ガルヴォルス
-New Generation-
第7章
カインによって連れ去られたハヤトとアイリ。2人とも意識を失ってしまい、ハヤトはガルヴォルスから人の姿に戻っていた。
「くっ・・オ・・オレは・・・」
まだはっきりしていない意識の中、ハヤトが記憶を思い返す。
「オレはアイツに閉じ込められて・・まさかここは、アイツのアジト・・・!?」
ハヤトが緊迫を覚えて起き上がろうとした。しかし体に痛みが走って、彼は顔を歪める。
「ぐっ・・あのときの痛みがまだ残ってるのか・・・!?」
ハヤトが痛みに耐えながら、改めて起き上がる。
「アイリ・・アイリ、起きろ!おい!」
ハヤトに呼びかけられて、アイリも意識を取り戻した。
「ハ・・ハヤト・・・」
「アイリ・・気が付いたか・・・!」
声を漏らすアイリに、ハヤトが安堵を覚える。
「ここはどこなの?・・私たち、確かあの人と会って・・・」
「あぁ・・捕まっちまったんだ、オレたちも・・・ここはきっと、アイツのアジトだろうな・・・」
周りを見回すアイリに、ハヤトが言いかける。彼らのいる場所の周辺は暗闇に包まれていた。
「あの人はどこに?・・あの人が私たちを連れて行ったとしたら、この近くに・・・!?」
「出てこい!隠れていないで姿を見せろ!」
アイリがカインのことを気にして、ハヤトが周りを見回して叫ぶ。
「少し離れてしまってすまなかった・・」
するとカインがハヤトたちの前に姿を現して声をかけてきた。
「お前・・・!」
「君が会いたがっている人のところへ、今から案内するよ・・」
目つきを鋭くするハヤトを、カインが手招きする。
「ふざけるな!お前を倒して、ハルナを取り戻す!」
ハヤトが右手を握りしめて、カインに拳を振りかざそうとする。しかし力を入らず、ハヤトはふらついてしまう。
「ハヤト!」
アイリが叫んで、倒れそうになったハヤトを支える。
「私の力によって自分を傷付けてしまったときの痛みがまだ残っているようだ・・今はムリをしてはいけない・・」
「ふざけるな!・・オレは必ずお前を倒して、ハルナを救い出すんだよ・・・!」
悲しい顔を見せるカインに、アイリに支えられているハヤトが声を振り絞る。
「でも心配はいらない。君たちの苦痛を全て、私が拭い去ることになる・・・」
「苦痛を拭い去る・・・どういうことなの・・・!?」
微笑みかけてきたカインに、アイリが疑問を投げかける。
「言葉通り、私が君たちを解放する・・全ての苦痛から、みんなを救う・・・」
「そうやって自分の思い通りにするのかよ・・ハルナみたいに!」
意識を集中するカインに、ハヤトが怒鳴りかかる。しかし次の瞬間、彼はカインがハルナにしたことを思い出して、緊迫を覚える。
「お前、まさか・・オレたちにもアレをするつもりか・・・!?」
「覚えていたみたいだけど、避ける必要はないよ・・これは至福への道なのだ・・」
声を荒げるハヤトに言いかけて、カインは集中していた力を解き放つ。ハヤトとアイリの足元に光が現れる。
「まずい!アイリ、逃げろ!」
ハヤトがたまらずアイリに呼びかける。
「もう君たちは、至福の光の中だよ・・」
カインが笑みをこぼすと、地面からの光が上に舞い上がった。光はハヤトとアイリを包み込んだ。
「うっ!・・な、何、この感じ・・!?」
「か、体が・・おかしくなる・・・!」
体に押し寄せる異質の感覚に、アイリとハヤトが心を揺さぶられる。光の衝動で2人の衣服が引き裂かれていく。
「実感するんだ・・本当の至福というものを・・・」
カインが言いかける前で、ハヤトとアイリが光に体を蝕まれた。2人は体中を奇妙な感覚が駆け巡っているのを実感していた。
「何、この感じ・・抑えようとしても、抑えられない・・・!」
アイリが呼吸を乱して、ハヤトに寄り添ってくる。彼女との抱擁にハヤトも抗えない。
「気分がおかしくなる・・ハルナも、この感じを・・・!?」
ハヤトも呼吸を乱して、カインに目を向ける。
