ガルヴォルスRebirth 第4話「安らげる場所」
ダークガルヴォルスの突然の襲撃。太刀打ちできず、カズヤは何とか逃げ切ることができた。
「くぅ・・危ないところだった・・・」
人間の姿に戻ったカズヤが、肩を落としてため息をつく。
「アイツ、ホントに強かった・・並みの相手じゃないってことか・・」
ダークガルヴォルスを思い出して、カズヤが緊張を噛みしめていく。
「2度と会わないのを祈っておくよ・・」
カズヤはまたため息をついてから、立ち上がって歩き出していった。
(今は気持ちの整理がつかない・・リョウ先輩の喫茶店に戻るしかないか・・・)
行く当てを見失ったカズヤは、喫茶店に戻ることにした。
カズヤとダークガルヴォルスの対峙は、レイが率いる兵士たちに目撃されていた。情報はすぐにレイに報告された。
「そのガルヴォルス・・間違いない。彼ね・・」
ダークガルヴォルスに心当たりがあり、レイが呟く。
「速水コウ。私の下でついていたけど、1月前にここを抜け出して・・」
「まさか、我々の逆襲のために・・・?」
「そうかもね。でも間違いをしているのは彼のほう・・」
ダークガルヴォルス、コウを思い出しても、レイは笑みを消さない。
「コウの動きは引き続き監視して。ただし深追いも追撃もしないように。確実に命を落とすことになる・・」
「了解。そのように部隊に指示します。」
レイの言葉に答えて、兵士が彼女の前から去っていった。
「コウもカズヤくんも仕方がないわね。自分たちだけで切り抜けられるはずがないのに・・」
自分の思い通りの方向に向かうと思い、レイは笑みを浮かべ続けていた。
疲弊した体に鞭を入れて、バイクを走らせたカズヤ。彼はリョウの喫茶店に戻ってきた。
喫茶店の中では、ルナが慌ただしく動いていた。客入りが多く、手に余る接客と調理に追われていた。
「おいおい、こんなんじゃ客が参っちゃうだろうが・・」
カズヤが見かねて喫茶店に入ってきた。
「いらっしゃいま・・カズヤ・・・!」
カズヤが戻ってきたことに、ルナが驚きを覚える。
「しょうがないからオレもやる・・もたもたしてる暇はないぞ・・!」
「う、うん・・」
手と顔を洗って着替えてきたカズヤに呼びかけられて、ルナが頷いた。
「おまたせしましたー。アメリカンとブレンドです。」
不満や疲れを全く見せることなく、カズヤは接客を進めていった。
(すごい・・本当に手馴れている・・私なんかじゃ全然・・・)
ルナは心の中でカズヤの手際の良さを痛感させられて、困惑を感じていた。
この日の喫茶店の営業は終了した。カズヤもルナも疲れて、近くの椅子に腰を下ろした。
「ふぅ・・何とか切り抜けた・・まさか、こんなに忙しくなるなんて・・」
ルナが安心を感じて大きく肩を落とす。
「ありがとう、カズヤ。助かったよ・・」
「別に助けたわけじゃない・・こういうのを見せられる方がイヤになってくる・・それだけだ・・」
お礼を言うルナに、カズヤが不満げに答える。
「やっぱオレがいないとこの店つぶれそうだ・・そうなったら後味悪くなりそうだから、オレもここでの仕事を続けることにする・・」
「ゴメン・・私がふがいなくて・・・」
「アンタだけのせいじゃない。元はと言えばリョウ先輩が人任せにするのが悪いんだ・・」
謝るルナに言葉を返して、カズヤが肩を落としてため息をつく。彼は喫茶店を自分たちに任せ切りにしているリョウに対して根に持っていた。
「今日はもう休む・・また先輩に連絡して、文句の1つでも言ってやる・・・」
