ガルヴォルスSouls 第5話
崩れ落ちた洞窟から現れた女神の姿に似た巨人。巨人は全身から神々しい光を放っていた。
「あれが、さっきのあの塊だっていうのか・・・!?」
「そうだ。今ついに、ゴッドガルヴォルスが完全な復活を果たした。」
たくみが声を振り絞ったとき、宗司の声が響いた。巨人の肩の上に、宗司、七瀬、こころの姿があった。
「七瀬さん!こころちゃん!・・何で・・何であんなのに・・・!?」
寧々が悲痛さを込めて呼びかけるが、七瀬は沈痛の面持ちを浮かべるだけで何も答えない。こころは彼女にすがりつきながらも、困惑を浮かべていた。
宗司はゼウスガルヴォルスに変身すると、たくみたちの前に飛び降りる。完全と立ちはだかる宗司に、たくみたちが緊迫を覚える。
「七瀬さんは完全にガクトに惹かれている。そして今は、ガクトが入り込んでいるゴッドガルヴォルスに。だが彼女が神に魅入られているのは、そのような恋心だけではない。」
「えっ!?・・それって、どういうことなの・・・!?」
宗司の言葉に寧々が問い詰める。
「彼女はいじめの多発している現在の理不尽な社会を危惧している。どれほど手にかけても、加害者は減ることがない・・今の彼女の心には、世界の在り方に対する嫌悪も宿っているのだ・・」
「だったらこころちゃんはどうなの!?あの子が世界を嫌うなんてこと・・!」
「こころちゃんは寂しがりやで、孤独を恐れている。今のあの子は、七瀬さんに心を寄せているのだ。」
宗司の口にする言葉に、寧々だけでなく、たくみたちも困惑を募らせていた。神にすがっている七瀬にすがっているため、ココロもまた連鎖的に神にすがっていることになってしまっていた。
「ゴッドガルヴォルスは再び、新しい世界の構築のために、今の世界の殲滅を開始する。人間もガルヴォルスも、逆らう者を全て葬り去ることだろう。」
「何だと!?・・そんなこと、オレたちがさせると思ってるのか!?」
言い放つ宗司にたくみが怒鳴る。彼の頬にも紋様が走る。
「私に向かってくるか・・正直、君と戦うことを快く思わない。だがあくまで私の前に立ちはだかるなら、たとえ君たちでも容赦はしない・・・!」
「あくまでその考えなんだな・・だったらオレももう迷わない・・・!」
宗司に反発するたくみが、デーモンガルヴォルスへ変身する。
「オレがそうしたいからそうする!オレは和海たちを守るために、オレたちに願いを託した人たちのために、オレはあなたと戦う!」
自身の決意を言い放つたくみ。彼の脳裏に、自分たちと関わった多くの人々の姿がよぎっていく。その人々の思いを背に受けて、たくみと和海は生きてきた。
「私も戦うよ、たくみ・・たくみの気持ちは、私の中でもちゃんと宿っているんだから・・・」
「和海・・ありがとう。オレたちの人生は、まだまだこれからも続くんだからな・・・」
和海が声をかけると、たくみは微笑んで答える。2人は完全と立ちはだかる宗司と衝突しようとしていた。
その先で、寧々と紅葉はゴッドガルヴォルスを見つめていた。ゴッドガルヴォルスはゆっくりと全身を始め、街に向かっていた。
「このままじゃ街が・・何とかしてあれを止めないと・・・!」
紅葉が言いかけると、寧々が小さく頷く。
「あんなのを押さえるだけでも骨が折れる・・せめて街から引き離さないと・・」
「ガクトやかりんさんたちだけじゃない・・あたしとお姉ちゃんの街でもあるからね・・・」
紅葉が再び言いかけると、寧々が自分の心境を口にする。
「どんなことをしてでも生きていく・・・」
呟きかける寧々の頬に異様な紋様が浮かび上がる。
「それはガクトとかりんさんだけの信念じゃない・・あたしたちの信念でもあるんだから・・・!」
