ガルヴォルス

-Phantom Heart-

第5章

 

 

 会議場が襲われたニュースは、瞬く間に国中や世界に衝撃を与えた。怪物の脅威が人々に恐怖を与えていた。

 国規模でも怪物を止められないことに、人々はいつ襲われるかもしれない絶望に苦しめられることになった。

 そして人々の不快感は、なかなか対処法を提示しない国会にも向けられていた。

 政治家たちもトウガによって壊滅的な打撃を受けていた。それでも何かしらの反応や対応はあると人々は思っていたが、それらが全くない。

 人々の不信感と恐怖は強まるばかりだった。

 

 会議場を後にしたトウガとカノン。混迷を深める人々のことを、トウガは気に留めていなかった。

「もう大騒ぎになっているね・・」

「関係ない・・オレはゴミクズを叩き潰しているだけだ・・」

 当惑を浮かべるカノンだが、トウガは自分の意思を変えない。

「これで、敵はいなくなったのかな・・・?」

「それは分かんねぇ・・隠れてるなら、引きずり出して叩きつぶすだけだ・・・!」

 疑問を投げかけるカノンに、トウガが頑なな意思を示す。また敵が現れたら倒すだけ。トウガの考えは今も変わっていない。

「本当にゴミクズどもがいなくなったとしたなら、オレはやっと安心して過ごせるってもんだ・・カノン、おめぇも安心できる・・・」

「トウガ・・・」

「オレは、おめぇと一緒にいたい・・また抱きしめたいと思ってる・・・」

 戸惑いを見せるカノンを、トウガが抱きしめる。彼からの抱擁を受けて、カノンが動揺を感じていく。

「また、オレを支えてくれ、カノン・・・」

「トウガに言われなくても、私はトウガを支えるよ・・・」

 互いに思いを伝え合い、トウガとカノンが思いを分かち合う。2人は人気のない街外れに出てから、改めて抱擁を交わした。

「失いたくないものを、久しぶりに持った気がしてる・・オレは何もかも失ってしまったから・・・」

「私には、希望をトウガがくれた・・・」

「オレたちはもう、離れたくない存在なんだ・・・」

「トウガ・・・ありがとう・・本当に、ありがとう・・・」

 思いを伝え合うトウガとカノンが、顔を近づけて唇を重ねた。2人が口付けの心地よさを堪能していく。

 互いのぬくもりを感じ合い、トウガとカノンは安らぎを感じていった。

 

 トウガが敵と認識して手にかけた者は少なくない。彼らの中に家族や仲間のいる人もいた。

「ここまで目立ったために、ヤツの居場所は丸分かりだ・・・!」

 1つの影がトウガを狙って進行していく。会議場に乗り込んだトウガたちのことを、影は耳にしていた。

「いた・・やっと見つけた・・・!」

 そしてついに、影はトウガとカノンの姿を目の当たりにした。

「アイツの・・アイツのせいで、オレたちは!」

 激高した影がトウガたちに向かって飛びかかる。だが影の接近にトウガもカノンも気付いた。

 カノンを引き離したトウガが、ビーストガルヴォルスとなって影、シャドーガルヴォルスを迎え撃つ。

「また出てきたのか・・オレたちを陥れようとするゴミクズが・・!」

「ゴミクズだと!?オレの全てを奪っただけでなく、オレたちにこのような侮辱を!」

 憤りを浮かべるトウガに、シャドーガルヴォルスも怒号を放つ。シャドーガルヴォルスが拳を振りかざし、トウガが回避していく。

「オレはお前の暴挙によって家族を失った!オレはお前に大切なものを奪われたんだ!」

「オレが叩きつぶしてきたのは、自分たちさえよければそれでいいゴミクズども!ヤツらに味方するおめぇもまたゴミクズだ!」

「自分のことを棚に上げるな!オレの家族は優しい心の持ち主だ!」

 トウガの怒号に怒号をぶつけるシャドーガルヴォルス。2人の拳がぶつかり合い、激しい衝撃が周囲に巻き起こった。

「特に両親は、国をよくするために知恵を絞り、体を張り続けてきた。その2人が、自分たちがよければいいと考えるはずがない!」

「ならなぜ他のゴミクズに味方する!?おめぇの親がそういうヤツらなら、ゴミクズどもの自分勝手を止めたはずだ!」

 言い放つシャドーガルヴォルスに、トウガも怒りを言い放つ。

「ゴミクズ、ゴミクズって・・自分が正しいと言い張ってるのはお前だ!お前こそが叩きつぶすべきゴミクズだろうが!」

 シャドーガルヴォルスが叫び声を上げる。彼の体から黒いオーラが霧のようにあふれ出す。

「これはまさか、トウガと同じ・・・!?

