ガルヴォルスSouls 第4話

 

 

 ガクトと早苗がたどり着く直前に、七瀬は宗司に呼ばれて洞窟の中の広場にやってきた彼女は、この光景に驚きを隠せなかった。

「来たようだね、七瀬さん。」

 そこで待っていた宗司が、七瀬に声をかけてきた。そこで彼女は、広場の中心にある奇妙な物体を眼にする。

「宗司さん・・あれはいったい・・・!?

「あれもガルヴォルスだよ。といっても、1度滅んだのがゾンビのように復活したものだけどね。」

 七瀬の疑問に、宗司が淡々と答える。

「あれはゴッドガルヴォルスであり、神にふさわしい力を備えている。だがガルヴォルスたちの連携に敗れ、肉体が滅びかけた・・だが命は完全には消えておらず、こうして復活しようとしているのだ・・」

「復活・・・」

 宗司の説明を聞いて、七瀬は物体に眼を向ける。物体の表面に、固まった状態で埋め込まれている裸身の女性たちがいたのを、彼女は目撃する。

「ゴッドガルヴォルスは、近づいてきた人を取り込み、あらゆるエネルギーを吸い取り、復活のための力に変える。エネルギーを奪われた人は、永久の恍惚のさいなまれた後、同化という意味合いで硬質化する。」

「それじゃ、あそこにいる人たちはみんな・・・」

「そうだ・・だが神は私の身近にいる人を取り込もうとしない・・現に君を前にして、その行為を行わない・・なぜかは分からないが・・・」

 戸惑いを見せる七瀬に、宗司が淡々と説明していく。

「七瀬さん、このことを君に打ち明けたのは、君も私と同じ、世界の不条理の犠牲者だからだと思ったからだ。」

 宗司のこの言葉に、七瀬は少なからず共感していた。

 彼女はいじめや理不尽さに反発し続けてきた。それは他の心優しい人たちが、自分と同じ苦しみと悲しみを味わってほしくないという思いがあったからである。しかしそんな彼女の感情が、ガクトに対する愛情へと変わりつつあった。

「私もそんな社会の犠牲者の1人だ。理不尽を強いられて、全てを失いかけた・・その絶望を解く鍵が、そのゴッドガルヴォルスにあると私は判断した・・」

「そのゴッドガルヴォルスが復活したら、何が起こるのですか・・・?」

 憤りを浮かべる宗司に、七瀬が不安げに問いかけたときだった。

 かりんを追ってきたガクトと早苗が、2人のいるこの広場にやってきた。ガクトは広場の傍らで横になって眠っていた。

「かりん・・・ここは・・・!?

 かりんの無事を確かめた後、ガクトはこの異様な空気に包まれた広場を見渡す。

「姉さん・・・!?

「何っ!?

 早苗が発した声に、ガクトも彼女が見ているほうに視線を移す。その先の、物体とそれに埋め込まれている女性たちを目撃する。

「何だ、こりゃ・・・!?

「彼女たちは、神の復活のための人柱となったのだよ。」

 息を呑むガクトに、宗司が語りかけてくる。その直後、ガクトは一糸まとわぬ姿で物体に埋め込まれている佳苗を発見する。

「姉さん・・眼を覚まして、姉さん!」

 早苗が悲痛さを込めて呼びかけるが、佳苗は全く反応しない。

「彼女たちは完全に神に身を預けている。外と完全に隔離されているといってもいい。」

「神?・・あんなバケモノじみたもんが神だと!?冗談も休み休み言え!こんなのが神なわけねぇだろうが!」

 口を挟んできた宗司に、ガクトが憤怒をあらわにする。しかし宗司は顔色を変えない。

「正確には神と呼べるにふさわしい力を持ったガルヴォルスというほうが正しいか・・そしてゴッドガルヴォルスは、この荒んだ世界を変える、新しい神となるのだ。」

「ふざけんな!どこまで勝手なことを言えば気が済むんだ、アンタは!?

 宗司の言動に怒りが頂点に達したガクトの頬に紋様が走る。

「勝手じゃないよ・・」

 そこへ七瀬に声をかけられ、ガクトが振り向く。同時に彼の顔から紋様が消える。

「宗司さんは、みんなのことを考えている・・この世界に散りばめられている罪を消そうと必死になってるの・・・」

「七瀬・・・!」

 真剣な面持ちで声をかける七瀬に、ガクトが歯がゆさを覚える。

「ガクトさん、私はあなたと幸せになりたい・・それが、今の私の心からの願い・・・」

「そのためにかりんやみんなを傷つけてもいいっていうのか・・・!?

