ガルヴォルス
-New Generation-
第8章
カインに石化された人は、石化の恍惚に囚われて、恍惚を堪能することしか考えられなくなってしまう。しかしハヤトとアイリは、あかりの声が届いたことで自我を取り戻そうとしていた。
「あかり・・あかりの声・・・」
「オレは・・・オレはまだ、こんなところで・・・!」
アイリが声を発して、ハヤトが再び現状に抗おうとする。しかし石化している体を2人は動かすことができない。
「何とかしないといけないのに・・体も、気分も言うことを・・・!」
さらに恍惚にも襲われて、ハヤトはアイリとともに心を揺さぶられていく。
「力が全然出ない・・石になってるから、力が使えないってことなのかよ・・・!?」
「ハヤト・・・どうやって、元に戻れば・・・」
押し寄せる恍惚の中で悔しさを募らせていくハヤトに、アイリが困惑する。
「オレはこんなところでじっとしてるわけにいかない・・アイツを倒して、ハルナを助けて、そしてアイリを・・!」
自分の感情を口にするハヤトが、その自分の思いに戸惑いを覚える。彼の言葉を聞いたアイリも戸惑いを感じていた。
「ハヤト・・私は、ハヤトがどんな選択をしても、私は構わない・・」
「アイリ・・・」
アイリが打ち明けた気持ちに、ハヤトが戸惑いを募らせていく。
「ハヤトはハヤトの思うようにすればいい・・それであなたが私を選ばなくても、私は後悔しない・・・」
「オレは・・オレの考えを貫くだけだ・・今までも、これからも・・・」
自分の正直な気持ちを口にするアイリに、ハヤトは自分の意思を示す。
「だからオレは、こんな気分でいるわけにはいかないんだよ・・!」
ハヤトが全身に力を込めて、意識を集中させる。
「戻れ・・戻れよ!オレは、ここでじっとしてるわけにいかないんだよ!」
激高を募らせるハヤトが、強引に力を振り絞る。その彼をアイリが抱きしめてきた。
「ハヤトを元に戻して!何もできないで一方的にされるがままなんて、納得できないよ!」
ハヤトが抱えている感情をアイリが口にする。
そのとき、アイリの体から淡い光があふれ出してきて、ハヤトに伝わってきた。
「えっ!?」
「これは・・!?」
突然のことにアイリもハヤトも動揺を覚える。
「何でもいい・・何とかできるなら、何でも・・!」
ハヤトはアイリからの光を受け入れて、改めて意識を集中する。彼に宿った光が徐々に強まっていく。
「あかり・・あなたの声、私たちにちゃんと届いたよ・・・ありがとう、あかり・・・」
願いを託してきたあかりに感謝するアイリ。ハヤトが感情のままに、彼女を強く抱きしめる。
「オレは・・オレたちは、お前の思い通りにはならない!」
全身の力を解き放つように、ハヤトが叫び声を上げる。2人に宿る光が、彼らの心に一気に広がった。
石化された人が置かれている部屋の中、ハヤトとアイリから光があふれ出してきた。2人の体から石の殻が剥がれ落ちていく。
ハヤトとアイリが石の殻から脱して元に戻った。
「あっ・・元に、戻れた・・・!」
アイリが自分の両手や体を見つめて、石から戻れたことを実感する。同時に石化によってもたらされていた恍惚も弱まっていた。
「ハヤト・・私・・・」
「お前が気にすることじゃないっていうなら、気にすることじゃないんだろうな・・・」
戸惑いを見せるアイリに、ハヤトが憮然とした態度を見せる。
「この気分にけじめをつけるのは後だ・・まずはアイツをブッ倒して、ハルナとあかりを助けるのが先だ・・!」
込み上げてくる迷いや悩みを抑え込んで、ハヤトがカインを倒すことに集中する。
「アイリ、お前はオレから離れていろ・・オレたちが元に戻ったことに、アイツも気付いているはずだ・・」
「でも、ハヤト1人だけじゃ・・・!」
「戦えるのはオレだけだ・・それに、オレは1人じゃねぇ・・アイリがいる。ハルナとも会うことはできた。あかりや他のヤツだって、オレを支えようとしてくれてる・・」
不安を感じていくアイリに、ハヤトが本音を口にする。
「オレは行く・・今度こそアイツをブッ倒す・・またあのおかしな力を使ってきても、オレはその痛みさえもブッ飛ばす・・!」
頑なな意思を示すハヤトの頬に異様な紋様が浮かび上がる。彼がドラゴンガルヴォルスとなって、部屋を出て行った。
「ハヤト・・・」
アイリは戸惑いを募らせながら、ハヤトが出ていくのを見送った。
ハヤトとアイリの石化が解かれたことに、カインはすぐに気付いた。彼は石化が破られたことに驚愕していた。
(私の楽園を、自力で抜け出したというの!?・・だれもが至福に身を委ねられるというのに・・!?)
