ガルヴォルス -New Generation-

第5章

 

 

 苦悩と心身の疲弊で意識を失ったハヤト。彼が目を覚ましたとき、既に朝を迎えていた。

(ここは、アイリの部屋・・オレをここまで連れてきたのか・・・)

 ハヤトが部屋を見回して、記憶を巡らせる。

(アイリ・・お前も眠ってしまったのか・・・)

 ハヤトは隣で寝ているアイリに気付く。

(そこまで・・そこまでオレを助けようとしたっていうのか・・・!?

 アイリが思いを寄せていることを実感するハヤト。彼はアイリを起こさないようにベッドから出た。

(倒れたときには気分がよくなかった・・でも、今は落ち着いている・・寝たからなのか・・それとも・・・)

 ハヤトはアイリに振り向いて戸惑いを感じていく。彼はアイリに対して心を動かされていた。

(優しさをはねつけるわけにはいかないけど・・それじゃ、ハルナに悪いんじゃないかって思う・・・)

 アイリとハルナ、それぞれへの思いに葛藤して、ハヤトは割り切ることができないでいた。

「ハ・・ハヤト・・・」

 アイリが目を覚まして、ハヤトに目を向ける。

「アイリ・・・」

「落ち着いているみたいだね、ハヤト・・よかった・・・」

 声をかけるハヤトを見て、アイリが安心を見せる。

「お前が、オレをここまで・・・」

「うん・・本当に疲れ切っていたから・・私が何とかしなくちゃって思って・・・」

 ハヤトが言いかけて、アイリが微笑んで頷く。

「お前・・相当のお節介焼きみたいだな・・・」

「あかりからも言われるよ。いつもはそんなことはないと思うんだけど、今回は・・」

 ハヤトが投げかけた言葉に、アイリが苦笑いを見せる。

「やっぱお節介焼きなのかよ・・」

「ハヤト、いじわるよ・・」

 ハヤトに言われてアイリがふくれっ面を見せる。

「でもそのお節介に、オレは助けられた・・ありがとうな・・」

「ハヤト・・感謝するのは私のほうだよ・・ありがとう、ハヤト・・」

 互いに微笑んで感謝するハヤトとアイリ。2人は互いに分かり合えたと思えて、安堵を感じていた。

「ハヤト、これからどうするの・・・?」

 アイリが表情を曇らせて、ハヤトに問いかける。

「オレは戦う・・ガルヴォルスも、心がバケモノの人間も・・もうオレは迷わないし、後悔もしねぇ・・・」

「ハヤト・・でもそれじゃ、人殺しになるって・・・」

「アイツらはオレを人と思ってねぇ・・だったらオレは、そんなヤツらは人間と見る必要はねぇ・・」

「人殺しにならないっていうこと・・・!?

「そう考えないと、あまりにも理不尽だ・・・」

 自分の決意を固めるハヤトに、アイリは戸惑いを募らせる。

「ガルヴォルスを許せなかったのは多分、アイツらが仕掛けた理不尽が許せなかったからだと思う・・・」

 ハヤトが自分の考えと記憶を確かめていく。

「だからあの兵士たちも、オレの倒すべき敵だ・・・!」

「ハヤトの、倒すべき敵・・・」

 揺るがない決意を抱くハヤトに、アイリが困惑を覚える。

「ハヤトのすることは、いいことなのかな・・それとも、悪いこと・・・!?

