ガルヴォルス
-Phantom Heart-
第1章
人でいることが正しいことなのだろうか?
人を守ることが正義なのだろうか?
人の心を持つ怪物と、人の心を失った人。
どちらの思いと行動を、尊ぶべきだろうか?
異形の怪物、ガルヴォルス。普段は人の姿をしていて、普通の人が見分けることはまずできない。
そのガルヴォルスへと転化して、自分の敵を討ち滅ぼそうとする1人の青年がいた。
賑やかさであふれるとある高校。その中で1人、孤独な行動をとっている男子がいた。
男子の名は崎山トウガ。寡黙で1人でいることを好んで、人と関わろうとしない。
刺激をしなければトウガは他人に対して何もしてこない。刺激しなければ。
「ねぇ、今度の日曜日、一緒に買い物に行こうよ♪」
教室にて女子、リコが他の女子たちを買い物に誘っていた。
「今度の休みは確か用事なかったよね?買い物付き合ってよ〜♪」
「でも今度は他の人と約束が・・」
リコからの誘いに対して女子、マキが断ろうとする。
「いいじゃない♪今度の休みの日じゃないと、お目当てのものが出てこないんだよ〜♪」
「でも、だからって・・」
リコがさらに誘ってきて、女子が困った顔を見せる。するとリコが女子のそばの壁に強く手を付けてきた。
「グダグダ言ってないで、おとなしく“はい”って言えばいいんだよ・・・!」
リコが女子に鋭い視線を向ける。女子が彼女に脅されて、恐怖で震える。
そのとき、リコが突然強く殴り飛ばされて、教室の壁に叩きつけられた。この瞬間に周りにいた生徒たちが悲鳴を上げる。
リコを殴り飛ばしたのはトウガだった。周りにいた生徒たちは、リコがトウガを刺激してしまったと考えていた。
「自分の言う通りにしろ、でなきゃただじゃおかない・・そういう思い上がりを見聞きさせられると、腹が立つんだよ・・・!」
トウガがリコを睨みつけて、鋭く言いかける。殴られた顔を手で押さえて、リコが怒りをあらわにする。
「アンタには関係ないじゃない!それなのにこんなことして、どうなるか分かってんの!?」
リコが怒号を放つと、トウガがそばの机を蹴り飛ばす。
「分かっていないのはテメェだ・・腹が立つって言ってるんだよ・・オレがイラついてるのに知ったことじゃねぇような考えしやがって・・!」
トウガが怒りを募らせて、リコに詰め寄る。
「他のヤツがどう思うのかを、ちょっとは考えられないのかよ!」
トウガがその怒りに任せて、リコを殴りつける。
「い、痛い!助けて!助けてよ!」
痛めつけられるリコが悲鳴を上げて、助けを求める。しかし彼女のこの言葉が、トウガの怒りをさらに逆撫でする。
「そうやって助けを求めるヤツを、お前は助けてやったことがあるのか?何の脅しもかけずにだ・・・」
「た、助けたよ!向こうがこっちの言うことを聞いたなら・・!」
トウガが投げかける問いに、リコが笑みを浮かべて答えようとした。だが次の瞬間、リコがトウガが振り上げた足に蹴り飛ばされた。
「そういうのは助けたことにならないんだよ!」
トウガがさらに怒りを膨らませて、リコに殴り掛かろうとした。
「崎山!」
そのとき、担任の石田タクマがやってきて、トウガを止めに入った。
「崎山、何をやっている!?やめろ!」
「おい、邪魔するな!悪いのはコイツだ!」
トウガをつかんで押さえるタクマだが、トウガは止まろうとしない。
