ガルヴォルスSpirits 第7話

 

 

 真樹たちの前に辛くも逃げることができた寧々、紅葉、夏子、早苗。彼女たちは街に隣接した廃工場に身を潜めていた。

「ここまでくれば、とりあえずは落ち着けるでしょう。」

 早苗が周囲に警戒の眼を向けながら呟く。

「ありがとう、早苗さん。早苗さんがあそこで引っ張ってくれなかったら、あたしたちも危なかったよ。」

「気にしなくていいわ。たくみくんやガクトくんたちがあんなことになってしまった以上、あなたと寧々さんの力が、この状況下での打開の鍵となっているのです。」

 感謝の言葉をかける紅葉に、早苗が弁解を入れる。

「本心では、あなたたち一般市民を巻き込みたくはない。でも私の力ではガルヴォルスには歯が立たず、さっきのようにみなさんを逃がすのが精一杯・・とても、悔しいです・・」

「それでも、あたしと寧々を助けてくれたのは確か・・人には必ず、何かを守れるだけの力はある。それはガルヴォルスにも人間にもある。」

 紅葉に励まされて、早苗は戸惑いを覚える。まだ誰かに頼られていることに、彼女は失いかけていた自信を取り戻した。

「そうね・・私にもまだ、やれることが必ずあるはずですね・・・すみません、紅葉さん。あなたに励まされるなんて・・」

 早苗が頷くと、紅葉と夏子が微笑みかける。だがその傍らで、寧々が沈痛の面持ちを浮かべていた。

「寧々・・・」

 その様子に気付いた紅葉が寧々に歩み寄る。姉の顔を眼にして、寧々が顔を上げる。

「あたし、守れなかった・・ガクトもかりんさんも・・・」

「寧々・・・悔しいのはあたしも同じだよ。たくみさんと和海さんを、あたしは守ることができなかった・・・でも、ここで悔しがってばかりもいられない。今度こそ、たくみさんたちを助けなくちゃ・・!」

 眼から涙を流して悔しがる寧々に、紅葉が肩に手を乗せて励ます。その言葉に寧々は奮い立たされる。

「たくみさんたちがやられて、あたしたちが諦めたら、誰がたくみさんたちを助けるのよ!誰がみんなを守るのよ!」

「お姉ちゃん・・・」

「あたしたちで助けよう!たとえ敵わないとしても、たくみさんたちは絶対に助け出す!寧々もそうだよね!?

「もちろんだよ!絶対に助けてみせる!あたしたちを守ってくれた、ガクトやかりんさんたちを、今度はあたしたちの手で!」

 紅葉と寧々が真剣な面持ちを浮かべて頷きあう。2人は大切なものを取り戻し、守るため、全身全霊を賭けようとしていた。

「ち、ちょっと待って!あなたたちだけで、どうにかできる状況じゃないわ!あなたたちをみすみす、死にに行かせるわけにはいかない・・・!」

 そこへ夏子が駆け寄り、寧々と紅葉を呼び止める。しかし寧々たちの考えは変わらなかった。

「それでも、行かなくちゃいけないときがあるんです。警察や探偵の夏子さんや早苗さんには、それが分かるはずですが。」

「大丈夫。あたしたちは死なない。死んだらそれこそみんなを悲しませることになりますから・・」

「寧々ちゃん・・紅葉ちゃん・・・」

 寧々と紅葉の言葉に夏子が困惑する。もはやこの姉妹に揺らぎはない。

「夏子さんと早苗さんは、街に被害が及ばないように非常線を張ってください。いつ、真樹さんたちが操るガルヴォルスが街にやってくるか分かりませんから。」

 寧々の呼びかけを受けて、早苗が真剣な面持ちで頷く。

「分かりました・・ガクトさんたちのことは、あなたたちに任せます・・ですが、ムチャは許しませんよ・・・!」

「大丈夫です。任せてください・・!」

 早苗の指示を受けて寧々が微笑んで頷く。

「それじゃ寧々、覚悟は決めたね!?