 カノンはシャドーガルヴォルスのオーラが、トウガの発していた稲妻と同じだと予感した。

「コイツ・・自分の身勝手を棚に上げて、オレが悪いと決めつけて!」

 トウガもシャドーガルヴォルスに激高して、拳を握りしめて振りかざす。しかしシャドーガルヴォルスは拳を受けてもビクともしない。

「何っ!?

「自分の間違いをオレに押し付けるな!」

 驚愕の声を上げるトウガに、シャドーガルヴォルスが拳をぶつける。

「ぐっ!」

 トウガが突き飛ばされて、壁に叩きつけられてうめく。

「トウガ!」

 カノンが声を上げて、エンジェルガルヴォルスとなる。

「トウガは傷つけさせない!」

 カノンがシャドーガルヴォルスに向けて思念を送る。しかしシャドーガルヴォルスの殺気が、カノンの思念をかき消した。

「ヤツに味方するつもりなら、お前にも容赦しないぞ!」

 シャドーガルヴォルスがオーラを放出して、カノンを突き飛ばす。体に圧力をかけられて、カノンが苦痛に襲われて膝をつく。

「オレはヤツを倒す・・絶対に許しはしないぞ!」

「許さねぇのはこっちのほうだ・・!」

 憤りを募らせるシャドーガルヴォルスにトウガも言い放つ。彼の体から電撃がほとばしっていた。

「トウガも、その力を・・・!」

 強化を果たしたトウガを見て、カノンが戸惑いを覚える。

「ゴミクズはどいつもこいつもそうだ・・自分たちが間違っているのに、オレが悪いと決めつけて、それを正しいことにする・・・!」

 トウガが力と怒りをさらに強めていく。

「思い上がりと屁理屈に振り回されるのはウンザリなんだよ!」

 彼が一気に加速して、シャドーガルヴォルスに突撃を仕掛ける。

「ぐっ!」

 かわし切れずに押されるシャドーガルヴォルスだが、すぐに踏みとどまる。

「どこまでもお前は・・そこまで思い上がりたいのか!」

 シャドーガルヴォルスも黒いオーラを発して飛びかかる。2人が力を込めて拳をぶつけ合う。

(あのガルヴォルスを倒すために、トウガはさらに力を上げている・・でも力を上げ続けたら、負担も大きくなってくる・・このままじゃ、トウガが・・・!)

 トウガの負担が大きくなると思い、カノンが不安を募らせていく。

(せめて、トウガの負担を和らげることができるなら・・・!)

 カノンがトウガに思念を送る。カノンの力がトウガに注がれて、体を支える。

(この力・・カノン、おめぇがオレに・・・!?

 トウガもカノンの力が伝わってきたのを感じ取った。彼女の力で自分の力を強く引き出せるとも。

「オレは戦う・・敵をぶっ潰すために!」

 トウガがさらに力を込める。電撃を強めた彼の拳に、シャドーガルヴォルスが大きく突き飛ばされた。

「オレはやられない・・お前の息の根を止めるまでは!」

 シャドーガルヴォルスが怒りを募らせて飛びかかる。しかし力を増しながら負担を和らげつつあるトウガに力負けする。

「認めない・・こんなこと、認めるわけにいくか!」

 さらに激高したシャドーガルヴォルスがオーラを強めていく。彼もさらに自分の力を強めようとする。

「あの人も、トウガのように力を上げて・・トウガは私が力を送って負担を軽くしているけど、あの人は誰の支えも・・・!」

 カノンがシャドーガルヴォルスを見て困惑を覚える。自分への負担を顧みず、シャドーガルヴォルスは力を高めようとする。

 だがシャドーガルヴォルスの体への負担が限界に来た。

「ぐはぁっ!」

 体を激痛が駆け抜けて、シャドーガルヴォルスがその場にうずくまる。彼の異変をトウガとカノンが凝視する。

「もしかして、体に限界が・・・!?