「そう。私がもたらした力が、君たちにも最高の至福をもたらしている。その気分が君たち自身、互いを欲するようになっている・・」
「私とハヤトが、お互いを・・・!?」
カインが語りかけて、アイリが困惑する。込み上げてくる気分に、アイリもハヤトも抗うことができない。
「ダ・・ダメだ・・オレは・・こんなこと・・・!」
ハヤトが衝動に突き動かされるままに、アイリとの抱擁を深める。彼の性器が彼女の秘所に入り込んでいく。
「ハヤト!・・わ・・私・・・!」
性交する自分たちにアイリが動揺を膨らませていく。
「こんなことになっておかしいはずなのに・・もっと・・もっと気分が、よくなってくる・・・!?」
「もちろんだよ。それが私のもたらす至福。苦痛をかき消して喜びだけを感じさせていく・・」
呼吸を乱すアイリにカインが語りかける。
「苦痛を感じることなく喜びを永遠に感じ続ける。それが楽園というものだよ・・」
「何が楽園だ・・自分の思い通りにしようとしているくせに・・・!」
カインに憤りを口にするハヤトだが、彼も恍惚に襲われていく。
「それが私の、抗えない欲望というものだ・・だがそれを押し付けてばかりというわけにいかないからね・・至福を与えるのが見返りというものさ・・」
「どこまでも自分の思い通りに・・オレは・・オレたちはこんなことに・・!」
「もう怒りや憎しみに振り回されることはない・・このまま気分を楽にして、幸せを堪能していくといい・・・」
抗おうとするハヤトにカインが言いかける。
ハヤトとアイリの体が石に変質していく。その変質が2人への恍惚をもたらしていた。
「オレはこんな気分に浸りたくはない・・それなのに何でオレは、この気分をいいと思うようになっているんだよ・・・!」
「それが至福・・揺るぎない永遠の楽園というものだよ・・・」
込み上げてくる恍惚と自らの感情の狭間で声を振り絞るハヤトに、カインが微笑みかける。
「この楽園の中でハルナさんは、他の人たちも救われた・・君たちもこの至福を実感することになる・・・」
「アイリ・・オレは・・オレは・・・」
「ハヤト・・・私・・このままハヤトと・・・」
語りかけていくカインの前で、ハヤトとアイリが恍惚に囚われてさらに寄り添い合う。2人はそのまま顔を近づけて口づけを交わした。
(ちくしょう・・体が、全然言うことを聞かない・・)
(ハヤトと離れられない・・ずっと一緒にいたいと思うようになっている・・・)
口付けをしたまま、ハヤトとアイリが心の中で呟いていく。
(アイツの思い通りになりたくないけど・・)
(ハヤトとのこの気分・・この時間・・いつまでも過ごしたい・・そう思っている・・・)
石化の恍惚に突き動かされるまま、ハヤトとアイリは抱擁を続ける。
(アイリ・・・)
(ハヤト・・・)
互いを想う2人の目からは涙があふれていた。
ついにハヤトとアイリの体が完全に石に変わった。2人は抱擁したまま微動だにしなくなった。
「やっと・・これで2人も、私の楽園の一員となった・・・」
石像となったハヤトとアイリを見つめて、カインが喜びを感じて笑みをこぼす。
「君に強い怒りと憎しみを植え付けてしまった・・そのために君を傷付けてしまった・・でもそうなることはもうない・・君たちは私の与えた至福の中で、永遠の幸せを実感していく・・・」
ハヤトとアイリに歩み寄り、カインが2人の体を優しく撫でていく。石化した2人は何の反応を示さない。
「私には分かる・・君たちの心は心地よさを感じている・・互いに寄り添い合って、触れ合いを味わっている・・」
カインはハヤトとアイリの心の中を読み込む。2人の心は抱擁を続けて、互いのぬくもりを感じ合って気分をよくしている。
「ここで2人きりでいるばかりなのはいいとは言えない・・そばにいさせてあげないと・・」
カインは意識を傾けて、念力でハヤトとアイリを持ち上げる。彼らは多くの女性の石像が立ち並ぶ部屋に来た。
カインはハヤトとアイリをハルナの隣に置いた。