「暴力を振るうことも悪いことだ!」
タクマがトウガをリコから引き離して、その勢いで放り投げて床に倒す。
「早く保健室へ連れていって、手当てを!」
「は、はいっ!」
タクマが呼びかけて、生徒たちが気絶しているリコを保健室に連れていく。
「おい!そいつは悪いヤツだぞ!自分を悪いと思ってないヤツだ!そいつを助けるということは、自分も悪者になるってことだぞ!」
「いい加減にしろ、崎山!」
リコを追おうとするトウガにタクマが怒鳴る。彼や他の生徒たちに押さえられて、トウガはリコを追えなかった。
リコに暴力を働いたトウガは生徒指導室に連れ込まれた。彼は何度も指導室に連れ込まれたことがあり、タクマたち教師も滅入っていた。
「お前というヤツは・・ことあるごとに暴力や問題を起こしてたら、謹慎ばかりじゃ済まされなくなるぞ・・」
忠告を投げかけるタクマに対し、トウガが不満を抑えられない様子を見せていた。
「いい加減おとなしく、自重することを覚えろ、崎山。このままだと停学、退学・・最悪、逮捕になりかねないぞ・・」
「バカなことぬかすな!悪いのは向こうだ!自分を押し付けて、自分が正しいと思い上がって、自分が悪いとこれっぽっちも思ってない!そいつらのほうが裁かれるべきだろうが!」
「だからと言って暴力をしていい理由にはならない!そんなことをしても、何の解決にもならない!」
「そういうことはアイツらに言えよ!明らかに間違っているアイツらに何も言わずに、間違いを正したオレが悪いことにされるなんて、明らかにおかしいだろうが!」
タクマが注意するが、トウガは聞き入れようとしない。
「もういい!崎山トウガくん、君を1週間の停学にする!」
我慢の限界を迎えた教頭の高木治五郎が、トウガに処分を下した。
「家で自分のしたことをじっくり考えることだ!」
「考えることはない!罰するのはアイツらのほうだからな!それなのにオレのほうを悪いと決めつけて!」
「決めつけではない!悪いことをしているのに悪いと思っていないのはお前のほうだ!」
「ふざけるな!自分のことを棚に上げて、オレに濡れ衣を着せるのかよ、お前も!」
治五郎の怒号に逆に憤るトウガ。つかみかかろうとした彼だが、タクマたちに取り押さえられる。
「ご両親にも厳しく指導していただかなくては・・・!」
トウガの態度に不満を膨らませて、治五郎が肩を落とした。
トウガの怒りは学校内だけでなく、外でも家でも隔てなくむき出しになっていた。
父、シンジと母、シホはもうトウガを注意したり叱ったりしなくなってしまった。そうすることが逆効果にしかならないと、2人とも思い知らされていた。
(間違っているのは向こうだ・・それは誰が見たって分かることだろうが・・それなのに、どいつもこいつもオレを悪いと決めつけて、ヤツらの味方になりやがって・・・!)
トウガの怒りと不満は増すばかりになっていた。
(オレのことを分かってくれるヤツはいないのかよ・・・オレが正しいなんて思い上がってねぇ・・けど、明らかに間違ってるのを正しいことにするのは、絶対に許せねぇ・・・!)
過ちへの憎悪を強固にしているトウガ。彼は許せないものの思い通りになる、従うことが我慢ならない。そうしてしまえば死んでしまうのと同じだと考えていた。
(この場所は・・この世界は・・オレのいるべき場所なのか・・・!?)
