ガルヴォルス -New Generation-

第6章

 

 

 突然消えたミサイルについて、ハヤトだけでなく、避難していた人々にも疑問を抱いていた。

「何なんだよ、あのミサイル・・!?

「どっから撃ってきたんだよ、おい・・・!?

「まさか、日本が自分の国に・・!?

 人々の間に日本政府に対する疑問が広がっていく。

「もしかして、地震警報もウソなんじゃ・・!?

「政府は何を考えているんだ!?

「すぐに釈明すべきだ、政府は!」

 人々が怒りを爆発させて、政府への不信感を募らせる。彼らが暴動に走り、国は混乱へと向かっていった。

 

 様々な疑念を抱いたまま、ハヤトはアイリとあかりのところに戻ってきた。

「ハヤト・・何が起こったの・・・!?

「いったん、家に戻るぞ・・話はそれからだ・・」

 アイリが問いかけると、ハヤトが場所を変えることを申し出た。彼は自分たちの話が周りに聞こえて、混乱を助長させるのを懸念していた。

「私の部屋に戻ろう。ハヤト、あかり、行こう。」

「う、うん・・」

 アイリが呼びかけて、あかりが小さく頷く。3人は1度マンションのアイリの部屋に向かった。

「それでハヤト、どういうことになっているの・・?」

 アイリが改めてハヤトに事情を聴く。

「オレも何がどうなってるのか分かんないけど・・ミサイルが飛んできた・・」

「えっ!?ミサイルが!?

 ハヤトの話にあかりが驚きの声を上げる。

「だけど、そのミサイルが突然消えちまった・・だから、何がどうなってるのか、オレもさっぱりだ・・」

「そのミサイルがあの兵士たちが撃ったのだとしたら・・もしかしたら、ガルヴォルスたちを滅ぼすために・・・!?

 語りかけるハヤトに、アイリが一抹の不安を口にする。

「そうかもしれない・・だとしても、何でミサイルがいきなり消えたのかが分かんない・・・」

 ハヤトがミサイルが消えたことに疑問を感じていく。

「アレもガルヴォルスの仕業だというのか・・・!?

「ガルヴォルスの力って、そこまですごいものだっていうの〜!?

 ハヤトが歯がゆさを覚えて、あかりが頭を抱えて悲鳴を上げる。アイリがふとTVを付けてニュースを見る。

 ニュースはミサイルのことで人々が政府に反発していることを伝えていた。

「兵士たちは政府の回し者だったということ・・?」

「さぁな・・少なくてもみんなはそう思ってるみたいだけど・・」

 さらに疑問を感じていくアイリに、ハヤトは憮然とした態度で答える。

「とりあえずもうちょっと待ってから動いてみたら?今飛び出してもわけ分かんない状態だし、ややこしいことに巻き込まれそうだよ〜・・」

 あかりが困った顔でハヤトとアイリに呼びかける。

「そうだな・・マジで分かんない状態だし、今は周りの出方をうかがうか・・」

 ハヤトが渋々聞き入れて、部屋の隅に座り込んだ。

「何かがハッキリすれば、打つ手が見えてくるところだけど・・・」

 混迷している現状に、アイリは悩みを深めていた。

 

 政府への人々の非難は苛烈を増していた。その中で政府は今回の事件について声明を出した。

 偽の警報とミサイル発射は一部の政治家と彼らの指揮下に置かれた自衛隊の暴徒化によるもの。政府はそう説明した。

 しかし人々は納得がいかず、政府への非難は沈静化どころか拍車をかけていた。

 

 暴動が続いたまま、次の朝が訪れた。ハヤトとあかりは1度帰って、休息を取ることにした。

 ハヤト、アイリ、あかりはスイートに仕事に出た。店の中も周りも騒然とした雰囲気が漂っていた。

「落ち着かないね、本当に・・みんな不安になっている・・」

「はい・・何を信じたらいいのか、みんな分かんなくなっているみたいですから・・」

 まりんが店内の様子を見て、アイリも困った顔を浮かべる。

「客入りもいつもと比べて少ないですし・・問題は増えるばかりで・・・」

「でもハヤトくんはいつも通りって感じですけど・・」

 アイリが言いかけたところで、あかりが声をかけてきた。彼女たちが視線を移した厨房で、ハヤトは黙々と皿洗いをしていた。

(いつも通りって感じを装っているけど、きっとハヤトも気にしている・・この現状も、その中でのガルヴォルスや兵士たちの動きも・・・)

