ガルヴォルスPF 第10話「つながり」
姫菜に真実を話そうとするも、それを受け入れられずに反発されてしまったスミレ。姫菜のためを思ってしたことが裏目に出てしまい、スミレは気落ちしていた。
(どうして、あんなことになっちゃったのかな・・・姫菜のためにしたことで、姫菜に・・・)
姫菜に叩かれた頬に手を当てて、悲しみに暮れるスミレ。
(やっぱり、あたしの勝手なわがままだったのかな・・ホントは姫菜のために全然ならないことを・・・)
罪悪感にさいなまれて、スミレはふさぎこみ、ベットにもぐりこんでしまった。
「姫菜・・・勇・・・」
悲しみと想いを膨らませていき、スミレは1人涙していた。それは普段見せない彼女の弱さだった。
戦いへの迷いを振り切り、新たな強靭さを得ることができた勇。彼は元気を取り戻した姫菜とともに、登校しようとしていた。
「本当によかったよ・・姫菜ちゃんが元気になって・・」
「ううん・・勇くんがいろいろと手伝ってくれたからだよ・・ありがとうね・・・」
勇の言葉を受けて、姫菜が感謝の言葉をかける、それを受けて、勇が照れ笑いを浮かべる。
「僕は姫菜ちゃんを思ってしただけだから・・」
「それでも、私は勇くんに感謝している・・・」
自分の正直な気持ちを告げる勇に、姫菜が小さく頷いた。
そのとき、勇はひとつの疑問を感じていた。その彼の様子を姫菜も気にする。
「スミレちゃんが来ない・・いつもだったら来てるはずなんだけど・・」
勇の言葉に姫菜も当惑する。スミレは登校する2人と必ず合流してくる。先に来ることになったとしても、スミレがいつも待ってくれていることを、2人は分かっていた。
ところが今日はスミレの姿が見当たらない。いるはずの親友がいないことに動揺しながらも、勇と姫菜は学校へと向かった。
その日の朝のホームルームで、スミレが風邪で休んだことが伝えられる。その言葉に勇も姫菜も困惑を隠せなかった。
スミレは活発さが取り得のひとつであり、休むことはまずない。姫菜は勇以上に、スミレに対して深刻さを痛感していた。
竜馬が怪物であるという指摘が信じられず、姫菜はたまらずスミレを叩いてしまった。友人を守るためとはいえ、暴力を振るってしまったことに、彼女は後悔を感じていた。
「姫菜ちゃん・・学校が終わったら、スミレちゃんのお見舞いに行こう・・」
「えっ・・・?」
給食の時間、勇が切り出した言葉に姫菜が戸惑いを見せる。
「いつも元気なスミレちゃんが風邪をひいたなんて、よほどのことだと思う・・・だからせめて、顔だけでも見ておきたいと思って・・今日の授業のことも言っておかないといけないし・・」
「ゴメン、勇くん・・外せない用事があるから・・・本当にゴメン・・・」
勇の言葉に対し、姫菜はそれを拒む。
「そ、そう・・それじゃ、僕だけで行ってくるね・・」
沈痛な面持ちを浮かべながらも、勇は姫菜の言葉を受け入れた。
スミレの見舞いのため、勇は彼女の家にやってきた。
スミレは裕福な家柄の人間であるが、両親が多忙のため、昼間ばかりか夜に帰ってこれるか分からないほどだった。そのため、ひとりぼっちで寂しい思いをする時間も少なくなかった。
(スミレちゃん・・・今日も1人なのかな・・・)
孤独に打ちひしがれているスミレの気持ちを察して、勇も沈痛の面持ちを浮かべる。だがすぐに気持ちを切り替えて、彼は玄関のチャイムを鳴らした。
しばらく待っていると、上着を羽織ったスミレが玄関のドアを開けてきた。
「勇・・・」
「お見舞いの来たよ・・今日出たプリントを渡しておかないといけなかったし・・」
戸惑いを見せるスミレに、勇が笑みを見せて言いかける。
「ありがとうね・・何も出せないけど、とりあえず入って・・」
スミレに促されて、勇は家の中へと入った。萩原家も裕福ではあるが、篠原家はそれ以上だった。
「ビックリしちゃったよ・・スミレちゃんが風邪だっていうから・・」
「勇・・実はホントは、風邪なんかじゃないの・・・」
勇が言いかけると、スミレが本当の話を切り出す。その事実に勇が当惑を見せる。
「風邪じゃないって・・それじゃ、どうして今日・・・!?」
