ガルヴォルスX 第5話「白き逃亡者」
静寂に包まれた公園。人気のないその公園の片隅に、1人の女性が座り込んで震えていた。
その女性の前を、2人の警官が通りがかってきた。
「おや?・・君、どうしたんだ・・?」
警官が女性に近づいて声をかけてきた。すると女性が震えて後ずさりする。
「怖がることはない。落ち着いて・・」
「来ないで・・私に何もしないで・・・!」
警官が手を差し伸べるが、女性は拒絶を見せるばかりである。
「大丈夫。何もしない。とりあえず落ち着こう・・」
「来ないで!私は何もしていない!だからひどいことしないで!」
警官が声をかけていくが、女性は恐怖を募らせるばかりである。
「私は何もしようと思ってないのに・・悪者扱いしないで!」
悲鳴を上げる女性の頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼女の異変を目の当たりにして、警官たちが緊迫を覚える。
「私を傷つけないで・・傷つけないで!」
女性の体が変貌を遂げる。氷のような体の異形の怪物へ。
「バ、バケモノ!?」
怪物となった女性に驚愕して、警官たちが声を荒げる。2人はたまらず拳銃を手にして発砲する。
弾丸は女性の体の撃ち込まれた。しかし彼女の傷は浅く、弾丸もあっさりと体から出された。
「あなたたちも・・私を傷つける・・・!」
女性が目を見開いて、体から冷たい風を放ってきた。
「うわあっ!」
警官たちが吹雪を受けて、瞬く間に氷付けになって動かなくなった。
「もう、私に構わないで・・私に近づかないで・・・」
怪物、スノーガルヴォルスから人の姿に戻り、女性は公園から立ち去っていった。
警官たちだけでなく、公園全体が氷に包まれた。他にも氷付けになった場所がいくつもあった。
各地で次々に氷付けが発生していた。続発する奇怪な事件に、警察は気が滅入っていた。
「ったく、こんなマネ、どうやったらできるんだか、いっぺん聞いてみてぇとこだ・・」
「これだけの距離を一気に凍らせるなんて、今の科学でできるもんスかねぇ・・」
警部たちが氷付け事件について、ため息まじりに言いかける。
「とにかく犯人を見つけないことにはな。見つければ手口もすぐに分かる。」
「ここから離れてるとは思えないスね。徹底的に聞き込みしてきます。」
警部たちが別れて調べに向かうことにした。
連続凍結事件がガルヴォルスの仕業であることは、士蓮たちの部隊はすぐに突き止めていた。
「氷の力を持つガルヴォルスか・・派手に暴れているようだな・・」
士蓮がスノーガルヴォルスの行動について呟いていく。
「いや、制御できていないというべきか。力か、ガルヴォルスとなってしまった自分の精神を・・」
士蓮が呟いて、ガルヴォルスの動向と心境を察する。
「あのガルヴォルスに対し、ヤツはどう出るか・・」
士蓮は健太の動向のことも考えていた。
大学の寮の浴場は、男女で完全に別れて離れ離れの形となっていた。その女子の浴場に、健太はのぞきを働こうとした。
「ヘッヘッヘ♪この瞬間はまさに天国♪美少女のヌードがより取り見取り〜♪」
健太が浴場に近づいて、笑いを浮かべていた。
「さーて、今夜もいいもんをじっくりたっぷり楽しませてもらうぜ〜♪」
「そんなマネはさせないよ、健太!」
そこへ声が飛び込んできて、健太が驚きを覚える。彼の後ろにひとみが立っていた。
「げっ!ひとみ!?」
「アンタのことだから、こんなことをするんじゃないかって思ってたよ!」
身構える健太にひとみが迫ってくる。
「今日こそは寮長に突き出してやるんだから、覚悟するんだね!」
「冗談じゃない!せっかくの楽しみで捕まってたまるか!」
飛びかかるひとみから逃げ出していく健太。彼は慌てて浴場から離れていった。
「コラー、けんたー!戻ってこーい!」
ひとみが怒鳴って健太を追いかけていった。
ひとみから何とか逃げ切った健太が、彼女に滅入ってため息をついていた。
「やれやれ。ひとみったらホント厄介だな。邪魔ばっかしてくれちゃって・・」
健太が文句を言いながら歩いていく。彼は人のいない夜の道を歩いていた。
