ガルヴォルスSpirits 第6話

 

 

 たくみを追って街中を捜索する和海と紅葉。心当たりのある場所をしらみつぶしに探す彼女たちのところに、同じくガクトを追跡するかりんと寧々が駆け込んでくる。

「お姉ちゃん!・・どうしたの、お姉ちゃん、和海さん!?

「えっ!?寧々!?・・寧々こそどうしたのよ!?

 互いに声を荒げて問い詰める寧々と紅葉。2人が落ち着きを取り戻したところで、先に紅葉が切り出す。

「たくみさんが、あたしたちが寝ている間にいなくなったのよ。もしかしたら、ガクトさんと戦いに行ったんじゃないかって・・」

「たくみさんが!?・・大変!このままじゃガクトと・・!」

 紅葉からの事情を聞いて、寧々が声を荒げる。

「寧々、たくみさんたちの居場所は分かってる!?

「うんっ!ちゃんとにおいをキャッチしてるよ!」

 紅葉の呼びかけに寧々が答える。ドックガルヴォルスである彼女の嗅覚は、対象の位置や動きを正確に捉えることができるのだ。

「街外れの広場!たくみさんも一緒だよ!」

「それじゃ、もう2人とも戦ってるんじゃ・・!?

 寧々の言葉に和海が声を荒げる。

「急ごう、みんな!2人を止めよう!」

 かりんの声に3人も真剣な面持ちで頷く。

「寧々ちゃん、紅葉ちゃん、ここから先はとても危険になる。ガクトとたくみさんを見つけてくれたことは感謝するけど、できることなら、夏子さんの事務所かセブンティーンに戻っててほしいというのが本心なんだけど・・」

 かりんが寧々と紅葉に言いとがめる。だが2人の決心に変わりはなかった。

「危険だってのは先刻承知だよ。それでも行かなくちゃいけないんだよ・・・!」

「あたしも寧々と同じ気持ちだよ。たくみさんとガクトさんが戦うなんて、絶対みんなのためにならないって・・・!」

「紅葉ちゃん・・寧々ちゃん・・・」

 寧々と紅葉の心境を知って、かりんは戸惑いを浮かべる。そこへ和海が彼女たちに向けて微笑みかけてきた。

「みんな、覚悟は決まってるみたいだね。それじゃ、急ごう!」

 和海の言葉にかりん、寧々、紅葉が頷く。4人はたくみとガクトを気にかけ、再び駆け出していった。

 