「もちろんだよ!ここまで来て、逃げるなんてできないよ!」

 互いの呼びかけに頷いた紅葉と寧々が意識を集中する。2人の頬に異様な紋様が浮かび上がり、2人の姿がガルヴォルスとなる。

 ドックガルヴォルス、ヘッジホッグガルヴォルスとなった寧々と紅葉は、たくみ、ガクト、和海、かりんの救出のために駆け出していった。

「それじゃ、早苗さん、あなたは本庁に戻って警戒態勢を。そしたら寧々ちゃんと紅葉ちゃんを追ってちょうだい。」

「分かりました。ですが先輩は・・?」

「私も寧々ちゃんたちを追うわ。私がたくみやガクトたちに発破をかけてやらないと。」

 夏子の言葉を聞いて早苗が頷き、敬礼を送る。

「了解しました、先輩・・どうか、ご無事で・・!」

「うん。早苗さんも!」

 早苗と夏子は互いの無事を祈って、それぞれ行動を開始したのだった。

 

 たくみやガクトたちの救出のため、寧々と紅葉は駆けていった。そして2人は真樹とレイを待ち伏せることにした。

 そして彼女たちのいる小さな裏通りに、真樹とレイがやってきた。

「まさかあなたたちからやってくるとは・・少し意外だったわ。」

 真樹が悩ましい眼差しを向けるが、寧々も紅葉も慄然さを崩さない。

「でも私たちにとっては好都合。せっかくだから、あなたたちもたくみさんやガクトさんたちのように封じ込めてあげるよ。」

「冗談じゃないって!アンタたちなんかの思い通りになんてさせないわよ!」

 言いかける真樹に紅葉が鋭く言い放つ。

「そうだよ!これ以上、お前たちにみんなの気持ちを弄ばれてたまるもんか!」

 寧々が続けて真樹とレイに言い放つ。その語気には、ガクトとかりんを奪われた怒りと悲しみが込められていた。

「あたし、ガクトやかりんさんと出会って、大切なものがどんなにすごいものなのか、改めて思い知らされた気がするよ。だから、今度はあたしがガクトとかりんさんを助け出し、お姉ちゃんを、みんなを守るんだって!」

「それが中途半端だって、あのとき言ったはずだよね?ガルヴォルスならガルヴォルスらしく、人間を見限りなさいって。」

 寧々の決意を、真樹が眼つきを鋭くしてあざ笑う。

「ガルヴォルスでありながら人間でいようなんて考えを持っていると、人間だけじゃなくガルヴォルスからも迫害される。私が手を加えなくても、あなたたちに待っているのは絶望だけなのよ。」

「たとえそれしかないとしても、あたしは、そんなムチャクチャな壁、思いっきりぶち破ってやるんだから!」

「そんなことは不可能よ。宿命からは、誰も逃げられはしない。」

「そんな逃げ口上、今のあたしたちには通じないよ!ガクトもかりんさんも・・!」

「たくみさんも和海さんも、アンタたちのいう不条理に逆らい続けてきた!だから、あたしたちに逆らえないことはない!」

 寧々に続いて、紅葉も真樹に反発する。

「あたしたちは負けない!負けるわけにはいかない!」

「アンタたちと違って、負けられない理由があるんだから!」

 揺るぎない決意を言い放つ寧々と紅葉。だが真樹もレイも、彼女たちの考えを聞き入れようとしない。

「ここまで来ると、滑稽ってことになるね・・本当・・」

 憤りをあらわにした真樹が、両手に光を灯す。

「見ているだけで壊したくなってくる・・・!」

 真樹は寧々と紅葉に向けて光を放つ。

「寧々!」

 紅葉の呼びかけに寧々が答える。2人はそれぞれ横に飛び退いて、光を回避する。

 そんな寧々と紅葉の前に、ガルヴォルスとなった華帆と飛鳥が立ちはだかる。

「えっ!?