カズヤは愚痴をこぼしながら、自分の部屋に戻っていく。彼の後ろ姿を見て、ルナが笑みをこぼしていた。
街外れの廃工場。その中を駆けていく1人の女性。
逃げ惑う女性に、1つの不気味な影が迫ってきていた。
「イヤ・・来ないで・・来ないでよ!」
「怖がることはないわ・・あなたも着飾ってあげる・・・」
怯える女性を見つめて、不気味な笑みを浮かべる影。その眼光が不気味に輝いた。
「やめて・・たす・・け・・・て・・・」
悲鳴を上げる女性の体が固くなって、動きが止まっていく。彼女は微動だにしなくなり、何も反応しなくなった。
「いいわ・・やっぱりいいわ、着飾るのを目的としたお人形さんは・・」
影が女性を見つめて喜びの声を上げる。女性はマネキン人形になって、その場に立ち尽くしていた。
「もっともっと着飾ってあげるわ・・たくさんの美女を、もっと・・」
次の標的を求めて、影は闇の中に消えていった。この廃工場には女性だけでなく、他のたくさんの女性たちがマネキンにされて置かれていた。
一夜が明けて、目を覚ましたカズヤは喫茶店の外に出ていた。彼は昨日のことを思い出していた。
(ガルヴォルス・・それがオレがなってしまった姿・・人間を超えたバケモノ・・)
デーモンガルヴォルスとなった自分を思い出すカズヤ。異形としての強すぎる力とそれの赴くままに戦っている自分に、彼は緊張を感じていた。
(オレも知らないうちに、あのバケモノの力で心をなくして、本物のバケモノになってしまうかもしれない・・それだけはイヤだ・・)
力にのまれることに恐れを感じていくカズヤ。彼は自分を見失わないように自分に言い聞かせていた。
(オレの生き方はオレが決める・・女なんかに振り回されてたまるか・・!)
自分の意思を強固にして、カズヤは気を引き締めた。
そのとき、目を覚ましたルナも喫茶店から出てきた。
「カズヤ・・・?」
彼女に声をかけられて、我に返ったカズヤが振り返る。
「また、朝のお散歩・・・?」
「いや、散歩ってほどのことじゃない・・」
ルナの問いかけに、カズヤが憮然とした態度で答える。
「今日も気を引き締めていかないと、昨日みたいに追いつかなくなるぞ。」
「分かってる・・もう遅れは取らないよ。」
喫茶店に戻っていくカズヤに、ルナが自信を込めた笑みを見せた。
開店から少したった時間帯はあまり客の来店がない。昨日の忙しさとは真逆の静けさが訪れていた。
「忙しいのも大変だけど、客が来ないのも困りものだ・・」
「そうだね・・」
カズヤが呟くと、ルナも気のない返事をする。
「こんなボーっとした気分でいるのはよくないけど・・」
「こうも暇になってきてしまうと、どうにも・・」
さらに呟いていくカズヤとルナ。そしてカズヤが心の中でも呟いていく。
(オレ、何だかここでの仕事に落ち着いてきてる・・女のルナがいるのに、完全に拒絶したりせずに仕事してる・・そうしないと納得しない形になってたけど・・)
今までや最近の自分について考えていくカズヤ。彼は自分の理想を考え直していた。
(どうするのが、オレの納得できる形になるんだろうか・・・)
考えるほどに迷いが膨らみ、不安へと変わり、カズヤは苦悩を深めていた。
「オレ、ちょっと気晴らしをしてくる・・」
「ちょ、ちょっと、カズヤ・・」
喫茶店を飛び出していったカズヤに、ルナがたまらず声を上げる。1人喫茶店に残されて、彼女は大きく肩を落としていた。
喫茶店を飛び出してバイクを走らせたカズヤ。彼は込み上げてくる迷いを、走ることで拭おうとしていた。
(気持ちが落ち着かない・・いや、あそこにいて落ち着いてきているのか・・・?)