「だって!こうでもしないと、私はあなたと一緒に過ごせない!幸せをつかめない!」

 怒鳴るガクトに向けて、七瀬が悲痛の叫びを上げる。

「私はガクトさんの前で、かりんさんを殺す・・ガクトさんにこの想いを伝えるには、こうするしかないから・・・!」

「七瀬!」

 ガクトの叫びを聞き入れずに、七瀬がルシファーガルヴォルスへの変貌を遂げる。意識の戻っていないかりんに、彼女は敵意を向ける。

「あくまで自分のためだけに・・・そんな勝手なこと、いつまでも!」

 ドラゴンガルヴォルスに変貌したガクトが、七瀬の前に立ちはだかる。彼女が突き出した爪を彼がつかみ取る。

「放して、ガクト!私はただ、あなたと幸せになりたいの!」

「そのためにかりんを手にかけるのか!?そんなこと、オレが許せると思ってんのか!?

 悲痛の叫びを上げる七瀬と、激怒するガクト。ガクトが突き出した膝蹴りを受けて、七瀬が突き倒される。

「どうしてかりんに手を出そうっていうなら、オレも容赦しねぇぞ!」

「どうして・・私はただ、みんなと同じように幸せになりたいだけなのに・・・」

 叫ぶガクトに、七瀬が悲痛さを募らせる。

「それさえも認められないというの・・・私は!?

 絶叫した七瀬から烈風がほとばしる。ガクトは湾曲の刀身の剣を出現させ、迫ってくるかまいたちを切り裂く。

 鋭い風は両断され、かりんとそばにいた早苗を守る。騒音が治まり、ガクトが吐息をつく。

「ふぅ・・かりんさん、しっかりして!かりんさん!」

 早苗が呼びかけると、かりんが眼を覚ました。

「早苗さん・・私は・・・」

「かりんさん・・よかった。眼が覚めたようね・・・」

 当惑を見せるかりんを見て、早苗が安堵の笑みをこぼす。だが緊迫した状況に、彼女はすぐに真剣な面持ちを見せる。

「海野宗司と七瀬さんの企みよ。七瀬さんのために、あなたを連れ出してガクトくんを誘い出したのよ。」

「そんな・・七瀬さんだけでなく、宗司さんまで・・・!?

 早苗から語られた事情に、かりんは愕然となる。2人は対峙するガクトと七瀬に眼を向ける。

「ガクト!私は大丈夫よ!」

「かりん、眼が覚めたのか・・・!」

 かりんの呼びかけにガクトが答える。彼女は気持ちを落ち着けてから、七瀬に声をかける。

「七瀬さん、お願いだからもうやめて・・こんなことをして、こころちゃんが喜びと思ってるの・・・!?

 かりんが必死の思いで呼びかけるが、七瀬は彼女に向けて冷たい視線を向けてきた。

「あなたに私たちの何が分かるの・・私たちがどうすれば幸せになれるのか・・それは私たちが1番よく分かってる!」

「七瀬さん!」

「いなくなってしまえばいい・・あなたがいなくならないと、私とガクトさんは幸せになれない!」

 狂気に駆り立てられた七瀬が、ガクトを横に突き飛ばして、かりんに向けて飛びかかる。

「早苗さん、下がって!」

 かりんは早苗に呼びかけると、デッドガルヴォルスに変身する。死神の鎌を手にして、七瀬の爪を受け止める。

「あなたの身勝手な解釈のために、私たちは死ぬわけにいかない!」

「私はもう不幸になりたくない!たとえ他の人がどうかなってしまっても、私は幸せになるの!」

 言い放つかりんと七瀬が力比べをする。だが体への負担が消えていないかりんが、徐々に押されていく。

 助けに入ろうとするガクトだが、その前に宗司が立ちはだかる。

「彼女の想いを無碍にはさせないぞ・・・!」

「どけ!七瀬に罪を重ねさせる気か!?