 静寂に包まれた荒野の真ん中で、鋭い視線を向け合うたくみとガクト。2人は怒りに駆り立てられながらも、互いの強さと出方を伺うなど、冷静だった。

 その静寂と沈黙は長時間続いていた。迂闊に踏み込めば、一気に劣勢に立たされることになると思っていたからだ。

 そして荒野に物音ひとつしない完全な静寂に包まれた瞬間、

「うおおぉぉーーー!」

「はああぁぁーーー!」

 叫び声を張り上げて、たくみとガクトが同時に飛び出した。2人が繰り出した拳が衝突し、激しく火花が散る。

 その衝撃が周囲に影響し、地面や岩場を大きく揺るがす。拮抗したこの衝突に対し、たくみとガクトが同時に左の拳を繰り出す。

 2度目の拳の衝突で、たくみとガクトがその反発で弾き飛ばされる。横転しながらもすぐに体勢を立て直し、2人は互いを見据える。

 今度はガクトが割きに飛び出した。ガクトはさらに拳を繰り出すが、たくみは身をかがめてこれをかわす。

 そこからたくみがガクトの腹部に向けて拳を叩きつける。強烈な一撃を受けて、ガクトが顔を歪める。

 だがガクトも負けじと右足を振り上げる。膝蹴りを腹部に叩き込まれ、たくみもうめき声を上げる。

 痛烈な一撃を受けて、たくみとガクトが後ずさりする。

「コイツは、かなりきついぜ・・けどここで倒れるわけにいかねぇんだよ・・!」

「くそっ!・・こんなところで、やられてたまるか!」

 押し寄せる痛みを跳ね除けて、ガクトとたくみが叫ぶ。2人は背中の翼を広げて飛翔し、空中で激突する。

 それぞれ手をつかみ合って力比べに持ち込む。その間に繰り出される膝蹴りが幾度となくぶつかり合う。

 そしてたくみとガクトが同時に頭突きを見舞う。再び痛烈な衝突を受けて怯み、2人は距離を取る。

「ここでアイツを倒さないと、和海や紅葉たちが・・・だから、オレはお前を!」

 たくみがいきり立ってガクトに飛びかかる。体をひねらせて一蹴を繰り出すが、ガクトは前のめりにかがみこんでこれをかわす。

「なっ!」

「いっつもそうやって、やれると思うな!」

 驚愕するたくみに向けて、ガクトが叫ぶ。ガクトに拳を叩き込まれて、たくみが上空に跳ね上げられる。

 ガクトは飛翔してたくみに追撃を加える。連続に叩き込まれる拳に、たくみが苦痛を覚えて吐血する。

 だがたくみも感情を高ぶらせて反撃に転ずる。突き出された爪が体に突き刺さり、ガクトが苦痛を覚えてうめく。

 怯んで落下するガクトに向けて、たくみがさらに攻撃を加えていく。地上に落ちてからも、たくみのガクトへの攻撃が続く。

「ちくしょう!こんなもんでオレは!」

 ガクトがいきり立ち、たくみに向けて足を突き出す。蹴り飛ばされたたくみが横転し、ガクトが苦痛にさいなまれながら立ち上がる。

「こんなもんでブッ倒れてたまるかよ・・ここでオレがやられたら、久恵が浮かばれねぇ・・・!」

「和海たちを、ジュンのような目に合わすわけにはいかない・・ここでお前を・・・!」

 傷ついた体に鞭を入れて、憎悪を募らせるガクトとたくみ。2人はついに、具現化した剣をそれぞれ手にする。

「あんまり長引かせてもきつい・・一気にぶった切ってやる!」

「それはこっちのセリフだ・・お前に、オレの仲間は殺させない!」

 言い放った直後、ガクトとたくみが同時に飛び出す。振りかざした2つの剣がぶつかり合い、激しく火花を散らす。

 2人は何度も剣を振りかざし、互いの刃を打ち付けていく。その衝突には、それぞれの怒り、想い、様々な感情が込められていた。

 やがて2つの刃は、たくみとガクトの体に傷をつけていった。それでも2人は怯むことなく、ひたすら刃を振りかざしていた。

「お前が久恵を殺した!どういうことが分かんねぇが、久恵は確かにオレの前に帰ってきた!それなのに、お前はそんな久恵を!」

「オレたちの前に帰ってきてくれたジュン!それをお前は、敵でしかないような見方で殺した!・・オレは、オレは止めようとしたのに!」

 大切なものを奪われた悲しみと怒りがその荒野で入り乱れる。だがやがて優劣が明確になってきた。

 たくみが徐々にガクトを追い込みつつあった。そしてたくみの放った一閃が、ガクトの右肩をかすめた。

「くっ!」

 苦痛に顔を歪めて、ガクトが飛翔して距離を置く。たくみもガクトも息を荒げていたが、ガクトのほうが劣勢を強いられていた。

(不動たくみ・・何てヤツだ・・アイツの動きは速い。攻撃も強力で、しかも的確に打ち込んでくる。アイツと比べてオレはまだまだ荒削りってことかよ・・・けどな・・!)

 たくみの力量に脅威を感じながらも、諦めようとしないガクト。

(オレには、どうしてもアイツを倒さなくちゃなんないだよ!)