「待たせたね、君たち・・これで君たちは一緒だよ・・さみしい思いをすることなく、永遠に過ごすことができる・・・」
カインがハルナに目を向けて微笑みかける。ハルナも石化の恍惚に心を委ねていることを、カインは分かっていた。
「離れ離れになっていた2人が今、再会することができた・・新しい友人とともに・・・」
カインがハルナの耳元で囁きかける。石化していた彼女も全く反応しない。
「そして私はもっと楽園を広げていく・・至福で満たされた楽園を・・・」
カインはハヤトたちに背を向けて、自分の欲を口にする。
「そう、もっとみんなに・・幸せを与えないと・・・」
他の人を招き入れるため、カインは部屋を出て外へ赴いた。
部屋の中には石化された人が取り残された。誰もが石化の恍惚に囚われて、快感を募らせていた。
カインによって石化されたハヤトとアイリは、心の中でも抱擁を続けていた。2人も恍惚に突き動かされて、互いに触れ合っていた。
ハヤトもアイリも互いの体に触れ合うことを心地よく思っていた。それ以外の感情が、恍惚によって塗りつぶされていた。
「ハヤト・・・もっと・・もっと寄って・・・」
アイリがあえぎ声を発して、ハヤトにさらに寄り添っていく。その心地よさにハヤトも引き込まれていく。
「アイリ・・どうしても我慢できない・・お前を・・ムチャクチャにしちまう・・・!」
ハヤトが顔を近付けて、アイリとの口付けを深めていく。
「こんなの、おかしいはずなのに・・気分がよくなってくる・・もっとお前を抱きしめたくなってくる・・・」
「私もだよ、ハヤト・・もっと・・もっとハヤトと一緒にいたい・・・」
恍惚に抗えずに抱擁を続けるハヤトとアイリ。互いの体に触れ合うことも性交も、2人にとっての快楽そのものとなっていた。
カインに抗う気持ちも憎悪も、カインのもたらす恍惚にかき消されていた。
翌朝になってアイリに連絡を取ろうとしたあかり。しかしあかりの携帯電話につながらない。
「あれ?アイリちゃんが出ないよ〜・・」
あかりがアイリのことを気にして首をかしげる。
「ハヤトくんにも連絡してみよう・・!」
あかりは続けてハヤトへの連絡を試みる。しかしハヤトにも連絡がつかない。
「ハヤトにもつながらない・・もしかして、2人とも、何かあったんじゃ・・・!?」
不安を感じたあかりが動揺を膨らませていく。
「今日は仕事もオフだし、2人を探してみようかな・・!」
気を引き締めたあかりがマンションから外に飛び出した。
(アイリちゃん、ハヤトくん、お願いだから電話に出て・・!)
ハヤトたちが電話に出ることを願うあかり。彼女は必死にハヤトとアイリを探しに回る。
「ハヤトくんたちを探しているようだね。」
小さな通りの真ん中で、あかりが声をかけられた。彼女の前にカインが現れた。
「あなたは・・?」
「君があかりさんだね。ハヤトくんたちの心を読み取って、君のことを知ったよ。」
疑問を投げかけるあかりにカインが微笑んで言いかける。
「ハヤトくんの知り合い?・・もしかして、ガルヴォルスっていうの!?」
あかりが緊迫を覚えて後ずさりする。
「ハヤトくんはどこなの!?教えて!」
「彼とアイリさんは私のところにいる。君もみんなのところへ案内するよ・・」
声を上げるあかりにカインが手招きをしてくる。しかしあかりは彼の誘いに乗らない。
「ハヤトくんとアイリちゃんをここに連れてきて!アンタの罠に何てはまってやらないんだから!」
「君にもひどく嫌われてしまっているね、私は・・」
警戒して声を上げるあかりに、カインが苦笑を浮かべる。
「でも私に付いてこなければ、彼らに会うことはできないよ・・」
「それでもついていかないよ!ハヤトくんだったらきっとそうするからね!」
カインがさらに言いかけるが、あかりの拒絶は頑なだった。
「本当に仕方がないことだね・・彼らも君も・・・」
カインは肩を落とすと、離れていくあかりに対して指を鳴らした。あかりが淡い光の球に閉じ込められて、逃げられなくなった。
「ちょっとー!ここから出してよー!」
