ガルヴォルス

-Phantom Heart-

第7章

 

 

 一面の暗闇を広げたギル。彼は闇を操り、トウガとカノンを捕まえた。

 ギルはカノンの頬に軽く手の甲を当てる。気絶していたカノンが意識を取り戻す。

「ぅぅ・・・ト・・トウガ!」

 カノンが突っ伏しているトウガを見て声を上げる。

「トウガ!・・う、動けない・・・!」

 トウガに駆け寄ろうとするカノンだが、闇に体を拘束されて身動きが取れない。

「ヤツは死んではいない。が、暴れられたら困るので押さえつけている。」

「トウガ、目を覚まして!トウガ、私に構わないで、立ってこの人たちを!」

 ギルが言いかけて、カノンがトウガに呼びかける。しかしトウガは闇から抜け出ることができない。

「この暗闇はそう簡単に外せない。力を消耗しているお前たちではなおさらのこと。」

 ギルがトウガとカノンに向けて言いかける。それでもトウガもカノンも闇から抜け出そうともがく。

「ちくしょう・・こんなことで、オレを思い通りにできると思うな・・・!」

「お前のその頑固さえも超えている意思を打ち砕かなくては・・・」

 声と力を振り絞るトウガに、ギルが低く告げる。

「たとえお前でも、できることとできないことがあることを知れ。」

 ギルはトウガに告げると、カノンに迫り彼女の体をつかんできた。

「ち、ちょっと、放して!」

 声を上げるカノンだが、ギルの手と闇を振り払うことができない。ギルの手がカノンの着ている衣服を引き剥がした。

「キャアッ!」

 素肌をさらけ出されて、カノンが悲鳴を上げる。

「カノン!コイツ、カノンに手を出すな!」

 トウガがさらに力を込めるが、闇から抜け出せない。それでも彼は強引に闇から出ようとする。

「聞く気はないのだろうが言っておく。無理やり出ようとすれば、お前の体がバラバラになりかねないぞ。」

 ギルが忠告を投げかけるが、彼の思っていた通り、トウガは聞かずにもがく。

「捨て身になろうと何をしようと、守れないものがある・・お前も、そのことを理解するのだな・・」

 ギルはトウガに言ってから、再びカノンに手を伸ばした。彼の手はカノンの胸を撫でていく。

「あ・・ちょっと・・やめて・・・!」

 体を触られて、カノンが恥じらいを覚える。ギルはさらに彼女の体を撫でまわしていく。

「何やってんだよ・・カノンを放せってんだよ!」

 トウガが激高してギルに飛びかかろうとする。彼の体から電撃がほとばしるが、闇に取り込まれていく。

「オレの闇は力をも取り込む。お前の発揮できる力は半減される・・」

 ギルが言いかけて、カノンの体をさらに弄んでいく。

「やめ・・やめて・・イヤァ・・・!」

 一方的に体を触られて、カノンが悲痛の叫びを上げる。

「やめろ・・やめろ!カノンにこれ以上そんなマネしたら、楽に殺さねぇぞ!」

 トウガが怒りを募らせて、ギルに飛びかかろうとする。押さえつけようとする闇を、トウガは強引に引き剥がそうとする。

 不敵な笑みを浮かべるギルの頬に紋様が走る。彼の姿が漆黒の姿、ダークガルヴォルスとなった。

 闇の力を強くしたギルは、自分が広げている闇の中に溶け込んだ。彼はその状態でカノンとの抱擁を深める。

 そしてギルの闇が、カノンの秘所に入り込んできた。

「や・・やめ!・・ぁぁぁぁ・・・!」

 体の中を恍惚が駆け抜けて、カノンが目を見開いてあえぎ声を上げる。

「カノン!許さねぇ!殺す!ぶっ殺してやる!」

 トウガが激情を募らせて、ギルに飛びかかろうとする。電撃のほとばしる彼が闇から抜けようとしていた。

 するとギルに操られた闇がさらにトウガの上にのしかかってきた。

「ぐっ!」

