ガルヴォルスSouls 第6話
ゼウスガルヴォルスとなった宗司と対峙するたくみと和海。できることなら戦いたくないと思いながらも、それが叶わないものだと2人は思っていた。
「切り開いていこう、たくみくん、和海さん・・君たちのためにも、新世界は必要なはずだ・・・」
宗司がたくみと和海に向けて手を差し伸べる。だが2人の決意は揺るがないものとなっていた。
「残念だが宗司さん、オレはあなたの描く世界のために戦うつもりはない。」
たくみの言葉に、宗司が眉をひそめる。
「オレたちは人間として平穏な世界を生きている。あなたが抱えているような不満は持ち合わせてはいない。」
「本気なのか?本気でこの世界に満足しているのか・・・!?」
「何事でも満足できることなんて、本当はないと思います・・」
たくみに言いかける宗司に、和海も言葉をかける。
「誰だって、何もかも満足になれればいいと思っています。でもそう望んでも満足したという実感がないから、私たちは強くなろうとしているんです・・」
「だがもはや今の世界には、そのような向上心は微塵もない。愚かしき理不尽さにかき消されていくばかりだ。だからこそ私は、この世界を変えようと神にすがったのだ・・・!」
切実に語る和海だが、宗司は世界への反感を捨てようとしない。その言動にたくみも深刻さを募らせる。
「この世界は乱れている。努力で上り詰められるはずの道が他者の傲慢さで簡単に塞がれ、不満や怒りの声を耳にしても改めようとする態度さえ見せない・・私は、この非情さを呪った・・」
「宗司さん・・・」
「ガルヴォルスになる前も、私は人間の中でも優れた部類に入っていた。勉学もスポーツもトップの成績をはじき出していた。だがそれだけだった。愚かしき世界の中では、私の評価はすぐにもみ消された。なぜ自分より無知で愚かな存在が世界を決定し、私に何の力もないのか。そんな不条理な運命を受け入れなければならないのか・・」
「だから、世界を壊して創りなおそうと・・・」
淡々と語りかける宗司に、たくみが困惑する。
人間、ガルヴォルスに関わらず、世界の社会に不満を抱えている人は少なからずいる。その現状を打破しようと、罪に手を染める者もいる。
「もはや私が全てを塗り替えなければ、何も変わらない。だから私は、新世界に立ちはだかる全ての敵を排除する・・・!」
「それが、アンタの答えだっていうのか・・・!?」
信念を込めて言いかける宗司に、たくみが鋭く言い放つ。その頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「ならオレもオレたちの信念のために、お前と戦う!」
叫ぶたくみの姿がデーモンガルヴォルスへと変貌する。戸惑いを覚える和海だが、たくみとともに戦うことを心に決める。
「それが君のガルヴォルスとしての姿か・・だがゼウスにデーモンは勝てない!」
宗司が言い返すと、全身から衝撃波を解き放つ。その威圧感にたくみと和海が息を呑む。
「それを私が証明して見せよう・・・!」
宗司がたくみに向けて素早く飛びかかる。虚を突かれたたくみが、宗司の突進に突き飛ばされる。
「たくみ!」
和海が悲痛の叫びを上げると、宗司が彼女に向けて振り返ってきた。
「油断大敵だぞ、和海さん・・・!」
低く告げると、宗司が和海にも打撃を叩き込む。吐血した和海も激しく横転する。
「君もガルヴォルスであることは分かっている。もちろん、この程度の攻撃で死ぬほどやわでもないことも・・立ち上がれ、2人とも!お前たちの信念はその程度のものか!?」
高らかに言い放つ宗司。痛みを覚える体で、たくみと和海が立ち上がる。
「この程度のはずがない・・・!」
「私の心は、こんなことで終わらせられるものじゃないですよ・・・!」
たくみに続いて言い放った和海の背中から天使のような翼が広がる。エンジェルガルヴォルスである彼女が、その力を解放したのである。
「天使が悪魔と結ばれるか・・だがムダなこと!」
宗司が鋭く言い放つと、再びたくみに向かって飛びかかる。たくみは背中に悪魔の翼を広げて飛翔し、宗司の拳をかわす。
「甘いぞ・・・!」
だが宗司が全身から電撃を解き放つ。その衝撃に弾かれて、たくみが落下する。
