ガルヴォルスX 第6話「本当の心」
ジュンを助けるため、黒ずくめたちの食い止めに飛び出した健太。シャドーガルヴォルスとなって、健太は黒ずくめたちを次々に撃退していった。
「ったく、どいつもこいつも・・かわい子ちゃんを何だと思ってやがる・・・!」
黒ずくめたちの行動に、健太が不満を膨らませていく。
「さて、ジュンちゃんのところへ行かないと・・彼女を狙ってくる連中は、まだ残ってるんだから・・」
ジュンを追いかけて移動していく健太。その途中、彼はひとみの姿を目撃して足を止めた。
「えっ!?ひとみ!?」
ひとみが倒れていることに驚く健太。彼はガルヴォルスから人の姿に戻って、ひとみに駆け寄る。
「おい!起きろ、ひとみ!どうしたってんだ!?」
健太が呼びかけて、ひとみが意識を取り戻した。
「あ・・あれ・・・健太・・・?」
「おい・・ビックリさせんなって・・・」
辺りを見回すひとみに、健太が肩を落としてため息をつく。
「何でこんなとこで倒れてたんだ?こんなとこで寝てると風邪ひく・・」
心配の声をかけていたところで、健太が突然ひとみに腕をつかまれた。
「ひ、ひとみ・・!?」
「やっと捕まえた・・今度こそお仕置きしてやるよ・・・!」
眉をひそめる健太に、ひとみが鋭い視線を向ける。
「ちょちょちょ、ちょっと待て、ひとみ・・オレはお前が倒れてたから・・!」
「それはそれ、これはこれ。今度こそみんなの前に引っ張り出して謝らしてやるだから!」
声を荒げる健太にひとみが言い放つ。
「冗談じゃないって!倒れてたのにいきなりそんなことしてくるなんて、バケモン級の反則だぜ!」
健太が納得いかずに文句を言い放つ。そのとき、彼の言葉を耳にしたひとみが、顔をこわばらせる。
「バケモノ・・バケモノ・・・怪物・・・!?」
ひとみが目の前に現れた怪物、スノーガルヴォルスとなっているジュンの姿を思い出していく。
「ひとみ、どうしたんだ・・!?」
「怪物・・・まさかホントに怪物がいるなんて・・・!」
健太が呼びかけるそばで、ひとみが怪物の恐怖を感じて震えだす。
(怪物!?・・まさかひとみ、ガルヴォルスを見ちまったのか・・・!?)
健太はひとみがガルヴォルスを見たのではと思い、緊張を覚える。
「怪物が・・怪物がホントに・・・!」
「ひとみ、バカなこと言うなって・・怪物なんてTVの話だろ?そうじゃなかったら見間違いか何かだって・・」
恐怖するひとみに健太が言いかける。怪物のことをごまかそうとして、健太は呆れた素振りを見せていた。
「ウソでも見間違いでもない!僕は確かに見た!目の前にバケモノが来て、動いて声を出して・・あれは偽物でも作り物でもない・・本物の怪物・・!」
「落ち着けって、ひとみ・・とにかく寮に戻れ。こんなビクビクしてんのに、外をうろついてたら危なっかしいって・・」
恐怖から立ち直れなくなっているひとみに、健太がため息まじりに呼びかける。しかしひとみは震えてばかりである。
「ハァ・・一緒に帰るぞ・・・」
健太は大きく肩を落として、ひとみを連れて寮に帰っていった。
(ジュンちゃん、無事に逃げ切れたかな・・・)
健太は心の中でジュンの心配をしていた。士蓮の部下である黒ずくめたちの追撃から逃げ切れているかどうか。
黒ずくめたちからひたすら逃げ続けたジュン。黒ずくめたちの追撃を振り切った彼女は、人のいないところでガルヴォルスから人の姿に戻った。
(健太さん・・私を助けてくれた・・私のために体を張ってくれた、同じ、人間でない人・・・)
ジュンが健太への感謝と心配を感じていた。
(また、会えたらいい・・近くで暮らしているのかな・・・)
怪物だという理由で危害を加えてくる人たちのために疑心暗鬼になっていたジュン。そんな彼女は健太に想いを寄せようとしていた。