 さらに地面に押し付けられて、トウガがまた身動きが取れなくなる。彼の目の前でカノンがギルにさらに犯されていく。

「こんなこと・・オレは認めねぇ・・認めるもんかよ!」

 トウガがそれでもカノンを助けようとする。しかし彼の体は完全に闇に押し込まれている。

 ギルに体を弄ばれて、カノンは心さえも揺さぶられていく。一方的に犯されるだけの事態に絶望して、彼女の目からは涙があふれていた。

 トウガもかつてない理不尽に、無意識に涙をあふれさせていた。

(トウガ・・私のことは気にせずに・・この人たちを・・・!)

 トウガに目を向けていたカノンが、心の中で彼に向けて呼びかけた。彼女の瞳から生の輝きが消えた。

 トウガが声にならない絶叫を上げた。彼のギルへの怒りは限りなく突き抜けていた。

 トウガの体から電撃だけでなく、鮮血もあふれ出していた。強引に闇から抜け出そうとする体に損傷が起こった。

 自分の体がバラバラになりかねなくなるのも構わず、トウガは闇を振り払おうとする。

「自分の大切なもののため、自分の意思のためなら、自分自身がどうなろうと構わない、か・・」

 満身創痍のトウガを見て、ギルが呟きかける。彼からの抱擁に弄ばれて、カノンの恍惚は絶頂に達していた。

 そのとき、トウガがギルの闇から完全に抜け切った。彼の体はところどころに裂傷が刻まれていて、鮮血があふれていた。

「カノン!」

 トウガが右手を伸ばして、カノンをギルから引き離す。ギルがカノンを引き戻そうとするが、トウガが伸ばした左手に地面に押し付けられる。

「ぐっ!」

 トウガの左手に押さえられての痛烈な衝撃を受けて、ギルがたまらずうめく。トウガの手から抜け出そうとして、ギルは闇を集めてトウガとの距離を取る。

「カノン、しっかりしろ!おい!カノン!」

 トウガが呼びかけるが、カノンは目が虚ろになっていて意識を失っている。

「カノン・・・今は、おめぇを助けるのが先だ・・・!」

 トウガはギルとレイヤを倒そうとせず、カノンを連れて闇の中から飛び出した。

「待て!逃げるな!」

 レイヤが怒号を放つが、トウガたちに追いつくことができなかった。

「このオレが気圧されるとは・・ヤツの怒りと力は本物ということか・・・!」

 トウガの底力を痛感して、ギルが毒づく。

「またも・・またもヤツを仕留められなかった・・・!」

 トウガを倒せなかった悔しさと憤りを噛みしめて、レイヤが地面に拳を叩きつける。

「今のヤツを追っても、お前でも仕留めることはできなかっただろう。オレのこれだけの闇から抜け出して、オレに深手を負わせたのだからな・・」

「そんなことは関係ない!オレはヤツを殺す!息の根を止めなければ、世界は乱れたままになる!」

 焦りを口にするギルに怒号を放って、レイヤがトウガを追おうとする。

「ヤツを追うならさらに力を付けなければ・・今の力でも、さらに強さを発揮した崎山トウガには勝てない。」

「関係ないと言っている!オレは必ずヤツを!」

「ヤツに殺されてこの上ない屈辱を味わいたいというなら好きにしろ。」

 トウガへの憎悪に囚われていたレイヤだが、ギルから忠告されて踏みとどまる。

「今はまだ怒りが力になっている。だが近いうちに怒りが絶望に変わり、戦う意思も見せなくなるだろう・・」

 ギルがトウガの心境を考えて呟く。

「だが万が一は十分にある。そのときに備えてさらに力を付けておいたほうがいいだろう・・」

「そこまで言うならやってやる・・オレがこの手でヤツの息の根を止めるためなら・・・!」

 ギルの言葉に促されて、レイヤは怒りを内に秘めつつ落ち着きを取り戻していく。

「何にしろ、まずはお前の傷を治して回復してからだ・・」

 ギルが投げかけた言葉に、レイヤは渋々従うことにした。2人は1度引き上げることにした。

 