感じ取った現実が信じられず、カインが心を揺さぶられる。
(このまま楽園から離れてしまったら、また苦痛にさらされることになる・・それは悲劇だ・・君たちにとっても、私にとっても・・・!)
ハヤトたちを放っておくことができず、カインがきびすを返して屋敷に戻る。
(遠くに行ってしまう前に、私が連れ戻す・・・!)
ハヤトたちを再び自分の手中に収めようと急ぐカイン。彼は自分の屋敷の前にたどり着いた。
屋敷の敷地の庭の真ん中に、ハヤトは立っていた。彼はカインが現れるのを待っていた。
「戻ってきたか・・今度こそ・・今度こそお前を・・!」
ハヤトがカインに鋭い視線を向ける。
「なぜだ・・どうやって楽園から抜け出した・・・!?」
カインが困惑を抱えたまま、ハヤトに問いかける。
「何度も言わせるな・・オレはお前の思い通りにならない!」
「そんなことを聞いているのではない!どうやって楽園から出たんだ!?」
言い放つハヤトにカインがさらに問い詰める。
「そんなのは正直分かんない・・ただ、元に戻りたいと思って、そしたらその通りになっただけだ・・・!」
「それで私の力を跳ね返せることなど・・第一、君たちも至福を堪能していたはずだ!」
「オレはいつまでもあんなおかしな気分に浸ってるつもりはないんだよ!・・オレはお前を許さない・・ハルナをさらっておかしくして、アイリたちまで巻き込んだお前を!」
互いに感情をあらわにするカインとハヤト。ハヤトが右手を握りしめて、カインに飛びかかる。
「楽園にいれば、苦痛から解放されるのに・・・」
カインは悲痛さを噛みしめて、ハヤトが繰り出した拳をかわす。
「もう1度・・君たちを楽園へ・・・!」
カインが目つきを鋭くして指を鳴らした。ハヤトが淡い光の球に閉じ込めた。
「またこれかよ・・!」
「これで君は出ることはできない・・無理やり出ようとすれば、自分が傷つくことになる・・」
憤りを覚えるハヤトに、カインが微笑みかける。
「また戻ることにしよう。私の楽園へ・・」
「オレはお前の思い通りにならない・・絶対に!」
手招きをするカインに言い返して、ハヤトが全身に力を込める。彼の姿が刺々しいものへと変わった。
「君の姿、映っているはずだ。それを傷つける行為は、君自身を傷付けること、痛感したではないか。」
カインがハヤトに忠告を送る。光の球に映っている自分の姿を、ハヤトは目撃していた。
「おとなしく私についてきたほうがいい。怒りのままに牙を向けるなら、その牙は自分を傷付けることになる。」
「それでオレがおとなしくすると思うな・・・!」
カインの忠告を聞かずに、ハヤトが右手を強く握りしめる。彼は自分の姿が反射しているのも構わずに、光の球に向かって拳を繰り出した。
光の球がガラスが割れたように吹き飛んだ。次の瞬間、ハヤトが全身に激痛を覚えて顔を歪めた。
「ぐっ!・・こんなもんでオレの邪魔をするな!」
ハヤトが感覚を研ぎ澄ませて、押し寄せている激痛を跳ね返した。正確には全身に力を込めて、彼は激痛を捉えている痛覚を抑え込んでいた。
「これを壊して、跳ね返った痛み、ガルヴォルスでも耐えられるものではないのに・・!?」
光の球から脱出して倒れなかったハヤトに、カインが驚愕する。
「オレはお前をブッ倒して、オレの全てを取り戻す・・・!」
全身の痛みと乱れる呼吸に耐えながら、ハヤトがカインに迫る。拳を繰り出すハヤトだが、悲鳴していた彼の攻撃の勢いは弱まっていた。
「このまま戦い続ければ、君は苦痛に苦しみ続けることになる・・私を手にかけたなら、なおのことだ・・!」
「オレに苦痛を与えているのはお前だろうが・・・!」
忠告を送るカインだが、ハヤトは聞き入れずにはねつける。
「オレの苦痛の1つは、お前の思い通りにされることなんだよ・・お前の至福も楽園も、オレの苦痛なんだよ!」
「それは違う・・苦痛を取り払い、至福を感じ続けさせるのが、人にとって最高の楽園なのだ・・君たちにも最高の幸せを・・」
怒号を放つハヤトにカインが語りかけていく。