トウガはついに自分の居場所や世の中そのものにも疑念を抱くようになっていた。
次の日、停学を言い渡されたはずのトウガは、平然と登校しようとした。
「おい、崎山!お前は学校に来てはいけないんだぞ!」
正門に立っていたタクマが、トウガを呼び止める。
「オレは悪いことはしていない・・悪いヤツは別にいる・・何度も言わせるな・・・!」
「お前は暴力を振るってケガをさせた!それが悪くないわけがない!」
鋭く言いかけるトウガにタクマが厳しく注意する。しかしトウガは聞き入れようとしない。
「崎山トウガ、処分を言い渡したのに聞かないとは!」
トウガの前に治五郎がやってきて、鋭く睨みつけてきた。
「すぐに自宅待機しろ!でなければ警察に来てもらうことになる!」
治五郎がトウガに向けて忠告を投げかける。その態度がトウガの怒りを逆撫でする。
「勝手なことばかりぬかして、オレを悪者に仕立て上げて・・どいつもこいつも、そうしたいのかよ!?」
激高したトウガが治五郎につかみかかる。ついに学校は警察への通報に踏み切った。
これを機に、トウガは全てへの疑念を抱くようになった。
通報で駆け付けた警官たちに捕まり、トウガは留置場に入れられることになった。それまでの間もそれ以降も、トウガは怒りを膨らませて攻撃に出て、警官たちに取り押さえられることになった。
そのため、トウガは何度も鎮静剤を打たれて、ついには厳重に体を拘束されることになった。
「気にくわないものにはなりふり構わずに飛びかかるか。狂犬と同じだな・・」
「ありゃ目に移るもの全部を敵だと思い込んでいるって感じだな・・」
刑事たちが牢の中で眠っているトウガを見て呆れる。
「これはカウンセリングが必要だ。あの物騒な気分を抑えないと、さすがに外に出せないぞ・・」
「こういうんじゃますます動物扱いじゃないか・・」
皮肉を口にして笑みをこぼす刑事たち。
「とにかく、今は暴れさせないのが得策だ・・」
「監視を怠るなよ。絶対に然るべきところに送って、隔離しなくては・・」
刑事たちが言葉を交わして、トウガの監視を続けた。
留置場の牢の中で、徹底的に拘束されていたトウガ。彼はその間にも、周囲への憎悪を募らせていた。
(こんなのはイヤだ・・何もかも振り回され続けるなんて、オレはイヤだ・・・!)
トウガが心の中で抵抗を呟いていく。
(許せない・・オレは、こんなことに屈するなんて納得できねぇ・・こんなムチャクチャをブッ飛ばす力があれば・・・!)
怒りを増していうトウガが力を欲する。完全に拘束されているにもかかわらず、自分の体が傷つくのも構わずに、彼は体を突き動かそうとする。
(オレは・・こんなムチャクチャの言いなりになるつもりはねぇ!)
感情を研ぎ澄ませていくトウガ。彼はひたすら、抗うための力を求めた。
そのとき、トウガは感覚が一気に研ぎ澄まされたような気分を感じた。そして彼は自分の体から力が湧き上がってくるのを感じた。
(これは・・!?)
突然のことにトウガが驚く。次の瞬間、彼を完全に拘束していた器具やロープが一気に引きちぎられた。
「な、何だ!?」
突然のことに、監視についていた刑事たちが振り返る。拘束されていたはずのトウガが、ゆっくりと起き上がる。
その姿は獣を思わせる異形の怪物だった。
「な、何だ、コレは!?」
「バ、バケモノ!?」
刑事たちが怪物と化したトウガを見て驚愕する。トウガが刑事たちを見て、目つきを鋭くする。
「こんなバケモノが、現実に存在するなんて・・ありえない!」
「構わん!撃て!」
刑事たちが驚愕しながら、拳銃を手にして発砲する。弾丸がトウガの体に命中したが、傷1つ付かない。
「バカな!?銃が効かないだと!?」
銃撃が通じないことに、刑事たちが驚愕を募らせる。
