ガルヴォルスRebirth 第12話「殺気」
体から紅い霧のようなオーラをあふれさせるカズヤ。彼の瞳も血のように紅く染まっていた。
「何だ、コイツ!?・・何だ、この紅いのは・・!?」
アルマジロガルヴォルスがカズヤの異変に緊迫を覚える。
「カズヤ・・・!?」
ルナもカズヤの姿に驚愕を感じていた。
「許さない・・・」
アルマジロガルヴォルスに対して、カズヤが鋭く言いかける。
「オレはお前を許さない・・・!」
カズヤがアルマジロガルヴォルスに敵意を向けて、右手を振りかざす。彼の体からあふれていたオーラが放たれて、アルマジロガルヴォルスに迫る。
「小賢しいマネをしても、オレには通用しないぞ!」
アルマジロガルヴォルスがいきり立って、体を丸めてカズヤに突っ込んだ。だがカズヤの体に当たる前に紅いオーラに弾かれて、アルマジロガルヴォルスが突き飛ばされる。
「ごあっ!」
遠くの壁にまで叩きつけられて、アルマジロガルヴォルスが激痛を覚える。倒れた彼がカズヤに目を向けて、緊迫を膨らませた。
「体を丸めたオレは防御力を高まっている・・そのオレがここまでダメージを受けるなど・・・!」
アルマジロガルヴォルスがカズヤの発揮した力に脅威を覚える。強い痛みのため、彼はしっかり立つことができずにふらついてしまう。
「カズヤくん、ここまでの力を出してくるとはね。正直驚きね。」
レイがカズヤの姿を見て笑みをこぼす。
「でも今の彼は暴走している。怒りに任せて力を解き放っている。」
「どういう、ことなの・・・!?」
「カズヤくんは高まった力を制御できなくなっている。自分自身の感情に振り回されて、すっかり見境を失くしているのよ。」
疑問を投げかけるルナに、レイが語りかけていく。落ち着いていた彼女とは対照的に、ルナは彼女の説明を理解できず、困惑を募らせていた。
「お前のようなヤツを、オレは許さない・・・!」
カズヤが紅いオーラを発しながら、アルマジロガルヴォルスに迫る。
「そうだ・・そうでなければ張り合いがないというものだ!これでオレも本気になれる!全力を出せる!」
アルマジロガルヴォルスが目を見開いて、再び体を丸めた。彼はすぐには突っ込まず、その場で回転を速める。
「どんなに強いガルヴォルスだろうと、これを受けて無事では済まない!」
アルマジロガルヴォルスがカズヤに向かって突っ込む。速く回転する彼の体は、あふれてくる紅いオーラを弾いて、カズヤの体に命中した。
命中した瞬間、アルマジロガルヴォルスは勝ったと確信した。
次の瞬間、カズヤが繰り出した拳がアルマジロガルヴォルスの体を背中から貫いていた。
「がはっ!」
激痛に襲われてアルマジロガルヴォルスが吐血する。カズヤの繰り出した拳の衝撃で、アルマジロガルヴォルスが上空に大きく跳ね上げられる。
(オレのこの一撃を受けても何ともない・・しかもオレの硬い甲羅を突き破るなど・・・!?)
驚愕を抱えたまま意識を失うアルマジロガルヴォルス。地面に落ちた彼が事切れて動かなくなった。
怒りとオーラを消さないまま、カズヤがレイに振り返ってきた。
「お前も、許しちゃおかない・・・!」
レイにも敵意をむき出しにするカズヤ。彼が殺気とオーラを出したまま、ゆっくりと近づいてくる。
「人間である私にも牙を向けるのね。」
「関係ない・・お前のその自分勝手なやり方を、オレは許さない・・・!」
笑みを見せているレイに、カズヤが鋭く言いかける。
(こんなの・・いつものカズヤじゃない・・・!)