 アイリは心の中でハヤトの心境を気にしていた。押し寄せてくる疑問を振り切ろうとして、ハヤトは仕事に没頭していた。

(何か動きがあれば、気配が出てくるはずだ・・強いガルヴォルスなら気配を消すかもしれないが、それ以外なら動けば感じ取れないことはないだろう・・)

 ハヤトがガルヴォルスたちのことを考えていく。

(あの部隊はガルヴォルスを滅ぼそうとしている。だとしたらアイツらに会ったガルヴォルスが力を使わないはずがない・・)

 さらに特殊部隊のことも考えていくハヤト。

(今は待つしかないってことか・・・)

 ガルヴォルスの気配が感じ取れるようになるのを待つことを、ハヤトは選んだ。

 ハヤトたちは知らなかった。特殊部隊、そして彼らを動かしていた上層部の議員たちは全滅したことを。

 

 不安が立ち込めた雰囲気のスイート。この日の仕事を終えて、ハヤト、アイリ、あかりは帰路についていた。

「あう〜・・息がつまりそうだったよ〜・・」

 あかりが大きく肩を落としてため息をつく。

「ガルヴォルスも連中も今日はおとなしかったみたいだ・・夜になって動き出すつもりだろうか・・」

 ガルヴォルスたちに動きが感じられなかったことを、ハヤトが口にする。

「昼間はみんなが騒ぎ立てている。昼に何かしても目立ってしまうから・・」

「だな・・気を引き締めるのは、これからだ・・」

 アイリが付け加えた言葉にハヤトが頷く。

「アイリとあかりは、今はあんまり外を出歩かないほうがいい。今は特にこんな状況だからな・・」

「ハヤト・・うん・・でも何かあったら連絡して。すぐに行くから・・」

 ハヤトが声をかけてきて、アイリが小さく頷いた。

「ありがとうな。いざというときは、頼りにさせてもらうぜ・・」

 ハヤトは微笑むと、アイリとあかりの前から駆け出していった。

「ありがとうって・・あたしたち、ハヤトくんから信頼されてるってことだよね♪」

「そうね。私たちにも、何かできることがあるかもしれないということね・・」

 喜ぶあかりにアイリも微笑みかける。

「それじゃ私たちは帰りましょう。外はまだ危なっかしいから・・」

「そうだね。あ、でもちょっと買い物しとかないと・・」

 アイリが呼びかけると、あかりが彼女に頼み込んできた。

「もう、あかり、しょうがないんだから・・早く済ませて帰るよ。」

「うん、ゴメンね・・」

 ため息混じりに答えるアイリに、あかりが苦笑いを見せる。2人は1度近くのスーパーに向かうのだった。

 

 ガルヴォルスと兵士たちの行方を追って、騒然となっている街中を1人歩く。人々は未だに不安の色を濃くしていた。

(仕事中も思ってたけど、落ち着かねぇな、マジで・・)

 街の様子に滅入って、ハヤトがため息をつく。彼はさらに歩いて、路地に差し掛かった。

(こういうところならアイツらが出てきてもおかしくないはずだ・・何かあったのか、アイツらに・・?)

 兵士たちが出てこないことに疑念を感じていくハヤト。

(まだガルヴォルスが暴れ出す様子はないみたいだな・・もう少し回ってみるか・・)

 ガルヴォルスの気配が感じられず、ハヤトは路地を進んでいく。

 その路地の真ん中で、ハヤトは突然緊迫を覚えて足を止めた。前に進もうとする彼だが、足が前に出ない。

(これはガルヴォルスの気配とは違うのか!?・・こんなに緊張するとは・・・!)

 かつてない緊迫に襲われて、ハヤトが動揺を深める。彼の耳に近づいてくる足音が入ってくる。

 緊張を募らせていくハヤトの前に現れたのは、白い髪の男。

「お、お前は・・・!?