しかしそれでも自分の気持ちに整理がつかず、カズヤはまた途方に暮れていた。
「やめて・・助けて・・!」
そのとき、カズヤの耳に声が響いてきた。その声を聞いて、彼はバイクを止めた。
「この声・・またガルヴォルスっていうのが・・・!?」
「そのようね。」
声を上げたカズヤに向かって、別の声がかかった。振り向いた先にはレイが立っていた。
「ガルヴォルスはどこにでも潜んでいる。人の姿でいるときは、本当に普通の人間と見た目は変わらないからね。」
レイがカズヤに向けて語りかけていく。
「そして強すぎる力だけを持ってしまうと、私利私欲に走るもの。そうして心まで怪物と化していくのよ。今のあなたは心があるから別だけどね。」
「だったらアンタもバケモンってことになるな。その私利私欲でオレをどうこうしようと企んでるんだからな・・」
するとカズヤがレイに鋭い視線を向ける。それでもレイは笑みを消さない。
「あなたのことはいろいろと調べさせてもらったわ。今のあなたがいるお店のことも、昔あなたに何があったのかも・・」
「言うな!」
言いかけるレイにカズヤが怒鳴る。彼は彼女に激しい怒りを感じていた。
「これ以上言ったら、今ここでぶちのめすぞ・・・!」
「それは遠慮しておくわ。でもこれだけ言わせてもらうわ。」
鋭く睨みつけてくるカズヤに、レイは笑みを見せたまま声をかけていく。
「ガルヴォルスはこの道をもう少し行った先の工場跡を隠れ蓑にしているわ。退治しに行くならそこへ行けばいい。」
レイが投げかけた言葉を聞いて、カズヤはため息をついた。彼はバイクを走らせて、レイの前から去っていった。
「許せないという気持ちに偽りはないようね。それが私たちのためにもなるといっても・・」
走り去っていくカズヤを見送って、レイは喜びと期待を感じていた。
街外れにある廃工場にたどり着いたカズヤ。彼はバイクを止めて、工場に向かって歩いていく。
「ここにいるってのか・・」
カズヤは呟いてから廃工場の中に入っていく。工場の中は明かりがなく、かすかに日の光が差し込んでくるだけだった。
「階段がある・・下に何かあるのか・・・?」
カズヤが階段を下りて地下に行く。階段の先のドアを開けて、その先の部屋に入った。
その部屋にはたくさんの女性のマネキンが置かれていた。暗闇の中にたたずむマネキンたちが、部屋の不気味さを醸し出していた。
「おいおい、君が悪いじゃんかよ・・」
恐怖を感じながら、カズヤは部屋の中を歩いていく。そして彼は感覚を研ぎ澄まして、何かが隠れていないか確かめようとする。
(音がする・・ここに何か隠れてるのか・・・!?)
緊張を募らせながら、カズヤがさらに耳を澄ませていく。
「そこか・・!」
カズヤが振り返って声を上げる。マネキンに紛れていた影が、彼の前に飛び出してきた。
「私に気付くなんて、すごく勘が鋭いのね・・」
姿を現した女性が妖しく微笑みかける。
「ここは私だけの展示場・・きれいな人がいろいろと着飾っているのよ・・」
「こんなところでそんなこと、気色悪い・・」
語りかける女性にカズヤが文句を言う。
「残念だけど男には興味がないの・・それにこのまま無事に帰すのもよくない・・」
笑みを消した女性の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼女の姿がマネキン人形のような怪物へと変わった。
「やっぱり、お前がコイツらを・・・!」
部屋の中のマネキンが、元々本物の女性たちであることを確信するカズヤ。
「そう・・私が力を与えてマネキンにしていったの・・いろいろお着替えができて楽しいわよ・・」
「ふざけんな!どこまでも気色悪いことを・・!」
妖しく微笑む怪物、マネキンガルヴォルスに怒りを覚えるカズヤ。彼の頬にも紋様が走る。
「もしかして、あなたも・・?」
目つきを鋭くするマネキンガルヴォルスの前で、カズヤがデーモンガルヴォルスとなった。
「あなたもガルヴォルスだったなんてね・・」
「オレは女の味方になるつもりはない・・だけどこういうやり方、オレは我慢ならない・・・!」
