ガルヴォルスRebirth 第10話「孤独の心」
ヒナタを追いかけて、ルナも森の中に飛び込んだ。彼女はヒナタを連れ戻そうと必死になっていた。
しかしその途中、ルナはヒナタを見失ってしまった。
「ヒナタ・・いきなりどうしたの・・・!?」
ヒナタの様子にルナは気が気でなかった。彼女はこのまま道を真っ直ぐに進んでいた。
その先でルナが、異形の姿の怪物を目の当たりにした。
「あ、あれは・・!?」
ルナがたまらず足を止めて後ずさりする。現実に怪物がいることに、彼女は目を疑った。
次の瞬間、2人の怪物の姿が人に変わる。その姿はカズヤとヒナタだった。
「えっ・・・!?」
さらなる驚愕を覚えるルナ。カズヤとヒナタが怪物であることさえも信じられなかった。
そんなルナにヒナタが振り向いて、緊張を見せてきた。
「ルナ、ちゃん・・・!?」
「カズヤ・・ヒナタ・・・!?」
互いに驚愕を覚えるヒナタとルナ。
「ル、ルナちゃん・・これは、その・・・!」
ヒナタが言いかけるのを聞かずに、ルナが恐怖して逃げ出していく。
「ルナちゃん!」
ヒナタが慌ててルナを追いかける。だがカズヤは2人を追おうとしない。
「オレは・・オレは・・・!」
湧き上がってくる様々な感情にさいなまれて、カズヤはどうしたらいいのか分からなくなっていた。
カズヤとヒナタは怪物だった。その非情な光景を目の当たりにして、ルナの心は大きく揺さぶられていた。
(ウソ・・ウソよ、こんなの・・・!)
ルナは逃げながら、必死に現実を否定しようとする。
(信じたくない・・あんな・・あんな怪物がいるなんて・・・!?)
あまりにも現実離れしたことに加えて、カズヤとヒナタもそうだったことに、ルナは愕然となるばかりになっていた。
(に・・逃げないと・・逃げて隠れないと・・・!)
冷静さを失っていたルナは、ただただ喫茶店に戻ることにした。
ルナを探して森の中を駆けまわっていくヒナタ。しかしヒナタはルナを見つけることができなかった。
「ルナちゃん・・・ルナちゃんに、私たちがガルヴォルスだってことを知られちゃった・・・!」
恐れていたことが起こって焦るヒナタ。その焦りのため、彼女は感覚を頼りにしてルナを探すことを失念していた。
「ルナちゃん・・出て・・・!」
ヒナタがたまらず携帯電話を取り出して、連絡を試みる。しかしルナは電話に出ない。
「ルナちゃん・・ホントに私たちのことを怖がって・・・」
もうルナに嫌われてしまったのだと絶望を覚えるヒナタ。そこへカズヤがやってきて、ゆっくりと歩いてきた。
「カズヤ・・早くルナちゃんを探さないと・・」
「別にオレが固執することじゃない・・オレは女と関わることをよしとしていなかったんだから・・」
ヒナタが呼びかけるが、カズヤはルナを探そうとしない。
「何言ってるの、カズヤ!?ルナちゃんを巻き込んじゃったんだよ!」
ヒナタがさらに呼びかけるが、カズヤは聞き入れない。
「ルナちゃんを悲しませたままにして、カズヤは平気なの!?」
「オレをそこまで追い込んだのはお前だろうが!」
深刻な面持ちで呼びかけるヒナタに、カズヤが怒鳴りかかる。彼の言葉にヒナタが困惑を覚える。
「オレはもう、傷つけられるようなことにはならない・・ヒナタのことを受け入れるつもりは全くない!」
ヒナタに怒りをぶつけると、カズヤが歩き出していった。
「カズヤ・・私が、カズヤをそこまで・・・」
カズヤを深く追い込んでいたことを痛感して、ヒナタが愕然となる。絶望感に打ちひしがれながら、彼女は喫茶店に向かうことにした。
カズヤとヒナタから逃げてきたルナが、喫茶店に戻ってきた。明かりのない店の中で、ルナは絶望を感じていた。
(カズヤ・・ヒナタ・・2人が、怪物だったなんて・・・!)
