを膨らませていく。
「ち、ちょっと、健太・・!?」
そのとき、健太が聞き覚えのある声を耳にして、恐る恐る振り返る。ひとみが彼とユキを見て、動揺を浮かべていた。
「あ、あれ?・健太の知り合い?」
ユキがひとみに目を向けて疑問符を浮かべる。
「ユ、ユキ、1回離れようか・・!」
「健太、アンタはまたハレンチなことを・・・!」
動揺を見せる健太に、ひとみが睨みつけてきた。
「今度という今度はしっかりお仕置きしてやるんだからー!」
「ちょっと待て、ひとみ!さっきはオレを励ましてくれたじゃないかー!」
「それはそれ、これはこれだよー!」
慌てる健太にひとみが詰め寄ろうとした。
「やめてー!健太に乱暴しないでー!」
そこへユキが飛び出してきて、ひとみから健太を庇おうとした。
「えっ!?」
突然のことに驚いて、ひとみが手を止めた。
「健太をいじめないで!健太はかっこいいんだからー!」
「いや、悪いのはハレンチを働く健太で、僕はそれを止めようと・・!」
「ハレンチなのが健太の1番のいいところなんだから・・」
「それが1番ダメなんだって・・」
言い返してくるユキに、ひとみが呆れて肩を落とす。
「おいおい・・思ってた以上にややこしいことになりそうだ・・」
ユキとの再会とひとみからの誤解に、健太は完全に滅入ってしまっていた。
次回
「健太に入れ込んじゃうとロクなことにならないよ・・!」
「前向きなところが、健太のいいところなんだよ・・」
「いつでもどこでもどんなときでも、かわいい子のために・・」
「健太はそういうもんなんだよ・・」