ガルヴォルスPF 第6話「存在」
コガネムシの怪物に追い詰められるも、竜馬の乱入によってこの危機を脱した勇。しかし非情さを秘めた竜馬がこれからどんな手を打ってくるのか分からず、勇は不安を膨らませていた。
夕食の時間も、勇は竜馬のことで頭がいっぱいになっていた。
(もしも竜馬くんが姫菜ちゃんに手を出してきたら、僕は・・・)
姫菜の危機を考えてしまい、勇はますます気落ちしてしまう。
「勇・・勇!」
そのとき、京から声をかけられて、勇は我に返る。
「どうしたんだ、勇?帰ってきてからも何か考え込んで・・」
「すみません・・ちょっと、いろいろあって・・」
憮然とした態度で声をかけてくる京に、勇が困惑の面持ちのまま答える。
「勇くん、学校でいろいろあって・・転校生の三重野竜馬くんとも・・」
「転校生?」
姫菜が言いかけた言葉を聞いて、京が眉をひそめる。彼は勇が、また怪物の事件で何かがあったものと感付いた。
夕食の後、京は勇を呼び出した。台所で姫菜が片づけをしている間、京は勇の身に起きたことをこの場で聞き出した。
「姫菜の言っていた転校生、そいつもあのバケモノなのか?」
「はい・・しかも竜馬くんは気まぐれで、姫菜ちゃんを狙うかもしれないって・・」
「な、何だとっ!?」
勇の言葉に京がたまらず声を荒げる。
「僕も姫菜ちゃんを守ろうとしているんですけど、逆に誤解を呼んでしまって・・」
「そうか・・・けどな勇、そんな不届き者を野放しにするわけではないのだろう?」
「まさかそんな!・・僕も姫菜ちゃんが危なくなるのは、とても辛いですから・・」
京に言いかけられて、勇が慌てて言葉を返す。沈痛の面持ちを浮かべる彼に、京はムッとなる。
「とにかく、そいつにはオレも注意しておく。だが学校ではお前が姫菜を守るんだ。できないとは言わせないぞ。」
「・・分かっています・・・」
京の呼びかけに勇は深刻さを拭えないまま頷いた。
その翌日、勇は姫菜から眼が離せなくなっていた。いつどこで竜馬が狙ってくるか分からないため、彼は気が気でなくなっていたのだ。
「どうしたの、勇くん?昨日から元気がないみたいだけど・・・」
登校の途中で姫菜に声をかけられて、勇が我に返る。
「ゴメン・・何でもないよ・・ホントに、何でもない・・・」
勇が首を横に振って答える。しかし姫菜は納得できずにいた。
「もう、朝から何辛気臭い顔してるのよ、勇・・」
そこへスミレがやってきて、勇たちに声をかけてきた。
「そういう顔してると、あたしも姫菜も迷惑するっての!」
「スミレちゃん、私はそんなつもりは・・」
勇に不満をぶつけてくるスミレに、姫菜が弁解を入れる。
「いいよ、姫菜ちゃん・・僕がこんな顔を見せているからいけないんだよ・・」
「勇くん・・」
だが逆に勇に弁解を入れられて、姫菜は戸惑いを見せる。
「あ〜あ、姫菜はちょっと先に行ってて!あたしはコイツに用があるから!」
「あっ!スミレちゃん!勇くん!」
スミレは姫菜の呼びかけを聞かずに、勇を連れて横道に外れていってしまった。人気のないところで足を止めると、スミレは勇に不満を見せる。
「勇!アンタがしっかりしなくてどうすんのよ!アンタ以外に、あのバケモノ連中から姫菜を守れないんだからね!」
「それは分かってるんだけど・・・」
弱々しく言いかける勇に、スミレは煮え切れなさを覚える。
「いい、勇。あの竜馬はホントに油断ならないのは間違いないんだから!アンタがしっかりしないと、姫菜、アイツにどうかされちゃうよ!」
「僕がどうかしたのかな?」
勇に言いかけるスミレに向けて声がかかる。2人が振り向いた先には、悠然さを見せている竜馬の姿があった。
「竜馬くん・・・!」
「ちょっと!盗み聞きなんて失礼じゃないのよ!」
緊迫する勇と、声を荒げるスミレ。竜馬は悠然さを崩さずに、2人を見つめる。
「アンタ、姫菜に何かするつもりなの!?・・冗談じゃないわよ!これ以上姫菜に近づかないでよ!あたしたちは、アンタたちのオモチャじゃないんだからね!」
「言ってくれるね。でもそういう強気なのも、嫌いじゃないよ。ただ・・」
言い寄ってくるスミレに対し、竜馬が眼つきを鋭くする。
「僕の楽しみを邪魔するなら、君でも容赦しないよ。僕も勇も、君のいうバケモノだからね・・・!」
「ふざけないで!勇とアンタたちを一緒にしないで!」
竜馬が冷淡に告げるが、スミレはそれでも引き下がらない。すると勇が竜馬の前に出てきた。
「君が何かしない限り、僕も君に何もしない・・でも、姫菜ちゃんを傷つけるなら、僕は容赦しない・・・!」
「勇・・・」
鋭く言いかける勇に、スミレが戸惑いを見せる。彼の言葉を聞いて、竜馬はため息をひとつつく。
「気がそがれたよ。また次の機会にしよう・・」
竜馬はきびすを返して、2人の前から去っていった。スミレが安堵を浮かべる前で、勇は深刻さを隠せないでいた。
街外れの森の中。薄汚れた1人の男が逃走していた。
その男を数体の怪物が追い回していた。男は岩場に追い詰められ、怪物たちに囲まれる。
「ヘッヘッへ。鬼ごっこはおしまいだぜ。」
「その首をかき切ってやるぞ、クロノ!」
怪物たちが男たちを狙って哄笑を浮かべる。この危機的状況に、男は焦りを覚えていた。
(ここで力を使えば、コイツらを倒せるが、また寿命を縮めることに・・だが、やむを得ないか・・!)