彼女がドッグガルヴォルスへ変身する。紅葉もすぐにヘッジホッグガルヴォルスとなり、巨人を再び見据える。
「行くよ、寧々・・・!」
「うん・・・!」
紅葉の呼びかけに寧々が答える。2人は浮遊して街に向かうゴッドガルヴォルスを止めるため、駆け出した。
「あたしが足止めするから、寧々はうまくおびき出して!」
「任せといて!」
紅葉の指示に寧々が答える。2人が二手に別れ、紅葉が針を飛ばす。
だがゴッドガルヴォルスには通用せず、針が軽々と弾き飛ばされる。その巨体の進行を阻むことすらできない。
「こっちこっち!よそ見しないで!」
そこへ寧々が呼びかけると、ゴッドガルヴォルスの胴体に向けて爪を振りかざす。だが怯ますこともできず、逆にその巨体に押されて弾き返される。
「寧々!」
「大丈夫!こっちに注意が向いてる!」
体勢を整えた寧々が、紅葉に答える。ゴッドガルヴォルスが寧々に眼を向け、進行方向を変えていた。
「よーし!こっちだって、こっちだって!」
寧々が挑発すると、ゴッドガルヴォルスが彼女に向かって進み出す。
「うん、その調子。このまま海のほうに・・」
紅葉が笑みを見せて頷いたときだった。
突如紅葉の左肩が切りつけられた。突然の断裂に眼を見開く紅葉の肩から鮮血が飛び散る。
「お姉ちゃん!」
顔を歪めてひざを付く紅葉に驚愕する寧々。そこへゴッドガルヴォルスが衝撃波を放ち、寧々が地面に叩きつけられる。
「ぐっ!・・しまった・・・!」
上から重力をかけられて苦悶の表情を浮かべる寧々。紅葉が傷ついた肩を落として、襲撃者の居場所を探す。
「神様の邪魔はさせないよ。あの中にはガクトさんがいるんだから・・」
そこへ声をかけてきたのは、ルシファーガルヴォルスとなっている七瀬だった。彼女の放ったかまいたちが、紅葉の左肩に傷をつけたのである。
「あなたたちも私とガクトさんの邪魔をする人たち・・だから私たちの敵・・・」
「どうして・・どうしてこんなことを望むの!?・・アレは何もかも壊そうとしているのよ!七瀬さんが過ごしてきた場所も!」
冷徹に告げる七瀬に、紅葉が声を張り上げて問い詰める。だが七瀬は顔色を変えずに続ける。
「壊れてもいいよ・・何の幸せも訪れないこの世界なんて・・・」
「本気なの・・・本気でそんなこと考えてるの・・・!?」
「誰も私を迎えてくれない・・宗司さんとこころちゃんだけが、私を迎え入れてくれた・・そしてガクトさんが、私を絶望から引き上げてくれる・・・」
困惑する紅葉に、七瀬が自分の悲痛さを打ち明ける。
「私たちは、新しい世界を願う・・誰も辛い思いのしない世界を・・この神様なら、それを実現してくれる・・・」
「そんなの・・違う・・・!」
笑みを見せる七瀬に言い返してきたのは寧々だった。彼女は力を振り絞って、ゴッドガルヴォルスの衝撃波に抗う。
「あれは神様なんかじゃない・・何もかもを壊そうとしているバケモノだよ・・それに、あなたの考えは、ただの自己満足でしかないよ・・・!」
「自己満足なのは周りのほうだよ・・そうでなかったら、あんなひどいことをやるはずなんてない・・・」
「周りが自己満足だと思うからって、自分までそうなっていいなんてない・・・!」
七瀬の言葉に反発する寧々の体に亀裂が生じる。
「あたしたちもあなたも、人間として生きてるんだから!」
叫ぶ寧々の姿が変貌を遂げる。その姿は、耳や体毛が鋭利な形となっており、牙も爪も研ぎ澄まされていた。
寧々の真の姿、ヘルドッグガルヴォルスである。
(この姿は体力を一気に使いきっちゃって、結構危なっかしいんだけど・・七瀬さんやこころちゃんを助け出すためには、こうするしかなかった・・・!)
