ガルヴォルスRebirth 第3話「決意」

 

 

 自分がガルヴォルスとなってしまったことを思い知らされるカズヤ。絶望を痛感している彼に、レイが歩み寄る。

「あなたは感情の高まりでガルヴォルスとして覚醒した。先ほどまで自覚はなかったけど、あなたは人の心を残している・・」

 微笑みかけてくるレイに、カズヤが鋭い視線を向ける。

「ガルヴォルスを止めるには、もう同じガルヴォルスの力を使うしかない。私たちの持つ武力や兵器も、ガルヴォルスを完全に仕留めるほどとは言い切れないのよ・・」

「だからって、オレを利用するというのか・・・!?

「あなたの力が必要なの。ガルヴォルスとなったあなたの力がね。」

「ふざけんな!オレはお前たちの道具じゃない!」

 手を差し伸べてくるレイに、カズヤが憤りを見せてくる。

「利用しようとも道具扱いしようとも思っていない。だってあなたはあなたでしょう?」

「そうやってオレを思い通りにしようとしてもムダだ!女はどいつもこいつも、オレを振り回してくる・・・!」

 カズヤがレイに対して憎悪を傾ける。彼は女性からされた仕打ちと、それによって生じたトラウマを思い出していた。

「でも、あなたはやるしかなくなる。私たちが何もしなくてもね・・」

 レイは顔色を変えずに、さらにカズヤに呼びかけてきた。

「このまま野放しにすれば、人間がみんなヤツらのいいようにされる・・あなたの身近にいる人たちも・・」

「オレの身近にいる・・・違う・・アイツは・・!」

 レイに投げかけられた言葉を受けて、カズヤがルナのことを思い出す。

「みんなを守るためにも、戦わないといけないと思うのだけれど?」

 レイはさらに言いかけてから、カズヤに背を向けた。

「どういう決断をするのが賢明か、ここでよく考えることね。」

「ふざけんな!オレはこんなところでじっとなんて・・!」

 部屋から出ていくレイに怒りをぶつけるカズヤ。しかし扉に鍵がかけられ、彼は部屋に閉じ込められてしまった。

「おい!出せ!ここから出せよ!」

 扉を強く叩いていくカズヤ。部屋から出られないまま、カズヤは憤りを募らせていた。

 

 高校の女子更衣室。そこでは体育の時間が終わって、女子たちが着替えをしていた。

「ふぅ・・今日の体育もきつかったよ〜・・」

「ちゃんとやらないと叱られるからね〜・・」

「でもみんなでやるから楽しいよね♪」

 女子たちが制服に着替えながら会話を弾ませていく。

 そんな女子更衣室に突然冷たい空気が入り込んできた。

「あれ?ちょっと寒くない・・?」

「今日はあったかいはずだし、エアコンもないし・・」

 女子たちが寒気を感じて体を震わせる。何もつけていないのに、冷たい風が流れ込んでくる。

 さらに冷たい風が入ってきて、さらに冷たさを増していく。

「ちょっと・・ホントに寒すぎだって、これ・・!」

「早く出ないと凍えちゃうよー!」

 あまりの寒さのため、女子たちは格好を気にする余裕のないまま、更衣室を飛び出そうとした。

 そのとき、女子たちの体に突然氷が張りついてきた。

「キャッ!何これ!?

「もしかして、凍ってる!?

「う、動けない・・・!」

 氷付けになっていくことに、女子たちが悲鳴を上げていく。

「助けて・・たす・・け・・・」

 更衣室から出ることができないまま、中にいた女子たちが完全に氷付けになった。

「ケッケッケ・・やっぱり着替えているときの女の子たちはいいよなぁ・・」

 氷に包まれた女子更衣室の中に不気味な声が響いてきた。

「この調子だ・・もっと・・もっと女の子たちを・・・」

 女子たちを氷付けにした影は、次の欲望の標的を求めて動き出した。

 

