ガルヴォルスPF 第11話「暴露への策略」
勇の励ましを受けた姫菜は、スミレとの和解を心に決める。1日学校を休んでいたスミレが、登校する勇とスミレに顔を見せてきた。
「おはよう、勇、姫菜。」
「おはよう、スミレちゃん。もう大丈夫なの?」
挨拶をしてきたスミレに、勇が訊ねてきた。
「ゴメンね、いろいろ迷惑かけて・・でも大丈夫だよ。もう2度とこんな失態はしないから。」
スミレは微笑んで言いかけると、姫菜に視線を向ける。すると姫菜とスミレが一瞬、困惑の色を浮かべる。
「ゴメンね、姫菜、あのときは・・姫菜を傷つけるつもりはなかった・・・」
「ううん・・私のほうこそゴメンなさい・・スミレちゃんに暴力を振るってしまって・・」
お互い謝罪の言葉を掛け合うスミレと姫菜。2人は握手を交わし、笑顔を見せ合う。
2人の和解を垣間見て、勇も喜びを感じていた。
「さて、しんみりした部分はこれでおしまい!早く学校に行かないと遅刻するよ!」
「あっ!待って、スミレちゃん!」
活気を見せて走り出すスミレ。勇も慌てて、姫菜と一緒に彼女を追いかけた。
このような楽しく明るい日々が続いてほしい。勇は心の中でそう願っていた。
だが同時に勇は、一抹の不安も抱いていた。自分がクロノであることを打ち明ける。それは遅かれ早かれ避けられないことである。
(いつか僕のこと、姫菜ちゃんに打ち明けなくちゃいけないかもね・・・)
ひとつの覚悟を胸に秘めて、勇は日常へと戻っていった。
教室にやってきて、次の授業の教科書とノートを取り出す勇。姫菜とスミレの和解を確信し、彼は安堵の笑みを浮かべていた。
「何だか機嫌がいいみたいだね。」
そこへ竜馬が声をかけてきた。緊張感を覚える勇が笑みを消し、竜馬に眼を向ける。
「そう怖い顔しないで。そういうことされると、また気分が変わってしまうよ・・」
「それは君にも分からないことだと思うよ・・」
「やれやれ。僕も嫌われてしまったみたいだね・・・」
鋭く言いかける勇だが、竜馬は悠然さを崩さない。
「前にも言ったけど、僕は僕が楽しむためだったら何でもやるよ。姫菜ちゃんも僕のものにしてしまうかも。」
「そんなことはさせないよ・・姫菜ちゃんに、手出しはさせない・・・!」
「君にしては大きく出たね。その度胸で、僕を楽しませてほしいね・・・」
勇の言葉に竜馬がさらに笑みをこぼす。竜馬はきびすを返し、その場を後にする。
(そろそろ君も邪魔になってきたからね。退場してもらおうかな・・姫菜ちゃんは、僕のものになるんだからね・・・)
一抹の野心を胸に抱き、竜馬は次の行動に移ろうとしていた。勇も緊張を拭えず、竜馬を警戒していた。
「勇くん、どうしたの?」
そこへ姫菜が勇に声をかけてきた。我に返った勇が姫菜に眼を向ける。
「う、ううん、何でもないよ・・アハハハ・・・」
勇は苦笑いを浮かべて答える。彼は姫菜に対してごまかしを入れた。
「あっ、スミレちゃん、後でちょっといいかな・・?」
そこへ勇が声をかけ、スミレは真剣な面持ちで小さく頷いた。
次の授業が終わっての休み時間、勇とスミレは教室から少しはなれた廊下に来ていた。そこでスミレは勇に感謝の意を見せていた。
「昨日はありがとうね、勇。おかげで気持ちが楽になった。」
「ううん。スミレちゃんと姫菜ちゃんが仲直りできて、僕もよかったよ・・」
勇も照れ笑いを浮かべて言いかける。だが2人はすぐに真剣な面持ちになる。
「また竜馬くんが、姫菜ちゃんを狙ってきている・・・」
「また?もう、しょうがないんだから、アイツ・・それで、これからどうするつもりなのよ、勇?」
「姫菜ちゃんを守りたいっていう気持ちは変わらない。それは確かだよ・・」