「オレは許さねぇ・・オレを悪いと決めつけるお前らを、オレは許さねぇ!」
激高したトウガが刑事たちに飛びかかり、1人を殴り飛ばした。その刑事は悲鳴を上げる間もなく、壁に叩きつけられて潰された。
「そ、そんな!?・・ほ、本当にバケモノ!?」
刑事が恐怖を感じて、トウガから後ずさりする。トウガが彼にゆっくりと振り返る。
「オレをここまで追い詰めたんだ・・お前もただで済むと思うな・・・!」
トウガが怒号を放ち、刑事に拳を振りかざす。
「ギャアッ!」
体に拳を叩き込まれて、刑事が吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。吐血した刑事も倒れて動かなくなった。
「叩きつぶさないといけない・・ゴミクズを・・そいつらに味方するヤツらも・・・!」
力を持ったトウガが、敵と認識した相手の打倒を誓う。自分が異形の姿になったことにさほど驚くことなく、彼は留置場を出た。
トウガを厄介払いできたことに、治五郎は安堵を感じていた。
「ふぅ・・これでこの学校は安泰となるな・・」
「しかし教頭、仮にも崎山は学校の生徒です。そのような言い方・・」
タクマが治五郎の発言に苦言を呈した。
「元、生徒だ。もっとも、あのようなヤツに入学を許可したのは我々の失態だったが・・」
しかし治五郎は悪びれることなく、憮然とした態度を取っていた。
「たた、大変です、教頭!大変!」
そこへ1人の教師が、治五郎たちのいる職員室に駆け込んできた。
「どうした!?騒々しいぞ!」
「か、怪物が!怪物が学校に近づいてきています!」
声を上げる治五郎に教師が説明する。
「怪物?バカなことをぬかすな!寝言は寝て言え!」
「本当です!もう正門に到達します!」
呆れる治五郎に教師が呼びかける。タクマが窓から正門に目を向ける。
正門から登校してきた生徒や教師たちが逃げ込んできた。近くを通りがかった他の人も、学校になだれ込んできた。
そして教師の言う通り、1人の怪物が正門に現れた。
「な、何だ、アレは!?」
治五郎が怪物を目撃して驚愕する。タクマも緊迫を隠せなくなる。
怪物たちから、教師たちは生徒たちを避難させようと呼びかけていた。その彼らに怪物が迫ってきた。
「どいつもこいつも、オレを悪者だと決めつけて・・悪いことをしてるヤツは他にいるのに・・・!」
怪物となっているトウガが、握りしめた拳を振りかざす。彼の打撃が教師の1人を殴り飛ばした。
「は、早く逃げろ!殺される!」
生徒たちと他の教師たちが慌ててトウガから逃げていく。
「バケモノが実際にいるなど・・あり得ない・・あり得ないぞ!」
窓からトウガを見て声を荒げる治五郎。彼のいる職員室に振り向いて、トウガが目つきを鋭くする。
「お前はオレを悪者だと決めつけたヤツ・・お前は必ず・・!」
トウガは言いかけると、校庭からジャンプして職員室に窓から飛び込んできた。
「うわあっ!」
職員室にいた治五郎たちが、悲鳴を上げて後ずさりする。慌てて逃げ出そうとする治五郎の前に、トウガが回り込んできた。
「く、来るな!来ないでくれ!」
しりもちをついた治五郎がトウガから逃げようとする。
「た、頼む!助けてくれ!何でもするから!」
「オレを悪者だと決めつけておいて、危なくなったら逃げたり助けを求めたりする・・救いようがない・・・!」
助けを請う治五郎に、トウガがいら立ちを募らせる。
「やめて!助けて!殺さないで!傷つけないで!」
「オレを陥れておいて・・自分が危なくなったら助けてもらおうとする・・どこまでもふざけるんじゃねぇぞ!」
ひたすら懇願する治五郎を、トウガが怒りに任せて蹴り飛ばした。治五郎が壁に叩きつけられて、血をあふれさせて動かなくなった。
