ガルヴォルスRebirth 第18話「転生」

 

 

 アキラが伸ばした触手に刺されたルナ。倒れた彼女にカズヤが駆け寄った。

「ルナ!大丈夫か、ルナ!?

 カズヤが呼びかけるが、ルナは目を覚まさない。

「ルナ・・・お前!」

 カズヤはルナを地面に下ろすと、アキラに振り返って怒りを向ける。

「オレはお前を絶対に許さない!ここでぶっ殺してやる!」

「オレは彼女に力を与えただけさ。世界を変えられる力、自分を貫ける力をね。」

 怒号を放つカズヤだが、アキラは悠然とした態度を見せていた。

「ガルヴォルスになれたことを誇りに思うことになる・・」

「ふざけんな!」

 喜びを募らせていくアキラにカズヤが飛びかかる。回避を取ろうとしたアキラだが、カズヤが繰り出した拳をかわしきれずに顔を殴られる。

 口から血をあふれさせながら、アキラが激しく突き飛ばされる。カズヤはそのアキラを追走して、再びアキラを殴り倒す。

 重みのある打撃を立て続けに受けて、アキラが悶え苦しむ。

「オレが・・ここまでボロボロにされるとは・・・!」

 激痛にさいなまれて、アキラが顔を歪める。まともに動けなくなっている彼の前を、カズヤが見下ろす。

「もう2度と、ふざけたマネができないようにしてやる・・・!」

 カズヤが声と力を振り絞って、アキラに向けて拳を構える。アキラはとっさに動いて、カズヤの拳を何とかかわす。

 カズヤがすぐに視線を移して、アキラを追撃しようとする。そのとき、アキラの触手が地面から飛び出してきて、カズヤの足に巻きついてきた。

「くっ!」

 足を引っかけられてバランスを崩して、カズヤが倒れそうになる。だがすぐに踏みとどまって、彼はアキラに視線を戻す。

「オレが憎まれる覚えはないんだけど・・十分に彼女のためになっているというのに・・・」

 アキラが悠然とした態度を見せるが、カズヤの感情を逆撫でするだけである。

「彼女も本当の自分を見出すことになる・・自分を貫き通せることのすばらしさを実感することになる・・」

 アキラが喜びの言葉を口にしていたところへ、カズヤが拳を叩き込んできた。この一撃を受けて、アキラが大きく突き飛ばされた。

「もう何も言うな・・声を聞いているだけではらわたが煮えくり返る・・・!」

 込み上げてくる怒りを噛みしめるカズヤ。彼は落ち着きを取り戻そうとしながら、横たわっているルナに歩み寄った。

「ルナ・・・!」

 人の姿に戻ったカズヤがルナに再び呼びかける。

「ルナ・・起きてくれ、ルナ!」

 しかしそれでもルナは目を覚まさない。その2人の前にヒナタが駆けつけてきた。

「カズヤ・・ルナちゃん・・・!?

 ヒナタも眠っているルナを見て深刻さを覚える。

「カズヤ・・ルナちゃんに、何が・・・!?

 ヒナタがカズヤに声をかけようとしたときだった。眠っていたルナが突然目を覚ました。

「ルナ・・・!?

「ルナちゃん・・・!?

 起き上がってきたルナに、カズヤもヒナタも驚きを隠せないでいる。

「カズヤ・・ヒナタ・・私・・・」

 ルナが当惑を見せて辺りを見回す。

 そのとき、ルナの頬に一瞬、異様な紋様が浮かび上がった。ルナ自身は気づかなかったが、カズヤとヒナタは目撃していた。

(ルナちゃん・・あなた、まさか・・・!?

 ルナが見せた異変に目を疑うヒナタ。ルナを追い込みたくなくて、ヒナタもカズヤも問い詰めることができなかった。

 