 カノンを連れて人気のない場所まで来たトウガ。彼はカノンを下ろして呼びかけてきた。

「カノン・・大丈夫か、カノン!」

 トウガが呼びかけるが、カノンは反応しない。

 いくつか負傷しているが、命に別状はない。しかしカノンの目は虚ろで、トウガの声に反応を示さない。

「カノン、もうアイツらはそばにいねぇ!おめぇがおかしくされることはねぇんだ!だから安心してくれ!目を開けてくれ!」

 トウガがさらに呼びかけるが、それでもカノンは反応しない。

「どうしたんだよ・・・目を開けろってんだよ!」

 トウガが激情を募らせて、カノンの肩をつかむ。

「おい、起きろよ、カノン!起きろって言ってんのが分かんねぇのかよ!」

 トウガが怒鳴りかかるが、カノンはそれでも目を覚まさない。

「アイツのせいかよ・・アイツがおめぇをムチャクチャにしたから・・・!」

 トウガが悔しさを噛みしめて、ギルへの怒りを感じていく。

「オレが何をした!?・・オレは、明らかに間違っていることを正しているだけだ・・それを認めないのは、認めないヤツらが悪いんだよ・・・!」

 理不尽への憎悪を募らせていくトウガ。彼は絶望を与えたギルや世界を滅ぼすことを考えていた。

「カノン・・おめぇが、ゴミクズどもの手の届かないところに・・・」

 トウガは再びカノンを抱えて移動を始めた。誰の手の届かないような場所を目指して、彼は歩き出した。

「カノン・・オレにはおめぇが必要なんだよ・・おめぇがいたから、怒りをぶつけた後の幸せをつかむことができた・・・」

 トウガがカノンへの思いを口にしていく。

「ゴミクズどもはオレの幸せも、カノンもムチャクチャにした・・絶対に許しはしねぇ・・そんなオレが悪いと決めつけるヤツらも、容赦しねぇぞ!」

 怒りと憎しみをさらに強固にするトウガ。彼に強く抱きしめられても、カノンはただ前に目を向けるだけだった。

 

 この日の夜、トウガはさらに人目につかない森林の中で休むことにした。まだカノンは呆然としたままである。

「カノン・・そこまで一方的にやられたのがショックだったのか・・オレもおめぇも、身勝手を押し付けられることを心の底から嫌っていたからな・・」

 トウガがカノンを見つめて呟きかける。

「オレでもあんなマネされたら、体が心のどっちかは確実にぶっ壊れてただろうな・・あんな一方的なこと、受け入れられねぇ・・・!」

 トウガは憤りを感じて、右手を強く握りしめる。

「カノン、必ずおめぇの目を覚まさせてやる・・そして、アイツらは完全に叩き潰してやる・・・!」

 新たな決意を固めて、トウガがカノンを抱きしめる。カノンは何の反応も示すことなく、虚ろなままだった。

「カノン・・・カノン・・・!」

 精神が乱れたカノンを抱きしめて、トウガが涙をあふれさせた。彼の涙が顔に当たっても、カノンは反応しない。

「オレは、おめぇがいねぇとダメなんだ・・おめぇが支えてくれなきゃ、オレは・・・!」

 カノンにすがりつき、泣きじゃくるトウガ。怒りと憎しみで感情をとがらせ続けていたトウガが悲しみにくれたのは、久しいことだった。

 トウガはしばらく泣き続けて、そして泣き疲れて眠りについていた。

 

 悪夢の日から一夜が明けた。目を覚ましたとき、トウガは昨日が悪夢であると思い込もうとした。

「カノン・・・」

 トウガがカノンの顔を見つめた。カノンも眠りについていて、目を閉ざしていた。

「もうおめぇを苦しめさせはしねぇ・・オレがゴミクズどもを皆殺しにしてやる・・・!」

 決意と憎悪を噛みしめるトウガ。そのとき、眠っていたカノンが閉ざしていた目をゆっくりと開いた。

「カノン!・・カノン、大丈夫か!?

