ガルヴォルスRebirth 第13話「暴走」

 

 

 高まったガルヴォルスの力を制御できず、暴走に陥ってしまうカズヤ。デーモンガルヴォルスとなった彼の体から、紅いオーラがあふれ出してきていた。

「オレを陥れるな・・・!」

 カズヤがコウの前で声を振り絞る。カズヤが両手を強く握りしめていく。

「カズヤ・・オレも敵と見るか・・・!」

 コウがいきり立ってカズヤに向かっていく。彼のこの行動がカズヤの感情を逆撫でした。

「これ以上・・オレを追い込むな!」

 激高したカズヤがコウに突っ込む。彼の突進がコウをはじき飛ばした。

「何っ!?

 突き飛ばされたコウが、カズヤの力を痛感して息をのむ。

「思っていた以上に、さっきまで感じていた以上に、力が出ている・・・!」

 立ち上がってカズヤを見据えるコウ。カズヤは高まっていく力を抑えきれずに、憎悪をむき出しにする。

「だが、オレは倒されるつもりはない・・・!」

 コウもカズヤに対して憤りを見せる。彼が再びカズヤに飛びかかるが、カズヤの発するオーラに受け止められる。

 コウは立ち止まらずに押し込もうとする。それでもカズヤの体に到達することができない。

「ぐっ!」

 次の瞬間、カズヤが繰り出した左の拳がコウの体に叩き込まれた。痛烈な一撃を受けて、コウがうめいて顔を歪める。

「オレが・・オレがこんな無様に・・・!」

 立っていることができずにうずくまっている自分にいら立つコウ。息も乱す彼の眼前にカズヤが迫ってきた。

「がっ!」

 カズヤが振り上げた右足を受けて、コウが吐血する。彼は大きく突き飛ばされて、地面を激しく転がっていく。

「オレを追い込むな・・オレはもう、あんなイヤな思いをしたくないんだ・・・!」

 声と力を振り絞るカズヤが、コウを見下ろす。カズヤはヒナタからされた仕打ちを思い出して、怒りを募らせていた。

「オレは・・オレは死ぬつもりはない・・・!」

 コウも憤りを募らせて、全身に力を込める。

「死んでたまるか!」

 そのとき、コウの体からも紅いオーラがあふれ出してきた。彼の体も刺々しいものへと変わっていく。

「このままで済むと思うな・・・!」

 コウが憎悪をむき出しにして、立ち上がってカズヤと対峙する。2人が同時に拳を繰り出して、互いの体に命中させる。

 カズヤとコウはすぐに踏みとどまって、再び飛びかかる。2人が繰り出す拳とオーラが、互いの体を傷つけていく。

「オレは絶対に死なない・・誰にもオレを殺すことはできない!」

 信念と怒号を言い放つコウ。彼は右手に力を込めて、カズヤ目がけて拳を振りかざす。

 コウのこの一撃はカズヤの体に命中したはずだった。

「ち・・力が・・・!?

 そのとき、コウの体から出ていた紅いオーラが弱まり出した。彼の発揮していた力も弱まり、カズヤに当てた一撃の威力も弱くなってしまった。

 カズヤの発するオーラに衰えはない。彼が放出したオーラで、コウが吹き飛ばされる。

「ぐあっ!」

 上空に跳ね上げられて、そのまま地上に落ちるコウ。浴びたオーラが体から抜けたところで、彼はダークガルヴォルスから人の姿に戻る。

「か・・確実にオレの力を超えているのか・・・!」

 コウがカズヤの力に毒づく。力を消耗したコウは、立ち上がることもままならなくなっていた。

「オレを陥れるヤツは・・倒す・・・!」

 カズヤが敵意を向けて、コウのとどめを刺そうと近づく。コウはすぐに動くことができないでいる。

「カズヤ!」

 そこへヒナタがルナを連れて、カズヤの前に駆け込んできた。ヒナタのスピードに必死に耐えていたルナは、意識が飛びかけていた。

「ルナちゃん、大丈夫・・!?

「えっ!?・・う、うん、大丈夫・・!」

 ヒナタに声をかけられて、ルナが我に返る。

「カズヤ・・また、その姿に・・・!?

 カズヤの刺々しい姿を目の当たりにして、ルナが緊迫を見せる。

「これが、カズヤ・・・!?