 どれだけ扉を叩いても部屋から出ることができず、カズヤは部屋の真ん中でうずくまっていた。

「ちくしょう・・オレは今になっても、女に振り回されるのかよ・・どこまでオレを追い込めば気が済むんだよ・・・」

 かつての辛い記憶を思い返して、カズヤが歯がゆさを募らせていく。

「オレは女の道具じゃない・・一方的に振り回されて、おかしなことをされたりするために、オレはいるんじゃない・・・!」

 トラウマを植え付けてきた女性への憎悪に駆り立てられていくカズヤ。彼は再び立ち上がり、ドアに手を当てて押し付ける。

「絶対に出てやる・・動物小屋みたいなこんな檻から、オレは出てやる!」

 感情を高まらせるカズヤの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。

「オレは、お前らなんかの好き勝手にされてたまるか!」

 怒号を放つカズヤの姿が変化する。デーモンガルヴォルスとなったことで、彼の身体能力は格段に上がった。

 カズヤの両手が部屋の扉を押し破った。直後に建物の中に警報が鳴り響いた。

「いつまでもこんなところにいられるか・・・!」

 カズヤは低く告げながら、建物の中の廊下を突き進んだ。そしてその先の扉を破って、彼は外に飛び出した。

 

 カズヤがガルヴォルスとなって部屋を抜け出したことは、すぐに兵士たちからレイに伝えられた。

「抜け出した?ガルヴォルスになって?」

「はい。突然ガルヴォルスとなり、麻酔の効果と扉を打ち破って外へ・・別部隊が佐久間カズマの追跡をしています。すぐに捕獲を・・」

 眉をひそめるレイに、兵士が報告をしていく。

「いいえ。ガルヴォルスになっている間は手出しをしないで。」

「しかし、このままでは逃げられてしまいます・・・」

「私たちの武力では、ガルヴォルスを完全に押さえることはできない。逆にムダに命を落とすだけになる・・」

 兵士が投げかける言葉にも、レイは冷静に答えていく。

「今はあくまで様子見よ。深追いもしないこと。いいわね?」

「了解しました・・」

 レイの指示に兵士が答える。彼らはあくまでカズヤの監視のみにとどまることになった。

 

 外に出ることを考えて、必死に突き進んでいったカズヤ。彼は廊下を突き抜けて、崖下に出てそのまま下の森に落下した。

「くっ!・・外に出たのか・・・!」

 すぐに起き上がったカズヤが辺りを見回す。彼の視界には森の木々が広がっていた。

「またひたすらダッシュするしかないってことか・・!」

 カズヤが毒づいてから、再び走り出していった。彼は木々の枝の上に飛び移りながら、ジャンプしながら前進していく。時折木々から飛び出して、街がある方向を確かめていく。

(あっちか、街があるのは・・とりあえず街に戻らないとどうにもならないな・・・!)