「君たちだって、救われて幸せになる権利があるんだ!」
「お前がその権利を奪った!お前がいなければ、オレもハルナも、みんなも!」
互いに感情をあらわにして、カインとハヤトが距離を詰める。ハヤトが拳を繰り出すが、カインが突き出した手から放たれた衝撃波に突き飛ばされる。
「結界から出るときに力を使いきっているのは否めないようだ・・」
さらに息を乱しているハヤトを見て、カインが言いかける。
「自ら苦痛を背負うことはない・・私に任せて楽になるんだ・・・」
「オレが楽になるのは・・お前らガルヴォルスをブッ倒した後だ・・・!」
手招きをしてくるカインを、ハヤトは頑なに拒む。
「オレの、オレたちの楽園と至福は、オレが見つける・・オレが取り戻す!」
ハヤトが力を振り絞り、右手を強く握りしめる。その彼の拳に紅いオーラが集束されていく。
「オレ自身の、この手で!」
ハヤトが強く踏み込んで、カインに拳を振りかざす。ハヤトの渾身の一撃が、カインの体に叩き込まれた。
「ぐはっ!」
ハヤトの打撃に体を揺さぶられて、カインが激痛に襲われて吐血する。彼の体も衝撃に耐えられず、血をあふれさせる。
「私が・・私が倒れたら、君や、楽園にいる全ての人たちが、苦痛に打ちひしがれることになる・・・!」
カインが痛みに耐えて、ハヤトに近付いていく。
「強情なヤツだ・・だけどな、お前のその強情にはウンザリなんだよ!」
ハヤトが怒号を放つと、カインに立て続けに拳を叩き込む。さらなる激痛にさいなまれるも、カインは倒れずに踏みとどまる。
「君に・・君たちに、永遠の至福を・・・!」
「しつこいんだよ!」
手を伸ばそうとするカインに、ハヤトがさらに拳を叩き込む。
「がはっ!」
カインが激痛を募らせて、ついに地面に膝をついた。
「いい加減に倒れろ・・これ以上、オレたちに苦しみを与えるな・・!」
ハヤトがもう1発拳を繰り出して、カインを突き飛ばした。倒されたカインがそのまま大きく横転した。
拳に力を込めたことで、ハヤトの体力の消耗は著しくなっていた。彼も地面に膝をついて、姿も刺々しいものから戻っていた。
「私は・・私は倒れるわけには・・・!」
カインが立ち上がり、なおもハヤトに向かって歩いて手を伸ばす。
「お前はそうまでして、オレを苦しめたいのかよ・・オレたちを思い通りにしないと気が済まないのかよ・・!」
立ちはだかるカインにハヤトの憤りを募らせていく。しかし疲弊したハヤトは思うように体を動かせなくなっていた。
(オレは・・オレは取り戻す・・・ハルナも・・アイリも・・!)
ハヤトの脳裏にハルナだけでなく、アイリの姿もよぎった。一瞬戸惑いを感じて心が揺らぎそうになったハヤトだが、カインに視線をも押して迷いを振り切る。
「お前の思い通りにはさせない・・オレもみんなも!」
ハヤトは言い放ち、具現化した剣を手にして構える。
「ここで、君だけでも・・・!」
カインがハヤトを石化しようと、意識を集中して力を振り絞る。だが次の瞬間、ハヤトが突き出した剣にカインが体を貫かれた。
「なっ・・・!?」
刺されたカインが、その衝撃で力が霧散してしまう。
「終わりだ・・お前の思い通りになることは、何もない・・お前の至福も、楽園も、オレは認めない・・・!」
ハヤトが言いかけると、カインに刺さっている剣を放つ。剣に貫かれたまま、カインが力なく倒れる。
「また出てきて、オレたちをどうにかしてきても、オレはまたお前をブッ倒す・・それだけだ・・・!」
ハヤトは言いかけると、カインから離れて彼の屋敷に向かっていく。
「待って・・このまま行ってしまったら、君たちは苦しみ続けることに・・・」
カインがハヤトに手を伸ばそうとするが、彼に届くことはなかった。
「楽園を・・楽園を壊すわけには・・・!」
完全に倒れたカインがついに事切れた。彼の体が崩壊を引き起こして、霧散していった。
石化して部屋の中にいた女性たち。カインが息絶えたことで、霧があふれるように彼女たちの石化が解かれた。
「ハ・・ハァ・・・」
