ガルヴォルス

-Phantom Heart-

第3章

 

 

 カノンを連れて行動することになったトウガ。彼は彼女が人質にとられても、敵の言いなりになろうとは全く思っていなかった。

 しかしトウガの心の奥に、カノンを守ろうとする思いが芽生えていた。

(オレの敵はまだまだいる・・オレの周りだけでも・・大人も警察も、オレを地獄に叩き落としたゴミクズと化してしまったんだからな・・)

 トウガが心の中で敵意を募らせていく。

(オレを助けることができるのは、オレ自身・・・いや、今はカノンも・・・)

 考えを巡らせるトウガが、カノンに目を向けた。

(甘えるつもりはねぇが、頼りにさせてもらう・・・)

 失っていた信頼というものを実感できていると、トウガは思っていた。

「ところでトウガ、次はどこに行くつもりなの・・・?」

 カノンが唐突にトウガに問いかけてきた。

「さぁな・・敵を見つけては倒していくだけだ・・」

 トウガはやり方や考えを変えることなく、このまま敵を引きずり出して倒すやり方を続けようとする。

「続けていれば、きっと向こうから出てくる・・・」

「あぁ・・オレを思い通りにしようとしてくるなら、何らかの手を必ず打ってくる・・そこを叩いてやればいい・・」

 カノンが呟くように言うと、トウガが敵に対する敵意を募らせる。

(まずはあのサメのガルヴォルス・・必ずオレが息の根を止めてやる・・・!)

 トウガは敵意の矛先をリュウガに向けていた。彼がトウガにとって今、最も明確になっている敵だった。

 

 トウガの処罰のため、政治家たちは裏社会で暗躍する組織との接触を図った。

「みなさんもご存知の人物だ。ヤツを仕留めてほしい。報酬や見返りは弾む。」

 政治家が組織のメンバーである黒ずくめの男たちに、トウガを写した写真を差し出した。

「これだけ見てると、何の変哲もない小僧なんだけどな・・」

「それがバケモノになって、見境のない殺人鬼になるんだからな・・」

 男たちがトウガを見て眉をひそめる。

「オレたちに頼んでくるということは、自衛隊とかに頼んで表沙汰にできねぇってこったろ?」

 もう1人の男が出てきて、写真のトウガに目を向ける。

「ボ、ボス!」

 男たちがボスと呼ばれた男、藤堂(とうどう)テツヤに一礼する。

「オレたちが今まで戦ってきたヤツらとは圧倒的に違うようだ・・徹底的にやる必要があるな・・」

 トウガ打倒の作戦を模索して、テツヤが不敵な笑みを浮かべる。

「だが打つ手はある。ヤツをあそこにおびき寄せることができれば・・」

「あそこならどんなバケモノでも、1度入ったら外には出られないスからね。」

 テツヤの言葉を聞いて、男たちが笑みを浮かべた。

「あそこは危険なので、我々は踏み入らないことにする。なので後のことは一任する。」

「片付き次第、そっちに連絡する。高みの見物をしながら、吉報を待ってろ。」

 政治家とテツヤが笑みを見せ合って、結託を交わした。政治家はきびすを返して、テツヤたちから去っていった。

「いいんスか、アイツら政治家連中に好き勝手させといて・・」

 男の1人がテツヤに疑問を投げかけてきた。

「利用できるものはとことん利用して、都合が悪くなれば切り捨てればいいだけのことだ。それに、これ以上ないビジネス相手だしな。」

「国のお偉いさんも、オレらのカモってわけッスか。」

 テツヤの言葉を聞いて、男たちが笑みをこぼした。

「さて、早速ヤツをおびき出すぞ。ヤツはもちろん、他のヤツにも見つかるなよ。」

「はっ!」

 テツヤの呼びかけに男たちが答えて、行動を開始した。

 

 リュウガを追って行動しているトウガ。カノンも彼のそばをついていく。

 その歩行の最中、カノンは誰かからの視線を感じて緊張を覚える。

「ト、トウガ・・・」

 カノンが声をかけて、トウガが彼女に耳を傾ける。

「誰かに見られている・・誰かが付けてきている・・・」

「オレを思い通りにしようとして姑息なマネを・・何を仕掛けてきても、オレはそのゴミクズ連中を必ず叩き出して潰す・・それだけだ・・・」

 カノンの言葉を耳にしながらも、トウガは何の手も打たずに再び歩き出す。遅かれ早かれ、自分を狙ってくる者を引きずり出して倒すことを、トウガは確信していた。

「トウガ・・・」

 トウガに困惑を感じながらも、カノンはこのまま彼に続いた。

 

