ガルヴォルスPF 第24話「反逆する躍動」

 

 

 スミレは命を落とした。勇を庇って怪物の攻撃を受け、命の炎を消したのだった。

「スミレちゃん・・・どうしてスミレちゃんが死ななくちゃいけないんだ・・・」

「こんなの信じられないよ・・・スミレちゃんが・・スミレちゃんが!」

 沈痛の面持ちを浮かべる勇と、涙を流して悲しみに暮れる姫菜。

「ゴメン、スミレちゃん・・僕が力をしっかり使っていたら・・・」

「そんなことない!勇くんは私やスミレちゃんのために、一生懸命になってた!その勇くんを、誰も悪いなんていえないよ!」

 謝罪の言葉を口にする勇に、姫菜が弁解を入れる。

「スミレちゃんの言うとおり、これはスミレちゃんが選んだ道だったんだよ・・私たちは、スミレちゃんのこの決心に応えないと・・」

「姫菜ちゃん・・そうだね・・僕たちは、これからしっかりしなくちゃいけないんだ・・・」

 姫菜の言葉に勇気付けられた勇が、あふれてくる涙を拭う。

「帰ろう、姫菜ちゃん・・・お父さんが待ってる・・・」

「うん・・・スミレちゃん、行くよ・・私たちの家に・・・」

 勇と姫菜が弱々しく言いかける。スミレを抱えて勇は歩き出し、姫菜も続いていった。

 

 勇と姫菜を1度は時間凍結にかけ、京をも手にかけた結衣は、1人通りを歩いていた。彼女は勇たちに対する罪の意識を感じてはいなかった。

(どうしてあたしの気持ちを受け止めてくれなかったの・・あたしはみんなを危険から守りたかった・・それだけなのに・・・)

 自分の気持ちが伝わらないことに歯がゆさを募らせる結衣。彼女は自分が間違っていないことを確信していた。

(間違っていない・・それなのに何でか自分がよくならない・・どうして・・・)