あかりが頭を抱えて悲鳴を上げる。彼女は光の球から無理やり出ようとした。
「強引に出ないほうがいい。映っている自分を傷つくことになって、それが自分自身をも傷つけることになる・・」
「それってどういう・・!?」
「ハヤトくんたちもこの忠告を聞かずに苦痛を味わうことになってしまった。君までそんな思いをすることはない・・」
疑問を感じていくあかりにカインが説明する。
「それではいそうですかって大人しくするわけないでしょ!」
あかりが納得せずに球を中から思い切り蹴る。球に映っていた自分の姿を蹴ることになり、彼女は激痛に襲われた。
「痛い痛い痛い!・・ホントに痛くなった・・!?」
「話はきちんと聞いたほうがいいということだ・・」
痛がって悲鳴を上げるあかりに言いかけて、カインが近付いてくる。
「今は休んでいて。ハヤトくんたちに会わせるよ・・」
カインは微笑みかけると、気絶したあかりを連れてこの場を離れた。
あかりも連れてくることができたカイン。彼はあかりが目覚めるのを待って、ハヤトたちのところへ会いに向かった。
「君たちの友人をまた連れてきたよ。目が覚めたら彼女も楽園に招くよ・・」
カインがハヤトたちに言いかけるが、彼らは反応しない。心の中でも恍惚に囚われていて、カインの声も届いていない。
「そばにいたほうがより幸せを感じられるものだ・・お互い、喜ばしいことになる・・」
ハヤトたちやあかりがさらに至福を感じられると、カインは思っていた。
「そろそろ目を覚ますかもしれない・・ここに連れてくることにしよう・・」
カインはハヤトたちから離れて部屋を出る。彼はあかりを部屋に連れていこうとした。
あかりが眠っている部屋に戻ってきたカイン。だが部屋にあかりの姿がない。
「いない・・・?」
カインが目を細めて、部屋を見渡してあかりを探す。
「私が離れている間に目が覚めて、ここから出たようだ・・この中に隠れている様子はない・・」
カインは感覚を澄ませて、あかりの行方を探る。
「もしかしたら外に出てしまったかもしれない・・追うことにしよう・・」
カインは気分を落ち着けて、あかりを探しに外へ向かった。
意識を取り戻したあかりは、すぐに部屋を出て外に飛び出した。彼女はカインに見つからないように必死になっていた。
(見つかったら今度こそおしまいだよ〜・・アイリちゃんたちを早く見つけたいけど、それはあの人の隙を突かないと・・・!)
カインの追跡をかいくぐり、ハヤトたちを助けることを考えるあかり。彼女は緊張の糸が切れないように何とかこらえていた。
あかりは一気に街に飛び込んで、人込みに紛れた。いくらカインでも大勢の人の前で行動に出れないと、あかりは思った。
(お願い・・あたしから離れて・・他の人に狙いを変えて・・・!)
あかりは思いを込めて、人込みの中を逃げ惑った。
あかりを追って街の近くに来たカイン。彼は街中の人込みを目の当たりにして、追跡をためらう。
(私としたことが、逃がすことになるとは・・・)
自責の念を痛感して、カインが肩を落とす。
(みんなのいる部屋は奥底にある。誰かが忍び込んでたどり着いても、脱出するまでにさらに時間を費やすことになる。)
カインはあかりを追いかけるのを諦めて、1度引き上げることにした。あかりや誰かが侵入してきてもすぐに気付けることを、カインは分かっていた。
(他の人に救いの手を差し伸べよう・・・)
あかりから他の人に狙いを変えて、カインはあかりを捕まえることなく街から離れた。
夜になってマンションの自分の部屋に戻ってきたあかり。彼女は緊張の糸が途切れないようにしながら、警察に連絡をした。
「あの誘拐事件の犯人の居場所が分かりました!あたし、捕まったんですけど、何とか逃げることができました!」
警察に事情を説明するあかり。ただしガルヴォルスのことは信じてもらえないと思って話さなかった。
(何とか話は通じたよ〜・・でも、いくら警察でもあの怪物相手じゃとても敵わないよね・・)