カズヤとヒナタが怪物になる光景が脳裏をよぎって、ルナが苦悩していく。
(2人とも、怪物だってことを隠して、私と一緒に・・・!)
さらなる疑心暗鬼に襲われるルナ。何を信じるのがいいのか分からなくなり、彼女は頭を抱える。
(どうしたらいいの・・どうしたら・・・!?)
そのとき、喫茶店のドアが開く音がした。その音を耳にしたルナが、とっさに奥の部屋に隠れた。
「ルナちゃん、いる!?ルナちゃん!」
喫茶店に入ってきたのはヒナタだった。彼女は必死にルナを探す。
が、ルナは隠れてヒナタに見つからないようにして、そのまま裏口から出ていってしまった。
「ルナちゃん!?」
ヒナタはルナが喫茶店にいて、すぐにまた外に飛び出したことに気付いた。ルナに完全に見放されたことに、ヒナタは愕然となる。
(ルナちゃんはもう、私やカズヤのことを・・・)
絶望に打ちひしがれて、ヒナタがこの場に膝をつく。
(私には・・私たちには・・幸せになる権利はないの・・・!?)
力なく涙を流すヒナタ。彼女はルナを探す勇気も思いも見失っていた。
ヒナタやルナへの感情に揺さぶられながら、カズヤは途方に暮れていた。彼は気持ちの整理がつかないまま、自分のバイクのところへ戻ってきた。
(オレが気にすることなんてない・・ヒナタのことも、ルナのことも・・・)
自分に言い聞かせて気持ちを切り替えようとするカズヤ。
(オレはいつも振り回されてきた・・ヒナタがあんなことをしたせいで、オレは女を怖がるようになった・・・)
ヒナタからされた仕打ちを思い出して、カズヤがいら立ちを募らせていく。
(だから、アイツらがどんな気分になっても、オレは関係ない・・・!)
カズヤが心の中で叫んで、バイクに乗る。
(そうだ・・オレはいつだってオレに素直だ・・)
バイクのエンジンをかけて、カズヤは走り出す。
(オレがオレであるためには、それを変える必要はないんだ・・・!)
さらに自分に言い聞かせて、カズヤはバイクのスピードを上げた。
丘の中の人気のない場所。そこで1人の女性が恐怖して震えていた。
女性の前には植物のような姿の怪物が立ちはだかっていた。
「やめて・・助けて・・助けて・・・!」
涙を見せながら助けを請う女性。怪物が彼女に向かって触手を伸ばしてきた。
「キャアッ!」
胸に触手が突き刺さり、女性が悲鳴を上げる。さらに女性は触手で血を吸われていく。
「イヤ・・・ァァァ・・・」
血を吸われて力が抜けて、女性の悲鳴が弱々しくなる。血を吸い尽くされて、彼女はこの場に倒れて動かなくなった。
「フフフフ・・いい味だった・・やはりいい女の血もまたいい・・」
怪物が血の味を噛みしめて、喜びを浮かべていく。
「もっと・・もっと血を吸いたい・・もっとこの味を感じたい・・・」
怪物は次の獲物を求めて丘を離れた。この場には複数の女性たちが倒れていて、全員怪物によって血を吸い取られてしまっていた。
カズヤとヒナタを避けて、喫茶店を飛び出したルナ。行く当てを見失っていた彼女は、街の中で途方に暮れていた。
(私、これからどうしていけばいいの?・・このことを、警察が誰かに話したほうがいいのかな・・・?)
人込みの中を歩きながら、不安と苦悩を深めていくルナ。
(もしかして、この中に怪物が・・・!?)
疑心暗鬼も感じるようになってしまったルナ。目に移る人々の中に怪物が紛れているのだと、彼女は思うようになってしまった。
(イヤ・・イヤ・・・!)
恐怖を膨らませたルナが人込みから抜け出す。彼女は街からも外れて、ひたすら逃げていく。
そして息が乱れて、ルナは足を止めて呼吸を整えていく。
(本当に・・本当にどうしたら・・・!?)
