ガルヴォルスPF 第19話「おもいで」
突如勇たちの前に現れた少女、ユイ。彼女は勇と同じクロノであり、その力で彼や姫菜たちを助けたのである。
「ところで、君たちの名前、聞いてなかったね。よかったら聞かせてもらえないかな?」
ユイの問いかけに一瞬戸惑うも、勇たちは微笑んで自己紹介をする。
「私は萩原姫菜です。」
「あたしは篠原スミレ。」
「僕は時任勇です。よろしく・・」
3人の名前を聞いたところで、ユイが疑問を覚える。
「勇・・もしかして・・・」
「あの、ユイ、ちゃん・・・?」
考え込んでいたところで勇に声をかけられ、ユイが我に返る。
「あ〜、ゴメンゴメン、何でもないよ。アハハハハ・・・」
照れ笑いを見せるユイに、勇と姫菜は唖然となり、スミレは呆れる。
「ユイって、変わり者だって言われない・・・?」
「エヘヘヘ・・よく言われる・・・」
スミレが言いかけると、ユイは再び照れ笑いを浮かべる。この無邪気な少女に、勇と姫菜は安らぎを感じていた。
蝋人形にされていた生徒や教師たちが元に戻り、その日の奇怪な騒動は終結した。平穏を取り戻した学校は、放課後を迎えていた。
揃って下校する勇、姫菜、スミレ。正門を通ろうとした3人が、そこで待っているユイが手を振ってきていることに気付く。
「もう、恥ずかしいったら・・・」
そんな彼女に呆れ果てるスミレ。勇と姫菜もただただ苦笑いを浮かべるばかりだった。
「ちょっと言っておきたいことがあって、ここで待ってたんだよ・・・」
「そうだったの・・・僕も君のことを気にしていてね・・」
声をかけるユイに、勇も自分たちの心境を打ち明けた。
「あ、そうだったね。君たちもあたしのことでいろいろと聞きたいことがあったはずなのに・・」
「いや、いいよ・・僕たちもいろいろあって、聞きそびれちゃっただけだから・・・」
沈痛の面持ちを見せるユイに、勇が弁解を入れる。それを聞いて、ユイが笑顔を取り戻す。
「それで、話を言うのは何なの・・・?」
「まぁ、ここだとドタバタ感があるから場所を変えよう。あまり聞かれたくないこともあるはずだから・・」
姫菜が訊ねると、ユイが外のほうに眼を向けて答える。
「だったらあたしの家なんかいいんじゃないかな?家は今はあたししかいないから・・」
そこへスミレが言いかけると、勇と姫菜はそれに同意する。4人は彼女の家に向かうこととなった。
到着して篠原家のリビングに腰を下ろす勇たち。スミレがケーキを持ってリビングに戻ってきた。
「いきなりだったからこういうのしかなかったんだけど・・」
「ううん、気にしなくていいよ。僕たちが押しかけちゃったみたいなものなんだから・・」
謝意を見せるスミレに、勇が弁解を入れる。出されたショートケーキを口にして、ユイが喜びを見せる。
「ん〜・・やっぱりお菓子やデザートは幸せを運んでくれる宝物だよ〜・・♪」
「ユイ・・アンタ、ホントに変わってるって・・・」
満面の笑みを見せるユイに、スミレが呆れ果てて言いかける。しかしユイの歓喜はしばらく続いた。
「それじゃ、いい加減に本題に入ることにするわよ。ユイ、アンタもクロノなのよね?」
「う、うん。おかげで怪物たちに追い掛け回されたりしたけど、やっつけちゃった・・」
真剣な面持ちで訊ねるスミレに、ユイが落ち着きを見せて答える。
「他にもあたしと同じクロノがいるって聞いてね。そこで君たちと会ったわけ。」
「そうだったの・・よかったね、勇くん。頼もしいお友達だよ・・」
ユイの言葉を聞いて、喜びを感じた姫菜が勇に声をかける。だが勇は神妙な面持ちを浮かべて、考え込んでいるようだった。
「どうしたの、勇くん・・・?」
「えっ?う、ううん、何でもない・・」