「なっ!」

 虚を突かれた寧々と紅葉に向けて、レイに操られたガルヴォルスたちが猛威を振るう。

 華帆が羽を羽ばたかせて鱗粉を放つ。麻痺効果のある鱗粉の霧に、寧々はとっさに後退する。

 だが華帆は寧々を追いかけ、爪を突き出してきた。寧々はとっさに華帆に向かって突っ込む。

 奇襲の突進を受けて突き飛ばされる華帆。だが華帆は寧々の右腕を左手でつかみ、右手の爪を突き出してきた。

「ぐっ!」

 左のわき腹に爪を突きたてられて、寧々がうめく。華帆は立て続けに鱗粉を放ち、寧々の体に痺れを引き起こす。

「くっ!・・体が痺れて、思うように動けない・・・!」

 痺れが広がる体に寧々が毒づく。もはや彼女には、ガルヴォルスの姿を保つだけで精一杯だった。

「寧々!」

 紅葉が危機に陥った寧々に駆け寄ろうとする。だがその前に、剣を手にした飛鳥が立ちはだかる。

「お前の相手はオレだ。余所見をしている暇はないぞ。」

「もうっ!邪魔しないでよ!」

 淡々と告げる飛鳥に、紅葉が言い放つ。紅葉が背中から針を飛ばすが、飛鳥は剣を振りかざしてそれをなぎ払う。

「やっぱり、あたしの攻撃は威力が弱い・・うまく当ててダメージを蓄積させるしか・・!」

 紅葉が打開策を講じているときだった。飛鳥が素早く飛び込み、紅葉に一蹴を見舞う。

「うぐっ!」

 強烈な一撃を受けて紅葉が突き飛ばされる。何とか踏みとどまった彼女に向かって、飛鳥が飛びかかって剣を突き出してきた。

 その刃が紅葉の右肩に突き刺さる。おびただしい鮮血が彼女の肩からあふれ出す。

「がはあっ!」

 押し寄せる激痛に紅葉が絶叫を上げる。傷ついた方に手を当てて、彼女は後ずさりをする。

 そこへ飛鳥が一蹴を繰り出し、紅葉をなぎ払う。彼女は動けないでいる寧々の眼前に転がってきた。

「お、お姉ちゃん・・・しっかりしてよ・・こんなところで終われないのは、お姉ちゃんも分かってるはずだよ・・・」

 寧々が痺れる体に鞭を入れて、寧々が紅葉に駆け寄る。紅葉がそれに気付いて起き上がり、寧々が差し出してきた手を取る。

「寧々、ゴメン・・ドジ踏んじゃったよ・・」

「お姉ちゃん、何弱気なこと言ってるんだよ・・せめて、ガクトたちを助け出さないと・・・!」

 苦笑いを浮かべる紅葉に、寧々が必死に呼びかける。そんな寧々を紅葉は抱き寄せる。

 その2人を飛鳥と華帆が取り囲み、真樹もじっと見つめて意識を集中していた。

「これでおしまいね。あなたたちもたくみさんやガクトさんのように、私の中に入れてあげるから。」

「真樹さんの中って・・まさか、ガクトたち、真樹さんが・・!?

