ガルヴォルスPF 第5話「道化の遊戯」

 

 

 突如、勇たちの通う学校に転入してきた竜馬。彼の登場に勇とスミレは驚愕を覚えずにいられなかった。

「三重野竜馬くん。分からないことが多いと思うから、みんな、仲良くするように。」

 担任の言葉にクラスメイトたちが喜びと歓迎の声を上げる。

「では三重野くん、あの廊下側の後ろの席について。」

「はい。」

 担任に促されて、竜馬は指定された席に着いた。その彼から、勇とスミレは視線を外すことができなかった。

(竜馬くん・・君が、なぜここに・・・!?

(あたしたちの学校まで来て、何を考えてるっていうのよ・・・!?

 竜馬の動向が気にかかり、2人は動揺を感じずにはいられなかった。

 

 1時間目の授業が終わり、その後の空き時間が訪れた。竜馬はクラスメイトたちから質問攻めにあっていた。

 いろいろと聞かれるのが転校生の性である。だが竜馬は慌てることなく、淡々と質問に答えていっていた。

 そのクラスメイトたちをかき分けて、スミレが駆け込んできた。突然のことに当惑を見せている竜馬を、スミレは腕を引っ張って連れ出した。

「いったい何の用だい?質問なら順番を守るのが礼儀だと思うけど。」

「とぼけないで!どうしてアンタがここにいるのよ!?

 淡々と言いかける竜馬に、スミレが食って掛かって問い詰めてくる。しかし竜馬は落ち着きを崩さない。

「僕は勇を気にかけている。だからこの学校に来たわけ。」

「まだ勇を狙ってるっていうの!?

「当然だよ。彼はクロノ。僕たちの中でも最高の力を持ってるからね。」

 スミレの問いかけに竜馬は落ち着きを崩さずに答える。そこへ勇が現れ、2人に深刻な面持ちを見せる。

「竜馬くん・・」

「久しぶりだね、勇。僕もここに来させてもらったよ。」

「どういうつもりなの、竜馬くん!?・・もしかして、僕たちを襲うつもりじゃ・・!?

「そうしてもいいんだけどね。でも今はそんな気分ではない。僕が今興味があるのは君だからね。」

 不安を込めて問いかける勇にも、竜馬は淡々と答える。すると勇が真剣な面持ちになって、竜馬に言いかける。

「もしも君がみんなを傷つけるつもりなら、僕は君を何とかしなくちゃいけない・・」

「肝に銘じておくよ。君が本気になったら、いろいろと厄介だからね。僕も無事では済まなくなる。」

「・・何を考えてるの?・・君はこれから、何をしようとしているの・・?」

「別に。特に目的とかはない・・これは僕のお遊び。僕なりの楽しみ方というものだよ。」

 眼つきを細める竜馬に、勇とスミレは息を呑んだ。

「勇くん、スミレちゃん、そろそろ授業が始まるよ。」

 そこへ姫菜が声をかけてきた。緊張する中での突然のことに、勇とスミレは背筋が凍りつくような不快感を覚える。

「ひひひ、姫菜、脅かさないでよ・・!」

「ゴ、ゴメン・・でも、そろそろ授業が・・」

 たまらず声を荒げるスミレに、姫菜が苦笑いを浮かべて謝る。だが勇は緊張感を膨らませて、竜馬をじっと見ていた。

(いけない・・こんなときに姫菜ちゃんが来るなんて・・もし、竜馬くんが何か仕掛けてきたら・・!)

 竜馬の行動を強く警戒する勇。姫菜に眼を向けた竜馬が、ゆっくりと姫菜に向かって歩を進め始める。

「ま、待って・・!」

 勇が止めようとするが、竜馬はその制止の手を振り払い、姫菜の前に立つ。勇だけでなく、スミレも緊張を一気に膨らませる。

「あ、あの・・?」

 竜馬に見つめられて、姫菜が戸惑いを見せる。

「君・・・」

「はい・・・」

 姫菜、勇、スミレが思わず息を呑む。

「好きです!僕と付き合ってください!」

「えっ!?

 あまりにも予想だにしない竜馬の言葉に、勇とスミレが声を荒げる。

「あ、あの、私・・!?

「一目ぼれしてしまいました・・僕と2人だけの時間を、過ごしていただけないでしょうか!?