「前だったら正しいことだって言い張ってただろうな・・だけど今は、いいか悪いか、オレにも分かんない・・」

 アイリに問いかけられて、ハヤトも困惑する。

「それでもオレはやることになる・・アイツらが許せねぇって気持ちに、どうしてもウソは付けないから・・・」

「本当にガンコだね、ハヤトは・・これはとことん自分でやって、後悔するまでやり続けることになるんだろうね・・・」

「そうだな・・そうだってよく言われるな、オレ・・・」

「もう、ハヤトったら・・」

 互いに皮肉を口にして、ハヤトとアイリが笑みをこぼす。2人は安らぎを感じて、小さく肩を落とした。

「もう行くぞ、オレは・・1回家に帰る・・」

 ハヤトが深呼吸をしてから、アイリの部屋から出ようとする。

「また1人で、ガルヴォルスやあの人たちと戦うつもりなの・・・?」

 アイリがハヤトを心配して呼び止める。

「今はオレしか戦えるヤツがいないからな・・だけど、何かあったら頼りにさせてもらう・・」

 ハヤトが投げかけたこの言葉に、アイリが戸惑いを募らせる。

「ハヤト・・・ありがとう・・気を遣ってくれて・・・」

「こんな性格のオレをほっとけないっていうヤツは、ハルナとお前ぐらいだからな・・オレだってほっとけなくなっちまう・・・」

 感謝するアイリに、ハヤトが本音を口にする。

「改めてよろしくな、アイリ・・」

「うん、ハヤト・・」

 ハヤトとアイリが笑みをこぼして、手を取り合って握手を交わした。

「それじゃまた・・」

 アイリに挨拶すると、ハヤトは彼女の部屋を後にした。

(ハヤト・・私のことを信じてくれた・・もうハヤトは、1人じゃないってことだよね・・・)

 アイリはハヤトが救われているのではないかと思い、安堵を感じていた。

「あかりにも知らせておかないといけないね・・いつまでも黙っていたらうるさいからね・・」

 あかりのことを気にして、アイリも彼女に連絡を入れることにした。

 

 ハヤト打倒のため、上層部は手段を選ばなくなった。彼らは動かせる戦力を全て投入しようと考えていた。

「我々の戦力全てを投入すれば、東京、いや、日本は火の海になりかねんぞ。」

「ガルヴォルスのために、既に火の海になっているも同然だ。やらなければ、我が国や世界はヤツらに蹂躙され続けることになる。」

「他の名目で避難勧告を出すことにしよう。例え何らかの災害としても、ガルヴォルスは高まった力ゆえに己を過信することになり、勧告に従わんだろう。」

 上層部の議員たちが議論を交わす。

「そこが我々にとって好都合なところだ。」

「自惚れでヤツらは地獄への扉を開けることになる。」

「ガルヴォルス全滅のため、首都は尊い犠牲となる。」

 議員たちが作戦遂行を見据えて笑みを浮かべる。彼らはガルヴォルスを滅ぼすために手段を選ばない。

「では全部隊に通達。勧告を出したのち、作戦開始せよ。」

 議員たちが部隊に向けて、ガルヴォルス打倒のための作戦を命じた。

 

 アイリに助けられたハヤトは、彼女と別れて家に戻ってきた。

(オレは今・・アイリに心を許している・・アイツに助けられていることを、オレは喜んでいる・・・)

 アイリへの思いを実感していくハヤト。

(ハルナ、お前はオレのこういうのを知ったら、オレをどう思うかな・・腹が立つか、オレたちを認めてくれるのか・・・)

 ハルナのことも考えて、ハヤトが表情を曇らせる。

(ハルナ、オレはお前とアイリにどうしたらいいんだ・・・)

 気持ちの整理がつかなくて、ハヤトはたまらず頭に手を当てる。

(今のオレがやらないといけないのは、ハルナ、お前を助け出すこと・・どんな相手が邪魔してきても・・・!)

 今までしてきたことを貫こうと考えて、ハヤトは迷いを振り切ろうとした。

 

“えーっ!?ハヤトくんと一晩一緒にー!?”

 いきなりあかりに大声を上げられて、アイリがたまらず携帯電話を耳から離す。アイリはあかりにハヤトのことを電話で話していた。

「追われて傷だらけになっていたから、助けただけだって・・」

“そ、そうだったの〜・・ビックリさせないでよ〜・・”

「えっ?ビックリ?」

“う、ううん!何でもない、何でもない!”

 安心したところでアイリに疑問を投げかけて、あかりが弁解する。

「それで、あかりも気を付けてほしいの・・ハヤトを襲った人たち、怪物じゃないけど、他の人を利用したり犠牲にしたりするのも平気でやる人たちだから・・」

“うん・・怪物レベルの危険度ってことは、肝に銘じるよ・・・!”

「うん・・それであかり、合流できないかな?」

“それはいいけど。すぐにそっちに行くよ。”

「分かった。ありがとう、あかり。それじゃ後で・・」

 あかりとの連絡を終えて、アイリは携帯電話をしまった。

(あかり・・ハヤト・・・)

 あかりとハヤトのことを考えて、アイリは笑みを浮かべる。自分がハヤトを支えられて、自分もハヤトに頼りにされてあかりに支えられていることを実感していた。

「アイリ、来たよー♪」

 そのとき、やってきたあかりがいきなりドアを開けてきた。

「あかり、ビックリしたのはこっちだって・・!」

 アイリが深呼吸をして肩を落とす。

「エヘヘ、ゴメンゴメン・・急いで来たもんだから〜・・」

 あかりが照れ笑いを見せて、部屋のドアを閉めた。

「あれ?ハヤトくんは?」

「1回家に帰ったよ。またこっちに戻ってくるって。」

 部屋の中を見回すあかりに、アイリが答える。

「そう〜・・残念だよ〜・・」

「そんなに落ち込むことはないって・・大げさなんだから、あかりは・・」

 大きく肩を落とすあかりに、アイリが苦笑いを浮かべた。

「それで、ハヤトくんを狙ってる兵隊が出てきたって、ホントなの・・・!?