「たくみ!キャッ!」
和海にもその稲妻に巻き込まれ、悲鳴を上げる。
「くっ!こんなもの!」
和海が負けじと踏みとどまり、宗司に向けて羽根を放つ。だが宗司の稲妻によってことごとく粉砕されてしまう。
「治癒力だけでなく攻撃の速さもあるようだ。だが攻撃の威力が弱い。それでは私を怯ますことも困難だぞ。」
「勘違いするな!お前の相手はオレだ!」
和海に低い声音で言いかける宗司に、たくみが高らかに言い放つ。眼つきを鋭くした宗司が、出現させた剣を手にしたたくみに振り返る。
「私は君たちの力をある程度熟知している。その程度では私には勝てない。」
「勝ってやるさ・・ここで勝たないと、オレたちの何もかもが否定されてしまう・・だから退くわけにはいかない・・・!」
淡々と言いかける宗司に言い返して、たくみが剣を強く握り締める。
「力で敵わなくても、勝たないと道は切り開けないんだ!」
言い放つと同時に、たくみが宗司に向かって飛びかかり、剣を振りかざす。だが宗司は左腕に電撃をまとわせて、その一閃を受け止める。
「電気は知りうる自然の力の中で最高位の威力を誇る。触れたときの痛みは炎と並ぶが、速さはそれ以上だ。」
宗司は剣を受け止めたまま、たくみの首をつかむ。その直後、宗司がたくみに向けて稲妻を放出する。
その猛烈な衝撃に絶叫を上げるたくみ。
「こうして捕まえていれば、この攻撃から逃れることはできない!」
「たくみ!」
鋭く言い放つ宗司と、悲鳴を上げる和海。たくみを助けようと思った彼女だが、下手に攻撃すればたくみに追い討ちをかけることになり、仮に放っても稲妻に弾かれることになり、迂闊に飛び出すことができなかった。
だがたくみは電撃を振り払おうと、全身に力を込め始めた。それを見た和海は、改めて攻撃に踏み切ることを決意した。
(たくみが必死になってるのに、私が諦めてどうするの・・・!)
奮起した和海が羽根の矢を放つ。だが矢は宗司ではなく、その足元の地面に突き刺さる。
崩れた地面に揺さぶられたことで、体勢をも崩される宗司。彼が虚を突かれたのを確かめて、たくみが一気に力を振り絞り、電撃を吹き飛ばす。
間髪置かずに剣を振りかざすたくみ。だがこれも宗司の稲妻の腕に阻まれる。
たくみは即座に左拳を突き出し、宗司に叩き込む。渾身の一撃を受けて、宗司が眼を見開く。
「こんなもんでオレたちには勝てない・・同じセリフを返すぜ!」
たくみは剣を捨てて、宗司にさらに打撃を繰り出していく。押し寄せる連続攻撃に、宗司は吐血していく。
「調子に乗るのもいい加減にしろ!」
いきり立った宗司が全身から稲妻を放出する。その衝撃にたくみが弾き飛ばされる。
「くそっ!」
踏みとどまったたくみが毒づく。電撃を治めてから、宗司がたくみに言い放つ。
「私をここまでさせるとは大したものだと褒めておくぞ。だがそれでも私には及ばない・・」
「及ばせる・・届かせる・・オレたちのホントの幸せのために、この気持ちを貫かせる!」
たくみが負けじと言い放ち、再び剣を手にする。
「それでも立ち向かってくるか・・いいだろう・・」
宗司は落ち着いたまま言いかけると、稲妻を集束させて電撃の剣を作り出す。
「武器でも差があることも教えてやろう・・・!」
宗司がたくみに向けて稲妻の剣を振り下ろす。たくみも剣を振りかざして受け止めるが、力も威力も競り負けて押されていく。
「どうした!?それで防いだつもりか!?」
高らかに言い放つ宗司が剣を振りかざして攻め立てる。たくみが追い込まれ、防戦一方となる。
そして宗司の重みのある一閃が、たくみの持つ剣の刀身を折る。
「なっ!?」
驚愕を覚えたたくみに、宗司が剣を突き出す。その刀身がたくみの右の翼を貫いた。
「ぐっ!」
痛みを覚えて顔を歪めるたくみ。宗司の猛攻から逃れようと強引に離れるが、稲妻の剣はそのまま彼の翼を切り裂いた。
「たくみ、大丈夫!?」
「あぁ、このくらい何でもない・・だけどさすがは宗司さん・・ガルヴォルスとしてもすごい・・・」
心配して駆け寄ってきた和海に答えて、たくみが宗司の力を痛感する。ゼウスガルヴォルスである宗司の力は、稲妻、筋力ともに優れていた。
