ガルヴォルスRebirth 第8話「つながり」
ヒナタもガルヴォルスだった。互いにガルヴォルスであることを知って、カズヤもヒナタも心を揺さぶられていた。
「私、カズヤには本当に何もしない・・ガルヴォルスになっても、私はカズヤに何もできないから・・」
「オレは・・お前の思い通りにはならない・・・!」
言いかけるヒナタにカズヤが言い返す。
「オレはどんなことがあっても、お前には振り回されない!」
「カズヤ・・・」
「消えろ・・2度とオレの近づくな!」
困惑するヒナタを突き放すカズヤ。彼に睨まれてヒナタが離れていく。
「ホントにゴメン、カズヤ・・・」
カズヤに謝ってから、ヒナタは立ち去っていった。
「くっ・・オレも戻らないとな・・・」
不満と憤りを抱えたまま、カズヤは喫茶店に戻っていった。
カズヤを探しに先に喫茶店を飛び出していたルナ。だがルナはカズヤを見つけられず、喫茶店に戻ることにした。
「カズヤ、戻っているといいけど・・・」
カズヤが戻っているのを祈りつつ、喫茶店に向かうルナ。その途中、彼女はヒナタの姿を目撃する。
「あれは・・・!」
ルナが慌ててヒナタを追いかけていく。
「待って!」
ルナに呼び止められて、ヒナタが立ち止まって振り返った。
「ルナちゃん・・ここに来てたんだね・・」
「うん・・1回お店に戻ろうとしたら、あなたを見かけて・・・」
ヒナタが声をかけると、ルナが頷いて答えた。
「カズヤ、お店に戻ってきてるよ・・でも私、すっかり嫌われてて・・」
「カズヤが・・・でも、ヒナタちゃんのことを、そこまでカズヤは・・」
物悲しい笑みを浮かべるヒナタに、ルナが困惑を覚える。
「それだけのことを、私はしたんだよ、アイツに・・嫌われて当然だよ・・」
「ヒナタちゃん・・だからって、あなたがそんな・・」
「私には、カズヤを好きになる資格はない・・もう私には、カズヤの心の傷を消すことはできない・・」
「そんなこと・・そんなことないよ・・!」
落ち込むヒナタにルナが感情を込めて呼びかけてきた。
「きっと、カズヤと仲直りできるときが来るよ・・来ないなんてこと、ない・・」
「ダメだよ・・カズヤ、けっこうガンコだから、1度嫌ったら絶対に好きにはならない・・そうだって思い知らされたから・・・」
ルナが切実に呼びかけるが、ヒナタは微笑んだまま首を横に振る。受け入れてもらえないと思っている彼女に、ルナは困惑を募らせていく。
「ルナちゃん・・お願いがあるの・・ルナちゃんが、カズヤの支えになってほしいの・・」
「ヒナタちゃん・・・」
ヒナタが投げかけてきた言葉に、ルナが戸惑いを覚える。動揺を感じていく彼女の手を、ヒナタが握ってきた。
「カズヤを助けられるのは、ルナちゃんだけ・・ルナちゃんしかいない・・」
「ヒナタちゃん、そんな・・私も、カズヤにいい印象ないのに・・・」
「でも私よりは全然マシだよ・・私と違って、ルナちゃんはカズヤに何も悪いことしてないんだから・・」
「でも・・それでも私はカズヤに・・・」
励ますヒナタだが、ルナはカズヤと仲良くなれない不安を感じたままだった。
「それに・・」
「それに・・?」
「私、信じているの・・」
ルナがヒナタから手を放して、軽やかに歩き出していく。
「あなたとカズヤが、仲直りできることを・・・」
「ルナちゃん・・・」
「一緒に行こう、ヒナタちゃん・・カズヤ、分かってくれる・・」
笑顔を見せてくるルナに、ヒナタが戸惑いを感じていく。励ましていたはずが逆に励まされて、ヒナタは心を揺さぶられていた。
「ルナちゃん・・・ゴメン・・やっぱり、私はカズヤにはもう・・・」
ところがヒナタはルナと一緒に喫茶店に戻ろうとしなかった。彼女は元気なく、ルナとは反対の方へ歩き出していった。