 鋭く言い放つ宗司に、ガクトが怒鳴る。七瀬の力に押されて、ついにかりんが突き飛ばされて、壁に叩きつけられる。

 地面に倒れたかりんが苦悶の表情を浮かべる。疲弊した彼女の姿が人間に戻る。

「これでおしまいよ・・今度こそ終わりにする!」

 いきり立った七瀬が距離を取り、かりんにとどめを刺そうと身構える。

「やめろ!」

 激情をあらわにしたガクトの姿が、高速型の「竜人型」に変化する。その速さと爆発力は、立ちはだかる宗司の横を一気に駆け抜けた。

「お姉ちゃん、やめて!」

 そこへ声が飛び込み、七瀬が眼を見開く。彼らのいる広場に、こころが駆け込んできた。七瀬と宗司を心配して、後をつけてきたのだ。

(こころちゃん!)

 こころの乱入に、七瀬が一気に困惑する。だが制止をかけるのが遅く、彼女はかりんに向けて突きによる一閃を解き放っていた。

 疲弊しているかりんはその場を動くことができず、早苗ではその一閃を受け止めるだけの力を持っていない。

「かりん!」

 そこへガクトが飛び込み、かりんに飛びつく。彼女を庇った彼の右のわき腹に、七瀬の一閃が突き刺さる。

「ぐあっ!」

「ガクト!」

 苦痛を覚えるガクトと、悲痛の叫びを上げるかりん。刺された彼のわき腹から血があふれる。

「ガクト!しっかりして、ガクト!」

「かりん、無事だったか・・・うぐっ!」

 呼びかけるかりんに笑みを見せるが、ガクトが激痛に顔を歪める。

「どうして・・ガクト・・どうしてかりんさんのために、そこまで・・・!?

「かりんは・・オレと同じ、死神という爆弾を抱えてるんだ・・・」

 愕然となる七瀬に、ガクトが振り絞るように答える。

「オレもかりんも、深い悲しみを背負ってる・・それでもオレたちは、必死に生きようとしている・・・それは、おめぇも同じじゃねぇのか・・・!?

 ガクトに問い詰められて、七瀬が困惑する。混乱している彼女に、こころが駆け寄ってきた。

「お姉ちゃん、やめて!どうしてガクトさんやかりんさんにあんなことするの!?

「こころちゃん・・私は・・・」

 こころの悲痛の声に、七瀬は言葉を返せなくなる。

「こころは、お姉ちゃんが笑ってくれるならそれでいいんだよ!普通の人間じゃなくても、こころは構わない・・・!」

 こころの心からの言葉に、七瀬の心も大きく揺れていた。宗司も2人の気持ちを察するあまり、口を挟むことができなかった。

 そのとき、沈黙していた物体が淡い光を放つ。その変化にガクトたちが眼を見開く。

 次の瞬間、物体から無数の触手が伸びてきた。触手は満身創痍のガクトとかりんを狙ってきた。

「ガクトくん!」

 そこへ早苗が飛び込み、手にした銃を発砲する。数本を撃ち抜くが、別の触手が彼女の体を縛りつける。

「早苗さん!」

 かりんが悲鳴を上げる前で、早苗が触手に引き込まれてしまう。抵抗するが抜け出ることができず、早苗が物体に取り込まれてしまう。

 触手はさらにガクトとかりんを狙う。ガクトは力を振り絞って、かりんを抱えて駆け出す。

 何度か触手をかいくぐっていく2人。だが2人の体は限界に近づきつつあった。

(このままじゃ捕まるのは時間の問題だ・・ここは退散するしかねぇ・・・!)

 回避を繰り返しながら、打開の糸口を探るガクト。

 そのとき、触手の数本がガクトとかりんの体を縛りつけた。

「しまっ・・うわっ!」

 声を荒げるガクトが、かりんとともに引きずられていく。そこへたくみ、寧々、紅葉が広場に駆け込んできた。

「ガクト!かりんさん!」

 寧々の叫ぶ先で、ガクトとかりんも物体へと引きずり込まれてしまった。

「これで竜崎ガクトと紫堂かりんも、神とひとつになった・・ゴッドガルヴォルスと・・」

「何っ!?ゴッドガルヴォルスだと!?