「速さでかく乱しようとしても、電気があるから・・ここは小細工しても意味がない・・・!」
「だったらもうやることはひとつだね・・・真っ向勝負!」
小声で話し合うたくみと和海が心を決める。2人は両手に稲妻を集束させている宗司を見据える。
「最後の警告だ。私たちの考えに賛同するなら、これ以上は危害を加えない。」
「宗司さんも冗談を言うようになりましたね・・ですが、たとえ本気でも、それをオレたちが聞くと思ってるのですか?」
忠告を送る宗司だが、たくみたちは聞き入れようとしない。
「そうか・・それは正直残念だ!」
いきり立った宗司が電撃をまとったまま飛びかかる。その打撃がたくみと和海の体に叩き込まれる。
「ぐあっ!」
「キャアッ!」
重みのある一撃とその中に含まれる凄まじい電撃で、たくみと和海がうめく。激しく突き飛ばされ、2人はその先の壁に叩きつけられる。
「ぐっ!・・ここまですごいとはな・・油断してるとあっという間にあの世行きだ・・」
「私もゴメンだよ・・まだまだたくみと、いろんなことをして生きていたいから・・・」
痛みに顔を歪めながらも、たくみと和海が笑みを見せる。2人は壁から這い出て、向かってくる宗司を見据える。
「たくみ、私はあなたに力を託す。2人の力を合わせれば、宗司さんを何とかできるかもしれない・・」
「和海・・・」
和海が告げた提案に、たくみが戸惑いを覚える。
「このやり方は下手をしたら逆に命を落とすかもしれない危険なことだけど、たくみなら乗り切れると信じてる・・」
「和海・・オレのために・・・すまねぇ・・お前の力、オレに貸してくれ・・・!」
和海の想いを受け止めて、たくみが不敵な笑みを見せる。彼は力の集束に備えて意識を集中する。
「行くよ、たくみ・・気を引き締めて・・・」
「あぁ・・やってくれ・・・!」
和海の呼びかけにたくみが答える。力を解放する彼女の背にある翼が広がる。
(確かにこのやり方しか、宗司さんを止める方法はない・・だが下手したらオレの体がバラバラになるだけじゃなく、エネルギーが逆流して和海にも危険が及ぶことになる・・)
たくみが胸中で呟きかける。その間も彼の体に和海の力が流れ込んできていた。
(それでも和海はこのやり方をオレに持ちかけてきた・・オレを信じているからこそだ・・だからオレも、その期待に応えないわけいかない!)
いきり立ったたくみが、和海の力を自分の体に取り込む。その力の重圧に押されて、彼は激痛を覚える。
「これがオレたちの力の重みか・・上等じゃないか!」
だがたくみは踏みとどまり、自身の力を振り絞る。
「ここでやれなきゃダメだっていうなら、やってやろうじゃないか!」
叫ぶたくみの体に光が満ちていく。傷ついていた翼が急速に再生され、光は彼に強靭な力を与えていた。
エネルギーの集束は成功した。たくみの体を淡い光が包み込んでおり、肉体を崩壊することなく、力をひとつにしていた。
「ありがとうな、和海・・これで、大勝負に乗り出せる・・・」
笑みを見せるたくみに、和海も微笑みを返す。力の消耗により、彼女は立つことができなくなり、その場で横たわる。
「和海・・・」
「私なら大丈夫・・それよりも宗司さんを・・・」
笑みを見せる和海に、たくみは迷いを振り切り、宗司を見据える。
「行くぞ・・この勝負に、オレたちの全てを賭ける・・・!」
「いいだろう。その全力、私が粉砕してくれる!」
互いに鋭く言い放つたくみと宗司。2人は体にまとっていた光を両手に集束させる。
2人は互いに歩み寄り、眼と鼻の先ほどの距離にまで詰め寄った。よりうまいタイミングで仕掛けることも、勝負の命運を分かつ要因のひとつとなっていた。
互いを睨みつけながら、攻撃の瞬間を見計らう2人。荒々しかった激闘から一転し、一瞬の静寂が訪れていた。
そしてしばらくの静寂を経て、先に攻撃を仕掛けたのは宗司だった。
彼が繰り出した左の拳を、たくみも左の拳で対抗する。拳の衝突で激しく火花が散る中、宗司が右の拳を繰り出す。
だがたくみは右の拳で対抗せず、宗司の追撃を頭で受け止める。痛烈な攻撃を受けて、彼の額から血があふれる。
(頭を犠牲にしたのか・・私に改心の一撃を与えるために・・・!)