 真樹が口にした言葉に寧々が驚愕する。

「みんなも一緒だから、寂しくなることもないよね・・・」

 真樹は言いかけると、寧々と紅葉に向けて光を放つ。その光を受けた2人がその束縛に悲鳴を上げる。

「体が、全然言うことを聞かない・・お姉ちゃん・・・」

「何か、すごいものが押し寄せてきてる・・痛みとかそういうのじゃない・・まるで、寧々と触れ合ってるときみたいな・・・」

 光の影響に寧々と紅葉があえぐ。2人の姿がガルヴォルスから人間に戻り、彼女たちの着ている衣服が引き裂かれていく。

「大丈夫。最初はちょっと刺激が強いけど、すぐに楽になれる。痛みも苦しみも消えて、気分がよくなってくるから。」

 真樹が悩ましい眼差しを寧々と紅葉に向けて、淡々と言いかける。一糸まとわぬ姿で、寧々と紅葉が脱力していく。

 そんな中、紅葉が寧々を優しく抱きしめる。

「おねえ、ちゃん・・・?」

 突然の抱擁に寧々が気恥ずかしくなる。

「寧々、大丈夫だから・・あなたはあたしが、しっかり守るから・・・」

「お姉ちゃん・・・そんなに気を遣わなくてもいいよ・・あたしも、お姉ちゃんを守るよ・・・」

 紅葉の想いを受けて、寧々も自分の想いを打ち明ける。抱き合う2人を、球状となった光が包み込み、その輝きを強めていく。

 やがて光が消失し、水晶に閉じ込められた寧々と紅葉が地面に落ちる。その水晶を手にとって、真樹が笑みをこぼす。

「これで邪魔者はいなくなった・・レイ、これからみんなの幸せを取り戻しに行こうね。」

「うん・・わたしもたのしみ・・いっしょにしあわせになろう、真樹・・・」

 真樹の声にレイが無表情のまま答える。

「それじゃ、寧々ちゃんと紅葉ちゃんも取り込むよ。みんなと会えて2人も幸せになれるはず・・」

 真樹は言いかけると、水晶を自分の胸に押し当てる。水晶が彼女の中に吸い込まれ、寧々と紅葉も彼女に取り込まれてしまった。

「ふぅ・・これでまた力がついたよ・・幸せをつかむための力を、ね。」

「そうだね、真樹・・これからどんどん、みんなをしあわせにしていこう・・・」

 安堵の吐息をつく真樹に頷くレイ。2人は飛鳥、華帆を連れて、街に向かって歩き出していった。

 

 漆黒に包まれた異空間。その真っ只中を寧々と紅葉は漂っていた。

 真樹に水晶に封じ込められた者は、彼女に取り込まれても水晶に閉じ込められたままで、意識を取り戻すこともない。だが寧々と紅葉は水晶に閉じ込められても、意識を失ってもいなかった。

 これは紅葉の秘策だった。水晶に完全に封じ込められる瞬間、紅葉と寧々は意識を集中して体にバリヤーを張り、完全に水晶に閉じ込められるのを免れていた。

 結果、この案が功を奏し、寧々と紅葉は真樹の体内に無事に侵入することができた。

「ふぅ・・お姉ちゃんの予想通り、何とか中に忍び込むことができたみたいだね。」

「まぁね・・正直言うと、かなりの大博打だったんだけど・・結果オーライということかな。」

 笑みをこぼす寧々に紅葉が苦笑を浮かべる。だが2人はすぐに真剣な面持ちに戻る。

「でも、いつ気付かれるか分かんないから、急いだほうがいいかもしれないよ。」

「だね。急いでガクトたちを探さないと。」

 互いに言葉を掛け合って、頷きあう寧々と紅葉。その後、寧々は自分の体を抱きしめてひとつ息を突く。

「それにしてもちょっと寒いなぁ。何だかムズムズしてきたよ〜・・」

「そうね。あたしたち、真樹ちゃんにクリスタルに入れられるとき、丸裸にされちゃったからね。」

 寧々の言葉に紅葉が同意する。そして紅葉は寧々を抱き寄せて、自分の体温と掛け合わせて温めようとする。

「寧々も分かってるはずだよ。今のあたしたちに、怖いものなんて何もないって。」

「そうだね・・お姉ちゃん、あたし、頑張るよ。どんな相手が来たって、あたしたちは負けない・・・!」

 紅葉の励ましの言葉に、寧々も微笑んで答える。2人はさらにこの異空間を進んでいく。

 やがて2人の前に、数個もの水晶が現れる。水晶の中には多くの人々が眠るように閉じ込められていた。

「これみんな、真樹さんの力で封じ込められた人たち・・・」

「この中に、たくみさんたちがいるはずだよ・・・」

 この異様な光景を目の当たりにしながら、寧々と紅葉は先に進む。そしてついに彼女たちは、水晶に封印されたたくみと和海、ガクトとかりんを発見する。

「ガクト!かりんさん!」

「たくみさん!和海さん!」

 寧々と紅葉が声を荒げる。彼女たちはそれぞれの水晶に近寄っていく。

「ガクト、かりんさん、しっかりして!助けに来たよ!」

「ダメだよ・・みんなしっかり封じ込められてて、呼びかけるだけじゃ眼を覚ましそうにないよ・・!」

 必死に呼びかける寧々に、紅葉が毒づきながら言いかける。

「気付かれる危険が高いけど、あたしたちでこれを壊すしかない。」

「壊すって、どうやって・・・?」

「あたしたちは自分に意識と力を集中させることで、真樹さんに封じ込められるのを防いだ。だから同じように力を送り込んでいけば、みんなを助けることができるかもしれない・・」

 紅葉が出した案に、寧々が当惑を浮かべる。

「呼びかけるよ、寧々。あたしたちの心の声で。」

「お姉ちゃん・・・うんっ!」

 紅葉の呼びかけに寧々が頷く。2人はそれぞれの水晶に手を当てて、意識を集中する。

(お願い、ガクト。眼を覚まして・・もう1度、アンタの生意気な口を叩いてみせてよ!)