いきり立った男の頬に異様な紋様が浮かび上がる。直後、彼の姿も異様な怪物へと変貌を遂げる。
男は眼前の怪物たちに向けて、閃光をほとばしる。それに巻き込まれた怪物たちが硬質化し、動きを止める。
時間凍結の光によって、怪物たちの脅威から脱した男。だが力を使った男の体に、一気に疲弊が押し寄せる。
人間の姿に戻った男がその場にうずくまる。同時に固まっていた怪物たちの体がひび割れ、崩壊して崩れ去る。
「ハァ・・ハァ・・やはりこの力は、寿命を縮めかねない・・・」
力に対する大きなリスクに、男が毒づく。次の襲撃者が現れる前に移動しようと、彼は疲弊した体に無知を入れて走り出した。
その日の授業が終わり、帰り支度をしていた勇。そんな彼に姫菜が声をかけてきた。
「勇くん、今日は一緒に帰らないかな?」
「姫菜ちゃん・・・!?」
姫菜の突然の誘いに、勇が戸惑いを見せる。
勇は考えあぐねた。荒んでいる現状で姫菜を巻き込めない。だがヘンに距離を置けば、彼女に不審に思われ逆効果になりかねない。
「いいよ、姫菜ちゃん。一緒に帰ろう。」
「うん・・」
姫菜の申し出を勇は受けることにした。ここはあえてそばにいて守ってやるほうが最善手となると踏んだためである。
昇降口で靴を履き替えて正門を抜け、2人は岐路に着いていた。
「久しぶりだよね。こうして勇くんと一緒に帰るの。登校のときはいつも一緒なのにね・・」
「そうだね・・僕も、そんな気がしていたよ・・・」
姫菜がかけた言葉に、勇が笑顔を見せて頷く。
「滅多にない分、けっこう嬉しかったり・・アハハハ・・・」
次第に苦笑いを浮かべるようになっていく勇。だが姫菜の笑顔が徐々に曇っていく。
「勇くん、本当に最近どうしたの・・・?」
「えっ・・・?」
突然の姫菜の問いかけに、勇が再び戸惑いを見せる。
「勇くん、最近あまり元気がなくて・・何か悩んでいるんじゃないかって思う・・私が想像できないくらいの、大きな悩みが・・」
「姫菜ちゃん・・それは・・・」
姫菜の心配に、勇は素直に答えることができなかった。もし自分が関わっている今の出来事を話せば、それこそ彼女を巻き込むことになってしまう。
「勇くん、私も勇くんの悩みと向き合いたい・・たとえ力になれなくても、話だけでも・・」
切実な思いを見せてくる姫菜を前にして、勇は迷いを募らせていく。どう答えたらいいのか分からなくなり、彼は返す言葉さえ見失っていた。
そのとき、勇は電気が走るような強烈な感覚を覚えて、緊迫を覚える。
「勇くん・・・どうしたの、勇くん・・・!?」
姫菜が声をかけてくるが、勇には届いていない。そんな2人の前に、1人の男がやってきた。
「この感覚・・お前も私の命を狙う刺客か・・・!?」
「刺客・・・!?」
男が投げかけてきた問いかけに、勇が息を呑む。
「私は生きたいだけなのだ・・それを誰にも邪魔をさせない・・・!」
いきり立った男の姿が異形の怪物へと変貌する。
「えっ・・・!?」
その異質の姿に姫菜が驚きの声を上げる。テレビなどで登場するような怪物が、実際に眼の前に現れたのだ。
「お前たち、すぐにこの場で始末してやるぞ!」
「逃げよう、姫菜ちゃん!」
叫ぶ怪物から逃げようと、勇が姫菜を連れて走り出す。攻撃的な行動に出なかった2人に、男が疑念を抱いていた。
(まずい!姫菜ちゃんのいるところで怪物が現れるなんて!これじゃクロノになることもできない!)