 ルナに毒を注ぐことができたアキラだが、カズヤに打ちのめされてしまい、何とか逃げ切った。

「ここまで・・ここまでオレが痛めつけられるとは・・・!」

 激痛に打ちひしがれながらも、アキラはだんだんと落ち着きを取り戻していく。

「でもこれで、彼女もガルヴォルスになった・・どのような力を発揮してくるか、楽しみだ・・」

 ルナのことを思い出して、アキラが笑みをこぼす。

「ここまでの手傷だ・・傷を治すのも含めて、ここはしばらく高みの見物だ・・」

 アキラが立ち上がり、休息と様子見を決め込んだ。

「相変わらずのやり方ね、アキラ・・」

 そこへ声がかかって、アキラが足を止める。振り向こうとしない彼だが、現れたのがレイということは分かっていた。

「お前こそ、ここぞというところで出てくるな、レイ・・」

「私には私のやり方がある。あなたにあなたのやり方があるようにね・・」

 互いに悠然とした態度を見せるアキラとレイ。

「どうやら追い込まれたのはあなたのほうね。」

「それを絶好のチャンスと思って、オレを葬りに来たのか?」

 微笑みかけるレイに対し、アキラが笑みを消す。彼の周りを、物陰に身を潜めていた兵士たちが取り囲んできた。

「あなたは人間をガルヴォルスにできる能力を備えている。そのために私たちは、多くのガルヴォルスを敵に回すことになったわ・・」

 レイが語りかけると、兵士たちが銃を構えてきた。

「すぐに始末すればよかった・・でもその後悔もこれで終わるわ・・」

「後悔?お前がオレに後悔しないといけないことは何もないよ。」

 肩を落とすレイにアキラが言いかける。彼の頬に紋様が走る。

「お前たちが何をしても、オレがオレの考えに基づくことには変わりはない。」

 ポイズンガルヴォルスになったアキラに向けて、兵士たちが一斉に発砲した。アキラは素早く飛び上がって、射撃を難なくかわす。

「疲弊していても、人間であるお前たちに後れを取ることはない。」

 アキラは笑みを取り戻すと、兵士たちに向けて触手を伸ばしてきた。

「近づけさせないで。彼の毒を受ければガルヴォルスになるわ。」

 レイの指示を受けて、兵士たちが射撃で触手を阻む。

「少しは知恵を付けているということか。」

 アキラはレイたちを見て笑みをこぼしていく。

「しばらく様子を見たらどうだ?高みの見物はお前のほうが専売特許だろう?」

 アキラはそういうと、レイたちの前から姿を消した。

「様子を?・・もしかして・・・」

 彼の言葉を気にして、レイは考えを巡らせた。

「アキラの言いなりになるのはいい気がしないけど、見届けるのも悪くないけどね・・カズヤくんも、ルナさんも・・」

 レイは笑みを取り戻すと、兵士たちと一緒に一時撤退した。

 

 喫茶店に戻ったカズヤたち。そこでルナは奥の部屋に行って横になった。

 カズヤもヒナタもルナに異変について打ち明けなかった。2人ともルナを追い込むようなことをしたくなかった。

「ルナちゃんに話したほうがいいのかどうか・・こういうのはそのうち分かっちゃうものだから・・」

「だったら早めに言ったほうがいいかも・・遅かれ早かれ、気づいて思いつめることになるなら・・・」

「待って・・そうだとしても、それを決めるのはルナちゃん自身だよ・・」

「アイツの知らないことじゃないか・・」

 不安を募らせていくヒナタとカズヤ。2人とも思い切ってルナに打ち明けることができないでいた。

「どうするにしても、今分かってることがある・・ルナをあんな目にあわせたアイツは、絶対に許さないってことだ・・」

「カズヤ・・・」

 アキラへの怒りを感じていくカズヤに、ヒナタが戸惑いを感じていく。

「単に許せないってだけじゃない・・アイツをほっといたら、どんどんガルヴォルスが出てきてしまう・・・!」

「そうだね・・このままじゃ、人がどんどんガルヴォルスにされてしまう・・」

 カズヤが口にした憤りに、ヒナタが小さく頷いた。

「とにかくオレはアイツを探してくる・・見つけ出して、2度とふざけたマネができないようにしてやる・・・!」

「カズヤ・・・」

「ルナのことは任せたぞ・・・」

 戸惑いを見せるヒナタに呼びかけると、アキラを探しに喫茶店を飛び出していった。

(カズヤが・・私に頼みごとを・・・)