「他のヤツのことをまるで考えないから・・・!」
「お前、まさか・・崎山なのか・・・!?」
歯がゆさを感じているトウガに、タクマが声をかけてきた。振り向いたトウガの姿が怪物から人に戻った。
「崎山・・これは、どういうことなんだ・・・!?」
「本当に悪いヤツに何もしなくて、何とかしようとしたオレを悪いと決めつけた・・もう誰も、オレは許すことはできねぇ・・!」
息をのむタクマにトウガが鋭く言いかける。彼の憎悪はさらに膨らんでいく。
「崎山、お前が我慢ならない人が悪いことは間違いないだろう・・だがだからと言って、暴力に訴えていいことにはならない!」
「ならゴミクズ連中を止める方法が他にあるのか!?言えば分かるなら、オレはこんな苦痛を味わうことはない!」
怒鳴りかかるタクマにトウガが怒りの叫びを上げる。
「オレは許しはしねぇ・・オレを悪者に陥れて、地獄を味わわせたこの世界を・・!」
「そうやって人殺しをして・・お前はもう、取り返しのつかないことを・・!」
「それは、この腐りきった世界そのものだ・・もう、救いようがねぇ・・・!」
叱りつけるタクマだが、トウガの怒りを逆撫でするだけである。
「オレは迷わねぇ・・もう我慢もためらいもしねぇ・・ゴミクズどもはオレの手で全部叩きつぶす!」
怒りを叫ぶトウガが再び怪物の姿に変わる。
「それではお前しか・・いや、お前自身も幸せにはなれない!やめろ、崎山!思いとどまれ!」
「このままおとなしく、言いなりになっているほうが幸せにはなれないんだよ!」
さらに呼びかけるタクマに、トウガが激高して拳を振りかざす。彼の一撃がタクマを殴り飛ばした。
「ぐふっ!」
壁に叩きつけられて吐血するタクマ。全てへの怒りを抱えたまま、トウガが廊下に出ようとする。
「崎山・・人でいることを・・忘れないでくれ・・・」
弱々しくも声を振り絞るタクマ。彼の言葉を聞きながらも、トウガは立ち止まらなかった。
トウガを止められないまま、タクマは事切れた。
学校にいる生徒や教師に拳や爪、足を振りかざしていくトウガ。彼の打撃は逃げ惑う人たちの命を奪っていく。
自分が正しいと思い上がる者、こちらを陥れようとする者、それらをやって全く悪いと思わない者、それらに味方する、従う者。全てがトウガの敵だと思わせていた。
助けを求める人、納得いかずに抗う者、それぞれだった。しかし今のトウガには、どちらもが不快にさせる言動となっていた。
「ここは元から、オレの居場所ではなかったということか・・・」
恨みを晴らそうとするトウガが、世界に対する絶望を噛みしめていく。
「オレはゴミクズ連中に押しつぶされるつもりはねぇ・・逆らって、徹底的に叩き潰す・・!」
世界に対する憎悪を募らせるトウガ。彼は血まみれとなった学校を後にして、さらに攻撃の範囲を広げていった。
かつての帰る場所を見限ったトウガは、普段は人の姿で行動していた。そのほうが敵の本性を見出しやすいと思っていた。
街中の雑踏に、トウガが許せない人間が混じっていた。彼らを発見すると、トウガはすぐに怪物の姿になった。
「バ、バケモノ!?」
変貌したトウガに、周りにいた人々が悲鳴を上げて逃げ出す。その中でトウガは敵と見なした者だけに狙いを絞る。
怪物になって人を襲うトウガのことは、瞬く間に世界各地に広まることになった。
そして同じく、怪物になれる存在にも。
白昼堂々と敵と認識した人を攻撃、殺害していくトウガ。人気のない通りに差し掛かった彼の前に、男が5人現れた。
「お前か、派手に暴れてるガルヴォルスっていうのは?」
「ガルヴォルス?」
男の1人が投げかけた言葉に、トウガが疑問符を浮かべる。