 トウガとカノンを監視していたのは、テツヤの組織の黒ずくめの男たちだった。

「目標、西南西に向かって移動中。他に1人、娘が同行しています。」

「娘も目標に入れますか?」

 男たちがテツヤに連絡を入れる。

“何かつながりがあると見ていいだろう。娘も目標に含む。”

「了解。」

 テツヤの指示を受けて、男たちが答えて監視を続けた。

「まさかヤツがわざわざオレらの罠に向かってくれてるとはな。偶然だろうけど。」

「だが問題はここからだ。近くまで来たら、ヤツをあそこに入り込ませるよう、オレらが注意を引き付ける。そこからが命懸けだ・・」

 男たちが笑みをこぼしたり、注意を促したりする。

「相手はバケモノだ・・殺される危険大だ・・」

「臆病風に吹かれたんなら、今から逃げ出しな。これがオレらの仕事だぜ。」

 彼らは会話をしてから、トウガとカノンの監視を続けた。2人に気付かれていることを気にせずに。

 

 そしてテツヤたちの指定した場所に、トウガとカノンは近づいてきた。まだ男たちの監視は続いていた。

「よし。そろそろ行動を起こすぞ。C班とD班は目標の前に回り込め。」

“了解。行動を開始します。”

 男たちはトウガとカノンが離れていかないように、包囲網を敷きに出た。

 歩いていくトウガとカノンは、追跡者の動向に気付いていた。

「ここまで付けられると、いい気がしねぇな・・・」

 いら立ちを感じるようになっていたトウガが、殺気を募らせていく。彼の殺気を間近で感じて、カノンが緊張を覚える。

 トウガの放つ殺気は尋常でない威圧感をもたらした。裏社会の空気を吸い続けてきた男たちも、彼の殺気に平静を保つこともままならない。

 耐えられなくなった男たちの数人が、物陰から飛び出してしまう。

「あなたたちは・・・」

 倒れた男たちを見て、カノンが声を上げる。

「し、しまった・・!」

 トウガたちに見つかってしまい、男たちが慌てて後ずさる。

「おめぇら・・オレに何か用か・・・!?

 トウガが男に問い詰めて、歩を進める。男たちが慌てて逃げ出そうとすると、トウガがビーストガルヴォルスとなって回り込んだ。

「勝手に逃げるな・・ゴミクズのやり方なのか・・・!?

「く、来るな!死にたくねぇ!」

 鋭く睨みつけてくるトウガに、男たちが畏怖を感じて後ずさりする。

「オレに殺されたくなかったら、最初からオレを付け回すようなことをしなければよかったのに・・・!」

 トウガがさらにいら立ちを募らせて男の1人を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされた男が壁に叩きつけられて、血をあふれさせて倒れた。

「オレが囮になる!お前たちはあの場所へ向かえ!」

「隊長!」

 隊長がトウガに向かって飛び出して、男たちが声を上げる。

「もう行くしかねぇ!アイツの相手してたら、命がいくつあっても足りゃしねぇ!」

 男たちが慌てて逃げ出していく。カノンも異形の姿、エンジェルガルヴォルスとなってかまいたちを放って男たちを切りつけていくが、残った数人に逃げられる。

「どいつもこいつも、ふざけたマネを・・!」

「貴様の相手はこのオレだ!」

 憤りを募らせるトウガに、隊長がナイフと拳銃を持って飛びかかってきた。しかしトウガの体には弾丸もナイフも傷を付けられない。

「マジで、バケモノってことかよ、貴様・・・!」

 トウガの驚異の身体能力に愕然となる隊長。

「おめぇらゴミクズどもの思い通りにはならねぇよ・・・!」

 トウガが鋭く言って、隊長の体に拳を叩き込んだ。全身の骨を砕かれて、隊長は瞬く間に昏倒した。

「見つけといて、このまま逃がすわけにいくか・・1人残らず叩きつぶす・・・!」

 トウガは逃げた男たちを追って歩き出す。カノンも小さく頷いてから、トウガを追いかけた。

 

 男たちがトウガたちと交戦になったことを、テツヤは耳にした。

「よし、オレも行く。お前らはこのままアイツから逃げ切れ。」

“は、はい!”