 決意を強めるガクトが、全身に力を込める。すると彼の体に変化が起こり、鋭利な形態「竜人型」となる。

 ガクトのその変化にたくみが眼を見開く。ガクトから発せられる力を、たくみはひしひしと感じていた。

 ガクトがたくみに向かって飛びかかっていく。その速さが格段に上がっており、たくみは一瞬虚を突かれた。

 ガクトからの一蹴を顔面に受けて、たくみが突き飛ばされる。大きく地面を転がり、うつ伏せに倒れ伏す。

「くっ・・姿が変わっただけじゃない。速さも力もかなりアップしている・・・あっ!」

 ガクトの力に脅威を覚えるたくみ。そこへガクトが間髪置かずに追撃に出てきた。

 たくみは地面を強く叩いて、その反動で飛び上がる。空に逃げて一瞬でも回復しようとしたたくみだが、ガクトも翼を広げて追跡してくる。

 たくみは剣を掲げて、ガクトが突き出してきた剣を防ぐ。だが勢いと威力を押さえ切るには至らず、たくみはガクトに右肩を斬りつけられる。

「ぐっ!」

 苦痛に顔を歪めて体勢を崩すも、たくみは剣を振りかざしてガクトに斬りかかる。その一閃はガクトの左腕に大きな傷を付けた。

「ぐあぁっ!」

 ガクトも体勢を崩して、たくみとともに地上に落下する。2人はそれぞれ反対のほうに横転してから、立ち上がって互いを見据える。

 拮抗し、互いに一歩も譲らない一進一退の攻防。時間と体力だけが消費されていた。

 そんな2人の戦いの場となっている荒野に、和海、かりん、寧々、紅葉が駆けつけてきた。

「たくみ!」

「ガクト!」

 和海とかりんが呼びかけるが、たくみとガクトの耳には届いていなかった。

「これ以上やったら、2人とも死んじゃうよ!早く止めないと!」

 寧々が2人の戦いを見かねて、止めようと飛び出す。だがそのとき、たくみとガクトからほとばしる力があふれ出し、寧々の完全の地面に衝撃を与えた。

「寧々!」

 紅葉がヘッジホッグガルヴォルスとなって、ふらつく寧々を抱えてその場を離れる。着地した2人に和海とかりんが駆け寄る。

「寧々ちゃん、紅葉ちゃん、大丈夫!?

「う、うん。あたしは大丈夫・・ありがとう、お姉ちゃん・・」

 かりんの呼びかけに答えて、寧々が紅葉に感謝の言葉をかける。紅葉は寧々に頷きかけると、たくみとガクトに眼を向ける。

「これは止めるのも一筋縄ではいかないみたいね。下手に飛び出したら、こっちがやられちゃう・・!」

「だけど、このまま2人が傷つくのを黙って見ているわけにはいかないよ!たとえムチャでも、あたしは止める!絶対に!」

 毒づく紅葉の腕を振り切って、寧々が再び飛び出していく。

 一方、たくみとガクトは残された力を振り絞って、この勝負に決着を着けようとしていた。

「そう何度もアイツの攻撃を受けてたらひとたまりもない・・一気にケリをつける!」

「この状態は長い時間持たない・・体力がなくなる前に、アイツを打ち倒してやる!」

 最後の勝負に向けて、たくみとガクトがいきり立つ。2人は剣を持つ右手に力を収束させて、全速力で飛び出す。

 持てる力の全てを込めて、振り下ろされる2つの刃。その激突によってこれまでにない爆発と閃光が巻き起こる。

「危ない!みんな、伏せて!」

 和海の呼びかけにかりんがデッドガルヴォルスになって身構え、紅葉も寧々を抱えてその場に伏せる。押し寄せる閃光と衝撃に彼女たちが必死に耐える。

 そのエネルギーの爆発はしばらく続いたが、その猛威が街に及ぶことはなかった。もしもこれだけの爆発が街で起これば、街は一気に瓦礫の山と血の海と化していたことだろう。

 やがて衝撃が治まり、和海が体を起こす。荒野は衝撃によって砂煙が巻き起こっており、視界がさえぎられていた。

「すごい・・こんなパワーのぶつかり合い、普通じゃ出し切れないよ・・・」

 衝撃の凄まじさに思わず固唾を呑む和海。かりん、寧々、紅葉もゆっくりと体を起こして眼を凝らす。

「こんな爆発が起こって、ガクトとたくみさんは大丈夫なのかな・・・!?