 カズヤから投げかけられた言葉に、ヒナタはさらに戸惑いを感じていた。

「カズヤ・・・」

 そのとき、目を覚まして起き上がってきたルナが声をかけてきた。

「ルナちゃん、気が付いたんだね・・」

「うん・・カズヤ、あのガルヴォルスを追っていったんだね・・」

 一瞬驚きを覚えるヒナタに、ルナが当惑を見せる。

「あのガルヴォルス、何か企んでいるかもしれない・・あの怪物たちを利用して、カズヤを追い込もうとしているのかも・・」

 カズヤの心配を募らせていくルナ。

「行かないと・・何か、イヤな予感がする・・・」

「ルナちゃん、待って・・!」

 カズヤを追いかけようとするルナを、ヒナタが呼び止めてきた。ルナが口にした言葉で、ヒナタが感じていた不安が一気に膨らんだ。

「ルナちゃんはさっきまで気絶してたんだよ・・もうちょっと休んでたほうが・・」

「ありがとう、ヒナタ・・でも行かないと・・カズヤに何かあったら・・・」

「でも、ルナちゃんに何かあったら、それこそカズヤが・・・!」

「ルナちゃん・・でも、それじゃルナちゃんが・・・!」

 カズヤを心配するルナと、ルナを心配するヒナタ。ヒナタはルナが傷つくことよりも、彼女が自分のことで絶望してしまうことを恐れていた。

「今はここで待ってよう、ルナちゃん・・カズヤのために・・」

「でも・・でもやっぱり・・・!」

 ヒナタの制止を振り切って、ルナはカズヤを追って外に飛び出した。

「ルナちゃん!」

 ヒナタも慌てて喫茶店を飛び出していった。

 

 ルナやカズヤたちの様子をうかがおうとしていたアキラ。彼は一路喫茶店に向かっていた。

「そろそろガルヴォルスとしての姿になっているだろうか・・」

 ルナの変貌を期待して、アキラが笑みをこぼす。

「中にいればいいけど・・彼女も彼もどんな気分になっていることか・・」

 アキラが喫茶店に近づこうとした。そのとき、強い気配を感じてアキラは足を止めた。

「この感じ・・彼じゃない・・もしかして、彼女・・・?」

 振り返ったアキラだが、彼に近づいてきていたのはカズヤでもルナでもなく、コウだった。

「あれは確か・・レイが手を焼かせている彼か・・」

 コウを見て笑みをこぼすアキラ。彼はコウのことも耳に入れていた。

「もしかして君が、速水コウくんかな?はじめまして。君にも会うことができて嬉しいよ。」

 アキラがコウに向けて声をかける。するとコウが足を止めて鋭い視線を向けてきた。

「何だ、お前は?・・オレに何か用か・・・!?

 コウがアキラに低く告げてきた。

「お前もオレを陥れようというのか・・・!?

