ガルヴォルスPF 第14話「魂の狩人」
勇は姫菜から、先ほど起こった出来事について聞かされていた。その話に勇は困惑を覚える。
「そんな・・理恵先生が・・・!?」
その首謀者が理恵であることに、勇は驚愕する。
「私も今でも信じられないよ、理恵先生が・・でもこの眼で見たの・・先生がおかしな光で私たちを狙ってきたの・・」
「それで、スミレちゃんは・・・!?」
「私を守ろうとして、先生に飛びかかっていって・・・」
勇の問いかけに、姫菜が沈痛の面持ちを浮かべて答える。
「とにかく急いでいかないと!スミレちゃんが危ない!」
思い立った勇の言葉に姫菜も頷く。2人はスミレを助けるため、駆け出していくのだった。
理恵と遭遇した場所にたどり着いた勇と姫菜。しかしそこにはスミレも理恵もいなかった。
「スミレちゃんがいない・・・まさか、理恵先生に・・!?」
「そんなことないよ!スミレちゃんが、ちょっとやそっとのことでやられるわけない!」
不安を口にする姫菜に、勇が言いかける。その言葉に触発されて、姫菜は戸惑いを見せる。
「ここでさっきまでスミレちゃんがいたなら、まだ近くにいるはずだよ・・」
勇は言いかけると、意識を集中して注意を払う。スミレではなく、彼女をさらった理恵の気配を。
(理恵先生が怪物と同じ力を持っているなら、もしもスミレちゃんをさらっていったなら、先生の気配を探れば・・・)
思い立った勇は、さらに意識と集中力を研ぎ澄ませる。そして彼はひとつの異質の力を感じ取った。
「今まで感じたことのない感じの力・・それが先生の・・・」
「勇くん・・・」
勇が呟いた言葉に姫菜がさらに戸惑う。気持ちを落ち着けてから、勇は姫菜に声をかける。
「姫菜ちゃん、今からスミレちゃんを助けに行く。だから姫菜ちゃんは家に戻ってて・・」
「ううん・・勇くん、私もスミレちゃんを探しに行くよ・・」
姫菜の突然の申し出に、勇は驚きを覚える。
「ダ、ダメだよ、姫菜ちゃん!これから僕が行くところは、とても危険なところなんだ!そんなところに、姫菜ちゃんを巻き込みたくない!」
「・・ありがとう、勇くん・・そう思ってくれていたから、今まで私には話さなかったんだよね・・・」
必死に呼びかける勇に、姫菜は微笑みかける。
「でも、こうして勇くんのことを知って、私も勇くんやみんなのために何かしなくちゃいけないと思う・・自分になにかやれることがあると信じて・・」
「姫菜ちゃん・・・」
姫菜の決意を受け止めて、今度は勇が戸惑いを見せる。
「ガンコなところはお父さん譲りだよ。ダメだって言っても行くよ、私も・・」
笑顔を見せる姫菜に対し、勇はこれ以上言葉をかけることができなかった。
「でも、危なくなったら本当に逃げて・・正直、姫菜ちゃんを巻き込みたくない気持ちは、今でも変わらない・・・」
「分かってる・・本当にありがとうね、勇くん・・・」
勇の呼びかけに答えて、姫菜が再び笑顔を見せる。2人は再び通りを駆け抜けていった。
勇と姫菜がたどり着いたのは、2人が通っている塾だった。そこは理恵が教師と管理人を兼ねている塾だった。
「ここで待ち伏せている、ということなのかな・・・?」
「多分・・僕たちを誘っているんじゃ・・・」
不安を見せる姫菜に、勇が緊張を覚えて頷く。
「もしかしたら、どこか物陰に隠れて、僕たちを狙ってくるかもしれない・・・といっても・・」
勇は言いかけて半ば諦めの様子を見せる。姫菜に何を言っても聞かないと思っていたのである。
「行こう、勇くん・・スミレちゃんを助けよう・・」
「そうだね・・スミレちゃんは、きっと無事でいる・・そう信じて・・」
姫菜の呼びかけに勇が答える。2人は意を決して、眼前に塾に足を踏み入れる。
2人とも緊張を膨らませていた。いつも気兼ねなく通っている塾なのに、今日は入ることに抵抗を感じている。
