ガルヴォルスRebirth 第9話「癒せぬ感傷」

 

 

 カズヤがヒナタと再会してから一夜が明けた。カズヤとルナが開店の準備をしていた。

「あっ、コーヒー豆なくなりかけている・・」

 材料や調味料などをチェックしていたルナが声を上げる。

「私、買いに行ってくるよ・・カズヤは留守番をお願い・・・!」

「お、おい!・・もう・・」

 店を飛び出したルナに、カズヤが呆れて肩を落とす。

「しょうがねぇ。オレだけで準備を進めるか・・」

 カズヤは気持ちを切り替えて、支度を進めるのだった。

 

 コーヒー豆を買いに外に飛び出したルナ。彼女はコーヒーショップで豆を買って、喫茶店に戻ろうとしていた。

「ふぅ・・これで大丈夫ね。」

 安心を見せて、コーヒー豆の入った袋を持っていくルナ。

 その帰り道の途中、路地から人影が飛び出してきて、ルナが足を止める。

「ご、ごめんなさい・・あっ!」

 謝ったところで、ルナが驚きの声を上げる。彼女の前に出てきたのはヒナタだった。

「ヒ、ヒナタ!?

 ルナが慌ててヒナタに駆け寄る。ヒナタは疲弊していて、意識がもうろうとなっていた。

「ル・・ルナ・・ちゃん・・・」

 ルナに気付いたヒナタが声を振り絞る。しかし彼女はその直後に意識を失って倒れる。

「ヒナタ!」

 叫ぶルナがヒナタを支える。ルナはヒナタをしょって、喫茶店を目指した。

 

 準備を整えて開店に備えていたカズヤ。彼はテーブルに両腕を乗せて待っていた。

「さて、今日もこなすとするか・・」

 立ち上がって気を引き締めるカズヤ。彼のいる喫茶店のドアが開いた。

「ルナか。そろそろ開店時間・・」

 カズヤが声をかけて駆け寄ろうとした。そこで彼はルナと一緒に、ヒナタが入ってきたのを目にした。

「ヒナタ!?

「カズヤ、大変!ヒナタが・・!」

 驚きの声を上げるカズヤに、ルナが呼びかける。

「ヒナタを休ませてあげて・・ひどく疲れているから・・・!」

「だけど・・ヒナタはオレを・・・!」

「これだけ大変なことになっているのに、放っておくことなんてできない・・・!」

 ヒナタを助けることを懸念するカズヤに、ルナがさらに呼びかける。カズヤが助けの手を差し伸べないまま、ルナがヒナタを奥の部屋に連れて行った。

「このまま開店するぞ・・仕事はオレ1人でやるぞ・・」

 カズヤが声をかけるが、ルナからの返事はない。カズヤはため息をついてから、店の仕事に専念することにした。

 

 店の奥の部屋にヒナタを運んだルナ。ルナはヒナタの介抱に尽力していた。

「ヒナタ・・しっかりして・・・!」

 ルナの介抱を受けて、ヒナタがだんだんと落ち着きを取り戻しつつあった。

「ヒナタ・・大丈夫かな・・元気になって・・・」

 ヒナタの心配で気が気でなくなっているルナ。彼女も疲れを感じて肩を落とした。

「いけない・・私まで疲れてきて・・・」

 意識がもうろうとなって、ルナもその場に横たわって眠ってしまった。

 

 目を覚ましたとき、ルナは自分に毛布が掛けられていた。

「あ・・あれ・・・?」

「お前まで眠っちゃって、ムチャするんだから・・」

 部屋を見回すルナに、カズヤが声をかけてきた。

「カズヤ・・・仕事は・・?」

「臨時休業にした・・お前たちのそんな姿を見せられたら、仕事に身が入らないって・・」

 ルナが聞くと、カズヤがため息まじりに答える。

「ゴメン、カズヤ・・迷惑かけて・・・でも、こんなヒナタを・・」

「ほっとけなかったってか?・・だからオレの不満を無視してまで手当てした・・」

「ゴメン・・・」

「謝るなよ、そんなに・・それじゃこっちが悪者じゃないか・・」

 ひたすら謝るルナに、カズヤが憮然とした態度を見せた。

「オレはヒナタを許しちゃいない・・ずっと許すこともない・・」

「カズヤ・・・」

 カズヤのヒナタへの憤りにルナが困惑を覚える。

「オレがこんな気遣いをしたのは、オレが後味が悪くなると思ったからだ・・もう付き合いきれない・・」

 カズヤはそういうと、立ち上がって部屋を出た。困惑を募らせるばかりのルナは、カズヤにこれ以上声をかけることができなかった。

(カズヤ・・どうしてもヒナタのことを・・・)

