ガルヴォルスPF 第13話「後悔」
スミレに連れられて、自宅へと戻ってきた勇。だが勇は、姫菜を守れないこととクロノへ変身できないことへの苦悩にさいなまれていた。
勇に向けての言葉が出なくなり、スミレも困惑するしかなかった。
「勇、完全に絶望しちゃってる・・あたしがどんなに言っても、全然効き目がない・・」
気落ちしている勇の顔を見て、沈痛の面持ちを浮かべるスミレ。
「こうなったら、ここはあたしが、姫菜を守るしかない・・・!」
勇に代わって姫菜を守ろうといきり立ったスミレ。その隣で、勇は未だに絶望感にさいなまれていた。
勇を姫菜や京に預けようと、スミレは萩原家のインターホンを鳴らした。すると京が玄関から顔を出してきた。
「スミレちゃん・・・勇・・・」
事情を飲み込んだ京が、スミレに真剣な面持ちを見せた。
「今、姫菜が勇を探して外に出ちまったんだ・・まだ出てってそんなにたってねぇから、追いかければ追いつくと思うぞ。」
「そうですか・・勇をお願いします!あたし、今から追いかけます!」
京から事情を聞いたスミレが、勇を預けて再び飛び出していった。ひとつ吐息をついてから、京が勇に眼を向ける。
「お前も追いかけなくちゃいけねぇだろ、勇・・」
京が呼びかけるが、勇はうつむいたまま答えようとしない。その態度に苛立った京が、勇の胸倉をつかみ上げる。
「いつまでそんなふうに腑抜けてるつもりだ!?姫菜はお前を探して外に出たんだぞ!」
「そんなはずないですよ・・姫菜ちゃん、僕の姿を見て怖がってたんですよ・・」
怒鳴りかける京に、勇が沈痛の面持ちを見せる。その言葉に京が眉をひそめる。
「もう僕には、どうすることもできない・・・クロノという凄い力があっても、姫菜ちゃんを苦しめてしまうだけ・・僕にはもう、どうすることもできない・・・」
自暴自棄に陥っている勇に、京はさらに激昂する。京は勇をつかみ上げたまま家の中に入り、リビングに放り込む。放り投げられた勇がテーブルにぶつかり、椅子も転倒する。
「てめぇ・・いつからそこまで腑抜けちまったんだ、てめぇは!」
怒鳴る京に、勇は戸惑いをあらわにする。
「辛いのはてめぇだけじゃねぇ!姫菜もてめぇのことを心配して、必死になってんだぞ!それなのに、てめぇはいつまでも弱音ばっか吐いてるつもりなのかよ!?」
「でも、こんな僕に、誰も守ってもらいたいなんて思わないですよ・・怪物である僕なんかに・・」
「あぁ、そうだな!そんな腑抜けたお前に、誰も守られたいとは思わねぇぞ!」
京が鋭く言い放った言葉に、勇は困惑する。弱気になっている自分を責められていると、勇は気付いた。
「本当だったら、お前や他の連中に頼らずに、オレが姫菜を守ってやりてぇ・・けどあのバケモン連中相手じゃ、人間であるオレも無力だ・・」
「父さん・・・」
「姫菜はおめぇを何とかしたいと躍起になってる!・・今、姫菜を守ることができるのは、おめぇしかいねぇんだぞ・・!」
勇に向けて京が鋭く言い放つ。その激励に勇が困惑する。
「よく考えてみろ!・・おめぇ自身にとって、何をすることが1番いいのかを・・おめぇのことを思ってくれてる人たちの気持ちを、ムダにするんじゃねぇ・・・!」
「父さん・・でも、僕の力で、姫菜ちゃんたちを・・・」
「そう怖がっちまうからそんなイヤなことが起こっちまうんだろうが・・行動する前からそんな泣き言を口にするんじゃねぇよ・・」
京の言葉を受けて、勇が戸惑いを覚える。姫菜を傷つけてしまうかもしれないと泣き言ばかり呟き、何もやろうとしない。向き合うことから背を向けて逃げているばかり。
勇はここで、自分がそんな弱さを露呈し続けてきたことを痛感する。
「くだらないことを考える前に、まず足を動かせ。そうすりゃイヤでも話をまとめられるだろうよ・・」
「父さん・・・分かりました・・僕、姫菜ちゃんのところに行ってきます・・・!」
京からの激励を受けて、勇が不安を振り払い、真剣な面持ちを浮かべて頷きかける。
「竜馬といった悪いヤツから、姫菜を守ってやるんだぞ・・」
「はい・・任せてください、父さん・・・!」
京の言葉を受けて、勇が答える。勇は姫菜を追って、家を飛び出していった。
「ちっと喝を入れてやれば、おめぇも無敵になれるんだがな・・」
勇を見送って、京は誇らしげに微笑みかけていた。
玄関の前で足を止めた勇は、自分に喝を入れるため、自分の頬を叩いた。
(僕がしっかりしないといけなかったんだ・・たとえ嫌われても、姫菜ちゃんを守りたい・・・)
思い立った勇が、姫菜を探すために駆け出す。
(僕の中にあるこの気持ちに、ウソはつきたくない・・・!)