 テツヤの指示に男たちが答えた。

「侮ってはならないと肝に銘じていたが、まだ侮りがあったか・・・ここは任せたぞ。」

「はい!」

 気を引き締めなおしてから、テツヤもトウガたちのところへ向かった。

 

 男たちを追って、トウガとカノンは地下通路に足を踏み入れた。2人は男たちの行方を探り、感覚を研ぎ澄ませる。

(どこだ・・どこに隠れてる・・・!?

 憎悪を募らせながら視線を移していくトウガ。広く柱の多い地下通路は、駆けてきた彼らの足音も響いていた。

(この場所に隠れている気配はない・・離れたところに隠れている・・・!?

 カノンが男たちの居場所に疑念を感じていく。

(もしかして私たち、罠にはまった・・・!?

 一抹の不安が脳裏をよぎり、カノンが緊張を膨らませる。

 そのとき、トウガたちが降りてきた階段と出入口が突然爆発に起こした。

「あの人たち・・ここに閉じ込めて、私たちをどうかするつもりなの・・・!?

「アイツら・・どこまでも姑息なマネを・・・!」

 目を見開くカノンと、男たちへの憎悪を募らせて両手を強く握るトウガ。

「このまま閉じ込めるか、この後に何か仕掛けるか知らねぇが・・オレはおめぇらの思い通りにはならねぇ!」

 トウガが怒りを込めて、床を強く踏みつける。しかし床にも壁にも外への穴はつながらない。

「出てこい!オレをどこまで追い込めば気が済む!?

 トウガがさらに憤りを膨らませて、全身に力を込める。一方、カノンは落ち着きを取り戻して、感覚を研ぎ澄まして周辺の状況を探る。

(あの方向の壁が他よりも若干薄い・・1番廊下に近い可能性がある・・そこを集中して壊せば・・・)

 思い立ったカノンがその壁に意識を傾ける。彼女の思念を受けた壁が一瞬にして切り刻まれて穴が開いた。

「カノン・・・!」

「あそこから出られるようになったよ・・外へ行こう・・・!」

 戸惑いを覚えるトウガに、カノンが微笑んで言いかける。2人は開いた穴から外へ飛び出した。

 次の瞬間、トウガたちがいた場所で次々に爆発が起こった。2人を閉じ込めて爆破しようという企みが成されていた。

「危ない!トウガ、逃げて!」

 カノンが叫んで、トウガを抱えて廊下を突き進む。爆発は廊下にも一気に飛び火した。

 

 地下通路がテツヤたちが仕掛けた罠だった。彼らはトウガたちを通路に閉じ込めて、爆発に巻き込んで葬ろうとした。

「これで生きてたらバケモノを通り越して死神だな・・」

「生きていても外へは出られない。出入口はその前に塞いだのだからな。」

 男が勝利を喜び、テツヤも不敵な笑みを浮かべた。

「できるだけ中の様子を確認しておく。後始末はそれからだ。」

「分かりました!」

 テツヤが指示を出して男たちが答える。彼らがモニターで地下通路の様子をうかがう。

 爆発の影響と土煙の霧散で、地下通路の視界はさえぎられていた。

「これじゃ人1人見つけるだけでもひと苦労だぜ・・」

「せめてアイツらの死体を拝まねぇとスッキリできねぇ・・」

 男たちが愚痴をこぼしながら、目を凝らしてトウガとカノンの行方を探る。まだ土煙が地下通路に充満して、中をうかがうことがままならない。

「念のためにもう1発かましてみるか!吹っ飛ばすに越したことはねぇ!」

「だがさらに後始末が難しくなるぞ・・」

「息の根止めてねぇのにのこのこ出ていって殺されたんじゃ、みっともなさすぎるだろうが・・!」

 男たちがいきり立ち、再び地下通路の爆破を行おうとした。だが彼らが爆破のスイッチを押す前に爆発が起こった。地下通路ではなく、彼らのいる管制室の扉が。

「な、何だっ!?

 振り返る男たちの前に現れたのは、トウガとカノンだった。

「な、何だと!?

「爆発から逃れただけでなく、ここを突き止めただと!?