 自分に言い聞かせていく結衣。だが考えれば考えるほど、彼女に不安が押し寄せてきていた。

 そのとき、結衣は唐突に足を止めた。その背後には竜馬の姿があった。

「とうとう見つけたぞ、クロノ、時任結衣・・・」

 竜馬が悠然とした態度で結衣に声をかける。だがその態度は虚勢であり、彼は余裕を捨てていた。

「あたしもしつこく付きまとわれるのは好きじゃないんだよ・・」

「なら早く僕に倒されることだね。君は僕の楽しみを奪ったんだから・・」

 冷淡に告げる結衣に、竜馬も鋭く言いかける。

「勇は僕の獲物なんだ・・それを横取りするなんて・・さすがの僕も我慢がならないよ・・」

「勇を危険にさらしたくなかった・・そのためにあたしは手を尽くしてきた・・それだけだよ・・」

「ふざけるな!」

 結衣の言葉に怒りを覚えた竜馬が力を暴走させ、周囲に衝撃を放つ。

「お前の考えなど知ったことではない!問題なのは、お前が僕の獲物を横取りしたということだ!」

「勇はあなたの獲物じゃない。あたしの大切な子なんだから・・・」

「それがどうした!?横取りしたことに変わりはない!」

 結衣が淡々と言いかけるが、竜馬は怒号を飛ばすばかりだった。

「お前から先に始末してやる・・僕の楽しみを奪うことがどういうことか、お前に十分に分からせてやる・・・」

「あなたにできるの?あたしにコテンパンにされたあなたに・・」

「今度は前のようにはいかない・・僕が勇を倒すには、君の存在が邪魔なんだよ・・・!」

 冷淡に告げる結衣に言い返した竜馬の頬に紋様が走る。直後、彼の姿が異形の怪物へと変化する。

「もう容赦しない!お前を始末すれば、お前がかけた時間凍結が解除されることになる!」

「クロノだからそういうことになるね。でもあなたにそれができるの?」

「あまり僕を甘く見ないほうがいいよ・・すぐにその首が飛ぶことになるから・・・!」

 結衣に対して不敵な笑みを浮かべた直後、竜馬が全身から衝撃波を放つ。結衣も全身から衝撃波を放ち、相殺する。

「これ以上力を使ったら、あたしがどうなっちゃうか分かんなくなっちゃうんだけど・・・」

 呟きかける結衣の頬にも異様な紋様が浮かび上がる。

「そこまで相手にしたいといわれて何もせずにいるほど、あたしも大人しくないから・・・!」

 眼つきを鋭くした結衣がクロノへと変身する。彼女がかざした両手から衝撃波が放たれ、竜馬を襲う。

「ぐっ!」

 痛みを覚えて顔を歪める竜馬が遠くへと突き飛ばされる。彼は空中で体勢を整え、空き地へと着地する。

 間髪置かずにその空き地へと駆け込んできた結衣。そこを狙って、竜馬が両手をかざして衝撃波を放つ。

 その奇襲を受けて、結衣が動きを止められる。そこを狙って、竜馬が重力操作を仕掛ける。

 上から横から重力をかけられて、結衣は痛みを覚えて顔を歪める。竜馬はそれに付け込んで、彼女に追い討ちをかける。

「言ったはずだよ!もう容赦しないって!僕の全力を受けられる!それだけでも評価に値するけどね!」

 苦悶の表情を浮かべる結衣を見つめて、竜馬が哄笑を上げる。

「君のクロノとしての力は不完全。力を使えば使うほど、君の成長の時間は消えていく。たとえ僕が君を倒し損ねても、君はクロノのリスクで消滅することになる!」

 竜馬が言い放ち、結衣にかけている重力に力を注ぐ。立つことがままならなくなり、結衣が地面に突っ伏す。

「正確には“消滅”じゃなくて、“存在しなかったことになる”というのが正しいか・・・!」

「今日のあなたは、ホントにおしゃべりね・・・」

 竜馬が不敵な笑みを浮かべたところで、結衣が低い声音で言いかけてきた。その声を耳にして、竜馬が眉をひそめる。

「あたしにも負けられない理由があるの・・それにあたしは、ただで消えるつもりなんてないよ・・・」

「何だと?」

「あなたのように勇を傷つけようとしている人の、好きなようにはさせない・・あなたもあたしがやっつけてやるから・・・!」

 眼を見開く結衣が衝撃波を解き放つ。その猛威が、竜馬の発していた重力を弾き飛ばした。

「そんな!?・・僕の全力の重力を跳ね返すなんて・・・!?

「このくらいで、あたしの気持ちが揺らぐことはないんだから・・・!」

 驚愕する竜馬に、結衣が低い声音で告げる。彼女の両手から漆黒の稲妻がほとばしる。

「今度はあたしから行くよ・・あたしも容赦はしないから・・・!」

 結衣はその稲妻を竜馬に向けて放つ。時間凍結をかけられると思い、竜馬は飛び上がってその稲妻をかわす。

 だがその先には結衣が待ち構えていた。彼女は衝撃波を放ち、竜馬を地面に叩きつける。

「ぐあっ!」

 重く激しい衝撃にあえぐ竜馬。結衣が立て続けに、竜馬に向けて衝撃波を繰り出していく。

「ここまで重い攻撃を仕掛けられるのか・・クロノのリスクなど最初からないみたいな・・・!」

 結衣の底力に脅威を覚える竜馬。彼の体を、結衣が放った光の矢が突き刺さる。

「がはっ!」

 体を貫かれて吐血する竜馬。彼の体からもおびただしい鮮血があふれ出していた。

「これで分かったよね?あたしが本気になったら、あなたなんか何でもないってことが・・」

「ふざけるな!・・力では僕が上のはずだ・・クロノである勇にも、僕が劣ることはなかった・・・!」

 冷淡に告げる結衣に鋭く言い返して、竜馬がゆっくりと立ち上がる。体に突き刺さっていた光の矢を引き抜くと、その体から血がさらにあふれ、彼はさらなる激痛を覚えて眼を見開く。