「ち、ち、ちょっと待った!」

 動揺する姫菜に呼びかける竜馬に対し、勇がたまらず反論する。

「や、や、やっぱり姫菜ちゃんに何かしようとしてるんじゃないか!」

「あれ!?もしかして君、あの子の・・彼女なの!?

 竜馬の口にした言葉に勇が絶句する。反論したい気持ちでいっぱいだったが、それ以上に動揺が強かった。

「もーっ!2人とも何やってるのよ!姫菜の言うとおり授業が始まるよ!」

 そこへスミレが割って入り、話を中断させる。気持ちが混乱したまま、勇と竜馬は一路教室に戻ることにした。

 

 それから勇は竜馬から眼を離せなくなっていた。竜馬が姫菜を狙っていると確信した勇は、いつにも増して焦りを膨らませていた。

 あまりにも竜馬と姫菜に注意が行き過ぎてしまい、勇は先生に注意される羽目に陥った。頭を下げるものの、彼は2人が気がかりで仕方がなくなっていた。

 そして放課後、気持ちが落ち着かないままの勇に、竜馬が声をかけてきた。

「2人だけで帰ろうか。どうも君は、あの子に僕が近づくのを不満に思ってるみたいだからね。」

 悠然と語りかける竜馬だが、勇は緊張の色を消さない。

「本当に君は何が目的なの?・・僕を狙ってきたと思ったら、いきなり姫菜ちゃんを・・」

「あれはただの一目ぼれというものさ。僕があんな態度を見せることになるとは、僕自身、本当に思っていなかった・・」

 勇が問い詰めるが、竜馬は悠然さを崩さない。

「単純に言うと、僕は気まぐれな性格だからね・・楽しめれば気分も変えるさ。」

「気分次第で、姫菜ちゃんを傷つけることもあるってこと・・・!?

「まぁ、そういうことも全然ないとは言えないね。」

 深刻さを募らせる勇に、竜馬は淡々と言いかける。すると勇が竜馬の肩に手をかけてきた。

「姫菜ちゃんには手を出させない!・・・姫菜ちゃんを傷つけるなら、僕は・・・!」

 鋭く言いかける勇の手を振り払う竜馬。すると勇が竜馬を睨みつける。普段と違い、今の勇は感情的になっていた。

「勇くん、竜馬くん・・?」

 そこへ姫菜が声をかけてきた。戸惑いを見せる勇の前で、竜馬が左肩を押さえてきた。

「姫菜ちゃん・・この子がいきなり僕の肩を・・」

「なっ!?

 突然竜馬が痛みを訴え、勇が驚きの声を上げる。

「勇くん、本当なの?・・本当に・・」

「違う!僕は何も・・!」

 沈痛の面持ちを浮かべる姫菜に、勇が声を荒げる。

「だって、竜馬くん、すごく痛がってるよ・・・」

 互いに困惑を見せる姫菜と勇。竜馬は未だに肩を押さえて痛みを訴えていた。

「大丈夫・・僕なら平気だよ・・ちょっと保健室に行ってみるよ・・多分、大丈夫だと思うから・・」

 竜馬は言いかけると、そそくさに教室を出て行った。勇と姫菜の間には溝が生じていた。

 

 授業が終わり、下校を始める子供たち。彼らは賑わいを見せながら、岐路に着いていた。

 そんな子供たちを冷ややかに見つめる1人の男。金髪のその男は、不敵な笑みを浮かべると、その子供たちに向かって歩き出した。

 男の登場が気になり、子供たちが足を止める。

「やっぱり子供たちはどれもこれもかわいいね。でも・・」

 友禅と声をかけてきた男に、子供たちがきょとんとなる。

「金ぴかのほうが、私としては好みなんだよね・・・」

 冷淡に言いかけた男の姿が変貌を遂げる。コガネムシに酷似した姿の怪物に。

「うわぁっ!怪物!」

「誰か!誰か!」

 子供たちが悲鳴を上げていっせいに逃げ出そうとする。そこへ怪物が口から霧のような光を発射する。

 光に巻き込まれた子供たちが、一瞬にして金色になって動かなくなる。金の像と化した子供たちが立ち並び、周囲に静寂が戻る。

「うんうん。やっぱり金、ゴールドはさわやかでいい。気持ちが落ち着く・・・」

 怪物から人間の姿に戻った男が、変わり果てた子供たちを見渡して感嘆の声を上げる。

「他の子供たちも、同じように気分よくしてあげないとかわいそうだ・・」

 男は喜びを膨らませながら、次の標的を求めて歩き出していった。

 