 トウガがカノンに向けて呼びかける。カノンがゆっくりとトウガに視線を向けていた。

「ホントに大丈夫か、カノン・・・!?

 トウガがカノンを見つめて戸惑いを見せる。

「あ・・・あの・・・誰・・・?」

「えっ・・・!?

 カノンが口にした言葉に、トウガは耳を疑う。

「カノン・・・おめぇ・・・!?

「あなたは・・誰?・・・あれ?・・私は・・誰・・・?」

 当惑を覚えるトウガの前で、カノンが疑問を感じていく。彼女の異変にトウガが息をのむ。

「どうしたんだよ、カノン!?・・何言ってんだよ・・・!?

「分からない・・・私が誰なのかも分からない・・・」

 トウガが困惑して、カノンが自分のことも分からなくて体を震わせる。彼女は記憶を失い、自分のことも分からなくなっていた。

「カノン・・おめぇはカノンだ!華原カノンだ!」

「華原・・カノン・・・それが、私の名前・・・?」

 トウガが必死に呼びかけて、カノンは弱々しく言葉を返す。

「カノン・・・ホントに、何にも分かんねぇってのか・・・!?

「分からない・・私は誰なの?・・何がどうなっているの・・・!?

 声を荒げるトウガと、混乱してさらに震えるカノン。何も思い出せないことに、カノンは苦悩を深めていた。

 トウガは絶望していた。カノンが今までのカノンでなくなっていることを痛感して。

(アイツのせいだ・・アイツにムチャクチャにされて、追い詰められすぎたから、カノンが・・・!)

 そしてトウガはカノンの心を崩壊させたギルへの憎悪を募らせる。

(許さねぇ・・アイツはただ倒すだけじゃ治まらねぇ・・オレの怒りとカノンの苦しみをしっかり思い知らせる!)

 トウガの敵意と怒りは今まで以上のものとなっていた。

「カノン・・どっか落ち着けるとこに行くか・・ここがいいなら、ここでもいいけど・・・」

 トウガが落ち着きを払って、カノンに訊ねる。

「はい・・・ここで、いいです・・・」

 カノンは動揺を浮かべたまま、小さく頷いた。

「そうか・・・オレはこれから、行かなくちゃならねぇとこがあるんだ・・必ず戻ってくるから・・・」

 トウガはカノンに言いかけて微笑みかけた。

「何をするつもりなの・・・?」

「やらなくちゃならねぇことがあるんだ・・オレとおめぇ、この世界のために・・・」

 カノンの問いかけに対し、トウガが思いを口にした。

「待っててくれ・・オレは必ず、おめぇのいるここに戻ってくるからな・・・」

 トウガはカノンに言って、再び微笑んだ。彼は振り返り、ゆっくりと歩き出した。

 カノンに見えないように、トウガは目から涙を流した。

(カノンが生きてただけでもよかったって思うべきなのか・・・いや、カノンは殺されたんだ・・アイツらに、心と記憶を・・・!)

 カノンのことを考えて、トウガがギルたちへの怒りを再び燃え上がらせる。

(やっぱり許しちゃおかねぇ・・ゴミクズどもは全部片づける・・特にアイツは、絶対に息の根を止める・・・!)