ゴッドガルヴォルスの衝撃波を跳ね除けた寧々が、胸中で毒づく。
ヘルドッグガルヴォルスは強靭な力を発揮できる反面、体への負担が大きい。そのため、寧々は滅多なことではこの姿にはならない。
「そんなけがれた手でガクトたちを守らせない・・あたしが全力で、あなたの眼を覚まさせてやる!」
「眼ならとっくに覚めてるよ・・ううん、今やっと眼が覚めたというべきだね・・・」
強く言い放つ寧々に向けて、七瀬が物悲しい笑みを見せる。
「本当は、初めてこの姿になったときに気付くべきだった・・自分が本当は、何をしなくちゃいけなかったのか・・・」
笑みを消して真剣な面持ちを見せた七瀬が、寧々に向けてかまいたちを放つ。寧々は全身からエネルギーを放出して、その刃を弾き飛ばす。
「今のあたしを切り裂くことはできない・・あなたの捻じ曲がった心、あたしが砕いてあげる!」
言い放つ寧々が七瀬に向かって駆け出す。彼女が繰り出した拳が、七瀬の体に叩きつけられる。
突き飛ばされた七瀬が即座に踏みとどまり、寧々を見据える。寧々が間髪置かずに飛び込み、七瀬をつかんでエネルギーを放出する。
膨大なエネルギーが七瀬の体に注ぎ込まれる。その衝撃にさいなまれて、七瀬が絶叫を上げる。
「お姉ちゃん!」
ゴッドガルヴォルスの肩の上から、こころが叫ぶ。だが寧々は七瀬への攻撃をやめない。
「こころちゃんのためにも、あなたはこれ以上、間違った道を進んじゃいけない!」
「あなたに、私の何が分かるというのよ・・苦痛や不幸を体感したことのない、恵まれたあなたが!」
七瀬が眼を見開いて、寧々に向けて烈風を放つ。切り裂かれることはなかったが、寧々はその衝撃に突き飛ばされる。
「私は切り開く!この乱れた世界の、幸せの未来に続く道を!」
「誰かを傷つけることに、未来も幸せもない!」
心境を打ち明ける七瀬と、それに反発する寧々。七瀬にダメージを追わせた寧々だが、彼女もヘルドッグガルヴォルスとしての消耗にさいなまれていた。
「あなたなんかに、私やこころちゃん、ガクトさんの邪魔をさせない!」
激昂した七瀬が寧々に向かっていく。寧々も持てる力を振り絞って、これを迎え撃とうとした。
そのとき、寧々が全身に強烈な痛みを覚え、顔を歪める。過剰な力の消費によるリスクが、彼女に一気にのしかかってきた。
(くっ!こんなときに!)
毒づく寧々に詰め寄ってきた七瀬。寧々をつかんだ七瀬は翼を広げ、そのまま空へと駆け上がる。
「寧々!」
紅葉が叫ぶ先で、空中で大きく振り回される寧々。しかし思うように力が入らず、彼女は七瀬の両手から抜け出すことができない。
何度か空中を旋回された寧々は、ゴッドガルヴォルスの上に、こころの前に落とされる。体の自由が利かず、寧々はうめくしかなかった。
そんな彼女の前に降り立つ七瀬。七瀬は冷たい眼差しで寧々を見下ろす。
「もう終わりにしよう・・これ以上傷つけあうのは、あなたも私もいい気分になれるとは思えないから・・・」
七瀬は低く告げると、寧々にとどめを刺そうと力を集束させる。疲弊した寧々は回避行動を取ることができない。
「もうやめて!」
そのとき、こころが七瀬に向かって呼びかけてきた。その声を耳にして、七瀬が手を止める。
「こころちゃん・・何を言って・・・!?」
「お姉ちゃん、もうやめてよ・・こんなことをやってるお姉ちゃん、とっても悲しそうだよ・・・!」
愕然となる七瀬に、こころが必死に呼びかける。心境が揺らぎ、七瀬は寧々に向けて攻撃ができないでいた。
「どいて、こころちゃん・・これは、私とこころちゃん、そしてガクトさんのためなの・・・!」
「違う・・こんな傷つけあうこと、こころは望んでいない・・・!」
自分の気持ちを口にする七瀬の言葉を、こころが拒む。こころが七瀬にここまで反発したのは初めてだった。