 怒りをあらわにしたコウがダークガルヴォルスになった。

「やはり。君があの危険なガルヴォルスか・・」

「オレを追い込む敵は全て叩き潰す・・1人残らず・・・!」

 悠然とした態度を崩さないアキラに、コウが敵意を向ける。

「君みたいに頑固一徹な危険人物とは、あまり関わり合いにはならないな。」

 アキラが言いかけると、周囲から数人のガルヴォルスたちが飛び出してきた。

「彼を相手に存分と力を確かめるといい。」

 コウをガルヴォルスたちに任せて、アキラはこの場を離れようとする。ガルヴォルスたちがコウにつかみかかってきた。

「邪魔だ!」

 コウが全身から紅いオーラを放出して、ガルヴォルスたちを吹き飛ばした。この瞬間に驚きを覚えて、アキラが足を止めた。

「逃がさない・・敵はオレが残らずに叩きつぶす・・・!」

「本当に・・一筋縄ではいかないようだ・・」

 鋭く言いかけてくるコウに、アキラが振り返ってきた。アキラの姿がポイズンガルヴォルスとなる。

「オレは今はお前の相手をする気にはならないんだけど・・」

 アキラはため息をつくと、触手を出してコウを狙う。だがコウの放つオーラによって触手が弾かれる。

「オレは負けるわけにはいかない・・お前にも、アイツにも・・・!」

 コウはアキラだけでなく、カズヤにも強い敵意を向けていた。アキラに向かって飛びかかるコウに、ガルヴォルスたちが飛びついてきた。

「お前のようなヤツの相手をするほど、オレは危険が好きではないので。」

「待て!逃げるな!」

 きびすを返したアキラに怒号を放つコウ。しがみついてくるガルヴォルスを、コウは次々と殴り飛ばしていく。

 コウが真っ直ぐにアキラを目指していく。身を潜めていくアキラだが、コウの本能は彼の居場所を捉えていた。

「本当にしつこいよ、お前は・・」

 アキラはため息をつくと、コウの突撃を予測してかわして、即座に彼の背後を取った。そしてアキラはコウの背中に触手を突き立てた。

「オレの毒はガルヴォルスの力を活性化させるものだけでなく、ガルヴォルスを死に至らしめるものもある。」

 アキラがコウに毒を注ぎ込んでいく。次の瞬間、コウが体のしびれを覚えて動きを鈍らせる。

「ぐっ!・・これは・・・オレは・・・!」

「ほう?致死量の毒を与えたつもりだったが、麻痺だけで済むとは・・」

 うめくコウを見下ろして、アキラが笑みをこぼす。抗おうとするコウだが、麻痺のために体の自由が利かなくなっていた。

「大人しく眠ったほうがいいよ。苦しんで死ぬことになるから・・」

「こんなことで・・オレが倒れるものか!」

 言いかけるアキラの前で、コウが全身からオーラをあふれさせてくる。同時にコウの体の筋肉が膨大して、強引に体を突き動かそうとする。

「オレは、全ての敵をこの手で叩き潰す!お前も!」

 コウが立ち上がってアキラに迫ろうとする。アキラがコウに畏怖を感じていく。

「バカな・・オレの毒をはねのけた・・・!?

 一気に危機感を膨らませて、アキラが後ずさりする。

「もう小細工はさせない・・お前は必ずオレが!」

 コウが右手を握りしめて拳を振りかざす。

「うっ!」

 重みのある一撃を受けて、アキラが大きく吹き飛ばされる。コウは敵意を募らせたまま、アキラを追いかけていった。

 

 アキラを探すカズヤが、街中を駆けまわっていく。その途中、彼はアキラとコウの気配を感じ取っていた。

(もしかして、アイツとコウが戦ってるんじゃ・・アイツのやり方でコウ、怒りで我を忘れてるんじゃ・・・!?

 コウの性格とアキラのやり方を考えて、カズヤが危機感を覚える。

(とりあえず、そっちに行ってみるか・・コウとも、いつかやり合わないといけなくなりそうだし・・)

 カズヤが思い立って、気配のしたほうに向かっていく。

 そのとき、カズヤの前にアキラが飛ばされてきた。アキラは瀕死の状態になっていて、自力で立ち上がれないほどになっていた。

「お、お前・・!」

 カズヤがアキラを見て驚きの声を上げる。するとアキラを追ってコウも飛び込んできた。

「コウ!」

 カズヤがとっさにデーモンガルヴォルスになって、コウの突撃をかわす。

「また見境なしになっているのかよ!」

「お前も・・お前もオレが倒す!」

 声を荒げるカズヤにコウがつかみかかる。カズヤがコウにそのまま塀の壁に叩きつけられる。

「ぐっ!・・この・・!」

 コウの腕から抜け出そうとするカズヤだが、コウに押し込まれて身動きが取れなくなっていた。

 

 カズヤを探しに飛び出したルナと、彼女を追いかけてきたヒナタ。2人もカズヤとコウのいる街中にたどり着いた。

「カズヤ!」

 ルナが呼びかけると、カズヤが彼女が来たことに気付いて驚きを覚える。

「いけない・・このままじゃカズヤが・・・!」

「待って、ルナちゃん!ここは私が!」

 飛び出そうとしたルナを呼び止めて、ヒナタがキャットガルヴォルスになってカズヤを助けに向かう。

 ヒナタは横からカズヤを助け出そうとする。彼女に気付いたコウが右腕を振りかざしてきた。

「うっ!」

 ヒナタがコウになぎ払われて、激しく横転する。

「ヒナタ!」

 ルナが叫びをあげて、ヒナタが人の姿に戻る。

「スピードがある・・パワーも今まで以上に・・・!」

 全身に痛みを感じながら、ヒナタがうめく。コウがカズヤをつかんだまま地面に押し付ける。

「コウ、いい加減にしろ・・そうまでして、みんなを傷つけたいのかよ・・・!?

「オレは敵を倒す・・それだけだ・・・!」

 問い詰めるカズヤだが、コウは聞かずに彼を押し付けていく。

「やめて・・カズヤを傷つけないで・・・!」

 ルナがコウに対して悲痛の声をあげる。しかしコウはカズヤから手を離さない。

「これ以上、カズヤを追い込まないで・・・!」

 そのとき、ルナの頬に異様な紋様が浮かび上がってきた。この異変に気付いて、コウがカズヤを押し付ける手を止めた。

 次の瞬間、ルナの姿も変化を遂げた。彼女の背中からは白い翼が生えてきていた。

「その姿・・まさか・・!?

「ルナ・・・!?

 コウもカズヤも驚愕を見せる。ルナはついにガルヴォルスへの転化を果たしてしまった。

 

 

次回

第19話「堕天使」

 

「私も、怪物に・・・」

「今度は、私がカズヤを助けることができるかもしれない・・・」

「もはや全てが、オレの敵になってしまった・・・」

「全員、オレが叩き潰す!」

 

 

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