 シャドーガルヴォルスの異変の理由に気付くカノン。シャドーガルヴォルスが力を振り絞り、痛みに耐えて立ち上がる。

「絶対に・・絶対にお前を地獄に叩き落とす・・許しはしない!」

 シャドーガルヴォルスは恨みの言葉を口にすると、トウガたちの前から姿を消した。自らの影の中に溶け込んで入るように。

「どこへ行った・・・出てこい!逃げるな!」

 トウガが怒鳴り声を上げるが、シャドーガルヴォルスは現れない。

「くっ!・・あれだけ勝手なことをぬかしておいて逃げるとは・・・!」

 シャドーガルヴォルスへの憤りを噛みしめるトウガ。ガルヴォルスから人の姿に戻った彼が、力を消耗した苦痛を覚える。

「トウガ!」

 カノンが慌ててトウガに駆け寄って支える。

「カノン・・すまねぇ・・おめぇに世話焼かせちまって・・・」

「トウガ・・ううん、いいよ・・トウガのためになるなら・・・」

 謝るトウガにカノンが戸惑いを覚える。

「トウガ、私たちもここから離れよう・・・!」

「くっ・・そうしたほうがいいみたいだな・・・」

 カノンの呼びかけにトウガが頷く。2人も歩き出してこの場を離れた。

 

 トウガに返り討ちにされて、引き上げるしかなかったシャドーガルヴォルス。元の姿に戻った彼がトウガだけでなく、無力な自分にも憤りを感じていた。

「認めない・・オレがヤツを倒せないなんて・・!」

 感情を抑えられず、シャドーガルヴォルスが地面に両手を叩きつける。彼は怒りを抱えたまま、青年の姿に戻った。

 青年の名は影山(かげやま)レイヤ。父親は誠実な性格と言動の政治家だった。

 しかし政治家としての責務を務めていたレイヤの父は、トウガの手によって殺された。誠実な父を無慈悲に殺したトウガに、レイヤは強い怒りを覚えた。

 レイヤがシャドーガルヴォルスに転化したのはそのときだった。

 憎き敵と同種の怪物となったことに、レイヤは最初は我慢がならなかった。しかしトウガを倒すためと思い、レイヤは受け入れることにした。

「全てはアイツを殺すためだったのに・・・オレは・・・!」

 トウガを倒すためとした力でトウガに負けたことが、レイヤは腹立たしさを感じていた。

「ヤツを倒すには、もっと力がいるということか・・だがオレはアイツとは違う・・人殺しをするつもりはない・・・!」

 強さを追い求めつつ、人としての戦いをしようとするレイヤ。

「他にもバケモノがいて、人を襲っているというなら・・そいつらも倒すべき敵だ・・・!」

 レイヤは強くなるための方法を思いついた。彼は思わず笑みを浮かべていた。

「その力をものにして、巨大な力に耐えられる体を得ることができたなら・・・!」

 1つの野心を固めたレイヤ。彼はトウガを倒すために手段を選ばなくなっていた。

 

 レイヤと交戦した場所から離れたトウガとカノン。トウガはカノンに助けられて、横たわって体を休めていた。

「トウガ、大丈夫?・・痛みとかはない・・?」

「あぁ、大丈夫だ・・おめぇが支えてくれたおかげだ・・」

 心配するカノンに、トウガが微笑んで答える。

「あのガルヴォルス、強かったね・・私たちが力を合わせていなかったら、危なかった・・・」

「今度は力を上げても耐える・・オレはムチャクチャなことには絶対に屈したりしない・・・!」

 安心を口にするカノンと、意思を強めるトウガ。

「ゴミクズどもは1人残らず叩きつぶす・・そうしねぇと世の中はムチャクチャなままだ・・・!」

「トウガ・・・」

 敵への憎悪を噛みしめるトウガに、カノンが困惑を覚える。

「あの人、トウガを目の仇にしていたみたいだけど・・もしかして、私たちが殺した人たちの知り合いじゃ・・・!?