「その僕が、ここまで手も足も出ずに叩き潰されるなんてことが!」

「自分が1番だと思っているところがあるから、あたしや勇には勝てないんだよ・・」

 叫ぶ竜馬に、結衣が物悲しく語りかける。

「あたしには負けられない理由がある。勇にもあるよ。でもあなたにはそれがない。人としての心の強さが・・」

「心の強さ!?そんなものは何の役にも立たない!純粋な力の大きさが、強さになるんだ!」

「人の心の強さ・・あなたもそれを忘れてしまった・・悲しいね・・・」

 強情を見せる竜馬に対し、結衣は落胆を浮かべていた。

「聞き入れないというならそれでもいいよ・・あなたはあたしに勝てない・・クロノとか怪物とかいう前に・・人として・・・」

 冷淡に告げると、結衣は竜馬に向けて光の矢を放つ。その一条の刃が、竜馬の体に再び突き刺さった。

 自分の意思が体に伝わらなくなり、脱力していく竜馬。倒れ行く中、彼は胸中で呟きかける。

(僕は楽しみたかったんだ・・楽しみたいと思えば、強くなろうとする気持ちも出てくる・・だから、その僕が弱いはずがない・・・!)

 自分が強いと言い聞かせる竜馬。だが彼の体は完全に力を失い、人間の姿に戻っていた。

(僕が・・僕がこんなことで・・死んでしまうなんてこと・・・!)

 地面にうつ伏せに倒れ込む竜馬。感覚が鈍り、彼は立ち上がることもできなくなっていた。

(僕は死ねない・・勇を倒すまで・・姫菜ちゃんをものにするまで・・・僕は・・・!)

 必死に立ち上がろうとする竜馬。そこへ結衣が、手にしていた光の矢を竜馬に突き刺した。

「がはっ!」

「もういいよ・・これ以上立ち上がってきても、惨めなだけだから・・・」

 絶叫を上げる竜馬に、結衣が冷淡に告げる。あふれ出す血だまりの中、竜馬はついに力尽きた。

 そこへ感じ慣れた気配を察知し、結衣が振り返る。その先にはスミレを抱えた勇の姿があった。

「勇!?

 結衣が驚愕の声を上げる。時間凍結にかかっていたはずの勇が、その呪縛から抜け出していたのだ。

 勇に続いて、姫菜も駆け込んできた。2人は倒れ伏している竜馬を目の当たりにして、緊迫を覚える。

「竜馬くん・・・!?

 姫菜が思わず声を荒げる。勇がゆっくりと結衣に視線を向ける。

「お母さんが、竜馬くんにこんなことを・・・!?

「そうよ・・この子は勇を傷つけようとした・・だからあたしはやっつけた・・容赦しなかった・・・」

 問いかける勇に結衣が答える。しかし彼女は体も声も震わせていた。

「竜馬くん、しっかりして!」

「もうダメだよ・・あたしがしっかりとやっつけたから、もう死んでる・・・」

 姫菜が竜馬に駆け寄ろうとしたのを、結衣が呼び止める。それに構わず、勇が竜馬に歩み寄ったときだった。

 竜馬の体が砂のように崩壊し、霧散していった。勇は眼を見開くばかりで、姫菜も言葉を詰まらせる。

「恨まれてもあたしは構わない・・でも勇を傷つけるものを、あたしは許さない・・・」

「お母さん・・・」

「でもあたしのこの気持ちを、あの人は受け入れなかった・・京さんも・・・」

「父さん!?・・お父さんに何かしたの、お母さん!?

 結衣の言葉を聞いて、勇が驚愕をあらわにする。姫菜も困惑の色を隠せなくなっていた。

「あたしの気持ちを受け入れなかった。否定した。だからあたしは仕方なく手を出した・・そんなこと、あたしはしたくなかったのに・・・」

「どうして・・・どうしてお父さんを!?

 自分の気持ちを告げた結衣に、姫菜が悲痛さをあらわにする。

「返して・・お父さんを返して!」

「落ち着いて、姫菜ちゃん!落ち着いて!」

 結衣に飛び掛ろうとした姫菜を、勇が止める。我に返った姫菜が、悲痛さを噛み締めて、その場にひざを付く。

「この近くにいると思うよ・・最後の最後までガンコな人だったよ・・・」

 物悲しい笑みを浮かべると、結衣はゆっくりと振り返り、夢遊病者のように歩き出していった。

「お母さん・・・姫菜ちゃん、お父さんのところに行こう・・・」

「うん・・・」

 戸惑いを見せる勇の声に、姫菜は涙ながらに小さく頷いた。

 