石化から解放された女性たちだが、石化によって押し寄せてきた恍惚は完全には消えず、それに対する彼女たちの欲情も残っていた。
「もっと・・もっと・・・!」
「この気分・・たまんないよ〜・・」
女性たちが恍惚に溺れ続ける。自分たちが石にされていたことを、彼女たちは今は考えられなくなっていた。
「ハァ・・気持ちいい・・たまんないよ〜・・」
あかりも同じように恍惚にさいなまれてあえいでいた。
「あかり・・あかり!」
アイリがあかりに駆け寄って支える。
「あかり、しっかりして!あかり!」
「ア・・・アイリ・・・あたし・・・」
アイリから呼びかけられて、あかりが我に返る。
「あかりも元に戻った・・ということは、あの人はハヤトに・・・」
「あっ!あたし、裸になってたんだった〜!」
状況を把握したアイリに、あかりが驚いて抱き付いてきた。
「それであたし、エッチな気分になっちゃって〜・・!」
「ちょっと、あかり、落ち着いてって・・!」
目から涙を流すあかりに、アイリが困った顔で言いかける。
「と、とにかくハヤトに会いに行こう。戻ってくるから・・」
「ハヤトくん・・そうだよ!ハヤトくんもいるんだよー!」
アイリの呼びかけを聞いて、あかりが喜びを見せる。恍惚の余韻と困惑であふれている部屋から、2人は外の廊下に出ようとした。
「ハヤト・・あなた、ハヤトって・・・?」
そこへ声をかけられて、アイリが振り返った。元に戻ったハルナが彼女たちに歩み寄ってきた。
「あなたがもしかして、ハルナ、さん・・!?」
「あなた、ハヤトを知っているの!?・・ここに、ハヤトが・・・!?」
戸惑いを見せるアイリに、ハルナが問いかけてくる。
「今、外に・・戻ってくるかもしれないです・・・!」
「ハヤトが・・近くに・・・!?」
アイリの言葉を聞いて、ハルナも戸惑いを感じていく。ハヤトに会えることに、ハルナは心を揺さぶられていた。
「あなたも行きましょう。あなたに会ったら、ハヤト、きっと安心するから・・・」
アイリの呼びかけにハルナが頷く。3人は改めて部屋を飛び出した。
少し廊下を進んだところで、アイリとあかりは戻ってきたハヤトを目撃した。
「ハヤト!」
「アイリ・・あかり、お前も元に戻ったか・・」
アイリの声に答えて、ハヤトがあかりにも目を向ける。
「うん・・まだおかしな気分が残ってるけど・・・」
あかりが答えて、自分の裸の体を抱きしめる。石化が解けた直後は自分もその気分を感じていたことを、アイリが思い出す。
「ハヤト・・・!?」
「ハ・・ハルナ・・・!」
ハルナとハヤトが目を合わせて、互いに戸惑いを感じていく。ハルナはハヤトが怪物になっている困惑よりも、ハヤトと再会できた喜びを感じていた。
「ハヤト!・・また、ハヤトに会えた・・・!」
ハルナが駆け寄ってハヤトに寄り添った。ハヤトもそんなハルナを優しく抱きしめる。
「ハルナ・・元に戻ったんだな・・・ハルナ・・!」
ハルナとの再会を実感して、喜びを安堵を感じていく。
「私、どうしていたのかな・・長い間、どうかしていた気がする・・・」
「もう大丈夫だ・・ホントに、どうかされてただけだから・・・!」
当惑を見せるハルナをハヤトが励ます。2人は互いの顔を見つめて、喜びの笑みをこぼす。
(ハヤト・・よかった・・ハルナさんと会えてよかったね・・・)
アイリはハヤトとハルナの再会を心の中で喜んでいた。
そのとき、力を使い果たしたハヤトがふらつく。彼の姿がガルヴォルスから人に戻る。
「ハヤト!」
ハルナが倒れかかったハヤトを支えて、アイリも慌てて駆け寄る。
「ハヤト、大丈夫!?しっかりして!」
「アイリ、ハルナ・・大丈夫だ・・ちょっと力を使いすぎただけだ・・・」
心配するアイリにハヤトが弱々しい声で答える。彼に対してハルナだけでなく、アイリもあかりも心配を拭えなかった。
「少し休めばまた力を使える・・そしたらすぐにここから出る・・・!」
「ハヤト・・・」
言いかけるハヤトにアイリが戸惑いを覚える。
「出入り口のそばまで行こう。外に出るのはハヤトが回復してから・・」
「う、うん・・」
