ガルヴォルスPF 第20話「母親」

 

 

「自己紹介をしておくわね。あたしは時任結衣。勇、君のお母さんだよ・・」

 ユイの正体は勇の母親、結衣だった。彼女は少女の姿で勇たちと接触してきた。

「そんな・・ユイちゃんが、僕のお母さんだったなんて・・・!?

 勇はこの事実が信じられずにいた。京も驚愕を募らせ、姫菜も困惑するばかりだった。

「こんな姿でまた会うことになるなんて、あたしとしても驚いているよ。まさかこんなことになるなんて、思ってもみなかったんだから。」

「マジで、結衣なのか!?・・もしかしておめぇも、勇みたいな怪物になっているっていうのか・・!?

 淡々と語りかける結衣に、京が問い詰める。すると結衣が笑顔で頷いた。

「でなかったらあたし、あのとき生きていなかったと思う・・とりあえず助かったけど、いきなりクロノの力を使ったもんだから、しばらく記憶喪失になっちゃってたよ・・」

「ならなぜ思い出したときにすぐに帰ってこなかった!?勇がどれほど寂しい思いをしていたのか、分からないおめぇじゃねぇだろ!」

 結衣に対して激昂する京。だが結衣は笑顔を絶やさない。

「あたしにもいろいろあってね。クロノであったせいで、他の怪物たちに追いかけられちゃって・・」

 結衣は言いかけると、徐々に笑みを消して真剣な面持ちになる。

「あんな怪物たちを連れ込んでまで子供に会いに行く親がいいと思えるの?」

 彼女の言葉に反論できず、京が押し黙ってしまう。

「あたしとしても、ホントに勇に会いたいとずっと思ってた・・でもクロノになってからのあたしは、その力を十分に扱いきれていなかった・・・」

「それじゃ、全部僕のために・・・」

 勇が言葉を切り出すと、結衣が彼に眼を向ける。

「今まで離れ離れにしていてゴメンね、勇・・といっても、こんなのがお母さんって言っても、信じられるわけないよね・・」

「本当なんですか?・・ならその勇くんのお母さんが、私たちと同じ年頃の姿でいるんですか・・・!?

 優しく語りかける結衣に、姫菜が問いかけてくる。結衣は姫菜に悩ましい眼差しを向ける。

「それはね、あたしの中のクロノの副作用なの・・」

「副作用・・・!?

「クロノが時間を操ることは知ってるよね?その代表的な能力が時間凍結。あたしも使えることは、勇くんたちも知ってる・・」

 語りかける結衣の表情が徐々に曇っていく。

「でもあたしはクロノとして不完全なのよ。力を使えば使うほど、肉体年齢が減っていく。今まででちょくちょく使ってたから、こんな子供になっちゃったわけ・・」

「そうだったの・・だからお母さんがこんなに小さくなったんだ・・」

 結衣の説明を聞いて、勇たちはようやく納得した。

 結衣のクロノとしての力は、勇以上に熟練したものとなっている。だがその力は不完全であり、力を使うごとに若返る代償を払うことになる。

「このまま力を使い続けたら、あたしは払う年がなくなり、あたしは消えてなくなる・・クロノであるために、消えたらみんなの記憶からもあたしはいなくなる・・・」

「そんな・・母さん・・・!?

 結衣が切り出した言葉に勇が愕然となる。

「だから・・勇、あなたにはクロノとして、力強く生きていてほしいの・・」

「何を言っているんだ、結衣・・・!?