 眼前の粉塵を目の当たりにして、寧々が深刻な面持ちを浮かべる。

 やがて砂煙が治まり、その中からたくみとガクトの姿が現れる。2人は互いを見据えたまま、その場を動かない。

「たくみ・・・」

「ガクト・・・」

 和海とかりんが佇むたくみとガクトを凝視する。

 全ての力を使い果たし、たくみとガクトが同時に倒れる。2人は前のめりに倒れこんだまま、起き上がらない。

「たくみ!」

「ガクト!」

 力尽きた2人に、和海とかりんが悲痛の叫びを上げる。彼女たちはそれぞれ彼らのところに向かい、体を起こす。

「たくみ!起きて、お願い!たくみ!」

「ガクト!眼を覚まして、ガクト!」

 和海とかりんが呼びかけるが、たくみとガクトは意識を失っており、その呼びかけに答えない。

「かりんちゃん、ガクトさんをこっちに!私の力で回復させるから!」

「はいっ!」

 和海の呼びかけにかりんが答える。エンジェルガルヴォルスである和海は、傷や毒を消し、体力を回復させる能力を備えているのだ。

「悪いけど、せっかくのチャンスをムダにするわけにはいかないのよ。」

 かりんがガクトを連れてかりんに近づこうとしたときだった。突如淡い球状の光が現れてガクトとかりんを包み込んだ。

「かりんちゃん!?

 この現象に和海が眼を見開く。その瞬間、光が一気に強まって膨大なエネルギーを発する。その力に包まれて、ガクトとかりんが苦痛を覚えて顔を歪める。

「な、何だ・・どうなってるんだ、こりゃ・・!?

「体に力が入らない・・何かすごいものに押し込まれそうな気分・・・!」

 その力に抗おうとするも、徐々に体の力を抑え込まれていくガクトとかりん。2人は抱き合ったまま、心身を拘束されていく。

「いったい、何が起こってるの・・・!?

 彼らの身に起きている現象を目の当たりにして、和海が声を震わせる。視線を巡らせた先の人物に、彼女は驚愕を覚える。

 そこに立っていたのは真樹だった。真樹は両手を掲げて、ガクトとかりんを閉じ込めている光に力を注いでいた。

「真樹、ちゃん・・・!?

 和海が愕然となりながら振り絞るように声を発すると、真樹は彼女に芽を向けてきた。

「まずはガクトさんとかりんさんから。次はたくみさんと和海さんだからね。」

 真樹は普段見せていなかった冷淡な口調で和海に言いかける。その態度に和海は動揺の色を隠せなかった。

「真樹ちゃん・・これってどういうことなの!?かりんちゃんとガクトさんに何をしたの!?

 和海が悲痛さをあらわにして真樹に問い詰める。すると真樹は妖しく微笑んで答える。

「今、ガクトさんとかりんさんの体は私の力で抑え込んでいるの。そこからさらに押し込んで、クリスタルの中に入れる・・それが私の力。」

「それじゃ、真樹ちゃんも・・ガルヴォルス・・・!?

 真樹の言葉に和海は確信せざるを得なかった。真樹もガルヴォルス。水晶の力をつかさどるクリスタルガルヴォルスであった。

「私はこのときを待ってたの。たくみさんとガクトさんが憎み合って戦って、どっちもヘトヘトになるときをね。」

「どうして・・たくみやガクトさんが、何か悪いことをしたって言うの!?