逃走の最中、勇は心の中で毒づいていた。もしもここで変身すれば、姫菜にどのような恐怖を与えてしまうか。そう思っていた彼は、力を使うことができなかった。
やがて2人は街の隅にある公園に行き着いていた。そこで勇は、男が追いかけてきていないことを確認する。
「追いかけてきていないみたい・・助かったのかな・・・」
「勇くん、今の、何なのかな・・・!?」
一息つく勇に、姫菜が不安の面持ちを浮かべる。これ以上彼女の不安を膨らませてはいけない。
(何とかしないと・・人間の姿でも、何とかできないと・・・)
「今度、あの怪物がやってきたら、僕が注意を引き付ける。姫菜ちゃんは誰かと合流して。父さんでもスミレちゃんでもいいから・・」
決断を出した勇が、姫菜に呼びかける。だが姫菜の不安は消えない。
「でも、それだと勇くんが・・・!」
「このままだと2人ともやられてしまう・・僕は、姫菜ちゃんに、傷ついてほしくないから・・」
「そんなのダメだよ!」
勇が深刻な面持ちを浮かべて言いかけると、姫菜が悲痛さを込めて言い放つ。その言葉と様子に、勇が困惑を覚える。
「もしそれで私が助かっても、勇くんが助からない・・私も、勇くんが傷ついてほしくないよ・・・!」
「姫菜ちゃん・・・」
姫菜の言葉に反論できず、口ごもる勇。
そのとき、勇は男の気配を感じ取り、緊迫を覚える。直後、大きく跳躍してきた怪物が2人の前に着地してきた。
「これ以上追い回されるのは真っ平だ!その前にお前たちを!」
いきり立った男が咆哮を上げるように言い放つ。今の彼を突き動かしているのは、生存への執着が起因した攻撃衝動だけだった。
「姫菜ちゃんはすぐにここを離れて!僕があの人を!」
「勇くん!」
勇の呼びかけに姫菜が声を荒げる。
「こっちだ!僕が相手になってやる!」
だが勇はそれを聞き入れずに駆け出し、男を引き付ける。男も勇を追って飛び上がっていく。
「勇くん・・・」
勇が心配になるも、姫菜は彼の言葉を受け入れて駆け出すのだった。
男から姫菜を引き離した勇は、公園からさらに離れた草原で立ち止まる。そこで彼はいきり立っている男を待ち構える。
「とうとう観念したか・・だが私は何があろうと、死ぬわけにはいかないのだ・・・!」
「どんな理由があっても、姫菜ちゃんを傷つけようとするなら、僕は・・・!」
言い放つ男に言い返すと、勇はクロノへと変身する。その姿を目の当たりにして、男が眼を見開く。
(クロノ・・・!?)
自分と同じクロノであることに気付き、男が驚愕を覚えていた。だが動揺を募らせる間もなく、勇が男に飛びかかる。
男は一瞬だけ力を発動し、勇の接近を阻む。時間凍結の効果を持つその力に、勇も眼を見開いた。
「この力!?・・あなたもクロノ・・・!?」
驚きを覚えた勇が、男への攻撃ができなくなる。彼の異変に男も眉をひそめる。
「まさか君もクロノだったなんて・・・」
「クロノ・・・僕以外のクロノが・・・」
互いに動揺をあらわにする男と勇。
「まさかここでクロノに会うとは・・・だが、私はここで死ぬわけにはいかないと言った!」
いきり立った男が身構え、勇の出方を伺う。
「待って!同じクロノなら、ううん、たとえどんな姿になっても、分かり合えるはずだよ!」
「黙れ!その言葉に乗せられて、私は苦痛を強いられてきたのだ!」
勇の呼びかけを男が一蹴し、漆黒の稲妻を放出する。その力に巻き込まれて、勇の手足から色が失われる。
「しまった!体が・・!」
体の自由を奪われた勇が毒づく。その彼に男が迫る。
「このまま放っておいても構わないが、すぐに始末してやる・・同じクロノなら、危険であることは私が1番よく知っているから・・!」
いきり立った男が勇を始末しようとする。やられてしまうと思い、勇は覚悟を覚える。
そのとき、男は突如全身を襲った激痛を覚え、顔を歪める。痛みに耐えられなくなり、彼はその場にうずくまり、のた打ち回る。
「力を使った代償が・・こんなときにのしかかってくるとは・・・!」
「代償・・・いったい、何が起こって・・・!?」