 ひたすら街に向かって真っ直ぐ前進していくカズヤ。速度を上げていった彼は、広い森をついに突破した。

「やった・・やっとここまで来たか・・・」

 街に戻れたことに安堵を感じた途端、カズヤは一気に疲れを感じてうずくまってしまう。同時に彼はガルヴォルスから人の姿に戻る。

「こんなときに・・疲れて力が入らなくなるなんて・・」

 力を消耗して立ち上がれなくなってしまうカズヤ。彼は森の出入り口で休息を取ることにした。

「キャアッ!」

 そのとき、カズヤの耳に女性の悲鳴が入ってきた。

「また女・・女にはもう、振り回されるつもりはない・・・!」

 カズヤは不満を噛みしめて、その場にとどまろうとする。しかし彼は腑に落ちない心境に駆られていた。

「くっ・・しょうがないな、まったく・・!」

 カズヤが不満げに立ち上がって、声のしたほうに向かっていく。彼が行きついたのは室内プールのある建物だった。

 人だかりができているほうにカズヤが歩いていく。みんなが見ていたのは更衣室の様子。

 更衣室にいた女性たちが氷付けになっていた。

「さ、寒い・・」

「私たちも凍えてしまうよ・・」

 更衣室からあふれてくる冷気に参って、やじ馬に来ていた人々が外に出ていく。更衣室の前にはカズヤだけが残った。

「あのバケモンの仕業だっていうのか・・オレがなっちまったみたいなバケモンに・・・」

 ガルヴォルスの仕業であると思い、カズヤが息をのむ。彼は感覚を研ぎ澄ませながら、建物の外に出た。

「女がどんな目にあっても、オレが気にすることでもないのに・・」

「もしかして女の子に嫌気がさしてるのかなぁ・・?」

 不満を口にしていたところで、カズヤが声をかけられた。振り返った彼の前に、不気味な風貌の男が現れた。

「でも見た目はいいよね、女の子は・・見た目だけは・・」

 浮かべていた笑みを消していく男の頬に紋様が走る。彼の姿が白クマのような怪物へと変わった。

「もしかして、お前がこれを・・・!?

「そうだ〜・・女の子をかわいいまま凍らせていくのはたまらないなぁ・・」

 カズヤが問いかけると、怪物、ホワイトベアガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべる。

「女の子は見た目はみんなかわいい・・きれいなのもいるし・・だけど性格は全然かわいくない・・」

 語りかけていくホワイトベアガルヴォルスの顔から笑みが消えていく。

「どいつもこいつもいい気になって・・自分のほうが偉いんだと思い込んで・・・」

 苛立ちを浮かべたホワイトベアガルヴォルスだったが、すぐに笑みを取り戻してきた。

「だからカチカチにしてそんな態度を取れないようにしてやれば、最高の仕上がりになるってもんだよなぁ・・」

 自分の欲情をあらわにして、ホワイトベアガルヴォルスが笑い声を上げる。

「そうなれば、お前だって悪い気はしなくなるんじゃないかぁ〜・・?」

 ホワイトベアガルヴォルスがカズヤに向けて手招きをする。するとカズヤが肩を落としてきた。

「確かに悪い気がしないって思わされそうだ・・だけど、誰かにひどい目に合わせて喜んでるヤツも気に食わない・・・!」

 ホワイトベアガルヴォルスに怒りを覚えたカズヤ。彼の頬にも紋様が走る。

「それは・・お前も・・・!?

 カズヤの変貌にホワイトベアガルヴォルスが驚く。カズヤがデーモンガルヴォルスへの変貌を遂げる。

「女にもお前にも振り回されない・・オレの生き方はオレが決める・・・!」

「そう・・残念だなぁ・・もったいないなぁ・・・」

 鋭い視線を向けるカズヤに、ホワイトベアガルヴォルスがため息をつく。

「厄介なだけなら・・始末しちゃったほうがいいよねぇ・・」

 ホワイトベアガルヴォルスが口から吹雪を吐き出す。カズヤが横に動いて、吹雪の当たった建物の壁が氷が張りついていく。

「さすがに素早いか・・だけどいつまで続くかなぁ・・」

 ホワイトベアガルヴォルスが再び吹雪を放つ。カズヤはさらに動いて吹雪をかわしていく。

 だがホワイトベアガルヴォルスの吹雪によって生じた氷が、カズヤの逃げ道をふさいでしまった。

「これでおしまいだぁ・・一気にカチカチにしてやるぞ〜・・」

 カズヤを追い込んだと思って、ホワイトベアガルヴォルスが笑みをこぼす。しかしカズヤは鋭い視線を崩さない。

「オレはお前の思い通りにはならない・・絶対に・・・!」

「それがなっちゃうんだなぁ・・」

 低く告げるカズヤに向かって、ホワイトベアガルヴォルスが口から吹雪を放つ。

 そのとき、カズヤの背中から翼が広がった。カズヤは上に飛び上がって、吹雪をかわした。

「そんな・・・!?