 ヒナタもカズヤの変貌に驚きを隠せなくなる。

「来るな・・オレを追い込むな・・・!」

 カズヤがルナとヒナタにも敵意を向けてきた。

「カズヤ、落ち着いて・・ここは落ち着いて・・・!」

 ヒナタが緊張を抱えたまま、カズヤに呼びかける。ところが、ゆっくりと近づいてくるヒナタの姿を見て、カズヤが彼女に迫られた過去を思い出した。

「来るな・・オレに近づくな!」

 激高したカズヤが全身からオーラを放出する。オーラをぶつけられて、ヒナタが突き飛ばされる。

「ヒナタ!」

 横転するヒナタにルナが声を上げる。ヒナタを攻撃しようと、カズヤがゆっくりと近づいていく。

「待って!」

 そのカズヤの前にルナが立ちはだかる。

「お前も、オレを追い込むのか・・・!」

「ルナちゃん、ダメだよ・・君は逃げて・・・!」

 ルナにも敵意を向けるカズヤと、彼女に呼びかけるヒナタ。しかしルナはカズヤから逃げようとしない。

「私、逃げない・・カズヤが大変なことになっているのに、私が逃げるなんて・・・!」

「ルナちゃん・・でも、このままじゃルナちゃんが・・・!」

「私には、カズヤやヒナタみたいな力はない・・それでも、自分に素直なカズヤを、真っ直ぐに生きているカズヤを、これ以上苦しんでいるのを見たくない・・・!」

 悲痛さを込めるヒナタだが、それでもルナはカズヤの前から離れない。それでも恐怖を抑えることができず、彼女は震えていた。

 そんなルナに対して、カズヤが右手を強く握りしめてきた。

(カズヤ・・!?

 彼の行為にヒナタが目を疑う。

(あなたは本気で、私やルナちゃんのことを・・・)

「ダメ!カズヤ!」

 ヒナタが飛び出してカズヤの前に立つ。ヒナタがルナを庇って、カズヤが繰り出した拳を体に叩き込まれる。

「うっ!」

「ヒナタ!」

 うめいて吐血するヒナタに、ルナが悲鳴を上げる。痛烈な一撃を受けて、倒れたヒナタが人の姿に戻る。

「ヒナタ!ヒナタ、しっかりして!」

 ルナがヒナタに寄って呼びかける。ヒナタは意識を失っていて、反応を見せない。

 その2人にカズヤが迫ってきた。彼は再び右手を強く握りしめてきた。

 そのとき、カズヤから出ていた紅いオーラが弱まった。力を維持できなくなったカズヤが、ふらついてその場に倒れた。

「カズヤ・・!?

 人の姿に戻ったカズヤに、ルナが当惑を見せる。彼女は込み上げてくる恐怖に耐えながら、カズヤに近づいていく。

「カズヤ、大丈夫!?・・・カズヤ、しっかりして!」

 ルナが呼びかけるが、カズヤも目を覚まさない。

「2人を、お店に連れて行かないと・・・!」

 ルナは気が動転したまま、カズヤとヒナタを運ぼうとした。だが彼女に2人を一緒に運ぶ力はない。

(このままじゃ、2人とも・・・病院に連れて行って、怪物だってことが知られたら大騒ぎになってしまうし・・・)

 他に連絡することもできず、途方に暮れるルナ。彼女は近くで2人を休ませて、様子を見るしかなかった。

 

 カズヤの力に押されて、コウは離れることしかできなかった。逃げることしかできなかった自分に、彼はいら立ちを感じていた。

「オレでも、あのカズヤに勝てなかった・・・!」

 カズヤにだけでなく、自分の無力さにも怒りを感じていくコウ。

「たとえどれほどの力を見せつけてきても、オレは屈しない・・オレを貫くだけだ・・・誰にも・・誰にもオレを殺すことはできない!」

 憎悪を込めて声を張り上げるコウ。彼はカズヤを完全に敵だと認識していた。

 

 意識を失ったカズヤとヒナタを、ルナは無事を祈りながら見守っていた。先に意識を取り戻したのはヒナタだった。

「ヒナタ・・大丈夫なの、ヒナタ!?

「ルナちゃん・・私・・・」

 安堵を見せたルナに、ヒナタが当惑を見せる。

「ヒナタ、私を庇ってカズヤの攻撃を受けて・・・」

「そうだったんだね・・・カズヤは!?