「お前が変身している怪物のことだ。人間を超えた力を持ってることは、お前も分かってるはずだ。」
男の話を聞いて、トウガが自分の両手を見つめる。彼は自分の怪物の姿と力を確かめる。
「好き勝手に大暴れしているみたいだな。お前、ずいぶんとその力を楽しんでいると見た。」
「違う・・オレはこの世の中が許せない・・だから敵を叩き潰しているだけだ・・・!」
男たちが投げかける言葉を否定して、トウガが目つきを鋭くする。
「だがそれも、目的のために力を使っている理由になる。」
「それに迷うことはねぇ。存分にその力を振るえってことだ。」
男たちがトウガに力を使うことを促す。
「お前の目的に、オレたちも協力させてくれ。丁度退屈してたとこなんだ。」
「お前と一緒だと楽しめそうだからな。」
男たちが笑みを浮かべて、トウガに近づく。しかしトウガは逆にいら立ちを覚える。
「自分の目的のために他のヤツを平気で傷つける・・人間もバケモノも関係ねぇ・・・!」
感情をあらわにするトウガの頬に紋様が走る。
「お前らもゴミクズと同じだってことなのかよ!」
激高したトウガが怪物、ビーストガルヴォルスになった。
「コイツ、ガルヴォルスのくせに、オレたちに牙を向けるっていうのか!?」
「お前、人間だけでなくガルヴォルスも敵に回すつもりか!?」
敵意を見せるトウガに、男たちが緊迫を見せて身構える。
「おめぇらもオレの敵・・許してはならないゴミクズだ!」
トウガが男たちに向かって飛びかかる。
「ち、ちくしょうが!」
男たちがいきり立ち、それぞれガルヴォルスになった。
「お前が殺しに来てるのに、のこのこ殺されてやるわけにいくか!」
ガルヴォルスの1人、オクトパスガルヴォルスが長い腕を伸ばす。腕はトウガの腕に巻きついたが、逆に彼に引っ張られる。
「うわっ!」
引っ張られたオクトパスガルヴォルスに、トウガが爪を振りかざす。切り裂かれたオクトパスガルヴォルスが、鮮血をあふれさせて倒れた。
「ぐっ!なんて強さだ・・!」
「ガルヴォルスの中でもかなり高いレベルの力を持っているぞ・・!」
ガルヴォルスたちがトウガの強さを痛感して毒づく。トウガはため息をついてから、ガルヴォルスたちに鋭い視線を向ける。
「相手はたった1人だ!全員で取り囲めば、倒せないことはない!」
「一気に攻めるぞ!」
ガルヴォルスたちが一斉にトウガに飛びかかる。彼らが同時にトウガの腕と足、体をつかんで押さえ込む。
「今だ、やれ!」
クラブガルヴォルスが叫んで、ソードフィッシュガルヴォルスが飛びかかる。ソードフィッシュガルヴォルスが具現化した剣をトウガ目がけて突き出す。
「オレはおめぇらゴミクズの思い通りにはならねぇ!」
トウガが激高して爪を振りかざす。彼の一撃がソードフィッシュガルヴォルスの剣の刀身を砕いた。
「何っ!?」
剣を壊されたことに驚愕するソードフィッシュガルヴォルス。トウガが力を振り絞り、ガルヴォルスたちを振り払い突き飛ばす。
トウガが繰り出す拳と爪が、クラブガルヴォルスとトータスガルヴォルスを地面に叩きつける。さらにホエールガルヴォルスとフロッグガルヴォルスも鮮血をまき散らして倒れる。
「か、勝てない・・強すぎるぞ、コイツ!」
ソードフィッシュガルヴォルスが恐怖を感じて、トウガから慌てて逃げ出していく。
「逃げるな!」
トウガが素早く駆け出して、ソードフィッシュガルヴォルスの前に回り込んだ。
「オレが1人残らず叩きつぶす!」
トウガが拳を構えて、ソードフィッシュガルヴォルスにとどめを刺そうとした。そのとき、トウガが突然横から衝撃を受けた。
「ぐっ!」
うめくトウガが横転するも、すぐに体勢を立て直す。目つきを鋭くした彼の視線の先に、サメの怪物、シャークガルヴォルスがいた。