 宗司が言いかけた言葉に、たくみが驚愕を覚える。

「たくみくん、君には分かっているだろう・・ゴッドガルヴォルス、不二(ふじ)あずみの存在を・・」

 語りかけてくる宗司に、たくみは言葉を失った。たくみをガルヴォルスの戦いに巻き込み、自身もガルヴォルスの神として君臨しようとした女性、不二あずみがまた、たくみたちの前に立ちはだかろうとしていた。

 

 物体の中に引きずり込まれてしまったガクトとかりん。2人は異空間の中を漂い、さまよっていた。

「ここはいったい・・何がどうなってるんだ・・・?」

 ガクトが周囲を見回して、状況を把握しようとするが、周囲は暗闇が広がるばかりで手がかりが見出せなかった。かりんもどうしていいか分からず、不安を浮かべていた。

「ここ、すごく息苦しく感じる・・とてもイヤな感じがするわね・・・」

「ここにいたら何か起こりそうだ・・早く脱出したほうがいいな・・・」

 思い立ったかりんとガクトが、この空間から抜け出そうと移動しようとする。

「残念だけど、あなたたちはここから出ることはできないわ。」

 そこへ声がかかり、ガクトとかりんが止まる。2人が振り返った先には、長い黒髪の女性の姿があった。彼女は一糸まとわぬ姿で、妖しい笑みを浮かべて2人を見つめていた。

「誰だ、アンタは!?ガルヴォルスか!?

「威勢がいいのね。まるでたくみみたい・・」

 ガクトが声をかけると、女性が笑みを見せて答える。その言葉にガクトが眉をひそめる。

「たくみ!?アンタ、アイツの知り合いなのか!?

「そうね。知り合いであり、彼をガルヴォルスとして導いた人でもあるわね、私は。」

 女性はさらに笑みをこぼすと、悠然とした態度で話を続ける。

「私は不二あずみ。かつて神の力を得ていたことがあるのよ。でもたくみと和海さんに邪魔をされて、私は1度滅びかけた・・でも私は、こうして長らえることができ、復活に向かっている・・」

「復活・・そのためにみんなにあんなことをしたのか!?

「フフフフフ。ここに人が訪れてくるだけ。私は、ううん、私のガルヴォルスとしての本能がその人を捕まえているだけ・・」

 憤るガクトだが、あずみは悠然さを崩さない。

「私は入り込んだ人からエネルギーを吸い取っている。生命、精神力、感情、ありとあらゆるエネルギーをね・・」

「まさか、あの塊から出てきていた人たちはみんな・・・!?

「そう。全てエネルギーを奪い取られ、私と同化した人たちばかり・・・でもみんな、苦しみや悲しみを覚えているわけじゃないの。」

 かりんが口を挟むと、あずみがさらに言いかける。その言葉にガクトが眉をひそめる。

「どういう意味だよ、そりゃ・・・!?

「すぐに分かるわ。わざわざ私が説明しなくても・・」

 問い詰めるガクトにあずみが答えたときだった。

「あぁぁ・・あはぁ・・!」

 そこへ早苗の声が響き渡り、ガクトとかりんが眼を見開く。3人が振り向いた先に、早苗の姿があった。

「早苗さん、どうしたの・・・!?

 かりんが声をかけたとき、早苗の着ていた衣服が突然引き裂かれた。

 全裸の姿になっても、早苗はさらに悶絶を続ける。やがて快楽にさいなまれる彼女の秘所から愛液があふれ出し、両足を伝う。

「早苗・・・おい!早苗に何をしたんだ!?

「ガルヴォルスであるあなたたちなら、彼女に何が起こっているのか分かるはずだけど?」

 さらに怒号を上げるガクトに、あずみがさらに呼びかける。その言葉を受けて、2人は早苗を注視する。

 彼女からエネルギーがあふれ出て、闇の中に消えていく。

「まさか、これが・・・!?