姫菜に声をかけられて、勇は我に返って弁解を入れる。勇はひとつ気になることがあった。
(ユイちゃん・・どこかで見たような気がする・・・でも、どこで・・・)
勇もユイのことが気になって仕方がなかった。2人の気持ちが奇妙な形で錯綜していた。
「それで、ユイちゃんはこれからどうするつもりなの?」
姫菜が質問を投げかけると、勇とスミレもユイに眼を向ける。
「まぁ、あたしとしては、同じクロノが怪物たちに追われてるのを黙ってられないんだけど・・」
「つまり、あたしたちと一緒に戦ってくれるの?」
「うん。あたしとしても味方がいてくれたほうが心強いからね。」
スミレの言葉に、ユイが微笑んで答える。
「さーて。気分転換に外に遊びに行っちゃおうよ♪勇くん、この街のこといろいろと教えてほしいんだけど・・」
「えっ?・・うん・・僕たちでいいなら構わないけど・・」
ユイの申し出に勇が戸惑いを見せながら答える。それを聞いてユイが笑顔を見せる。
「よかったー♪できれば楽しいとことか、おいしいとことかがいいかなー♪」
「ユイ、あたしたち以上に子供ね・・・」
ユイの言動に、スミレはまともに反論する気持ちさえもそがれてしまっていた。
「僕たちが知っているところは、本当にわずかだよ・・僕たち子供の行けるところなんて限られてるんだから・・」
「あ、そうだったね・・でもそれでもいいところはあることに変わりはないよね♪」
勇が言いかけると、ユイが照れ笑いを浮かべて答えた。
それから勇たちは公園に繰り出した。
比較的広めの公園で、いろいろな遊具が設置されていた。子供たちにとって飽きの来ない場所だった。
ブランコ、シーソー、鉄棒。いろいろなものに手を出していく。失敗してしりもちをつくと、全員が笑みをこぼしていた。
すり傷ができても、水で洗って消毒し、すぐに笑顔を取り戻していった。
こうした屈託のない時間はあっという間に過ぎていき、夕暮れにさしかかろうとしていた。
「アハハハ、ちょっと羽目を外しすぎちゃったね・・」
「本当にはしゃぎすぎちゃったよ・・おかげでボロボロになっちゃった・・」
照れ笑いを浮かべるユイに、勇が苦笑いを見せる。
「おかげで洗濯しないといけないわね・・」
「でも、こうして元気に遊ぶのもいいものだよ・・ちょっとはしゃぎすぎちゃったかもしれないけど・・」
ため息をつくスミレと、微笑みかける姫菜。勇とユイも笑みをこぼしていた。
「ホント・・こんなに楽しかったのは久しぶりだったかもしれない・・・」
「えっ・・・?」
ユイが口にした言葉に、勇が戸惑いを見せる。
「みんなとこうして、時間を忘れて思いっきり遊ぶ。そして楽しむ。みんなと過ごして、それを思い出したような気がする・・この時間を、この思い出を大切にしたい・・・」
「ユイちゃん・・・」
「その気持ちが、自分がここにいるって実感させてくれるんだね・・・」
笑顔を見せるユイ。彼女の眼にはうっすらと涙が浮かび上がっていた。
すると姫菜が優しくユイを抱きしめてきた。
「姫菜ちゃん・・・?」
突然の抱擁にユイが戸惑いを覚える。
「クロノだったから、いろいろ辛いことがあったんだよね・・・でも大丈夫だよ・・これからも楽しいことがいっぱいあるから・・・」
「姫菜ちゃん・・ありがとう・・こんなに優しい言葉を言われたのも、久しぶりかもしれない・・・」
姫菜の優しさを受けて、ユイがついに涙をこぼす。2人の安らぎを垣間見て、勇もスミレも安堵を感じていた。
「これは仲のいいことだねぇ・・」
そこへ1人の男が勇たちに声をかけてきた。勇たちが笑みを消して、男に振り返る。
「あなた、誰ですか?・・私たちに何か・・・?」