さらに微笑みかけるマネキンガルヴォルスに、カズヤが低い声音で言いかける。
「せっかくのこの人たちが傷ついてはいけないから、外へ行きましょうか・・」
マネキンガルヴォルスが部屋に飛び出していった。感情のままに動き出したカズヤが、扉をぶち破りながら外に出た。
廃工場から出てきたマネキンガルヴォルスとカズヤ。飛び出した勢いのまま、カズヤが拳を繰り出す。
ところがマネキンガルヴォルスは素早い動きでカズヤの拳をかわした。
「これでも身軽な方なのよ、私は・・」
マネキンガルヴォルスがジャンプをして、回し蹴りを繰り出す。早い蹴りを受けて、カズヤが突き飛ばされる。
「くっ!・・なんてスピードだ・・!」
体勢を整えたカズヤが、マネキンガルヴォルスの速さに毒づく。
「おとなしくやられていれば、楽で終われるわよ・・」
「冗談言うな・・お前のいいようにされるなんて、真っ平ゴメンだ・・!」
近づいてくるマネキンガルヴォルスに、カズヤが声を振り絞る。
「オレは女のおもちゃじゃない・・自分の思い通りになって当然・・悪いことを悪いとも思わない・・そんな女が、オレをどうこうできると思うな!」
両手を強く握りしめて、カズヤが再び拳を振りかざす。それもマネキンガルヴォルスは軽やかにかわす。
「そんなに力んでも、当たらないと意味ないわよ・・」
笑みをこぼしながら、マネキンガルヴォルスが後方に下がっていく。
だが着地した彼女に向かって、カズヤがスピードを上げて飛び込んできた。
「だったら当ててやる!オレの不満をな!」
カズヤが声と力を振り絞って拳を繰り出した。
「うっ!」
拳を体に叩き込まれて、マネキンガルヴォルスがうめく。カズヤがさらに殴りつけて、マネキンガルヴォルスを突き飛ばす。
「どうした・・逃げ足ばかり速くて、実は打たれ弱いってか・・!?」
「くっ・・その通りよ・・戦いでは速さにものを言わせてたからね・・・」
見下ろしてくるカズヤに、マネキンガルヴォルスが微笑みかけてくる。
「私たちの中で本当に強いわね・・力であなたに敵うのはそんなにいないかも・・」
マネキンガルヴォルスがカズヤの力を称賛する。するとカズヤが表情を曇らせた。
(そんなことはない・・アイツには、オレは尻尾巻いて逃げるしかなかった・・・)
ダークガルヴォルス、コウを思い出して、カズヤが緊張感を募らせていく。遅かれ早かれ戦うかもしれないと、彼は不安を感じていた。
「もしかして、おだてられて気分をよくしたかしら?」
マネキンガルヴォルスは言いかけると同時に、カズヤの前から逃げ出していった。
「あっ!待て!」
慌ててマネキンガルヴォルスを追いかけるカズヤ。しかし素早い動きのマネキンガルヴォルスを見失ってしまう。
「逃げられた・・マジで逃げ足が速いじゃんか・・・!」
不満を覚えるカズヤが、ガルヴォルスから人の姿に戻る。
「アジトは分かってるんだ・・また戻ってくるかもしれない・・」
カズヤは追いかけることも廃工場に戻ることもせず、喫茶店に戻ることにした。彼は体力を回復させてから、バイクに乗って廃工場を後にした。
カズヤから逃げていったマネキンガルヴォルス。彼女は立ち止まって、カズヤが追いかけていないことを確かめる。
「結果的にあの人を野放しにすることになってしまったわね・・でも私が無事な限り、着飾ることはまだできる・・」
マネキンガルヴォルスが休息を取って、また女性を狙うことを考えていた。
「ここにいたのか、ガルヴォルス・・・」
そのとき、マネキンガルヴォルスが声をかけられて振り返った。彼女の前に現れたのは、ダークガルヴォルスとなっているコウだった。
「ガルヴォルスも人間も・・1人も逃がさない・・・!」
マネキンガルヴォルスへの憎悪をあらわにして、コウが握りしめた右手から黒いオーラをあふれさせた。
次回
「何か、深い事情があるみたい・・・」
「言いたくないことをムリに言うことはないさ・・」
「オレもコイツらにはいい思いはしてない!」
「お前もヤツらも、全てオレの敵だ!」