ガルヴォルスRebirth 第19話「堕天使」
カズヤ、コウ、ヒナタの前でガルヴォルスに転化したルナ。彼女の変貌にカズヤたちが目を疑った。
「ルナちゃん・・その姿・・・!?」
驚愕の声を上げるヒナタ。ルナはカズヤとコウをじっと見つめていた。
「カズヤから離れて・・でないと私、許せなくなる・・・」
ルナが低い声音でコウに言いかける。彼女の言葉と殺気がコウの感情を逆撫でする。
「お前も・・オレの敵になるのか・・・!?」
「カズヤから離れればそれで終わるのよ・・・」
鋭い視線を向けるコウだが、ルナは引き下がらない。
「そんなにオレを・・オレを追い込みたいのか・・・!」
コウがカズヤから離れてルナに飛びかかってきた。するとルナが目つきを鋭くして、翼をはばたかせた。
次の瞬間、コウが突然動きを止めた。突っ込もうとするコウだが、体が動かなくなっていた。
「ど、どういうことだ・・・!?」
「ルナ・・・!?」
うめくコウと、驚愕を募らせていくカズヤ。彼らもヒナタも、コウが動けなくなっているのが、ルナが力を傾けて念力を発動しているからだと分かっていた。
「また、オレが・・こんなことで・・・!」
コウがルナの念力に抗おうとする。束縛から強引に抜け出そうとして、コウの体から血があふれてくる。
「もうやめて・・そうまでしてカズヤや私を・・・!?」
敵意をむき出しにしてくるコウに、ルナが歯がゆさを募らせていく。彼女が意識を傾けて、コウを遠くに飛ばした。
コウがいなくなったのを見届けて、ルナが安堵を覚える。
「ルナ、ちゃん・・・!?」
立ち上がったヒナタがルナに声をかける。彼女に振り返ったルナが我に返る。
「ヒナタ・・カズヤ・・・」
「ルナ・・・お前・・・」
当惑を見せるルナに、カズヤも声を震わせる。ルナがふと自分の両手に目を向けた。
「こ・・・これって・・・!?」
自分の体が人でないものに変わっていて、ルナが驚愕する。
「私も、怪物に・・・」
「ルナちゃん・・落ち着いて・・ルナちゃんはルナちゃんのまま・・」
体を震わせるルナにヒナタが声をかける。するとカズヤがルナに近づいて、彼女を優しく抱き寄せた。
「カ・・カズヤ・・・!?」
突然の抱擁に動揺を隠せなくなるルナ。しかしだんだんと落ち着きを取り戻していく。
「ルナ・・お前に、こんな思いをさせて・・・オレがしっかりしてれば・・・」
「う、ううん・・違う・・カズヤは悪くない・・私があのとき、逃げ遅れて・・」
自分を責めるカズヤをルナが弁解する。
「あのとき、あの怪物に刺されたときに・・・!?」
ルナは自分がガルヴォルスになったきっかけを思い出した。アキラの毒によって自分は怪物になってしまったのだと、彼女は思った。
「それで私、怪物に・・・」
「違う・・ルナちゃんはルナちゃんだよ・・だって心が残ってるから・・」
渋々納得しようとするルナに、ヒナタが呼びかける。彼女に励まされて、ルナが戸惑いを募らせる。
「私、まだ人でいる・・これからも、普通に暮らすことができる・・・」
「ルナ・・・」
「それに、今の私には力がある・・今度は、私がカズヤを助けることができるかもしれない・・・」
決心を固めていくルナに、カズヤが戸惑いを感じていく。
「ルナ・・・お前はムチャしなくていい・・傷だらけになるのは、オレだけで十分だ・・・」
「カズヤ・・・でも・・・」
「いいんだよ・・これは、オレの戦いって意味のほうが強いから・・・」
不安の表情を見せるルナに、カズヤが深刻な面持ちを見せた。
「とにかくルナ、お前はもう無闇に力を使うな・・信じてないわけじゃないけど、これから普通に暮らしていくためにも・・・」
「カズヤ・・・うん・・・」
カズヤの呼びかけにルナが渋々頷く。2人が一緒にガルヴォルスから人の姿に戻る。
