ガルヴォルスPF 第8話「堕ちた心、強さの意味」
サイの猛攻を受けて、傷つき倒れた勇。そんな彼にとどめを刺そうと、竜馬が右手に力を込める。
だがそのとき、竜馬は思考を巡らせた。このまま勇を殺めてもいいのだろうか、と。
ここで攻撃の手を加えれば、クロノである勇を確実に仕留められる。だがそれでは楽しみをつまらないことで軽々と終わらせることになってしまう。
結論に至った竜馬が攻撃を中断し、人間の姿に戻る。
「このまま倒すのも気乗りしないからね・・」
笑みをこぼしながら、肩を落とす竜馬。サイから受けたダメージから回復した勇も、人間の姿へと戻る。
「それに、まずは姫菜ちゃんの心を奪いたいからね・・」
姫菜への想いを宿らせて、竜馬が笑みをこぼす。
「勇!勇!」
「勇くん!」
そこへスミレと姫菜が駆けつけてきた。勇と竜馬を心配して追いかけてきたようである。
「姫菜ちゃん、篠崎さん、時任くんが・・」
「えっ!?」
竜馬の言葉を聞いて、姫菜とスミレが驚きの声を上げる。意識を失って横たわっている勇を見て、2人は驚愕する。
「勇くん・・竜馬くん、何が・・!?」
「怪物が現れて、時任くんが巻き込まれて・・でもケガはないみたいだ・・」
姫菜の問いかけに竜馬が事情を説明する。姫菜は安堵と同時に深刻さを感じていた。
「とにかく勇を連れて戻ろう!おじさんも心配してるだろうから・・!」
スミレの呼びかけに姫菜が頷く。2人と竜馬に支えられて、勇は家に運ばれた。
「お父さん、大変!勇くんが!」
家に戻ってきた姫菜の声を聞いて、京が玄関を出てきた。そこで彼は眠りについている勇を目の当たりにする。
「勇・・・何があった・・!?」
「時任くんが怪物に襲われかけて・・でも気絶しているだけです。」
京に事情を説明する竜馬。京と姫菜の指示で、勇はベットに運ばれることとなった。
「姫菜、スミレちゃん、勇を頼む・・三重野竜馬だったか?ちょっといいか?」
京が告げた言葉に竜馬が眉をひそめる。だがここで姫菜に怪しまれるのは得策でないと判断した竜馬は、京に従って2人で部屋を出ることにした。
2人が来たのは家の庭。そこで京は足を止め、竜馬に声をかけた。
「勇やお前のことは聞いている。お前もあのバケモノの1人ということだろ?」
「ずい分と落ち着いているね。その分だと、そのことを知る前から、そのバケモノについて聞いていたようだね。」
京の言葉を聞いて、竜馬が気さくな笑みを浮かべる。
「どうやら、ここで僕に殺しにかかられるのも覚悟のうちみたいだね。でも心配しなくていいよ。あなたを今殺したら、姫菜ちゃんを悲しませることになるからね。」
「お前も姫菜に何か思い入れを持ってるようだが・・お前のようなヤツに、姫菜を渡すわけにはいかんぞ。」
不敵な笑みを浮かべる竜馬と、眼つきを鋭くする京。姫菜を想う2人が、無言のままにらみ合っていた。
「お父さん、竜馬くん、勇くんが眼を覚ましたよ。」
そこへ姫菜が駆けつけ、京と竜馬が彼女に振り向く。
「分かった。行こうか、姫菜。」
京は姫菜に言いかけると、勇のいる部屋に向かう。彼から疑いの視線を向けられながら、竜馬も彼を追いかけた。
姫菜たちが部屋に戻ると、勇がスミレから不満をぶつけられていた。ふくれっ面を見せるスミレに、勇は苦笑いを浮かべていた。
「あの様子なら、心のほうもおかしなところはないようだな。」
勇の様子を見て、安堵を見せる京。姫菜が喜びを浮かべて、勇に駆け寄っていった。
「勇くん・・よかった・・・」
「姫菜ちゃん・・ゴメン・・心配かけて・・・」
姫菜たちに心配かけたことを謝り、頭を下げる勇。すると姫菜は首を横に振った。
「気にしなくていいよ・・こうして勇くんが無事だったというだけで、私は嬉しいよ・・・」