「そういや、氷付けの事件が起こってるみたいだな・・寒すぎるのも熱すぎるのも敵わないなぁ・・」
健太が最近の事件を思い出してため息をつく。
「カチコチにされるのはゴメンだな・・かわい子ちゃんと一緒に過ごすのが1番幸せだけどなぁ〜♪」
健太はすぐに笑顔を浮かべて、欲望むき出しにしてきた。
「ううっ!さ、さみぃ〜!」
道を歩いていく中で、健太が寒気を感じて震える。
「まさか、事件の犯人が近くにいるのか?」
健太が辺りを見回して、誰かいないかを確かめる。すると彼は明かりがちらついてきたのを目の当たりにする。
健太がじっと目をやるその先から、1人の女性が走り込んできた。その後を数人の男たちが追いかけてきていた。
「か、かわい子ちゃんが追われてる!?」
健太が気を引き締めて、女性のところへ向かっていった。
「ちょっと待ったー!」
男たちの前に健太が立ちふさがる。
「女の子1人を寄ってたかって追い回すたぁ、根性ひねくれてるな!」
「何だ、おめぇ!?コイツの知り合いか!?」
「誰だろうと、邪魔するヤツは容赦しねぇぞ!」
言い放つ健太に男たちがいら立ちを見せる。
「それはこっちのセリフだ!美少女にひどいことするヤツには、オレは容赦しねぇ!」
健太がいきり立ち、男たちに飛びかかる。殴り掛かる男たちだが、健太に攻撃をかわされて、逆に打ちのめされていく。
健太はケンカを強いと自負しているつもりはない。格闘技などをしているわけでもない。美女がらみのこととなると、彼は負けん気の強さが爆発的に上がるのである。
「かわい子ちゃんを敵に回すとこうなるんだ!分かったらおととい来やがれ!」
「ちっくしょう!覚えてやがれ!」
言い放つ健太に捨て台詞を吐いてから、男たちは慌てて逃げ出していった。健太はひとつため息をついてから、身なりを整えてから女性に振り向いた。
「大丈夫だったかな?ケガとかしていない?」
健太が優しい素振りを見せて、女性に手を差し伸べてきた。
「来ないで・・私に何もしないで・・・!」
「だ、だけど、それじゃ君に悪いし・・」
女性が震えて声を上げるが、健太は困った様子を見せる。
「さっきの連中は追い払った。アイツらが君に何かしてくるってことはない・・家とかに送ってあげたほうが・・」
健太が再び気さくに声をかけるが、女性が怖がっているのを見て肩を落とす。
「オレも離れるよ・・ただ、ムチャはしないでね。たまに休憩することも大事だってな。」
健太は笑みを見せてから、女性の前から立ち去ろうとした。
「ま・・待って・・・」
女性が突然健太を呼び止めてきた。彼女の声を耳にした健太が足を止めて、彼女に振り返ってきた。
「あなたなら、信じても大丈夫そう・・・」
「あ・・・ありがと〜♪」
微笑みかけてきた女性に対し、健太が歓喜をあらわにしてきた。
「オレは金城健太!よろしく♪」
「私・・ジュン・・白井ジュンです・・」
健太が気さくに、女性、ジュンが微笑んで自己紹介をする。
「ジュンさん・・素敵な名前だ・・純粋のジュンってね・・」
戸惑いを見せる健太に、ジュンは思わず笑みをこぼした。
「ジュンさん・・やっぱり、オレが家まで送ったほうが・・・」
「ありがとう・・でも私、家がないの・・・」
再び手を差し伸べてきた健太に、ジュンが自分のことを打ち明けてきた。
「もしかして、ものすごーくわけあり・・・!?」
「聞いたら・・絶対に驚きますよ・・それよりも、怖くなって、私のことを嫌いになる・・」
「そんなことないって〜♪オレはいつでも何があっても、かわい子ちゃんお味方だよ〜♪」
不安を口にするジュンに、健太は笑顔を振りまいて答える。
「実は、私・・・」
ジュンが健太に話しかけたところだった。
「ご、ごめんなさい・・私、行かないと・・・!」
突然ジュンが走り出して、健太から離れていく。
「あっ!ちょっとジュンちゃん!」
健太が慌ててジュンを追いかけようとした。その瞬間、彼は数人の黒ずくめの男たちを目撃した。
「アイツらは・・士蓮の部下か・・・!」
健太が黒ずくめたちを見て目つきを鋭くする。
(もしかして、アイツらもジュンさんを狙って・・・!?)