絶望感に打ちひしがれていくルナ。彼女は無意識に涙を流していた。
「すぐに見つかるものなのね、きれいな人って・・」
そこで声をかけられるルナ。ところが困惑していた彼女は振り向こうともしない。
ルナのそばに長い黒髪の女性が現れた。
「きれいな人は血もおいしいものなのよ・・」
言いかける女性の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の変貌に気付いて、ルナが緊張を募らせる。
女性の姿が植物のような怪物に変わった。
「か、怪物!?」
恐怖を覚えたルナがたまらず逃げ出す。
「私は見つけた獲物は逃がしたことがないのよ・・」
怪物、ローズガルヴォルスがルナを追いかけていった。
自分を貫こうとひたすらバイクを走らせていたカズヤ。しかし彼は込み上げてくる不快感を拭うことができないでいた。
「ちくしょう・・これでオレは納得するはずだってのに・・・!」
腑に落ちない気分を抱えたまま、カズヤは走り続ける。
そのとき、カズヤは強い気配を感じ取った。彼はすぐにそれがガルヴォルスのものだと気付いた。
「こんな気分のときに出てくるなんて・・!」
カズヤは憤りを募らせて、気配のする方へ急いだ。
人気のない道に差し掛かったところで、カズヤはバイクを止めて降りた。
「どこだ・・どこにいるんだ・・・!?」
カズヤが周囲に注意を向ける。歩き続ける彼は、逃げていくルナと追いかけるローズガルヴォルスを視界に捉えた。
「ガルヴォルス・・・!」
ローズガルヴォルスに敵意を覚えるカズヤ。だがルナを助けることへの疑念を感じて、彼は前に踏み出そうとした足を止めた。
(いや・・オレは、別に女のためなんかに・・・)
ガルヴォルスに悪さをさせない気持ちと、女から受けた仕打ちに対する憎悪が心の中で入り混じり、カズヤは葛藤していた。どうするのが自分にとっていいことなのか、彼はすぐに答えを見つけ出せないでいた。
(オレは・・オレがしたいのは・・・!?)
必死に答えを見出そうとするカズヤ。迷いを振り切ろうとした彼が出した結論は、
「やっぱり・・オレは・・!」
首を横に振ってから、カズヤがローズガルヴォルスに向かっていく。デーモンガルヴォルスになった彼が、ローズガルヴォルスに飛びかかった。
カズヤの登場にルナが戸惑いを覚える。だが怪物への恐怖心が、彼女をカズヤから遠ざけようとしていた。
「あの子は私のものよ。邪魔しないでもらえるかしら?」
「またお前らバケモノは・・どこまで勝手なことをすれば気が済むんだよ・・・!」
微笑みかけてくるローズガルヴォルスに、カズヤが憤りを見せる。
「カズヤ・・・カズヤ、だよね・・・?」
ルナが声を振り絞るが、カズヤは彼女に振り向こうともしない。
「お前も、オレもバケモノの1人だと思ってるんだろ・・・!?」
「カズヤ・・私は、そんな・・・」
問いかけてくるカズヤに、ルナは困惑を見せる。
「オレはオレのままの生きる・・選ぶことも、生きることも、全部オレが決める・・・!」
「カズヤ・・・」
「女であるお前を助けようなんて思ってない・・だけどお前を見殺しにしてもいい気がしない・・!」
カズヤがルナの前で怒りを募らせて、拳を握りしめる。
「そうだ・・オレは絶対に、納得できないことを受け入れるつもりはない!」
いきり立ったカズヤがローズガルヴォルスに向かっていく。力を込めて拳を繰り出す彼だが、ローズガルヴォルスに軽やかにかわされる。
「自分勝手だけど悪くない言い分だと言いたいところね。でも私は、その子の血を吸いたいだけなの。」
「ふざけんな!そういう勝手なマネをされると虫唾が走るんだよ!」
「笑わせないで。あなただって同じガルヴォルス。人間を弄んで嬉しがっているくせに。」
