ガルヴォルスSouls 第1話
こんな悲しい結末、望んでいなかったはずなのに・・・
人は誰でも平等に、幸せになれる権利が与えられていると信じていた。
でも現実はそんなに優しくはなかった。
どんなに幸せを願っても、絶対に幸せになれない人がいる。
そう思い知らされた、ある出来事・・・
この魂(こころ)に、救いはあるのか・・・
街の中でもにぎわいを見せているピザハウス「セブンティーン」。そこで働く2人の男女がいた。
竜崎(りゅうざき)ガクトと紫堂(しどう)かりん。2人は人類の進化系「ガルヴォルス」である。
ガルヴォルスの引き起こした事件に巻き込まれたことで、深い悲しみと辛い過去を秘めていた。両親を殺されたことでガルヴォルスに転化したかりんだが、暴走する力を抑え切れず、ガクトの家族を手にかけてしまった。そのためガクトはガルヴォルスでありながら、ガルヴォルスを深く憎悪するようになった。
様々な錯綜と衝突を繰り返して、ガクトとかりんは和解し、互いになくてはならない存在へと昇華した。だが2人は親友と弟を失い、その悲しみさえも背負うこととなった。
その後、2人は今を精一杯生きようと力を入れていた。だがガクトはある事件を経て、ひとつのわだかまりを抱えていた。
不動(ふどう)たくみ。彼もガルヴォルスであるが、人間として生きていくことを心に誓っていた。だがガクトとすれ違い、やがて自分たちの信念の赴くまま、衝突してしまった。
事件は収束したものの、ガクトとたくみの双方へのわだかまりは残ったままとなっていた。
「ガクトさん、また新しいメニューを考えたんですけど、試食してもらえます?今回は冷やしパスタだから、ガクトさんでも大丈夫だと思うのだけれど・・」
開店前の準備を終えて暇を持て余していたガクトに、1人の女性が声をかけてきた。
鷲崎美代子(わしざきみよこ)。「セブンティーン」の店長であり、ガクトとかりんの保護者である。17歳を自称しているが、そのような外見でないことは明白であった。
「美代子さん・・いいッスよ。それならオレも大丈夫そうだ・・」
ガクトが笑みを見せて、美代子が作った冷やしパスタを口にする。
「うん。これはなかなかいけるッスよ。」
「ちょっといろいろと味を変えてみて、そのパターンがいくつかできたの。これは甘辛い味だけど、ガクトくんならそのほうがいいかなと思って・・」
高評するガクトに、美代子が笑顔で説明する。
「私も美代子さんの新メニュー作りを手伝ってみたの。」
そこへかりんが厨房から現れ、ガクトに声をかけてきた。
「もしおめぇが新しいメニューを考え出したら、きっと熱いもんを食わされるんだろうな。」
「もう、ガクトったら、からかわないでって・・」
憮然とした態度を見せるガクトに、かりんが苦笑いを浮かべる。2人のそのやり取りを見て、美代子は笑みをこぼしていた。
以前、ガクトとかりんは仲がいいとはいえず、口ゲンカが絶えなかった。ガルヴォルスの事件でその仲がさらに悪化したものの、現在では和解し、互いになくてはならない関係になっていた。
「ガクトくん、かりんちゃん、お話してもいいかな?・・とても大切なお話・・」
そこへ美代子が真面目な面持ちを浮かべて声をかけてきた。ガクトとかりんも真剣な面持ちになり、美代子の話に耳を傾ける。
「2人に、このお店を継いでほしいの・・あなたたちのためにも、それがいいと思うのだけれど・・・」
「美代子さん・・・」
美代子の突然の話に、ガクトもかりんも動揺の色を隠せなかった。
「いつか私も体を思うように動かせなくなるときが来るかもしれない・・でもこの店を閉じたくない気持ちもあるの・・だからできるならでいいから、このセブンティーンの新しいマスターになってほしいの・・」
美代子からの切実な言葉に、困惑するガクトとかりん。だがかりんは笑顔を取り戻して、美代子に答える。
