ガルヴォルスRebirth 第2話「悪魔を討つ者」
リョウの喫茶店の中に入っていたルナ。彼女はテーブルに置かれていた、仕事の注意事項が記された紙を手にして目を通していた。
(思っていた以上に難しいかもしれない・・気を引き締めないと・・)
自分に言い聞かせて、ルナが気を引き締めていく。そのとき、喫茶店のドアが開く音がした。
「いらっしゃいま・・あなたは・・」
挨拶しようとして、ルナが戸惑いを浮かべる。飛び出したはずのカズヤが戻ってきたのである。
「あなた、どうして・・・!?」
「行く当てが全然なくて、仕方なく戻ってきたんだよ・・」
問いかけるルナにカズヤが憮然とした態度を見せて答える。
「ハァ・・ここでしか頑張れないってことなのか・・・」
途方に暮れてしまい、カズヤが大きくため息をついた。
「やっぱり、ここで働くしかないのかも・・」
ルナがカズヤに向けて声をかけてきた。
「勝手なこと言うなって。オレが女嫌いだってこと、君にも話しただろうが。」
するとカズヤが不満をあらわにしてきた。彼は女性であるルナと一緒に働くことを懸念していた。
「遠慮しないで何でも言ってきて。私にイヤなところがあったら、気を付けるから・・」
「別に君がどうこうしたって、オレの女嫌いが治るわけじゃない。オレの女嫌いは昨日、今日の話じゃないんだから・・」
呼びかけるルナだが、カズヤの頑なな意思は変わらない。
「今はここで仕事してやるさ・・リョウ先輩、戻ってきたらギッタギタにしてやるからな・・」
カズヤがリョウへの不満を膨らませて、手を合わせて握りしめた。彼はやむなくこの店での仕事をすることにした。
人通りの少ない夜の小道。その道を全速力で走っていく女性がいた。
女性は自分を狙ってくるものから必死に逃げていた。彼女は隠れられる場所か、交番など警察のいる場所に行こうとしていた。
女性は小道の間にある裏路地に1度隠れて、女性はやり過ごそうとした。彼女は込み上げてくる呼吸の乱れを抑えようと必死になっていた。
(・・・うまく逃げられたのかな・・・?)
女性が裏路地から道の様子をうかがう。彼女はここで一瞬、逃げ切れたと思った。
「そんなところに隠れていたか・・」
そのとき、声をかけられて女性が緊迫を一気に膨らませた。彼女が振り返った先には野獣のような怪物がいた。
「イヤアッ!」
悲鳴を上げた瞬間、女性が怪物に襲われてその牙と爪にかかった。彼女の体は怪物によって食いちぎられて、鮮血をまき散らしていた。
「うまい・・やっぱり食うのはきれいな女の体に限る・・・」
怪物が女性の味を噛みしめて、喜びを感じていく。
「もっとだ・・もっとうまいものを・・・!」
血と肉に飢えている怪物が、次の獲物を求めて動き出していった。
リョウの喫茶店の奥にはいくつか私室に使える部屋があった。カズヤとルナはその部屋に滞在することになったが、カズヤはルナとは別の部屋に留まることにした。
そして2人の喫茶店での仕事が始まった。
以前にレストランでの仕事を経験したことのあるカズヤとルナ。2人とも接客も調理もうまくやっていた。
ルナを懸念していたカズヤだが、仕事中はそれを表に出すことはなかった。
この日の喫茶店の開店時間が終わって、カズヤは大きくため息をついた。
「まさか乗り切れるとはな・・いつ我慢の限界を迎えるか分かんなかった・・」
「本当に女の人が嫌いなんだね、あなた・・・」
肩を落とすカズヤに、ルナが困惑を覚える。
「せめて名前だけでも・・私は天川ルナ。」
ルナが自己紹介をするが、カズヤは憮然とした態度を取るだけだった。
「オレは佐久間カズヤ。カズヤって言ってくれていい・・」
「うん・・分かったよ、カズヤ・・」