「オレはお前たちとは違う!」
妖しく微笑みかけてくるローズガルヴォルスに、カズヤが怒りをぶつけていく。だがカズヤの攻撃は、ローズガルヴォルスにことごとくかわされていく。
「あんまりまとわりつかれてもいい気がしないから・・」
ローズガルヴォルスが笑みを消して、ツルを伸ばしてきた。
「うっ!」
ツルを首に巻きつけられて締め付けられて、カズヤがうめく。ツルを振り払おうとする彼だが、ローズガルヴォルスがさらにツルを伸ばして彼の手足を縛り付ける。
「男の血はあんまり口に合わないのよね。だから苦しみと痛みをあなたに味わわせる。」
「どこまで勝手なことを・・これだから女は・・心を腐らせたバケモノは・・!」
微笑みかけるローズガルヴォルスに、カズヤが憤りを募らせていく。彼が全身に力を込めていく。
「悪いけど脱出はさせないわよ。このまま締め付けて、息の根を・・」
ローズガルヴォルスがさらにツルで締め付けようとする。しかしカズヤは力を抜かない。
「オレはお前たちを認めない・・絶対に許してたまるかよ!」
カズヤが怒号を放って、締め付けていたツルを吹き飛ばした。
「そんな!?」
ツルを破られたことに驚愕するローズガルヴォルス。呼吸を整えてから、カズヤが彼女に鋭い視線を向ける。
「自分のことしか考えないお前なんか・・今ここで叩き潰してやる!」
カズヤが言い放つと、切れたツルをつかんで引っ張って、ローズガルヴォルスを引き寄せる。
「ぐあっ!」
引っ張られたローズガルヴォルスが、カズヤが繰り出した拳を体に受ける。痛烈な一撃を受けて、ローズガルヴォルスがうめく。
「力が・・力が上がっている・・あなた、普通のガルヴォルスじゃない・・・!?」
高まっていくカズヤの力に、ローズガルヴォルスは危機感を募らせていく。恐怖した彼女がたまらず逃げ出そうとする。
「ここで叩き潰すと言ったはずだ!」
カズヤが素早くローズガルヴォルスに詰め寄って、同時に剣を具現化して突き立てた。
「ぐあぁっ!」
剣に体を貫かれて、ローズガルヴォルスが絶叫を上げる。事切れた彼女が剣に刺されたまま崩壊していった。
カズヤはひとつ吐息をついてから、ルナに振り返る。ルナは困惑を見せたまま、その場から動けなくなっていた。
カズヤは剣を消して、人の姿に戻った。
「オレはまだ、納得ができてるわけじゃない・・お前だって、こんなオレに納得できているわけじゃないんだろ・・・?」
「カズヤ・・それは・・・」
カズヤに言葉を投げかけられて、ルナが困惑を募らせる。
「オレも好きでこんなバケモノになったわけじゃない・・だけどオレはあくまでオレだ・・オレのことを勝手な考えで判断してきても、オレは無視する・・勝手に思ってろってバカにする・・」
「カズヤ・・・」
「お前やヒナタが何を言ってきても、オレはオレを貫く・・・」
戸惑いを浮かべるルナに自分の考えを口にするカズヤ。
「それなら、私たちも自分を貫かせてもらうわ。」
そのとき、カズヤとルナの前にレイが姿を現した。直後に兵士たちが現れて、カズヤに向けて銃を構えてきた。
「レイ・・・!」
レイたちに憤りを見せるカズヤ。兵士たちがカズヤとルナを取り囲んでいた。
「ガルヴォルスのことをあまり公にされるのは感心しないわね。余計な混乱を招くことになるから。」
「そのために、関係ない人をどうかするつもりなのかよ・・・!?」
語りかけるレイにカズヤが鋭い視線を向ける。さらなる不可思議な事態に直面して、ルナは冷静さを保てなくなっていた。
次回
「やめろ!コイツらでも人間なんだぞ!」
「殺したくないために、弄ばれても構わないとでもいうのか・・!?」
「もうこれ以上苦しむことはないのよ。あなたも彼女も・・」
「オレに・・オレたちに付きまとうな!」