「そう。彼女は今、エネルギーを吸い取られているの。エネルギーの激しい流動で、彼女はかつてないほどの恍惚を体感しているのよ。」

 驚愕するかりんに、あずみが笑みをこぼして答える。

「もはや彼女はその恍惚の虜。その衝動に抗うこともできなくなっている・・」

「そんなバカなこと・・・早苗、しっかりしろ!アンタはこんなことでどうかなっちまうヤツじゃねぇだろ!」

 妖しく微笑むあずみの言葉に反発するガクトが、早苗に呼びかける。だが早苗は高揚感から抜け出すことができない。

「ムダよ。たとえどんなに強い精神力を持っていても、この衝動から脱することはできない。むしろ精神力が強いからこそ、というべきかしらね。」

 あずみが語りかける先で、早苗が徐々に脱力していく。そこで早苗が、ガクトとかりんが近くにいることに気付く。

「ガクトくん・・かりんさん・・・私に構わずに・・・」

「早苗さん・・・!」

 声を振り絞る早苗に戸惑いを見せるかりん。全ての力を奪い取られ、早苗の腕がだらりと下がる。

「これで終わりね。人間にしては粘ったほうよ。彼女も、彼女の姉も・・」

 あずみが淡々と語りかける。早苗は漂うように空間の闇の中に消えていった。

「早苗さん!」

 かりんが手を伸ばすが、早苗には届かなかった。伸ばした右手を握り締めて、かりんがあずみに振り返る。

「佳苗さんも、あなたに・・・」

「不安になったり怒ったりする必要はないわ。あなたたちも彼女たちと同じように、神の人柱になるのだから・・」

 憤るかりんだが、あずみはそれでも悠然さを崩さない。

「ふざけるな!オレたちがおめぇの生贄になんてなるかよ!」

「その意地の強さ・・これなら復活に一気に近づけそうね・・・」

 怒鳴るガクトにあずみが妖しく語りかけたときだった。

 突如、ガクトとかりんが奇妙な感覚を覚え、眼を見開く。体に押し寄せる衝動に、2人はたまらず声を上げる。

「この感じ・・何なの、コレ・・・!?

「体だけじゃなく、頭の中までどうかなっちまいそうだ・・・!」

 その強烈な感覚に、苦悶する2人。その姿を見つめて、あずみが笑みを強める。

「あなたたちのエネルギーもいただくわ。強靭なガルヴォルスであるあなたたちなら、エネルギーも極上であるに違いない・・」

「ふざけんな・・こんなことで、オレたちが参って・・・!」

 あずみに反論しようとするガクトだが、押し寄せる快感にさいなまれて、打ちひしがれる。かりんもあえぎ声を上げるばかりで、抵抗がままならない。

 やがて揺れ動くエネルギーの影響で、ガクトとかりんの衣服が引き裂かれる。

「ふ、服が!」

 この事態に動揺するかりんだが、激しい恍惚のため、それどころではなかった。

「さぁ、全てを私に委ねなさい。そうすればあなたたちは楽になれるのだから・・」

「冗談じゃねぇ・・テメェの思い通りになってたまるか・・・!」

 語りかけてくるあずみに反発するガクト。だが彼とかりんが、ついに愛液ももらす。

「どうして止まんないの・・・お願い、止まって!」

 かりんが自分に言い聞かせようとするが、2人の意思を受け付けずに愛液はどんどんあふれてくる。

「あなたたちの体は今、強い刺激で感覚が混乱している状態にある。あなたたち自身の制御は鈍くなり、歯止めは利かなくなっている・・」

 あずみが哄笑を上げる中、ガクトとかりんがさらに苦悶する。そんな2人に近寄り、あずみが抱擁をしてきた。

 突然の抱擁に、ガクトとかりんの感情は一気に高ぶっていく。

「あなたたちのことは手に取るように分かるのよ、竜崎ガクト、紫堂かりん・・」

「な、何でオレたちのことを・・・!?