「こころはお姉ちゃんがみんなと幸せになれればいいと思っている・・少なくとも、お姉ちゃんが辛そうにしているのを、こころは黙って見ていることはできない・・・」
切実に告げてくるこころに、七瀬は困惑するあまりに反論できなくなる。その間に、寧々が傷ついた体に鞭を入れて立ち上がる。
「七瀬さん・・こころちゃん・・・」
2人の気持ちを心配する寧々が、頭の中で必死に言葉を探す。
そのとき、寧々はゴッドガルヴォルスの頭部にあるものに気付いて眼を見開く。
「ガクト・・かりんさん・・・」
ゴッドガルヴォルスと同化して固まっているガクトとかりんを眼にして、寧々が歩き出す。彼女は2人に近づくと、その体に手を当てる。
「ガクト!かりんさん!眼を覚まして!こんなバケモノのいいようにされちゃうなんて、2人らしくないよ!」
寧々が必死に呼びかけるが、ガクトもかりんも反応しない。
「お願い・・眼を覚まして・・こんなのに負けないでよ・・・!」
“ムダよ。この2人は私とひとつになっているのよ・・”
そんな寧々に向けて、あずみが声を発してきた。突如心に響いてきた声に、寧々は困惑を覚える。
「この声・・もしかしてアンタが、神様気取りのバケモノ・・・!?」
“ずい分な物言いね。でもそんな強気なあなた、私は好きよ。”
周囲を見回す寧々に、あずみが声を発する。寧々は足元に眼を向けて、激昂して叫ぶ。
「ガクトたちを元に戻して!これ以上、アンタの好き勝手にはさせない!」
“何を言っているの?彼らは私とひとつとなっていて、苦痛のない幸せの時間を送っているの。元に戻したら、彼らに訪れるのは不幸よ。”
「ふざけないでよ!そんなの、アンタのただのエゴじゃない!それにみんなを巻き込むなんて!」
“あなたも経験しているはずよ。数々の苦痛を。人間として、ガルヴォルスとして・・”
あずみのこの言葉に、寧々は言葉を詰まらせる。
“私はこの荒んだ世界を消し、新しい世界を再構築する。誰もが悲しまない幸せの世界に・・そこにはたくみくんたちの掲げている共存の理想も、ガクトくんたちの宿している安らぎと生がある。”
「そのために誰かを犠牲にしてもいいっていうの!?」
“これは犠牲ではない。転生、昇華、至福というものよ。あなたも実感してみればそれが分かるわ。”
「冗談じゃないって!あたしはアンタの思い通りにはならない!こうなったら、力ずくでもガクトたちを引きずり出してやる!」
“やれるの、あなたに?あなたが私の中に入ってくる以上、私はあなたとも一体化するわよ。”
「やれるもんならやってみなさいって!あたしは負けるわけにはいかないのよ!」
寧々があずみに反発すると、ゴッドガルヴォルスに手を当てて意識を集中する。
「ダメよ、寧々!入ったらガクトさんたちと同じように!」
そこへ紅葉が呼びかけ、寧々を止めようとする。
「大丈夫!ここであたしが何とかしないと、ガクトたちはずっと・・・!」
だが寧々は紅葉に答えると、退かずに再び意識を集中する。
“いいわ・・あなたとじっくりとお話させてもらうわ・・・”
あずみが言いかけると、寧々が触れていたゴッドガルヴォルスの体が歪み出す。直後、寧々は水の中に飛び込むかのように、その体内に吸い込まれてしまった。
ゴッドガルヴォルスの中に入り込んだ寧々は、暗闇に満たされた空間の中をさまよっていた。
「寒い・・・ここが、あのバケモノの中・・・」
悪寒を感じて自分の体を抱きしめながら、寧々は空間をさまよう。彼女はこの中にいるガクトとかりんを探していた。
「ガクト!かりんさん!どこなの!?」
寧々が気を引き締めて、ガクトたちを呼びかける。しかしその声は山彦のように、空間の中を虚しく反響するだけだった。
「やっと来たようね、あなたも・・」
そんな彼女にあずみが声をかけてきた。彼女は一糸まとわぬ姿で、寧々を見つめていた。
「アンタが、あのバケモノの正体・・・!?」