「オレはゴミクズを叩き潰しているだけだ・・ゴミクズに味方するヤツもまたゴミクズだ・・ゴミクズの身勝手を、みんな分からないといけねぇんだよ・・・!」

 レイヤのことを考えて不安を浮かべるカノンだが、トウガは彼も悪いと考えていた。

「明らかに悪いのに、自分たちが正しいと言い張って、真実をねじ曲げようともする・・それがオレをムチャクチャにした・・関係ないなんて、誰にも言わせはしねぇ・・・!」

「うん・・私も、そんな理不尽に苦しめられたし、そこからトウガに救われたのも確か・・」

 怒りを思い返すトウガに、カノンが様々な思いを傾けて頷く。彼女はトウガを否定することはできなかった。

「それで、これからどうするの、トウガ・・?」

「アイツはまた出てきたときに、今度こそ叩きつぶす・・あの様子だと、また向こうからオレたちのところに来るだろうから・・」

 カノンの問いかけに、トウガが真剣な面持ちで答える。

「隠れてたり逃げたりしているゴミクズどもを、引きずり出して叩きつぶす・・オレのやることは、まだまだ終わらねぇ・・・!」

「トウガ・・うん。それがトウガだよね・・トウガは誰よりも、幸せを願っている心優しい人だから・・・」

 敵を倒す意思をさらに強固にするトウガに、カノンが小さく頷いた。

「でも今は休もう・・さっきといいこの前といい、力を使いすぎているから・・・」

「あぁ・・そうだな・・・」

 カノンに心配の声をかけられて、トウガはつかの間の休息を取ることにした。

(トウガ、あなたが世の中を正しくしてくれると、私は信じている・・だから私は、あなたについてきた・・そして、これからも・・・)

 眠りについてトウガに想いを向けるカノン。

(その私を大切だと思ってくれて・・私を受け入れてくれて・・とても嬉しかった・・・)

 大きな喜びを感じて、カノンがたまらずトウガを抱きしめていた。彼女の目からあふれた涙が、トウガの頬にこぼれ落ちた。

 

 それから一夜が過ぎて、朝を迎えた。トウガとカノンは同時に目を覚ました。

「すっかり寝入っちまったな・・オレも、おめぇも・・・」

「私も疲れちゃったみたい・・私も、無我夢中で力を使っていたし・・・」

 ため息まじりに言いかけるトウガと、苦笑いを見せるカノン。

「疲れはなくなった気がしてる・・きっと、力を使っても前よりは苦にならねぇはずだ・・」

「でもムチャしないで・・私が力を送っても、また回復できるとは限らないんだよ・・」

「ムチャに追い込んでいるのはゴミクズどもだ・・アイツらがいなければ、オレは普通に学校に行って、普通に暮らしてたはずだった・・」

「あなたの命はあなただけのものじゃない・・それを忘れないで・・・」

 自分の意志を貫くトウガに、カノンが想いを告げる。彼女がトウガに寄り添って抱きしめる。

「私、トウガに死んでほしくない・・絶対に死なないと分かっていても、この気持ちを消すことができない・・・」

「カノン・・オレも、おめぇにいなくなってほしくねぇよ・・・」

 本音を口にするカノンを、トウガも抱きしめる。

「オレたちは・・いつまでもどこまでも一緒だ・・・」

「うん・・トウガ・・・」

 トウガも正直な思いを伝えて、カノンが心から喜んだ。

 

 国外への逃亡を遂行した政治家たちは、日本に残った他の政治家たちがトウガの手にかかったことを耳にした。

「だから早く逃げろと言ったのだ・・ムダに命を散らしおって・・・!」

「愚か者どもは捨て置け。我々が生き残ることが重要なのだ。」

 政治家たちがいら立ちや毅然とした態度など、様々な様子を見せている。

「バケモノどもの暴徒化がさらに悪化している・・最悪、世界中に飛び火することになるぞ・・・!」

「だがいくらバケモノどもでも、世界の戦力全てには太刀打ちできまい!」

「必ずバケモノ打倒の手を打つことになるぞ。」

 トウガたちガルヴォルスの打倒を確信している政治家たち。

「すぐに各国代表に連絡を。徹底抗戦に出るのだ。」

「ヤツらの脅威を知れば、どこも何の手も打たないということにはならんだろう。」

 トウガたちガルヴォルスを世界規模で絶滅させることになることを、政治家たちは確信していた。

「守るべき義務を果たそうとすらせず、自分たちだけがのうのうと生き残る・・国の代表としては愚の骨頂・・」

 そこへ声がかかり、政治家たちが振り返る。彼らの前に1人の男が現れた。

「何者だ、貴様!?

「我々を愚弄するとただでは済まさんぞ!」

 政治家たちが男たちに対して声を荒げる。

「お前たちのような連中、名前を明かす価値すらない・・」

 男がため息まじりに政治家たちに言いかける。

「謝罪しろ!さもなくば公務執行妨害で逮捕するぞ!」

 政治家の1人が怒号を上げながら、男に詰め寄っていく。だが次の瞬間、その政治家の体が突然切り裂かれて、鮮血をまき散らした。

「なっ!?

 周りの政治家たちが驚愕を覚える。血をあふれさせて、切り裂かれた政治家が倒れて事切れた。

「な・・何が起こったんだ・・・!?

「まさか貴様もバケモノ・・!?