 姫菜に対するわだかまりを抱えたまま、下校しようとしていた勇。気落ちしている彼のところへ、スミレが駆け込んできた。

「勇、アイツ、何かしてきたの・・?」

「うん・・本当に気まぐれで・・その気まぐれで、姫菜ちゃんに手を出すかもしれないって・・・それで怒った時に姫菜ちゃんが来て・・・」

 スミレが問いかけると、勇が困惑気味に答える。するとスミレがため息をつき、深刻な面持ちを浮かべる。

「悪いところで出くわしちゃったってわけね・・でも、姫菜はそう簡単に、誰かを疑ってかかるような子じゃないよ。そのくらいのことは、あたしよりアンタのことが分かってるはずじゃない。」

「スミレちゃん・・・そうだよね・・こういうときこそ、僕がしっかりしないと・・・」

「ホント。アンタはホントにしっかりしないとね。おっとりしてる姫菜よりも出遅れてるから。」

「アハハハ・・ひどい言われよう・・・」

 スミレに言いかけられて、勇が肩を落としながら苦笑いを浮かべる。

「とにかく、あの竜馬って子にはホントに気をつけないとね。」

「そうだね・・姫菜ちゃんが危ない目にあわせられないよね・・・」

 スミレに真面目に言いかけられて、勇も真剣な面持ちを浮かべて頷いた。

「キャアッ!」

 そのとき、勇は外から響いてきた悲鳴を耳にする。彼の研ぎ澄まされた聴覚だから拾えたものであり、スミレには聞こえていなかった。

「どうしたの、勇?」

「外から悲鳴が聞こえたんだ・・もしかしたら、あの怪物が・・!」

 スミレの問いかけに答えると、勇は間髪置かずに駆け出した。

「あっ!勇!」

 声を荒げたスミレも、勇を追って駆け出していった。

 

 下校途中の子供たちを次々と金の像に変えて回っていた男は、勇の通う学校のそばまで来ていた。その校舎に眼を向けて、男は笑みをこぼす。

「あそこなら子供がいっぱいいるだろうね・・私もみんなも気分よくならないと・・」

 男は悠然さを募らせながら、学校の正門を通ろうとした。そこへ悲鳴を聞きつけた勇が校舎の昇降口から出てきた。

「丁度いいところにやってきたみたいだね・・次はあの子を・・」

 男が勇に向かって歩き出す。それに気付いた勇が緊張を膨らませる。

「ここで変身するわけにいかない・・何とか引きつけて場所を変えないと・・」

 勇は呟きかけると、男を見据えながら移動を開始する。

「勇!」

「来たらダメだ、スミレちゃん!姫菜ちゃんのそばにいてあげて!」

 遅れて昇降口に駆けつけたスミレに呼びかけながら、勇が校舎から離れていく。男は彼を追ってゆっくりと歩き出していった。

 2人は人気のない広場で足を止める。不安を抱えながらも、勇は男を見据える。

「あなた、みんなに何をしたんですか・・・!?

 男に問いかける勇の頬に異様な紋様が浮かび上がる。そして彼の姿が異形の怪物へと変貌する。

「君も私と同じ人の進化かい?どちらでもいいよ。子供は私が金にして、気分よくさせてやるんだから・・」

「金に?・・みんなを金にしたっていうの・・・!?

 悠然さを浮かべる男に、勇が憤りを覚える。

「みんなを元に戻して・・でないと僕は、力ずくであなたを・・・!」

「元に戻す?せっかく気分がよくなってるのに、戻す必要があるのかい?」

 勇が要求するが、男はそれを拒む。憤りを募らせる勇の握り締める拳から、稲妻がほとばしる。

「できれば、穏便にことを済ませたかった・・・」

 呟きかけると、勇は男の懐に素早く飛び込んだ。歓喜の笑みを浮かべた男も、コガネムシの怪物へ変身する。

 その瞬間、勇の放った衝撃波が、怪物の体を吹き飛ばした。だが怪物は地に足を付けて、平然と踏みとどまる。

「こういう刺激的なのも、悪くない気分だよ・・」

 怪物が悠然さを浮かべると、口から霧のような光を吐き出してきた。

(あの霧でみんなを金に変えたわけか・・・だけど!)