 ギルを始めとした全ての敵を自らの手で滅ぼすこと。トウガはこの決意を強固にしていた。

 

 ギルは各地にいくつか別荘や隠れ家を所有していた。その1つに彼はレイヤと来ていた。

「ここなら力を出さない限り、誰かがかぎ付けてくる確率は低い。」

「ここで体を休めろ、ということか・・しばらくは言う通りにしておく・・・」

 言いかけてくるギルに、レイヤが低い声音で答える。

「崎山トウガ・・ヤツの力はまだまだ発展途上のようだ。ヤツの感情によって、どこまでも力を高められる・・」

「ヤツが何をしてこようと、オレはヤツを倒す・・必ずオレが・・・!」

「少しは落ち着け。自分を見失えば、自滅することになるぞ。」

「オレは倒れない・・ヤツを仕留めるまでは死なない・・!」

「ならばお前の言う通りになるようにしろ。さっきはオレが出てこなければ、お前は今頃ここにいなかった・・」

 憤りを募らせるレイヤだが、ギルに言いとがめられる。

「オレもヤツの激情と、それが引き金となっている力には驚かされている・・油断すれば、それでも危険だ・・・」

 トウガへの危機感を募らせるギル。彼の焦りを目の当たりにして、レイヤは反論できなくなる。

(オレもうかうかできないな。危うく強すぎる力に浮かれるところだった・・)

 ギルが追われる立場にいることを痛感していく。

(レイヤに抜かれることは別に危機とはしていない。彼なら世界を導く強さと意思を持っている。だが崎山トウガは違う。ヤツは世界を乱す破壊者だ・・レイヤほど恨みを持っていないが、ヤツは倒されなくてはならない。)

 レイヤとトウガのことを考えて、ギルは慎重になっていた。彼はトウガに対して下手な手は打てないことを痛感していた。

(最悪の場合、レイヤの怒りを買うことになってでも、オレがヤツを始末する・・・)

 ギルもトウガ打倒の決意を密かに固めていた。

「オレは先に寝るぞ。勝手に外に出ないことだ。少なくとも、今の力のままでヤツに手を出すようなマネはするな。」

 ギルはレイヤに呼びかけると、1人寝室に向かった。

(オレもこのまま引き下がるつもりはない・・このままの力でいるつもりもない・・もっと力を手に入れて、必ずヤツを・・・!)

 レイヤもトウガを倒すために必要なことを頭の中に思い描きつつあった。

 

 カノンを安全な場所に置いて、トウガは孤独の戦いに身を置くことにした。今の彼は敵を滅ぼす意思をさらに強くしていた。

 人間、ガルヴォルス問わず、トウガは世界を狂わせる存在と見なした相手を徹底的に打ち倒していた。

「や、やめろ!助けてくれ!殺さないでくれ!」

 議員の1人が逃げ惑い、助けを請う。彼のいる部屋の周りには、ボディガードの男たちが倒れていた。

 そして議員の前に立っていたのは、ビーストガルヴォルスとなったトウガだった。

「そう言ったヤツを、おめぇは助けたことがあるのか・・・!?

「た、助けた!みんな助けてきた!」

 トウガが投げかける問いかけに、議員は笑みを作って答える。

「ならオレも助けたか!?・・オレを陥れようとしたヤツらを止めようとしたのか・・・!?