 政治家たちが驚愕を募らせて、男から後ずさりする。

「お前たちのようなヤツらに、国や世界を動かす資格も権利も力もない・・」

 男は低く告げた直後、政治家たちが全員体を切り裂かれた。

「がはぁっ!」

 鮮血をまき散らして、政治家たちは次々に倒れていった。

「やれやれ・・・こんな愚か者どもが尻尾を巻いて逃げていくほど、日本はガルヴォルスのことで苦慮しているということか・・・」

 男が振り返って1人呟いていく。彼は携帯電話を取り出して連絡を取る。

「目的の相手とは会ったのか?」

“倒し切れなかった・・だからガルヴォルスを仕留めて、力を奪うことにした・・”

 男の問いかけに電話の相手、レイヤが答える。

「そんなことをして平気なのか?力ばかりが上がって、制御できなくなる危険があるぞ。」

“そうしなければヤツを倒せない・・このままヤツを野放しにはしない・・・!”

 男の心配の声に対し、レイヤはトウガへの怒りを噛みしめる。

「オレもそっちに向かう。それまで死なないようにな・・」

“オレは死ぬつもりも、ヤツと心中するつもりもない・・必ず生き延びる・・・!”

 男が言いかけるが、レイヤは頑なな意思を示すだけだった。彼との連絡を終えて、男が肩を落とす。

「悩みの種は尽きないみたいだ・・1つ1つ早めに潰さないと、手に負えなくなる・・」

 男は呟いてから1人歩き出す。

「このオレ、神谷(かみや)ギルが片づけないといけないようだ・・」

 男、ギルが日本に向けて移動を開始した。

 

 トウガの脅威は国内に留まらず、海外の一部の国にも知れ渡っていた。

 凶暴な怪物の襲撃。いつどこで起こるか分からない恐怖に、人々は怯えずにはいられなかった。

 しかし刺激するような行為を取らなければ、怪物に襲われることはないことを、人々は徐々に察するようになっていった。

 人々は法やルール以外の脅威に縛られることになった。

「ずいぶんと落ち着いてきたみたいだね、トウガ・・」

「だけど敵がどこにもいなくなったわけじゃねぇ・・少なくても、あのガルヴォルスはまだいて、オレを狙ってる・・・」

 カノンが投げかけた声に、トウガは真剣な面持ちで答える。

「敵を滅ぼすまでは、オレの戦いは終わらねぇ・・オレがやらなくちゃ、ムチャクチャなままなんだ・・・」

「トウガ・・・」

 頑ななトウガにカノンが戸惑いを浮かべる。

 そのとき、トウガは自分たちに近づいてくる気配を感じ取り、目つきを鋭くした。

「トウガ・・あの人が、また・・・!」

 カノンが声をかけて、トウガが頷く。彼は動くことなく、この場で迎え撃とうとする。

「オレは後ろめたいことは何もしていねぇ・・だからもう、小細工をする必要はねぇ・・」

「それで、関係ない人を巻き込むのは・・関係ないといっても、敵の思うつぼになるかもしれない・・・」

 真っ向から戦いを仕掛けようとするトウガに、カノンが呼びかける。

「これでオレを悪いと決めつけるのも、またオレを敵に回すことだ・・どこまでもオレたちを陥れるゴミクズ・・許せねぇ・・!」

 それでもトウガは揺るがない意思を示す。カノンは困惑を抱えながらも、レイヤを迎え撃つことを心に決めた。

 そしてトウガたちの前に、シャドーガルヴォルスとなったレイヤが現れた。ところが彼のガルヴォルスの姿は前よりも変化が生じていた。

「あなた、その姿・・・!?

 カノンがレイヤの姿を見て驚愕を覚える。

「バ、バケモノ!?