 男の姿を見て、ハヤトが目を見開く。男は真剣な顔を彼に見せている。

「久しぶりだね・・君を置いてしまってすまなかった・・・」

「まさかお前からオレに会いに来るとはな・・あのときのガルヴォルス・・・!」

 声をかけてきた男に、ハヤトが目つきを鋭くする。

「会いたかったぞ・・お前を探すために・・オレは今まで戦ってきた!」

 激高したハヤトがドラゴンガルヴォルスとなる。彼が男に向かって飛びかかり、拳を繰り出す。

 しかしハヤトの拳は男に当たらず、空を切る。男の姿も彼の視界から消える。

「くっ・・どこだ!?姿を見せろ!」

 ハヤトが周りを見回して怒号を放つ。彼の前に再び男が姿を現した。

「私が許せないか・・しかし私を傷付けようとするその力が、君自身を傷付けている・・・」

「お前の言うことは聞かない!お前をすぐに殺して、ハルナを返してもらう!」

 言いかける男に怒りを募らせて、ハヤトが再び飛びかかる。彼が拳を連続で振りかざすが、男にことごとくかわされる。

「よけるな!」

 ハヤトが叫んで、力任せに拳を振りかざす。彼の拳の衝撃は、路地の地面を激しくえぐり出す。

 舞い上がる砂煙の中、ハヤトは体の自由が利かなくなる。彼の背後に男が回り込み、右手をかざしていた。

「こうも一方的に攻撃を仕掛けられたら、話が進むはずがない・・私の話を少しは聞いてほしいところだ・・」

「黙れ!ハルナを奪ったお前が!」

 言いかける男に怒鳴りかかり、ハヤトが強引に動こうとする。

「君をここまで追い込んでしまったのは私の責任だ。その傷を、私が癒さないといけない・・」

「オレを思い通りにできると思うな・・オレは必ず、お前の息の根を止める!」

 男に対してハヤトが怒りをさらに膨らませる。彼の体が刺々しいものへと変わっていく。

「ガルヴォルスとなっただけでなく、その力を進化させていたとは・・」

 ハヤトの変貌を目の当たりにして、男が呟く。全身に力を込めるハヤトが、男の念力から脱する。

「あなたの想い人なら心配はいらない。苦痛を取り除いて、解放的になっている・・」

「何が解放だ・・ハルナをおかしくて、自分の思い通りにしやがって・・!」

 微笑んで語りかける男だが、ハヤトの感情を逆撫でする。

「このまま辛い思いの中にいることこそ、よくないことだとは思わないかな・・?」

「お前がいることこそが悪いんだよ!」

 さらに言いかける男に、ハヤトがさらに殴り掛かる。男は彼の拳を軽やかにかわす。

「今度こそ、君を彼女のそばまで連れていくよ・・それなら納得・・」

「するわけがないだろうが!」

 手を差し伸べようとした男に対し、ハヤトが剣を具現化して振り下ろす。しかし男が放った念力で剣が弾き飛ばされた。

「強行や実力行使は好ましくないのだけど・・・」

 男は顔から笑みを消すと、手をハヤトの体に当てる。するとハヤトは体を全く動かせなくなる。

(体が動かない・・声も出せないだと・・・!?

 声を出すこともできなくなり、ハヤトが驚愕する。

「行こう。彼女にまた会えば、君も気持ちが落ち着くはずだから・・」

 男はハヤトをこのまま連れて行こうとして、意識を集中する。

(冗談じゃない・・このまま・・このままアイツの思い通りになってたまるか!)

 激情を高ぶらせたハヤトが、全身に力を込めた。彼が男からの念力をはねのけた。

「私の力をここまで跳ね返した・・・!?

 体の自由を取り戻したハヤトに、男は驚きを感じた。力を振り絞ったハヤトは、呼吸を乱していた。

「オレはお前を許さない・・ここで必ずブッ倒す!」

 ハヤトが再び剣を具現化して、男に向けて振りかざす。男は冷静さを取り戻して、ハヤトの剣を後ろに飛んでかわす。

「今日のところは引き上げることにする・・君とまた会うことになるだろう・・」

「待て!逃げるな!お前はオレが倒す!」

 微笑みかける男にハヤトが怒号を放つ。

「自己紹介をしていなかったね・・私はカイン。また会いに来るよ、竜崎ハヤトくん・・」

 男、カインがハヤトの前から姿を消した。

「逃げるな!」

 ハヤトがカインを追うが、カインの姿は完全に消えていた。

「アイツが、ハルナを・・ハルナ!」

 ハルナを連れ戻せず、ハヤトがカインへの怒りの叫びを上げた。

 