「そうと決まったら店に戻るか・・だけど、今日はすっかり疲れちゃったからな・・」
カズヤが肩を落として、ルナに気楽な態度を見せる。ところがヒナタは彼のこの振る舞いが作り物であることに気付いていた。
しかしヒナタはカズヤもルナも呼び止めることができなかった。カズヤだけでなくルナの感情を逆撫でしかねないと、ヒナタは思っていた。
(揺らいでいる・・絶対に揺らいでる・・カズヤも、ルナちゃんも・・・)
表向きに落ち着きを取り戻しているように見えるカズヤとルナを見て、ヒナタは心配を募らせるばかりになっていた。
ルナの念力で遠くに飛ばされていたコウ。人の姿に戻っていた彼は、怒りや憎しみだけでなく、絶望や失望も感じていた。
「オレが・・ここまで追い込まれるとは・・・!」
込み上げてくる様々な感情に揺さぶられていくコウ。
「オレは・・オレは振り回されない・・何にも屈しない・・・!」
降りかかる苦悩を振り払おうと、コウが激情を募らせる。
「レイやカズヤだけでない・・彼女も、オレのことも・・・!」
コウの脳裏にガルヴォルスになって力を見せつけてきたルナの姿がよぎってくる。
「もはや全てが、オレの敵になってしまった・・・何もかも、オレを陥れていく・・・」
心を凍てつかせていくコウの頬に紋様が走る。
「そんなことにはならない・・そんなマネはさせるか!」
ダークガルヴォルスになり、さらに禍々しいオーラをあふれさせていくコウ。彼の体もさらに刺々しいものへと変わりつつあった。
コウに手傷を負わされて、回復を余儀なくされたアキラ。彼は肉体以上に精神的に追い込まれていた。
(ここまで・・ここまでオレが・・・)
コウに対して困惑を募らせていくアキラ。
(こうなっては・・もはや2人、いや、3人がぶつかり合って消耗するのを待つしかない・・私の力を、彼らは大きく超えてしまった・・・)
アキラがカズヤたちの力に脅威を感じていく。
(まさか、オレがガルヴォルスにした者がオレを超えるほどになるとは・・・)
特に自分がガルヴォルスにしたルナに、アキラは緊張を隠せなくなっていた。
「ここに来て、厄介なことばかり増えていく・・だがオレは、こんなことで朽ち果てはしない・・」
野心を感じて笑みをこぼしていくアキラ。彼は改めて、回復を兼ねた高みの見物を決め込むことにした。
喫茶店に戻ってきたカズヤ、ルナ、ヒナタ。しかし店は開けておらず、カズヤもルナも休息を取っていた。
「ルナちゃん、ホントに大丈夫?・・どこか痛いとかない・・・?」
「ううん、大丈夫・・落ち着けていると思う・・・」
ヒナタの心配の声にルナが小さく頷く。
「今日は早めにメシを食べて、早めに寝るかな・・」
カズヤが背伸びをして、奥の部屋に入っていく。
「これじゃ、私が夜ご飯の支度をしたほうがいいみたいだね・・」
「ごめんなさい、ヒナタ・・それじゃ私も・・・」
苦笑いを見せるヒナタにルナが頭を下げる。ルナも奥の部屋で休みに向かった。
「カズヤ・・・ルナちゃん・・・今まで通りならいいんだけど・・・」
カズヤとルナの心配を抱えたまま、ヒナタは夕食の支度をした。
外は夜を迎え、街では明かりと行き交う人々でにぎわっていた。広場では数人の男女がたむろしていた。
「なぁ、今度はどこ行こうか?」
「今度はカラオケなんていいんじゃねぇか?ぶっ通しで歌いまくろうぜ。」
「さんせーい♪」
男女が次の目的地について話していく。
そのとき、1つの人影がその男女の輪の中に足を踏み入れてきた。その人物はコウだった。
「何だ、コイツ・・?」
「何だか怖い感じ・・・」
男女が足を止めて立ち尽くしているコウを見て、不安を感じていく。
「何だよ、お前・・オレたちに何か用なのか・・・!?」