「殺される!早く逃げろ!」

 周りにいたシャドーガルヴォルスとなっているレイヤを見て、人々が悲鳴を上げて慌てて逃げ出していく。

「今度こそ仇を討つ・・そのためにオレは強さを極めてきた・・・!」

 レイヤが低い声音でトウガに言いかける。彼が体に力を込めて、高めた強さを発揮する。

「罪を重ねたガルヴォルスを数人仕留めて、オレの中に取り込んだ・・そうすることでオレは強さを得た・・・!」

 レイヤが鋭く言いかけて、自分が見つめる右手を握ってみせる。

「お前を倒すためなら・・オレはもう手段を選ばない!」

 レイヤが怒鳴り声を上げて、トウガに向かって飛びかかる。トウガもビーストガルヴォルスとなって、レイヤを迎え撃つ。

 トウガとレイヤが同時に拳を繰り出してぶつけ合う。するとトウガが力負けして突き飛ばされる。

「トウガ!」

 大きく横転したトウガに、カノンが叫ぶ。彼に駆け寄ろうとした彼女だが、レイヤに鋭く睨まれて思わず足を止めた。

「お前もヤツに味方する敵・・ヤツを仕留めた後はお前の息の根を止める・・・!」

 レイヤに言われて、カノンはヘビに睨まれたカエルのように動けなくなってしまう。トウガが立ち上がり、レイヤを睨みつける。

「冗談じゃねぇ・・おめぇのようなゴミクズに、やられるわけにいくか!」

 憤りを募らせるトウガから電撃がほとばしる。彼も力を強めて、レイヤに向かっていく。

 トウガとレイヤが再び拳をぶつけ合う。今度はトウガはレイヤに押されず、力は拮抗する。

 トウガが連続で拳を繰り出して、レイヤの体に叩き込んでいく。ダメージを受けるレイヤだが、すぐに踏みとどまる。

「オレはお前を倒す・・お前のせいで、どれだけの人が殺されたと思っている!?

「ゴミクズは人じゃねぇ!ヤツらを仕留めることに間違いはない!」

 憎悪を向けるレイヤに、トウガが怒号を放つ。

「人がゴミクズなわけがあるか!ゴミクズなのは、人殺しをして正しいと言い張るお前のようなヤツだ!」

「自分のことを棚に上げて、オレを悪者に仕立てて!」

 互いに怒りをぶつけ合い、怒りを逆撫でするレイヤとトウガ。2人が再び激しく拳をぶつけ合う。

「滅ぼす!オレはおめぇらゴミクズを全部叩きつぶす!」

「お前はどこまでもオレたちを!」

 トウガとレイヤが怒号を放って、さらに拳をぶつけ合う。受けるダメージも相まって、2人の体に負担がのしかかる。

(前よりは体が慣れて負担が少なくなったけど、それでもお互いの力にほとんど差がないのは同じ・・しかも2人とも力を増しているから、ダメージは大きくなっている・・・!)

 カノンがトウガの消耗を痛感して、不安を募らせる。

(でもトウガなら乗り越える・・トウガは誰よりも、世の中の正しい形を望んでいるから・・・)

 トウガへの信頼を募らせて、カノンが意識を傾ける。この思いが彼女の力をトウガに届けることになった。

(カノンの力が、オレの中に流れ込んでくる・・また、アイツがオレを支えてくれてる・・・!)

 トウガがカノンの力と想いを感じ取っていく。

(余計に負けられねぇって感じになってくるな・・ホントにカノンは、オレの支えだ・・・!)

 感情を高ぶらせたトウガが力をさらに強める。彼が徐々にレイヤを押していく。

「お前が何をしようと、オレは死なない!お前は必ず倒す!」

 レイヤが負けじと力を込めるが、トウガを押し返せない。

「オレはおめぇらを滅ぼすまでは、絶対に倒れねぇ!」

 トウガが怒号とともに力を解き放つ。彼の拳がレイヤを押し込んで突き飛ばした。

「がはっ!」

 レイヤが壁を突き破って、さらに奥に飛ばされる。彼が消えたほうに目を向けたまま、トウガが呼吸を整える。

「トウガ・・大丈夫・・・!?

 カノンが声をかけるが、トウガは答えずに落ち着きを取り戻す。

「あの人、またいなくなったみたい・・気配が離れていく・・・!」

 レイヤが遠ざかっていくのをカノンは感じ取っていた。

「くっ・・また仕留め損なったか・・・今度こそ・・今度こそアイツを・・・!」

 レイヤを倒せなかった歯がゆさを噛みしめるトウガ。体力の消耗はあったが、力の強化による負担は和らいでいた。

(それにしても、あの人・・まだそんなに時間がたっていないのに、力を付けてきた・・・)

 カノンがレイヤの異常な成長に疑問と不安を感じていた。

(本当に、他のガルヴォルスを取り込んで、一気に力を付けてきたっていうの・・・!?

 彼女はこれからとんでもないことが起こると予感していた。

「トウガ・・私たちもここを離れよう・・ここにいても、どうにもならない・・・」

「あぁ・・そうだな・・・」

 カノンが投げかけた言葉に、トウガが頷く。2人も体勢の立て直しと休息のため、1度この場を後にした。

 

 

 

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