ガルヴォルスRebirth 第16話「毒」

 

 

 一瞬にしてルナをコウから救い出したカズヤ。彼の体からは紅いオーラがあふれてきていたが、抱えているルナに危害を及ぼしていなかった。

「何だ、この感じは!?・・強いのに、痛々しくない・・・!?

 カズヤから感じられる気配に息をのむコウ。彼が感じているのは脅威や憎悪以上に疑念のほうが強かった。

「ルナ、もう離れてろ・・何度も助けるのはいい気がしないから・・・」

「ゴメン、カズヤ・・ありがとう・・・」

 カズヤがルナを下ろして下がらせる。カズヤは視線をルナからコウに戻した。

「そんなにオレを敵に回したいのか・・・?」

 カズヤがコウに向かって低く告げる。

「だったらオレも迷わない・・オレもお前を敵と見る・・・!」

 カズヤは言いかけると、コウの前から突然姿を消した。

「何っ・・!?

 目を疑ったコウが、次の瞬間、強く突き飛ばされる。コウが岩に叩きつけられて吐血する。

「オレが、全くついて来れなかっただと・・・!?

 コウが体を起こして驚愕を口にする。彼はカズヤに攻撃されたことには気づいていた。

 さらにカズヤが飛び込んできて、コウの体に拳を叩き込んできた。また重みのある一撃を受けて、コウが目を見開く。

「これ以上、オレの話を聞かずに攻撃してくるなら・・・!」

 カズヤがコウに続けて拳を叩き込んでいく。コウが痛みとともに憎悪を募らせていく。

「オレを・・オレを陥れるな!」

 激高したコウが全身から紅いオーラを放出する。カズヤは押されるがすぐに踏みとどまる。

 カズヤが再び前進して右手を強く握りしめる。

「陥れられたり傷つけられたくないのは、こっちだって同じなんだよ!」

 カズヤが力を込めて拳を繰り出した。彼の一撃を受けて、コウが強く突き飛ばされた。

 遠くへ飛ばされて、コウはカズヤとルナの視界から消えた。

「カズヤ・・・大丈夫・・・!?

 ルナが出てきてカズヤに声をかけてきた。

「ルナ・・・」

 カズヤが肩の力を抜いてから、ルナに振り返った。

「オレは・・・」

 声をかけようとしたときだった。カズヤの姿が突然ガルヴォルスから人に戻った。

「あれ・・・?」

 意識を保てなくなって、カズヤがふらついて倒れる。

「カズヤ!」

 ルナが慌ててカズヤに駆け寄る。

「カズヤ、どうしたの!?カズヤ!」

 ルナが呼びかけるが、カズヤは意識を失っていて何の反応も見せない。

「カズヤ・・・!」

 突然のカズヤの出来事にルナは悲痛さを膨らませるばかりとなっていた。

 

 脅威の力を発揮したカズヤに圧倒されて、遠くまで飛ばされたコウ。人間の姿に戻っていたコウは、怒りを膨らませていた。

「オレが・・何もできずにやられるなんて・・・!」

 カズヤにやられた屈辱に感じて、コウが憤りを込めて地面に両手を叩きつける。

「認めない・・認めるわけにいくか!」

 激高をあらわにして絶叫を上げるコウ。彼の怒号が虚空にこだましていった。

 

 カズヤの気配を感じ取って、彼とルナのところへ向かっていくヒナタ。

(カズヤ・・何が起こったっていうの・・・!?

 カズヤのことを心配するヒナタ。彼女もカズヤが発揮した力を感じ取っていた。

(さっきの気配・・カズヤっぽかったけど・・強いっていうより、少しおかしかった感じ・・)

 ヒナタもカズヤの力に疑問を感じていた。そして彼女は海岸の岩場にたどり着いた。

「カズヤ、目を覚まして!カズヤ!」

 そこでヒナタはルナの声を耳にした。彼女はキャットガルヴォルスから人の姿に戻って、2人の前に駆けつけた。

「ヒナタ!?

「ルナちゃん!・・カズヤ、どうしたの!?