うまく話を伝えることができて、あかりが安心する。
(後はあの人が気を取られている間に、アイリちゃんとハヤトくんを見つけて助け出さないと・・)
ハヤトたちを改めて助け出すことを、あかりは心に決めていた。
(朝になったら、また行こう・・怖いけど、あたしがやらないと・・・)
ハヤトたちのことを想い、あかりが真剣な面持ちで気を引き締めた。
(アイリちゃん、ハヤトくん、お願い・・無事でいて・・・)
2人の無事を祈りながら、あかりはベッドに入って睡眠をとった。
自分の屋敷に戻ってきたカイン。玄関から中に入った彼はその直後、近づいてくる人の気配を感じ取った。
(この人数と感覚・・警察が複数で乗り込んできたか・・)
あかりからの通報を受けた警察が屋敷に来たことに気付いたカイン。彼は意識を集中して、外にいる警官たちに思念を送った。
思念を送られた警官たちは催眠状態になって記憶を塗り替えられた。
「お・・お邪魔いたしました・・」
「失礼いたしました・・・」
警官たちはカインの思惑通りに屋敷から離れていった。
「楽園を壊す者には制裁が必要となる・・その者の言いなりになっている者も同罪となる・・」
カインが1人低い声音で呟く。彼の顔から笑みが消えていた。
「私の楽園は、私が守る・・みんなの至福の邪魔はさせない・・・」
自分の頑なな意思を口にして、カインは屋敷の奥に進んだ。
カインの逮捕に向かった警官たちは、彼の思念を受けて帰らされる羽目になった。その事態に危機感を募らせた警察は、人数をかけて屋敷を取り囲むことを提案した。
「これで犯人も小細工はできんはずだ。今度こそ逮捕して、女性たちを救い出すぞ!」
警部が自信を込めた笑みを浮かべて、部下の刑事や警官たちに指示を出す。彼らはカインの屋敷を完全に包囲した。
「貴様は完全に包囲されている!おとなしく出てきて我々の指示に従うなら、手荒な真似はしない!だが従わなければ、我々は屋敷に突入する!」
警部がカインに向かって呼びかける。警察は屋敷にいつでも飛び込めるように準備していた。
警察のさらなる包囲網に、カインは気が滅入っていた。
「愚かな・・滑稽な人間もいるということか・・・」
ひとつため息をついて、カインが目つきを鋭くする。
「楽園は壊させはしない・・お前たちは救われる資格を自ら捨てた・・粛清されるしかない・・・」
カインが全身に力を込めて衝撃波を解き放った。衝撃波は屋敷を傷付けることなく、廊下や部屋を駆け抜けて外に解き放たれた。
「なっ!?」
屋敷の外にいた警部たちが突然体を切り刻まれた。衝撃波がもたらしたかまいたちが、彼らを切り裂いたのである。
「全員死亡した・・楽園を脅かす存在は、誰も許しはしない・・受けるべきでない苦痛を受けている者は、救われるべきなのだ・・・」
駆けつけていた警察が全員死亡したのを直感して、カインは吐息を1つついた。
「しばらくここに留まったほうがいいのか・・いや、こうしている間にも、誰かが苦痛を抱えている・・」
屋敷に警察の手が及んでいる状況でも、苦痛にさいなまれている人に救いの手を差し伸べなければならないと、カインは判断した。
「ここに誰か忍び込めばすぐに気付ける・・いつも通りの行動を続けよう・・あかりさんとまた会うことになるかもしれない・・」
あかりや次の女性を探しに、カインは屋敷から出て外に赴いた。屋敷の周辺には、体を切り刻まれて血まみれで倒れていた警部や警官たちがいた。
警察が受けた惨劇から少しして、あかりは屋敷にやってきた。急行した警察が全滅したというニュースを、彼女は屋敷に来る前に耳にしていた。
(警察でもこんなことになるなんて・・やっぱりバケモノの中のバケモノだよ、あの人・・・!)
カインのことを考えて、あかりが心の中で悲鳴を上げる。
(でもあたしがやるしかないよね・・アイリちゃんとハヤトくんを助けないと・・・!)
迷いや怖さを抑えて、あかりは屋敷の入り口の前まで来た。
(きっと奥だよね・・入ったら一気に突き進もう・・・!)
