ガルヴォルスRebirth 第20話「本当の敵」
コウの前に駆けつけたカズヤ、ルナ、ヒナタ。彼らに対してコウが殺気と狂気をむき出しにしてきた。
「コウ・・本気でみんなのことを・・・!」
カズヤがコウに向けて声を振り絞る。辺りには事切れて倒れている人がいた。
「どういうつもりだよ・・誰もお前に何かしようなんて考えてなかったはずだろう!?」
「何もかもがオレを敵に回していく・・だからオレは、敵を全て倒す・・・!」
呼びかけるカズヤだが、コウは敵意を向けるばかりである。
「お前たちも、オレの敵だ・・・!」
コウがいきり立ってカズヤたちに向かってきた。
「ルナ、ヒナタ、どいてろ!」
カズヤはルナとヒナタを引き離すと、デーモンガルヴォルスとなって、コウの突撃を受け止める。
「いい加減に、人の話を聞けって・・敵だなんて勝手に決めつけたら、それこそ敵になってしまうじゃないか・・・!」
「違う・・全てが最初から、オレの敵だった・・・!」
カズヤが投げかける言葉をコウは拒絶する。
「だから勝手に決めんなって!」
カズヤが憤慨して、拳を振るってコウを殴り飛ばす。コウが突き飛ばされて激しく横転する。
「そうやって悪いことばかり勝手に決めて、お前はそれで満足なのかよ・・関係ないヤツまで苦しんでも、お前は平気なのかよ!?」
カズヤがコウに怒号を放つ。彼の怒りの言葉には悲痛さも込められていた。
「決めつけではない・・全てがオレを追い込む・・それを滅ぼさなければ、オレはオレでなくなる・・生きながら死んでいるというもの・・・!」
「だからって・・そんなことで、全てを敵に回すのかよ、お前は!?」
鋭い視線を向けてくるコウに、カズヤがさらに怒号を放つ。
「全てを敵に回して、全てを滅ぼして・・何がいいんだよ・・・!?」
「オレを守るためだ・・オレが陥れられないようにするためだ・・ふざけたマネを受け入れるほど、オレは愚かではない!」
胸を締め付けられるような気分に駆られるカズヤだが、コウは頑なだった。
「オレを脅かすものは、全て叩き潰す!」
コウが言い放ち、全身に力を込めて衝撃を放つ。
「そんなに・・そんなに一方的にみんなを傷つけたいのかよ・・人の命を平気で弄ぶ・・それじゃレイやあのガルヴォルスと変わんないだろうが!」
「オレをアイツと一緒にするな!」
「違うならこっちの話をちょっとでもいいから聞けよ!」
「敵の言葉を受け入れるつもりはない!」
言葉に耳を貸さないコウに、カズヤが怒りを爆発させる。彼の体から紅いオーラがあふれ出してきた。
カズヤが力を込めてコウを押し込む。コウが激しく地面に叩きつけられる。
「こっちの話を全然聞かない、自分の考えを押し付ける、全部を敵と思い込んで傷つけようとする・・それじゃもう、お前に何を言ってもムダだってことだよな・・・!?」
声と力を振り絞って、カズヤがコウに近づいていく。
「だったらお互い、打ち倒して分からせるしかないよな!」
カズヤが言い放つと、コウに向かって拳を振り下ろす。コウは素早く動いて、カズヤの攻撃をかわす。
カズヤがすぐにコウに詰め寄って追撃を仕掛ける。コウも力を込めて拳を叩き込む。
カズヤとコウの攻防は互角のように見えた。しかしルナもヒナタも2人の拳から血がかすかに出てきているのを目の当たりにしていた。
「カズヤ・・コウさん・・・」
「このままじゃ、2人ともボロボロになっちゃう・・すぐに止めたいところだけど・・・」
不安を募らせていくルナとヒナタ。しかし力を高めている2人に割って入ることができないでいた。
「私が・・私が止めないと・・・!」
「待って、ルナちゃん!下手に飛び込んでいったら、逆にルナちゃんが傷ついちゃうよ・・!」
