ガルヴォルスRebirth 第1話「悪魔の目覚め」
友人たちとの食事を終えて帰路についていた女子大生。彼女は最寄りの駅を降りて、小道を歩いていた。
「すっかり遅くなっちゃった・・帰りのことは言ってあるけど、さすがに心配させちゃってるかな・・」
心配を感じながら、女子は家に向かって急いでいく。道は暗く、街灯にわずかに照らされているだけだった。
「こういうときって、何か出そうな気になってくる・・怖くなってきちゃったよ〜・・」
暗闇のために怖くなってしまった女子。彼女は震えながら家に急いだ。
そのとき、突然草木が暮れる音を耳にして、女子が驚いて思わず足を止めた。辺りを見回す彼女だが、暗闇が広がる光景だけだった。
「気のせい・・だよね・・・」
何とか安心しようとしながら、女子は再び歩き出した。
そのとき、女子の前に影が飛び込んできた。
「イヤッ!」
たまらず悲鳴を上げて、女子が後ずさりする。影は彼女に対して不気味な笑みを浮かべてきた。
「ちょっと・・何なのよ!?」
声を荒げる女子に向けて、影から煙が飛び出してきた。煙は女子に降りかかって包み込んでいく。
次の瞬間、女子は自分の体に違和感を覚えた。彼女が視線を移すと、体が灰色に変わりつつあった。
灰色はだんだんと広がっていく。その体の部分は彼女の意思に反して動かすことができない。
「どうなってるの!?・・体が・・動かない・・・!?」
体の自由が利かなくなって、女子が恐怖を覚える。灰色がさらに体中に広がって、彼女は身動きが取れなくなっていく。
「イヤ・・・イヤ・・・!」
悲鳴を上げることもできなくなって、女子は恐怖を膨らませたまま完全に灰色に包まれた。
「これでまたかわい子ちゃんが石になった・・すばらしい・・すばらしいぞ、新しいオレ・・・!」
影が不気味な笑みを浮かべたまま、動かなくなってしまった女子を見つめる。
「この調子だ・・もっと・・もっとかわい子ちゃんたちを・・・!」
次の標的を求めて、影は消えていった。石化した女子はその場に立ち尽くしていた。
穏やかさがあふれている街中を走るバイク。それに乗っている青年が、赤信号で停車したところで辺りに視線を移していく。
「えっと・・確かこの辺りだよな、先輩のやってるお店って・・」
青年が呟いたところで、信号が青に変わった。青年は再びバイクを走らせて、適当なところで路肩によって停車した。
「ここからは押して歩いていくのがいいか・・」
青年はバイクから降りてヘルメットを外して、少し逆立った茶髪を見せる。
「オラー!どけどけー!」
そのとき、青年が声を耳にして振り返る。1人の男がバッグを手にして走り込んできた。
「ドロボー!バッグ返してー!」
そして少女の声も飛び込んできた。男を1人の少女が追いかけてきた。
「ひったくられたのか・・しょうがない泥棒だなぁ・・」
青年はため息をついてから足を出す。その足に引っかかって、男が転ぶ。
「ぐぅっ!・・こ、このガキ、何しやがる・・!?」
男がいら立って立ち上がろうとしてきたときだった。
「おとなしくしろ!」
そこへ警官が駆けつけてきて、男を取り押さえてきた。遅れて駆けつけてきた少女がバッグを取り戻すことができた。
「よかったぁ。お財布とかだけじゃなく、大事なものも入ってるから・・」
少女がバッグの中身を確かめて、安心を見せる。
「よかったな。それじゃオレは行くぞ。」
青年はバイクを押して立ち去ろうとした。
「ありがとうございました!この中に大事なものも入っていたから・・」
「お礼は別にいいよ。オレはもう行く・・」
「ううん、何かお礼をさせてください・・助けられて何もしないというのは・・」
「だからいいって・・全部ただの偶然なんだから・・」
少女の感謝をはねのけて、青年はバイクに乗って走っていってしまった。