スミレの問いかけに勇が答える。だが彼はふと沈痛の面持ちを浮かべる。
「でもいつか、姫菜ちゃんに、僕のことを打ち明けないといけない・・」
「勇・・でも、それだと姫菜を巻き込むことになるって・・」
「でも僕が話さなくても、遅かれ早かれ、姫菜ちゃんに・・・」
不安を浮かべるスミレと勇。2人は姫菜に真実を話すことに対して、迷いを拭い去ることができずにいた。
「とにかく、竜馬の動きには注意したほうがいいわね。」
「うん・・姫菜ちゃんに手を出させるわけにいかない・・竜馬くんにも、他の怪物たちにも・・・」
スミレの言葉を受けて勇が頷く。2人はこのとき出した結論は、相手の出方を伺っての様子見だった。
放課後の下校の寄り道で、街に繰り出していた女子高生たち。彼女たちはアイスクリームを買うと、通りから外れてそれを口にしていた。
「やっぱ学校帰りにはこれに限るねぇ・・」
「こんなの別腹、別腹♪」
「こういう時間がないとやっていけないわよ。」
有意義な時間を堪能して、女子高生たちが笑みをこぼす。
「真っ白・・真っ白・・みんな真っ白・・・」
そのとき、彼女たちのいる裏路地に、1人の男が現れた。白い衣服に身を包んでいるが、その衣服も含めて全体的に薄汚れていた。
「な、何、この人・・・?」
「何だか気味が悪いよ・・早く離れようよ・・」
女子高生たちが気味悪がり、その場を離れようとした。すると男が突如、ろうそくを思わせる姿の異形の怪物へと変貌した。
「か、怪物!?」
「キャアッ!」
怪物を目の当たりにした女子高生たちが悲鳴を上げる。だがその声は通りの雑踏にかき消されてしまう。
怪物が口から白い霧のようなものを噴き出してきた。その霧に巻き込まれた女子高生たちは、自分の体に違和感を覚える。
「か、体が動かない・・・!?」
「いったい、どうなって・・・!?」
その違和感に声を荒げる女子高生たち。彼女たちの体が霧の影響で徐々に白く染まっていく。
やがてその変色が全身に行き渡り、女子高生たちは微動だにしなくなった。その姿を見つめながら、怪物が人間の姿に戻る。
噴き出された白い霧は、粉状の蝋だった。女子高生たちはその蝋の付着で固まってしまい、蝋人形と化してしまったのである。
「真っ白・・真っ白・・みんな真っ白・・・アハハハハ・・・」
白く固まった女子高生たちに向けて笑みをこぼす男。男はそのまま行く当てもなく、その場を去っていった。
下校の時間となり、家に帰ろうとする勇。姫菜を心配した勇は、姫菜に声をかけた。
「姫菜ちゃん、一緒に帰らない?」
「勇くん・・ゴメン。今日はちょっと用事があるの・・本当にゴメンね・・」
だが姫菜に断られ、勇は困惑を浮かべたまま声をかけられなくなってしまった。気落ちした様子を見せた彼に、スミレが不満をぶつけてきた。
「もう、何やってるのよ、勇・・姫菜を誘って断られるなんて・・」
「だって、まだ本当のこと言えなかったし・・・」
スミレの言葉に勇が答える。その返答を聞いて、スミレが呆れて肩を落とす。
「ホントにしょうがないんだから、勇は・・・姫菜はあたしが見てるから、アンタは竜馬を見張ってなさいよ。」
「うん・・・ありがとう、スミレちゃん・・僕や姫菜ちゃんのために・・・」
「別に、助けようってつもりはないんだからね・・ただ、アンタのその弱気なところを見てると、じっとしてられなくなっちゃうのよね・・」
感謝する勇に対して、スミレが照れ隠しをする。
「さ、早く姫菜のところに行かないと!見失っちゃったら元も子もないわよ!」
スミレは言いかけると、そそくさに姫菜を追いかけていった。彼女の後ろ姿を見て、勇は笑みをこぼしていた。