自分の中にある決意を募らせて、勇は走る。姫菜のために、自分のために、自分を支えてくれるたくさんの人たちのために。
「おやおや。とても落ち込んでいるようには見えないね。」
その通りの途中で、勇は突然声をかけられて足を止める。彼の前に悠然さを浮かべる竜馬が現れた。
「竜馬くん・・・」
「姫菜ちゃんを引き離して、いろいろと心を追い詰めようとしていたんだけど・・どうやら立ち直ってしまったようだね・・」
戸惑いを見せる勇の前で、竜馬が異形の怪物へ変身する。
「やはり追い込むなら命を奪いに行ったほうが正解、ということか・・」
「僕は負けない・・たとえ君にも・・・姫菜ちゃんや、みんなを守るために・・・!」
鋭く言い放つ竜馬に言い返した勇も、クロノへと変身する。
「そこをどいて、竜馬くん!でないと僕は、君を・・・!」
「僕をどうするつもりだい?まさか倒すだなんて、冗談をいうつもりじゃないだろうね!」
勇の呼びかけに反発する竜馬が衝撃波を放つ。勇は大きく跳躍して、その攻撃をかわす。
「本当、相変わらず甘いね、君は。」
竜馬は不敵な笑みを浮かべると、勇に向けて重力操作を繰り出す。上からの重みにのしかかられて、勇が地面に叩きつけられる。
「息巻いていた君の意気込みはそんなものなのかい?そんな枯れ果てた意気込みなんて、僕が軽く壊してあげるよ!」
竜馬が眼を見開いて言い放つと、重力にさらなる力を込める。その重さに押されて勇がうめく。
「僕は・・僕はこんなところで倒れているわけにはいかない・・・!」
「何・・・!?」
力を振り絞って重力に抗う勇に、竜馬が笑みを消す。
「僕がここで倒れたら、姫菜ちゃんやみんなを、誰が守るっていうんだ!」
勇が竜馬の重力を跳ね除け、ついに立ち上がる。その姿に竜馬が驚きをあらわにする。
「僕の力を、また跳ね返してしまうとは・・!?」
竜馬がたまらず声を荒げる。悲鳴を上げる体に鞭を入れて、勇が竜馬に近づいていく。
「そこをどいて、竜馬くん・・僕は、姫菜ちゃんのところに行くんだ・・・!」
「そうはいかないよ・・姫菜ちゃんは、僕のものなんだ!」
鋭く言い放つ勇に対し、竜馬がいきり立つ。衝撃波を放とうとした竜馬に向かって、勇が飛びかかる。
勇が繰り出した拳が衝撃波を突き破り、竜馬のその手に叩き込まれる。その打撃に押されて、竜馬が突き飛ばされる。
すかさず勇が追撃を繰り出し、竜馬の体に叩き込む。激しく横転した竜馬の姿が人間に戻る。
「うぐっ!・・この僕が、また、こんなヤツに・・・!」
激痛にさいなまれて顔を歪める竜馬。同じく人間の姿に戻った勇が、彼に眼を向ける。
「竜馬くん、僕は行くよ・・姫菜ちゃんたちが待ってるから・・・」
「ま、待て!・・僕は、まだ・・・!」
真剣な面持ちで言いかける勇と、苛立ちをあらわにして立ち上がろうとする竜馬。だが疲弊していた竜馬は思うように立ち上がることができない。
「どうしても戦いたいというなら後にして・・僕は今は、姫菜ちゃんのことしか考えられないから・・」
「ふざけるな!・・とどめを刺さずに、僕の前から消える気か・・・!?」
立ち去ろうとする勇に怒鳴りかける竜馬だが、勇は立ち止まることなく姫菜たちを追いかけていった。
「こんなことで・・・くそっ!時任勇!」
苛立ちを膨らませるもそれを拭うことができず、竜馬は地面を殴りつける。完膚なきまでに勇に敗北したことを受け入れられず、彼は怒りの叫びを上げていた。
勇を探して外に飛び出していた姫菜。その途中、彼女は通りの真ん中で、彼女を追ってきたスミレと合流する。
「姫菜!・・姫菜、アンタも勇を探してたんだね・・」
「スミレちゃん・・勇くんは!?どこにいるか知っている!?」
「家に戻ってる。とても落ち込んでるけど、おじさんが何とかしてくれてると思う・・・」
スミレが事情を説明すると、姫菜が沈痛の面持ちを浮かべる。
「勇くんも、いろいろと悩んでいたみたいだね・・それなのに私は、怖がって逃げて・・・」