 勇には京の居場所が分かっていた。自分を鍛えてくれた場所、街外れの草原にいると。

 だが勇は同時に、結衣の言うことが嘘でないことも理解していた。今駆けつけてももう手遅れであると。

 勇と姫菜が駆けつけた草原に、京はいた。だが京は血まみれの姿で倒れたまま、動かなくなっていた。

「お父さん・・・そんな・・・」

 悲しみを募らせて、再びひざを付く姫菜。勇も悲痛さを隠せないでいた。

「結衣さんが、お父さんを・・お父さんを・・・」

「もう、お母さんを責めないであげて、姫菜ちゃん・・・」

 勇が言いかけた言葉に、姫菜が戸惑いを浮かべる。

「お母さんはお母さんの気持ちを、お父さんはお父さんの気持ちを貫いただけだよ・・そして僕たちもこれから、自分たちの気持ちを貫き通す・・お父さんやスミレちゃん、みんなのために、この先の未来を進むために・・・」

「勇くん・・・そうだね・・お父さんの気持ちは、私にも受け継がれてるんだからね・・・」

 勇の言葉を受けて、姫菜も笑みを取り戻した。

「お父さんとスミレちゃんを連れて帰ろう・・このままにするわけにいかないから・・・」

 勇の言葉に姫菜は頷く。2人は家に、萩原家に戻っていった。

 

 萩原家に戻ってきた勇と姫菜。2人は運んできた京とスミレをリビングに横たわらせた。

「おかえり・・お父さん・・スミレちゃん・・・」

 京とスミレを見下ろして、勇が物悲しい笑みを浮かべて呟きかける。姫菜も悲しみを必死にこらえていた。

「もう僕たちは、昔の時間を取り戻せない・・その時間にいるはずの人が、もういないから・・・」

「勇くん・・・」

 勇の言葉が非情に思えて、姫菜が困惑を覚える。

「僕たちは未来に向かって歩かなくちゃいけない・・みんなの気持ちをムダにしないために、強く歩いていく・・・」

「そうだね・・私も強くなる・・勇くんに負けないくらいに・・・」

 勇に言いかけると、姫菜はあふれてきていた涙を拭う。

「行こう、姫菜ちゃん・・お母さんと、今度こそ決着を着けないと・・」

「私、どんなことかあっても、勇くんのそばにいるから・・そして勇くんと一緒に、新しい未来を歩いていくから・・・」

 勇の呼びかけに姫菜も頷く。外に出ようとした2人が、横たわっている京とスミレに眼を向ける。

「さようなら・・お父さん・・スミレちゃん・・・」

「今まで僕を鍛えてくれて、ありがとうございました・・・」

 2人に別れと感謝の言葉を告げる姫菜と勇。様々な想いを胸に秘めて、2人の少年少女は歩き出していった。

 

 京、そして竜馬をも手にかけた結衣。だが時間凍結をかけたはずの勇と姫菜の登場に、彼女は混乱を抑えることができなくなっていた。

「私は力を込めて時間凍結をかけた・・それなのに、勇はその凍てついた時間を動かした・・・」

 震える自分の体を、結衣は必死に押さえる。

「どうしてなの!?あたしは勇のためを思ってやったのに!・・それなのに・・どうして・・・!?

「生きようとする気持ちが、僕たちの中に膨らんだからです・・」

 悲鳴のような声を上げたところで突然声をかけられ、結衣が振り返る。その先には勇と姫菜の姿があった。

「勇・・・姫菜ちゃん・・・」

「お母さん・・・やっぱりここだったんだね・・・」

 戸惑いを見せる結衣に、勇が微笑みかける。

「お母さんは、本当に僕のことを大切にしてくれていた・・だってここは、僕とお母さんの家があった場所だから・・・」

 勇が口にした言葉に、姫菜が驚きを覚える。彼らは今、かつての家のあった場所に来ていたのだった。

 

 

次回

第25話「時の扉」

 

「あたしは目覚めてしまった・・クロノ・・呪われた姿に・・・」

「生きるんだ・・生きるんだ、結衣・・・!」

「子供を守るのが親の役目・・」

「絶対に破られないように、勇、あなたの時間を完全に止める・・・!」

 

 

作品集

 

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