涙ながらに言いかける姫菜に微笑みかける勇。だが彼は内心、姫菜に対する後悔の念を募らせて、深刻さを抱えていた。
「勇、明日大事な話がある。今日はもう休め。」
京の言葉を受けて、勇は真剣な面持ちで頷く。
「今日はあたしは帰るね。勇、あんまり姫菜やおじさんにこれ以上、迷惑かけたらダメなんだからね。」
スミレはそう言いかけると、そそくさに家を出て行った。勇たちの気持ちを配慮しての行為だった。
「では僕も失礼するよ。時任くん、お大事に。」
竜馬も勇たちに声をかけて部屋を出た。だが勇も京も、意味深な行動を取る竜馬に対する警戒心を拭えずにいた。
その翌日、勇は京に連れられて、家の裏の山地に来ていた。そこは京から課せられての勇の特訓の場となっていた。
最近は訓練することもなく、この場を訪れることもなくなっていた。そのためか、見渡す限りに雑草が生えてきていた。
「しばらく来ねぇ間に、ずい分と生えちまったもんだなぁ・・まずは気合入れて引っこ抜いていくか。」
「そうですね・・ここはやるしかないですね・・」
京の言葉に勇が頷く。2人は早速草むしりに取り掛かることとなった。
雑草の中に紛れている花に注意を払いながら、作業を進めていく。2人が草むしりを終えたのは、始めてから数十分が経過してからのことだった。
「これで終わり、と。準備運動には丁度いいな。」
腕組みをして頷いてみせる京の隣で、息を切らす勇。
「だらしがないぞ、勇!鍛錬を行っていないのか!?」
「す、すみません・・でもひとつ・・・」
一喝してくる京に、勇が沈痛の面持ちを浮かべて言いかける。
「僕は怖いんです・・知らないうちに、姫菜ちゃんを傷つけてしまうことが・・・」
「何・・・!?」
勇の弱気な発言に、京が眉をひそめる。
「しっかりしろ、勇。お前がそんな弱気になってどうするんだ・・・!」
再び一喝を送ると、京は勇の胸倉をつかみ上げる。その叱咤激励に、勇の心は大きく揺さぶられる。
「お前はオレたちの家に来たときからずっとそうだった・・自信を失くし、弱気になる・・お前らしいといえばお前らしいが・・・そんな気持ちじゃ、これからのバケモノとの戦いも切り抜けねぇし、姫菜も守れねぇ!」
「父さん・・・」
「もっと自分に自信を持て、勇。お前はそのバケモノとしての力もあるし、それ以前に勇気も優しさも持ってる・・これは、お前自身の問題なんだよ・・」
「僕自身の問題・・・」
京の言葉を受けて、勇は戸惑いを覚える。昨日怪物に敗れたのは、姫菜を傷つけるかもしれないという迷い故。自分自身に負けたということである。
「要するにだ。己の強さを決めるのは、あくまで己自身ということだ。」
京は照れ隠しの素振りを見せて言いかけると、山地にあらかじめ持ち込んでいたクレーン車を覆っていたカバーを外す。
「お前が昨日戦ったサイとバッファローの怪物に対抗するには、連中の突進をかわしつつ、速攻の反撃を行うことが重要だ。そこでコイツを使って、飛び越える訓練を行う。」
「飛び越える・・そのクレーンの鉄の球を、ですか・・・?」
「そうだ。怪物の姿になっておけ。普通の人間がこれをまともに食らえば、体中の骨がバラバラになるぞ。」
京に促されて、勇はクレーンの前に立つ。そしてクロノに変身し、そのクレーンの鉄球に眼を向ける。
「ホントはこのくらいじゃ物足りねぇんだが、まずは体に覚えさせることが第一だからな。」
京は勇に言いかけると、クレーンの運転席に着く。クレーンを動かし、鉄球を動かす。
「勇、コイツをかわしてみせろ!お前なら飛び越えてかわせるはずだ!」
「はいっ!」
京の呼びかけに勇が答える。勇に向けて、振り子のように動いていた鉄球が、勇に向かってくる。