「アンタも勇と同じで、ちょっとしたことで余計に悩んじゃうところがあるからね・・やっぱりどっちもあたしがいないと立つ瀬がないわよね・・」
物悲しい笑みを浮かべる姫菜に、スミレが半ば呆れた様子で言いかける。その言葉に頷いて、姫菜が苦笑いを見せる。
「とにかく、早く家に戻るわよ。でないと勇、いつどこかに行っちゃうか分かんないわよ。」
スミレの呼びかけに姫菜が頷く。2人はひとまず萩原家に戻ることとなった。
「こんなところで何をしているの?」
そのとき、2人に向けて声がかかってきた。立ち止まって振り返った2人は、その相手に見覚えがあった。
「理恵、先生・・こんにちは。ちょっといろいろと・・」
「そう・・でも危ないことはいけないからね。でないと・・」
苦笑いを見せて弁解するスミレに注意する理恵の表情が曇る。
「危ない人に魂を取られてしまうわよ・・」
「先生・・・!?」
一変した理恵の様子に、姫菜とスミレが緊迫を覚える。
「次はあなたたちの番よ・・萩原さん、篠崎さん・・あなたたちの魂を、私にちょうだい・・」
「先生、いきなり何を言って・・・!?」
妖しく微笑む理恵に、姫菜が困惑を浮かべる。
「大人しく私についてきて・・そうすれば手荒なことにならなくて済むわ・・」
理恵が不安を浮かべている姫菜に近づく。そこへスミレが割って入り、理恵を睨みつける。
「たとえ先生でも、ちゃんとした理由なく暴力を振るっていいはずなんてない・・・!」
「スミレちゃん・・・」
理恵に鋭く言い放つスミレに、姫菜は戸惑いを覚える。だが理恵は退く様子もなく、逆に喜びを募らせていた。
「あなたはいつも元気で、みんなを引っ張っていたわね、篠崎さん・・私もそんなあなたが好きよ・・」
理恵は妖しく言いかけると、右手をかざして淡い光を出現させる。
「スミレちゃん!」
姫菜の声を受けて、スミレがとっさに横に動いた。理恵が放った光は外れて、地面に当たって弾ける。
「スミレちゃん、大丈夫!?」
「うん、あたしは平気・・ありがとうね・・」
姫菜の呼びかけにスミレが答える。2人は緊迫を抱えたまま、理恵に眼を向ける。
「逃げないでよ・・ただ私は、あなたたちの魂を見てみたいだけなんだから・・」
「先生、いい加減にしてよ!自分の力に振り回されないで!」
笑みをこぼす理恵に必死に呼びかけるスミレ。だが理恵は聞き入れようとしない。
「別に振り回されてはいない・・これは私の欲望。私のしたいことなんだから・・」
「本気なの、先生!?・・本気で、私たちを・・・!?」
淡々と言いかける理恵に、姫菜が愕然となる。これまで自分たちが信頼を寄せてきた塾の教師が、生徒である子供たちを脅かしていた。その事実を彼女は受け入れられないでいた。
「それじゃ、そろそろあなたたちの魂を見せてもらえる?どっちからいこうかな?」
理恵が再び淡い光を発し、姫菜たちの魂を狙う。
「姫菜!」
そこへスミレが理恵に飛びかかってきた。奇襲を受けた理恵が突き飛ばされ、しりもちをつく。
「姫菜、早く勇のところに!」
「スミレちゃん!」
呼びかけるスミレに、姫菜が困惑する。理恵がスミレの両肩をつかみ、捕まえる。
「スミレちゃん!」
「来ないで!」
駆け寄ろうとした姫菜を、スミレが叫んで制する。その声に姫菜が足を止める。
「あたしのことはいいから、姫菜は勇のところに行って!」
「でも、それだとスミレちゃんが・・!」
「いいから早く!」
姫菜に強く言い放つスミレ。その言葉に押されて、姫菜はたまらず駆け出した。
「そんなにあなたから魂を取られたいのね、篠崎さん・・」
「あたしなんかの魂見たって、面白くも何ともないわよ!」
妖しく言いかける理恵に対し、強気な態度を見せるスミレ。
「面白いかどうか、それを決めるのは私よ・・・」
理恵は眼つきを鋭くして言いかけると、両手から光を放出する。その光に包まれたスミレがおかしな感覚を覚え、体を震わせる。
(どうなってるの!?・・体が動かない・・声も、出せない・・・!?)