ルナは怒りに身を任せているカズヤに悲痛さを感じていく。
「やめて、カズヤ!」
たまらず叫び声をあげたルナが、カズヤの前に飛び出してきた。
「もういいよ、カズヤ・・今のカズヤは、自分を見失っているよ・・・!」
呼びかけるルナだが、カズヤは前進をやめない。彼には彼女の声が耳に入っていない。
「ここは気分を落ち着けて・・1回お店に帰ろう、カズヤ・・・」
「邪魔をするな・・今のオレの邪魔をしたら、何をしでかすか分かんないぞ・・・!」
カズヤに鋭く言われて、ルナが一気に恐怖を覚える。彼女は思わずカズヤから後ずさりする。
「本当に見境がなくなってしまったのね。」
レイは臆することなくカズヤを見つめていた。
そのとき、カズヤが突然苦悶の表情を浮かべた。苦痛に顔を歪める彼が膝をついて、体からあふれていた紅いオーラが弱まっていく。
「カズヤ・・・!?」
カズヤのさらなる異変にルナが困惑する。あふれていたオーラが消えて、カズヤがガルヴォルスから人の姿に戻った。
一気に脱力したカズヤがそのままこの場に倒れた。
「カズヤ!」
ルナが悲鳴を上げてカズヤに駆け寄った。
「カズヤ、しっかりして!カズヤ!」
ルナが呼びかけるが、カズヤは目を覚まさない。
「力が切れたようね。あるいは人の心を取り戻したのかも。」
倒れているカズヤを見て、レイが微笑みかける。彼女はきびすを返して、自分の車に戻っていった。
「でもこの調子では、今のように自我を取り戻せるとは確実には言えなくなる。」
車に乗って、レイがまたカズヤとルナに視線を向ける。
「このままでは本当の怪物になるのも時間の問題ね。」
カズヤの行く末を気にして、レイは車を走らせてこの場を後にした。
ルナを追い込んでしまったことを気にして、ヒナタは落ち込んでいた。彼女はルナと向き合うことを辛く感じるようになっていた。
(ルナちゃん・・どうしたら、ルナちゃんと・・・)
苦悩を深めていって、ヒナタが肩を落とす。
そのとき、ヒナタの携帯電話が鳴り出した。
「えっ!?・・ルナちゃん・・・!?」
かけてきた相手がルナであることに、ヒナタは驚きを覚えた。
「ルナちゃん、今どこなの!?」
“ヒナタ、大変なの!カズヤが、カズヤが・・!”
呼びかけるヒナタの耳に、ルナの悲痛の声が入ってくる。
「ルナちゃん!?カズヤがどうしたの!?」
ヒナタが呼びかけるが、ルナは涙ぐんで言葉を返してこない。
「今どこにいるの!?場所だけでも教えて!すぐに行くから!」
ヒナタが声を振り絞ってルナに呼びかけた。ルナは込み上げてくる辛さを抑えながら、何とか居場所を言うことができた。
「ありがとう、ルナちゃん・・・」
ルナに感謝の言葉を言って、ヒナタはその場所に向かって駆けだした。彼女は人目がないところでキャットガルヴォルスになって、一気にスピードを上げた。
ガルヴォルスから人の姿に戻ってから、カズヤは倒れたまま意識が戻らない。眠ったままの彼に、ルナは心配の眼差しを送り続けていた。
深刻さを募らせるルナの後ろに、ヒナタが駆けつけてきた。
「ルナちゃん!」
「ヒ・・ヒナタ・・・!」
声をかけてきたヒナタにルナが振り向いた。ヒナタはキャットガルヴォルスから人の姿に戻っていた。
「ヒナタ・・カズヤが目を覚まさないの・・・!」
ルナの言葉を聞いて、ヒナタがカズヤに駆け寄る。
「カズヤ・・大丈夫・・心臓の音はちゃんと普通にしてる・・力を使いすぎただけなんだと思う・・」
「ホント!?・・よかった・・・!」
ヒナタの言葉を聞いて、ルナがようやく安堵を浮かべた。
「とりあえずお店に連れて行こう・・いつまでも外で寝かせているのは・・」
「うん・・早く連れて行こう・・」
ヒナタの呼びかけにルナが頷く。2人はカズヤを連れて喫茶店に帰っていった。
カズヤが発揮した巨大かつ異質な力を、コウも痛感していた。彼はガルヴォルスに転化してから初めて緊迫を感じていた。
「何だ、今の力は!?・・オレが恐怖を感じるほどにまで・・・!」
思わず体を震わせるコウ。彼は次第に巨大な力に対するいら立ちを感じていく。
「たとえどれほどの力だろうと、敵に回るなら、オレは絶対に屈しない・・・!」