 飛び上がったカズヤに、ホワイトベアガルヴォルスが驚きの声を上げる。カズヤは翼をはばたかせて、ホワイトベアガルヴォルスを見下ろす。

「女のためにやるつもりはない・・だが、お前の好きにさせておくのもいい気がしない・・・!」

「いくら空を飛んでも、この冷気から逃れることはできないぞ〜・・」

 告げてくるカズヤに、ホワイトベアガルヴォルスがまた吹雪をかわす。しかし空中を飛び回るカズヤには当たらない。

「も〜・・いつまでもそんなところで逃げ回ってばかりなんて、ずるいじゃないかぁ・・」

 ホワイトベアガルヴォルスが不満の声を上げたときだった。

 次の瞬間、ホワイトベアガルヴォルスの体に爪が突き刺さった。カズヤが素早く飛び込んで、ホワイトベアガルヴォルスに爪を突き出したのである。

「い、いつの間に、目の前に・・・!?

 カズヤの速さに驚きながら、ホワイトベアガルヴォルスが倒れる。体に痛みを感じて彼は悶え苦しむ。

「オレはオレの納得する生き方をする・・お前にも女にも、オレは振り回されたりしない・・・!」

「くっ・・このまま・・このままやられるもんかぁ・・」

 冷徹に告げてくるカズヤに言い返して、ホワイトベアガルヴォルスが力を振り絞って立ち上がる。彼は素早く動いて、カズヤから逃げ出していく。

 カズヤの前から、ホワイトベアガルヴォルスが森の中に逃げ込もうとした。

「ぐあぁっ!」

 そのとき、ホワイトベアガルヴォルスが絶叫を上げてきた。森から飛び出してきたホワイトベアガルヴォルスは、鮮血をまき散らしていた。

「これは・・・!?

 自分が手にかけていないのにズタズタにされているホワイトベアガルヴォルスに、カズヤが驚きを覚える。彼の前でホワイトベアガルヴォルスの体が崩壊して、風に吹かれて消えていった。

「ガルヴォルスも人間も信じられない・・・オレの周りにいるもの全てが、オレの敵だ・・・!」

 森の中から1人の怪物が姿を現した。全身が黒く刺々しい怪物だった。

「お前も、ガルヴォルスなのか・・・!?

「オレを陥れようとするものは、オレが全て叩き潰す・・・!」

 問いかけるカズヤに怪物、ダークガルヴォルスが飛びかかってきた。カズヤがとっさに動いて、ダークガルヴォルスが繰り出した拳をかわす。

「お前も、人を襲って喜んでいるヤツの1人なのか!?

「人を襲って喜ぶ?・・それはガルヴォルスも人間も同じだ!」

 さらに問いかけるカズヤだが、ダークガルヴォルスは聞かずにさらに飛びかかってくる。

「一方的に攻撃かよ・・だったらオレも容赦できなくなるぞ!」

 カズヤもいきり立って、ダークガルヴォルスを迎え撃つ。2人が力を込めて拳をぶつけ合う。

「うっ!」

 カズヤが力負けして、ダークガルヴォルスに突き飛ばされる。彼は岩場に叩きつけられて、苦痛を覚える。

「強い・・今までのバケモンとは違う・・・!」

 ダークガルヴォルスの強さを痛感して、カズヤが緊迫を募らせていく。ダークガルヴォルスが全身から黒いオーラをあふれさせていく。

「お前も、オレを陥れる敵・・全てが敵だ!」

 ダークガルヴォルスが憎悪をむき出しにして、カズヤに向かっていく。

「冗談じゃない!こんなのにいつまでも付き合ってられるか!」

 カズヤが不満を膨らませながら、ダークガルヴォルスから逃げ出していく。

「逃げるな!」

 ダークガルヴォルスが怒号を放って、カズヤを追っていく。カズヤがとっさに地面を殴って、砂煙を巻き上げる。

「くっ!」

 ダークガルヴォルスが強引に砂煙を突っ切る。しかしその先にはカズヤはいなかった。

「どこだ・・どこへ逃げた!?

 怒りを膨らませて叫び声を上げるダークガルヴォルス。彼の叫びが森と街の境目で響き渡っていた。

 

 

次回

第4話「安らげる場所」

 

「こんなに忙しくなるなんて・・」

「こういうのを見せられる方がイヤになってくる・・」

「もっともっと着飾ってあげるわ・・」

「どうするのが、オレの納得できる形になるんだろうか・・・」

 

 

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