 声を上げるルナにヒナタが問いかける。

「カズヤが突然倒れて、目を覚まさないの・・・!」

 ルナの話を聞いて、ヒナタがカズヤに目を向ける。彼女はカズヤのかすかな吐息を耳にしていた。

「眠っているだけみたい・・疲れて休んでいるだけかも・・」

「大丈夫、なのかな・・・」

 ヒナタが安心を見せるが、ルナは心配を拭えない。

「とにかく店に戻ろう・・ここにいても・・」

「うん・・私が運ぶよ。ルナちゃんもムリしないで・・」

 ルナの呼びかけにヒナタが頷く。ヒナタはカズヤを抱えて、ルナと一緒に店に向かって歩き出した。

 

 カズヤ、コウ、ヒナタ。ガルヴォルスとなった彼らに、レイたちは手を焼かされていた。

「ここまでカズヤたちが私たちを脅かしてくるとは・・」

 カズヤたちと部下の兵士たちの交戦の映像を見て、レイがため息をつく。

「ここまで来るとさすがに私の許容範囲外ね・・放置するわけにいかなくなってきた・・」

 レイが笑みを消して、目つきを鋭くする。

「彼がうまく、カズヤくんたちと対面してくれたら・・・」

 レイはふと1人の人物のことを思い出していた。

 

 カズヤを連れて喫茶店に戻ってきたルナとヒナタ。店は開けていなかったため、誰も来てはいなかった。

「帰ってきたんだね、私たち・・」

「とりあえず、ね・・」

 安心して深く肩を落とすヒナタに、ルナが苦笑いを浮かべる。ヒナタが奥の部屋に行って、眠っているカズヤを横にした。

「きっとすぐに起きるよね。カズヤ、ホントに丈夫だから・・」

「それは、そうだけど・・・」

 ヒナタが励ましの言葉を送るが、それでもルナは不安を拭えない。

「まずはカズヤが目を覚まさないことにはってとこね・・」

 カズヤに目を向けて、ヒナタは深刻さを感じていく。

「ルナちゃん、カズヤは私が見てるから、今はルナちゃんも休んでて・・」

「ううん・・私、カズヤのそばにいる・・・」

 ヒナタが呼びかけるが、ルナはカズヤから離れようとしない。

「ルナちゃん・・分かった。目が覚めたら知らせてね・・」

 ヒナタはルナに声をかけてから、1度部屋を出ることにした。

「カズヤ・・・」

 カズヤの心配を募らせていくルナ。彼女の後ろ姿を見て、ヒナタは複雑な気分を感じていた。

 しばらくして、カズヤが意識を取り戻して、体を起こしてきた。

「カズヤ・・・!?

「オレ・・・ルナ・・・」

 動揺を見せるルナの前で、カズヤが辺りを見回す。

「よかった・・よかったよ、カズヤ!」

 ルナが喜んでカズヤに抱き着いた。突然のことに当惑したカズヤだが、何とか状況をのみ込んだ。

「オレ、あのときに気絶しちゃったのか・・・」

「うん・・私も気が気でなくて・・ヒナタが来てくれなかったら、どうしていたのか・・・」

「ヒナタが・・・!?

 ルナが口にした言葉にカズヤが眉をひそめる。彼は部屋の外で待っているヒナタを目にする。

「ヒナタも一緒にあなたをここまで運んできたの・・・いけなかったかな・・・?」

「いいよ、今さら・・許しちゃいないのは変わってないし・・」

 気まずくなるルナに、カズヤがため息まじりに答える。

(やっぱり私のことを嫌ってるね、カズヤは・・何を今さらってことだけど・・)

「カズヤ、私が思ってた通り、目が覚めたね・・」

 心の中で呟いてから、ヒナタがカズヤとルナに声をかける。カズヤから睨まれたのを、ヒナタは当然だと割り切っていた。

「それじゃ私は帰るね。何かあったら知らせてね。すぐに駆けつけるから・・」

 カズヤとルナに言いかけると、ヒナタは喫茶店を後にした。

「ヒナタ・・・」

 ヒナタとカズヤ、2人の心境の板挟みを感じて、ルナは深刻さを募らせていた。

 

 人気のない工場跡地。その中央で数人の男たちが倒れていて、1人の男が逃げ惑っていた。その男を異形の怪物が追っていた。

「やめてくれ!助けてくれー!」

「逃げることはない。別に命を奪おうというわけではない。」

 悲鳴を上げる男に怪物が笑みをこぼす。

「ウソを言うな!ならなぜみんな・・!」

 男が周りを見てさらに叫ぶ。男たちは倒れたまま動かない。

「別に殺しちゃいない。時期に目を覚ます。」

 怪物が不敵な笑みを浮かべて、倒れている男たちに目を向ける。

「お前・・何をしたんだよ・・・!?