「ヒナタちゃん・・・」
去っていくヒナタを、ルナはこれ以上呼び止めることができなかった。
ヒナタに対する不満を抱えたまま、カズヤは喫茶店にいた。その店にルナが元気なく帰ってきた。
「ただいま・・・ずっと探していたんだよ、カズヤ・・・」
「別に探してくれなんて頼んでない・・・」
ルナが声をかけるが、カズヤは憮然とした態度を取るだけだった。
「さっき・・ヒナタちゃんと会ったよ・・ヒナタちゃん、すごく落ち込んでいたよ・・・」
「それでオレは同情しない・・アイツが悪いんだから・・」
「でも、ヒナタちゃんは純粋にカズヤのことを・・・」
「関係ない・・オレはアイツのせいで・・・!」
心配の声をかけるルナだが、カズヤの考えは頑なだった。
「今は何とか、女全員にいちいち腹を立てるようなことはなくなってきてるが、アイツだけは絶対に許さない・・・!」
「カズヤ・・・どうしても、ヒナタちゃんとは分かり合えないの・・・?」
「その問いの答えは1つだけだ・・・」
深刻さを募らせるルナに、カズヤは不満を見せるだけである。
(ヒナタちゃん・・・真っ直ぐで思いやりのあるのに・・カズヤにはどうしても受け入れてもらえないの・・・?)
頑ななカズヤと純粋なヒナタ。2人のそれぞれの思いに、ルナは困惑を募らせていた。
カズヤへの気持ちを考えて、ヒナタは苦悩を深めていた。どうしたらいいのか分からず、彼女はため息をついてばかりだった。
「私が悪いんだけど・・このままカズヤと仲良くなれないなんて・・・」
ヒナタが肩を落として、またため息をつく。
「見つけたぞ。こんなところにいたか。」
そこへ声をかけられて、ヒナタが足を止めた。振り向いた彼女の前に、大きな体格の男が現れた。
「アンタ、誰?何か用?」
ヒナタが問いかけると、男が不敵な笑みを浮かべてきた。
「人間の姿を見せていなかったな。」
男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がバッファローガルヴォルスとなった。
「アンタ、あのときのガルヴォルス・・・!」
「この前のようにはいかないぞ。覚悟するのだな。」
目つきを鋭くするヒナタに、バッファローガルヴォルスが言いかける。
「悪いけど、今の私はすごく機嫌が悪いの・・・」
低い声音で言いかけるヒナタの頬にも紋様が走る。
「アンタのことなんか知ったことじゃない・・容赦なく息の根を止めることもためらわない・・・!」
彼女もキャットガルヴォルスとなって、バッファローガルヴォルスに敵意を向ける。
「言ってくれるな。だがそれでもお前はオレに倒されることになる。」
バッファローガルヴォルスが言い放ち、ヒナタに向かって突っ込んでくる。
「同じことの繰り返しじゃ、私に勝てるわけないでしょ。」
ヒナタが飛び上がって、バッファローガルヴォルスの突進をかわそうとする。だがバッファローガルヴォルスは突進を止めて、ヒナタの足をつかんできた。
「えっ!?」
驚くヒナタがバッファローガルヴォルスに地面に叩きつけられる。苦痛を覚える彼女をバッファローガルヴォルスが踏みつける。
「オレをただの猪突猛進だと思うな。いつまでも逃げ回れると思うなよ。」
バッファローガルヴォルスがヒナタを押さえつけて、不敵な笑みを浮かべる。
「悪いけど、私の強みはスピードだけじゃないよ・・・!」
ヒナタが全身に力を込めて起き上がってくる。
「ムダだ。オレのその強みというのはパワーだ。お前にオレの足を振り払うことはできない。」
「それはどうかな・・・!?」
さらに押し付けようとしたバッファローガルヴォルスだが、ヒナタの体にだんだんと押し返されていく。
「何っ!?」
足を振り払われて、バッファローガルヴォルスが驚く。立ち上がったヒナタがバッファローガルヴォルスに鋭い視線を送る。