勇は飛び上がり、鉄球をかわそうとする。だが飛び越えることができず、その直撃を受けてしまう。
「ぐっ!」
鉄球が体に叩きつけられて、勇が顔を歪める。その想い突撃に突き飛ばされ、彼は横転する。
「どうした!?これを超えられないようなら、あのサイやバッファローの突進をかわすことなんてできないぞ!」
京が勇に向けて檄を飛ばす。勇が体に鞭を入れて立ち上がり、次に備える。
迫り来る鉄球に果敢に挑んでいく勇。だがその重い球が、次々と勇を突き飛ばしていく。
「勇!お前は何のために戦う!?他のバケモンたちのように、1人よがりな理由じゃないだろ!」
京の怒鳴り声とともに、鉄球がさらに勇に叩きつけられる。
「立て!お前の力はそんなものか!?姫菜を想うお前の意地はそんなものなのか!?」
「違います!・・僕は・・僕は!」
京の怒号に負けじと、勇が力を込める。勇は鉄球を飛び越えるためのコツを、必死に模索していっていた。
勇の回復を待とうとするあまり、暇を持て余していた竜馬。彼は退屈しのぎのため、ビルのひとつの屋上から街を見下ろしていた。
(勇、早く完治してほしいものだよ。でないと暴走してしまうよ。下手をすれば、君が大切にしている姫菜ちゃんを奪い取ってしまうかもしれない・・)
高揚感を募らせる勇が笑みを浮かべる。だが背後から感じられた気配に気付き、彼は笑みを消す。
「待ってたぜ、お前を・・」
1人の男が竜馬に声をかけてきた。
「この気配・・この前のサイだね。」
「オレ様のことを覚えててくれたか。それは光栄だな・・その礼をしておかないといけないな・・・!」
声をかける竜馬に言い返す男の頬に紋様が走る。
「そんなにお礼がしたいなら、僕を楽しませてもらえるかな?丁度、退屈していたところだったんだ!」
いきり立った竜馬にも紋様が浮かび上がる。2人の姿が異形のものへと変貌を遂げる。
「それはけっこう!せいぜい楽しませてくれよな!」
男が竜馬に向かって突進を仕掛けてきた。竜馬は自分に圧力をかけて、空高く飛び上がり、突進を回避した。
だが男は大きく飛び上がり、角を突き出してきた。竜馬は重力を操作して、その角も回避する。
「それじゃ、今度はこっちから行くよ!」
反撃に転じた竜馬が、男に向けて圧力をかける。
「ぐっ!」
上と横からの圧力に男がうねく。彼は横に突き飛ばされ、街の郊外の道に落下する。
竜馬も続いてその道に降り立つ。立ち上がったところを狙って、彼は男に衝撃波をぶつける。
再び突き飛ばされる男だが、すぐに踏みとどまって体勢を整える。
「いつまでも好きなようにやらせると思わないことだな!」
不敵な笑みを浮かべた男が、竜馬に向かって飛びかかる。2人は組み付き、力比べに入る。
「僕はけっこう力比べには自信があるよ。この重力の力もあるからね!」
竜馬は言い放つと、重力の力を駆使して男を押しつぶそうとする。だが男は竜馬を高らかに放り投げた。
「くっ!」
いぶかしげな気分を覚え、毒づく竜馬。だが彼が驚くのはこれからだった。
着地したところで、竜馬は背後から衝撃をぶつけられた。
「ぐあっ!」
痛烈な攻撃に声を上げる竜馬。突進を仕掛けてきたのはサイの怪物である男ではない。
「待っていたぞ。お前に仕返しができる、このときを!」
背後にいるバッファローの怪物が竜馬に言い放つ。背後からの突進を仕掛けてきたのは彼だった。
「徒党を組んできたとは・・やってくれるね・・」
「別にそいつと手を結んだわけじゃないさ。ただ、狙う獲物が同じ。ただそれだけさ。」
サイとバッファローの2体に注意を向ける竜馬。2体とも不敵な笑みを浮かべて竜馬を狙う。