「今日はどうしても学校に行きたくなかったの・・姫菜に、合わせる顔がなかったから・・」
問い詰めてくる勇に、スミレが答える。その言葉を聞いて、勇はさらに困惑する。
「アンタが姫菜と一緒に来なかったのはよかったかもしれない・・その分だと、姫菜も気にしてないわけじゃないみたいね・・・」
「僕も、辛そうに見えたよ・・用事があるからって言ってたけど・・・」
スミレの言葉を受けて、勇も沈痛の面持ちを浮かべる。スミレは気持ちを落ち着けてから、勇に話を切り出した。
「実は昨日、姫菜と一緒に怪物に襲われたの・・気絶させられて・・気がついたら、その怪物がいなくて、代わりに竜馬がいて・・アイツがやっつけたんだと思うけど・・・」
「竜馬くんが・・・」
「アイツがまたちょっかい出してきたから、姫菜にホントのことを話そうとしたの・・だけど信じてもらえないばかりか、逆に叩かれちゃって・・・」
スミレの口にした心境を知って、勇は言葉が出なくなってしまう。
「姫菜のためにしたことなのに、逆に姫菜を傷つけてしまった・・・大切なものって、どんなことがあっても壊れないものって思ってた・・なくすなんてこと、絶対にないと思ってた・・」
悲しみにさいなまれたスミレの眼から涙があふれ出す。
「でも、どんなものでも、ちょっとしたことで壊れてしまうこともあるってことなんだね・・・」
「スミレちゃん・・・」
物悲しい笑みを浮かべて泣き崩れるスミレの姿に耐えられなくなり、勇が彼女の両手を握ってきた。
「勇・・・」
「本当に大切なものが、簡単に壊れるってこと、ないはずだよ・・だって大切なものって、大切にしている人に本当に大切にされてるから・・その・・」
戸惑いを見せるスミレに呼びかける勇だが、うまく言葉がまとまらない。
「もう・・勇はこんなときでも意気地のないような態度を見せるんだから・・」
肩を落として呆れる素振りを見せるスミレに、気落ちする勇。するとスミレは沈痛さを噛み締めて、呟くように言いかける。
「あたしが怖がってたのは裏切られることじゃなく、裏切ることだったんだよ・・・周りの気持ちを壊して、友達を傷つけてしまうのは、とても辛い・・・」
スミレの言葉を受けて、勇は戸惑いを見せる。普段見せない彼女の弱さを垣間見た気がしていた。
「それは、姫菜ちゃんも考えてることだと思う・・そうじゃなかったら、あんな辛そうな顔を見せたりしないから・・・」
「勇・・・ありがとうね・・見舞いに来てくれただけじゃなく、励ましてくれて・・・」
勇の言葉を受けて、スミレは落ち着きを取り戻していく。心の揺らぎを和らげてくれた少年の優しさに素直に応えようと、彼女は思っていた。
「明日はちゃんと学校に行くよ。姫菜にもよろしく行っておいて・・」
「うん・・それじゃ、僕はそろそろ帰るよ・・何かあったら連絡して・・・」
スミレと言葉を交わしあい、勇はひとまず帰宅することにした。彼はまたひとつ、守らなくてはいけないものを見つけた気がしていた。
スミレの見舞いを断り、勇とは別に下校していた姫菜は、沈痛さを隠せずにいた。理由はどうあれ、スミレに手を上げてしまったことの罪悪感を、彼女は拭うことができずにいた。
(こういう気持ち、みんなも辛くなるのかな・・・)
やるせなさを胸に秘めて、姫菜は1人帰路を歩く。これからスミレとどう向き合っていけばいいのか分からず、彼女は途方に暮れるように歩き続けていった。
そんな彼女の前に、1人の青年が現れた。その青年が気にかかり、姫菜は足を止める。
「たまにはこういう子供を狙うのもいいかもしれない・・」
青年の口にした言葉に、姫菜が当惑を見せる。
「この子にも私の光を受けてもらうとしよう。」
青年の顔に異様な紋様が浮かび上がる。その異変に姫菜が不安を覚える。
その直後、青年の姿がカマキリの怪物へと変貌していく。
「怪物・・・!?」
姫菜の恐怖が一気に膨らむ。先日襲ってきたサイの怪物と同じ種族が、再び猛威をもたらそうとしていた。
「君はどのような形になっていくのか、じっくり見させてもらおうか・・」
怪物が姫菜に向かって歩き出す。恐怖を覚えた姫菜がたまらず逃げる。
(逃げないと・・このままじゃ、どうにかされてしまう・・・!)