「ここまでやらかしたんだ・・私のストレス解消に付き合ってもらうよ・・・!」
ヒナタは憤りを見せて、バッファローガルヴォルスに一気に飛びかかった。バッファローガルヴォルスの懐に一気に飛び込んだ彼女は、体目がけて右手を突き出した。
「ぐっ!」
痛烈な一撃を受けて、バッファローガルヴォルスがうめく。彼もヒナタに向かって拳を繰り出す。
ヒナタに素早くかわして、バッファローガルヴォルスとの距離を取って着地する。
「オレの体に・・傷を・・・!」
バッファローガルヴォルスがヒナタに対して憤りを募らせていく。
「絶対に・・貴様はオレが叩き潰す!」
バッファローガルヴォルスが憤慨して、ヒナタに向かって突っ込んできた。その勢いは彼のスピードを一気にあげていた。
ヒナタはバッファローガルヴォルスの突進の直撃を受けたかに見えた。
「さすがによけられないか!このまま突き飛ばして・・!」
勝ち誇るバッファローガルヴォルス。だがヒナタは直撃されておらず、バッファローガルヴォルスの角をつかんでいた。
「バカな!?オレの突進と角を!?」
「スピードもパワーも、私には勝てないってことだね・・・!」
驚愕するバッファローガルヴォルスを、ヒナタが微笑んであざける。
「そんなことはない!このまま押し込んで・・!」
バッファローガルヴォルスがヒナタを押し込もうとした。次の瞬間、ヒナタの手がバッファローガルヴォルスの角をへし折った。
「ぐあぁっ!」
バッファローガルヴォルスが激痛を覚えて昏倒する。立ち上がれないでいる彼を見下ろして、ヒナタが爪を構える。
「ホントは苦しませて喜ぶのは好きじゃない・・だからすぐにその苦しみを終わらせる・・・!」
「ま、待て・・!」
目を見開いたヒナタを、バッファローガルヴォルスが呼び止める。だがヒナタの爪は彼の体に深く突き刺さった。
「がはぁっ!」
絶叫と吐血を出して、バッファローガルヴォルスが動かなくなる。事切れた彼は固くなり、崩壊を引き起こした。
「これで厄介なのに付きまとわれずに済むね・・」
ガルヴォルスから人間の姿に戻ったヒナタが呟きかける。
「でも、カズヤにとって厄介なのは私のほうね・・」
「なかなかやるわね、あなた。」
肩を落としていたところで声をかけられて、ヒナタが振り向く。彼女の前に現れたのはレイだった。
「あなた、誰?私に何か用?」
「私は木崎レイ。ガルヴォルスについて捜査をしているの。」
ヒナタが問いかけると、レイが微笑んで答える。
「あなた、レベルの高いガルヴォルスね。あなたにも捜査に協力してもらえたら・・」
「どういうことなのか、今ここで話をしてくれないかな?話が全然のみこめないのに、ホイホイとついていけるわけないって・・」
レイが誘いを持ち出すが、ヒナタは素直に聞こうとしない。
「私たちの持つ情報は秘密事項に該当するの。ここでは話せないの。だから別のところで・・」
「それでもここで話して。でなきゃ話はおしまいということで・・」
導こうとするレイだが、ヒナタは彼女のペースに乗ってこない。
「そうね・・それは残念ね。」
レイがため息をつくと、物陰に潜んでいた兵士たちが一斉に出てきて銃を構えてきた。
「できることなら穏便に済ませたいわよね、あなたも私も。」
「その方法ならちゃんとあるよ・・何もせずにほっとくっていうのがね・・!」
呼びかけるレイに言い返すと、ヒナタがキャットガルヴォルスとなる。同時に兵士たちが銃を発射する。
ヒナタは素早く動いて銃撃をかいくぐっていく。
「速い・・!」
「何とかして動きを止めなくては・・!」
兵士が焦りを噛みしめて、ヒナタを狙って銃を構える。着地したヒナタがレイと兵士たちに鋭い視線を向ける。