 あかりが話を切り出すと、アイリが真剣な面持ちで頷く。

「これじゃ、誰が味方なのかハッキリしてこない・・そのことに参っているのは、私たち以上に、ハヤト・・・」

「あたしたちに何ができるのか、全然分かんないよ〜・・ホントにどうしたら・・・」

 アイリとあかりが苦悩して深刻さを口にする。するとアイリがあかりに微笑みかけてきた。

「ハヤトは、私たちのことを頼りにしてくれてる・・それだけでも大きな進歩だと思う・・」

「そういうことなら、素直に喜んじゃうところだね。エヘヘ・・」

 アイリに言われてあかりが照れ笑いを見せた。

 そのとき、アイリとあかりが携帯電話に受信が入ったのを感じた。2人が携帯電話を取り出して確かめるが、受信の内容に目を疑った。

「緊急避難警報・・・!?

「地震が発生って・・そんなこと、信じられるわけ・・・!」

 驚きを隠せなくなり、アイリもあかりも動揺するばかりになった。直後、街に警報のサイレンが鳴り出した。

 

 突然鳴り響いたサイレンと携帯電話に伝わった警報は、ハヤトにも伝わっていた。彼はアイリとあかりのいるマンションに向かう。

(いきなりすぎる気がする・・何かありそうな・・・)

 ハヤトがこの警報に違和感を感じていた。彼はマンションにたどり着き、アイリの部屋に駆けつけた。

「アイリ!・・あかりも来てたのか・・!」

 ハヤトが部屋の中にアイリとあかりがいるのを目にする。

「ハヤトくん、無事だったんだね〜・・よかったよ〜・・」

 あかりがハヤトを見て安心して、大きく肩を落とす。

「ハヤト、この警報・・大地震が来るとか言っているけど・・」

「あぁ・・どうしても何か引っかかって、納得いかねぇ・・・」

 アイリが言いかけると、ハヤトが深刻な面持ちで答える。ハヤトだけでなく、アイリも警報に納得していない。

「もしかして、あの兵士たちの罠じゃ・・!?

「その兵隊、国ぐるみなの〜!?

 アイリが口にした言葉を聞いて、あかりが不安の叫びを上げる。

「相手が誰だろうと、オレたちをどうかしちまおうとするなら、オレは容赦しねぇ・・・」

「ハヤト・・・」

「オレは戦う・・オレの大切な人を取り戻すために・・・!」

 決意と憤りを噛みしめるハヤトに、アイリは戸惑いを感じていた。

 

 緊急避難警報により、人々が次々に逃げ出していく。しかしガルヴォルスは常人を超えた力故に、警報に従おうとする様子を見せていなかった。

「案の定、ヤツらは己を過信して避難はしようとしないな。」

「それが我々にとって好都合ということを分からずに・・」

 上層部の議員たちがガルヴォルスの動向をあざ笑う。

「一般の国民の避難を確認次第、ガルヴォルスの一掃にかかる。」

「生活や経済に多大な犠牲が出るが、これでガルヴォルスの殲滅に大きな一歩を踏み出せるならば・・」

「一般人への被害は極力避けなければならない。極力、な・・」

 議員たちは言葉を交わすと、特殊部隊に向けて連絡を入れる。

「発射準備は完了しているか?」

“完了しています。問題なく、いつでも発射できます。”

 部隊からの応答を聞いて、議員たちが笑みを浮かべる。

「覚悟するがいい、ガルヴォルスども・・お前たちの思い上がりも今日限りだ・・」

 ガルヴォルス打倒の野心を募らせて、議員たちは笑みを強めた。

 

 緊急避難警報のため、街から人々が離れていく。車で避難しようとする人々もいるが、渋滞を作ることとなり、避難は滞っていた。

 その中をかき分けて、ハヤトは街中の動向を探っていた。何者かによって何かが仕組まれているという疑念を、ハヤトは拭えないでいた。

(どこに隠れてる・・出てこい・・コソコソとしかやり方じゃないと張り合うこともできねぇのかよ・・・!?