(行ってみよう・・健太さんのところへ・・・)
募る想いに突き動かされるように、ジュンは健太を探しに歩き出した。
ジュンの拘束を指示していた士蓮が、黒ずくめたちからの連絡を受けていた。
「何?金城健太が邪魔を?」
黒ずくめからの報告に士蓮が眉をひそめる。
“体勢を整えて、すぐにターゲットの追跡に向かいます。”
「分かった。くれぐれも深追いはするな。ヤツにも、金城健太にも。」
“了解。”
士蓮が黒ずくめに指示を出して、連絡を終えた。
「金城が我々の邪魔をしてくるとは・・ガルヴォルスとしての同朋という意味で守っているわけではないようだが・・」
士蓮が健太の行動に肩を落とす。
「ヤツを野放しにすれば、多くの人間が犠牲となる。必ず我々が拘束しなければならない。」
スノーガルヴォルスであるジュンを拘束することを心に決めている士蓮。士蓮はジュンを、街や人々を凍てつかせていくガルヴォルスであると認識していた。
ガルヴォルスと遭遇した恐怖に襲われたひとみを連れて、健太は寮に戻ってきた。彼は寮長に声をかけて、ひとみを彼女の部屋まで運んだ。
「まさか君がこんな親切をしてくるとはね・・」
「寮長、オレを何だと思ってるんだよ・・おかしい目で見ないでくれって・・」
ため息をつく寮長に健太が肩を落とす。
「君は十分おかしいじゃないかい・・」
「寮長・・・」
寮長に言われて健太がさらに深く肩を落とす。
「それはそれとして金城くん、君は女子に多大な迷惑を働いている。だから君には謝罪と罰を・・」
寮長が健太に注意を投げかける。が、彼女の前から健太は消えていた。
「い、いない!?いつの間に!?」
寮長が辺りを見回すが、健太を見つけられない。
「逃げるのは一人前なんだから、金城くんは・・!」
逃げ出した健太に寮長はご立腹になっていた。
ひとみを寮に送ってから、健太はすぐに寮から逃げ出してきた。
「やれやれ・・寮長もマジで固いんだから・・」
健太が寮長の態度に呆れてため息をつく。
「さーて、ほとぼりが冷めてからこっそり戻るかな・・」
健太が気持ちを切り替えて、再び外を歩こうとした。
「健太さん・・・」
そこへ声をかけられて、健太が振り返る。その先にいたのはジュンだった。
「ジュンさん・・・!」
ジュンの登場に健太が動揺を見せる。歩み寄ってきた彼に、ジュンが微笑んできた。
「またジュンさんに会えるなんて〜♪」
「私も、健太さんに会えてよかった・・頼りにできるの、健太さんだけだから・・・」
「頼って、頼って〜♪任せちゃって〜♪」
ジュンから優しく声をかけられて、健太が有頂天になる。
「というより私、今まで信じられる人が全然いなくて・・・」
沈痛な面持ちを見せてきたジュンに、健太が戸惑いを覚える。
「もしかしてガルヴォルスに、バケモノだからって・・・」
健太が口にしたこの言葉にジュンが不安を覚える。怪物だからというだけで迫害される恐怖を思い出して、彼女は体を震わせる。
「わ、わりぃ・・人と違うからってだけで、嫌うのはよくないよな。ましてジュンさんみたいな素敵な人を・・」
健太が謝って頭を抱える。自分のことのように悩んで気さくに振る舞っている彼に、ジュンは安らぎを感じて微笑みかける。
「健太さん、ありがとう・・健太さんと出会えて、本当によかった・・・」
「ジュンさん・・・オレが、ジュンさんの心の支えに・・・」
ジュンから感謝されて、健太が感動を膨らませていく。
「そうだ・・オレはこのときの、この瞬間のために生きてきたのだー!」
すっかり上機嫌の健太に、ジュンも笑顔を見せていた。
そのとき、ジュンが自分たちに近づいてくるのを感じ取った。
「また、私を狙って・・」
「まさか、またアイツらが・・・!」