アイリが呼びかけてあかりが当惑しながら頷く。4人は1度屋敷の玄関の近くに行くことにした。
「もう大丈夫だ・・後はオレに任せろ・・」
呼吸を整えたハヤトがドラゴンガルヴォルスになる。彼はアイリ、あかり、ハルナを抱えて、屋敷を飛び出してマンションに向かって駆け抜けた。
屋敷に残された女性たちは、その後、警戒に警戒を重ねてやってきた自衛隊に保護された。自衛隊は崩壊したカインの行方を見つけることができず、恍惚にさいなまれている女性たちに困惑を隠せなかった。
謎が謎を呼ぶ状況を打破、解決できないまま、カインの事件は幕を下ろすことになった。女性たちもその後、日常に戻るためのケアと療養を受けることになった。
ハヤトはアイリ、あかり、ハルナを抱えて、2人のマンションにたどり着いた。彼らはアイリの部屋に来て、アイリは新しい服を着ることができた。
「あ、あたしも服を着に行くね。いつまでも裸ってわけにいかないからね・・」
「それなら私も一緒に行くよ。裸のあかりだけが外に出るのはちょっとね・・」
あかりが苦笑いで言いかけて、アイリも言いかける。
「でもアイリ・・・」
ハヤトが当惑すると、アイリが作り笑顔を見せてきた。
「あかりに服を着せたら戻ってくるから・・あかり、とりあえずバスタオルでも巻いて、裸を隠さないと・・」
「わわわ、ちょっとアイリ、急がせないでって・・」
アイリが言いかけて、あかりが慌てる。2人はアイリの部屋から出て、部屋はハヤトとハルナの2人だけとなった。
「ハルナ・・・戻ってきてよかった・・ホントによかった・・・」
「私も、ハヤトとまた会えてよかった・・・」
ハヤトとハルナが再会を喜び合う。しかしハルナがふと表情を曇らせた。
「でも今日までの間に、ハヤトも変わったね・・怪物の体になったってだけじゃなくて、気持ちも・・」
「えっ・・?」
ハルナの言葉を聞いて、ハヤトが当惑を覚える。
「ハヤト、あのアイリって子に気持ちが傾いている・・何となく分かるよ・・分かっちゃったかな・・・」
「ハルナ・・それは・・その・・・」
ハルナが投げかける言葉にハヤトが動揺を浮かべる。彼の反応を見て、ハルナが笑みをこぼす。
「私がおかしくなっている間に、ハヤトはいろんなことを経験してきたってことだよね・・それだけでも私、すごいことだと思う・・」
「それは・・だけど・・・」
「私のことは気にしなくていい・・その中で見つけ出した正直な気持ちなら、迷わずに手繰り寄せて、ハヤト・・」
「だけど、それじゃハルナが・・・!」
「ハヤトが納得できる道なら、私は受け入れてもらえなくても構わない・・・」
動揺を膨らませるハヤトに、ハルナが自分の正直な気持ちを伝える。彼女はハヤトと別れることになっても、彼が納得できる形になればいいと思っていた。
「オレの分かんなかったことまで掘り下げてくるな・・ハルナも、アイリも・・・」
ハルナの思いを聞いて、ハヤトが苦笑いを浮かべた
「ハルナ・・オレに、区切りを付けさせてくれ・・お前の言う通り、オレが納得できるように・・・」
「うん・・ハヤトは家に戻って、新しく服を着てきて・・アイリさんたちには、私が話すから・・」
自分の本心を口にするハヤトに頷いて、ハルナが微笑む。
「家から服を持っていったほうがいいかもしれないんだけど・・これだけ時間がたっていると・・・」
「それは大丈夫だよ。気にしないで・・アイリさんたちにお世話になるから・・」
ハヤトが投げかけた言葉を受けて、ハルナが笑顔を見せて答える。
「そうか・・それじゃ、オレは行く・・アイリたちに伝えておいてくれ・・・」
ハヤトはハルナに言うと、ドラゴンガルヴォルスとなって外へ出た。彼を見送ったところで、ハルナは顔から笑みを消した。
「ハヤト・・・ゴメン・・ゴメンね・・・あなたの気持ち、受け止めてあげられなくて・・・」
自分の思いをハヤトに伝えられず、ハヤトの思いを受け止めなかった自分に、ハルナが悲しみを感じていく。彼女は涙をこらえられず、目を手で覆う。
「ハルナ、さん・・・」