カズヤも憮然としたまま自分の名前を言う。自分のことを打ち明けてきた彼に、ルナは喜びを感じた。
「リョウ先輩、マジでどこに行っちまったんだか・・連絡しようとしても、全然つながらないし・・」
勝手に店番を任せて出かけてしまったリョウに、カズヤはまた不満を感じていた。
「オレは先にメシ食って寝ることにする・・」
カズヤはルナに言ってから、自分の部屋に戻っていった。
次の日の朝。早く目が覚めてしまったカズヤは、1人で散歩に出かけていた。
「このままじゃずっと女との時間を過ごすことになる・・しかもひとつ屋根の下になってるし・・」
ルナといつまでもいることに、カズヤは不満を膨らませる一方になっていた。
「いい加減に別の仕事先を決めとかないとな・・」
ルナとの時間から解放されるために、カズヤは次の仕事先を探していった。
「キャアッ!」
そのとき、カズヤの耳に女性の声が響いてきた。
「ま、また女の声が・・・!」
カズヤが耳にした声にいら立ちを覚える。しかし彼が辺りを見回しても誰もいない。
「気のせいか・・女のことで気が滅入ってるから、幻聴がしてきたんだろうな、きっと・・」
カズヤは気持ちを切り替えて、再び歩き出した。
次の瞬間、カズヤのいるほうに向かって1人の女性が走ってきた。
「気のせいじゃなかったか・・参っちゃうなぁ・・」
カズヤが気まずくなって、大きく肩を落とす。彼のいるほうに向かって、女性が走ってくる。
その女性を上から押し付ける影があった。野獣の姿をした怪物が飛び込んできて、女性に襲いかかってきた。
「せっかくのうまそうな獲物だ・・逃がしてたまるかよ・・!」
「やめて!助けて!イヤアッ!」
怪物が不気味な笑みを浮かべて、悲鳴を上げる怪物にかみついた。彼女の血肉をむさぼって、怪物が噛みしめていく。
「バケモン!?・・・そういえば、この前もこんなのが・・・!」
怪物を目の当たりにして、カズヤが記憶が飛んでいた間の出来事を思い出した。
「見られちまったか・・後始末するのも女だったらよかったのに・・・」
怪物がカズヤを始末しようと迫ってきた。
「おい、またかよ・・!」
カズヤが慌ただしく怪物から逃げ出していく。しかし人間離れした怪物に簡単に回り込まれてしまう。
「オレからは逃げられないぜ・・食えなくても、ズタズタにできれば多少のストレス解消になるだろうな・・」
怪物が笑みを強めて、カズヤに飛びかかってきた。
「ぐっ!」
組み付かれたときに怪物の爪が腕に食い込み、カズヤが痛みを覚えて顔を歪める。押された勢いで背負い投げをして何とか引き離したものの、カズヤは腕を負傷して血をあふれさせていた。
「ちぇ!運がいいな・・だがその運もこれまでだ・・!」
怪物がいきり立って、再びカズヤに飛びかかってきた。
「冗談じゃない・・こんなところで、死ぬなんてまっぴらだ・・・!」
カズヤが怪物を見据えて声を振り絞る。憤りを覚える彼の頬に紋様が走る。
「コイツも、ガルヴォルスなのか・・!?」
怪物がカズヤの異変を目の当たりにして驚く。カズヤの姿が悪魔のような怪物へと変わった。
「あんまりオレに襲い掛かってくるな・・頭に血が上っちまうだろうが・・・!」
声と力を振り絞って、カズヤが怪物、ビーストガルヴォルスに鋭い視線を向ける。
「お前もガルヴォルスだったか・・なら一緒に人間を襲って楽しもうじゃないか・・」
ビーストガルヴォルスがカズヤに誘いを持ちかける。
「その力を思う存分振るって、楽しい思いをしていけばいいんだ・・オレみたいに味わってもいいしな・・」
「くだらない・・そんなことの何が楽しいというんだ・・・!?」
笑みを見せてくるビーストガルヴォルスに、カズヤが冷淡に告げる。