 男たちがトウガたちに居場所を突き止められたことに、驚愕を隠せなくなる。

「出られる可能性が1番高い壁を破って外に出たの・・それからあなたたちの居場所をつかめるようになった・・」

 カノンが男たちに状況を説明する。

「まさか、ここまでオレたちに探りを入れられるとは・・・!」

 男たちが絶望を感じて、何とか逃げ出そうと思考を巡らせる。

「どいつもこいつも、オレを思い通りにしようとして・・・!」

 トウガが男たちに怒りを募らせて、両手を強く握りしめる。

「オレはおめぇらゴミクズの思い通りには絶対にならねぇ!全員叩きつぶす!」

 トウガが飛びかかると、男たちが慌てて逃げ出す。トウガの拳を受けて、男の数人が息の根を止められていく。

「何でだよ・・何でこうなるんだよー!」

 男たちが鬼気迫るトウガに絶望を感じて、死に物狂いに逃げ出そうとする。が、トウガにすぐに追いつかれて殴り殺されていく。

「オレは許しはしねぇ・・おめぇらゴミクズのやること全部・・この世界に存在すること自体も!」

 トウガが他の男に向けて拳を繰り出そうとした。

「そこまでだ、小僧!」

 そのとき、テツヤが現れてトウガたちと男たちを呼び止めてきた。

「ボ、ボス・・!」

「やはりオレが直接相手をしないといけないようだな・・・!」

 男たちが声を上げて、テツヤがトウガに鋭い視線を向ける。

「オレの手下どもに好き勝手やってくれたな。ここからはオレが相手になってやるぞ・・!」

「ふざけるな!好き勝手なのはおめぇらのほうじゃねぇかよ!」

 言いかけるテツヤにもトウガが怒号を放つ。

「できることなら秘密にしておきたかったが・・・!」

 意識を集中するテツヤの頬に、異様な紋様が浮かび上がった。

「あの人も、まさか・・・!?

 カノンが緊張を覚える中、テツヤの姿が異形の怪物へと変貌した。

「ボ、ボス!?・・ボスもまさか・・!?

 男たちがテツヤを見て驚愕を隠せなくなる。

「すまんな、お前ら・・だがオレでも人として生きられるってことは忘れないでくれよな・・」

 テツヤが男たちに謝罪すると、トウガの前に立ちはだかる。

「ボス・・ボス!」

 男たちがテツヤに対する敬意を示す。彼らのテツヤへの信頼は揺らいではいなかった。

「お前らは早く行け!ここにいたら死んじまうぞ!」

「ボ、ボス・・申し訳ありません!」

 テツヤからの呼びかけを受けて、男たちがこの場から離れていく。

「逃げるな!」

 トウガが男たちを追おうとするが、テツヤが行く手を阻む。

「オレが相手だって言っただろうが!」

「そんなにオレを怒らせて、オレに叩き潰されたいのかよ!」

 互いに怒号を言い放つテツヤとトウガ。2人が同時に拳を繰り出して、激しくぶつけ合う。

 トウガとテツヤの力は互角。だがテツヤのほうが防御力、耐久力は上だった。

「オレは押されん!簡単にここを通してなるものか!」

「おめぇもそこまで、自分を押し付けたいのかよ!」

 踏みとどまるテツヤに、トウガが怒りを募らせる。

「おめぇらは1人残らずブッ飛ばす・・ゴミクズはオレが必ず滅ぼす!」

「ブッ飛ばすと言われて、おとなしくブッ飛ばされるヤツはいないよな!」

 憎悪をむき出しにするトウガに、テツヤが皮肉を口にする。2人が繰り出す拳が立て続けにぶつかって、周囲にも衝撃を巻き起こす。

(力は互角・・タフさが上のオレは、ヤツより耐えられる・・・!)

 トウガの力量を分析して、テツヤは持久戦に持ち込もうとした。彼はこの戦いの勝機を見出した。

 そのとき、テツヤの体に突然切り傷が付けられた。

「何っ!?