「私も好きですよ。美代子さんの作るピザ、このお店、美代子さん自身も、ここでの仕事も・・」
「かりんちゃん・・・」
かりんの言葉を受けて、美代子が微笑みかける。するとガクトが苦笑いを浮かべて言いかける。
「そうだな・・この仕事も悪くないし、これからも頑張っていってもいいぜ。」
「ありがとう・・本当にありがとうね・・私のわがままを受け入れてくれて・・・」
喜びを見せる美代子に、ガクトとかりんも笑みをこぼしていた。
「そういえばアイツ、元気でいるのかな・・・?」
そのとき、ガクトが唐突にかけた呟きにかりんが戸惑いを見せる。彼はある少女について考えていた。
犬神寧々(いぬかみねね)。かつて祈祷師や巫女の栄えていた犬神家の娘で、ガクトたちと同じガルヴォルスである。幼さを象徴するかのような感情的な性格で、不平や不条理を嫌っている。だが心優しい性格も持ち合わせており、涙もろい。
寧々は家出していた頃にガクトたちと出会った。寧々とガクトは口ゲンカが絶えなかったが、彼女は彼への心からの信頼を抱いている。
「電話でもしてみる?犬神神社なら有名どころだから・・」
「いや、やめとく。ムリに押しかけても向こうが迷惑になるだろうし。」
美代子が持ちかけた言葉に、ガクトが微笑みかけて答える。いつか何らかの形で出会えるときが来ると信じて、ガクトたちは今を精一杯生きていくことを、改めて決意するのだった。
そのとき、携帯電話が鳴り響いてきた。鳴っていたのはガクトのものだった。
「お?早苗からだ?」
ガクトが相手を確かめてから、電話に出た。
尾原早苗(おはらさなえ)。警視庁所属の警部で、現在はガルヴォルス事件の対策本部の指揮官を任されている。かつての対策本部の指揮官で、現在はガルヴォルス事件を専門とした探偵をしている秋夏子(あきなつこ)の後輩である。
「別にスピード違反はしちゃいねぇぞ。」
“いきなり何を言っているのよ?そういう話だったら電話する前に直に会いに行っているわよ。”
憮然とした態度で言いかけるガクトに、早苗が呆れながら答える。
“あなた当ての電話を受け取ったの。照れくさそうで、私に代わりに伝えてほしいと言ってきたの。”
「は?何だ、アンタにそんな伝言をしてきたおかしなヤツは?」
“寧々ちゃんよ。今日、お姉ちゃんと一緒に来るそうよ。”
「何!?今日だと!?」
早苗からの突然の言葉に、ガクトがたまらず声を荒げる。
「どうしたの、ガクト?早苗さん、何て・・」
そこへかりんが疑問を投げかけてきた。ガクトがため息をひとつついてから答える。
「寧々たちが今日、こっちに来るって。早苗に伝言をよこしてきやがった・・」
「まぁ、噂をすれば♪では早速歓迎パーティーの準備をしなくちゃね♪」
ガクトが不満げに言いかけると、美代子が満面の笑みを浮かべて喜んだ。それを見てガクトとかりんが苦笑いを浮かべた。
「またにぎやかになりそうね、ガクト・・」
「まさか。アイツに来られたらうるさくてかなわねぇよ・・」
かりんが言いかけると、ガクトが憮然とした態度を見せる。だが彼が内心喜んでいることを、かりんは分かっていた。
秋私立探偵事務所。そこで夏子は今日も、ガルヴォルスをはじめとした事件の解決に尽力を注いでいた。
そんな中、彼女はガクトとたくみのことを考えていた。一件の後、犬猿となった2人の仲を彼女も気にかけていた。
(あの2人、本当にしょうがないんだから・・つまらないことでいつまでもガンコになってるんだから・・)
2人の仲を取り持ちたいと考えて、夏子は考えを巡らせていた。そんな事務所の玄関のドアが開き、2人の男女が入ってきた。
速水悟(はやみさとる)と友近(ともちか)サクラ。悟は夏子の高校の後輩で、彼女に呼ばれて事務所で働いている。彼のガールフレンドであるサクラも助手として働いているが、失敗を繰り返してしまう。