胸中で自分の身に起きた異変に驚愕するスミレ。身動きの取れない彼女を、理恵が微笑んで見つめる。
「これであなたは私の思い通り。このまま魂を抜かれるだけ。でも心配しないで。痛くないから。」
理恵はスミレに言いかけると、かざしている右手にさらに力を込める。スミレを取り巻いている光が収束されていくと同時に、彼女の体から色が失われていく。
(ゴメン、姫菜・・一緒に行けなくて・・・勇・・姫菜を・・守って・・・)
姫菜と勇への想いを募らせたスミレの意識が途切れる。光が彼女の体から離れ、球状に収束されていく。
「やったわ・・これが篠崎さんの魂・・・」
その光を引き寄せ、その中を見つめる理恵。光の中には一糸まとわぬ姿のスミレが、眠るように閉じ込められていた。
「強い心の持ち主であるほど、魂の輝きも強い・・篠崎さんは、私が今まで見てきた魂の中で、1番輝いている・・」
スミレの魂に感嘆を覚える理恵。彼女は姫菜が逃げたほうに眼を向ける。
「このまま萩原さんを追ってもいいんだけど、とりあえず篠崎さんをお持ち帰りしてしまいましょうか・・」
理恵はそういうと、色を失くして硬質化しているスミレの体を抱きしめると、音もなく姿を消した。スミレの魂と体は、理恵に完全に掌握されてしまった。
姫菜たちを探して通りを駆け抜けていく勇。姫菜もスミレも普通の人間であるため、気配を感じて探ることができず、彼は途方に暮れていた。
(急いで姫菜ちゃんを見つけなくちゃ・・もしかしたら、また別の怪物に狙われてるかもしれない・・)
「勇くん!」
焦りを覚えていたところで、勇が姫菜の声を耳にする。振り返った先には、息を絶え絶えにして駆け込んできた姫菜がいた。
「姫菜ちゃん!」
勇も駆け寄り、姫菜と合流する。
「姫菜ちゃん・・・ゴメン!僕、姫菜ちゃんに隠し事をしていて・・・!」
勇が姫菜に向けて深々と頭を下げた。突然の謝罪に姫菜は一瞬戸惑う。
「僕、姫菜ちゃんを巻き込みたくないと思って、今まであのことを隠してきたんだ・・僕自身、あんな姿になったことに、正直今でも不安の思っている部分がある・・でもこれだけは分かる!姫菜ちゃんを守りたいという気持ちは!」
「勇くん・・・」
勇の切実な想いを垣間見て、姫菜は動揺を隠せなくなっていた。彼女は改めて、勇がここまで想ってくれていたことを痛感する。
だがスミレの危機を思い出し、姫菜は勇に呼びかける。
「勇くん、大変なの!スミレちゃんが!」
「えっ!?スミレちゃんが・・!?」
姫菜が言いかけた言葉に勇が緊迫を覚えた。彼女は彼にこれまで起こった出来事を打ち明けるのだった。
次回
「そんな・・理恵先生が・・・!?」
「次はあなたたちの番、ということね・・・」
「どうしてスミレちゃんや、みんなを・・・!?」
「子供たちの輝かしい魂を見ていると、心が安らぐのよ・・」
「時任くん、萩原さん、あなたたちの魂も、もらうからね・・・」