危機を覚えて必死に逃げる姫菜。だが怪物は余裕を見せて追いかけてくる。
「どこまで逃げられるかな?私からは絶対に逃げられない。だがその怯える姿を見るのも悪くない。」
淡々と語りかけてくる怪物。2人はやがて人通りの多い街の近くに差し掛かろうとした。
「人込みに紛れるつもりでも、私には関係のないことだ。」
不敵な笑みを浮かべる怪物が両手の鎌を振りかざす。怪物の姿に恐怖する人々が、その刃に切り裂かれていく。
再び人込みから離れた姫菜が突き当たりに行き着いてしまう。立ち止まり振り返った先には、人々を切り裂いた怪物が立ちはだかっていた。
「鬼ごっこは終わりのようだ。ではそろそろ私の光を受けてもらおうか。」
「そんなマネはさせないよ・・・!」
怪物が言いかけたとき、突如声がかかってきた。怪物が振り返ると、クロノの姿をした勇の姿があった。
「クロノ・・まさかここでお前と出会うとは・・」
「街で暴れていたね・・あれだけ派手にやられて、気づかないはずないよ・・」
怪物が悠然と言いかけ、勇が鋭く言い放つ。姫菜が新たに現れた者が勇とは知らない。
「その子には手を出させない・・お前を倒す・・・!」
「私を倒す?面白い。クロノ力がどれほどのものなのか、試してやろう・・」
拳を強く握り締める勇を標的にする怪物。怪物は飛びかかり、勇に向けて鎌を振り下ろす。
勇は後退して怪物の攻撃をかわす。すかさず足を振り上げ、怪物を蹴り飛ばす。
怪物は体勢を整えて、近くの家の屋根に着地する。勇も跳躍して、離れていく怪物を追っていった。
「私・・助かったのかな・・・」
不安を残しつつかすかな安堵を覚える姫菜。
「私を助けてくれた・・あれはいったい・・・?」
新たに現れた異形の存在、クロノに、姫菜は困惑を感じていた。怪物の容姿でありながら、同じ怪物に立ち向かい、結果自分を守ってくれている。
そのクロノに、姫菜は感情を傾けつつあった。
カマキリの怪物を追って、街外れの広場にたどり着いた勇。怪物は周囲に並ぶ木々に身を潜めており、姿が見えない。
(この近くに隠れているのは間違いない・・気配までは誤魔化せない・・・)
意識を集中して、周囲に漂う怪物の気配を細大漏らさず探っていく勇。同時に彼は、京からの教えを思い返していた。
“刃物による攻撃に対しては、よける以外の対処法は大まかにふたつある。ひとつは受け止め、つまりは真剣白刃取りだ。もうひとつはそれ以上の鋭さを持った刃物で迎え撃つことだ。力を込めた手刀は、ナイフに負けない鋭さをももたらす。”
(集中するんだ・・クロノとしての力を合わせれば、僕の手刀は、どんな壁も切り裂く・・・!)