カズヤたちを止めようとしたルナを、ヒナタが呼び止める。しかしルナは引き下がろうとしない。
「今あの2人を止められるのは私だけ・・それに、今の私には力がある・・」
「でもルナちゃん、それは私たちと同じ・・・!」
「今使わないで、いつ使うの!?・・カズヤとコウさんを止める・・カズヤとみんな一緒に帰るために・・・!」
ヒナタの制止を振り切って、ルナが飛び出していった。
「ルナちゃん!」
ルナを追いかけるヒナタがキャットガルヴォルスになる。
「カズヤ!コウさん!」
叫ぶルナの頬に紋様が走る。エンジェルガルヴォルスになった彼女が、カズヤとコウの間に割って入ってきた。
「やめて!」
ルナが2人に向かって両手を伸ばす。彼女の手から放たれた念力で、カズヤとコウが動きを止められる。
「ま、また・・!」
「ルナ、何でオレまで・・!?」
動きを止められて、コウとカズヤがうめく。
「カズヤ・・ゴメン・・こうしないと争いを止められないと思って・・・」
ルナは謝ると、カズヤにかけていた念力だけを解いた。
「まずはコウさんを止めることから・・だから、私・・」
「ルナ・・それはそうだけど、今のコウはもう・・・」
自分の考えを口にするルナだが、カズヤは深刻さを消せない。
「そう何度も・・オレを押さえ込めると思うな・・・!」
そのとき、コウが動きを止められている体に力を込めてきた。彼はルナの念力を強引に打ち破ろうとした。
「お願い、コウさん!もうやめて!みんなは関係ないわ!」
ルナがたまらずコウへの念力を強める。しかしコウはその念力に抗っていく。
「オレはもう2度と、何にも振り回されたりしない!」
怒号を放つコウの体から紅いオーラがあふれ出してくる。彼の体から血があふれてくる。
「オレは敵を全て叩き潰す!」
コウがオーラを放出して、ルナの念力を打ち破った。息を乱しながら、コウがカズヤとルナを睨みつける。
「もうオレを、押さえ込むことはできない!」
コウがいきり立ってカズヤとルナに飛びかかる。カズヤがコウに殴り飛ばされて、その先の壁に叩きつけられる。
「カズヤ!」
叫ぶルナの前にコウが飛び込んできた。コウがルナに拳を叩き込む。
「うっ!」
重みのある痛みを感じて、ルナが顔を歪める。彼女はコウの拳を受ける直前に念力を放って、攻撃の威力を弱めようとした。
(コウさん、本当に力が強くなっている・・力で止めていなかったら、いくら今の私でも・・・!)
心の中でコウの脅威と危機感を痛感していくルナ。
「お前も・・お前もこの手で!」
コウが再びルナに拳を振りかざしてきた。
「コウさん、やめて!」
ルナが背中の翼をはばたかせて、コウに突風を放つ。押されるコウだが、ルナに拳を突き出そうとする。
そこへヒナタが飛び込んできて、ルナを助けようとした。だがルナを抱えたヒナタの左腕にコウの拳が叩き込まれた。
「うわっ!」
悲鳴を上げるヒナタがルナと一緒に横転する。
「ヒナタ!」
ルナがヒナタに悲鳴を上げる。コウに殴られて、ヒナタの左腕が折れていた。
「ヒナタ、大丈夫!?」
ルナが呼びかけるが、ヒナタは腕の痛みに襲われて答えることができない。2人に向かってコウが近づいてくる。
「全てがオレの敵・・お前たちも、ここで・・・!」
コウが駆けてきて、ルナとヒナタに拳を振りかざす。
「コウ!」
そこへカズヤが飛び込んできて、コウと拳をぶつけ合った。衝撃が反発し合って、カズヤとコウがはじき飛ばされる。
「ルナたちは下がってろ!コウはオレが!」
ルナに呼びかけて、カズヤがコウの前に立つ。
「そんなに自分のことばかりなのかよ、コウ・・・!?」
カズヤがコウに対して怒りを募らせていく。
「オレたちは生きて帰るんだ・・生きて、今まで通りの生活を送る・・・!」
カズヤが自分たちの決意と思いを口にしていく。