「おかえり。どうだった、現場は?」
「はい。今回も見るに耐えない惨状でしたよ・・」
夏子の問いかけに、悟が深刻な面持ちを浮かべて答える。
「今回はサクラには近づかないように言っておきました・・以前にあのような惨状を見て、気分を悪くしてしまいましたから・・」
「私もアレには参ったよ・・いったい誰があんなことを・・・」
悟が事情を説明すると、サクラが肩を落としてため息をつく。
「被害者はいずれも、学校や仕事先などでいじめの問題の疑いを持たれていた人たちばかりです。中には犯罪に手を染めていたにもかかわらず、それをとがめられずにいる人もいましたし・・」
「なるほど・・いじめへの反逆、という見方もできるわね・・」
悟の言葉を聞いて、夏子が深刻な面持ちを見せる。いじめを受けて心が病んでしまい、自殺や他殺に走ってしまうケースも少なくない。
「でもまだ断定するには早いわ。もっと情報を手に入れる必要がある・・私も調べに出るわ。」
「先輩・・・」
自ら調査に乗り出す夏子に、悟が深刻な面持ちを浮かべる。
「私も元刑事よ。自分の身を守ることは十分できるわ。それと、早苗も事件の調査を行っているわ。」
「早苗さんも・・でしたらまず合流して・・」
「えぇ。もちろんそのつもりよ。」
サクラの声に夏子が答える。夏子は上着を着て、調査に乗り出した。
多発する奇怪な事件の調査は、警察も懸命に行っていた。その対策本部を指揮しているのは、長く鮮明な黒のポニーテールと、大人びた雰囲気を持った女性、早苗だった。
早苗は会議室にいる部下たちに向けて、得た情報から導き出した推測を述べていた。
「以上のことから、犯人はこの近辺にいる可能性が高いわ。ガルヴォルスは人間の進化系。力が弱そうに見える女性や子供でも、このような残虐行為を行える可能性も否定できない。くれぐれも慎重に行動するように・・油断していると、命を落としかねないわよ・・・!」
「はいっ!」
忠告を込めて呼びかける早苗に、刑事たちが答える。
「ではみなさん、調査開始です。」
対策会議が終了し、刑事たちが解散して調査に乗り出した。早苗も調査に出ようと会議室を出たところだった。
「難航しているようだな、早苗くん。」
そこへ声をかけられ、早苗が足を止めて振り返る。その声の主を視認して、彼女が敬礼を送る。
「立川(たちかわ)警視正、申し訳ありません。連続殺人事件は、現在調査中で・・」
「いや、気負わないでくれ。そのことで君に伝えておかなくてはならないことがあってな。」
現状を報告する早苗に、立川が弁解を入れる。彼の言葉に早苗が当惑を覚える。
「この事件の調査に、もう1人指揮官を加えることを決定した。まず君に紹介しておこうと思ってな。」
「アハハ。久しぶりだね、早苗♪」
立川が言いかけたところで、1人の女性が明るく声をかけてきた。彼女を眼にして、早苗が呆れて頭を下げる。
尾原佳苗(おはらかなえ)。早苗の姉。警視庁所属の警部であるが、早苗とは部署が違う。真面目な性格の早苗と違い、佳苗は天真爛漫な性格をしている。が、早苗は妹ながら姉のその過度ともいえる明るさに半ば呆れているという。
「お姉さん、何をしているのですか?・・まさか警視正、新しく参加される指揮官とは・・・!?」
「そうだ。佳苗警部も、今回君が担当している事件の調査を行うこととなった。連携して調査に当たってくれ。姉妹だから連携は問題はないだろう。」
「大問題です。意気投合どころか全く息が合いません・・申し訳ありませんが、私は現状維持で調査を続行させてもらいます。」
「これは私が決めたことだ。反論は認めんぞ。」
立川に言いとがめられて言葉が出ず、早苗は肩を落とすしかなかった。そんな彼女に佳苗が笑顔を見せてきた。
「プライベートの区別はつけているけど、あなたと一緒に事件を追えるのは嬉しく感じるわ。よろしくね、早苗♪」