「そうした!そうしようとしたけど、止まろうとしなかった!」

「となると、そいつらのほうがよほどのゴミクズだったってことか・・これからはどんなことをしてでも、そういうヤツらは止めるべきだ・・・」

 必死に答える議員に、トウガが忠告を送る。トウガは議員を手にかけず、きびすを返して背を向けた。

「身勝手なのも当然だが、それを見過ごすのも、止められないのもまた悪さだ・・」

「見過ごして止められないのが悪さなら、世界の人間全てが悪者となってしまう・・・!」

 トウガが低い声音で言いかけると、議員が突然、懐に持っていた拳銃を手にして発砲してきた。だが弾丸が当たっても、トウガの体には傷1つ付かない。

「貴様の戯言など聞き入れるつもりはない!」

 怒鳴りかかる議員に振り返り、トウガが鋭く睨みつけてくる。

「やっぱおめぇも、救いようのねぇゴミクズだったってことかよ!」

 激高したトウガが拳を振りかざし、議員を殴り飛ばした。議員は壁に叩きつけられて、血をあふれさせて事切れた。

「ゴミクズどもは、どいつもこいつも・・自分たちがよければそれでいいと思ってる連中ばかり・・・!」

 敵意を憎悪を募らせていくトウガ。

「ゴミクズ連中のせいで・・オレの人生も・・カノンの心と体も・・・!」

 増していく絶望と憎悪が、トウガにさらなる力と精神力をもたらしていた。

「ヤツらはオレが滅ぼす・・特にアイツだけは絶対に生かしちゃおかねぇ・・・!」

 ギルの打倒を絶対の決意をするトウガ。彼はギルの行方を追って、各地をしらみつぶしに当たっていた。

 

 その頃、束の間の休息を取ったレイヤは、ガルヴォルス打倒を兼ねて力を求めた。彼は再び、敵と見なしたガルヴォルスたちを取り込んでいった。

「まだだ・・もっと力を・・力を高めないと・・・!」

 トウガを倒すために力を高めているのを確かめていくレイヤ。

「どこまで・・どこまで力を上げていくつもりだ、ヤツは・・・!?

 どれだけ力を付けても倒れないトウガに、レイヤはさらに怒りを燃やしていく。

「オレはお前を許さないし、屈しもしない・・誰にもとどめを譲るつもりもない・・必ずオレが・・・!」

 自分がトウガを倒すことを心に誓うレイヤ。

「ギル、お前にも渡しはしない・・それだけは、もしもやったら、お前でも必ず罰を与える・・・!」

 ギルにも忠告を送るレイヤ。彼はさらに力を取り込むことを目論んで、敵のガルヴォルスを求めて歩き出した。

 

 力を求めて行動するレイヤ。日に日に増していく彼の強さは、自然にトウガに気付かれるほどになってきた。

「この感じ・・アイツか・・・!」

 レイヤの居場所を探知して、トウガが目つきを鋭くする。

「あのゴミクズの前に、アイツを叩き潰す・・ゴミクズ連中のやっていることを棚に上げて、オレたちを悪いと勝手に決めつけるアイツも、オレたちの敵だ・・・!」

 レイヤに対して憎悪を募らせるトウガ。ビーストガルヴォルスとなった彼は、レイヤのいるほうに向かっていった。

 