廊下を進んでいく2人が一歩一歩踏みしめると同時に、緊張も増していった。
2人はいつしか教室に来ていた。授業のある時間はにぎやかなこの場所は、今は人はおらず、静かだった。
「人がいないと、本当に静かだね・・」
姫菜の言葉に勇が無言で頷く。無人の教室は音を立てれば確実に響き渡る。何かが出るような雰囲気すら漂わせていた。
「次はあなたたちの番、ということね・・・」
そのとき、背後から声をかけられて、勇と姫菜が緊迫を覚える。恐る恐る振り返ると、そこには理恵がいた。
「理恵先生・・・」
「こんにちは、時任くん、萩原さん。今日は授業のある日じゃなかったはずだけど?」
戸惑いを見せる勇に、理恵が笑顔で挨拶をしてきた。
「先生、スミレちゃんはどこですか?先生と一緒だったはずです。」
「篠崎さん?今日は会っていないけど・・」
姫菜の問いかけに理恵が答える。だがそれがウソであることは明白だった。
「僕たちには分かっていますよ、先生・・姫菜ちゃんがウソをつくはずがありませんし・・それに・・」
そこへ勇が言いかけ、理恵に鋭い視線を向ける。
「感じますよ・・先生からあふれてくるおかしな力を、イヤというほどに・・・」
「なるほど・・私もあなたと同じ、すごい力を持っているのね、勇くん・・・」
勇に言いとがめられて、理恵はついに自分の素性を明かすことにした。
「ついてきて、2人とも。あなたたちに話してあげるわ・・本当の私を・・」
理恵は勇と姫菜を招き、廊下を歩き出す。緊張感を強めながら、2人は彼女についていくことにした。
3人は廊下の先にある地下への階段を下りていた。普段は立ち入り禁止と呼びかけられており、勇と姫菜にとって初めて踏み込む場所だった。
「進んで他人を案内するのは初めてかしらね・・ここは私の心のある場所でもあるから・・・」
言いかける理恵が、階段を下りた先のドアの前で立ち止まる。勇と姫菜がいることを確かめてから、彼女はそのドアを開ける。
部屋の中は明かりがついておらず、暗闇で満たされていた。3人が部屋に入ったところで、ドアが自然と閉まる。
その音に勇と姫菜が緊張を高まらせる。次の瞬間、理恵が部屋の明かりを付けた。
突然の光に一瞬眼がくらむ勇と姫菜。眼が慣れて視線を戻した2人は、部屋の中の光景にたまらず息を呑んだ。
部屋の中には何人もの子供たちが立ち並んでいた。いずれも色を失くしており、石化したかのように硬直してその場に立ち尽くしていた。
さらに部屋の周りの棚には、いくつもの水晶のような球が並べられていた。その中には、一糸まとわぬ姿の子供たちが眠るように閉じ込められていた。
「これって・・まさかみんな・・・!?」
この光景を目の当たりにした勇が声を荒げる。すると理恵が笑みを強め、言いかける。
「そう。これはみんな子供たちの魂と、それを抜かれた体。みんな私の力で魂を抜いたのよ・・」
理恵の言葉を耳にしていた姫菜が、スミレを発見する。彼女も同じように魂を抜かれて硬直していた。
「スミレちゃん・・・!?」
変わり果てたスミレの姿に、姫菜が愕然となる。勇は棚の中にあるスミレの魂を目撃する。
「スミレちゃん・・・どうしてですか、先生!?・・・どうしてスミレちゃんや、みんなを・・・!?」
勇が深刻さを込めて問い詰めると、理恵が妖しく微笑みかける。
「子供たちの魂は純粋できれいなもの・・子供たちの輝かしい魂を見ていると、心が安らぐのよ・・」
「そのために、みんなを・・・!?」
「だってこんなにきれいなもの、他にないもの・・子供たちも辛いことを経験することなくて、いい気分になっているはずよ・・」
愕然となる勇に向けて、理恵が淡々と語りかける。彼女は魂の輝きに魅入られていた。
「もうやめて、先生!先生、子供は宝物のように好きだって、いつも言っていたじゃないですか!?」