 勇は大きく跳躍して、その光を回避する。落下を利用して、勇は両手を握り締めての打撃を、怪物の頭部に叩き込む。

 痛烈な一打を受けて、怪物が怯む。着地した勇がすかさず追撃に出る。

 怪物はすぐに体勢を整えて、後退して勇との距離を取る。

(こうなったら時間凍結の力で、動きを止めて・・!)

 次の手を打つために勇が意識を集中したときだった。

 勇は突如、足に違和感を覚える。視線を下に向けると、両足が金に変化していた。

「そんな!?僕はあの霧に触れてないのに・・!?

 信じられない気持ちを膨らませた勇が驚愕の声を上げる。その直後、彼は地面の上を這う霧の光を目の当たりにする。

「霧!?・・・もしかして、さっき吐き出したのが・・!?

「いい感じになってきたようだね、君も。」

 愕然となる勇の前で、怪物が悠然と微笑みかけてくる。

「この光は特別でね。私の体から出ても、しばらく効果を失わないんだよ。」

「それで、戦っている間に・・しかも、自分自身には効果がない・・」

 語りかける怪物に勇が毒づく。その間にも、金への変化が彼の体を蝕み出していた。

「ではじっくり楽しませてもらうよ。お互い、気分をよくしていこう。」

「悪いけど、楽しむのは僕の土俵でね。」

 そのとき、怪物に向けて声がかかってきた。直後、怪物が突如地面に這いつくばる。

「この重力・・竜馬くん!」

 思い立った勇が、竜馬の乱入を察知する。地面に押しつぶされている怪物の上空に、巨大な岩が浮遊してきた。竜馬が重力操作で運んできたものだ。

「ダメだ、竜馬くん!この人は・・!」

 勇の呼びかけも叶わず、岩は落下し、怪物を容赦なく押しつぶした。断末魔の叫びを上げた怪物が、霧のように崩壊していった。

 怪物の消滅により、周囲に漂っていた霧の光が消失する。同時に金に変わりつつあった勇の体も元に戻る。

「そんな・・あの人も、元々は人間だった・・・」

 霧散する怪物の亡骸を見つめて、勇が沈痛の面持ちを浮かべる。彼は男の時間をわずかながら感じ取っていた。

 男は元々は人間で、子供を何よりも好んでいた。だが怪物へと変貌したことで、その好感が邪なものとなってしまったのである。

 そんな勇の前に竜馬が姿を現した。怪物ではなく、人間の姿だった。

「ちょっと様子を見に来たら、見事なかっこ悪さだね。見てるだけで気分が悪くなりそうだったから、僕がとどめを刺してしまったよ・・」

「この人、元々は人間だった・・それなのに、こんなこと・・・」

 嘆息をもらす竜馬に、勇が沈痛の面持ちを浮かべる。

「今さら何を言うんだい?それをいうなら僕や君、同族全員がそうだよ。」

「えっ・・・!?

 竜馬の言葉に驚きを見せる勇。

「全然理解できないことではないはずだよ。君は今まで、普通の人間として過ごしていたはずだ。クロノになるまではね。」

 竜馬の言葉を受けて、勇はさらなる困惑にさいなまれる。

「そうだ・・僕も少し前までは、何でもない普通の人間だった・・・」

「だから気に病む必要なんてどこにもない。みんな自分が満足するために力を使っている。そのために罰を与えられること自体に反感を覚えているわけではない・・まぁ、僕はその罰を跳ね除けるだけだけどね。」

 気落ちする勇に向けて、淡々と語りかける竜馬。竜馬は誰かを傷つけることに罪悪感を感じていなかった。

 猫のように気まぐれな性格の竜馬。彼は楽しむために、勇たちにさらなる行動を起こそうとしていた。

 

 

次回

第6話「存在」

 

「これ以上姫菜に近づかないでよ!」

「僕の楽しみを邪魔するなら、君でも容赦しないよ。」

「クロノ・・・!?

「私は何があろうと、死ぬわけにはいかないのだ・・・!」

「君も理解するといい・・クロノの最後がどういうものなのか・・」

 

 

作品集

 

TOP

inserted by FC2 system