「フフフフ、バケモノとは人聞きが悪いわね。人間から見たら、ガルヴォルスは誰もがバケモノとして見られているのに・・・」
寧々が言いかけると、あずみが妖しい笑みを見せてきた。
「自己紹介をしておくわね。私は不二あずみ。ゴッドガルヴォルスよ。こんばんは、犬神寧々さん。」
「えっ!?・・何で、あたしの名前を・・・!?」
「ガクトくんとかりんさんの記憶を読み込んでね。それであなたのことを知ったわけ。」
眼を見開く寧々に、あずみが淡々と語りかけていく。
「ガクトくんとかりんさんを探しているのね?なら私が案内してあげるわ。」
「余計なお世話よ。アンタなんかに頼りにしなくても、あたしだけで2人を見つけてみせるから・・」
「いいの?どこにいるか分からないんじゃないの?下手に迷い込んだら、どうなるか分からなくなるわよ・・」
あずみに言いかけられて、寧々が反論できなくなる。彼女はやむなくあずみの案内を受けることにした。
「ついてきなさい。心配しないで。まだあなたに手荒なことはしないから・・」
あずみが寧々に言いかけると、きびすを返して進み出す。その言葉を聞き入れても、寧々は緊張を解こうとしなかった。
「ガルヴォルスは人間と比べて能力が突起している。それに比例して、心の揺らぎも人間とは比べ物にならないくらいに大きい・・人間だったにもかかわらず人間からかけ離れた姿であるために、迫害や暴走などで、数々の記憶や喜怒哀楽を抱えている・・」
あずみが淡々と語りかけていく。その言葉を聞いて、寧々は自分の苦い思い出を蘇らせる。
彼女はガルヴォルスに転化したことで周囲から敬遠され、孤独にさいなまれたことがある。姉の紅葉がいなかったら、彼女は人としての活気を取り戻すことはできなかった。
ガクトのようにガルヴォルスでありながら、ガルヴォルスによって人生を狂わされた人も、かりんのようにガルヴォルスとしての凶暴性に苦悩する人もいた。
心あるガルヴォルスは、様々な喜怒哀楽にさいなまれているのである。
「人間とガルヴォルスは本来同族でありながら、互いを引き離しあっていた。共存できるはずなのに、互いに大きな溝を作ってきてしまった・・その荒みを消し去るには、1度世界を殲滅させ、再構築する必要があるのよ。」
「そんなのただの暴力!1人よがりの正義じゃない!そんなものに心の底から賛成する人なんていないよ!」
あずみの言葉を受け入れられず、反発する寧々。
「人間もガルヴォルスも、必ず分かり合える!自分勝手に振舞ったって、いつかみんないなくなっちゃうよ!」
「導かなければ、もはや人は間違いを犯すばかり。私の作る世界こそが、間違いも荒みもない優しい世界になるのよ。」
呼びかける寧々だが、あずみの考えは変わることはなかった。
やがてあずみが止まり、寧々も踏みとどまる。その先の光景に寧々は眼を疑った。
そこにガクトとかりんはいた。だが2人は周囲の状況を気に留めていないかのように、熱い抱擁を行っていた。
「ガクト・・・かりんさん・・・!?」
半ば混乱しかかっていた寧々だが、何とか自分を保とうと必死だった。
「今の2人は完全に私と溶け込んだ。最高の恍惚に包まれた2人は、互いにすがることで何とか自分を保っているのよ・・」
あずみがガクトとかりんを見つめながら、寧々に語りかける。ガクトがかりんの胸を撫で回し、かりんがあえいでいく。
「何やってるのよ、2人とも!?こんなの、いつもの2人じゃないよ!・・こんなふざけたものに心を奪われちゃうなんて・・・!」
「ムダよ。たとえどんなに力や心が強くても、この虜は避けられない・・そして、あなたも・・・」
ガクトとかりんに呼びかける寧々に、あずみが妖しく言いかけたときだった。
突如、寧々が奇妙な刺激を覚え、悲鳴を上げる。全ての神経を逆撫でされたかのように、彼女は冷静さを保てなくなる。
(何、この感じ・・これはまるで、お姉ちゃんとエッチしているときじゃない・・・!)