そこへ姫菜が悲痛の面持ちで呼びかける。だが理恵は笑みを消さない。
「もちろん好きよ、今でも。だからこうして大切にしているの・・ここにいれば、みんなけがされない・・私が守り続けていくから・・」
「それは違います!こんなの、全然守ってることになっていまいですよ!」
理恵の言葉を頑なに否定する姫菜。その様子に、勇も胸を締め付けられる気持ちに駆られていた。
「守るというのはこんな偽物の輝きを光らせることじゃない。心から安心できて、笑顔を見せられるような気持ちが持てることですよ・・」
「笑顔だけでは本当の輝きは生まれない・・本当の輝きを子供たちに与えるために、私がいるのよ・・」
姫菜の言葉を受け入れない理恵。理恵が勇と姫菜に向けて右手をかざす。
「時任くん、萩原さん、あなたたちの魂も、もらうからね・・・」
「先生!」
妖しく微笑む理恵に、勇が叫ぶ。彼女の手から淡い光が放たれる。
「よけて、勇くん!」
姫菜に呼びかけられて、勇がとっさに横に飛ぶ勇。光は目標を外して、扉に当たって弾ける。
「この光・・もしかして、この光でスミレちゃんたちを・・・!?」
「そう。あなたたちの魂がどんなものなのか、確かめさせて・・」
息を呑む勇に語りかけて、理恵が笑みを強める。彼女の手から次々と光が放射されていく。
「これが先生の考えなの?・・僕たちの気持ちを無視してでも、先生は・・・!」
いきり立った勇の頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼の変動に理恵が眉をひそめ、姫菜が不安を覚える。
「姫菜ちゃん、しっかり見ていて・・これが僕の、クロノの姿だよ・・・!」
姫菜に呼びかけた勇の姿が変貌を遂げる。時間を操る異形の存在、クロノの姿へと。
「勇くん・・・」
勇のクロノとしての姿に、姫菜は戸惑いを見せる。だが彼女は同時に、彼のその姿と力を受け止めようという気持ちも抱いていた。
「まさかあなたがクロノだったとはね・・正直驚かされたわね・・・」
一瞬驚きの面持ちを見せる理恵。だが魂を手に入れようとする彼女の欲情は、微塵も揺れ動いてはいなかった。
「クロノの魂がどんな輝きを秘めているのか、私に見せてもらえるかしら、時任くん・・・!」
いきり立った理恵が勇に向けて光を解き放つ。勇は全身から漆黒の稲妻を解き放ち、彼女の光をかき消す。
「ここは危ない!姫菜ちゃんは部屋から出たほうがいい!」
「ダメ!それならスミレちゃんやみんなを助け出してからじゃないと!」
呼びかける勇に言い返す姫菜。彼女も彼のためにできることを必死に模索していた。
「残念だけど、みんなの魂を体に戻すことは許さないわよ、萩原さん・・みんなこうして輝いているのだから!」
理恵が姫菜に向けて光を放つ。だがその光が姫菜に向かう途中でかき消される。勇が稲妻を解き放ってそれをかき消したのである。
「姫菜ちゃんに手を出すことは許さない・・たとえ理恵先生でも!」
「生徒にそんなに強く言われるなんてね・・でもいいわ。そのくらいの気持ちのほうが、魂を輝かせるのにいいからね・・」
鋭く言い放つ勇に対し、歓喜と期待を募らせる理恵。
「私は目的のためなら手段を選ばない・・あなたが萩原さんや篠原さんを気にかけているなら、それを突かない理由はない・・」
理恵は言いかけると、スミレの魂を手に取る。勇と姫菜が緊迫を一気に膨らませる。
「スミレちゃん!」
「今の私を攻撃したら、篠原さんの魂にも影響は出るわ。魂は体よりももろく、簡単には鍛えることができないもの。あなたほどでなくても、普通の人がショックを与えるだけで、簡単に壊れてしまうものなのよ・・」
声を荒げる勇に、理恵が妖しく言いかける。迂闊に攻撃ができなくなり、勇が息を呑む。