男の1人がコウに詰め寄って睨みつけてくる。するとコウも鋭い視線を投げかけてくる。
「お前たちも、オレを追い込もうとするか・・・」
言いかけるコウの頬に異様な紋様が浮かび上がる。その変化に男女が緊張を覚える。
そしてコウがダークガルヴォルスに変貌した。彼の異形の姿を目の当たりにして、男女だけでなく、周囲の人々も恐怖を覚える。
「バ、バケモノ!?」
「な、何だ、コイツ!?」
男女がコウを目の当たりにして、たまらず逃げ出していく。
「お前たちも、オレの敵でしかない・・・!」
いきり立ったコウが全身からオーラを放出する。衝撃波のように放たれたオーラを受けた人々が、体が砂のように崩れていった。
「た、助けてくれ!やめてくれ!」
しりもちをついた男がコウに助けを請う。その彼にコウが鋭い視線を向ける。
「お願いだから助けて!何でもするから、命ばかりは、命ばかりはお助けを・・!」
必死に頼み込む男をコウが蹴り飛ばす。男は血をまき散らして即死した。
「助けを求めるなら、最初からオレを陥れなければいいのに・・・」
人々の体たらくに呆れて、コウがため息をつく。
「いたぞ、あの怪物だ!」
そこへ数人の警官が駆けつけて、銃を構えてきた。コウがゆっくりと警官たちに振り返る。
「お前たちも、オレを・・・!」
コウが敵意を募らせて、警官たちに近づいていく。
「おとなしくしろ!これ以上暴れるな!」
警官の1人が呼びかけるが、コウは足を止めない。
「撃て!」
警官たちがコウに向けて発砲する。弾丸はコウに命中するが、彼の体は傷つかない。
「バカな・・全然効いていない・・・!?」
「本物の、バケモノ・・・!」
警官たちがコウに恐怖を感じて後ずさりする。
「全てがオレの敵・・全てオレを陥れようとする・・・!」
コウが全てへの憎悪をさらに高めていく。
「全員、オレが叩き潰す!」
コウがオーラを放出して、警官たちの命をも吹き飛ばした。
「もうオレに救いの手を差し伸べてくれる人は誰もいない・・叩きつぶすしかない・・・!」
コウは低く告げると、ガルヴォルスの姿のまま歩き出していく。追い込まれたコウは、全てが敵だと思うようになってしまった。
ルナがガルヴォルスに転化してから一夜が明けた。熟睡したカズヤとルナが起きて、大きく背伸びをした。
「久しぶりに深く寝たような気がするな・・」
「私もそんな感じがする・・昨日までいろいろありすぎたから・・・」
ため息をつくカズヤに、ルナが苦笑いを見せた。
「2人とも起きたね。朝ごはんの準備、できてるよ。」
ヒナタが2人の前に顔を出して声をかけてきた。
「ヒナタ、料理できたとは・・オレとルナはこの店で働いてるから、ある程度はできるけど・・」
「1人暮らしが長いからね。知らないうちにうまくなってたってね・・」
感心の言葉を口にするカズヤに、ヒナタが照れ笑いを見せる。
「これでカズヤの罪滅ぼしにもならない・・わがままでしかないのも分かってる・・でも・・・」
「言うなって・・いちいち蒸し返してもいいことなんて何もないのは、オレもお前も分かってることだろ・・・」
表情を曇らせたヒナタにカズヤが言いかける。
「思い出したくないことなんだから・・・」
「カズヤ・・・ゴメン・・ありがとう・・・」
背を向けるカズヤにヒナタが戸惑いを感じていく。2人の様子を見て、ルナも心を揺さぶられていた。
“昨日夜7時頃に現れ、その場にいた男女を殺害。駆けつけた警官も危害を加えた模様です・・”
そのとき、カズヤたちの耳にTVのニュースが入ってきた。彼らがTVに近づいてニュースに目を向ける。
そしてTVは次に事件の現場の映像を映し出した。その中の姿にカズヤたちが目を疑った。
「おい・・これって・・・!?」