 首謀者に対する憤りを募らせるハヤト。彼は逃げ惑う人々から離れて、人気のない路地に差し掛かった。

 そこには数人の男たちが集まり、余裕の笑みを浮かべていた。彼らはガルヴォルスで、地震が起きても生き延びられると思って、避難しようとしていない。

「お、逃げようって思ってないヤツがまた来たぜ。」

「もしかしてアイツもアレなんじゃないのか?」

 男たちがハヤトに振り向いて、笑みをこぼしてきた。彼らの言葉を耳にして、ハヤトは彼らがガルヴォルスであることを確信した。

「みんな逃げちまえばここはもぬけの殻・・」

「金も食い物も取り放題、奪い放題だぜ・・!」

 欲望をむき出しにして、男たちがあざ笑う。彼らの言動にハヤトが憤りを覚える。

「ガルヴォルス・・どいつもこいつも勝手なことを繰り返して・・・!」

 声と体を震わせるハヤトの頬に、異様な紋様が浮かび上がる。彼の姿がドラゴンガルヴォルスになる。

「お、お前、まさか、ガルヴォルスをブッ倒して回ってるガルヴォルス!?

「オレたちを殺しに来たってのか!?

「冗談じゃねぇ!せっかくの大チャンスを目の前にして、むざむざ殺されてたまるか!」

 男たちがたまらずガルヴォルスになって、ハヤトから逃げ出していく。

「逃げるな!」

 ハヤトが怒号を放って、ガルヴォルスたちを追いかける。彼が振りかざした爪が、ガルヴォルス2人を切りつけた。

「助けて!助けてくれ!オレは死にたくない!」

 命乞いをするガルヴォルスの1人に、ハヤトが詰め寄り踏みつける。

「や、やめて!助けて!何でもするから命だけは・・!」

「そうやって助けを求めてきたヤツを、お前らはどうしたんだ・・・!?

 ハヤトがガルヴォルスに鋭い視線を向ける。一気に絶望感を膨らませたガルヴォルスが、そのまま押しつぶされて息の根を止められる。

「とんでもないヤツだ・・追いつかれたらおしまいだぞ・・!」

「とにかく逃げる!ここで死んでたまるか!」

 ガルヴォルスたちが必死になって逃げだすが、ハヤトにすぐに追いつかれる。

「ぐあっ!」

 他のガルヴォルスもハヤトに打ち倒され、残る1人も彼に壁に押し付けられる。

「オ、オレは人を襲ったりしないよ!他のガルヴォルスに脅されて、付いていただけなんだから!」

 フォックスガルヴォルスがハヤトに必死に弁解する。

「お前らが今起こってるおかしなことを起こしてるとは思ってねぇ・・オレが聞きたいのは、おかしな力を使うガルヴォルスを知ってるかどうかだ・・」

「おかしな力を使うガルヴォルス・・!?

「女をおかしな気分にさせて、連れていくヤツだ・・知らないのか・・!?

「し、知らない・・そんな気色悪いのがいたら、トラウマになるぐらいに記憶に残るって・・・!」

「そうか・・知らないか・・・」

 答えを聞いたハヤトは、フォックスガルヴォルスから手を放す。

「2度と悪さをするなよ・・もしもしてたら、今度こそ息の根を止めるぞ・・・」

 ハヤトはそう告げると、きびすを返して歩き出す。次の瞬間、フォックスガルヴォルスが不敵な笑みを浮かべて、全身から炎を発してハヤトを包み込んだ。

「油断したな!このまま焼き尽くされろ、バカめ!」

 炎に囲まれたハヤトを、フォックスガルヴォルスがあざ笑う。彼は逃亡や不意打ちを狙って、怯えたフリをしていた。

「せっかくのチャンスが巡ってきたんだ!それをみすみす逃してたまるか!お前はこのまま火だるまに・・!」

 高らかに笑うフォックスガルヴォルス。だがその瞬間、ハヤトが刺々しい姿になって炎を突っ切り、その勢いでフォックスガルヴォルスに剣を突き立ててきた。

「がはぁっ!」

「言ったはずだぞ・・悪さをしたら息の根を止めると・・・!」

 吐血するフォックスガルヴォルスに、ハヤトが鋭い視線を向ける。剣に体を貫かれたフォックスガルヴォルスが、事切れて動かなくなった。

(コイツらの仕業じゃないみたいだが、やっぱり誰かが企んでやがる・・・!)