「どうして?だって、あなたたちは裏切り者のガルヴォルスだもの。」

 和海の問いかけに真樹があざけるように言いかける。

「あなたたちはガルヴォルスでありながら、人間と同じように過ごしている。そういう中途半端なの、すごくイヤなの・・ガルヴォルスでも人間でもない中途半端なあなたたちを見てると、壊したくなってくるの・・!」

 事情を話す真樹の顔に、だんだんと憤りが現れてくる。

「でもたくみさんもガクトさんも強いガルヴォルス。真正面から向かっていっても敵うはずもない。だから2人がうまく憎み合って戦うように仕組んだのよ。」

「仕組んだって・・まさか、ジュンさんが生き返ったのは・・!?

「そう。でも死んだ人を生き返らせたのは私じゃない。私はそういう力を持ってないよ。」

「それじゃ、いったい誰がジュンさんたちを・・・!?

 真樹に対して和海がさらに問い詰める。

「春日レイ。あなたの友人ね、真樹さん。」

 その質問に答えたのは、早苗とともに現れた夏子だった。夏子は鋭い視線とともに、真樹に銃口を向けていた。

「レイさんの情報とあなたの不審な行動で、全てのつじつまがあったわ。死人を生き返らせる力を持っていたのはレイさんのほうよ。」

「あなたはレイさんとともに、ジュンさんや久恵さん、華帆さんをはじめとした人々を生き返らせ、騒ぎに乗じてたくみくんとガクトくんの対立を図った。」

 夏子に続いて早苗も説明を入れる。

「2人の強敵がいるなら、同士討ちをさせて消耗させればいい。そこを突いて一気に仕留める。それがあなたの、あなたたちの企てた策略・・・!」

 早苗も携帯していた拳銃を取り出して、その銃口を真樹に向ける。

「ガクトくんとかりんさんを解放しなさい!でなければ、我々はあなたを容赦なく撃つ!」

 早苗が真樹に向けて警告を言い放つ。だが真樹は悠然とした態度を崩さない。

「ここまでたどり着いたのは素直に褒めるよ。でも分かってるよね?ガルヴォルスに人間は勝てない。だって、ガルヴォルスは人間が進化したものだから。」

「それなら、私たちの気持ち、あなたにも分かるはずだよね・・・!?