「はいはい、分かりました。くれぐれも足を引っ張るようなことは控えてください、小原佳苗警部・・」
上機嫌の佳苗に対し、早苗は憮然とした態度を見せる。凸凹のやり取りであったが、立川は2人に期待していた。
平穏さと賑わいを見せている真昼の街。その一角のモーター店にて、2人の男女が働いていた。
不動たくみと長田和海(おさだかずみ)。2人もガルヴォルスであるが、人間として生きていくことを心に決めている。
たくみはガクトと衝突して以来、彼とのわだかまりを抱えていた。依然としてこの解消はされていないままであり、和海も深刻になっていた。
「たくみ、今日は美代子さんのお店に行ってみよう。みんなにも久々に会いたいし・・」
「和海・・だけどオレは、ガクトと・・・」
和海に言いかけられて、たくみは深刻な面持ちを浮かべる。それを見て和海が肩を落とす。
「たくみ、いい加減シャキッとしたら?そういうのはたくみらしくないよ・・」
「和海・・けどなぁ、このことばかりは、簡単に解決できるものじゃないんだよ・・下手にやったらとんでもないことになっちまう・・」
和海が呼びかけても、困惑を浮かべるばかりのたくみ。それを見かねた彼女がふくれっ面を見せる。
「んもうっ!男なのにいつまでもウジウジして!」
和海は不満の声を上げると、突如たくみの腕をつかんで引っ張る。
「お、おい、和海!?」
たくみが声を荒げるが、和海は構わずに彼を連れて外に飛び出していく。
「やめろって、和海!無理矢理話を持ちかけたって・・!」
「何言ってるのよ、たくみ!こういうのは頭の中でヘンに考え込むより、体を動かしたほうがすんなり行くものなの!」
抗議の声を上げるたくみだが、和海は構わずに進んでいった。
2人は街に差し掛かり、美代子の店、セブンティーンに到着しようとしたときだった。
「あれは、ガクト・・・!?」
私用のバイクに乗ろうとしていたガクトを見つけて、たくみが足を止める。ガクトも2人に気付いて、メットを被ろうとしていた手を止める。
「たくみ・・・」
ガクトがたくみに対して鋭い視線を投げかける。たくみも戦慄を膨らませて、ガクトの前に立つ。
それぞれの信念をぶつけ合い、衝突した2人の青年が、再び対立しようとしていた。
「ちょっとガクト!何やってるの!」
そこへかりんが店から顔を出し、ガクトに呼びかけてきた。その声にガクトとたくみ、そして和海が彼女に眼を向ける。
「たくみさん、和海ちゃん・・ガクト、いい加減にしてよね!まだこんな・・!」
たまらずかりんがガクトとたくみの間に割って入ってきた。続いて和海もたくみをつかみ、ガクトとかりんから引き離す。
「たくみもガクトくんも、いつまでも子供染みたことしないの!ここはみんな仲良く、食事会でもしゃれ込まないとね。」
「あっ!それいいかもしれませんね。和海さん、やってしまいましょうよ。」
和海の言葉にかりんが同意する。
「まぁ、仲直りパーティー?それはいいかもしれませんね♪」
そこへ顔を見せてきた美代子も賛同し、笑顔を見せてきた。
「大歓迎ですよ、和海さん。早速やってしまいましょうか。」
「ちょっと美代子さん、そんな急に・・」
すっかりやる気になっている美代子に抗議するガクトだが、そこに聞く耳はなかった。ガクトは呆れ果て、肩を落とすしかなかった。
そのとき、街中に現れた気配を感じ、ガクトたちは緊迫を覚える。
「どうしたの、みなさん・・?」
「ガルヴォルスだ・・こんなに強く感じ取れたのは初めてだ・・・!」
美代子が疑問符を浮かべる前で、ガクトが呟き、1人でバイクに乗って飛び出していく。
「あっ!ガクト!」
かりんが呼び止めるのも聞かずに、ガクトは突っ走っていった。
街中を失踪していくガクトは、力を発動させたガルヴォルスを追い求めていた。しばらく走り抜けたところで、彼はバイクを止める。