「もうお前の都合なんて知ったことじゃない!」
「お前・・オレをそこまで・・・!」
言い放つカズヤをコウが睨みつけてくる。
「そんなに思い通りにしたきゃ、勝てばいいってだけのことだ!」
カズヤがコウと再び殴り合いを繰り広げる。拳が互いに体に叩き込まれて、鮮血をまき散らしていく。
「カズヤ・・・コウさん・・・」
2人の争いを見守ることしかできず、ルナが深刻さを募らせていく。
「ヒナタさん!・・ヒナタさんを助けないと・・・!」
ルナは痛めているヒナタの左腕に両手を当てる。彼女は意識を集中して、力を込めていく。
するとヒナタはだんだんと痛みが弱まっていくのを実感していく。やがて左腕の痛みがなくなった。
「えっ・・動く・・腕が直ってる・・!?」
折れていたはずの左手を動かしてみるヒナタ。彼女の腕の骨折は直っていて、彼女の思ったように手が動いていた。
「もしかして、ルナちゃんが直したの・・・!?」
「うん・・私の力、自分の体みたいに分かるみたい・・ケガを直せるって分かって、それで・・」
驚きを見せるヒナタに、ルナが戸惑いを見せながら説明する。
「でも、私でもコウさんを止められない・・今の私でも・・・」
「ルナちゃん・・・」
自分を無力だと思って悲しむルナに、ヒナタも困惑していく。
カズヤとコウは一進一退の攻防を続けて、体力を消耗させていった。
「オレは・・オレは生き残る・・2度と振り回されないために・・・!」
「オレは生きて帰る・・落ち着ける生活に戻るんだ・・・!」
息を乱しながら、コウとカズヤが向かっていく。2人がそれぞれ剣を具現化して手にした。
「これで終わらせてやる・・これで!」
カズヤが叫んでコウに剣を振りかざす。2人の剣が激しくぶつかり合い、同時に刀身が折れた。
コウが折れた剣を持ったまま、カズヤに殴りかかってきた。するとカズヤがコウ目がけて、折れた剣を投げつけてきた。
剣をぶつけられても、コウはダメージを受けない。だがそれがコウに一瞬の隙が生じた。
コウの拳よりも先に、カズヤの拳が彼の体に命中した。
コウの出していた拳はカズヤの横に外れて、彼の顔をかすめるだけだった。
「くっ・・・!」
コウの口から血があふれ出してくる。込み上げてくる息苦しさのあまり、彼はその場に膝をついた。
「バカな・・オレが・・こんな・・!」
吐血しながらうめくコウ。身動きが取れない彼を、カズヤが見下ろす。
「これは、オレがほんのちょっとだけ、運がよかったってことなのか・・・」
カズヤが呼吸を整えながら、コウに言いかける。
「もしも当たってなかったら、オレが今のお前みたいになってたかもしれない・・・」
「ふざけるな・・そんなことで、オレは・・・!」
呟きかけるカズヤを睨みつけるコウ。しかし全身に痛みが走り、思うように動くことができない。
「これ以上はやめてくれ・・でないと、本気で息の根を止めることになるだろうが・・・!」
カズヤがコウを睨みつけて、歯がゆさをあらわにしてくる。彼は理由はどうあれ、コウを手にかけることを快く思っていなかった。
「そうやって、オレを追い込もうとする・・オレは、それが・・・!」
「オレにお前を追い込ませようとしているのはお前だろうが!」
抵抗を見せるコウにカズヤが怒鳴る。
「それが・・オレや他のヤツまで追い込むことになってるんだろうが・・・こっちまで、ウンザリにさせるなよ・・・!」
「自分たちのしていることを棚に上げて・・お前たちは、オレのことを・・・!」
歯がゆさのあまりに目に涙を浮かべるカズヤを、コウは鋭い視線を向けるだけだった。だが未だにコウはからあの自由が利かないでいた。
そのとき、カズヤが背中に突然痛みを覚えて目を見開く。1発の銃弾が彼の体に命中した。