 ルナから話を聞いたヒナタが、カズヤのことを聞く。ルナがカズヤが寝ている方へ視線を向けて、ヒナタもそのほうへ振り向く。

「カズヤ・・よかった・・落ち着いているみたいだし・・」

「うん・・でも、私やヒナタの声、全然カズヤに届いていなかった・・・」

 カズヤの様子を見て安心するヒナタと、暴走したカズヤを思い出して不安がるルナ。

「カズヤ、もう私たちのことを忘れてしまうのかな・・このまま、本物の怪物に・・・」

「そんなことないよ!・・カズヤは、誰よりも人間なんだから・・・!」

 ルナが口にした不安に、ヒナタがたまらず声を荒げる。するとルナもヒナタも困惑を覚える。

「ゴ、ゴメン・・・」

「ううん・・私がこんなこと言ったから・・・」

 謝るヒナタに言葉を返して、ルナが落ち込む。

「ルナちゃん・・どんなことがあっても、カズヤを信じて・・そしてカズヤのそばにいてあげて・・・」

「ヒナタ・・・?」

 ヒナタからの言葉に、ルナが戸惑いを見せる。

「きっと私がカズヤを励まそうとしても、逆にカズヤを怒らせて、暴走させてしまう・・カズヤの心を守れるのはもう、ルナちゃんしかいない・・・」

「でも、私には何もできない・・カズヤやヒナタみたいな力もないし・・・」

「ううん・・力があっても何もできないこともあるし・・そばにいるだけで支えになることもある・・」

 落ち込むルナにヒナタが首を横に振る。

「そばにいるだけで支えに・・私が、カズヤの・・・」

「うん・・ルナちゃんが、今のカズヤの、唯一で1番の希望・・・」

 戸惑いを見せるルナにヒナタが小さく頷く。

「だからルナちゃん、どんなことがあっても、カズヤを信じてあげて・・もしもカズヤが君に襲いかかるようなことがあったら、また私がルナちゃんを守るから・・」

「ダメだよ、ヒナタ!そんなことして、ヒナタに何かあったら・・・!」

 呼びかけるヒナタにルナが声を荒げる。

「これが私がカズヤにできる唯一の償いだと思うから・・そしてそれが、今の私の1番の望みだから・・・」

「ヒナタ・・・」

 決心を告げるヒナタに、ルナはこれ以上言葉を投げかけることができなかった。

「だったら今のうちに、私たちのところで休ませてあげたほうがいいわ。」

 そこへ声がかかって、ルナとヒナタが振り返る。レイが兵士たちを引き連れて、彼女たちの前に現れた。

「私たちなら彼をおとなしくさせられる。鎮静剤の用意も十分よ。」

「信じないよ!カズヤをどうかするつもりなんでしょ!?

 手を差し伸べてくるレイだが、ヒナタは聞き入れようとしない。

「このままではカズヤくんは間違いなく暴走する。そして2度と正常に戻れなくなる危険が高い。その前に彼の状態を安定させないといけないのよ。」

「そんな保障なんて、アンタたちがしてくれるわけないでしょうが!」

「それじゃあなたたちは、カズヤくんが本物の怪物になっても構わないとでもいうの?」

「アンタたちに利用されても同じことだよ!」

 レイが誘いを持ちかけるが、ヒナタは頑なに拒絶する。ルナもレイの言葉を聞こうとはしなかった。

「矛盾しているわ。カズヤくんを暴走させたくないはずなのに、私たちからの療養を拒むなんて・・」

 レイはルナたちの考えに対してため息をつく。

「仕方ないわ・・3人を拘束しなさい。」

「アンタ・・!」

 兵士たちに指示を出すレイに、ヒナタが身構える。

「カズヤにも・・ルナちゃんにも手を出させない!」

 言い放つヒナタがキャットガルヴォルスになる。兵士たちが一斉に銃を構える。

「ルナちゃん、カズヤを放さないようにして・・!」

「ヒナタ・・!」

 呼びかけてくるヒナタに、ルナが戸惑いを見せる。

「もういいわ。発砲の制限をなくすわ。ガルヴォルスなら死ぬことはない。」

 レイが兵士たちに発砲許可を下す。

「ルナちゃん!」

 ヒナタがルナとカズヤを抱えて、大きくジャンプした。兵士たちが銃を撃つが、彼女は射撃をかいくぐって、兵士たちを飛び越えた。

「今度は絶対に逃がさないで。放置すると危険よ。」

「了解。」

 レイの指示に答えて、兵士たちがヒナタたちを追いかけていく。

(そう。このまま野放しにしていたら、遅かれ早かれ巨大な力による暴走が起こって、誰にも止められなくなる。その前に措置をしないといけない。)