 切実な願いを告げる結衣に、京が口を挟む。

「おめぇ、自分が何を言っているのか分かってんのか!?自分の息子にふざけたこと頼んでんじゃねぇ!」

「この子がクロノであるためだよ。そうじゃなかったら、あたしだってこんなこと頼まない。」

 激昂する京だが、結衣は真剣な面持ちを崩さない。

「クロノは人間からも怪物からも敵視されている・・それは勇もその危険に何度もさらされている・・だから勇には、強く生きていてほしいの・・」

「でも、勇くんにも、クロノの力を使ったときの副作用があるんじゃ・・」

 言いかける結衣に、姫菜が口を挟む。

「その心配はないよ。勇は完全なクロノだから、あたしと違ってそのリスクは発生しない・・」

 結衣のこの言葉を聞いて一瞬安堵を覚える姫菜だが、不安を完全に拭い去るには至らなかった。母と子の再会がこのような形になったことに、彼女も困惑していたのだ。

「強く生きて、勇・・クロノとして、力強く・・・」

「僕は・・・」

 結衣の呼びかけに、勇は戸惑いを覚える。

「勇、耳を貸すな!結衣が言っているのは、人間であることを捨てろって言っているようなもんだ!」

 京が呼びかけるが、勇の困惑は治まらない。その中で姫菜は勇を信じていた。

(勇くんは、もう答えを出している・・・だから、私は勇くんを信じている・・・)

 信頼を込める姫菜の見つめる中、勇が気持ちを落ち着けた。

「あなたが本当のお母さんなら、僕のことを心から考えているはず・・僕は、母さんを信じたい・・・」

「勇・・・!?

 勇が切り出した言葉に、京が驚愕を覚える。

「だけど僕は今まで過ごしてきたこの家を捨ててまで、お母さんについていくことはできない・・・ゴメン、お母さん・・今の僕には、この力を何のために使うのかが分かっている・・・」

「勇・・・」

 勇の口にした言葉に姫菜と京が安堵を覚える。だが逆に結衣は戸惑いの色を見せていた。

「本当にごめんなさい、お母さん・・たとえお母さんでも、これだけは譲れません・・・」

「それが、あなたの答えというんだね・・勇・・・」

 真剣な面持ちを見せる勇に、結衣も気持ちを落ち着けて言いかける。

「・・・できることなら、こんな無理矢理なやり方は、あたしも好きじゃないんだけどねぇ・・」

 物悲しい笑みを浮かべて言いかけると、結衣が突如全身から力を放つ。京が緊迫を覚え、勇がとっさに姫菜を守ろうとする。

 だが稲妻がほとばしっただけで、結衣はその間に姿を消してしまった。

「母さん・・・!?

 勇が家の前の道に飛び出し、周囲を見回す。しかし結衣を見つけることはできなかった。

「勇くん・・・」

 沈痛の面持ちを浮かべる勇に、姫菜も困惑する。その隣で京は真剣な面持ちを崩していなかった。

「勇、オレも姫菜もおめぇのことを信じてたぞ・・よく決意したな・・」

「父さん・・・でも正直、これでよかったのかとも思っています・・まだ整理がついていないのもありますが・・・」

 声をかける京に、勇は自分の気持ちを正直に告げた。

「オレも正直ビックリしすぎて、どうすりゃいいのか分かんねぇ・・だがこれだけはいえる。結衣は近いうちに必ずやってくる・・今度は何を仕掛けてくるか分かんねぇぞ・・・」

「分かっています・・それがもしかしたら、母さんと戦わなくちゃいけないとき・・・」

 京に答える勇の言葉に、姫菜が不安を覚える。母親と子供が戦うことを、彼女は快く思っていなかった。

「どうしても避けることはできないの、お父さん・・・だって本当の親子なのに・・・!」

「あの2人は、ただの親子じゃねぇんだよ・・それにこれはもう、親子の関係で収まることじゃなくなってるんだよ・・・」

 言葉をかける姫菜に、京が深刻な面持ちで言いかける。

「勇がどういう決断をするかは、勇自身が決めることだ・・いずれにしても、そんなアイツを支えてやってくれ・・」

「お父さん・・・分かってるよ。私も勇くんと一緒に頑張ってるんだから・・・」

 京の呼びかけに姫菜が頷く。勇は結衣に対してこれからどう接していけばいいのか、答えを固めることができないでいた。

 

“えっ!?ユイが、勇のママ!?”

 その後スミレに連絡を入れていた姫菜。先ほどの出来事を話すと、スミレが驚きの声を返してきた。

“ウソはやめなさいよね!あのユイが勇のママなわけないでしょ!子供なのに・・!”