「このまま大人しくしていてね、時任くん・・先に萩原さんの魂を奪い取るから・・」
理恵が改めて姫菜に狙いを定める。だがその前に勇が立ちはだかる。
「言ったはずですよ、先生・・姫菜ちゃんに手を出すことは許さないって・・・!」
「勇くん・・・」
理恵に呼びかける勇に、姫菜が戸惑いを見せる。
「それに、もしスミレちゃんが僕たちのそばにいたら、きっとこういうと思う・・ウジウジしてないで早く片付けなさいよって・・」
言いかける勇が、スミレの顔を思い返す。彼女の勇気が、彼の中にも強く息づいていた。
「だから僕はもう、迷ったりしませんよ!」
勇がスミレの魂に惑わされず、理恵に飛びかかる。すると理恵がスミレの魂を勇に突きつけてきた。
勇は無意識にその魂を受け止めてしまう。その隙を突いて、理恵が三度姫菜を狙う。
「姫菜ちゃん!」
勇があえて姫菜に時間凍結を仕掛けようとした。時間を凍てつかせれば、それ以外の周囲からの影響を一切受け付けなくなるからである。
だが理恵は突如、勇に向けて一蹴を繰り出してきた。
「ぐっ!」
不意を突かれた勇が、スミレの魂を抱えたままその場にうずくまる。
「勇くん!」
勇に向けて叫ぶ姫菜。そこへ理恵が詰め寄り、姫菜の腕をつかむ。
「捕まえたよ、萩原さん。あなたの魂、見せてもらうわよ。」
理恵が言い放つと、姫菜に向けて光を放射しようとする。
「姫菜ちゃん・・・!」
勇が体に鞭を入れて飛びかかり、理恵を突き飛ばす。倒れそうになった姫菜を、彼は受け止める。
そこへ理恵が2人に向けて光を放つ。勇と姫菜はかわしきれず、その光を浴びてしまう。
「し、しまった・・・!」
光の力に束縛され、苦悶の表情を浮かべる勇と姫菜。その2人を見つめて、理恵が妖しく微笑む。
「とうとつ捕まえたわよ、時任くん、萩原さん。それじゃ、あなたたちの魂、見せてもらうわよ・・」
理恵は言い終わると、勇と姫菜に取り巻いている光に力を注ぐ。その束縛にさいなまれて、勇が人間の姿に戻る。
「勇くん!?」
「ク、クロノの力が・・体が、言うことを・・・!」
声を荒げる姫菜と、顔を歪める勇。光は2人の体の自由を徐々に奪っていった。
「ゴメン、姫菜ちゃん・・守ることが、できなくて・・・」
「ううん・・悪いのは私のほうだよ、勇くん・・・全然、力になれなくて・・・」
互いに沈痛の面持ちを浮かべ、謝る勇と姫菜。2人の体から力が抜け、姫菜の手がだらりと下がる。
「そろそろ頃合いね。さすがのクロノでも、こうなってしまったら私の思うがままということね・・」
光に包まれて立ち尽くす2人を見つめて、理恵が妖しく微笑む。
「どんな魂の輝きなのか、見せてもらうわね・・・」
理恵が光に向けて力を注ぐ。勇と姫菜を包んでいる光が収束され、球状となる。
理恵によって魂を抜き取られた勇と姫菜。だが2人の魂はひとつの光の球として形成されていた。
その魂には勇と姫菜の姿があった。2人は一糸まとわぬ姿で、互いを抱きしめあった状態で眠るように閉じ込められていた。
「これが時任くんと萩原さんの魂・・珍しいわね。2人の魂がひとつの形で現れるなんて・・」
理恵が興味津々と、魂の中にいる勇と姫菜の姿を見つめる。複数の魂を同時に抜き取っても、その魂の形は抜き取った人数と同じ個数となる。2人の魂がひとつの形で現れたことは、理恵にとっては初めてのことだった。
「でもいいわ。この魂、私が今まで見てきた中で1番輝いているわ・・私の心をすごく和ませてくれる・・・」
高揚感を膨らませる理恵。勇と姫菜の魂は今、彼女の手の内にあった。
次回
「私たちは、ちゃんと心を通わせていたんだね・・・」
「僕たちの心がここにある限り、まだ諦めちゃいけない・・・」
「まさか、こんなことが・・・!?」
「勇くん・・・」
「みんなを守りたい・・この気持ちが今、僕の中で暴れている・・・!」