「流れ出るエネルギーに乗せて、あなたたちの記憶が私に流れ込んでくるのよ。その記憶が、あなたたちのことを教えてくれているのよ。」

 あずみが口にする言葉に、ガクトだけでなくかりんも愕然となる。

「ガクト、あなたは家族を殺されたことでガルヴォルスを憎悪。怒りのままにガルヴォルスたちを次々と葬ってきたにもかかわらず、悲しみが消えることはなかった・・」

「やめろ・・・」

「かりん、あなたは両親を殺された怒りでガルヴォルスに転化。力を暴走させてしまい、関係のない人、ガクトの家族までもその手にかけた・・・」

「やめろ・・・!」

「あなたたちは計り知れない悲しみと絶望を体感し続けてきた。それでも生きていこうと心に決めて、今まで生き続けてきた・・」

「やめろっていってるだろ!」

 自分たちの心を抉られる不快感に憤慨し、ガクトがあずみの顔を思い切り殴りつける。その衝撃でガクトとかりんからあずみが離れる。

 殴られたあずみの顔から血があふれる。その血を拭ってから、彼女は笑みを取り戻す。

「その状態でこれだけのパンチを出せるなんて大したものね・・でもそれも悪あがきにしかならない・・」

「その態度がいつまで続くか・・オレがすぐに終わらせてやる・・・!」

 怒るガクトが全身に力を込めて、ガルヴォルスへ変身しようとする。彼の体に紋様が浮かび上がる。

 だが直後、ガクトは全身から力が抜けていくような感覚を覚える。1度浮かび上がっていた紋様も消失していく。

「どうしたの、ガクト・・・!?

「吸い取られる・・ガルヴォルスの力が・・・!」

 かりんが問いかけると、ガクトが苦悶の表情を見せて答える。

「言ったはずよ。ガルヴォルスの力でもこの状況は覆せない。むしろ私の本能は、その力に強く惹かれていく。あなたが力を出せば出すほど、私はその力を取り込んでいく・・」

 あずみが語りかける前で、ガクトとかりんが恍惚にさいなまれる。愛液がさらにあふれて、足を伝ってこぼれていく。

「心配しなくていいわ。私に全てを預ければ、あなたたちはもう、今まで味わってきたような苦痛を感じることはなくなる・・」

 あずみは言いかけると、再びガクトとかりんを抱きしめる。2人には彼女の抱擁から抜け出せるだけの力も残っていなかった。

「数々の修羅場を潜り抜けてきたあなたたちの力は、この世界を正しく導くことになる・・十分に誇っていいのよ・・・」

「オレは・・・オレは・・・」

「あなたたちはお互いのもの・・ここでなら、それを阻むものは何もない・・・」

 反論できずにいるガクトたちに優しく囁きかけるあずみ。彼女はガクトの手を取り、かりんの胸に触れさせる。

「お互いの体に触れているとき、心を溶け込ますときが、あなたたちに生きていることを実感させている・・・」

 あずみの言葉に促されるまま、ガクトがかりんの体に触れていく。かりんもガクトにすがり付いて、その接触に安らぎを覚えていく。

 2人のその快楽さえ、周囲の空間はエネルギーとして取り込んでいた。

(ダメだ・・体が、オレの呼びかけを受け付けねぇ・・どんどんアイツの思惑に引きずり込まれる・・・)

 胸中で毒づくガクト。だが彼の意思に反して、あずみの図った恍惚に飲み込まれていっていた。

「ゴメン、ガクト・・私が、こんなんじゃなかったら・・・」

「いや・・それはオレが悪いんだ・・・すまねぇ・・かりん・・・」

 互いに謝罪の言葉を掛け合うかりんとガクト。2人は高揚感の赴くままに、互いの唇を重ねた。

「もうおしまいね・・ここまで粘るとは私も予想外だったわ・・」

 その2人の様子を見て、あずみが微笑む。力を失ったガクトとかりんの右腕がだらりと下がる。

「行きなさい、2人とも・・この永久不変の安らぎの中で、2人だけの時間を過ごすといいわ・・・」

 あずみが見つめる中、ガクトとかりんが抱き合ったまま、空間の暗闇の中へと消えていった。

 

 早苗、そしてガクトとかりんを取り込んだ物体が蠢き、脈打っていた。その眼前で、たくみは宗司の口から語られたあずみの生存に驚愕を隠せなくなっていた。

「バカな・・・あずみが、生きていただと・・・!?

「間違いではない。あれはゴッドガルヴォルス、不二あずみだ。もっとも滅びかけた影響で、もはや人の原型から程遠い姿となっているが・・」

 声を荒げるたくみに、宗司が淡々と語りかける。

「そのあずみさんが、どうしてこんなことを・・・!?

 和海も深刻な面持ちで宗司に問いかける。

「そこまでは私にも分からない。ただ彼女と私は、どこか通ずるものがあった。理論的というよりは直感というほうが正しい・・」

「どうしてなんですか、宗司さん!?あなたがなぜ、人々を脅かすようなマネ・・・!?

 答える宗司にさらに問い詰めるたくみ。宗司がそれに答えようとしたときだった。

 物体がさらに蠢き、その中から早苗が出てきた。彼女は一糸まとわぬ姿で、完全に力を失っていた。

「早苗さん・・・!?