 ハヤトと対面したカインは、自分の暮らしている場所に戻ってきた。彼は廊下を進んで、突き当りのドアを開けた。

 カインは部屋の中を見渡した。部屋の中には大勢の裸の女性の石像が立ち並んでいた。

 カインの心に石像からの声が伝わってくる。石像全てが、元は本物の人間で、彼によって石化されていた。

「みんな、苦痛を忘れて気分をよくしている・・それこそが私の、みんなの楽園・・これ以上の至福はない・・・」

 女性たちの声を聴いて、セインが心地よさを感じていく。全員に意識が残っていた女性たちだが、みんな恍惚に包まれていて、恐怖や苦痛を全く感じていない。

「今の世界は荒んでいる。この世界に苦痛や苦悩を感じている人は多い。だからその苦しみから解放してあげるのが、至福というもの・・」

 世界の現状への嘆きを口にして、カインが頭に手を当てる。

「でも楽園を作るために、罪のない人が逆に苦痛を与えるようなことはあってはならない・・その責任は、私が果たさなくてはならない・・」

 カインがハヤトのことを思い出して、苦悩を深めていく。ハヤトが苦しんでいることを、カインは辛く思っていた。

「必ず救い出す、君も・・君の苦しみも辛さも、私が取り除く・・・」

 新たな決意を胸に秘めて、カインは部屋を出てドアを閉める。

「そして他にも、助けなくてはならない人がたくさんいる・・私の中で渦巻く感情もまた大きい・・・」

 自分の中にある決意と感情を実感していくカイン。

「私がやらなければならないことは、まだまだある・・・」

 次の行動に出るため、カインは再び外へ向かった。

 

 カインの行方を血眼になって探すハヤト。しかしカインを見つけられず、ハヤトは憤りを募らせていた。

(ハルナ・・・アイツを見つけたのに、倒せなかった・・・!)

 悔しさを抱えたまま、ハヤトはガルヴォルスから人の姿に戻る。

(やっとアイツを見つけたのに、ハルナを連れ戻す手がかりが見つかったのに・・・!)

 込み上げてくる憤りと自責に心を揺さぶられるハヤト。カインを見つけ出す手がかりをこれ以上見出せず、彼は家に戻るしかなかった。

 家はハヤト以外誰もいない。元々はハルナの家で、ハヤトは居候で済んでいた。

 放浪していたハヤトが、ハルナからの優しさを受けて心を動かされた。それから彼はハルナの家にお世話になることになった。

 両親を亡くしていたハルナは、1人で一生懸命に仕事をして生活していた。前向きな彼女に救われたと、ハヤトは感謝を感じていた。

 しかし今はハルナがカインに連れ去られて、家はハヤトしか住んでいない。

(ハルナ、またここに帰ってこれる・・オレが連れ戻すからな・・・)

 ハルナへの思いとカインへの怒りを募らせて、ハヤトが両手を握りしめる。

(そしてハルナにも、アイリたちのことを紹介して・・・)

 アイリとあかりのことも気にして、ハヤトが戸惑いを覚える。

(ハルナ、アイリ・・オレは、どっちのことを気にして・・・)

 自分の想いに確証が持てなくなり、ハヤトが別の苦悩に囚われていく。

(オレは、誰のために戦って、生きているんだ・・・)

 理由を見出そうとしながら、ハヤトが自分の部屋に来て、ベッドに横たわった。

 

 あかりの買い物が終わって、アイリは彼女と一緒にマンションに向かっていた。

「ありがとうね、アイリ〜♪助かったよ〜♪」

「外が落ち着いたら、今日の埋め合わせはしてもらうからね・・」

 喜びを振りまくあかりに、アイリがため息をつきながら言いかける。

「ところで、ハヤトくん、大丈夫かな・・・?」

 あかりが唐突にハヤトのことを気にして、アイリが表情を曇らせる。

「ガルヴォルスやあの兵士たちに襲われていなければいいけど・・・」

「うん・・ハヤトくんだったら、どんなピンチだって乗り越えちゃいそうだよ。ホント。アハハ・・」

 ハヤトを心配するアイリに、あかりが苦笑いを見せる。あかりは作り笑顔を見せて、アイリを励まそうとした。

「今度こそ帰るよ、あかり。もう日が暮れるよ・・」

「そうだね、そうだね。もう物騒なことに巻き込まれるのは大変だからね。ホントにゴメンね、アイリちゃん・・」

 アイリが呼びかけて歩を早めて、あかりが慌てて、謝りながら追いかける。2人はマンションにたどり着いて、自分たちの部屋まで来た。

「私はハヤトに連絡を取ってみるね。まぁ、何もなくても明るく答えてはしないけどね・・」

「すっかり仲がよくなっちゃってるねぇ、2人とも〜。」

 アイリが言いかけると、あかりがにやけ顔を見せてからかってきた。

「もう、あかりったら・・そういうのじゃないから・・」

「はいはい♪了解、了解♪」

 アイリが注意をするが、あかりはただ笑顔を見せるばかりだった。アイリはため息をついてから、自分の部屋に入った。

「それじゃまたね、アイリちゃん♪」

 あかりもアイリに挨拶してから、自分の部屋に入った。

 

 あかりと別れて自分の部屋に帰ったところで、アイリは携帯電話を取り出してハヤトへの連絡を試みた。しかしハヤトが電話に出ない。

(ハヤト・・電話に出ない・・もしかして、何かあったんじゃ・・・!?