込み上げてくる恐怖や威圧感も憎悪や力に変えようとするコウ。彼は拳を握りしめたまま、ゆっくりと歩いていった。
カズヤを連れて喫茶店に帰ってきたルナとヒナタ。2人は店の奥の部屋でカズヤを寝かせた。
「ふぅ・・これでとりあえず安心かな・・」
ヒナタが落ち着いて睡眠をとっているカズヤを見て安堵を見せる。
「カズヤ、本当にどうしちゃったの・・別人みたいだった・・・」
ルナがカズヤの異変に辛さを感じていく。
「カズヤに何があったの?・・何がどうなってるの・・・?」
ヒナタが問いかけると、ルナが深刻な面持ちを見せてきた。
「いきなり、紅い霧のようなものを体から出してきた・・そうなったら、カズヤの力が一気に高くなったけど、見境を失くして、私のことも分からなくなって・・・」
「一気に高まって・・・もしかしてこれって、暴走・・・!?」
ルナの話を聞いて、ヒナタが緊張を募らせる。
「高すぎる力を抑えられなくなって、振り回されて、理性まで失ってしまう人がいると聞いたことがある・・カズヤも、一気に力を上げて、暴走しかけたんじゃないかな・・」
「暴走・・カズヤが、そんなことに・・・」
「最悪、カズヤがガルヴォルスの高くなった力に押しつぶされて、心まで怪物になってしまうかもしれない・・」
「そんな・・・!?」
ヒナタが口にした言葉に、ルナは耳を疑って不安を募らせる。
「カズヤが自分を見失わないことを信じるしかないよ・・私たちでカズヤを安心させないと・・」
「ヒナタ・・うん・・私もカズヤを助けたい・・・」
言いかけるヒナタに、ルナが自分の正直な気持ちを口にする。
「ルナちゃん、私がカズヤを見てるから、ルナちゃんは休憩していて・・」
「でも、私だけ休んでいるわけには・・」
「そう思うんだったら、休んでから面倒見てあげて。カズヤを支えられるのはルナちゃんのほうだから・・」
「ヒナタ・・・うん・・・」
ヒナタに言われて、ルナは渋々休むことにした。
(そう・・カズヤを助けられるのはルナちゃん・・私じゃどうやっても、カズヤを安心させられない・・・)
自分ではカズヤを安心させられないと痛感していて、ヒナタは諦めの気持ちを抱いていた。せめてルナの影の支えになれたらと、ヒナタは思っていた。
(私がしてあげられるのは・・カズヤを安心させられるルナちゃんを、安心させてあげること・・・)
自分の気持ちを確かめながら、ヒナタはカズヤの手当てをした。
ヒナタに言われて休むことにしたルナ。しかしカズヤが気がかりになって、ルナは寝付くことができないでいた。
(カズヤが大変なことになっているのに・・私が休んでいるなんて・・・)
気持ちの整理がつかないルナ。彼女はカズヤへの思いとヒナタの気持ちにさいなまれて葛藤していた。
「ダメ・・やっぱり眠れない・・・」
たまらず飛び起きて、ルナはカズヤとヒナタのいる部屋に戻ることにした。ところが部屋の前にヒナタはいた。
「ヒナタ・・・?」
「ルナちゃん・・休んでないと・・・」
ルナが声をかけると、ヒナタが呼びかけてきた。
「うん・・どうしても眠れなくて・・カズヤとヒナタのことが気になって・・・」
「ルナちゃん・・・そういうものなのかもね・・」
ルナの気持ちを聞いて、ヒナタが物悲しい笑みを浮かべた。
「カズヤはまだ眠ってる・・でも落ち着いてはいるよ・・暴れる様子もうなされてもない・・」
「よかった・・このまま落ち着いていけばいいけど・・・」
ヒナタの言葉を聞いてルナが安心する。2人はカズヤの心配を膨らませていた。
「ヒナタ・・・カズヤは、本当は優しいんです・・優しくて、純粋なんです・・」
「知ってる・・純粋だから、私がしてしまったことを許せないんだよ・・そしてこれからもずっと、そのことを気にして・・・」
「そんなことないよ、ヒナタ・・そんなこと・・・」
「いいよ、ルナちゃん・・カズヤが考えを曲げないのは分かってるから・・・」
作り笑顔を見せるヒナタに、ルナは困惑を募らせていく。
(本当にどうしても、カズヤとヒナタは・・・)
カズヤとヒナタが分かり合えないことに、ルナは悲しみを感じていた。どうしても何とかできない2人の仲を、彼女は辛く感じていた。
「今度は私がカズヤを見るよ・・ヒナタはその間休んで・・」