胸中で毒づく寧々が体を震わせる。その衝動に抗おうとするが、抗えば抗うほどにその衝動は強まりばかりだった。
「抵抗しても意味はないわよ。抵抗するほどに、私はあなたからその強い精神力を奪い取っていくだけ・・・」
悶絶する寧々を見つめて、あずみが妖しく微笑みかける。
「それじゃ、あなたも解放しましょうか・・あなたの心身も・・・」
あずみが言いかけた直後、寧々が着ていた衣服が引き裂かれる。一糸まとわぬ姿となっても、彼女はさらに恍惚にさいなまれていた。
「ガクトとかりんさんも、こんなおかしな気分に・・・!?」
「そう。2人からもみんなからも、全てのエネルギーを分けてもらったわ。そして私とひとつになったことで、彼らは世界を切り開く鍵となった・・」
寧々が眼を向けると、あずみがさらに言葉をかける。
そのとき、寧々とあずみが右腕に激しい激痛を覚える。2人だけでなく、ガクトとかりんも、あずみに取り込まれている全ての人々が全員、同じ痛みを覚えていた。
「こ・・これって・・・!?」
「教えておくわね・・ガクトくんたちと私は同化し、一心同体の状態にある。私が受ける痛みを、彼らも共鳴することになる・・あなたはまだひとつになり始めたばかりだから、おそらくかゆくなる程度でしょうけど・・」
声を振り絞る寧々に、あずみが痛みをこらえて説明する。
「それじゃ、このままアンタを倒したら・・・」
「ガクトくんたちも、命を落とすことになるわね・・・」
寧々の言葉にあずみが答える。その言葉に寧々は愕然となる。
(お姉ちゃんたちはこのことを知らない・・早く教えないと、ガクトたちが・・・!)
「お姉ちゃん、やめて!コイツを攻撃したら、ガクトたちまで傷つけてしまう!」
寧々が声を振り絞って、外に向けて呼びかける。そんな彼女に恍惚が容赦なく襲い掛かる。
やがてその快感に耐えられなくなり、寧々の秘所から愛液があふれ出す。
「イヤ・・出ないで・・止まってよ・・・」
顔を歪めながら呼びかける寧々。だが彼女の意思に反して、愛液は次々とあふれてくる。
「もうあなたはエネルギーの奔流の虜。このままエネルギーを吸い取られながら、快楽の海に沈むだけ・・」
悶える寧々を見つめて、あずみが妖しく微笑む。
「今回は特別サービスよ。あなたも私が直接遊んであげるわ・・」
あずみは言いかけると、苦悶している寧々に近づく。寧々を優しく抱きしめ、あずみがさらに微笑みかける。
「放して・・アンタなんかに、弄ばれるわけにいかないんだから・・・!」
「もうムリをする必要はないの・・あなたはガルヴォルスとしての宿命に翻弄されて、体と心に数々の傷を負ってきた・・本当に苦しかった、辛かったはずよ・・でももうその苦痛を感じることはないわ。私が癒して、私が守っていくから・・・」
あずみは優しく言いかけると、寧々の胸に手を当てる。その接触に寧々がうめく。
「・・やめて・・あたしに、触んないでよ・・・」
その手を振り払おうとする寧々だが、力を抜き取られているために跳ね除けることができない。彼女はあずみによってされるがままに弄ばれていく。
あずみが寧々の秘所に手を触れてきた。
「ちょっと・・そんなとこ・・・あはぁ・・・」
あえぎ声を張り上げる寧々。彼女の秘所から愛液をすくい上げると、あずみはその指を口に入れた。
「これこそが快楽・・全ての苦しみから解き放たれた喜びの味・・・」
その味を噛み締めて、喜びをあらわにするあずみ。
「あなたも味わうといいわ・・自分自身の味を・・・」
あずみは再び愛液を指ですくい上げると、その指を寧々の顔に近づける。口を閉じて抵抗する寧々だが、快感にさいなまれて口が緩み、指を押し込まれてしまう。
その感触に不快感を覚えて咳き込む寧々。吐き出した愛液があずみの顔にかかる。
「少し気が早かったようね・・でも大丈夫よ。すぐに慣れるから・・」
妖しく微笑むあずみが寧々を抱き寄せる。彼女は自分の胸の谷間に、寧々の顔を押し当てる。
さらなる抱擁に動揺を膨らませる寧々。しかし思うように体に力を入れられず、離れることができない。
「私に甘えなさい。今ならあたたかく受け止めて、包んであげるから・・・」
さらに語りかけるあずみの胸から解放され、大きく息を吐く寧々。彼女の脳裏に、これまで経験してきた出来事がよぎってきていた。
“・・必ずオレは戻ってくる・・これからもオレたちは、精一杯生きるんだ・・・!”