ジュンが緊張を覚えて、健太が身構える。2人に向かって黒ずくめたちが近づいてきた。
「ジュンさん、逃げよう!捕まったら一大事だ!」
健太がジュンを連れてこの場を離れる。2人の動きに気付いた黒ずくめたちが警戒を見せる。
「ジュンさんに汚い手を出そうとは、つくづくふざけた連中ってことだな!」
健太が黒ずくめたちや士蓮への不満を口にしていく。
「またオレがアイツらを食い止めるから、ジュンさんは逃げてくれ!」
健太が足を止めて黒ずくめたちがいるほうに目を向ける。
「でも、それだと健太さんが・・・!」
「ジュンさんのためなら、オレは必ず戻ってくるって!」
不安を浮かべるジュンに、健太が自信満々に振る舞う。彼の言動を目の当たりにして、ジュンが戸惑いを見せる。
「あっちにオレの大学の寮がある!そこに行けばかくまわせてくれる!」
「健太さん・・・」
「信じて大丈夫だから・・オレは信じてもらっちゃいないけど・・」
健太がジュンに呼びかけて、苦笑いを浮かべる。
「それじゃ無事でいてくれ、ジュンさん・・・!」
健太はジュンに呼びかけると、黒ずくめたちのいるほうに向かって走り出した。
「健太さん!」
叫ぶジュンが健太の後ろ姿を見送っていく。
(ごめんなさい、健太さん・・私、健太さんを放っておけない・・・!)
健太を放っておくことができず、ジュンは彼を追っていった。
「ターゲットを発見しました。これより拘束します。」
黒ずくめたちがジュンと健太を発見して追跡に向かう。彼らの前にシャドーガルヴォルスとなった健太が立ちふさがってきた。
「こっから先は立ち入り禁止だ!」
健太が強気に言い放ち構える。
「金城健太・・距離を取れ!下手に攻撃を仕掛けるな!」
「ヤツは強力な上、何を仕掛けてくるか分からない!」
黒ずくめたちが健太を警戒して後ずさりする。
「おいおい、危なくなったらすぐに逃げる算段かよ!グラサンで顔を隠すとこといい、つくづく臆病で情けねぇヤツらだな!」
健太が不敵な笑みを見せて、黒ずくめたちに向かって飛びかかる。ガルヴォルスとなっている彼が、黒ずくめたちに拳を叩き込んでいく。
「退け!引き下がれ!体勢を立て直す!」
黒ずくめたちが一斉に健太から離れていく。
「だから逃げんなって!」
健太が文句を言い放ち、黒ずくめたちを追って駆け出していった。
健太を追いかけてジュンは暗い道を駆けまわっていく。健太を見つけられず、彼女は不安を募らせていく。
「健太さん・・どこに・・・!?」
ジュンは感覚を研ぎ澄まして、健太を見つけようとする。すると彼女は黒ずくめたちが迫っていることに気付く。
「ターゲット捕捉。これより拘束します。」
動き出そうとしたジュンの前に、黒ずくめたちが立ちふさがってきた。
「やめて・・これ以上、私に構わないで・・・!」
ジュンが黒ずくめたちに鋭い視線を向ける。彼女が体を震わせて冷気をあふれさせる。
「気を付けろ!吹雪を仕掛けてくるぞ!」
黒ずくめたちがジュンが放つ吹雪を警戒して後ろに下がる。
「吹雪が弱まったところを狙って麻酔を撃て。怯んだ隙に拘束する。」
「了解。」
黒ずくめたちが連絡を取り合い、ジュンを取り囲み銃を構える。彼らはジュンが出している吹雪が弱まる一瞬を狙っていた。
ジュンが黒ずくめたちを遠ざけようとして放った吹雪が、徐々に弱まっていく。
「今だ!」
黒ずくめたちが同時に麻酔弾を発射する。弾丸が体に命中して、ジュンが苦痛を覚えて顔を歪める。
「か、体が・・言うことを・・・!」
麻酔で体が麻痺していき、ジュンがふらついていく。
「まだだ!もっと撃ち込め!」
黒ずくめたちがさらに発砲する。弾丸が次々にジュンの体に命中していく。
(やめて・・これ以上、私を傷付けないで・・・!)