「あの人、どうしたっていうの・・・?」
青年の態度を気にして、少女は戸惑いを膨らませていた。
ひったくりが捕まった場所から少し離れたところで、青年は再び止まった。彼がたどり着いたのは喫茶店の前だった。
「おぉ!カズヤ、来たか!」
喫茶店から出てきた男が、青年、佐久間カズヤに気さくに声をかけてきた。
「リョウ先輩、お久しぶりです。」
カズヤがヘルメットを外してから、男、小島リョウに挨拶をする。
「お前が店のバイトを引き付けてくれるって言ってくれて、ホントに助かったぞ。」
「いや、オレもちょっと金に困ってたもんだったから・・」
リョウに言われてカズヤが照れ笑いを見せる。
「いやぁ、バイトに一気にやめられちゃってな。このままじゃ仕事になんないと・・」
「けど、オレなんかじゃ穴埋めになるかどうか・・」
「こういうのは慣れと経験だ。あんまり思いつめずにやってけばいいさ。」
「そうですか、アハハ・・」
リョウから励ましの言葉を受けて、カズヤが照れ笑いを浮かべる。
「そうだ。カズヤ、お前の他にも新しくバイトに入る子がいるから、仲良くしてやってくれ。」
「オレの他にも?・・今の話を聞く限りじゃ、ホントに人手不足みたいですからね・・」
「言ってくれるな・・そろそろ来るんじゃないか?」
カズヤに答えて、リョウが腕時計に目を向けた。
「先輩、そのバイトの人、どんな人なんですか?」
カズヤがリョウにそのバイトのことを聞こうとしたときだった。
「すみません、遅くなりましたー!」
そこへ1人の少女がやってきて声をかけてきた。振り返ったカズヤが顔を引きつらせる。
その少女は、先ほどひったくりをされた少女だった。
「あ・・あのとき、バッグを取り返してくれた人・・・!」
「先輩・・そのバイトの人って・・」
驚きを見せる少女と、リョウに問いかけるカズヤ。
「そうだ。天川ルナちゃん。よろしくな、カズヤ。」
「よろしく、じゃないですよ、先輩・・・!」
少女、ルナを紹介するリョウを睨みつけて、カズヤがリョウを連れて離れていく。
「先輩、前に言いましたよね・・オレが女が苦手だって・・」
「けどマジでかわいくて、配慮できなくなっちゃって・・」
「なっちゃってじゃないですよ!もしも女の人が来るって聞いてたら、オレは断ってました!」
「そう言わないでくれって・・バイトの話をされたの、カズヤとの話が終わった後だったから・・」
「とにかく、そういうことでしたら、オレのほうは今回のことはパスさせてもらいますよ!」
「そんなこと言わないでくれって、カズヤく〜ん・・」
話を蹴ろうとするカズヤを、リョウが慌てて止める。
「あ、あの・・どうかしたんですか・・?」
そこへルナが声をかけてきた、カズヤが驚く。
「いや、オレは先輩の騙し話に文句を言っているだけで・・」
カズヤがルナに説明しながら、視線を戻した。するとリョウが自分のバイクに乗り込んでいた。
「ちょっと、先輩!」
「オレは旅に出るわ。2人仲良くやってくれ〜♪」
声を荒げるカズヤに、リョウが気さくに呼びかけてきた。
「それじゃあな♪しばらくしたら帰ってくるからー♪」
「おい、ちょっと待てって!」
カズヤが呼び止めるのを聞かずに、リョウはバイクで走り出してしまった。
「リョウ先輩のバカヤロー・・・!」
リョウの言動に幻滅して、カズヤが頭を抱えて落ち込んでしまう。
「あの・・何がどうなっているの・・・?」
「・・・とりあえずこれだけは言っとく・・オレは女からひどい目にあわされたことがある・・だから女が苦手で嫌いなんだ・・トラウマと言ってもいいかも・・」
疑問を投げかけるルナに振り返って、カズヤが自分が抱えている不満を打ち明けた。彼の言葉を聞いて、ルナが当惑を覚える。
「だからオレは、君と一緒に仕事をするつもりはない・・」