 早苗の異変にたくみと和海が眼を見開く。物体に埋め込まれている早苗の体が、物体と同じ質の意思へと変化していく。

「早苗さん!」

 たくみが呼びかけるが、早苗は全く反応しない。彼女は完全に石化に包まれ、物体と同化してしまった。

 変わり果てた早苗の姿に、たくみと和海だけでなく、寧々と紅葉も愕然となった。

「これで彼女も、神の人柱となった・・・」

「神!?・・・そんな馬鹿げたことあるもんか!あんなのが神様なわけないでしょ!誰がどう見たってバケモノだよ!」

 淡々と言いかける宗司に、寧々が憤って怒鳴る。だが宗司は顔色を変えずに話を続ける。

「君たちも感じ取れるはずだ。神があたたかな光をもたらしていることを・・君たちも人柱となれば実感が持てる・・」

「寝言は寝てから言ってって感じ!人柱って、結局は生贄じゃない!そんなのに誰がなるかっての!」

 寧々が宗司に再び鋭く言い放つ寧々。

 そのとき、物体がさらなる衝動を引き起こす。その上部が蠢き、ガクトとかりんが姿を現した。

「ガクト!かりんさん!」

 寧々がたまらず叫ぶ。七瀬もガクトの異変に困惑を覚える。

 持てる力を奪い尽くされたガクトとかりん。抱き合った状態の2人の体を、石化が侵食していく。

「ガクト、ダメ!このままだとそのバケモノに・・!」

「ムダだ。2人の心身は無力と化している。神に身を委ねたことを表している。」

 呼びかける寧々に、宗司が淡々と言いかける。その言葉を聞き入れないようにするも、寧々はその現実を受け止めざるを得なかった。

 ガクトとかりんは、全裸のまま抱き合い、口付けを交わした状態で、石化に蝕まれていく。胸、腕、肩、首が変質し、髪や頬を固めていく。

 口付けをしている唇が固まった瞬間、ガクトとかりんの眼からうっすらと涙が流れる。その雫を眼にした寧々が戸惑いを覚える。

 やがて瞳さえも石に変わり、ガクトとかりんは完全に物体と同化してしまった。

「ガクト!かりんさん!」

 寧々の悲痛の叫びが、広場にこだましていた。強い信頼を寄せていた仲間さえも、ゴッドガルヴォルスの魔性に飲み込まれてしまった。

 そのとき、物体が強烈な光を放ち始めた。それは眼がくらむほどにまぶしく、神々しいといっても過言ではなかった。

「この瞬間が訪れた・・神が、ゴッドガルヴォルスが復活を果たす・・・!」

「何っ!?

 宗司がもらした言葉に、たくみが驚愕を見せる。

「神は強いエネルギーほど、それを強く得ようとする。2人のような強さの持ち主は、神の格好の標的。」

 宗司が淡々と語りかけていく。物体の衝動と変動が徐々に大きくなり、地震も響き渡る。

「いけない、崩れる!出ないと危ないよ!」

 和海の呼びかけを期に、たくみたちが広場からの脱出をしようとする。だが寧々が物体を見つめたまま、その場から動こうとしない。

「寧々!ここから出ないと危ないって!」

 紅葉が寧々を引っ張ろうとするが、彼女はそれを聞き入れない。

「ダメだよ、お姉ちゃん!ガクトやかりんさん、早苗さんや佳苗さんが!」

「このままだとあなたまで危なくなる!ここは出るのよ、寧々!」

 紅葉は寧々を強引に連れて行き、広場を脱出する。変貌していく物体が徐々に肥大化していく。

 宗司、七瀬はその変貌をじっと見つめるばかりだった。彼女のそばにいたこころも、その場から離れようとしなかった。

 

 崩壊に向かう洞窟から何とか脱出したたくみ、和海、寧々、紅葉。しかし崩壊による揺れは未だに治まっていない。

 寧々はガクトたちの身を案じるあまり、気が気でなくなっていた。だが紅葉に制されて、その場に留まるしかなかった。

 やがて洞窟が崩れ、その上部から爆発が巻き起こる。そこから現れた巨大な影にたくみたちは息を呑む。

 それは山ほどの巨大さを備えた巨人。背中からは白い翼。女体を思わせる体格。

 まさに女神そのものだった。

 

 

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