 ハヤトが電話に出ないことに、アイリが不安を感じていく。アイリは改めてハヤトに連絡するが、それでも出ない。

(ハヤト・・お願い、出て・・ハヤト!)

 ハヤトが気がかりになって、アイリはたまらず部屋を飛び出した。彼女はハヤトがガルヴォルスか兵士に襲われて窮地に追い込まれているのではないかと思ってしまった。

 

 アイリからの連絡は、ハヤトの携帯電話に届いていた。しかし気持ちの整理がついていないハヤトは、電話に出ることができなかった。

 ハヤトが携帯電話の着信に気付いたのは、それから少し経ってからだった。

「アイリ・・アイリから連絡があったのか・・・」

 携帯電話を見つめるハヤト。しかし心の整理がつかない彼は、アイリに返信することができなかった。

(オレはアイツに何て言ってやればいいんだ・・アイツに答えても、ハルナは悪く思わないだろうか・・・)

 アイリとハルナの間で、ハヤトはさらに気持ちが揺れていた。

「ちくしょう・・何でオレがここまで気にしなくちゃならないんだよ!」

 苛立ちのあまり髪をかきむしるハヤト。彼は苦悩を振り切ろうとして家を飛び出した。

(ハルナのことは大事だ・・だけどアイリのことを、ほっとくことはできない・・・!)

 ハヤトは感情の赴くまま、アイリを探しに向かった。電話で連絡を取ることも忘れたまま。

 

 ハヤトを心配して外に駆け回るアイリ。しかし彼女がハヤトを見つけられないまま、夜を迎えた。

(ハヤトだったら人気のないところにガルヴォルスがいると考えて、そこに行くはず・・でも、私が行ったら、ガルヴォルスとかに襲われる危険もある・・・)

 ハヤトを探すことと自分の身の安全の間で悩むアイリ。

「もう1回、ハヤトに連絡してみよう・・連絡が付けば・・・!」

 思い立ったアイリがもう1度、ハヤトへの連絡を試みようとした。

 そのとき、アイリは近づいてくる足音を耳にして、連絡をやめた。彼女は周りを警戒して、とっさにそばの物陰に隠れた。

(何だろう・・ガルヴォルスやあの兵士なのかな・・・!?

 近づいてくる影を警戒して、アイリが緊張を膨らませていく。足音はだんだんと近付くと、突然消えた。

(えっ・・!?

 足音が聞こえなくなったことに驚いて、アイリは少しだけ外に顔を出す。

「私は気付いているよ。君がそばにいることに・・」

 そこで声をかけられて、アイリは緊張を一気に膨らませた。振り返った彼女の前にいたのはカインだった。

「あなた、一体・・もしかして、ガルヴォルス・・・!?

「ガルヴォルスの存在を知っているとは・・でもガルヴォルスというわけではない・・もしかして君は・・」

 息をのんで後ずさりするアイリに、カインが言いかける。

「君は、竜崎ハヤト君の知り合いか?」

「ハヤト!?・・もしかして、あなたが、ハヤトが追いかけている・・・!?

 問いかけてくるカインに、アイリが声を振り絞る。

「せっかくだ。ハヤトだけでなく、君からも苦痛を取り除いてあげないと・・」

 カインは笑みをこぼして、アイリに狙いを向ける。手を伸ばしてきた彼に迫られて、アイリはとっさに逃げ出した。

 しかしカインにすぐに前に回り込まれて、アイリが足を止める。

「君は私がものにする。その代わり、君には最高の至福を与えるよ。」

「ハヤトがガルヴォルスを憎む源になっているのがあなたなら、あなたの言う通りにしてもいいことは何もない・・!」

 手を差し伸べてくるカインに、アイリは抵抗の意思を見せる。

「ハヤトくんと同じく、君も強情ということか・・力ずくは好ましくないけど、仕方がない・・」

 カインは肩を落とすと、一気に詰め寄ってアイリの腕をつかんできた。

「そんな!?