 さらに力を付けたレイヤは、トウガが近づいてくるのに気付いた。

「オレの力に気付いたか・・望むところだ・・・!」

 振り返ったレイヤが不敵な笑みを浮かべる。彼はトウガが来るのを待った。

 そして程なくして、体から電撃をほとばしったトウガが現れた。

「今度こそ・・今度こそお前を・・・!」

「何度も何度も同じことを・・おめぇにはウンザリしてるんだよ・・・!」

 互いに敵意をむき出しにするレイヤとトウガ。2人が同時に飛び出し、拳を繰り出す。

 だがトウガが力負けして、レイヤに突き飛ばされる。彼は激しく横転して地面に突っ伏す。

「ぐふっ!・・ま、また強くなったのかよ・・・!」

 さらに高まったレイヤの強さを実感して、吐血するトウガが毒づく。

 レイヤが自分の影をトウガに向かって伸ばしてきた。とっさに立ち上がったトウガが上に飛んで、地面から飛び出した影をかわす。

「今のオレは、お前を逃がすことも許さない!」

 レイヤが伸びている影を加速してさらに伸ばして、トウガの手足を縛って捕まえた。

「ぐっ!」

 トウガが引っ張られてうめき、地面に叩きつけられて苦痛を覚える。仰向けに倒れた彼に、レイヤが近付いてくる。

「すぐに殺さない・・お前によって虐げられた人たちの苦しみを味わわせてから、地獄に落とす!」

「地獄に落ちるべきなのは、おめぇらゴミクズだ・・オレたちをムチャクチャにするおめぇらを、オレは許しちゃおかねぇ!」

 両手を握りしめるレイヤに、トウガが憎悪を傾ける。

「お前はどこまでも、自分の愚かさと大罪を棚に上げて!」

 レイヤが怒号を放ち、トウガの体を強く踏みつける。

「ぐっ!・・棚に上げてるのはおめぇらだろうが・・!」

「お前だ、愚か者が!」

 言い返すトウガをレイヤが強く踏みつける。

「多くの命を奪っておいて、それを正しいことにするお前が、許されるはずもない!」

「それはおめぇらゴミクズだろうが!おめぇらを叩き潰さねぇと、世の中乱れたままなんだよ!」

「コイツ、どこまでも自分のことを棚に上げて、自分が正しいと言い張って!」

 トウガの怒号が、レイヤの怒りを逆撫でする。彼が操る影が、刃となってトウガの体に突き立てられる。

「がはっ!」

 体から鮮血があふれて、トウガが激痛に襲われてうめく。もがこうとする彼だが、レイヤの影に縛られて身動きが取れない。

「オレたちだけではない!お前の暴挙のために、どれだけの命が失われたと思う!?自分のことしか考えないお前では、1人の命すら気に留めていない!」

 激高するレイヤがトウガをさらに踏みつける。同じく怒りを募らせるトウガが痛みに耐える。

「お前を野放しにすれば、罪のない人がさらに死ぬことになる!そんなことは絶対にさせない!」

「それが、オレたちをムチャクチャにしていい理由だっていうのかよ・・・!?

 憎悪を向けるレイヤに対するトウガの怒りは、頂点を突き抜けていた。

「それが正しいことのはずがねぇ・・明らかに間違っていることを正しいことにして、オレたちをこれ以上苦しめるな!」

 トウガが体から電撃を放出した。その電撃は青白さが濃くなっていた。

 電撃は影を伝ってレイヤに直撃した。

「ぐっ!」

 強い衝撃と激痛に襲われて、レイヤがうめく。彼はトウガへの敵意を強めて、押し寄せる激痛に耐えてまた踏みつけを仕掛ける。

 しかしトウガは踏みつけを押し付けて、影をもはじき飛ばして立ち上がった。

「また・・またオレの力を超えるだと!?

 またトウガが力を上回ったことに、レイヤは目を疑った。乱れた呼吸を整えながら、トウガがレイヤに鋭い視線を向ける。

「ゴミクズは叩きつぶす・・おめぇらに言葉を交わしたところで、おめぇらの思い上がりを聞かされるだけだ・・・!」

 強固な決意を口にして、トウガが拳を構える。

「聞く耳は持たねぇ!ゴミクズはただ叩きつぶすだけだ!」

 叫ぶトウガが右の拳を繰り出す。電撃を帯びた拳は、レイヤの体を貫いた。

「がはぁっ!」

 体を貫かれた痛みと電撃の威力で、レイヤが絶叫を上げる。彼は怒りを膨らませて、トウガの右腕をつかむ。

「オレは死なない・・お前の息の根を止めるまで、殺されても死なない!」

 レイヤが声と力を振り絞り、影を伸ばしてトウガの体に突き立てる。しかしトウガの放つ電撃が影をかき消した。

「だったら消す!存在を完全にかき消す!生きることも死ぬことも許さねぇ!」

 トウガが言い放って、全身から電撃を放出する。レイヤが稲光に包まれて、彼の体が白んでいく。

「オレはまだ・・お前を倒すまで、オレは死なない・・・!」

 トウガ打倒を貫こうとするレイヤ。だが彼の体は青白い稲光の中に完全に消えていった。

 

 白い閃光が徐々に治まって消えていく。その広場の中心にトウガは立っていた。

 呼吸を乱しているトウガが、ガルヴォルスから人の姿に戻っていく。

「オレは敵を倒す・・オレたちの全てをムチャクチャにしたゴミクズ連中を、1人残らず片づける・・・!」

 決意と憎悪を口にして、トウガは疲弊した体を突き動かす。彼は敵を滅ぼすため、ゆっくりと歩き出した。

 

 

 

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