(徒党を組んでないとはいえ、2人が同時に仕掛けてきたら、さすがに骨が折れるな・・問題は、どっちを先に狙いを絞るかだけど・・)
思考と同時に視線を巡らせる竜馬。あくまで冷静に対処し、2人の出方を伺う。
そして先に突進を仕掛けてきたのはバッファローだった。2人同時に飛び出したように見えるが、正確にはバッファローが若干先に飛び出していた。
竜馬はサイの足元に衝撃波を放ち、体勢を崩させる。直後、突っ込んできたバッファローを飛び越え、さらに衝撃波を放つ。
小さく圧縮された重力の弾丸は、バッファローの2本の角を叩き折った。
「ぐおっ!」
痛烈な攻撃を受けて、怯むバッファロー。竜馬は間髪置かずに、バッファローに重力を仕掛ける。
上からの重みに押されてうめくバッファロー。竜馬が容赦なく、重力を込めていく。
「今度は逃がさない。ここで一気に潰してやるよ!」
いきり立った竜馬が重力操作を全開にする。その強大な圧力に耐え切れなくなり、ついにバッファローの体が弾け飛んだ。
2対1の状況を難なく跳ね除けた竜馬。一瞬肩の力を抜くと、サイの怪物に視線を戻す。
「猪突猛進というのは本当に単純だね。僕の狙ったところに、君たちはすんなり飛び込んでくるんだから。」
自信と笑顔を取り戻した竜馬に、サイが毒づく。
「どうする?もっと続ける?」
言いかける竜馬にサイが焦りを覚える。このまま同じ攻め方を仕掛けても、同じ結果の繰り返しとなる。
焦りを募らせたサイが逃走を図る。だがそれを見逃す竜馬ではなかった。
サイを追跡し、重力の攻撃を仕掛ける竜馬。だがサイは物陰に潜んで、その追撃を巧みにかわしていく。
「逃げるのだけはうまいんだから。」
愚痴をこぼしながら、さらに追い討ちを仕掛ける竜馬。追い込まれていくサイだったが、彼の眼に2人の少女の姿が飛び込んできた。
そこにいたのは姫菜とスミレだった。2人は勇に早く元気になってもらおうと、買い物に出ていたのだ。
好機を見出したサイが降下し、姫菜とスミレの前に降り立った。
「えっ!?」
「か、怪物!?」
突如現れたサイの怪物に、姫菜とスミレが驚愕の声を上げる。
(こんなときに怪物と出くわすなんて・・しかも勇がそばにいないなんて・・・!)
危機感を膨らませ、スミレが毒づく。そこへ怪物が突っ込み、スミレが跳ね除けられる。
「キャッ!」
「スミレちゃん!」
悲鳴を上げる姫菜。倒された弾みで、スミレが気絶する。
「お前には人質になってもらうぞ。オレたちの仲間の中には、まだ人間のような甘さが残ってるヤツがいるからな。」
怪物は怯える姫菜を捕まえ、引き込む。それを目の当たりにした竜馬が驚愕を覚える。
(姫菜ちゃん!?)
自分が想いを寄せている少女を人質に取られ、竜馬が毒づく。
「形勢逆転だな。その衝撃波を使ってみろ。コイツも巻き添えになるぞ。」
サイの怪物が勝利を確信して、不敵な笑みを浮かべる。
(まずい・・他の人なら迷わずに攻め込んでいたが、姫菜ちゃんだと・・・!)
姫菜が人質にされていることに、竜馬が焦りを膨らませる。今、重力を仕掛ければ、彼女を巻き込みバラバラにしてしまうのは眼に見えてしまう。
「じっとしていろよ。この小娘と引き換えに、お前はオレに始末されるのだからな!」
サイは姫菜を横に突き飛ばすと、竜馬に向かって飛びかかってきた。行動に移れずにいた竜馬が、怪物の突進を直撃される。
「ぐあっ!」
突き飛ばされた竜馬が激しく横転する。怪物の逆襲によって、竜馬は窮地に追い込まれていった。
次回
「私はいつでも、勇くんの味方だからね・・・」
「お前にもいろいろと礼をしておかないとな!」
「お前だけは、絶対に許さない・・・!」
「お前には強さがある。勇気っていう強さがな・・・」