「待って、姫菜ちゃん!その人は・・!」
男に訊ねる姫菜を、ユイが呼び止める。次の瞬間、男が白熊の怪物へと変貌を遂げる。
「怪物・・こんなところにまで!」
スミレが声を荒げ、勇とユイが身構える。
「まずどいつからやっつけてやろうかなぁ・・」
怪物が言い放つと、口から冷たい息を吹きつけてきた。ユイが意識を集中すると、眼前に見えない壁が出現し、冷気をさえぎる。
「ユイちゃん・・・!」
勇がたまらず声を荒げる。障壁からそれた冷気が、公園の遊具や子供たちを次々と凍てつかせていく。
「みんなが、凍り付いていく・・・!」
「そんな・・・!?」
スミレと姫菜が周囲の異様な光景を見て愕然となる。公園は何もかもが凍てついた死の銀世界と化していた。
「ゴメン・・あたしじゃ勇くんたちを守ることしか・・・」
「ううん、気にしないで・・ユイちゃんは僕たちを守ろうとして・・・」
謝罪の言葉を口にするユイに、勇が弁解を入れる。体勢を整えた彼らが、怪物を見据える。
「そうか・・お前たちクロノだったのか・・まぁいい。すぐに凍らせてやるから!」
いきり立った怪物が咆哮を上げる。その前に勇とユイが完全と立ちはだかる。
「あなたの勝手にはさせない!」
「姫菜ちゃんとスミレちゃんに、これ以上手は出させない!」
激情をあらわにした勇とユイがクロノに変身する。立ちはだかる2人を前にしても、怪物は笑みを消さない。
「クロノだろうと何だろうと、ここで凍らされることに変わりはない!」
怪物が口から再び吹雪を放つ。だが勇とユイは稲妻を放出して、吹雪を弾き飛ばす。
「クロノが2人も揃ってるんだから。もうあなたに勝ち目はないよ・・・!」
ユイが鋭く言い放つと、怪物に向けて稲妻を解き放つ。その電撃にさいなまれて、怪物が絶叫を上げる。
勇も続いて稲妻を放ち、強力な時間凍結をもたらしていく。怪物は一瞬にして、その呪縛に絡め取られていく。
「こ、こんな・・こうも簡単に・・・!」
うめく怪物が完全に時間凍結に包まれ、微動だにしなくなる。それを確かめた勇とユイが力を抜く。
「これで動きを封じることができた・・・」
「でもこれだとまだみんなが氷付けから解放されない・・やっつけちゃわないと・・・」
安堵を浮かべる勇だが、ユイは緊張を解いていない。彼女は力を集中して解き放つと、時間凍結されていた怪物の体が、その呪縛をかけられたまま粉々になった。
「えっ・・・!?」
眼の前で起きた出来事に、勇が息を呑む。クロノにこれほどの力があったことに、彼は気付かされたのだった。
「クロノには時間凍結させた相手にとどめを刺すことができるんだよ。といっても通用しないのもいるんだけどね。同じクロノ同士じゃ絶対に効かない。」
「そうだったの・・・僕にも、こんな力が・・・」
ユイの説明を聞いて、勇が自分の両手を見つめる。自分の中に、クロノとしての力がまだまだ隠されているのだと、彼は痛感していた。
怪物の消滅により、氷付けにされていた建物や子供たちが解放される。
「あれ?僕たち・・・?」
「あたしたち、何があったの・・・?」
自分たちの身に起こったことに、子供たちがいろいろな様子を見せる。それを見て、人間の姿に戻った勇とユイが安堵を覚える。
「とりあえず、一件落着って感じだね・・」
スミレが言いかけると、姫菜も微笑んで頷く。
「そろそろ帰らないとまずいね。これ以上遅くなったら、父さんに本当に怒られちゃうよ・・」
勇が肩を落としながら言いかけ、ユイがそれを見て笑みをこぼしていた。
それから公園を去った勇たち。帰路の途中でスミレと別れ、勇、姫菜、ユイは萩原家に向かっていた。
「姫菜ちゃん、ホントにお邪魔しちゃっていいのかな・・・?」