ハヤトと入れ違いにあかりとともに部屋に戻ってきたアイリが、涙ぐんでいるハルナを見て戸惑いを感じていく。
(ハヤト・・もしかして、ハルナさんじゃなく、私のことを・・・)
ハヤトに対するハルナの思いを実感していくアイリ。しかし自分もハルナもハヤトを想っていることも、アイリは感じていた。
「アイリ、さん・・・」
ハルナに声をかけられて、アイリが我に返る。
「ハルナさん・・私・・・」
ハルナにどう接したらいいのか分からず、困惑するアイリ。するとハルナがアイリの手を取って握手を交わした。
「ハヤトのこと、これからもよろしくね・・・」
「ハルナさん・・・でも、それじゃハルナさんが・・・」
ハヤトを託すハルナに、アイリが不安を見せる。
「ハヤトの納得するほうへ向かえば、私はいいのよ、本当に・・」
「ハルナさん・・・」
ハルナの心からの思いを聞いて、アイリは戸惑いを募らせていく。
ハルナが真っ直ぐに思いを伝えてきているのだから、自分も真っ直ぐに受け止めないといけないと、アイリは思った。
「それでアイリさん、服を貸してもらえないかな?・・後で必ず返すから・・」
「えっ?・・あぁ、はい。構わないです・・サイズ合えばいいですけど・・・」
ハルナの頼みを聞いて、アイリが照れ笑いを見せて頷いた。
それからハルナはアイリから衣服一式を借りることにした。アイリと身長や体格が近しかったため、ハルナは着こなすことができた。
「ありがとう、アイリさん。助かったわ・・」
「私に何か手伝えることでしたら・・」
お礼を言うハルナに、アイリが笑顔を見せる。2人のやり取りを見て、あかりも笑みをこぼしていた。
そして、新しく服を着てきたハヤトが戻ってきた。
「ハヤト、おかえり・・」
アイリが振り向いてハヤトに声をかけてきた。ハヤトがアイリとハルナを見て戸惑いを覚える。
するとハルナとあかりが目を合わせて、小さく頷き合った。
「ハルナさん、あたしが新しい服を選んであげますよ。デパート、いい服がそろってるんです♪」
「それは助かるわ。一着でも新しく買ったほうがいいみたいね・・」
あかりとハルナが声をかけ合って、ハヤトとアイリに目を向ける。
「ということで、ハルナさんと一緒に出かけてくるね。」
「でもお金は・・オレが取ってきて・・」
部屋を出ようとするあかりに、ハヤトが声をかける。
「あたしが出すよ、今回は。どうしてもっていうなら立て替えるって形でもいいけどね。」
あかりは答えると、ハルナと一緒に部屋を出た。
「それじゃ、アイリのことお願いね。」
そのときに口にしたあかりの言葉に、アイリが戸惑いを覚えた。
「2人きりになっちゃったね・・」
「あぁ・・あかりだけじゃなく、ハルナまでこんな知恵を働かせるなんて・・・」
微笑みかけるアイリと、ため息をつくハヤト。2人は近づいて、優しく抱擁を交わす。
「オレは自分の気持ちに嘘が付けないみたいだ・・そのことを、ハルナに見抜かれてた・・」
「私もよ・・私は、ハヤトと離れたくない・・・」
物悲しい笑みを浮かべて、ハヤトとアイリが口付けを交わす。
(ホント・・あかりだけじゃなく、ハルナさんも人が悪いんだから・・・)
ハヤトとの口付けの中、アイリが心の中で呟いていた。2人は唇を離して、互いを見つめ合う。
「怪物や身勝手な人と戦い続けるハヤトを放っておけなかった・・何にもできないことは分かっていたけど、何とかしてあげたいって思った・・・」
「オレは、そんなアイリを守ってあげないとって思うようになった・・ハルナのことも大切だけど・・自分の気持ちには嘘が付けないってことか・・・」
それぞれ正直な思いを伝え合うアイリとハヤト。2人が再び抱きしめ合い、ぬくもりを感じ合う。
「みんなともだけど、オレたちはこれからも一緒だ・・・」
「私も、ハヤトと一緒にいたい・・ずっと・・・」
もう誰とも離れたくない。誰とも離れることはない。ハヤトとアイリの互いを想う意思は、揺るぎないものへと変わった。
過去や失ってしまったもののためではない。これからは先のことのために生きていく。それがハヤトの願いとなった。