緊迫を募らせて、健太は改めてジュンを追いかけていった。
ジュンは黒ずくめの男たちが近づいてきたことに気付いた。だから彼女はすぐに健太の前から離れたのである。
(健太さんは信じられるけど・・私のために巻き込むことはできない・・・!)
健太のことを心配して、ジュンは黒ずくめたちから逃げていた。
小道や人の通れない場所を通って、ジュンは黒ずくめたちから逃げ切ろうとした。彼女はその先の通りに出た。
だがその先に黒ずくめたちが待ち構えていた。
「お前の行動は常に把握している。おとなしくこちらの指示に従え。」
黒ずくめの1人がジュンに呼びかける。
「やめて・・来ないで・・・!」
震えて後ずさりするジュンの頬に紋様が走る。
「来ないで・・私はまだ死にたくないのよ!」
叫ぶ彼女がスノーガルヴォルスに変化する。彼女は全身から吹雪を放出する。
「くっ!下がれ!」
吹雪を危険視して黒ずくめたちが下がる。だがその中に数人が吹雪にあおられて氷付けにされる。
「何という威力だ・・すぐに射撃だ!」
黒ずくめたちが銃を取り出して、ジュンに向けて発砲する。だがジュンが放つ吹雪によって、弾丸が凍り付いて止められて落ちる。
「このガルヴォルス、レベルが高いぞ・・!」
「もっと離れろ!ヤツの冷気を浴びればおしまいだぞ!」
黒ずくめたちが声を荒げて身構える。
「注意を引き付けろ。後方から狙え。」
“了解。”
黒ずくめたちが通信でやり取りをする。ジュンの前にいる黒ずくめたちが、銃を構えて後ろに下がって注意を引き付ける。
「今だ。一気に放て。」
黒ずくめのこの指示で、銃が発砲された。前方に注意を向けていたジュンの背中に、弾丸が撃ち込まれていく。
「うっ!」
撃たれたジュンがふらついて倒れる。痛みを覚えた直後、彼女は意識が薄らいでいく。
ジュンに撃たれたのは麻酔だった。意識がもうろうとなり、彼女は冷気を出すのもままならなくなっていた。
「よし。このまま連行する。油断するな。」
黒ずくめたちがジュンを捕まえようと近づいていく。氷付けにされないように慎重に。
体も麻痺してきたジュンは、人の姿に戻っていた。
「ちょーっと待ったー!」
そこへ声が飛び込んできて、黒ずくめたちが足を止めた。健太が駆け込んできて、黒ずくめのうちの2人を蹴散らして、ジュンのそばに来た。
「ジュンさん、大丈夫かい!?しっかりして、ジュンさん!」
健太が呼びかけるが、麻酔にかかっているジュンは目を覚まさない。
「お前ら・・こんなマネして、ただで済むと思ってんのか・・・!?」
怒りをあらわにした健太の頬に紋様が浮かび上がる。彼がシャドーガルヴォルスとなって、黒ずくめたちに鋭い視線を向ける。
「な、何を!?」
健太の行動に驚愕して、黒ずくめたちが彼にも銃口を向ける。
「貴様、ヤツを庇うつもりか!?そこにいるのは、暴挙を働くガルヴォルスだぞ!」
「それがどうした!?かわい子ちゃんなんだぞ!」
言い放つ黒ずくめたちに対して、健太が言い返す。
「人間もガルヴォルスも関係ねぇ・・きれいなお姉さんは、無条件でオレの味方だ!」
健太が黒ずくめに向かって飛びかかる。黒ずくめたちが発砲するが、健太は素早くかわしていく。
そして健太はジュンを抱えて黒ずくめたちから離れていく。
「逃がすな!追え!」
黒ずくめたちが健太とジュンを追っていく。健太は裏路地に逃げ込んで、黒ずくめたちをやり過ごした。
「ったく!どいつもこいつも美少女を何だと思ってるんだよ!」