視界の中に入った公園には、2体の怪物の姿があった。そのうちの1体、ライオンガルヴォルスが、そこに居合わせた1人の少女に飛び掛ろうとしていた。
「ガルヴォルス・・あんな子供まで・・・!」
いきり立ったガクトの頬に異様な紋様が浮かび上がる。その直後、彼の姿が異様な怪物へと変貌を遂げる。竜を彷彿とさせる姿の怪物、ドラゴンガルヴォルスへ。
ガクトは少女に襲い掛かろうとするライオンガルヴォルスに飛びかかる。彼が繰り出した拳が、怪物の顔面に叩きつけられる。
突き飛ばされたライオンガルヴォルスと乱入してきたガクトに、少女たちは戸惑いを浮かべていた。
「大丈夫か、お前たち?」
「う、うん・・・」
ガクトが呼びかけると、少女は小さく頷く。彼はライオンガルヴォルスを見据えて、拳を握り締める。
「好き勝手に人を襲い掛かって・・オレが叩き潰してやる!」
「言ってくれるな、小僧が!そんなにオレと遊んでほしいのか!」
いきり立ったライオンガルヴォルスが、ガクトに向かって飛びかかる。2人が繰り出した拳が衝突し、その衝撃が周囲を揺るがす。
「オレはテメェのくだらない遊びに付き合うつもりはねぇ!ここで仕留める!」
ガクトは言い放つと、左の拳を突き出す。その打撃を体に叩き込まれて、ライオンガルヴォルスが突き飛ばされる。
「ぐっ!・・こんなことが・・オレが一方的に打ちのめされるなんて・・・!」
ガクトの力にライオンガルヴォルスが毒づく。向かってくる彼に対して、怪物も方向を上げて迎え撃つ。
拳をかわしてガクトの両腕をつかんで捕まえるライオンガルヴォルス。だが不敵な笑みを浮かべた瞬間、ガクトが足を突き上げて膝蹴りを見舞う。
もはや手も足も出ないライオンガルヴォルスに、ガクトが爪を突き出す。体を貫かれた怪物が吐血する。
ガクトが爪を振り払うと、怪物は鮮血をまき散らして倒れる。事切れた怪物が石のように固まり、砂のように崩れて消滅した。
「ふぅ・・危ないとこだったな・・」
肩の力を抜いたガクトが人間の姿に戻り、少女に眼を向ける。ライオンガルヴォルスと対峙していた怪物も、少女の姿へと戻っていた。
「ありがとう、助けてくれて・・でも、お兄ちゃん・・・?」
「あ、あぁ、気にすんな。人を無闇に襲う怪物を叩きのめしただけだ・・」
戸惑いを見せる小さな少女に、ガクトが憮然とした態度を見せる。そこへもう1人の少女がガクトに歩み寄ってきた。
「私は北斗七瀬(ほくとななせ)。この子は天井(あまい)ココロです。この度は助けていただいて・・」
「だから気にすんなって・・ところで、おめぇもガルヴォルスなのか?」
「ガルヴォルス・・あなたもこの姿のことを知っているんですね・・・」
ガクトが質問を投げかけると、少女、七瀬が戸惑いを見せる。そこへかりん、たくみ、和海が遅れて駆けつけてきた。
「ガクト・・・その人たちは・・・?」
「かりん・・この2人がガルヴォルスに襲われててな。しかもコイツ、ガルヴォルスなんだ・・」
かりんの問いかけにガクトが答える。七瀬と彼女にすがり付いてくるこころを眼にして、たくみも和海も当惑を覚えていた。
「なんでガルヴォルスに襲われたんだ?やっぱ、人間に味方するガルヴォルスだったからか?」
「分かりません・・いじめられていた子がいたので助けようとしたら、いじめていた男の人の中に、ガルヴォルスがいて・・」
ガクトが問いかけると、七瀬が沈痛の面持ちを浮かべて答える。
「いじめか・・しょうもねぇことをするヤツもいたもんだ・・」
ガクトが愚痴をこぼしてため息をつく。
「でも最近、いじめはいろいろと深刻になってきているからね・・七瀬さんも、その、いじめをされたことがあって、それがトラウマになっていたりするのでしょう・・?」
かりんがおもむろに問いかけると、七瀬は沈痛の面持ちを浮かべて頷く。