うめく男の異変に、勇は困惑を覚える。悲鳴を上げる体に鞭を入れて、男がゆっくりと立ち上がる。
「こうなれば・・次の攻撃で終わらせるしかないようだ・・・!」
「待って!話を!」
いきり立った男は、勇の呼びかけを聞かずに飛びかかっていく。時間凍結に蝕まれており、勇は動くことができない。
そのとき、男の体が真っ二つに切り裂かれる。またも唐突なことが起こり、勇が眼を見開く。
「やれやれ。君も本当に仕方がないね。」
鮮血をまき散らして昏倒する男の背後には、怪物の姿となっている竜馬がいた。彼が背後から男を切り裂いていたのだ。
「竜馬くん・・・!?」
事切れる男を目の当たりにして、勇が愕然となる。竜馬はそんな彼に眼を向けて、ため息をつく。
「そいつと君は同じクロノ。時間を操れる君が、時間凍結を解除できるはずなのに・・・」
「時間凍結を、解除・・・!?」
呆れる竜馬の言葉に、勇は困惑を膨らませる。彼は自分もクロノでありながら、男に対する感情に左右されるあまり、時間を操る力を失念してしまっていた。
思い立った勇が意識を集中し、自身にかけられた時間凍結を解除する。時の呪縛から解放された彼は、すぐに人間の姿に戻る。
「本物のバケモノ同然となってしまったら、僕としては大したことはないね。闇雲に突っかかってくるのは、僕の相手ではない。」
「だからって、そう簡単に殺すなんてこと・・第一、この人も僕と同じクロノなんだよ・・・!」
「だからだよ。クロノは危険な存在。だからみんなが始末しにかかるというわけだよ。」
反論するも竜馬に言いとがめられて、勇は言葉を詰まらせる。
「そうだ・・姫菜ちゃんのところに・・・!」
思い立った勇が慌しく駆け出す。姫菜のことが気がかりになった彼は、急いで彼女と合流しようとしていた。
街に戻り、家路につながる道へと差し掛かった勇。そこで彼はようやく姫菜を発見した。
「よかった・・・姫菜ちゃん!」
勇が安堵を覚えながら、姫菜に声をかけて駆け寄った。
「勇くん、どうしたの、そんなに慌てて・・・?」
「えっ?・・・姫菜ちゃん、何を言って・・・?」
疑問符を浮かべる姫菜に、勇が動揺を覚える。怪物を目の当たりにして、怖さを感じていた様子は微塵もなかった。
「だってさっき、僕たちの前に怪物が現れて・・それで・・・!」
「怪物?・・勇くん、ちょっと何を言っているの・・・!?」
声を荒げる勇に姫菜も言い返す。彼女が不安を覚えているのは怪物についてというよりも、勇の切羽詰った態度に対してのものだった。
「勇くん、何があったの!?・・よかったら私が・・・」
姫菜が声をかけてくるが、勇は困惑のあまりにその場から離れていってしまった。
「どういうことなんだ!?・・姫菜ちゃんがあのクロノを、さっきの出来事を覚えていない・・・!?」
この事態が理解できず、混乱に陥ったまま道を駆け抜けていく勇。だが眼前に竜馬がいたことに気付き、勇は足を止める。
「竜馬くん・・・」
「おかしいと思っているんだろう?なぜみんなが、あのクロノのことを覚えていないのかを。」
困惑する勇に、竜馬が淡々と答える。
「君も理解するといい・・クロノの最後がどういうものなのか・・」
「クロノの、最後・・・!?」
「クロノの死は、他の生物のそれと全く違う。単に命を失うということではない・・」
眼を見開く勇に向けて、竜馬が語りかけていく。
「そのクロノの存在そのものが完全に消滅する。まるで最初から生まれていなかったかのように・・」
「存在が消滅する・・だから姫菜ちゃんにも、誰の記憶にも残らない・・・」
竜馬の言葉を受けて、勇が愕然となる。
「僕たちのような存在以外には、もう誰もあの人のことを覚えていないよ・・・」
竜馬は呟くように言いかけると、きびすを返してこの場を去った。勇はクロノの本質を目の当たりにするのだった。
次回
「コイツが姫菜に絡んできた輩か・・」
「どうして僕がこんな格好を・・・!?」
「オレ様の突進を、お前のようなヤツに止められるものか!」
「勇!」
「もしかしたら僕、姫菜ちゃんをこの手で・・・」