不満と辛さを噛みしめるカズヤに、ルナは困惑を浮かべるばかりだった。
そのとき、カズヤの持っていた携帯電話がメールを着信した。リョウが送ってきたものだった。
“お店も部屋も好きに使ってくれていいから。それじゃ♪”
メールの内容を見て、カズヤの不満と怒りはさらに膨らんだ。
「バカヤロー!すぐに戻ってこーい!」
たまらず怒鳴りかかるカズヤだが、その叫びは虚しく響くだけだった。
「オレはここを離れる。ここでの仕事はしない。」
「あ、ちょっと・・!」
カズヤがバイクに乗って、ルナの前から走り去ってしまった。彼が去っていくのを、ルナが困惑を感じていた。
女性と一緒に仕事をすることに嫌気がさしたカズヤ。喫茶店を飛び出したものの行く当てがなく、彼は途方に暮れていた。
「アイツが悪いわけじゃんだけどな・・女が近くにいると、どうしてもイヤな気分になってしまう・・」
カズヤがため息をついて、自分の過去を振り返っていく。
「オレは女の道具じゃない・・もう絶対に受け入れたりするもんか・・・!」
憤りを覚えるカズヤ。彼の顔に一瞬、異様な紋様が浮かび上がった。
しかしすぐに消えた紋様に、カズヤ自身気付かなかった。
「また他のバイト先でも探すか・・」
カズヤは気を取り直して、またバイクを走らせようとした。
そのとき、カズヤの前にある通りから1人の女性が飛び出してきた。
「また女・・・」
女性をまた目撃したことに不満を覚えるカズヤ。
次の瞬間、女性に向かって灰色の煙が降りかかってきた。煙は逃げようとする女性を取り囲んだ。
「来ないで!近づかないで!」
悲鳴を上げる女性の体が灰色に変わっていく。彼女の体が石に変わっていく。
「やめて・・助けて・・・!」
悲鳴を上げる女性だが、完全に体が石になって動かなくなってしまった。
「おい・・どうしたっていうんだ・・・!?」
カズヤがまたバイクから降りて、石化した女性を凝視する。石になっている女性は微動だにしなくなっていた。
「大人の女性というのも魅力的だ・・それをすばらしくするオレはもっとすばらしいぜ・・」
石化した女性の前に現れたのは、ヘビのような姿をした怪物だった。
「な・・何だよ、あのバケモノ・・・!?」
カズヤが怪物を目の当たりにして緊迫を覚える。彼に気付いて怪物が振り返ってきた。
「見られたか・・見られたのかかわい子ちゃんだったらよかったのになぁ・・」
怪物がため息まじりに言いかけて、カズヤに向かって歩き出す。
「おい、何の冗談だよ・・何をやってんだよ・・・!?」
近づいてくる怪物に声を上げながら、カズヤが後ずさりする。
「お前には黙っててもらう・・厄介なことは避けたいからな・・」
怪物が不気味な笑みを浮かべて、口から灰色の煙を吐き出してきた。女性を石化させた煙は、彼が出していたものだった。
「おい、冗談じゃねぇぞ!お前みたいなののいいようにされてたまるか!」
カズヤが叫びながら、怪物から逃げ出していく。しかし怪物は吐き出した煙を飛び越えて、カズヤの前に回り込んできた。
「オレからは逃げられないぞ・・おとなしくオレにやられればいいんだよ・・・」
怪物が笑みを浮かべながら、カズヤにさらに迫る。また逃げようとするカズヤに、怪物が爪を振りかざしてきた。
「ぐっ!」
左腕を切りつけられて、カズヤが倒れる。押し寄せる激痛に苦悶する彼が押さえている腕から、血があふれ出していた。
「大人しくしてれば楽に始末してやったのに・・往生際が悪いのはイヤなんだよ・・厄介だしみっともないし・・」
身動きが取れなくなっているカズヤを見下ろして、怪物がため息をつく。
「だがそれも終わりだ・・石にしてからバラバラにしてやることにした・・・!」
「だから冗談じゃないって言ってんだろ・・どいつもこいつも、オレを何だと思ってるんだよ・・・!」