「オレの生き方はオレが決める・・お前なんかが勝手に決めつけるな・・・!」
憎悪をむき出しにしてくるカズヤに睨まれて、ビーストガルヴォルスが畏怖して後ずさりをする。
「おいおい、同じガルヴォルス同士がつぶし合ってどうするんだよ・・その力で思った通りにすればいいんだからさ・・」
「そうか・・それなら言葉に甘えることになるな・・」
呼びかけるビーストガルヴォルスに、カズヤも笑みを見せてきた。
「オレはオレの意思で・・お前を叩き潰す!」
「おい、ちょっと待て!何でそんなことに!?」
右手を握りしめるカズヤに、ビーストガルヴォルスが慌てる。カズヤが繰り出してきた拳を、ビーストガルヴォルスが慌ててかわす。
「いくらガルヴォルス相手でも、おとなしくやられるつもりはない・・・!」
ビーストガルヴォルスがいきり立って、カズヤに飛びかかって爪を振りかざしてきた。カズヤは反応して、紙一重で爪をかわす。
ビーストガルヴォルスがさらに爪を振りかざそうとした。だがその瞬間、カズヤが繰り出した拳がビーストガルヴォルスの体に叩き込まれた。
「ぐっ!」
痛烈な衝撃に襲われて、ビーストガルヴォルスが顔を歪める。彼の口から血があふれ出してくる。
「強い・・ガルヴォルスの中でも・・・!」
うめくビーストガルヴォルスが口を開いて、カズヤに噛み付こうとした。カズヤがとっさに反応して、右足を突き出してビーストガルヴォルスを突き飛ばす。
「くっ!オレの爪と牙が傷つけられないだと・・!?」
距離を取って着地したビーストガルヴォルスが、カズヤの強さに危機感を募らせていく。
「認めない・・オレが獲物を仕留められないなど!」
ビーストガルヴォルスがカズヤに向かって飛びかかる。牙で食いちぎろうとした彼を見据えていたカズヤの右手に、1本の剣が握られていた。
「それは!」
目を見開くビーストガルヴォルスの体に、カズヤが突き出した剣が貫いた。刺されたビーストガルヴォルスの体から鮮血があふれ出した。
「バカな!?・・オレが死ぬ!?・・こんなところで、オレが・・・!?」
愕然となるビーストガルヴォルスが、脱力してこの場に倒れる。カズヤが剣を引き抜いたところで、ビーストガルヴォルスの体が砂のように崩壊していった。
「オレは、お前たちの物騒なことに付き合うつもりはない・・・」
カズヤは歯がゆさを浮かべる。彼の姿がデーモンガルヴォルスから人へと戻った。
「オレは・・どうしたんだ・・何をしてたんだ・・・!?」
また記憶が飛んでいたことに、カズヤが困惑を覚える。
「何で記憶がなくなるんだ・・マジで何をやってたんだ・・!?」
「まだ、自分の力を制御できていないみたいね・・」
そこへ声をかけられて、カズヤが振り返る。彼の前に1人の女性が現れて、長い黒髪をなびかせていた。
「あなたはなり立てだから、制御できないのも無理のないことでもあるけどね・・」
「女・・どうしてこうも、オレに女が寄りついてくるんだよ・・」
女性の登場にカズヤが滅入って肩を落とす。
「とりあえず自己紹介をしておくわね。私は木崎レイ。」
「オレは女に関わり合いを持つつもりはないんだ・・帰ってくれ・・」
女性、レイをカズヤが邪険にする。しかしレイは微笑みを消さない。
「私はあなたに用事があって来たの・・話を聞いてもらえるかな・・?」
不満を見せるカズヤにレイが手を差し伸べてきた。
「はじめまして、佐久間カズヤくん・・」
「どうして、オレのことを・・・!?」
さらに微笑んでくるレイにカズヤが身構える。
「教えてあげるわ。今のあなたがどうなっているのかを・・あなたがどういう状況に置かれているのかを・・」
「今のオレ!?・・どういうことだよ・・・!?」