「私は今、機嫌が悪いの。だからおかしなことをしてくるなら、私は容赦できないよ・・」
ヒナタはそういうと、レイたちの前から去っていった。
「逃がすか!」
「いいわ。今回はこの辺にしておくわ。」
追いかけようとした兵士たちをレイが呼び止める。
「あの速さを出されたら、私たちが追跡するのは困難よ。今はまだ泳がせておくことにするわ。」
「分かりました。準警戒で監視を続けます。」
レイの指示を受けて、兵士たちは散開していった。
(また新しくガルヴォルスを発見したわね。でもコウやカズヤのように、彼女も手に負えない強者のようね。)
心の中でレイがヒナタのことを気にしていく。
(でも何とかしてみせるわ。ガルヴォルスも、あの3人も。)
カズヤたちを自分の思い通りにできると思って、レイは自信を込めた笑みを浮かべていた。
レイたちの前から去っていったヒナタ。人の姿に戻った彼女だが、カズヤのことを気にして気落ちしていた。
「ハァ・・やっぱりスッキリしないかなぁ・・」
ヒナタが独り言を呟いて、おもむろに空を見上げた。
「そういえばカズヤもガルヴォルス・・そのこと、ルナちゃんは知ってるのかな・・・?」
ヒナタがふとルナのことも考えていく。
「きっと知らないよね・・・やっぱり戻って、せめてルナちゃんと話をしといたほうが・・」
ヒナタがまた喫茶店に戻ろうとした。
そのとき、ヒナタの耳に悲鳴が飛び込んできた。悲鳴はとてもかすかで、普通の人間には聞き取りにくい小ささだった。
「もう、こんなときに・・・!」
ヒナタが呆れながら、悲鳴のしたほうに向かって走り出す。彼女は人気のない小さな道に差し掛かった。
そこでは1人のガルヴォルスが、レイが指揮する兵士たちと争っていた。それはダークガルヴォルスとなったコウだった。
「ガルヴォルス・・こんなところに・・・!」
別のガルヴォルスの登場にヒナタが滅入る。
「あの人たちは私を利用しようとしてきた人たち・・ホントは助けたくないけど、後味悪くなりそうだから・・・!」
ヒナタはいきり立ち、キャットガルヴォルスになってコウの前に飛び出す。
「何だか好き勝手に暴れちゃってるじゃない。そういうの、あんまりいい気がしないんだけど・・」
不満を言ってみせるヒナタに、コウが鋭い視線を向ける。
「アイツらはオレの敵だ・・邪魔をするなら、誰だろうとガルヴォルスだろうと・・・!」
ヒナタにも敵意を向けるコウ。彼がいきり立ち、ヒナタに飛びかかってきた。
「ちょっと!いきなりだなんて!」
ヒナタが反応して、素早く後ろに飛んでかわす。だがコウは彼女に執拗に迫ってくる。
「全てがオレの敵だ!アイツらの味方をするお前も!」
「違うって!私はそんなつもりは・・!」
敵意をむき出しにしてくるコウに、ヒナタが言い返す。しかしコウは聞き入れようとしない。
「ヤツらは真っ先に始末されなければならない・・邪魔するなら、他のヤツも!」
コウが激情をあらわにすると、全身から黒いオーラを強めていく。
「アイツ、あんなとんでもない力を持ってるの!?」
コウの発揮する力に毒づくヒナタ。コウが怒号とともにオーラを放ってきた。
「うわあっ!」
回避しようとしたヒナタだが、コウのオーラに吹き飛ばされてしまった。コウが感覚を研ぎ澄ませるが、ヒナタを見失ってしまった。
「みんな逃がしたが・・・くっ・・・!」
ヒナタや兵士たちを見失い、いら立ちを噛みしめるコウ。彼は人の姿に戻って、この場を後にした。
(全てを打ち倒さないと、オレはオレでいられない・・・!)
次回
「またお前か!?」
「私は、カズヤと仲直りしてほしいかなと思う・・」
「私は、カズヤがルナと仲良くなって、また明るくなってほしいかな・・」
「もうこれ以上、オレの周りを付きまとわせるかよ!」