 カズヤとヒナタがどうしても和解しないことに、ルナは苦悩を感じていた。

「ルナ・・ちゃん・・・?」

 そのとき、ヒナタが目を覚まして体を起こしてきた。

「ヒナタ・・気が付いたのね・・よかった・・・」

 ルナがヒナタに安堵を見せた。

「ここは・・・?」

「喫茶店の奥の部屋。私が倒れたあなたを運んできたの・・」

「ルナちゃんが私を・・・迷惑かけちゃったね、ルナちゃん・・」

「ううん、そんなことないよ。困ったときは助け合い。」

 肩を落とすヒナタにルナが微笑みかける。

「何があったの?・・あんなになるまでって、何か事件か事故に巻き込まれたんじゃ・・」

 ルナが不安を浮かべて、ヒナタに問いかける。するとヒナタも困った顔を浮かべた。

(もしかしたら、ルナちゃんは私たちやガルヴォルスのことを知らない・・だとしたら言えない・・言ったら巻き込んじゃう・・)

 ヒナタはルナに自分たちのことを言うことができなかった。ルナのことを気遣って。

「大したことじゃないよ。当てもなく歩き回っていくうちに、疲れちゃって・・」

「それならここにいれば・・でも、カズヤが・・」

 ごまかそうとしたヒナタに答えて、ルナがカズヤのことを気にする。

「カズヤとヒナタがこのままギクシャクしたままでいるのは、私、正直つらい・・・

「ルナちゃん・・・」

「私は、カズヤと仲直りしてほしいかなと思う・・2人がまた楽しく過ごしていってほしいって・・・」

 ヒナタに自分の正直な気持ちを語りかけるルナ。彼女はカズヤがヒナタにもまた優しさを見せてほしいと思っていた。

「私は、カズヤがルナと仲良くなって、また明るくなってほしいかな・・」

 するとヒナタも正直な気持ちを口にしてきた。

「ヒナタ・・私は別に・・」

「ううん、私はいいの・・余計なことをしたから、私にはもう、カズヤと仲良くなる資格はない・・その願いが叶うことは絶対にない・・・」

 当惑するルナに微笑みかけてから、ヒナタが首を横に振る。

「でもルナちゃんなら、カズヤとこれからも仲良くできる・・それだけじゃない。ルナちゃんなら、カズヤを助けられると思う・・」

「そんな・・私になんて・・私でも、カズヤを不満にさせているのに・・」

「そんなことないよ。カズヤ、ルナちゃんと一緒に過ごして、だんだんと落ち着きを取り戻してきている・・きっとルナちゃんが、カズヤを助けているんだよ・・」

 戸惑いを見せるルナに、ヒナタが切実に言いかける。

「お願い、ルナちゃん・・これからもカズヤを助けてあげて・・」

「ヒナタ・・私が、カズヤを・・・!?

「図々しいってことは分かってる・・でも、私にはそれができないから・・」

 ヒナタが頼み込んで、ルナの手を取った。ルナはさらに戸惑いを募らせる。

「ルナちゃんにはホントに感謝してる・・ありがとうね、ルナちゃん・・」

「えっと・・手当てのことは気にしないで。私が助けたいと思っただけだから・・」

 お礼を言うヒナタに、ルナが微笑んで答える。

「それよりもヒナタ、まだもう少し休んだほうがいいよ。治りかけているのにムリをしたら逆に体を悪くしてしまうから・・」

「そんな、ルナちゃん・・あなたやカズヤにこれ以上迷惑をかけちゃうのは・・」

「ムチャしたらダメだって。遠慮しなくていいから、ね。」

「ルナちゃん、君も強引なとこ、あるね・・」

 ルナに寝かしつけられて、ヒナタは再び横になった。

 

 ヒナタの介抱に区切りを付けて、ルナは部屋を出た。店の中のカウンター席の1つに、カズヤが座っていた。

「落ち着いたのか・・?」

「うん・・ゴメン、カズヤ・・迷惑かけちゃって・・」

 カズヤが声をかけると、ルナが微笑んで謝った。

「まったくだ・・アイツがいるとオレの何もかもがムチャクチャになるっていうのに・・」

「ゴメン・・どうしても放っておくことができなかったから・・・」

「ハァ・・オレも普通だったら、ほっとくことはできなかったけど・・ヒナタじゃ・・」

 さらに謝るルナに、カズヤが憮然とした態度を見せる。

「カズヤ・・もしもヒナタからイヤなことをされなかったら、今もヒナタと仲良くなれたかな・・・?」

「さぁ・・どっちにしても、今じゃ後の祭りだ・・」

 ルナが問いかけるが、カズヤは不満げに答えるだけだった。

(カズヤ・・・)