(たくみさん、和海さん、起きて・・あなたたちが帰ってくるのを、みんな待ってるんだよ・・・!)

 寧々と紅葉が想いを強くして水晶に向けて念じる。今度は自分たちが助ける。絶対に助けてみせる。姉妹の気持ちはただそれだけだった。

 しばらく思念を送り込んだときだった。

「えっ・・・!?

 何か鋭いものを感じ取り、寧々が当惑を覚える。

(この感じ・・間違いない・・ガクトとかりんさんが、眼を覚ました・・・!)

 寧々は確信を得て笑みをこぼす。彼女の想いと力によって、水晶に封じられていたガクトとかりんが意識を取り戻した。

“ここは・・・オレは・・・”

 寧々の脳裏にガクトの声が響いてくる。

「ガクト!眼を覚ましたんだね、ガクト!」

“寧々・・・この声、寧々か!?”

「ガクト、あたしの声、聞こえてるんでしょ!?だったら力を貸して!」

“力を貸すって、何を・・・!?”

「ガクトとかりんさん、真樹さんにクリスタルの中に閉じ込められてるんだよ!」

“・・・そうか・・思い出したぞ・・オレはたくみと戦って、そこへ真樹たちにやられて・・・”

 寧々に言われて、ガクトはこれまでの経緯を思い返す。そして今の自分たちが指一本動かせないことも。

「内側から力を送ってみて!あたしも外から力を送って、外と内からクリスタルを壊すの!」

“フン。お前にしては冴えてるじゃねぇかよ。”

「バカにしないでよね!いざとなれば、あたしだって!」

 ガクトと寧々が言葉を交わすと、互いに向けて力を注ぐ。

「たくみさん、ここで終われないことは分かってるはずだよ!あなたたちも、あたしも!」

“・・紅葉、ちゃん・・・!?”

 一方、紅葉の呼びかけを受けて、たくみも意識を取り戻した。

“紅葉ちゃん・・ここはどこだ!?みんなはどうなった!?”

「たくみさん・・ここは真樹さんの中だよ。あたしたちは真樹さんにクリスタルに入れられて・・でもあたしと寧々は、封じ込められる瞬間に体にバリヤーを張って、完全に封じ込められるのを防いだんだよ。」

“そうだったのか・・・なっちゃんと早苗さんは?”

「街に行ってみんなを避難させてる。多分、こっちに向かうと思う。」

“このままだと2人が危険だ。すぐに脱出しないと・・!”

 思い立ったたくみが意識を集中し、紅葉も力の注入を続ける。

 やがて水晶が力の影響でひび割れ、そして粉々に砕かれる。その中からガクトとかりん、たくみと和海が解放された。

「たくみさん、和海さん、しっかりして!」

「紅葉ちゃん・・すまない・・・」

「あれ・・私・・・?」

 紅葉の呼びかけにたくみが答え、その横で意識を取り戻した和海が呆然となる。

「ガクト、大丈夫なの・・・!?

「あぁ。オレは平気だ。それよりもかりんを・・」

「ガクト、私は大丈夫。心配かけてゴメン・・」

 寧々の声に答えつつ心配をかけるガクトに、眼を覚ましたかりんが答える。

 漆黒に彩られた異空間の真ん中で、たくみとガクトが眼を合わせる。敵対していた2人が、互いに鋭い視線を向け合っていた。

 もはや2人の心はその結びつきを完全に断ち切っていた。真樹たちの策略だったとはいえ、彼らは互いを許すことができなくなっていた。

 そんな2人の脳裏に、対すべき人の声がよぎる。

“たっくん、私はもう大丈夫。あなた自身のために、和海ちゃんやたくさんの人のために、これからを精一杯生きて・・・”

 たくみの心に映るジュンが優しく微笑みかける。

(ジュン、今回もお前に迷惑をかけてしまったようだな・・だがもう大丈夫だ。和海やみんなのために、オレは戦う・・・!)