 男が怖がって怪物から後ずさりする。次の瞬間、怪物が1本の触手を出して、男の体に突き立てた。

「うっ!」

 触手を体に刺されて、男がうめく。怪物が触手を通じて、男に何かを送り込んでいく。

「お前たちにも、オレみたいな力を与えてやるよ・・」

 笑みを強める怪物の前で、男も倒れて動かなくなった。

「これでまた、オレの仲間が増える・・」

 怪物が男たちを見回して、笑みをこぼしていく。

「もっとだ・・もっと増やさないと・・」

 怪物がさらに自分の目的を進めようと企んでいく。

「そういえば最近、腕の立つガルヴォルスが出てきているようだな・・どのようなヤツか確かめておくか・・」

 怪物は人間の男の姿になって、この工場跡地を後にした。

 男がいなくなって少しすると、倒れていた男たちが突然起き上がった。

「何だ、こりゃ・・・!?

「力が・・力がすごく湧き上がってくる・・・!」

 男たちは自分たち自身に今までにない力を感じて、喜びを覚えていた。

 

 喫茶店に戻ってきたカズヤとルナ。カズヤはだんだんと落ち着きを取り戻しつつあった。

「カズヤ、大丈夫・・・?」

「あぁ・・もうだいぶ楽になった・・・」

 ルナからの心配の声に、カズヤが深呼吸をしてから答えた。

「オレ、これからどうするのがいいんだろうか・・このままオレのままでいればいいのかな・・・?」

「カズヤ・・・カズヤはこれからも、カズヤの思った通りにしていけばいいよ・・カズヤは何も悪くはないんだから・・・」

「ルナ・・・昨日、オレがお前にやったことも・・・」

「うん・・あれは、私が受け入れたことだから・・・」

 カズヤとルナが昨晩の抱擁を思い出す。カズヤが自分がヒナタから受けた仕打ちの苦しみをルナに思い知らせようとしたのが始まりだった。ルナはそんなカズヤの激情を抗わずに受け止めた。

 2人は抱擁を交わし、交わりを持つことになった。

「カズヤは、これからもカズヤのままでいて・・そうするのがカズヤのためじゃないかな、きっと・・・」

「ルナ・・・」

「もしも邪魔なら、私は離れているけど・・・」

「いや、それはしなくていい・・むしろ、オレのそばにいてほしい・・・」

 カズヤがルナに言いかけて、彼女を抱き寄せてきた。突然の抱擁にルナが戸惑いを覚える。

「ルナがいたほうが落ち着く・・そんな気がするんだ・・・」

「カズヤ・・・」

「これは、オレのわがままなのかな・・・」

「だとしても、カズヤはずっとわがままをされてきたから・・・」

 ルナからの優しさを受け止めて、今度はカズヤが戸惑いを見せた。

「オレはそのわがままがどれほど馬鹿げてるものなのかを知ってる・・だからわがままを押し付けて、平気でいるつもりはない・・・」

「私も、自分のわがままをバカバカしく思うよ・・」

 カズヤの言葉を聞いて、ルナが物悲しい笑みを浮かべた。

「さて、すっかり店を開けちゃった・・仕事しないと・・」

「カズヤ、まだ休んでいたほうが・・」

 立ち上がるカズヤを、ルナが心配して呼び止める。

 そのとき、カズヤがふと動きを止めて緊張を浮かべてきた。

「どうしたの、カズヤ・・・?」

「この感じ・・またガルヴォルスが現れた・・・!」

 ルナが問いかけると、カズヤが声を振り絞るように答える。

「コウさん・・・?」

「いや、コウでもヒナタでもない・・別のヤツだ・・近づいてきている・・・!」

 カズヤが喫茶店を飛び出して外に出る。ルナも続いて外に出た。

 2人のいるほうに向かって、1人の男が歩いてきていた。

「アイツか・・・!」

 カズヤはその男がガルヴォルスであると直感していた。男もカズヤのことに気付いていた。

「いたいた・・お前、ガルヴォルスだな・・」

 男が不敵な笑みを浮かべて、カズヤとルナを見つめる。

「オレたちに何の用だ・・もしかして、アンタもレイってヤツの仲間か・・・!?