「ガルヴォルスは人間を超えている存在。人間が逃げ切ることはできない・・」

 驚愕の声を上げるアイリに、カインが微笑みかける。

「君のこともハヤトくんに伝えて、来てくれるように言っておくよ。君のことも知れば、来ないわけにいかなくなるだろう・・」

「放して!ハヤトをあなたになんて!」

 微笑みかけるカインに、アイリが悲鳴を上げる。カインはアイリをこのまま連れて行こうとした。

 しかしそのとき、カインは手を放してアイリから離れた。次の瞬間、アイリのそばにドラゴンガルヴォルスとなったハヤトが飛び込んできた。

「ハヤト!」

 アイリが声を上げる前で、ハヤトが距離を取ったカインに振り向く。

「お前・・どこまで勝手なマネをすれば気が済むんだよ!」

 ハヤトが怒号を放ち、カインに飛びかかる。ハヤトが繰り出す拳をカインがかわしていく。

「丁度よかった・・あの子と一緒に、君も一緒に来てもらうよ・・」

 カインが微笑みかけて、ハヤトに手を差し伸べてくる。

「何度も言わせるな・・オレを思い通りにできると思うな!」

 ハヤトは憎悪をむき出しにして、刺々しい姿に変貌にして剣を振りかざす。剣から真空の刃が放たれるが、カインはそれもかわしてみせる。

「君自身にとって、君が心の傷を癒すには、私の存在が消えないといけないようだけど・・みんなの幸せのために、まだそうなるわけにはいかない・・」

「だからどこまでもそんな勝手なことをぬかすなと言っている!」

 肩を落とすカインに、ハヤトがさらに攻め立ててくる。彼に目を向けてから、カインが指を鳴らした。

 次の瞬間、ハヤトが淡い光の球に閉じ込められた。

「な、何っ!?

「えっ!?

 この事態にハヤトだけでなく、アイリも驚愕の声を上げる。

「こんなもんでオレをどうにかできはしない!」

 ハヤトがいきり立ち、球を打ち破ろうと殴り掛かる。拳が球に命中した瞬間、球に反射して映っていた彼が痛みを覚える。

「な、何だ、コレは!?・・何でぶち破れなくて、オレが痛みを感じるんだ・・!?

 体に痛みが駆け抜けて、ハヤトが顔を歪める。

「ハヤト!?・・ハヤトに何をしたの!?

 アイリが声を上げて、カインに問い詰める。

「これは鏡を利用した封印。脱出しようと壊そうとするなら、反射して映っている自分の姿に攻撃を加えることになる。」

 カインが悠然とハヤトたちに語りかける。

「結果、自分を傷付けることになる。つまり力ずくで出ようとしても、逆に自分を追い詰めることになる・・」

「ハヤトを解放して!これ以上ハヤトを追い詰めないで!」

 アイリがカインに向けて悲痛さを込めて呼びかける。

「追い詰めているのは彼自身だ。自分の強い怒りと憎しみが、彼自身をも傷つけている・・」

「違う・・その怒りと憎しみを植え付けたのは、あなたじゃない!あなたが何もしてこなければ、ハヤトは幸せに暮らしていたのに!」

 言いかけるカインにアイリも怒りを言い放つ。

「アイリ・・・!」

 感情をあらわにするアイリに、ハヤトが戸惑いを覚える。彼はアイリに心を動かされていた。

「その幸せは永遠に続かない・・本当の至福は、私がもたらさないといけない・・」

「私たちの話を聞かないで・・あなたという人は!」

 自分の意思を貫くカインに憤り、アイリがハヤトに駆け寄る。

「ハヤト、すぐにそこから出して・・!」

 アイリがハヤトを助けようと球を破ろうとした。その瞬間、彼女も痛みを覚えて、たまらず球から手を離す。

「す・・姿が映った私も・・・!」

「中からも外からも破ることはできない・・やれば自分が傷つくことになる・・解けるのは、発動させた私だけ・・・」

 苦しむアイリにカインが言いかける。彼は2人にゆっくりと近づいて、アイリの腕をつかんだ。

「では行こうか、2人とも・・ハヤトくん、君もハルナさんに会える・・・」

「ちくしょう!出せ!ここから出せ!」

 微笑みかけるカインにハヤトが激高する。カインによってハヤトとアイリは連れ去られてしまった。

 

 

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