「カズヤ!」
ふらつくカズヤにルナとヒナタが悲鳴を上げる。次の瞬間、2人も体に痛みを覚える。
「うっ!」
ルナとヒナタが痛みに耐えかねて倒れる。2人も体に銃弾を撃ち込まれた。
「な、何だ・・誰かが、撃ってきたのか・・・!?」
倒れかかったカズヤが撃ってきた相手を探る。そこで彼は、周囲に兵士がいて銃を構えているのを目の当たりにした。
「ここで消耗してくれたのは、私にとってこの上ない好都合だったわ・・」
倒れているカズヤたちの前に、レイが姿を現した。
「レイ・・・!」
カズヤがレイに鋭い視線を向ける。しかし彼は思うように体を動かせない。
「あなたたちに麻酔弾を撃ち込ませてもらったわ。普通の人間では致死量のものだけど、ガルヴォルスでは強い麻痺で済むわね・・」
「お前・・オレたちが戦って疲れるのを狙って・・・!」
「そういうことになるわね。今のあなたたちに下手に手を出したら、火傷程度じゃ済まないからね・・」
うめくカズヤにレイが微笑みかける。
「彼らを連れて行きなさい。速水コウは射殺よ。徹底的にね。」
レイの命令を受けて、兵士たちが身動きが取れないコウに銃口を向ける。
「あなたたちは私たちの研究に協力してもらうわ。ガルヴォルスの勝手から世界を守るためにね・・」
「ふざけんな・・自分たちが満足するためだろうが・・・!」
微笑みかけるレイにカズヤが憤りを募らせる。しかし意識がもうろうとなり、カズヤは人の姿に戻ってしまう。
「待て・・お前たちは、オレが・・・!」
コウが声と力を振り絞るが、兵士たちに銃撃されて倒れる。
「今日こそお前の息の根を止める。」
「お前に殺された同胞の仇・・!」
兵士たちが怒りを込めて、コウにとどめを刺そうとした。
そのとき、数人のガルヴォルスたちがレイたちに飛びかかってきた。
「な、何だ、貴様らは!?」
兵士たちがガルヴォルスの乱入に身構える。
「これはまさか、アキラによってガルヴォルスにされた・・・!」
レイがこのガルヴォルスたちについてすぐに察する。彼女が視線を向けた先に、ポイズンガルヴォルスになっているアキラの姿があった。
「絶好の機会と思ったのはお前だけではなかったようだ。」
「アキラ、こんなときに・・・!」
悠然とした態度を見せるアキラに、レイがいら立ちを見せる。
「ここでお前たちを全員葬らせてもらう。危険なのは潰してしまったほうがいいからね。」
アキラは笑みを消すと、右手を振りかざしてレイを突き飛ばす。
「おのれ!」
兵士たちがアキラに向けて銃を構えてきた。しかしアキラは気に留めることなく、レイに向かっていく。
「お前たちのおかげで彼らは無力も同然になった。だからお前を先に・・」
アキラが先にレイにとどめを刺そうと右手を構えてきた。レイが口からあふれている血を手で拭う。
「これであなたとの因縁というものが終わりを迎える・・もうあなたと会うことも、弄ばれることもない・・」
アキラがレイに笑みを見せてきた。
そのとき、アキラが体に激痛を覚える。コウが力を振り絞って、アキラに拳を叩き込んできた。
「オレは・・無力などではない・・・!」
「お前、まだこんな力が・・・!?」
コウに攻撃されたことに驚愕するアキラ。彼はまだ戦いをするには万全の状態ではなかった。
「オレは・・オレはお前たちを許さない!」
コウが怒号とともに紅いオーラを放出してきた。彼は感情のままに力を解放させていた。
「危ない!離れなさい!」
「レイさん!」
声を上げるレイと兵士。コウが放ったオーラは閃光となって、この場を包み込んだ。
次回
「あなたたちも世界のための力となるのよ。」
「そんなに・・そんなにオレたちを思い通りにしたいのか!?」
「もうあなたと会うこともないわ・・」
「さようなら・・」