“寧々、これからはお姉ちゃんがそばにいるからね・・どんなことがあっても、ずっと・・・”
ガクトと紅葉の言葉が、寧々の心に響き渡る。その響きが、消えかかっていた彼女の信念を呼び覚まさせた。
(そうだね・・ここであたしが諦めたら、ガクトたちを助け出せないし、お姉ちゃんたちも守れない・・・)
残された力を振り絞って、寧々はガクトとかりんに向けて叫び出した。
「ガクトー!眼を覚ましてー!」
彼女に突然大声を上げられて、たまらず顔を歪めるあずみ。だがすぐに悠然さを取り戻す。
「だからムダよ。どんなに呼びかけても、あなたの声には反応することはない・・」
「ガクト!アンタの生きようとする気持ちはそんなものだったの!?」
さらに言いかけるあずみの言葉を無視して、寧々がさらに呼びかける。
「どんなことがあっても生き抜く!それがかりんさんと一緒に立てた、アンタの決意でしょ!だったらこんなとこで“死んで”ないで、立ち上がってよ!」
そのとき、あずみが寧々に突然口付けをしてきた。口を塞がれる形となり、彼女は声を上げられなくなる。
(お願い、ガクト・・もう、アンタにしか、このバケモノを何とかできる人がいないんだから・・・!)
ガクトに向けて一途の願いを募らせる寧々。彼女の眼から涙があふれ出てきていた。
紅葉の決死の行動により、ゴッドガルヴォルスは街から離れ、海へと向かっていた。だが満身創痍の彼女の体力は、限界へと行き着こうとしていた。
(肩の傷が治りかけてる・・これが塞がれば、まだ何とか持つかも・・・)
七瀬に付けられた左肩の傷を気にする紅葉。人間を超えた自然治癒力により、徐々に傷が塞がりつつあった。
「さぁ、こっちよ!あたしはアンタから寧々たちを引っ張り出すまで諦めないわよ!」
紅葉がゴッドガルヴォルスに向けて叫ぶ。彼女を見下ろして、こころを抱えていた七瀬が立ち上がる。
「私やこころちゃん、ガクトさんの邪魔をするものは、全て消えてしまえばいい・・・」
「お姉ちゃん・・・」
冷徹に呟く七瀬を、こころが沈痛の面持ちを見せる。
「こころちゃん、ここで待ってて・・すぐに帰ってくるから・・・」
「お姉ちゃん・・・でもこころ・・・」
「大丈夫。私は死んだりしないから・・私に生きる希望を与えてくれたのは、こころちゃんだから・・・」
戸惑いを見せるこころに、七瀬は笑顔を見せる。それは2人の日常を過ごしているときの優しい彼女だった。
「それじゃ、行ってくるから・・・」
「お姉ちゃん・・・うん・・・」
七瀬の声にこころも笑顔を取り戻す。小さく頷いた七瀬の頬に紋様が走る。
「紅葉ちゃん!幸せをつかみとるため、私は世界を切り開く!」
紅葉に言い放った七瀬がルシファーガルヴォルスに変身する。背中から翼を広げた彼女は、紅葉のいる地上に向かって降下する。
傷ついた体に鞭を入れて立ち上がる紅葉。七瀬も両手に力を集束させていた。
「私は幸せをつかむために戦う・・あなたは何のために戦っているの・・・!?」
七瀬が唐突に紅葉に問いかけてきた。自分の気持ちを確かめてから、紅葉は言葉を切り出した。
「あたしは寧々やみんなを助けるために戦う・・それがあなたのいう、本当の幸せにつながると信じて・・・」
紅葉が真剣な面持ちで、七瀬に語りかける。
「あたしがそうしたいからそうする・・これはあたしの知り合いの受け売りだけど、あたしの中にもこの信念は宿っている・・・」
紅葉が自分の胸に手を当てて、切実に自分の気持ちを打ち明ける。彼女は寧々、早苗、佳苗、そしてたくみと和海の顔を思い返していた。
たくみと和海との交流で、紅葉は心の強さを得た。2人の信念は、彼女にも強く宿っていた。
「あなたがあたしの道を塞ごうとしているなら、あたしはあなたを倒すことも迷わない・・・!」
「それでもいいよ・・私ももう、何の迷いもないから・・・!」
思い立った2人が同時に飛び出す。自分たちの幸せのため、紅葉と七瀬が激突した。