ガルヴォルスPF 第9話「飛躍する勇者」

 

 

 姫菜を人質に取られ、攻撃ができずにいる竜馬。そこへサイの怪物の突進が入り、竜馬が突き飛ばされる。

「ぐあっ!」

 その衝撃にうめく竜馬。だが突き飛ばされた瞬間、彼は怪物に向けて圧力をかけていた。

「ぬおっ!」

 虚を突かれた怪物が空に投げ出される。横転する竜馬が木陰に飛び込んだところで人間の姿に戻る。

「くっ!・・姫菜ちゃんに手を出したんだ・・このままでは済まさないぞ・・・!」

 憤りを覚えながら、木陰から出る竜馬。だが姫菜は気絶しており、サイの怪物も近くにはいなかった。

(姫菜ちゃんでなければ、人質など関係なく仕留められたんだけど・・)

 胸中で歯がゆさを募らせながら、竜馬は姫菜を見つめる。気持ちを落ち着けたところで、彼は彼女を揺り動かした。

「姫菜ちゃん・・姫菜ちゃん、眼を覚まして!」

 竜馬が呼びかけると、姫菜は眼を覚ました。彼女の視界に竜馬の深刻な面持ちを浮かべた顔が入り込む。

「竜馬・・くん・・・」

「姫菜ちゃん・・よかった。気がついたんだね・・」

 おぼろげに呟きかける姫菜に、竜馬が安堵の笑みを浮かべる。

「竜馬くん・・怪物は・・・?」

「怪物?僕がここに来たときは、姫菜ちゃんと篠崎さんしかいなかったよ・・」

 疑問を投げかける姫菜に竜馬が答える。竜馬はウソをついていたが、夢か幻を見たものだろうと彼女が思い込むと、彼は考えていた。

「ん・・姫菜?・・・アンタ・・・!?

 スミレも眼を覚まし、竜馬がいることに緊張を覚える。

「スミレちゃんも気がついたんだね・・竜馬くんが来てくれて、起こしてくれたの・・」

 姫菜が微笑んでスミレに声をかけるが、スミレの竜馬に対する不満は消えない。

「今度は何を企んでるのよ!?・・あのバケモノをけしかけたの、アンタなんでしょ!?

「スミレちゃん、何を言っているの!?竜馬くんが、私たちを傷つけるような子じゃ・・!」

 スミレが竜馬に問い詰めると、姫菜が反論してきた。

「騙されないで、姫菜!コイツはさっきのヤツと同じバケモノなのよ!」

 スミレが姫菜に、竜馬が怪物であることを告げた。すると姫菜がスミレに歩み寄り、彼女の頬を叩いた。

「バカなことを言わないで!いくらスミレちゃんでも、言っていいことと悪いことがあるよ!」

「姫菜・・・あたしは、ホントのことを・・・」

 強く言いとがめる姫菜に、スミレが困惑を浮かべる。姫菜はスミレの言葉を信じていなかった。

「落ち着いて、姫菜ちゃん。ダメだって。篠崎さんに暴力振るったら・・」

 そこへ竜馬が声をかけ、姫菜を呼び止める。その声を耳にして、姫菜は我に返る。

「ゴ・・ゴメンなさい・・私、そんなつもりじゃ・・・!?

 姫菜が困惑気味に謝るが、スミレは言葉を返せなくなっていた。

「今は帰ったほうがいいと思うよ、姫菜ちゃん。おじさんに心配かけるのもよくないし・・」

 そこへ竜馬が姫菜に声をかけてきた。気持ちに余裕のなかった姫菜は、促されるまま竜馬の言葉に従うことにした。

 これ以上姫菜に言葉をかけることができず、押し黙るしかなかったスミレ。その様子を、竜馬は心の中であざ笑っていた。

 

 京の課す特訓に全力で取り組む勇。勇は鉄球を飛び越えるコツをつかみかけていた。

(あの速く重い攻撃を飛び越えるには、全力で飛び上がる必要がある。出し惜しみや怖さを捨てて、全力で飛び越える・・・!)

 思い立った勇が、向かってくる鉄球に意識を集中する。

(踏み出す足に力を込めて、突進から眼を離さず、体を前と上に持っていくように、大きくジャンプする!)