「コウさん・・怪物の姿になった、コウさんだよ・・・!」
振り絞るように声を上げるカズヤとコウ。デーモンガルヴォルスになったコウが、街で無関係な人々を手にかけていた。
コウの暴挙はレイの耳にも届いていた。ガルヴォルスの存在が明るみに出たことに、レイは危機感を禁じ得なかった。
「大変なことになったわ・・コウがここまで敵意を広げていたとは・・・」
コウの映像を見て、レイが頭に手を当てる。
(ルナさんもガルヴォルスになって手を上げたこともきっかけになって・・今のコウは私たちやカズヤくん、ガルヴォルスだけでなく、全てを・・・)
コウの状況と行動を懸念するレイ。
「そろそろ踏み込まないといけないようね・・・」
レイはひとつの考えを遂行することを念頭に置いていた。
「やばいぞ・・これじゃ、本物のバケモノじゃないか・・・!」
コウのした行為にカズヤが憤りを覚える。彼はコウを止めるために外に飛び出そうとした。
「待ってって、カズヤ・・まだ休まったってわけじゃ・・・!」
するとヒナタがカズヤが呼び止めてきた。
「それでもアイツをこのままにできない・・コウのヤツ、見境なしに暴れて、人殺しを繰り返すようになっているんだ・・・!」
「でも今のコウと戦ったら、いくらカズヤでも無事じゃ・・!」
声を振り絞るカズヤにヒナタが言い返す。
「私も行く・・カズヤと一緒に行く・・・」
そのとき、ルナも外に出ることを申し出てきた。
「ルナちゃんまで・・君も人間として、これからを過ごしていかないと・・・!」
「ありがとう、ヒナタ・・でも、カズヤがいないのに普通に過ごすなんてできない・・・」
心配の声をかけるヒナタだが、ルナは考えを変えない。
「ゴメン、ヒナタ、カズヤ・・普通に過ごしていきたいから、今は怪物になった力を使うよ・・」
「ルナ・・それいいのか、ホントに・・・?」
「うん・・私は、自分を見失ったりしない・・力に振り回されたりしない・・・」
戸惑いを見せるカズヤに、ルナが自分の気持ちと決意を口にする。
「もしも私が暴走することがあったら・・私を止めて、カズヤ・・殺してしまっても構わない・・」
「殺してしまって構わないなんて・・悲しいことを言うなって・・・」
真剣な眼差しを送るルナに、カズヤも真剣な面持ちで言い返す。
「これから生きていくんだろ、これから・・だったら死ぬわけにいかないだろう・・」
「カズヤ・・うん・・そうだね・・・」
カズヤに言われてルナが戸惑いを感じながら頷いた。
「生きるために、オレたちはやるんだ・・コウを止めるのも、無事にここに帰ってくるのも・・」
「カズヤ・・・」
「もう、2人とも・・それなら私も行くしかないじゃない・・」
2人の決心に触発されて、ヒナタが自分の頬を両手で叩く。
「みんなで行こう。そしてみんなで帰ってこよう♪」
「ヒナタ・・うん・・」
ヒナタの呼びかけにルナが頷く。カズヤたちはコウを止めに外に飛び出した。
一夜が明けてもコウは残虐を繰り返していた。彼の行動に人々は恐怖におののいて逃げ続けていた。
「オレを追い込むな・・オレを陥れるな・・・!」
自己防衛の本能の赴くままに行動するコウ。歩いていく彼に向かって、カズヤ、ルナ、ヒナタがやってきた。
「コウ・・お前・・・!」
「もはや全てがオレの敵になった・・・」
緊迫を見せるカズヤに、コウが鋭い視線を向ける。
「全員、オレが叩き潰す!」
全身からオーラと衝撃を巻き起こすコウ。全てへの憎悪を、彼はカズヤたちにもぶつけようとしていた。
次回
「全てを敵に回して、全てを滅ぼして・・何がいいんだよ・・・!?」
「オレを脅かすものは、全て叩き潰す!」
「オレたちは生きて帰るんだ・・」
「もうお前の都合なんて知ったことじゃない!」