毒づく宗司に向けて、たくみが右の拳を繰り出す。後退してダメージを軽減しようとする宗司だが、間に合わずにたくみの一撃を食らう。
渾身の一撃を宗司の腹部に叩き込むことに成功したたくみ。だが決定打を与えたとはいえなかった。
(くそっ!・・これだけやっても、宗司さんには届かないというのか・・・!)
胸中で毒づくたくみ。だが信念とは裏腹に、力の消耗した体は思うように動かなかった。
だが疲弊していたのは宗司も同じだった。怯んだ彼は攻撃された腹部に手を当てて、痛みを覚えていた。
「どうやら、全然応えていないわけじゃなかったみたいだ・・・」
「2人でこれほどの力を出せるとは・・どうやらまだ甘く見ていたようだ・・・」
笑みを見せるたくみに毒づく宗司。2人の攻防は一進一退となりつつあった。
「ゼウスの力・・確かにとんでもないけど、消耗もそれなりに激しいものがある・・・」
たくみは宗司の疲弊に対して、ひとつの推測を見出していた。
宗司はたくみと和海を凌駕するほどの力を発揮しているが、その消耗も比例して激しかった。
「こっちはまだまだ、諦めるのは早いってことだな・・・」
「何度も言わせるな・・調子に乗るのもいい加減にしろと・・新たに築かれる世界を阻む君たちは、もはや私たちの敵でしかないのだぞ・・・!」
「だったらやってみろよ・・口だけじゃオレたちをどかすことはできないぞ・・・!」
「私は負けられない!私が倒れれば、世界は廃れたままなのだ!」
たくみに反発して、宗司が飛びかかる。たくみも負けじと奮起し、宗司に立ち向かっていった。
七瀬と激しい攻防を繰り広げていく紅葉。だが満身創痍に陥っている紅葉は、次第に追い込まれていった。
「ホントに凄い力・・あたしの力を超えている・・・」
七瀬の脅威に紅葉が毒づく。
「それだけじゃない・・あたしが傷ついているのが大きく響いてる・・万全だったらもう少し優勢にできたはずなのに・・・」
「誰にも、私とガクトさんの邪魔はさせない・・みんな落ち着いたら、私もあの中に入るから・・・」
七瀬が紅葉に向けて冷淡に告げる。
「私はガクトさんが好き・・この気持ちだけは、私でも否定できない・・・」
「そんなの、ホントの“好き”じゃないよ・・・」
七瀬の言葉に紅葉が反論する。それを受けて七瀬が眉をひそめる。
「あたしも寧々もまだまだ子供だから、恋愛のことはよく分からない・・でも愛し合うっていうのは、気持ちの一方通行じゃないってことは分かる・・」
紅葉は語りかけながら、自分の胸に手を当てて、たくみや和海、寧々のことを思い返す。
「あたしが知る限りでは、お互いの気持ちを分かり合っていた・・自分の気持ちを尊重しつつ、相手の気持ちも受け入れている・・ギブアンドテイクのやり方だから、人は分かり合えるのよ・・・」
「私も、そういう風に落ち着いた感じでやれたらどんなにいいかと思っている・・でもそう割り切れるほど、気持ちは落ち着いていないのよ・・・」
紅葉の言葉を素直に受け入れられず、七瀬が歯がゆさを見せる。
「誰だって好きという気持ちを持っている・・私もあなたも・・その気持ちにウソはつけないよ・・・」
「だからって、誰かを傷つけていい理由にはならないよ・・・あなたの好きな人のためにも、罪を重ねないで・・・」
「恋は罪深いもの・・誰かそんなきれいごとを言っていたのを聞いた気がする・・私自身は好きじゃないけど・・・」
互いに退こうとしない紅葉と七瀬。紅葉は両手を握り締めて、意識を集中する。
「あたしも、その言葉は好きじゃない・・多分、寧々も好きじゃないと思う・・・」
紅葉は呟きかけると、背中の針を矢にして放つ。七瀬は疾風を放って、矢を弾き飛ばす。
「私はガクトさんが好き・・誰にも、この気持ちを邪魔させない・・・!」