 勇が右足を大きく地面に踏み込む。そこから前に向かって、さらに体を上に持っていくような感覚で、大きく飛び上がった。

 勇は鉄球の上を、かすることなく飛び越える。そこからすぐさま右手を振り下ろし、鉄球に後方から一打を浴びせた。

 鉄球は勇の一撃によって粉々に粉砕される。着地した勇が、訓練の成功に笑みをこぼす。

「やった・・」

「よし!よくやったぞ、勇!」

 京も勇の成長に喜びを見せる。勇は人間の姿に戻り、改めて頷いた。

「いいか、勇。このコツを決して忘れてはいけないぞ。」

「はい、分かってます。」

 京の言葉を受けて、勇が真剣な面持ちで頷く。

「ではとりあえず戻るぞ。姫菜に顔を見せとかねぇとな。」

 京に促されて、勇は家へと戻ろうとしていた。

 そのとき、勇は怪物の気配を感じ取り、足を止める。その様子に気付いた京も、緊張を覚える。

「出たのか?」

「はい・・すみません。帰りは少し遅くなりそうです・・」

 京の言葉に、勇が沈痛の面持ちで答える。

「勇、ひとつだけ言っておくぞ・・お前には強さがある。勇気っていう強さがな・・・」

「父さん・・・」

「自信を持て、勇・・お前が勇気を持てば、どんなことも乗り越えられるはずだ・・・」

 京の言葉を受けて、勇は頷いた。様々な思いを胸に秘めて、勇は改めて駆け出していった。

 

 姫菜を人質にして竜馬に決定打を与えるも、反撃の衝撃波を受けて突き飛ばされたサイの怪物。煮え切らない気分を味わわされ、怪物は憤慨していた。

「このままではすまさないぞ・・必ずこの手でバラバラにしてやるぞ・・・!」

 竜馬に対する憎悪を膨らませる怪物。今の彼には、力を楽しむほどの余裕もなくなっていた。

「とりあえず万全になったら、片っ端からムチャクチャにしてやる・・このイライラをなくさないと気が治まらない・・・!」

 いきり立った怪物が、再び歩き出していった。だが接近する気配を感じ取り、彼は足を止める。

「この感じ・・あの腰抜け小僧のクロノか・・・」

 クロノである勇の接近に、怪物が不敵な笑みを浮かべる。彼の前に勇が現れた。

「また会ったな、小僧・・丁度憂さ晴らしをしたかったところだ・・・」

 怪物が勇に向けて、高らかに哄笑する。

「さっき、お前の仲間とやり合ってきたところだ。ちょっとやられちまったが、小娘を人質にして何とかやり過ごすことができた。どうやらそいつの知り合いだったようだな。」

「知り合いって!?・・まさか、姫菜ちゃんたちが・・・!?

 怪物の言葉に耳を疑う勇。怪物がさらに上げる哄笑に、勇は憤りを覚える。

「この前はいろいろと世話になったな。お前にもいろいろと礼をしておかないとな!」

 いきり立った怪物が身構え、勇を見据える。その間も、勇は怒りを膨らませて、拳を強く握り締めていた。

(僕が特訓をしている間に、この人は姫菜ちゃんまで・・・!)

「お前だけは、絶対に許さない・・・!」

 同じくいきり立った勇の頬に紋様が走る。彼の姿がクロノへ変貌する。

「許さない?・・どう許さないか、見せてもらおうか!」

 怪物が勇に向かって突進を仕掛けてくる。その瞬間、勇は京からの特訓を思い返していた。

(真っ直ぐ突っ込んでくる相手には、その相手を飛び越えながら、後ろ目がけて攻撃をする・・・!)