「私についてきて。説明してあげるから・・」
「ふざけんな・・そうやってオレを陥れようとしても、そうはいかないぞ!」
手招きをしてくるレイだが、カズヤは聞き入れずに警戒と嫌悪を強める。
「このままではあなた自身が危険になってしまうというのに・・・強引な手段は使いたくなかったけど・・・」
レイが肩を落としてから、指を鳴らした。すると2人の周りを武装した兵士たちが取り囲んできた。
「何だよ、こりゃ!?・・オレに何をするつもりだ!?」
「あなたにはついてきてもらうわ。私たちにはあなたが必要なの。」
緊迫するカズヤにレイが言いかける。兵士たちがカズヤに向かって銃を構えてきた。
「冗談じゃない!こんな横暴、認められるわけ・・!」
カズヤが強引に兵士たちの包囲を突破しようとした。が、兵士たちにすぐに取り押さえられてしまう。
「ちくしょう!放せ!放せってんだよ!」
カズヤが抵抗するが、兵士たちの手を振り払うことができない。その彼の前にレイが近寄ってきた。
「少しおとなしくてもらうわ、佐久間カズヤくん・・・」
レイが見下ろして微笑みかける前で、カズヤが意識を奪われた。兵士の1人に麻酔を打ち込まれて、カズヤは深い眠りに襲われた。
「すぐに連れて行くわ。ここの後処理は任せるわ。」
「了解です。」
レイの呼びかけに兵士の1人が答える。レイは眠っているカズヤを抱えて、近くに止めていたトラックに乗り込んだ。
残った兵士たちによって、この場は何事もなかったかのように後処理が施された。
レイたちによって連れていかれて、カズヤは何もない暗い部屋で目を覚ました。
「くっ・・オレは・・・」
「目が覚めたようね・・微量だったとはいえ、こんな短時間で目を覚ますとは思わなかったわ・・」
体を起こしたカズヤに、同じく部屋にいたレイが声をかけてきた。
「お前・・どういうつもりだよ・・・!?」
「あなたの力が必要なの・・新しくガルヴォルスとなって、しかもまだ人の心を失わない可能性を秘めているあなたのね・・」
睨みつけてくるカズヤに、レイは微笑んだまま答える。
「ガルヴォルス!?・・何だよ、そりゃ・・!?」
「あなたが無意識になっていた姿・・あなたが倒してきた怪物のことよ・・」
「オレが、無意識になっていた・・・!?」
「簡単に言えば人の進化よ。人の姿から動植物の能力を備えた異形の姿に変わるのよ。当然能力も常人を超えている・・」
「オレも、あんなバケモノになったっていうのか・・!?」
レイの説明にカズヤが耳を疑う。
「ここで思い出すといいわ。あなたもガルヴォルスへと転化したことを・・」
レイが言いかけると、部屋に備えられていたモニター画面に、カズヤの姿が映し出された。
映像はカズヤがデーモンガルヴォルスになって戦うところもしっかりと捉えていた。
「そんなバカな・・アレが、オレ・・・!?」
「そう。紛れもなく、ね・・」
変貌する自分の姿に目を疑うカズヤに、レイが微笑みかける。
「ウソだ・・そんなのウソだ!」
自分自身の変貌に打ちひしがれるカズヤ。絶望を痛感して、彼は部屋の中央で膝をついた。
暗闇に包まれた地下道。人気のないその道に足音が響き渡る。
その暗闇の道の中を歩いていく1人の青年。彼は前進しながら、目つきを鋭くしていた。
(人間なんて、オレのことを・・オレたちのことを・・・!)
強い憎悪を胸に秘めて、青年はさらに地下道を進んでいった。自分自身が宿している憎しみをぶつけるために。
次回
「あなたの力が必要なの。ガルヴォルスとなったあなたの力がね。」
「このまま野放しにすれば、人間がみんなヤツらのいいようにされる・・」
「オレの生き方はオレが決める・・・!」
「お前らなんかの好き勝手にされてたまるか!」