「オレの部下をここまでむごいマネをしてくれるとはな、小僧・・!」
シャークガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべて、立ち上がるトウガに近づく。
「悪いが、そんなマネをされて穏やかでいられるほど、オレはお人よしではない・・覚悟してもらおうか・・・!」
「ふざけるな・・自分たちのために好き勝手やっているゴミクズ連中のくせに!」
笑みを消すシャークガルヴォルスに、トウガが鋭い視線を向ける。
「そういうお前も、人のこと言えなくなっているぞ・・・」
シャークガルヴォルスは低く言うと、足を振り上げてトウガを蹴り飛ばす。
「ぐっ!」
壁に叩きつけられて、トウガがうめく。シャークガルヴォルスが彼に近づいて、肘の刃を構える。
「落とし前、思い切り付けさせてもらうぞ・・・!」
シャークガルヴォルスがトウガに向けて刃を振りかざす。トウガが身をかがめて、狙いを外したシャークガルヴォルスの刃がその先の壁を深く切りつけた。
トウガがシャークガルヴォルスに拳を叩き込む。しかし少し押されただけで、シャークガルヴォルスはダメージをほとんど受けていない。
「力の差というものを理解することだな・・」
シャークガルヴォルスが左手を突き出す。彼の手の爪がトウガの体に突き立てられた。
「ぐふっ!」
トウガが激痛を覚えて吐血する。引こうとしない彼の体から血があふれる。
「往生際の悪いヤツだ・・これ以上、人を怒らせるもんじゃないぜ・・・!」
シャークガルヴォルスは爪を突き立てたまま、トウガを押し付けて突き飛ばす。トウガが激しく横転して、地面に突っ伏す。
「オレは・・オレはこんなところで倒れてたまるか・・・!」
傷ついた体に鞭を入れて、トウガが力を振り絞って立ち上がる。
「本当にしつこいな・・息の根を止めるしかないか・・」
シャークガルヴォルスはため息をついて、肘の刃を構えてトウガにとどめを刺そうとする。
「オレは死なない・・おめぇら全員に、自分のしていることの愚かさを思い知らせるために・・・!」
自分の意思を口にして、トウガが右手を握りしめて、シャークガルヴォルスに飛びかかる。トウガの拳がシャークガルヴォルスの左頬をかすめた。
直後、シャークガルヴォルスが振りかざした刃が、トウガの体を切り裂いた。
「がはっ!」
切りつけられたトウガが突き飛ばされて、近くの川に落ちた。
「致命傷を負わせた自信はないが、無事でもないな・・」
トウガのことを呟いて、シャークガルヴォルスが肩を落とす。彼がソードフィッシュガルヴォルスに歩み寄る。
「面目ないです、リュウガのアニキ・・・」
「気にするな・・相手が悪かっただけだ・・・!」
謝るソードフィッシュガルヴォルスにシャークガルヴォルス、三日月リュウガが声を振り絞るように励ます。
「オレたちも出直しだ。立て直しをするぞ・・」
「はい・・・」
リュウガに言われてソードフィッシュガルヴォルスが頷く。2人が川沿いの通りから立ち去った。
リュウガに敗れて川に落ちたトウガ。その川の先の河川敷に彼は引っかかっていた。
人の姿に戻ったトウガは、意識がもうろうとしていて動けなくなっていた。
(オレは・・倒れてるわけにいかねぇ・・・立て・・立つんだ・・・!)
動くことを自分に言い聞かせるトウガ。しかし体は彼の言うことを聞かない。
そんなトウガの耳に、近づいてくる足音が入ってくる。
(誰だ・・誰かが来る・・さっきのヤツか・・・?)
トウガは近づいてきているのがリュウガたちではないかと考える。彼が動こうとするが、それでも体が動かない。
やがて足音はトウガのそばで止まった。倒れている彼の前にいたのは、1人の少女だった。