とどめを刺そうとしている怪物に、カズヤが憤りを膨らませる。そのとき、彼の頬に異様な紋様が浮かび上がった。
「それは・・まさか、お前も・・!?」
カズヤの異変に怪物が驚きを覚える。立ち上がったカズヤの姿が異形のものへと変わった。
背中から生えた翼、禍々しい雰囲気と風貌。まさに悪魔だった。
「お前もオレと同じだったのか・・・!?」
緊迫を膨らませた怪物が、たまらずカズヤから離れる。カズヤが怒りを噛みしめて、怪物に振り向く。
「オレは、こんなところで死んでたまるか・・・!」
低い声音で言いかけて、カズヤが怪物に向かっていく。鋭い視線を向けてくるカズヤに、怪物はヘビであるにもかかわらず、ヘビに睨まれた蛙のように震えて動けなくなってしまった。
「や、やめてくれ・・オレが悪かった・・悪かったから・・!」
すっかり怯えて助けを求める怪物。するとカズヤが肩を落としてから、きびすを返して離れていく。
「このまま・・このまま済ますものか!」
苛立ちを募らせていた怪物が、口から灰色の煙を吐き出してきた。煙はカズヤに向かって降りかかった。
「やったぜ!いくらオレと同じでも、石にしてしまえば・・!」
怪物が喜びを感じて笑い声を上げた。
「いつまでもいい気になっているなよ・・」
そのとき、声が飛び込んできて怪物が息をのむ。彼の背後にカズヤが立っていた。
「お前、いつの間に!?・・アレを飛び越えてきたっていうのか・・!?」
怪物がたまらずカズヤから離れようとする。が、カズヤが素早く飛び込んできて、怪物の体に拳を叩き込んできた。
「ぐはっ!」
重みのある一撃を体に打ち込まれて、怪物が吐血する。彼は激痛に襲われて、後ずさりしながらうめいていく。
「は、速いだけじゃない・・力も・・・!」
立っているのもままならなくなって、怪物が膝をつく。うめいている彼の前に、カズヤが立ちふさがる。
「や・・やめて・・助けて・・許して・・・!」
「そんなこと言い出すぐらいなら、最初からちょっかい出してこなければよかったのに・・」
助けを請う怪物に、カズヤが冷徹に告げてくる。
「オレに厄介事を持ちかけてくるな!」
カズヤが言い放ち、右手を突き出す。その爪が怪物の体に突き刺さった。
「バカな・・オレが、こんなところで死ぬなんて・・・!」
怪物が力尽きて、血をあふれさせながら昏倒する。彼の体が石のように固くなってから、砂のように崩れて消えていった。
怪物の亡骸が完全に崩壊したところで、カズヤの姿が人間に戻った。同時に彼は我に返った。
「あれ?・・オレ・・・?」
記憶が飛んでいたことにカズヤが当惑を覚える。目の前の地面で砂のようになって風に吹かれていく怪物の亡骸を見ても、彼は何が起こったのか思い出せなかった。
「オレ、どうしたんだ・・・?」
自分が何をしていたのか分からず、カズヤは困惑を募らせるばかりになっていた。
「ここで悩んでも仕方ないか・・別の仕事先を探さないと・・」
カズヤは気持ちを切り替えて、そばに止めていたバイクに乗って走り出していった。
怪物に石化されていた女性も元に戻り、動揺を抱えたままこの場を後にした。
怪物とカズヤの様子と戦い。その一部始終を目撃する影があった。
「発見しました。高い戦闘能力を備えている模様です。」
“分かったわ。私が直接接触するわ。”
「あなた自らですか?まだなり立てのようですが、いくらなんでも・・」
“百も承知よ。その上で私が決めたのよ。”
その影の言葉に、応答している声が答える。異形の存在を巡って、新たな事件が起ころうとしていた。
次回
「ここでしか頑張れないってことなのか・・・」
「私にイヤなところがあったら、気を付けるから・・」
「もっとだ・・もっとうまいものを・・・!」
「はじめまして、佐久間カズヤくん・・」