 決意を秘めたたくみが拳を握り締めると、ジュンは笑顔を見せて姿を消した。

“お兄ちゃん、もう私のために誰かを恨んだり傷つけたりしないで・・本当に大切にしているもののために戦って・・・”

 優しく語りかけてくる久恵に、ガクトは困惑をあらわにする。

(久恵、お前はそれでいいのかよ・・オレは、今でもお前のことを・・・)

“ダメだよ・・・お兄ちゃん、私のために、自分の本当の気持ちを壊さないで・・お兄ちゃんが、自分に正直であってほしい・・それが、私の願い・・・”

(久恵・・・)

“かりんさんや寧々さん、みんなを守ってあげて・・・私はいつも、お兄ちゃんを見守ってるから・・・”

 笑顔を見せて、兄への信頼を寄せる久恵に、ガクトは動揺の色を隠せなくなる。だが妹の想いと自分の信念のため、ガクトは久恵の願いを受け止めた。

(ありがとう、久恵・・オレは生きる・・どんなことがあったって、オレは生き抜く・・かりんやみんなと生き抜いてやる・・・!)

“お兄ちゃん・・・信じてるからね、お兄ちゃん・・・”

 決意を告げるガクトに、久恵は喜びを見せてから姿を消した。

 現実へと意識を戻したたくみとガクト。2人は改めて互いに視線を向けて、真剣な面持ちを浮かべる。

「ホントなら、すぐにでもお前を倒したいところだけどな・・・!」

「今、オレたちがやらなければならないことは他にある・・・!」

 ガクトとたくみが低い声音で鋭く言い放つ。その2人のやり取りを、かりん、和海、寧々、紅葉が固唾を呑んで見守る。

「オレたちの大切なものを壊そうとしてくるなら、オレは全力でそいつを倒す!」

「オレもだ・・もうこれ以上、大切なものを奪わせはしない!」

 ガクトとたくみは言い放つと、全身に力を込める。2人の体から淡い光があふれ出し、漆黒の異空間に広がっていく。

「たくみ、私も力を貸すよ。自分がそうしたいからそうする、でしょ?」

「和海・・・」

 和海の呼びかけにたくみが微笑みかける。2人は抱き寄せ合って、さらに力を放出していく。

「ガクト、一緒に生きよう・・ここを抜け出して・・・」

「そうだな・・美代子さんがきっと、おいしいもんを作って待ってるだろうからさ。」

「熱いものでなければいいんだけど。」

「うるせぇよ。」

 かりんとの屈託のない会話をかわすガクト。2人も意識を集中して、力の放出に専念する。

 4人の放つ力が光となって、漆黒の異空間に完全に広がった。

 

 あと少しで街に踏み込めるところまできたときだった。突如体の中から激しい痛みを覚えて、真樹が立ち止まって顔を歪める。

「どうしたの、真樹・・・?」

 レイが無表情で声をかけるが、真樹は苦痛にあえぐばかりだった。

(これは何なの!?私の体に、何が起こってるの・・・!?