「ありがとうね、ルナちゃん・・でも、私も休もうとしても休めないかも・・」
ルナが呼びかけると、ヒナタが照れ笑いを見せた。
「それじゃちょっとカズヤの様子を・・」
「うん・・よろしくね、ルナちゃん・・」
ルナがヒナタに言いかけてから、部屋に入った。
「えっ・・!?」
次の瞬間、ルナが驚きの声を上げた。寝ていたはずのカズヤがいない。
「カズヤ!?」
ルナが部屋に飛び込んで中を見回す。
「ヒナタ、カズヤがいない!」
「えっ!?」
ルナが上げた声に、ヒナタも驚きながら部屋の中を見る。
「カズヤ、どこ!?いるなら出てきて!」
ヒナタが呼びかけるが、カズヤは姿を現さない。
「もしかして、まだ暴走を起こしたんじゃ・・・!?」
「そんな・・そのまま外に・・・!?」
不安を募らせながら、ヒナタとルナが店の外に出る。店の前の通りにも裏口前にもカズヤの姿はない。
「カズヤ・・どこなの、カズヤ!?」
ルナが声を張り上げて、カズヤを呼び続ける。するとヒナタが店の中に駆け込んでいった。
「ヒナタ、何を・・・!?」
「静かにして、ルナちゃん・・ガルヴォルスになって、カズヤの声や音を聞き取ってみるから・・」
声を荒げるルナに言いかけて、ヒナタが店の中でキャットガルヴォルスになる。彼女は感覚を最大限に研ぎ澄ませて、カズヤの声や音を聞き取ろうとした。
「いた・・移動してる・・・!」
「ホント・・!?」
カズヤの居場所を捉えたヒナタに、ルナが戸惑いを見せる。
「また暴走しているのも否定できない・・だから私1人で行く・・私だけでカズヤを連れて帰る・・」
「ヒナタ・・・ううん、私も行く・・!」
呼びかけるヒナタだが、ルナもカズヤを探しに行こうとする。
「でもルナちゃん、またカズヤが襲い掛かってきたら・・!」
「それでも、私はカズヤを放っておくことができない・・カズヤだけ苦しい思いをしているのに、私だけ楽をしているわけには・・・!」
不安を口にするヒナタに、ルナが正直な気持ちを口にしていく。
「ルナちゃん、すっかりカズヤに心を入れ込んでるね・・」
ヒナタは微笑みかけると、喫茶店の裏口に向かう。
「私につかまって・・すぐにタイガのところへ行くから・・・!」
「ヒナタ・・・うん・・・!」
ヒナタの声にルナが真剣な面持ちで頷く。歩み寄ってきた彼女をヒナタが抱き寄せた。
「それじゃ、行くよ・・!」
ヒナタがルナを連れて、一気にスピードを上げて駆け出した。その速さにあおられて、ルナが一瞬振り落されそうになる。
(カズヤ、行かないで・・自分を見失わないで・・・!)
カズヤの無事を案じながら、ルナはヒナタとともにカズヤのところへ急いだ。
喫茶店から抜け出したカズヤは、まだ疲弊していたため、夢遊病者のように歩いていた。彼は意識がもうろうとしたまま、当ても分からぬまま歩き続けていく。
(オレは・・どうなっちゃったんだ・・オレは・・・)
心の中で声を上げるカズヤだが、彼は気持ちの整理が付かないままでいた。
途方に暮れているカズヤの前に、コウが現れた。
「お前だったのか・・あのとき巨大な力を出していたのは・・・?」
コウが問いかけるが、カズヤは困惑を見せるばかりである。
「オレは・・オレは・・・!」
声を振り絞るカズヤの姿がデーモンガルヴォルスになる。そして彼の体から紅いオーラがあふれ出してくる。
「この気配・・あのときと同じ、強い力・・・!」
カズヤの力に呼応するように、コウもダークガルヴォルスになる。
「オレは許さない・・心を弄ぶ連中を、オレは許さない・・・!」
「ヤツらへの怒りに突き動かされている・・いや、見境を失くしている・・・!」
カズヤの見せる力と姿に、コウも憤りを感じていく。
「オレを敵だと認識してくるなら、お前も、オレが叩き潰す対象だ・・・!」
いきり立ったコウが全身に力を込める。
「お前も・・オレを陥れるのかよ・・・!」
紅いオーラを放出していたカズヤは見境を失くしていて、コウさえも立ちはだかる敵と認識していた。
次回
「これ以上・・オレを追い込むな!」
「あなたは本気で、私やルナちゃんのことを・・・」
「このままで済むと思うな・・・!」
「誰にもオレを殺すことはできない!」