ジュンが狙われて襲われることに、健太は不満いっぱいになっていた。
「・・ぅぅ・・・」
そのとき、意識を失っていたジュンが目を覚ました。ガルヴォルスである彼女は、受けた麻酔の効果が弱かった。
「私、いつの間に・・・あなた・・・!?」
呟いたジュンが、ガルヴォルスになっている健太を見て驚きを覚える。
「私と同じ・・人が人でない姿になった・・・」
「もしかして・・ガルヴォルスのことを知ってるんじゃ・・・!?」
言いかけるジュンに健太が声を上げる。彼の声を聞いて、ジュンも目の前にいるガルヴォルスの正体に気付く。
「もしかして、健太さん・・・!?」
動揺を募らせるジュンの前で、健太は人の姿に戻る。
「まさか同じガルヴォルスだったなんて・・だからアイツら、君を狙ってたんだ・・・」
ジュンのことを知って健太が納得する。彼も同じガルヴォルスだったことに、ジュンは戸惑いを感じていた。
「アイツらはオレが注意を引き付けて食い止める。その間にジュンさんは逃げてくれ。」
健太が外の様子をうかがいながら、ジュンに呼びかける。
「でも、それだと健太さんが・・・」
「オレはやられたりしないさ。オレより君に何かあるほうが大変だから・・」
ジュンが心配するが、健太は気さくな笑みを浮かべてきた。
「無事でいてくれ、ジュンさん・・また会おう!」
「健太さん!」
飛び出していった健太にジュンが叫ぶ。
「健太さん・・・あなたも、無事でいて・・・!」
健太の無事を祈って、ジュンは彼の言う通りにして、反対のほうへ走っていった。
「いたぞ!拘束しろ!」
だが他の黒ずくめに見つかり、ジュンは足を速めた。
「撃て!」
黒ずくめたちが発砲して、ジュンがたまらずスノーガルヴォルスになった。
「やめて!」
ジュンが叫んで、体から吹雪を放つ。向かってくる弾丸を凍らせて止めながら、彼女は走り続けた。
なかなか帰ってこない健太に腹を立てて、ひとみは寮から外に出ていた。
「ホントにしょうがないんだから、健太は・・今度という今度は思いきりお仕置きして、そのひん曲がった性根を叩きなおしてやるんだから・・!」
不満を口にしながら、ひとみは夜の道を進んでいく。
そのとき、ひとみは歩いている先の道が騒がしくなっているのを目の当たりにする。
「もしかして・・健太、あそこでまた騒ぎを・・・!」
ひとみはそこに健太がいると思って、目つきを鋭くして向かっていく。そのとき、1つの影がひとみの前に飛び込んできた。
それはジュンが変化したスノーガルヴォルスだった。
「そ、そんな・・!?」
TVなどでしか出てこない架空の存在であるはずの怪物が目の前に現れて、ひとみが緊迫を覚える。
「いや・・イヤアッ!」
ひとみが悲鳴を上げてジュンから逃げ出す。遠ざかっていくジュンをただ見ていたジュンだが、黒ずくめの接近を察知して、この場を離れた。
目の前に現れた怪物に、ひとみは恐怖を感じていた。
(ウソ・・あれは怪物だった・・あんなのがいるなんて・・ありえない・・・!)
ひとみが震えながら怪物に直面したことを否定しようとする。
(そんなの・・そんなのありえない・・・!)
必死に自分に言い聞かせていくひとみ。精神状態がひどく疲弊してしまい、彼女は倒れて意識を失った。
次回
「まさかホントに怪物がいるなんて・・・!」
「ヤツを野放しにすれば、多くの人間が犠牲となる。」
「健太さんには、本当に感謝しています・・・」
「お前らのほうが、明らかにバケモンだろうが!」