 自身の異変に驚愕を膨らませる真樹。彼女の胸元から光があふれ出し、徐々に輝きが強まっていく。

「ダメ・・この痛み・・抑えることができない・・・!」

 絶叫と嗚咽を繰り返す真樹の体から、ついに光があふれ出す。彼女の胸元から6つの輝きが飛び出してくる。

 その輝きが人の形へと変化していく。たくみ、ガクト、和海、かりん、寧々、紅葉が、真樹の中からの脱出に成功した。

「ハァ・・ハァ・・やってみるもんだな・・・」

「何とか・・脱出することができたぞ・・・」

 疲弊の中で呼吸を整えながら、ガクトとたくみが不敵な笑みを見せる。和海、かりん、寧々、紅葉も安堵の笑みをこぼしている。

「・・そんな・・真樹にすいこまれたはずなのに、そこからでてくるなんて・・・」

 レイがたくみ、ガクトたちを目の当たりにして声を上げる。表面的に現れてはいなかったが、彼女はひどく驚いていた。

「和海、お前は下がっていてくれ。ここからはオレが戦う。」

「たくみ・・・」

 たくみの突然の申し出に和海が当惑を見せる。

「ダメだって、そんなのは!あたしも一緒に戦うから、ムチャしちゃダメだよ!」

 そこへ紅葉が口を挟むが、たくみの決意は変わらない。

「ありがとう、紅葉ちゃん・・けどここからは、オレ自身との戦いになるから・・・」

「たくみさん・・・分かったよ。でも、絶対戻ってきてよね。」

「もちろんだ。和海や紅葉を悲しませるようなことはしない・・・!」

 気持ちを汲んだ紅葉が頷くと、たくみが気さくな笑みを見せた。

「オレがそうしたいからそうする。オレはお前たちを守りたいと思ったから、そのために戦うんだ・・・!」

 自身の信念と決意を言い放つたくみの頬に紋様が走る。彼の姿が悪魔を彷彿とさせる怪物へと変貌する。

 だがたくみには一途の迷いがあった。彼の前にドラゴンガルヴォルスとなった飛鳥が立ちはだかってきた。

 飛鳥と再び対立することを、たくみは快く思っていなかった。以前戦ったときは、たくみはとてもやるせない気持ちに満たされていた。

「かりん、お前は寧々を連れて、夏子と早苗と合流してくれ。」

 一方、ガクトもかりんに呼びかけていたが、寧々は納得していなかった。

「何言ってるんだよ、ガクト!いくらなんでも、アンタ1人で太刀打ちできる相手じゃないでしょうが!」

「ワリィが寧々、これはオレの戦いなんだよ。そんなのにお前たちを踏み込ませるわけにはいかねぇんだよ・・」

「けど・・!」

「お前は黙ってかりんについてけ!」

 反論してくる寧々を、ガクトは言い放って一蹴する。その怒号に寧々は押し黙る。

「かりん、必ずオレは戻ってくる・・これからもオレたちは、精一杯生きるんだ・・・!」

「ガクト・・・分かった。帰ったら、美代子さんがパーティーしてくれると思うから。」

 かりんが言いかけるとガクトは苦笑いを浮かべる。かりんはデッドガルヴォルスに変身して、悲痛の面持ちを浮かべている寧々を連れてここを離れる。

「ホントにワリィな、かりん、寧々・・これを終わらせたら、全部かたがついたら、寄り道しねぇで帰るからよ!」

 いきり立ったガクトの頬に異様な紋様が浮かび上がる。ドラゴンガルヴォルスに変身した彼が、真樹に眼を向ける。

「オレたちをここまで追い込んでくれた落とし前は高くつくぞ・・ただで済むと思うなよ!」

 真樹に向けて叫ぶガクト。そしてガクトは、飛鳥に眼を向けているたくみの前に立つ。

「アイツの相手はオレがする。お前じゃ本気で戦えそうもないからな。」

「何を言っているんだ・・アイツは紛れもなく飛鳥なんだぞ!」

「本気で眼の前にいるのが、お前の信じてきた仲間だと思ってるのかよ!?

 迷いの言葉を口にするたくみにガクトが言い放つ。その態度に憤りを覚えるたくみだが、歯がゆさを募らせて拳を強く握り締めている彼を目の当たりにして困惑する。

「ここはオレがやる。アイツらにこれ以上、罪を犯させるな・・・!」

 ガクトはたくみに言いかけると、静かな怒りを抱いて歩き出す。そして飛鳥の眼前に近寄ったところで、ガクトが拳を繰り出す。

 突然の一撃を体に受けて、飛鳥が突き飛ばされる。壁に背中を打ち付けて踏みとどまったところへ、ガクトが再び飛鳥の前に立つ。

「みんなの気持ちを裏切りやがって・・お前がオレがブッ倒す!」

 憤怒するガクトを前にして、飛鳥が鋭い視線を向けた。

 一方、戦意を取り戻したたくみは華帆と対峙していた。様々な感情、罪、憎悪、決意、信念が大きく渦巻いていた。

 

 

 

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