 思わぬ事態にテツヤが驚愕する。彼はこの現象がトウガの仕業でないことを直感した。

「まさか娘、お前の仕業か・・!」

 テツヤがカノンに目を向ける。カノンが力を解き放ち、かまいたちを出してテツヤを切りつけた。

「これは試合じゃない・・敵を倒す戦い・・正々堂々にやる必要は全くない・・・」

「確かにな・・戦いでは卑怯も咎められない・・・!」

 カノンが低い声音で言うと、テツヤが笑みをこぼして皮肉を口にする。

「お前も相手にしないといけない分、不利なのはオレのほうか・・だがそれでおとなしくやられるつもりはない・・!」

 テツヤは傷ついた体に鞭を入れて、力を振り絞って構えを取る。

「おとなしく引き下がれば、まだ生き残れる可能性があったのに・・・」

「逃げようとしても、オレは追いついて必ず叩きつぶす・・・!」

 彼に対して、カノンが歯がゆさを噛みしめて、トウガが憎悪を募らせる。

「敵に尻尾を巻いて逃げたり言いなりになるぐらいなら死んだほうがマシ・・お前らもその口のようだしな!」

「ゴミクズのくせにオレのことを勝手に決めるな!」

 言い放つテツヤに怒鳴りかかり、トウガも飛びかかる。2人が再び拳をぶつけ合う。

 耐久力が上のテツヤだが、カノンのかまいたちから受けたダメージで、トウガとの戦いにも劣勢を強いられていた。

「オレは倒れん・・オレが倒れれば、オレの部下どもも死ぬことになる!」

「ゴミクズは同じゴミクズを守ろうとする!自分たちがよければそれでいい!そんな連中がいるから、世界はムチャクチャのままなんだよ!」

 部下を思うテツヤの言葉が、トウガの怒りを逆撫でしていく。

「そうやって敵を全部叩きつぶした後、お前らはどうするつもりだ!?

「それだけだ!ゴミクズがみんないなくなれば、世界の乱れはなくなる!」

「敵がいなくなればそれでいい、か・・力があるが志は小さいな・・」

 怒号をぶつけてくるトウガを、テツヤが嘲笑する。

「お前が倒した敵にも家族や仲間がいる・・そいつらがお前らに復讐するかもしれないぞ・・」

「ゴミクズは叩きつぶされなくちゃならない!それが悪いというヤツもまたゴミクズだ!」

 テツヤが投げかける言葉を、トウガが怒号ではねつける。

「あくまで敵を皆殺しか・・救いようがないな!」

 目を見開いたテツヤが右腕に力を集中させる。

「救いようがないのはおめぇらのほうだろうが!」

 トウガがさらに怒りを叫んで、テツヤに拳を振るう。テツヤも拳を突き出して、ぶつけ合って衝撃を巻き起こす。

(オレは滅ぼす・・間違いを正しいことにして、全く悪いと思わないゴミクズどもを!)

 トウガの敵への憎悪が頂点に達した。彼の体から青白い電撃が発した。

「これは・・!?

 トウガの変化にテツヤが目を見開く。電撃が強まると同時に、トウガの力も徐々に上がっていく。

(まさか、戦いの中で力を付けたというのか・・!?

 高まっていくトウガの力に、テツヤが脅威を覚える。互角だった2人の拳だが、テツヤがトウガに押され始める。

「オレはおめぇらを、絶対に許しはしない!」

 殺気を研ぎ澄ましたトウガが、テツヤの拳を押し切った。

「ぐあっ!」

 テツヤが壁に叩きつけられて、衝撃に襲われて吐血する。うなだれる彼にトウガが近づいていく。

「これで終わりだ・・ゴミクズは、1人も逃がさない・・おめぇも、アイツらも・・他のヤツも・・・!」

 トウガが爪をとがらせて、テツヤの体に突き立てた。体を貫かれて、テツヤが激痛に襲われて吐血する。

「お前より長生きしているオレから忠告してやる・・お前に待っているのは、破滅の末路しかない・・・!」

 声を振り絞るテツヤから、トウガは爪を引き抜いた。テツヤの体から鮮血があふれ出す。

「オレのことを勝手に決めるなと言っているだろうが・・・!」

 トウガは鋭く言うと、テツヤを強く蹴り飛ばした。壁を突き破って外に投げ出されたテツヤが息絶えて、肉体が崩壊を起こした。

「自分の仲間を逃がすために、自分を犠牲にして・・・」

 カノンがトウガの姿と最期を見て、辛さを感じていく。

「ゴミクズは自分たちがよければそれでいい・・そうじゃないというなら、ゴミクズを倒す側に回るはずなのに・・・!」

 トウガは敵への憎悪から、テツヤたちに情を全く抱いていない。

「他のヤツを追う・・1人も逃がさねぇ・・・!」

 トウガは怒りを抱えたまま、男たちを追って歩き出す。

「トウガ・・・」

 カノンは困惑を抱えたまま、トウガに続いて部屋を出た。

 

 テツヤに助けられて、トウガたちから逃げ切ることができた。彼らはテツヤの身を案じて深刻さを募らせていた。

「ボス、大丈夫か!?・・いつもたくましく強かったボスだけど・・・!」

「ボスがやられるものか!バケモノの姿になったのにはビックリしちまったが、ボスが強いっていうのはもっと信じられるようになった!」

「そのボスを超えたなら、バケモノの中のバケモノってもんだ!」

 テツヤへの信頼を抱く男たち。

「ボスのためにも、ここは撤退して体勢を立て直そうぜ・・!」

「そうだな・・そこでボスからの連絡を待つしか・・・!」

 男たちが意見を交わして、1度引き上げようとした。

 そのとき、男たちは殺気を感じて緊迫を覚える。彼らにトウガとカノンが追いついてきた。

「お、おめぇは!?