「ホントにガンコね・・あたしも人のこと言えないけど・・・」
鋭く言い放つ七瀬に、紅葉が物悲しい笑みを浮かべる。
「あたしや寧々だけじゃない・・あたしの知り合いはみんな、ガンコな人ばかり・・あたしはそれは嫌いじゃないけど・・・」
「・・もしかしたら、私もそんなガンコに憧れてたのかもしれない・・自分だけの譲れない気持ちを、持ちたかったのかもしれない・・・」
物悲しい笑みをこぼした後、紅葉と七瀬が真剣な面持ちを浮かべる。
そのとき、海のほうから轟音が轟き、2人が振り向く。ゴッドガルヴォルスが衝撃波を放ち、海を揺るがして波を引き起こしていた。
「神様が止まった・・街を攻撃しようとしている・・・」
「えっ・・・!?」
七瀬が口にした言葉に紅葉が驚愕する。ゴッドガルヴォルスは改めて、街への攻撃を仕掛けようとしていた。
ゴッドガルヴォルスの中に入り込んだ寧々。だがエネルギーを奪い取られ、彼女は恍惚にさいなまれていた。
さらにあずみに抱擁され、さらに口付けを迫られていた。ガクトとかりんに呼びかけたが、その快感と消耗で彼女は力を入れられなくなっていた。
しばらく口付けをしていたあずみが、寧々から唇を離す。彼女は抱擁を続けたまま、別方向に振り返る。
「海に出たようね・・でもそこからでも、街を攻撃できる・・・」
「えっ・・・」
あずみが口にした言葉に、寧々が困惑を覚える。
「私は世界の再構築の手始めとして、街の破壊を開始する。不幸も争いもない平和な世界を作る、第一歩とする・・」
「ふざけないで・・そんなことして、みんな喜ぶはずない・・みんなアンタを敵だと思うよ・・・」
「敵がいるのは、その人が敵を作り出しているから・・その気持ちを失くせば、敵のいない平和な世界を作り出せるのよ・・誰もが・・誰でも・・」
寧々が必死に反論するが、あずみは自分の考えを変えようとしない。
「今の世界にもう未来はない・・だから私が新世界の神として、平和を創り上げていく・・・」
「そんなのニセモノの平和だよ・・結局は世界をムチャクチャにするんでしょ・・・」
弱々しいながらも、あずみに反発する寧々。その態度にあずみが呆れる。
「本当に強情ね、あなたは。あなただけじゃない。たくみもガクトくんも・・なぜ私が平和を創ることに不満なのか、理解できないわね・・」
「もちろんよ・・アンタの考えている平和が、全然平和じゃないから・・・」
「ならあなたは平和をつかめるの?それとも今の世界に満足しているとか?」
「まぁ・・比較的満足してるかな・・お姉ちゃんやガクト、みんながいるから・・・」
「それほどまでにいたいならここにいなさい・・あなたのお姉さんも、ここに招いてあげるから・・・」
あずみは妖しく言いかけると、寧々の胸を撫で回していく。力を失っていた寧々は、その接触に抵抗することもできなかった。
「そろそろ終わりね。あなたもかなりのものだったけど、ここでは私に身も心も委ねるしかない・・・」
あずみは言い終わると、寧々を解放する。寧々は力なく、空間の闇の中へと堕ちていく。
(ゴメンね、お姉ちゃん・・・お願い、ガクト・・眼を覚まして・・・)
ガクトに全ての想いを託した寧々。閉ざした彼女の眼から涙があふれていた。
彼女が闇の中に姿を消した直後、ガクトの閉ざされた心に力がこもった。
ゴッドガルヴォルスが街への攻撃を開始しようとしていた。それを食い止めようと、紅葉は七瀬との勝負を中断して、海へと向かっていた。
(そんなことはさせない・・だってあの場所は、あたしと寧々が、閉ざしかけていた心を開いた場所だから・・・)
疾走していく紅葉の脳裏に、寧々やたくみたちとの思い出が蘇っていく。
(今までだけじゃなく、これからもみんなと幸せを分かりあえる場所・・だから、絶対に壊させたりしない・・・!)