思い立った勇が、振り返りざまに背後の大木を切り裂く。その幹が両断される瞬間に、怪物がその木陰から姿を現した。
怪物が両手の鎌を振り下ろしてきた。それを勇が両手に力を収束させた手刀に変えて受け止める。
毒づく怪物がさらに鎌による攻撃を繰り返す。だがその全てを勇の手刀が防いでいく。
苛立ちを募らせる怪物が、力を込めて鎌を振り下ろす。勇はその鎌を手刀で受け止めると、そのまま跳ね除けて怪物に打撃を見舞う。
「ぐおっ!」
痛烈な打撃を受けて林の中に消える怪物。勇は再び意識を集中し、怪物の行方を追う。
そのとき、林の中から光線が飛び込んできた。虚を突かれた勇がその光を浴びてしまい、動きを封じられてしまう。
「し、しまっ・・!」
「ハハハハ!やった!これで全て終わりさ!」
声を荒げる勇に向けて、怪物が哄笑を上げる。勇を取り巻く光が徐々に四角形へと変化していく。
「クロノのカーボンフリーズか。それもまた面白いものだよ。」
勝ち誇る怪物の前で、人間の姿に戻っていく勇。彼は体の自由だけでなく、力さえも封じ込められつつあった。
やがて勇は硬質化され、炭素凍結によって壁に埋め込まれたかのように固められてしまった。その姿を見て、怪物が笑みをこぼす。
「すばらしい。少年の永遠と美というのも悪くはない。同時に、私がクロノを始末したことの証明にもなる。」
勝利を確信した怪物がきびすを返し、勇に背を向ける。
「ではあの女の子を狙うとしよう。口外されても信用されることはないが、奇妙に行動されてもいい気分でもない。」
怪物は姫菜を狙って、この場を後にしようとした。
そのとき、硬質化していた勇の体が突如光り出した。その異変に怪物が驚きを覚える。
「どうしたというのだ!?・・まさか・・・!?」
驚愕の声を上げる怪物の眼前で、硬質化されていたはずの勇の体が元に戻る。炭素凍結の壁を打ち破った勇は、即座にクロノへ変身する。
「バカな!?私の光を受けて、動けるようになるなど!?」
「確かに僕はお前の力に侵された・・だけど僕はクロノの力を使って、お前の力を受ける前まで時間を戻したんだ。」
声を荒げる怪物に、勇が低く告げる。脅威を感じたたまらず後ずさりする。
「姫菜ちゃんには手を出させない・・ここでお前を倒す!」
いきり立った勇が怪物に向けて光の矢を放つ。矢の連射に体を貫かれ、怪物が絶叫を上げる。
「これが、クロノの力だと・・いうの・・・か・・・」
事切れた怪物の体が、倒れながら霧散していく。それを見つめていた勇が、人間の姿に戻る。
「僕は姫菜ちゃんを守る・・・姫菜ちゃんだけじゃなく、僕やスミレちゃんのためにも・・・」
新たな決意を胸に秘めて、勇が自分の胸に手を当てる。スミレのしたたかな想いを知った勇は、彼女に悲しみを与えてはならないと痛感していた。
気持ちを落ち着けてから、勇は姫菜のところに向かって走り出した。
勇が戻ってきた道には、まだ姫菜の姿があった。改めて気持ちを落ち着かせてから、勇は姫菜に声をかけた。
「姫菜ちゃん・・・?」
「あっ・・勇くん・・・」
勇の登場に姫菜が戸惑いを見せる。
「姫菜ちゃん、どうしたの?・・もしかして、あの怪物が・・・?」
勇の問いかけに姫菜が小さく頷く。
「でも、別の怪物が、私を助けてくれたみたいで・・・不思議と、怖い気持ちにならなかった・・・」
「姫菜ちゃん・・・」
姫菜の口にした言葉に、勇は戸惑いを覚える。その異形の存在が自分であることに、彼はかすかな喜びを感じていた。
「多分きっと、それは他の怪物とは、少し違う気がする・・だって、どういうことかは分かんないけど、姫菜ちゃんを助けたわけだから・・・」
勇が言いかけた言葉に、姫菜も戸惑いを見せる。だが勇からの励ましを率直に受け止めて、彼女は微笑んだ。
「ありがとう、勇くん・・明日、スミレちゃんと仲直りしてくるよ・・」
「姫菜ちゃん・・・?」
姫菜が切り出した言葉に勇が当惑する。
「私、スミレちゃんとケンカしてて・・ちゃんと話し合って、仲直りしたほうがいいって・・・」
「姫菜ちゃん・・・ケンカしているなら、仲直りしたほうがいいと思うよ、僕も・・」
姫菜の心境を察して、勇も頷きかける。
「今日は帰ろう、姫菜ちゃん・・お父さんに、心配かけたらいけないし・・」
「そうだね・・・一緒に帰ろう、勇くん・・・」
言葉を掛け合った勇と姫菜は、家へと戻っていった。
(そうだね、勇くん・・仲直りしたほうが、みんなにとって気持ちのいいことだよね・・・)
勇の言葉を背に受けて、姫菜もまた、新しい一歩を踏み出していくのだった。
次回
「勝負してあげるよ、君と・・」
「いつか僕のこと、姫菜ちゃんに打ち明けなくちゃいけないかもね・・・」
「勇くん・・・!?」
「姫菜ちゃん・・・!?」
「そろそろ君も邪魔になってきたからね。退場してもらおうかな・・」