「みんな、やめてよ!」
ジュンが感情を爆発させて、全身から吹雪を放出させる。
「うあっ!」
吹雪にあおられて黒ずくめたちが吹き飛ばされ、凍てついていく。麻酔で感覚が麻痺して、ジュンがふらついて倒れた。
舞い上がった吹雪に気付き、健太が振り返る。
「まさか・・ジュンさんが!」
健太が緊迫を募らせて、吹雪が起こったほうへ走り出す。全速力で駆け抜けた彼が、倒れているジュンと取り囲んでいる黒ずくめたちを目撃する。
「ジュンさん!・・どけ、お前ら!」
健太が叫んで、黒ずくめたちを突き飛ばしてジュンのところへ駆けつけた。
「ジュンさん、大丈夫!?ジュンさん!」
健太がジュンを支えて呼びかける。もうろうとする意識の中、ジュンが目を開けて健太の顔を視界に入れる。
「健太・・さん・・・」
「ジュンさん、大丈夫かい!?今からオレが君を守る!だからもう安心だ!」
声を振り絞るジュンに健太が笑みを見せる。彼がジュンを抱えてこの場を離れようとした。
「コイツ、好きにさせるものか!」
いきり立った黒ずくめの1人が、新たに銃を手にして発砲してきた。それは麻酔銃ではなく、出力、殺傷能力の高い銃と弾丸だった。
「健太さん!」
ジュンが健太を横に突き飛ばして、放たれた弾丸を胸に受ける。
「ジュンさん!」
健太が感情を込めてジュンに呼びかける。
「ジュンさん、しっかりするんだ!ジュンさん!」
「健太さん・・よかった・・無事で・・・」
声を荒げる健太にジュンが微笑みかける。
「早く病院に行くぞ!そうすりゃ治してくれる!」
「ダメ・・もう助からない・・それに、医者は誰も私を助けてくれない・・・」
「治る!オレが治す!オレが治させる!」
諦めを見せているジュンに、健太がひたすら呼びかける。
「ありがとう、健太さん・・信じるということを、健太さんが思い出させてくれました・・・」
病院に向かって駆けていく健太に、ジュンが自分の思いを口にしていく。
「健太さんには、本当に感謝しています・・・健太さんがいたから・・私は、救われた気が・・・」
目から涙をあふれさせるジュン。健太に伸ばしかけていた彼女の手が、力なく下がる。
「ジュンさん・・・!?」
腕をだらりとさせているジュンに、健太が目を疑う。目を閉ざしたジュンの体が固くなり、崩れて健太の腕からこぼれ落ちていく。
「ジュンさん!」
事切れて崩壊したジュンに、健太が悲痛の叫びをあげた。彼は怒りと悲しみを募らせて、体を震わせて両手を握りしめていた。
足を止めていた健太に、黒ずくめたちが追いついてきた。
「バケモノが!おとなしくしろ!」
黒ずくめたちが健太に向かって銃を構える。
「バケモノ?・・バケモノだと・・・!?」
すると健太が低く言いかけて振り返り、黒ずくめたちに鋭い視線を向ける。
「ジュンさんじゃない・・オレでもない・・・お前らのほうが、明らかにバケモンだろうが!」
怒号を放つ健太が黒ずくめたちに飛びかかる。黒ずくめたちが発砲し、弾丸が健太の体に命中する。
だが健太は傷つくことも構うことなく前進し、黒ずくめたちに殴り掛かる。
「くっ!引け!撤退だ!」
黒ずくめたちが健太から逃げ出そうとする。
「誰も逃げられると思うな、バカどもが!」
健太が絶叫を上げながら、黒ずくめを次々に殴り倒していく。今までは怯ませたり気絶させたりと力加減をしていた彼だが、今は怒りを込めて殺すつもりで拳を振るっていた。
ジュンの捕獲に出ていた黒ずくめたちは、健太によって全滅させられた。黒ずくめたちの死体の山の真ん中に、健太は立ち尽くしていた。
「ジュンさん・・・すまない・・ホントにすまない・・・!」
ジュンを守れなかった悲しみに暮れる健太。彼の目からは大粒の涙があふれてきていた。
次回
「ヤツも結局はガルヴォルスだということか・・」
「何が起こってるんだよ、健太・・・!?」
「もう、この力を自慢する気にはなれない・・・」
「やっぱオレは、かわい子ちゃんの味方ってことだ!」