 頑なな意思を見せるだけのカズヤに、ルナも困惑するばかりだった。

 

 次の日も喫茶店を休みにしたカズヤ。ルナがヒナタの面倒を見ている中、カズヤは1人で外に出てバイクを走らせていた。

「もう、ルナったら・・あれじゃオレの居場所がなくなるじゃないか・・」

 カズヤが走りながらブツブツと愚痴をこぼしていく。

「オレは絶対にヒナタを許さない・許せば、あんな仕打ちが正しいことになっちまう・・」

 ヒナタからされたことを頑なに拒絶するカズヤ。彼は自分の考えを貫こうとしていた。

 そのとき、カズヤが突然頭痛を覚えて、とっさにバイクを止めた。

「な、何だ・・!?

 カズヤが辺りを見回して、異変の正体を探る。彼は今強い耳鳴りを感じていた。

「また会ったな、お前。」

 そのカズヤの前に1人の男が現れた。カズヤが耳鳴りで顔を歪めている中、男は平然としていた。

「何だ、お前は!?これはお前の仕業か!?

「今度こそ・・今度こそお前を八つ裂きにしてやるよ!」

 言いかけるカズヤに言い放つ男が姿を変える。コウモリの姿をしたバットガルヴォルスに。

「またお前か!?

「オレの爪と音波の餌食にしてやるぜ!」

 声を上げるカズヤにバットガルヴォルスが飛びかかる。カズヤもとっさにデーモンガルヴォルスになって、バットガルヴォルスの突撃をかわす。

「オレを狙ってきたっていうのかよ!?

「お前から受けた屈辱、晴らさないままにしておくか!お前の息の根を止めるまで、どこまでも付きまとってやるぞ!」

 不満を言い放つカズヤに、バットガルヴォルスが憎悪を傾ける。

「ふざけんな!そんなの冗談じゃない!」

 バットガルヴォルスの態度に、カズヤが怒りを爆発させる。

「もうこれ以上、オレの周りを付きまとわせるかよ!ここでお前を叩き潰して終わらせる!」

「それはオレのセリフだ!」

 互いに向けて言い放つカズヤとバットガルヴォルス。カズヤが突っ込んで拳を繰り出すが、バットガルヴォルスに飛翔されてかわされる。

「お前は俺のスピードについてこれない!あのときも今もな!」

 バットガルヴォルスが空中からカズヤを見下ろしてあざ笑う。するとカズヤが剣を具現化させて手にする。

「オレは振り回されたりしない!お前にも、アイツにも!」

 カズヤが強く踏み込んで大きく飛び上がる。彼の跳躍力は、バットガルヴォルスの動きを捉えていた。

「何っ!?

 驚愕するバットガルヴォルスに向けて、カズヤが剣を振り下ろす。バットガルヴォルスが紙一重で剣をかわして、カズヤから全速力で離れる。

「バカな!?オレのスピードに追い付いただと!?

 カズヤが見せてきた力に驚くばかりのバットガルヴォルス。飛んで落下しかけていたカズヤだが、背中から悪魔の翼を生やして飛行してきた。

「コイツ、何でもありなのかよ・・・!?

 カズヤの姿を目の当たりにして、バットガルヴォルスが愕然となる。

「2度とまとわりつけないように、ここで叩き潰してやる!」

 カズヤが再び飛びかかり、バットガルヴォルスに剣を振りかざす。バットガルヴォルスがカズヤの横をすり抜けていく。

「だが音波からはどうしても抜け出すことはできない!」

 バットガルヴォルスが口から音波を放つ。その衝撃を真正面から受けて、カズヤが体勢を崩して空中から落下する。

「うあっ!」

 地面に叩き落とされてうめくカズヤ。すぐに起き上がる彼だが、バットガルヴォルスを見失ってしまう。

「くっ・・どこに行った!?・・またコソコソ付け狙う気かよ!?