「ボスは!?ボスはどうした!?

 男たちがトウガたちに問い詰める。トウガは目つきを鋭くしたまま、男たちに向かって近づく。

「逃がさない・・おめぇらもオレが叩きつぶす!」

 トウガが憎悪を口にして、両手を強く握りしめる。

「来るな!これ以上来るな!」

 男たちが拳銃を手にして、トウガたちに向けて発砲する。しかしガルヴォルスとなっているトウガたちに弾丸は通じない。

「おめぇらをオレは許さねぇ・・オレは絶対に死なねぇよ!」

 トウガが怒号を放って、男たちに飛びかかる。彼が振りかざした拳が、男たちを次々に殴り飛ばしていく。

「助けて・・死にたくない・・死にたくねぇよ!」

 男たちが絶望して、ひたすら助けを請う。しかしトウガは彼らをわずかも許しはしない。

「オレを殺そうとしたゴミクズのくせに・・・!」

 トウガが怒りのままに男たちの息の根を止めていく。彼の手にかかり、男たちは逃げ切れずに全滅した。

 トウガはひと息ついて、カノンとともにガルヴォルスから人の姿に戻った。

「これでここの連中は叩きつぶした・・だけどゴミクズはまだまだいる・・・!」

 トウガの憎悪はまだ治まってはいない。

「それにまだ、アイツがいる・・必ず見つけ出して、この手で叩き潰す・・・!」

「それがトウガの目指す平和につながるんだね・・あなたが作ろうとしていく平和に、私は救われた1人なんだね・・・」

 揺るがない意思を口にするトウガに、カノンは思いを口にする。

「オレはお前を救ったつもりはねぇが・・・」

「それでも、私はあなたに恩を感じている・・本当にありがとう、トウガ・・・」

 憮然とした態度を見せるトウガに、カノンが感謝を投げかける。

(ホント・・感謝してるのはオレのほうだっての・・おめぇがいなかったら、どっかでぶっ倒れてたかもな・・・)

 トウガが心の中でカノンへの感謝を呟く。

(カノン、お前は今のオレの心の支えだ・・)

 カノンが自分の希望になっていると、トウガは思っていた。

 

 テツヤたちの組織がトウガたちに滅ぼされたことに、政治家たちは驚愕を隠せなかった。

「バカな!?ヤツらが全滅だと!?

「アイツらまで皆殺しにするとは・・もしかしてバケモノども、ヤツらから我々のことを聞き出して・・!?

「それはまずい!ヤツらが乗り込んでくる前に、ここから逃げ出さねば!」

 トウガたちが襲撃することを恐れて、政治家たちが声を荒げる。

「我々がいなければ、日本の安泰はありえん!すぐに次の対策を立てなくては!」

「必ずバケモノどもを始末する!そのためならもはや手段は選ばん!」

 政治家たちは意見を合わせて、トウガたちから逃走することにした。

「お前たちは周辺を警戒しろ!崎山トウガを我々に近づけるな!」

「はいっ!」

 政治家たちの指示を受けて、ボディガードや警備員たちが答えた。

(崎山トウガ、このままには絶対にしておかんぞ!必ず我々の存在を思い知らせる!)

 政治家たちのトウガに対する怒りは膨らむ一方だった。

 

 夜の闇の中、1つの影が蠢く。影が震えながら怒りの声を呟いていた。

「アイツ・・アイツのせいで、オレは何もかも失った・・・!」

 影が心の中にある憎悪を募らせていく。

「アイツの息の根は必ず止める・・だがそれだけではオレの怒りは治まらない・・・!」

 影は単なる復讐だけでは治まらないことを自覚していた。

「絶望させてやる・・生き地獄にふさわしい絶望を味わわせてから、本当の地獄に叩き落とす・・そこまでやらなければ、ヤツにふさわしくない・・・!」

 策を練り上げた影が行動を起こす。

「待っていろ・・必ずこの手でヤツを・・・!」

 憎悪をさらに募らせて、影は闇の中に消えた。新たな復讐劇が始まろうとしていた。

 

 

 

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