 夏子と早苗に言いかける真樹に向けて、和海が呼びかける。

「ガルヴォルスは元々は人間!だから、人間とガルヴォルスは共存することができ・・!」

「それが中途半端だって言ってるの!」

 和海の説得を、真樹が怒鳴って一蹴する。

「たとえ元々人間だったとしても、人間とガルヴォルスは全くの別物!共存なんて夢物語でしかないよ!」

 真樹は言い放つと、ガクトとかりんを閉じ込めていた光に力を注ぐ。その力の影響で、2人が苦痛を覚えて叫ぶ。

 2人の姿がガルヴォルスから人間へと戻る。脱力し、腕がだらりと下がり、身につけている衣服が引き裂かれていく。

「ちくしょう・・全然力が入らねぇ・・ガルヴォルスになれねぇ・・・!」

 必死に抗おうとするガクトだが、真樹の力に完全に掌握されてしまっていた。

「かりん、すまねぇ・・お前まで、巻き添えになっちまって・・・」

「いいよ・・ガクトはこういう性格だし、こんなこともそんなに動じなくなっちゃったから・・・」

 沈痛の面持ちを浮かべるガクトに、かりんは半ば呆れた面持ちを見せる。そして2人は最後の力を振り絞り、口付けを交わした。

 抱擁と口付けをする2人を、包んでいる光がさらに強まっていく。そのまぶしさに和海、寧々、紅葉、夏子、早苗が眼を細める。

 やがて光が消失し、和海たちが視線を戻す。その先にあったのは、ひし形の青白い水晶に眠るように閉じ込められたガクトとかりんだった。

「かりんちゃん・・ガクトさん・・・」

 和海が愕然となってその場にひざを付く。真樹はガクトとかりんを封印した水晶を手にして、2人の裸身をまじまじと見つめる。

「次はたくみさんの番。せっかくだから、和海さんも一緒に封じ込めてあげるよ。」

「そうはさせない!」

 たくみと和海に眼を向けた真樹に、夏子がとっさに発砲する。だが真樹は左手をかざして半透明の障壁を作り出し、その弾丸を防ぐ。

「言いましたよね、夏子さん?人間の力ではガルヴォルスに勝てないって。」

「なっちゃん、紅葉ちゃん、みんな逃げて!」

 真樹が言いかけたところで和海が叫ぶ。その瞬間、真樹が力の矛先をたくみと和海に向ける。

 和海がたくみを抱えて、ガルヴォルスの力を発動して背中から天使の翼を広げる。真樹の力を、翼の光の壁で弾き飛ばそうとした。

 そのとき、突然青い霧が和海に向けて飛び込んできた。その霧の麻痺効果に、和海は集中力をかき乱される。

「か、体が痺れる・・思うように、動くことができない・・・こ、これって・・・!」

 体の自由が利かなくなり、ひざを付く和海。

「ありがとう、レイ、華帆。あなたたちの力で、こうしてたくみさんと和海さんも封じ込められる。」

 真樹が感謝の言葉をかけてから、たくみと和海に向けて光を放つ。光を受けた2人がその力に押し込まれて叫び声を上げる。

「せっかくあたしがやっつけようって思ってたのに。」

 無表情で2人を見つめるレイの横で、華帆が不満を口にする。

「悪いけどそれはダメ。たくみさんもガクトさんも、私が押さえ込むのだから。」

 しかし真樹はそれを否定し、たくみと和海に向けてさらに力を注いでいく。

「だったらクリスタルに閉じ込めたガクトとかりんをあたしのものにさせてよ。それぐらいさせてくれないと、あたし、我慢がならなくなっちゃうよ。」

 華帆が真樹の手にしている水晶に手を伸ばそうとする。そのとき、華帆は激しい頭痛に襲われてその場にうずくまる。

「いたい・・いたい!」

 頭を抱えて痛がる華帆の様子に、寧々、紅葉、夏子、早苗が当惑する。

「・・ダメだよ・・あんまりわがままいったら、真樹がめいわくするよ・・」

 苦しむ華帆に向けて、レイが淡々と言いかける。華帆が苦しんでいたのはレイの力によるものだった。

 レイは生き返らせた者を支配下に置いてあり、思念を送って操ることができるのである。死者は心も記憶も当人にしっかりと宿っているが、レイに逆らうことは皆無である。

 レイは華帆に思念を送り、水晶を奪い取ろうとした彼女を押さえ込んでいた。やがて思念の束縛が治まり、華帆が落ち着きを取り戻す。

「残念だが、オレたちはレイの操り人形となっている。彼女と真樹の考えに逆らえば、再び死ぬことになる。」

 そこへかかってきた声に、たくみと和海が驚愕を覚える。2人の視線の先には、慄然さを放っている飛鳥の姿があった。

「飛鳥・・・!?

「飛鳥さん・・・やっぱり、飛鳥さんも生き返ってたんですね・・・でも、どうして飛鳥さんが真樹ちゃんたちに・・・!?