決意を強めて加速していく紅葉。その彼女を七瀬が追跡していた。
「あなたの相手は私だよ!」
「七瀬さん!」
呼びかける七瀬に紅葉が毒づく。
「それに神様の邪魔もさせない!神様は私たちに、本当の幸せをもたらして、祝福してくれる!」
「いつまでそんな夢を見てるのよ!?現実(いま)が辛いからって、夢に逃げたら本当の負けなんだから!」
叫びあう七瀬と紅葉。紅葉が七瀬に向けて背の針を飛ばし、七瀬がかまいたちでそれをなぎ払う。
「あたしは逃げない!周りにいる人たちが逃げずに戦っているのに、自分だけ尻尾を巻いていられないから!」
負けじと言い放つ紅葉。かまいたちと針がすれ違い、紅葉と七瀬の体に突き刺さる。
「うっ!」
「ぐっ!」
激痛を覚えた七瀬と紅葉が怯み、吐血する。だが2人はそれぞれの思いに突き動かされるかのように、倒れそうになるのを踏みとどまる。
「そっちこそ邪魔しないでよ・・もうちょっとで、あの怪物にたどり着けるんだから・・・」
傷ついた体に鞭を入れて、紅葉がゴッドガルヴォルスに飛び移ろうと身構えた。
そのとき、ゴッドガルヴォルスに別の変動が起きた。その体から出てきたものに、紅葉は眼を疑った。
出てきたのはゴッドガルヴォルスに潜入していた寧々だった。一糸まとわぬ姿で出てきた寧々は完全に脱力しており、眼からも生の輝きが消えていた。
「寧々・・・!?」
紅葉はゴッドガルヴォルスに取り込まれた寧々を見て愕然となる。同化が始まり、寧々の体が石に変わりだす。
「寧々!ダメ!眼を覚まして!」
紅葉が血相を変えて呼びかけるが、寧々はそれに反応する様子を見せない。
やがて全身が石化に包まれ、寧々は完全にゴッドガルヴォルスと一体化してしまった。
「寧々ちゃんも神様とひとつになったようだね・・それが1番幸せなことじゃないかな・・」
七瀬が物悲しい笑みを浮かべて、呟くように言いかける。その言葉が紅葉の心を逆撫でする。
「寧々はこんなことでダメになるような子じゃない!こんなこと、あたしは信じない!」
七瀬の言葉に反発して、紅葉が大きく飛び上がる。彼女は上空に停滞しているゴッドガルヴォルスにしがみついた。
体勢の悪さと風のあおりで少し振られるも、紅葉は体を突き動かして駆け出す。彼女はその上にいるこころと合流する。
「こころちゃん、大丈夫!?」
「お姉ちゃん・・うん。こころは大丈夫だよ・・」
紅葉の呼びかけにこころが頷く。七瀬も翼を羽ばたかせて、紅葉に追いついてきた。
「こころちゃんはここにいて!七瀬さんに助けてもらって!」
紅葉はこころに呼びかけると、寧々に向かって再度駆け出した。
足場の悪い道を駆けていく紅葉。ゴッドガルヴォルスと同化して埋め込まれているかのように固まっている寧々に駆け寄る。
「寧々!しっかりして!こんなのに捕まってる場合じゃないって、あなただって分かってるはずでしょ!」
寧々の頬に手を当てて、紅葉が呼びかける。だが寧々はそれでも反応しない。
「お願いだって、寧々・・コイツを止めるんでしょ・・・!」
振り絞るように声を上げる紅葉。彼女の眼から涙があふれ出てきていた。
「これが怪物の力だっていうの・・ガクトさんもかりんさんも、コイツの前じゃどうにもならないって言うの・・・!?」
“そう。どんな力でも、私の前では無力・・力が強いほど、私に吸い取られてしまう・・”
涙ながらに言いかける紅葉に向けて、あずみが声をかけてきた。
「あなたが・・あなたが寧々をこんなに・・・!?」