そのとき、突如おなかの虫が鳴り響いた。こころが自分のおなかに手を当てて赤面していた。
「エヘへ・・こころ、おなかすいちゃった・・・」
「こころちゃん・・そういえば少し小腹がすいてきたね・・・」
照れ笑いを見せるこころに、七瀬も微笑みかける。
「だったら私たちのお店に来てはどうかな?ピザ屋なんだけど・・」
「えっ!?ピザ!?久しぶりに食べたくなってきちゃった・・お姉ちゃん、いいよね?」
かりんが誘うと、こころが喜びを見せる。それを受けて七瀬も微笑んで頷きかける。
「では、お言葉に甘えることにしますね・・」
七瀬の返事を受けてかりんが笑顔を見せ、ガクトも肩を落としながらも笑みをこぼしていた。
セブンティーンに戻ってきたガクトたちを、美代子が明るく出迎えてきた。彼女はガクトたちと一緒にいる七瀬とこころを眼にして、一瞬きょとんとなる。
「はじめまして・・私は北斗七瀬といいます。この子は天井こころ・・」
「はじめまして、七瀬さん、こころちゃん。私はこの店のマスター、鷲崎美代子、17歳です♪」
「おいおい!」
挨拶する七瀬に自己紹介をする美代子に、かりんと和海がツッコミを入れる。そのやり取りが分からず、七瀬が唖然となる。
「美代子さんは自称17歳で、ツッコミを入れてあげると喜ぶよ。」
和海が小声で七瀬に説明する。それを聞いて、七瀬は小さく頷くばかりだった。
「七瀬さん、こころちゃん、ガクトくんのお友達ね。この際だから2人とも一緒にどうぞ。これからパーティーを始めようとしていたの。」
「美代子さん、別に友達ってわけじゃ・・」
呼びかける美代子に、ガクトが憮然とした態度で言いかける。だが上機嫌の美代子はすっかりパーティーのことで舞い上がってしまっていた。
「ま、そういうわけだから付き合ってくれ。美代子さんは優しいから、悪いようにはしねぇって。」
「わーい♪パーティー♪お姉ちゃん、よかったね♪」
ガクトが七瀬に言いかけると、こころも大喜びをしていた。
「ありがとう、ガクトさん、美代子さん・・私たちのために・・」
「いいえ、気にしなくていいんですよ。楽しい時間はみんなで過ごしたほうがもっと楽しくなりますから・・」
感謝の意を示す七瀬に、美代子が弁解を入れる。その優しさを目の当たりにして、七瀬は安らぎを覚える。
「ありがとう・・・本当に・・ありがとうございます・・・」
彼女は喜びのあまりに涙し、その場にひざを付く。かりんと和海が戸惑いを見せる中、こころが心配の面持ちを浮かべて歩み寄る。
「よかったね、お姉ちゃん・・・この人たち、悪い人じゃないよ・・・」
「そうだね・・そうだね、こころちゃん・・・」
こころの言葉に七瀬が頷きかける。すると美代子が七瀬を優しく抱きしめてきた。まるで子供を慰める母親のようだった。
「もう大丈夫だよ・・ここなら、悪いことは起きないから・・・」
「美代子さん・・ありがとうございます・・・私・・私・・・」
美代子の優しさを受けて泣きじゃくる七瀬。それを見てガクトも笑みをこぼしていた。
「なになに、涙のあるところに出くわしちゃったみたいだね。」
そこへ声がかかり、ガクトが眼を見開く。振り返った店の入り口には、彼らの見知った姿があった。
藍色のショートヘアの少女と、茶色がかったポニーテールの少女。犬神寧々(いぬがみねね)と犬神紅葉(いぬがみくれは)である。
「寧々・・!?」
「く、紅葉ちゃん・・!?」
ガクトとたくみがたまらず声を上げる。
紅葉は寧々の姉であり、たくみと和海との友好を深めている。2人はみんなに顔を見せたいと思い、再びここに来たのである。
「久しぶりだな、寧々。いきなりだったんで慌てちまったぞ。」
「あんまりストレートだとガクトにバカにされると思ったからね。」
ガクトが声をかけると、寧々が軽口を叩く。ムッとなるガクトだが、憮然とした態度に留まった。