心に決めたあかりが、玄関の扉を開けると、一気に屋敷の中に飛び込み廊下を駆け抜けた。
「アイリちゃん!ハヤトくん!どこにいるのー!?」
あかりが叫びながら廊下を突き進む。彼女はもうカインに気付かれていると思い、隠れようとせずにひたすらハヤトたちを呼び続けた。
そしてあかりは奥の部屋、ハヤトたちのいる部屋にたどり着いた。
「えっ!?・・ちょ、これって・・!?」
部屋の中にいる全裸の石像を目の当たりにして、あかりが動揺を浮かべる。
「もしかしてみんな・・あの人に石にされたってこと・・!?」
あかりは部屋の中の事態を推測して困惑を募らせる。彼女は石化されたハヤトとアイリを見つけた。
「アイリちゃん!ハヤトくん!」
あかりが2人に駆け寄り、彼らの変わり果てた姿に愕然となる。
「お願い、2人とも!目を覚まして!元に戻ってよ!」
あかりが必死の思いを呼びかけるが、ハヤトもアイリも反応しない。
「こんなの、ハヤトくんらしくないよ・・ハヤトくんだったら、こんな目にあっておとなしくしていられるわけないよ!」
さらに呼びかけるあかりが、目から涙をあふれさせる。
「どうしたら元に戻るの!?どうすれば2人を助けられるの・・!?」
ハヤトたちを助ける方法が分からなくて、あかりは困惑を募らせていく。
「元に戻す必要はない。なぜなら今はみんな至福に浸っているのだから・・」
後ろから声をかけられて、あかりが緊迫する。カインが屋敷に、部屋に戻ってきた。
「あなた・・!」
「予測はしていたけど、その通りに戻ってきてくれるとはね。嬉しいよ・・」
身構えるあかりにカインが言いかける。
「君も楽園に招待するよ。これで君も苦痛から解放されて、永遠の至福を受けることができる・・」
「ふざけないで・・・冗談じゃないよ!」
手を差し伸べるカインに対して、あかりが不満を叫ぶ。
「何も悪くない人を捕まえて、裸にして石にして!そんなことのどこが至福だっていうの!?」
「みんな至福を感じている。みんな心は失われていない。その心で至福を堪能しているのだ。」
あかりから言われても、カインは悠然さを崩さずに語りかける。彼は石化した人々の心を声と恍惚を耳にしていた。
「君も私の力を受け入れれば実感できるようになる。この至福がどれほどすばらしいものなのかを・・」
「そんなの・・そんなの幻だよ・・結局、自分の思い通りにするためのやり方じゃない!」
「私にも欲があるからね。ただその見返りを与えないと、ただの自己満足となってしまうから・・」
「そんな理屈こねても、結局自己満足ってことじゃない!勝手なこと言って自分をいいことにしないでって!」
「受け入れれば君にも分かるようになる・・この至福を、この楽園を・・・」
あかりからの声を聞き入れることなく、カインが意識を集中する。あかりの足元に光が現れる。
一気に上に伸びてきた光に、あかりは逃げ切れないまま包まれた。
「イ、イヤアッ!」
光の影響を受けたあかりが体を蝕まれていく。その衝撃で彼女の衣服が引き裂かれていく。
「何、この感じ・・体が、おかしい・・・!?」
「それが私のもたらす至福・・永遠の楽園だ・・」
息を乱すあかりにカインが言いかける。あかりの体が徐々に石に変わりつつある。
「どうなってるの!?・・おかしいはずなのに・・いい気分になってくなんて・・・!」
「その至福に身を委ねるといい。それで君も苦痛から解放されて、幸せになれる・・・」
声を荒げるあかりに、カインが囁くように言いかける。
「君も楽になればいい・・もう何も背負う必要はない・・・」
「あたし・・あたしは・・・」
カインに抗おうとするあかりだが、石化していく体は彼女の意思を受け付けない。彼女は棒立ちのまま、裸をさらけ出していた。
(アイリちゃん、ハヤトくん・・お願い・・コイツをやっつけて・・・何とかできるの、ハヤトくんしかいないんだから・・・)
恍惚に襲われる中、あかりがハヤトとアイリを強く思う。体勢を揺さぶられた彼女は、涙や愛液をあふれさせていた。
(ハヤトくん・・せめて・・アイリちゃんだけでも・・・)
ハヤトとアイリが助かってほしいという願いを念じたまま、あかりは完全に石化に包まれた。
「これで楽園は守られた。そしてさらに広がりを示している・・・」
カインがあかりを見つめて笑みをこぼす。あかりも全裸の石像となって、心を恍惚で満たされていた。
「罪のない人が誰もが幸せでいられる・・踏み荒らすものが存在しない・・それが至福・・私の楽園・・・」
自分が広げている楽園や自分自身の欲望の充実に、カインは喜びを募らせていた。
「これだけじゃない・・もっとみんなを招き入れないと・・もっとみんなに救いの手を差し伸べないと・・・」
さらなる欲望に突き動かされて、カインは部屋を出た。自分の楽園に引き入れる次の標的を求めて。
カインの石化の恍惚に囚われているハヤトとアイリ。2人は快感のままに互いに触れ合っていた。
「あ・・・あか・・り・・・」
ハヤトとアイリが弱々しく声を漏らす。恍惚に包まれていたはずの2人の心に、あかりの声が届いていた。