 カズヤに対する決意を秘めて、レイもヒナタたちを追って車を走らせた。

 

 カズヤとルナを連れてレイたちから逃げたヒナタ。だがカズヤから受けた傷と体力の消耗が回復しておらず、ヒナタはすぐに息を切らしてしまった。

「ヒナタ、大丈夫!?・・まだ動ける体じゃ・・!」

「そうだったみたい・・でも私がやらなかったら、ルナちゃんもカズヤもやられてた・・」

 心配するルナに、ヒナタが苦笑いを見せる。

「カズヤ・・私も、カズヤやヒナタみたいに・・」

「ルナちゃん、それだけはダメだよ・・」

 ガルヴォルスの力を求めようとするルナに、ヒナタが首を横に振る。

「ガルヴォルスになったら、2度と普通の人間には戻れない・・完璧に普通の生活をすることはできなくなっちゃうんだよ・・」

「ヒナタ・・・」

「私は、ルナちゃんは人間のままでいてほしいと思ってる・・カズヤもそう思ってるって、私も信じてる・・・」

 戸惑いを見せるルナに、ヒナタが切実に言いかける。

「だからルナちゃん、これからもずっと人でいて・・お願い・・・」

 ルナの手を取って願いを込めるヒナタ。自分がカズヤの希望であるとヒナタから言われていることを、ルナは痛感していた。

 そのとき、ヒナタは近づいてくる足音を耳にした。

「ルナちゃん、カズヤを連れて逃げて・・私がアイツらの注意を引き付けるから・・」

「ヒナタ・・危険だよ、それは・・!」

「何度も言うことだけど、カズヤを支えてあげられるのはルナちゃんだけだよ・・」

 不安を募らせるルナに、ヒナタが呼びかける。

「私は死ぬつもりはないよ。絶対に生きて、カズヤとルナちゃんと合流するから・・だからお願い・・ルナちゃんはカズヤと一緒にいって・・・」

「ヒナタ・・・絶対に・・絶対に帰ってきて・・・!」

 ヒナタの気持ちを受け止めて、ルナがカズヤを連れて歩き出していった。

(カズヤ・・ルナちゃん・・2人は私が守るよ・・)

 ルナたちへの思いを募らせながら、ヒナタは追いかけてきた兵士たちの前に姿を現した。

「相手なら私がしてあげるよ。悪いけど、人間だからって気を遣うほど、私はおとなしいわけでも利口ってわけじゃないよ・・・!」

 兵士たちに向けて低く告げるヒナタ。銃を構える兵士たちに対して、彼女は構えて爪を光らせた。

 

 ヒナタに促されて、ルナはカズヤを連れて逃げていく。未だにカズヤは意識が戻らない。

(カズヤ・・何もなく目を覚まして・・・)

 カズヤの無事平穏を願うルナ。彼女は喫茶店を目指して進んでいく。

「自分に注意を引き付ける算段みたいだったけど・・」

 そのルナたちの前に、レイが現れた。彼女の登場にルナが一気に緊張を膨らませた。

「あなたたちの動きは把握しているのよ。どんな策を考えてきても、私たちには意味をなさないのよ。」

 レイが微笑みかけて、ルナたちに向けて手を差し伸べてきた。

「行きましょう。私たちがあなたたちを保護するわ。」

「ダメ・・カズヤをどうかするつもりなのは分かるんだから・・・!」

 レイの誘いをルナが拒絶する。彼女たちに対して、レイが浮かべていた笑みを消す。

「本当に強引な手段を使うしかないとはね・・」

 レイはため息をついてから、ルナの腕をつかんできた。

「放して・・放して!」

 ルナがレイの手を振り払おうとして悲鳴を上げた。

「やめろ・・オレを追い込むな・・・」

 そのとき、眠っていたカズヤが声を振り絞ってきた。彼の声にルナが戸惑いを覚え、レイが目つきを鋭くする。

「オレはもう、女に振り回されたりしない・・・!」

 立ち上がったカズヤがデーモンガルヴォルスになる。同時に彼は禍々しいオーラをあふれ出してきた。

「カズヤ!?

 カズヤの異変にルナが目を疑う。彼女はカズヤが暴走したことを直感していた。

 

 

次回

第14話「魔の衝突」

 

「お願い、カズヤ!もうやめて!」

「もう完全に心を失ってしまっているようね。」

「誰にも、あの2人を止めることはできない・・」

「今度こそ・・今度こそお前を!」

 

 

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