“そう。でもこれは至福の形なのよ。不幸も苦痛も体感することなく、永遠を生きられるのだから・・”
憤る紅葉に、あずみが妖しく語りかけていく。
「こうなったら力ずくでも・・!」
“手荒なことはしないほうがいいわよ。”
ゴッドガルヴォルスに攻撃しようとした紅葉だが、あずみの言葉で思いとどまる。
“今の彼らは私と一心同体になっている。私を攻撃すれば、寧々さんやたくさんの人たちも傷つけることになるのよ。”
「そんな・・・!?」
“妹さんのことを考えるなら、迂闊なことをしないことを勧めるわ。心配しないで。私は妹さんたちを傷つけるつもりはないから・・”
「ふざけないで・・寧々やみんなを弄んでいることに変わりないじゃない・・みんなを返して・・返してよ!」
“簡単なことよ。あなたも私とひとつになればいいの。そうすれば妹さんと、ずっと一緒に過ごせるのだから・・”
「冗談はやめて!あなたの誘いに乗らないわよ、あたしは!」
あずみの挑発に乗らず、紅葉が言い返す。だが寧々たちを救う術が見つかっていないのも事実だった。
“できることなら無理矢理引き込むようなことをしたくない。下手をすればあなたの命を奪ってしまい、妹さんを悲しませることになるから・・”
「あたしはあなたには捕まらない!全力であなたを止める!あたしたちの街は、破壊させない!」
思い立った紅葉が大きく飛び上がり、背中から針を1本射出して手にする。彼女はそれをゴッドガルヴォルスに向けて振り下ろす。
だが突きつけるのではなく、棒のように叩きつけた。寧々たちを傷つけないようにして、ゴッドガルヴォルスの注意を引き付けることを第一にしていた。
“あくまで私によって命を奪われたいということね・・それならば仕方がないわね・・・”
あずみはため息をつくと、攻撃の矛先を紅葉に向ける。放たれた衝撃波に襲われて、紅葉は空に投げ出される。
そこから海岸沿いの森に落下していく紅葉。彼女は手にしていた針に力を注ぎ、長く伸ばしていく。
地面に針を突き立て、落下の衝撃を和らげようとする紅葉。耐え切れずに針が折れるが、木々の葉がクッションとなって彼女は地面との衝突を免れる。
「ふぅ、危ない危ない・・それにしても、本当にすごい力・・こんなのを受け続けてたら身が持たない・・・」
呟く紅葉が空を見上げる。あずみは彼女を狙って力を集束していた。
「神様をその気にさせるなんてね・・」
そこへ七瀬が紅葉の前に降り立ってきた。紅葉は再び針を引き抜き、手にする。
「何にしても、神様の邪魔はさせない・・こころちゃんも守ってみせる・・・!」
「本当に分からず屋ね、あなた・・・!」
鋭く言い放つ七瀬と紅葉が同時に飛び出す。七瀬も風の刃を手にして、紅葉の針を受け止める。
つばぜり合いを繰り広げる2人。しばらくすると紅葉は針を伸ばして上昇し、直後に別の針を七瀬に向けて放つ。
七瀬は後退と飛翔を行って、その針をかわす。紅葉は持っていた針を振り上げて、七瀬を狙う。
その一閃が七瀬の右の翼を切り裂いた。
「ぐっ!」
攻撃を受けて、七瀬が顔を歪める。彼女は紅葉とさらに距離を取って、体勢を整える。
(私の体に傷をつけるなんて・・今まで私にやられていたのに、どうして・・・!?)
七瀬は自分が追い込まれていることに疑問を感じていた。今まで優勢に押していた相手に逆に追い込まれていたことが信じられなかったのだ。
「もしかして、こんなに長く戦ったことが今までになかったんじゃないのかな?」
そこへ着地した紅葉が、七瀬に向けて声をかけてきた。その言葉に七瀬は驚愕し、眼を見開いていた。