(そう・・僕は、1人じゃない・・みんなが、そばにいる・・・)
家族や仲間たちの絆がある限り、どんなことにも負けない。勇はそう信じていた。
姫菜に狙いを向けてきていた竜馬は、彼女の様子をうかがっていた。彼女がスミレとごうりゅうしたところも。
「こういうところで、誰かがけしかけてきたりするんだろうね。そうなれば勇も現れる・・」
姫菜を掌握すると同時に、勇を窮地へと陥れる。それが今の竜馬の策略だった。
しばらく監視を続けていると、姫菜とスミレが学校を出た。それを確かめた竜馬も、ビルの屋上を後にした。
彼が視線を向けていることに気付かないまま、姫菜とスミレは会話を行っていた。
「本当にありがとうね、スミレちゃん・・でも、手伝わせてしまって、悪い気もしてる・・」
「気にしなくていいよ。あたしもちょっと用事があったし、困ってるときはお互い様だって。」
謝意を見せる姫菜に、スミレが笑みを見せて言いかける。
「勇くんに、悪いことしたかな・・・逆に迷惑をかけたくないって思って・・」
「もう、勇といいアンタといい、どうしてこうやる気のないことを・・・」
姫菜がふと言いかけた言葉に、スミレが呆れて肩を落とす。
「アンタたち、もう少しシャキッとしなさいよね。アンタたちはやればできるんだから。」
「スミレ・・・そうだね・・私も、勇くんやみんなのために頑張らないと・・・」
スミレに言いかけられて、姫菜が物悲しい笑みを浮かべる。気持ちを切り替える彼女を見て、スミレも真剣な面持ちを浮かべた。
「真っ白・・真っ白・・みんな真っ白・・・」
そのとき、2人の前に1りの男が現れた。不気味なその男に、姫菜もスミレも緊張を覚える。
「僕も真っ白・・君たちも真っ白・・・」
その男の姿が怪物へと変貌を遂げる。怪物の出現にスミレが息を呑む。
(怪物!?・・こんなところまで怪物が出てくるなんて・・・!)
スミレが胸中で毒づく。彼女は怪物からどうやって逃げるかを模索していた。
「とにかく逃げるよ、姫菜!」
スミレが姫菜を連れて逃げようとする。すると怪物が口から白い霧を噴き出してきた。
「姫菜!」
スミレがとっさに姫菜を突き飛ばす。姫菜を庇ったスミレが、白い蝋の霧に包まれる。
「スミレちゃん!」
「来ないで、姫菜!アンタは勇のところに行って!」
駆け寄ろうとした姫菜を、スミレが叫んで制する。彼女の体が蝋で固まっていく。
「アンタがどうかなったら、勇が立ち直れなくなるから!姫菜、行って!」
「スミレちゃん・・・!」
必死に呼びかけるスミレに、姫菜は困惑する。だがスミレの思いを受け止めて、姫菜は走り出していった。
だが彼女に眼を向けていた怪物が、まだ完全に蝋に包まれていないスミレを放置して、跳躍していった。
「ま、待ちなさいよ!・・か、体が・・・!」
必死に怪物を呼び止めようとするスミレだが、蝋の付着していたため、体に自由が利かなくなっていた。
そして、その出来事を見ていた竜馬も、姫菜と怪物を追って、移動を開始した。
蝋をまき散らす怪物から逃げ出していく姫菜。彼女はひたすら、勇を探し求めていた。
(スミレちゃんが信じている・・私が勇くんを信じなくてどうするの・・・)
勇への信頼を募らせて、姫菜はひたすら走る。その間にも、怪物は彼女を狙って追いかけてきていた。
「真っ白・・真っ白・・・君も真っ白に・・・」
不気味な笑みを浮かべて迫る怪物から、必死に逃げようとする姫菜。だが彼女はつまづき、転んでしまう。
「いたっ!・・しまった・・!」
振り返った姫菜に、怪物が迫る。彼の口から蝋が混じった白い息がもれる。