「ウソじゃないよ。私も勇くんもお父さんも、本当に驚いたんだから・・」

 反発するスミレに、姫菜も深刻さを込めて言いかける。

“ゴメン・・別に姫菜を信じないわけじゃないの・・ただ、あまりにも信じられないことに思えて仕方がなかったから・・・”

「ううん、気にしないで・・いきなりこんな話を聞いて、信じられるはずがないよね・・」

 謝るスミレに姫菜が弁解を入れる。

「でもこれは本当のことなの・・クロノの力を使う代償で、だんだんと小さくなっているの・・」

“それじゃ、勇も小さくなるってことなの・・・?”

「ううん。勇くんはクロノとして完全だから、そんなことは起きないみたいだけど・・」

“そうね・・もしそんな代償があったなら、あたしたちでもすぐ分かるはずだから・・”

「その後、結衣さんは私たちの前からいなくなってしまった・・どこにいるのか、全然分からなくなってしまって・・・」

“でもまだ終わったって感じはアンタもしてないんでしょ?だったらまた何か仕掛けてくるんじゃないかな?”

 スミレの言葉に姫菜は困惑する。勇と結衣が争ってほしくないのが彼女の本心だった。

“今度はあたしもちゃんと話に参加させてもらうわよ。あたしだけ仲間はずれなんてゴメンだからね。”

「危ないよっていっても、スミレちゃんは聞きそうもないね・・・」

 スミレの言葉を受けて、姫菜は微笑みかける。

「これからどうするか、詳しい話は明日ね。」

“そうね・・おやすみ、スミレ。勇によろしくね。”

 話を明日に持ち越して、姫菜はスミレとの電話を切った。自分の部屋に戻ろうとしたとき、姫菜の前に勇がやってきた。

「勇くん・・・」

 一瞬戸惑いを見せる姫菜だが、気持ちを落ち着けて勇に声をかける。

「今、スミレちゃんにもさっきのことを話した・・スミレちゃんも驚いていたけど、私たちのことを心配していたよ・・」

「そう・・やっぱりスミレちゃんだね・・」

 姫菜が事情を話すと、勇が苦笑いを浮かべる。

「それで、勇くんはこれからどうするつもりなの・・・?」

「うん・・あのときも言ったけど、僕の答えは決まっている・・姫菜ちゃんや、みんなのいるこの場所に僕もいたい・・・」

「いいの?お母さん、やっと会えたのに・・・」

「僕のお母さんなら、きっと分かってくれるはずだから・・・」

 心配を込めた姫菜の問いかけに、勇は微笑んで答える。

「できることなら、僕だけで解決したい・・でもそれだと逆に、スミレちゃんだけじゃなく、姫菜ちゃんからも怒られちゃうからね・・」

「そういうこと。あまり心配させたらダメだからね・・」

 微笑んで互いに言葉を交わしていく勇と姫菜。絆の強まった2人に、影から見守っていた京は満足げに頷いていた。

 

 その翌日。学校の休み時間にて、勇、姫菜、スミレは昨日のことについて話し合っていた。

「なるほどね。こうしてもう1度話を聞いても、いまいち納得がいかないのよね・・」

 腕組みをするスミレが、不満を隠せずにいる。勇も姫菜も納得した心境ではなくなっていた。

「もう1度お母さんに会わなくちゃ・・必ず会うときが来る・・そのときが、何もかもにピリオドが打たれる気がする・・」

「ここまで来たら、山勘にも頼るしかないわね・・」

 勇の言葉にスミレが言いかける。

「勇、あたしも最後まで付き合うわよ。危ないのは分かりきってるんだから、止めてもムダよ。」

「スミレちゃんならそういうと思ってたよ・・姫菜ちゃんもそのつもりだよ・・」

 言いかけるスミレに、勇が微笑んで答える。

「もしかしたらお母さん、どこかでまたクロノの力を使うかもしれない・・クロノは、他の怪物から嫌われているみたいだから・・・」

「でも、このまま力を使っていったら、結衣さん、消えてしまうことに・・・」

 思考を巡らせる勇に、姫菜が不安を見せる。

「そんなことになる前に止めないと・・これからは母さんに力は使わせない・・・」

「うん・・絶対に見つけ出そうね・・・」

 勇の決意にスミレが言いかける。2人の言葉を聞いて、姫菜も気持ちを落ち着けて頷いた。

「そういえば今日も竜馬の姿がないわね。」

「あ、そういえば・・」

 スミレが唐突に告げた言葉に、姫菜が周囲を見回す。この日、彼らは竜馬の姿を見かけてはいない。

「また何か企んでるんじゃないかな・・もしかしたら、結衣にちょっかい出してきたりして・・」

 スミレが口にしたこのことばに、勇が不安を覚える。竜馬ほどの力の持ち主ならば、クロノである結衣が力を発動すれば気付かないはずがない。

「本当にいろいろと注意をしたほうがいいね・・・」

 勇が告げた言葉に、姫菜とスミレは真剣な面持ちで頷いた。

 