「勝手に早苗さんのところに電話したみたいで。あたしが後で叱っておいたんですけど・・まぁ、早苗さんがうまく連絡してくれたみたいで・・」
紅葉が苦笑気味に事情を説明する。それを聞いて寧々が肩を落とす。
「何はともあれ、丁度よかったわね、2人とも。」
「えっ・・?」
美代子が言いかけた言葉に、寧々と紅葉が当惑を見せる。
「ガクトとたくみさんの仲直り、七瀬さんとこころちゃんの歓迎会・・まぁ諸々の意味で、これからパーティーをやろうとしていたの・・寧々ちゃんと紅葉ちゃんの歓迎会にもなりそうね・・」
「そうだったの・・みんな、ありがとうね。あたしたちも準備のお手伝いするよ。」
かりんからの説明を聞いて、寧々が気さくな笑みを見せた。
「親切ね。でも大丈夫よ。私が張り切れば済むことだから♪」
美代子は満面の笑みを返すと、上機嫌のままキッチンに向かっていった。その様子に唖然となっていた寧々に、七瀬が手を差し伸べてきた。
「私は北斗七瀬。よろしくね・・」
「天井こころ。よろしくね♪」
七瀬に続いてこころも自己紹介をしてくる。
「あたしは犬神寧々。よろしくね、七瀬さん、こころちゃん。」
寧々も笑顔を見せて、七瀬の手を取って握手を交わした。
街外れの森の中を走る1人の女子高生。彼女の眼からは大粒の涙がこぼれていた。
努力も実らずに成績が出ず、それで親に叱られてたまらず家を飛び出したのである。
「あたしなんて、いなくなっちゃえばいいって思ってるんだ・・きっと・・・!」
込み上げてくる悲しみに打ちひしがれて、さらに失踪する女子。彼女はいつしか森の中の洞窟に入り込んでしまっていた。
「あれ?・・あたし、いつの間にこんなところに・・・」
我に返った女子が周囲を見回し、不安を覚える。洞窟であるにもかかわらず、外からの光が差し込んできているのが不幸中の幸いだった。
振り返って引き返そうとしたときだった。女子は奥からあふれてきていた光に気付き、足を止めていた。それは外から差し込んでくる光とは別種のものだった。
「何なのかな・・あの光・・・?」
その光に導かれるかのように、女子は洞窟の奥に足を踏み入れていく。狭さのある道を彼女は進み、そして通り抜けた。
そこは大きな空洞の広場となっていた。しかし外に通じる道はなく、広場の中央には光り輝く物体が点在していた。
それがいったい何なのか、女子には分からなかった。だがそれは心臓のように鼓動していた。
「何、あれ!?・・光はきれいだけど・・気持ち悪い・・・」
さらなる不安を覚え、女子がこの場を立ち去ろうと後ずさりする。だが踏みつけた草が音を立て、彼女は一気に緊迫する。
神々しく放たれていた光が弱まり、物体から触手が伸びてきた。
「キャアッ!」
悲鳴を上げる女子を触手が捕まえる。必死に振りほどこうとする女子だが、触手の力は強く、逃れることができない。
「イヤッ!放して!助けて!」
必死に声を上げる女子を、触手が徐々に引っ張り込んでいく。触手は物体の中に引っ込み、女子もその中に入り込んでしまった。まるですり抜けたかのように。
その後、物体は鼓動を続けたまま停滞し、光を発しようとしない。しばらくすると、物体はその鼓動を徐々に強めていった。
そして物体から女子が姿を現した。ただし彼女は衣服を身につけておらず、両手と下半身が物体に埋め込まれたままだった。
女子は完全に脱力しており、恐怖を見せることなく呆然としていた。
その女子の体に変化が生じる。その物体と同化するかのように、同じ質の石に変化していっていた。
だが女子はその変化に動じる様子を見せない。一切の反応を見せないまま、彼女は完全に石化に包まれた。
彼女の他にも、同様の形で石化されている女性たちが物体に埋め込まれていた。
これが、これから起きる最大最悪の事件の序章だった。