そのとき、別の異形の怪物、クロノが空から降下してきた。奇襲を仕掛けられた怪物がクロノの一蹴を受けて怯む。
「これ以上、お前の好きにはさせない!」
勇が怪物に向けて鋭く言い放つ。すかさず勇は一蹴を繰り出し、怪物を突き飛ばす。
「早く逃げるんだ!あの怪物をこれ以上進ませない!」
勇は姫菜に呼びかけると、怪物に向かって駆け出していく。前進しながら跳躍し、彼は飛び蹴りを見舞う。
横転した怪物が口から蝋の霧を吐き出してきた。
「気をつけて!その霧を浴びたら・・!」
そこへ姫菜の声が飛び、勇がとっさに足を止める。蝋の霧にさえぎられて、勇はこれ以上踏み込めなかった。同時に視界をさえぎられ、彼は怪物の行方を見失ってしまった。
(気配も感じなくなってる・・霧を吐いて逃げたんだ・・・)
周囲を注意する勇だが、既に怪物はこの場にはいなくなっていた。
(今のうちに姫菜ちゃんを安全なところに連れて行かないと・・そのためにはいったんここから離れて・・)
勇がこの場を離れて、人間の姿に戻ろうと考えたときだった。
「相変わらず君は甘いね。見ているのが辛くなるくらいにね。」
そこへ飛び込んできた声に、勇は緊張を覚える。霧が晴れたその先に、怪物の姿となった竜馬がいた。
「勝負してあげるよ、君と・・」
竜馬は不敵な笑みを浮かべて言いかけると、勇に向けて衝撃波を放つ。奇襲を受けた勇が突き飛ばされる。
「ぐっ!」
横転した勇がうめき声を上げる。竜馬はさらに重力操作を仕掛け、勇を上空に跳ね上げる。
「最初から飛ばしすぎたみたいだね。僕と比べて余力がないよ。」
眼を見開いた竜馬が、衝撃波を駆使して勇を地面に叩き落とす。
「ぐあっ!・・僕が疲れたところを狙うなんて・・・!」
「卑怯だというのかい?何度も言わせないでもらえるかな?僕は気まぐれだと。」
苦痛をあらわにする勇に向けて、淡々と声をかける竜馬。
「やめて!」
そこへ姫菜が2人を止めようと飛び込んできた。
「ダメだ、姫菜ちゃん!来たら危ない!」
「えっ・・・!?」
勇がとっさにかけた声に、姫菜が戸惑いを見せる。彼女に意識が向き、竜馬が勇への攻撃の手を緩める。
姫菜を守ろうと、勇が力を振り絞って立ち上がり、竜馬につかみかかる。危険を感じた竜馬が、夕に向けて衝撃波を放つ。
「がはっ!」
痛烈な衝撃の直撃を受けて、勇が吐血する。力なく倒れた彼は、仰向けに倒れる。
その瞬間、勇の姿がクロノから人間に戻る。それを目の当たりにした姫菜が言葉を失った。
(ウソ・・・!?)
姫菜は眼を疑った。人でない怪物が勇であったことを、彼女は信じられずにいた。
危機感を拭えずにいた竜馬は、とっさにこの場を離れた。だが彼は目的を半ば果たしたことを胸中で喜んでいた。
(これで勇は姫菜ちゃんから迫害されることになる。これで姫菜ちゃんは・・)
自身の野心を膨らませながら、竜馬は勇と姫菜から離れていった。
「勇くん・・・!?」
「姫菜ちゃん・・・!?」
正体を見られてしまった勇と、彼の正体を目の当たりにした姫菜。2人は動揺の色を隠しきれなくなり、言葉をかけるのも困難となっていた。
(ま、まずい・・姫菜ちゃんに、僕の正体を知られた・・・!)
最悪の事態に愕然となる勇。彼の心の中には、かつてないほどの絶望感が膨らんでいた。
勇が心の中でひそめていた、絶対に起きてほしくなかったこと。それが今、彼の願いに反して現実のものになろうとしていた。
次回
「まさか、勇くんがあんな・・・!?」
「これからは僕が、君のことを守るから・・・」
「変身、できない・・・!?」
「しっかりして、勇!」
「もう僕は、姫菜ちゃんを守る資格なんてない・・・」