 カズヤが叫びながら辺りを見回す。するとさらに音波が飛び込んできた。

「ぐっ!」

 様々な方向から飛び込んでくる音波に襲われて、カズヤが顔を歪める。しかしカズヤはバットガルヴォルスの居場所が分からず、反撃に出れない。

「もう付きまとうことはしない・・ここで八つ裂きにしてやるよ!」

 バットガルヴォルスが目を見開いて、さらに音波を放った。

 

 ルナの手当てを受けてベッドに横たわっていたヒナタ。その彼女が突然飛び起きた。

「ヒ、ヒナタ・・?」

 ルナが驚く前で、ヒナタは強い気配を感じ取っていて緊張を感じていた。

(この感じ・・カズヤ・・・!?

 カズヤの危機を悟るヒナタが、たまらず起きて部屋を飛び出した。

「ヒナタ、待って!」

 ルナも慌ててヒナタを追いかける。2人は喫茶店から外に飛び出していった。

 

 木々に隠れての音波での攻撃を仕掛けるバットガルヴォルスに、カズヤは防戦一方になっていた。

「いつまでもそんなコソコソしやがって・・情けないと思わないのか!?

「情けないだ?お前を叩きのめせるなら何でもやってやるぜ!」

 怒りを爆発させるカズヤを、バットガルヴォルスがあざ笑っていく。

「このままお前がズタズタになってくたばる様を、高みの見物させてもらうぞ!」

 バットガルヴォルスが木々に身を隠しながら、カズヤを狙い撃ちにしていく。

(まずいぞ・・このままじゃマジでやられちまう・・・!)

 危機感を募らせていくカズヤ。

 そのとき、カズヤの視界にヒナタの姿が入ってきた。

(アイツ・・・!)

 ヒナタが来たことに毒づくカズヤ。ヒナタがデーモンガルヴォルスになっているカズヤを目撃する。

(カズヤ・・他のガルヴォルスと戦ってる・・・!)

 ヒナタがいきり立って、キャットガルヴォルスになる。

(カズヤはガルヴォルスの居場所を見つけられていないけど・・私になら・・!)

 ヒナタは感覚を研ぎ澄ませてバットガルヴォルスの居場所を探る。

「そこ!」

 目を見開いて、ヒナタが一気にスピードを上げて駆け出す。木陰に身を潜めていたバットガルヴォルスを、彼女は横から突き飛ばした。

「ぐっ!」

「今だよ!逃げられる前に早く!」

 うめくバットガルヴォルスと、カズヤに呼びかけるヒナタ。カズヤがとっさに剣を構えて、バットガルヴォルスに向かっていく。

 すぐに起き上がって飛び上がろうとしたバットガルヴォルスだが、カズヤが突き出した剣に貫かれた。

「ぐあぁっ!」

 バットガルヴォルスが絶叫を上げて、鮮血をまき散らす。

「ぐっ!・・アイツ、余計なマネを・・・!」

「あぁ・・オレもそう思ってる・・・!」

 うめくバットガルヴォルスに、カズヤが低く告げる。カズヤが剣を引き抜くと、バットガルヴォルスが力なく倒れていく。

「オレは・・こんなところで・・・!」

 起き上がろうとしたバットガルヴォルスだが、力尽きて崩壊を引き起こした。

「お前がこっちに来るなんて・・・」

「うん・・気配を感じて、ここまで来たの・・」

 カズヤがため息まじりに声をかけると、ヒナタが真剣な面持ちで答える。2人がガルヴォルスから人の姿に戻る。

「でも、いきなり飛び出しちゃったから、ルナちゃんが心配し・・て・・・」

 ヒナタが苦笑いを見せたときだった。彼女が緊張を感じながら、ゆっくりと振り返る。

 カズヤもヒナタが振り向いた先を見る。その先にいたのはルナだった。

「ルナ、ちゃん・・・!?

 ヒナタがルナの姿に目を疑う。ヒナタはルナに自分たちがガルヴォルスになっていたのを目撃されてしまった。

「カズヤ・・ヒナタ・・・!?

 ルナもカズヤとヒナタの異形の姿を目の当たりにして、驚愕していた。

「ル、ルナちゃん・・これは、その・・・!」

 ヒナタが声をかけようとするが、ルナが怖がって逃げ出してしまった。

「ルナちゃん!」

 ヒナタが慌ててルナを追いかける。だがカズヤは困惑を抱えたまま、この場に立ち尽くしていた。

 

 

次回

第10話「孤独の翼」

 

「あんな・・あんな怪物がいるなんて・・・!?

「ルナちゃんはもう、私やカズヤのことを・・・」

「オレはいつだってオレに素直だ・・」

「オレは絶対に、納得できないことを受け入れるつもりはない!」

 

 

作品集

 

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