「大丈夫だよ。私、ユイちゃんにも料理を食べてほしいし、お父さんも歓迎してくれるよ・・」
困り顔を見せるユイに、姫菜が笑顔で答える。
ユイは最初、萩原家にお邪魔するのに乗り気ではなかった。迷惑をかけてしまうのではないかと思っていたのだ。だが姫菜に来てほしいと誘われて、ユイは渋々行くこととなったのである。
「姫菜ちゃんのご飯はおいしいから、ユイちゃんもきっと喜んでくれるよ・・」
「そんな、勇くん・・そういわれると照れちゃうよ・・・」
勇がかけた言葉に、姫菜が照れ笑いを見せる。
「そこまで言われちゃうと、食べないわけにはいかないかな。アハハハ・・・」
ユイも照れ笑いを浮かべて、勇と姫菜の誘いに改めて甘んじることにした。3人はしばらく歩いて、萩原家に帰ってきた。
「ここが私たちの家。勇くんも一緒に住んでいるのよ。」
姫菜が家を指し示してユイに声をかける。
「遠慮しないで、ユイちゃん。ちょっと声をかけてくるね。」
勇はユイに言いかけると、玄関へと駆けていった。
「ただいま、父さん。」
「おぅ、勇、姫菜。帰ったか。」
勇が挨拶をすると、居間にいた京が声を返してきた。
「父さん、今日お友達に夜ご飯をご馳走することになりました。」
「おぉ、そうか。スミレちゃんか?」
「いえ。今日新しくお友達になったんです・・」
勇の言葉に京が眉をひそめる。立ち上がった彼は、勇たちのいる玄関に向かう。
「それで、その友達っていうのは?」
「うん。ユイちゃんっていうの・・」
京が声をかけると、姫菜がユイを紹介する。
「はじめまして。ユイって・・・」
ユイが自己紹介をしたときだった。彼女は京を眼にした途端、無邪気さを込めた笑みを消していた。
「お前、どうして・・・!?」
京もユイを眼にして驚愕していた。彼は彼女の顔に覚えがあった。
「父さん、どうかしたんですか・・・?」
その様子に勇も疑問を覚える。普段見せないような血相を見せていた京が、ユイを見つめたまま息を呑む。
「どうかしたもなにも・・その顔は、時任結衣(ときとうゆい)・・おめぇのお袋だぞ・・・!」
京の口にした言葉に、勇が驚愕を覚える。親友となった少女、ユイこそが彼の母親である結衣だった。
「何を言っているんですか、父さん!?・・だって母さんは、僕がもっと小さかったときにいなくなったって・・・!?」
「あぁ・・確かにその通りだ・・・!」
声を荒げる勇に京が言いかけ、ユイに眼を向ける。
「結衣は確かにあの怪物の事件で生死不明になった・・借りに生きていたとしても、こんなガキの姿でいるなんて、絶対にありえねぇ!」
「そう・・そう考えるのが普通だよね・・・」
叫ぶ京に向けて、ユイが答える。その言葉に勇と姫菜が眼を見開く。
「母親としてのぬくもりを感じなくてもおかしくないよ。これもクロノなのだから・・・」
「それじゃ、ユイちゃん・・あなたは本当に勇くんのお母さん・・・!?」
微笑みかけるユイに、姫菜が声を震わせる。
「まさか勇が預けられていたのが京くんだったなんてね・・正直あたしも予想外だったよ・・」
「それじゃ、本当に僕の・・・!?」
妖艶に振舞うユイに、勇は言葉を詰まらせる。軽やかな振る舞いを見せた後、ユイは勇たちに言いかける。
「自己紹介をしておくわね。あたしは時任結衣。勇、君のお母さんだよ・・」
自己紹介をする少女、結衣に、勇たちは動揺の色を隠せなくなっていた。
次回
「ユイちゃんが、僕のお母さんだったなんて・・・!?」
「クロノは人間からも怪物からも敵視されている・・」
「勇、あなたにはクロノとして、力強く生きていてほしいの・・」
「勇くんは、もう答えを出している・・・」
「僕は、母さんを信じたい・・・」