 特訓の成果を細大漏らさず思い返し、勇は足を強く踏み込んだ。飛躍した運動能力が、彼に強靭な跳躍力をもたらした。

 サイの怪物の突進をかわすことに成功する勇。

「ここっ!」

 すかさず勇が漆黒の稲妻をサイに向けて放つ。踏みとどまれずにいる怪物の体を一気に硬質化させていく。

「バ、バカな!?・・このオレ様の突進がかわされるなど・・・!」

 愕然となる怪物が時間凍結に完全に包まれる。動きを封じ込めた勇は、すぐさま意識を集中して、続けざまに力を行使する。

 怪物を取り囲むように、光の矢が次々と出現する。その矢の群れを発射すると同時に、勇は時間凍結を解除する。

 時間の束縛から解放された怪物に、矢の群れが次々と突き刺さる。体から鮮血が飛び散り、怪物が激痛を覚えて吐血する。

「がはっ!・・これが、クロノの時間凍結ってヤツか・・・」

 致命傷を負った怪物が息絶え、硬質化した体が崩壊を引き起こした。霧散していく怪物の亡骸を見つめて、勇が人間の姿に戻る。

「やった・・これで、僕は・・・」

 肩を落として安堵の笑みをこぼす勇。だが姫菜が気がかりになり、彼は深刻な面持ちを浮かべる。

「急いで姫菜ちゃんのところに戻らなくちゃ・・・」

 勇は姫菜たちを気にかけて、勇は家へと戻っていった。

 

 勇への特訓を終えて、家に戻ろうとしていた京。家に着こうとしたところで、彼は勇と合流する。

「勇!」

 京が呼びかけると、気付いた勇が駆け寄ってきた。

「あのバケモンはやっつけたのか?」

「はい。やりました。」

 京の問いかけに勇が真剣な面持ちで答える。2人は姫菜に顔を見せるため、家へと戻った。

 だがそこにいたのは姫菜だけでなく、竜馬の姿もあった。かれがいたことに、勇と京は眼を見開いた。

「お父さん、勇くん、おかえりなさい。」

「あ、お邪魔しています。道で倒れていた姫菜ちゃんを遅らせていただきました。」

 姫菜と竜馬が2人に声をかけた。竜馬の様子を気にするも、勇は姫菜の心配をした。

「姫菜ちゃん、大丈夫なの・・・?」

「うん・・心配かけてゴメンね、勇くん・・・」

「べ、別に謝らなくていいよ・・姫菜ちゃんが無事というだけで、僕は安心しているんだから・・」

 弁解を入れる勇に、姫菜が微笑みかける。

「ありがとう、竜馬くん。ここまでしてくれて・・」

「いいよ、気にしなくて。僕も姫菜ちゃんのことが心配だったからね・・」

 姫菜の感謝の言葉に、竜馬が微笑んで答える。そんな彼に京が歩み寄ってきた。

「姫菜を助けてくれたことには礼を言う。だが、いつまでもここにいたら、親が心配することになるぞ。」

「・・・そうですね。おじさんたちも来たことですし、とりあえず帰ることにしましょう。」

 京の言葉を受けて、竜馬はあえて従うことにした。

「気をつけてね、姫菜ちゃん。何かあったら僕に言ってきて。といっても、おじさんと時任くんがいれば、僕の出る幕はないかな・・」

 竜馬は姫菜に言いかけると、萩原家を後にした。彼の言動を腑に落ちないと感じながらも、京はあえて見過ごすことにした。

「姫菜ちゃん、今日はもう休んだほうがいいよ・・夜ご飯は僕が何とかするから・・」

「ありがとう、勇くん・・でも私は大丈夫。ただ、夜ご飯が終わったらすぐに寝るつもりだけど・・」

 勇の言葉を受けて、姫菜が弁解を入れる。彼女は立ち上がると、夕食の支度のためにキッチンに向かった。

「だったら僕も手伝うよ。せめて、そのくらいのことはしたい・・」

「それじゃ、お言葉に甘えようかな・・」

 勇の言葉を受けて、姫菜が笑顔を見せる。2人の元気な姿を見て、京も笑みを見せて頷いた。

 

 夕食の後、勇は姫菜の部屋にいた。彼女を心配した彼は、軽い介抱をしてあげていた。

「大丈夫、姫菜ちゃん?本当に、大丈夫・・・?」

「うん・・勇くんがいろいろ手伝ってくれたから、本当に助かったよ・・ありがとう、勇くん・・・」

 勇の心配の声に、姫菜が微笑んで答える。だが彼女の笑みがすぐにかげりを宿す。

「勇くん・・真面目な話と思って聞いてほしいの・・多分、私の夢か見間違いかもしれないんだけど・・」

「姫菜ちゃん・・・」

 姫菜の唐突な話に一瞬戸惑う勇だが、すぐに真剣な面持ちになる。

「私、怪物に襲われたの・・死ぬかもしれないって思ったけど・・・気絶しただけで済んだみたい・・・」

「怪物・・・!?