 声を荒げるたくみと和海を見つめて、飛鳥は顔色を変えずに言いかける。

「オレもレイによって蘇ったんだ。人間との決別を果たすため、オレは戦っている。」

「決別!?・・・何を言ってるんだ、飛鳥!?お前の夢は、人間とガルヴォルスの共存だったはずだろ!オレたちはお前のその夢を引き継いで、今を生きてるんだぞ!」

 飛鳥の言葉にたくみが反論する。だが飛鳥は顔色を変えずに言い放つ。

「それは所詮幻想でしかない。君たちも十分理解しているはずだ・・!」

「飛鳥!」

 飛鳥の冷淡な言葉にたくみがさらに叫び返す。だがそこへ真樹が力を注ぎ込み、たくみと和海が苦痛にあえぐ。

「だから、そういう中途半端は、人間からもガルヴォルスからも受け入れられないのよ。そんなあなたたちは、私が封じ込めてあげるよ・・・!」

 真樹が言い放って、光にさらに力を込める。苦痛と束縛にさいなまれるたくみと和海の体から力が抜け落ち、衣服が引き裂かれる。

「たくみさん!和海さん!」

「紅葉ちゃん・・みんなと一緒に逃げて・・・!」

 呼びかける紅葉に、和海が声を振り絞る。

「今の状況で戦ったら、みんなやられてしまう・・なっちゃん、みんなを連れて早く・・・!」

「そんなことはさせないぞ!」

 たくみが呼びかけると、飛鳥がドラゴンガルヴォルスになって、寧々と紅葉に向かって飛びかかる。そこへ早苗が1発の球を飛鳥に向けて投げつける。

 その球が爆発すると、白い閃光と煙があふれ出す。飛鳥、華帆、真樹、レイが視界をさえぎられ、身動きが取れなくなる。

 その間に早苗は寧々と紅葉の腕をつかんで、夏子とともにこの場を離れる。煙が消えたときには、既に彼女たちの姿はなくなっていた。

「い、いない・・・!」

 飛鳥が周囲を見回し気配を探るが、この近くに寧々たちがいる様子はなかった。

「よかった・・何とか逃げられたみたいだ・・」

「紅葉ちゃん・・みんなのこと、守ってあげてね・・・」

 たくみと和海が安堵の笑みをこぼす。寧々たちに逃げられたことに、真樹は気分を悪くした。

「いいよ。たくみさんと和海さんを封じ込めて、それから夏子さんたちを追いかけるから。」

 真樹は冷淡に言いかけると、たくみと和海に向けてさらに力を込める。もはや2人には、悲鳴を上げる力も残っていなかった。

「和海・・お前まで巻き込んでしまって・・」

「ううん、謝るのは私のほうだよ・・たくみを守れなくて・・・」

「和海・・・」

「たくみ・・・」

 たくみと和海が言葉を掛け合いながら、さらに抱擁する。まるで互いにすがるように、2人は互いの体温を感じ取っていく。

 そしてついに2人を包んでいる光がその輝きを強めて収束されていく。そして光が治まり、水晶に閉じ込められたたくみと和海が地面に落ちる。

「私の勝利だね。私の作戦勝ち。たくみさんもガクトさんも、みんな私たちがうまく倒してみせた。」

 真樹は笑みをこぼして、たくみと和海を封じ込めている水晶を手に入れる。そして彼女は、手にしている2つの水晶を見比べる。

「本当ならこのまま踏み潰してしまっても構わないんだけど、これだけのすごい力、ムダにしてしまうのももったいない・・だから・・」

 真樹は眼を見開くと、手にしていた水晶を自分の胸に押し当てる。すると水晶は彼女の体に吸い込まれていく。

 これが真樹の能力のひとつだった。水晶に閉じ込めた相手を自身に吸収し、その戦闘力を自分のものにすることができるのである。彼女の中には水晶封印された人々が多く、彼女の力も強靭さを増していた。

 しかしそれでも、たくみとガクトの力には及んでいなかった。だからこそ真樹は、同士討ちという巧妙な策を講じたのである。

「すごい・・これがあの4人の力・・私からあふれてしまいそう・・・」

 取り込んだ4人の力に奮い立つ真樹。彼女は落ち着きを取り戻そうと、自分の両手をじっと見つめていた。

「これなら、どんな相手だって負ける気がしてこないよ・・これで、私やレイ、みんなの願う幸せの時間を過ごせる・・・」

「・・それで真樹、これからどうするの・・・?」

 感嘆に浸っている真樹に、レイが声をかけてきた。

「とりあえずは夏子さん、早苗さん、寧々ちゃん、紅葉ちゃんを追いかけよう。あの人たちにウロウロされてもよくないから・・」

 真樹の言葉にレイは無表情のまま頷く。レイの思念を受けて、飛鳥と華帆が寧々たちを追って動き出した。

 

 

第7話へ

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system