「レイ?木崎レイのことか?懐かしい名前を聞いたな・・」

 カズヤの問いかけを聞いて、男がさらに笑みをこぼした。

「オレは1度レイの下で働いたことがあった。だがオレをモルモット扱いしてきたから、仕事の縁を切ったが・・」

「そのアンタが、オレに用があるのか・・・!?

「最近噂を耳にしてな・・とんでもない力を持ったガルヴォルスが出てきたと・・」

 目つきを鋭くするカズヤに答えると、男の頬に異様な紋様が浮かび上がってきた。

「とりあえず自己紹介をしておこう。オレの名は毒島(ぶすじま)アキラ。ご覧のとおり、ガルヴォルスだ・・」

 男、アキラが名乗ると、異形の怪物へと変貌した。

「やっぱりガルヴォルスか・・!」

 カズヤが身構えて、ルナが後ずさりする。

「とりあえずお前の力を見せてもらおうか。」

 アキラが笑みを強めて、カズヤたちに迫ってきた。

「ルナ、離れてろ!」

 ルナを引き離して、カズヤもデーモンガルヴォルスになる。アキラが伸ばしてきた両手を、カズヤが受け止めて組み付く。

「どうした、こんなものか?それとも力を出し切っていないのか?」

 アキラが嘲笑すると、カズヤを押し切って突き飛ばす。カズヤは踏みとどまってアキラを見据える。

「少しは本気を出してもらわないと、オレが見極められないではないか・・」

「お前も、レイと同じみたいだな・・自分の思い通りにするために、他のヤツを平気で犠牲にする・・・!」

 言いかけるアキラにカズヤがいら立ちを見せる。

(こうなったら、とんでもない力を出すしかない・・また暴走しないと限らないし・・)

 力を発揮することにカズヤは不安を感じていた。また暴走して見境を失くしてしまうことを、彼は懸念していた。

「それとももしかして、自分を恐れているというヤツか?」

 迷いを見せているカズヤに、アキラが言いかけてきた。

「別に恐れることはないだろう。自分を見せつけるという効果は十二分にあるだろう、ガルヴォルスの力には・・」

「アンタ、何を言ってるんだ・・・!?

 アキラが語る言葉にカズヤが眉をひそめる。

「その力で世界を自分の思った通りに変えればいい。むしろ弱く愚かな人間がのうのうとさせておくのもおこがましい・・」

「お前、ホントに何を言って・・・!?

「世界は人間なんかじゃなく、ガルヴォルスが動かしていけばいいんだよ・・それだけの力があるんだから・・」

 アキラがカズヤに言ってあざ笑ってくる。彼の言葉にカズヤが憤りを感じていく。

「お前も、自分の目的のために他の人を平気で犠牲にする性質か・・・!」

「お前だってそんなやり口のくせに・・」

「お前と一緒にするな!」

 嘲笑を続けるアキラにカズヤが憤りを募らせる。カズヤの体から紅いオーラがあふれ出してくる。

「ほう?それがお前の力か・・」

 アキラがカズヤを見て笑みをこぼしていく。

 そのとき、カズヤとルナの後ろに、新たにガルヴォルスが姿を現した。

「またガルヴォルスが・・!?

 カズヤが別のガルヴォルスたちに警戒を向ける。

「その様子だと、毒がうまく効いたようだな。」

「毒・・!?

 アキラが口にした言葉にカズヤが疑問符を浮かべる。

「オレはガルヴォルスの中でも、人間をガルヴォルスに変えることのできるガルヴォルスなのだ。」

 アキラがカズヤとルナに向けて言い放った。

「彼らも今、ガルヴォルスとなったのだ・・・」

 

 

次回

第17話「魔手」

 

「この力、存分に試させてもらうぜ〜!」

「世界は力も知能もあるガルヴォルスが動かすべきなのだ。」

「カズヤ、ルナちゃん、逃げて!」

「君にも与えてやろう。世界を変えられる力を・・」

 

 

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