 姫菜の口にした言葉に、勇が驚愕を覚える。クロノ同士の戦いの後、彼女はサイの怪物に襲われたのだ。

「どういうことなのか、私には分かんない・・あんなのが現実にいるなんて、今でも信じられない・・でも確かにあの時、私は怪物を見て、襲われて・・・」

「姫菜ちゃん・・・!」

 不安になって体を震わせる姫菜を、勇はたまらず抱きしめた。その抱擁を受けて、姫菜は体の震えを止める。

「勇くん・・・」

「大丈夫・・大丈夫だよ・・姫菜ちゃんは、僕が守るから・・・」

 勇は姫菜に対して、自分の気持ちを正直に告げる。その言葉に姫菜が戸惑いを見せる。

「僕に強さがあるなら、それを姫菜ちゃんを守るために使いたい・・今はいろいろあって分からないことだらけだけど、それだけは確かだよ・・」

 勇の言葉を受けて、姫菜が小さく頷く。

「ありがとう、勇くん・・・私はいつでも、勇くんの味方だからね・・・」

「姫菜ちゃん・・僕のほうこそ、ありがとう・・・」

 お互いに感謝と信頼を交し合う姫菜と勇。

「それじゃ、そろそろ僕は戻るよ・・あまりいると、父さんに怒られてしまうからね・・」

「そうだね・・・今日は本当にありがとうね、勇くん・・・」

 勇の言葉に姫菜は小さく頷く。彼女がベットに横たわったのを確かめてから、勇は部屋を後にした。

(いつか話さないといけないよね、姫菜ちゃんに・・僕も関わってるんだから、話さなくちゃいけないと思う・・でも、姫菜ちゃんなら、きっと受け入れてもらえると思う・・・)

 姫菜に対する一途の思いを胸に秘めて、勇も自室へと戻った。いつか打ち明けるときと、分かり合えるときが必ず訪れる。その瞬間に備えて、勇は強く生きていくことを心に誓った。

(僕は死なない・・僕は消えない・・この世界からも、みんなの記憶からも・・・)

 強くのしかかるクロノの宿命を背に受けて、勇は覚悟と決意を募らせる。悲しみを生み出さないために、戦いを乗り越えなくてはならない。勇はその自覚を自分に刻み付けるのだった。

 

 夜の道を逃げ惑う1人の女性。彼女を追い詰めていく不気味な影。それはカマキリに似た怪物だった。

「イヤッ!何なの、あなたは!?

「何だとは言ってくれるね。まぁいい。お前もきれいに飾られることに変わりないからね。」

 悲鳴を上げる女性に向けて、怪物が眼から光線を放つ。その光を浴びた女性が強烈な束縛に襲われる。

 光は女性を取り巻いたまま、四角形へと形を成していく。そして一気に硬質化され、1枚の壁となった。

 女性もその壁にめり込んだように、壁と同じ質へと固められた。その姿を見て、怪物が笑みをこぼす。

「私の光は収束されると、周辺の炭素を凍てつかせて一気に固める。それに巻き込まれた人間は、凍てついた炭素と同じ材質になる。その壁に埋め込まれたかのように。」

 怪物は人間の姿に戻ると、硬質化して動けなくなった女性の頬に手を添える。

「このカーボンフリーズを受けた美女は見事という他ない。しかもそれが永続的に続く・・すなわり永遠の美ということだ・・」

 カーボンフリーズによる美を実感して、怪物だった青年が哄笑をもらす。

「ではそろそろ、次の美女を狙うとしようか。お互い、気分がよくなるように・・」

 青年は喜びを感じたまま、この場を後にする。カーボンフリーズをかけられて動けなくなった女性だけが取り残されていた。

 異形の存在による暗躍が、またひとつ動き出そうとしていた。

 

 

次回

第10話「つながり」

 

「大切なものって、どんなことがあっても壊れないものって思ってた・・なくすなんてこと、絶対にないと思ってた・・」

「スミレちゃん・・・」

「この子にも私の光を受けてもらうとしよう。」

「あたしが怖がってたのは裏切られることじゃなく、裏切ることだったんだよ・・・」

 

 

作品集

 

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