 クロノである結衣が接近していたことに、竜馬も気付いていた。彼は彼女の気配を細大漏らさずに追っていた。

 街の真ん中の高層ビルの屋上から見下ろしたり、人込みに紛れて探したりした。しばらく捜索を続けた後、竜馬は人気のない草原で足を止めた。

「僕をつけまわすなんて、よほど変わった趣味をしているんだね・・」

 声をかけた竜馬の背後にいたのは結衣だった。結衣は無邪気な笑みを見せて、竜馬を見つめていた。

「ずっとあたしを探しているようだから、面白半分で逆に後をつけてみたの。おかしいよね。追いかけるのと追いかけられるのが逆になる気分は・・」

 笑顔で声をかけてくる結衣に、竜馬が振り返る。

「そういう悪ふざけ、僕も嫌いじゃないよ・・ただ・・」

 不敵な笑みを見せる竜馬の頬に紋様が走る。

「陥れるのは好きでも、陥れられるのは嫌いでね・・・」

 異形の姿へと変身する竜馬。しかし結衣は笑顔を絶やさない。

「それがあなたのもうひとつの姿なんだね・・」

「君も勇と同じクロノだよね?なら少しぐらいは楽しませてくれるよね?」

 互いに言葉を掛け合う結衣と竜馬。だが結衣は戦おうとする意思を見せない。

「どうした?戦ってくれないと楽しめないじゃないか・・」

「残念だけど、あたしの力は他のみんなのように好き放題に使えるものじゃないの。ゴメンね。」

「そう。それじゃ仕方がないね・・」

 結衣に向けて答えた直後、竜馬が飛びかかって衝撃波を放つ。だが結衣は跳躍してこれをかわす。

「・・なんて納得すると思っていたのかい?」

 竜馬が眼つきを鋭くして、さらに衝撃波を放つ。結衣は身を翻して、次々とかわしていく。

「逃げ足はなかなかだね。でもそれだけじゃ僕には勝てないよ。」

「ホントに力を使いたくないんだけどねぇ・・」

 声をかける竜馬に、結衣が呆れてため息をつく。しかし竜馬は彼女の言葉を聞きいれようとしない。

「この分じゃ時任勇を相手にしていたほうがまだ楽しめるよ。」

 竜馬のこの言葉を耳にして、結衣が笑みを消す。

「悪いけど、勇には手を出させないよ・・勇を傷つけるんだったら、あたしも容赦しないよ・・・」

 低い声音で言いかける結衣の頬に異様な紋様が浮かび上がる。

「やっとその気になったようだね・・」

 クロノへ変身した彼女を見て、竜馬が笑みをこぼす。彼は彼女に向けて重力を仕掛ける。

 だが結衣は時間操作を発動して空間を歪め、重力を軽々と跳ね除ける。それだけでなく、空間歪曲による衝撃波は竜馬にも襲い掛かった。

「うわっ!」

 その衝撃に押されて突き飛ばされる竜馬。結衣の力に軽々とあしらわれ、彼は驚愕を感じずにいられなかった。

「こ、ここまでの威力だと!?・・威力だけなら、時任勇を超える・・・!」

 結衣の力に脅威を覚える竜馬。漆黒の稲妻を身にまとい、結衣が竜馬に迫ろうとしていた。

 

 

次回

第21話「時の呪縛」

 

「お前が真っ向から勝負して、敵う相手ではない・・!」

「できることなら、あなたと戦いたくなかった・・・」

「勇くん、危ない!」

「変わらない時間の中にいさせること・・それがせめてものあたしの手向け・・・」

 

 

作品集

 

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