 警報に対する疑念を確信に変えたハヤト。彼は周辺に注意を向けて、異変を細大漏らさずにつかもうとしていた。

 

 一般人の避難がなかなか完了しないことに、上層部はいら立ちを募らせていた。

「やはり庶民は庶民。所詮は無能ということか・・」

「止むをえまい・・ミサイル発射!ガルヴォルスどもを一掃する!」

 いきり立った議員たちが攻撃を指示する。

“しかし、それでは避難していない市民の多くが犠牲になることに・・!”

「ガルヴォルスを滅ぼすことが最優先だ!構わん、撃て!命令だ!」

 部隊からの応答を議員がはねつける。

“了解・・直ちに発射します・・!”

 部隊が答えて通信を終えた。

「これでガルヴォルスは滅ぶ・・仮に生き延びたヤツがいたとしても、我々の力にヤツらは恐れをなすことになる・・」

「我が国の秩序は保たれる・・平和は安泰だ・・」

 議員たちが勝利を確信して、笑みを浮かべていた。

 

 人々の避難が途中のまま、首都に向けてミサイルが放たれた。ガルヴォルスを一掃するために。

「そういうことか!・・アイツら・・!」

 気付いて振り返ったハヤトが憤りを浮かべる。

「とんでもない破壊力があっても、こんな物騒なの、オレは認めるかよ!」

 いきり立ったハヤトが迫ってくるミサイルに向かっていく。彼は力押しでミサイルを跳ね返そうとする。

「自分が住んでるところまでぶっ壊そうとして・・お前らも結局はバケモノなんだよ!」

 激情をあらわにして、ハヤトが大きく飛び上がる。彼の視界に近づいてくるミサイルを目撃した。

「そんなもの、みんなのところにぶっ放してんじゃねぇぞ!」

 ハヤトは怒号を放って、ミサイルに向けて拳を繰り出す。彼の渾身の一撃が衝撃波となって、ミサイルに向かっていく。

 だがミサイルはハヤトの衝撃波に当たる前に、突如消えた。

「なっ!?

 突然のことにハヤトが驚く。彼は消えたミサイルの行方を探るが見つからない。

「どこに行ったんだ・・急に消えるなんてありえねぇだろ・・アイツらの考えることもだけど・・・!」

 ミサイルの消えた理由が分からず、困惑するハヤト。彼は感覚を研ぎ澄ませて、周囲の異変をつかもうとした。

「ホントにどこに行っちまったっていうんだよ・・・!?

 深まる疑念に苦悩するハヤト。街中や人々の間で湧き上がっている騒動が嘘だったかのような、重い静寂がのしかかっていた。

 

 突然のミサイルの消失に、上層部も部隊も驚愕を隠せなかった。

「ミサイルが消えた!?どういうことなんだ!?

「分かりません!突然消失して・・レーダーからも反応が消えています!」

 兵士たちがこの事態に声を荒げる。

「ミサイルの行方を追え!下手なところに当てて爆発させるわけにはいかない!」

「は、はいっ!」

 兵士たちが慌ててミサイルの行方を追う。

「ミサイルの行方を発見次第、すぐに出動する!準備を怠るな!」

「了解!」

 兵士たちが出撃に向けて準備を整えた。

「私の理想とみんなの楽園が広がっているというのに、壊そうとするとは・・・」

 そこへ声が響き渡り、兵士たちが身構える。しかし周りには彼ら以外の姿がない。

「何者だ!?隠れていないで出てこい!」

 兵士が銃を構えて怒鳴りかかる。すると1人の白髪の男が姿を現した。

「ただガルヴォルスの討伐のみに尽くせば、私が手を上げることはなかった・・だがお前たちは、その域を超えてしまった・・」

「貴様もガルヴォルスか・・ならばここで処分する!」

 言いかける男に向けて、兵士たちが発砲する。しかし弾丸は男に当たる前にかき消される。

「お前たちが仕留めてきたガルヴォルスの力は知れたものでしかない・・私に遠く及ばない・・」

「撃て!攻撃の手を休めるな!」

 言いかける男に向けて、兵士たちはさらに発砲を続ける。その射撃も全てかき消されていく。

「まして普通の人間の力など、私とは雲泥の差・・・」

 男は言いかけると、左手を掲げて広げる。すると兵士の数人が頭に衝撃を感じて、気絶して倒れていく。

「なんというヤツだ・・・!」

 男の発揮する力に兵士たちが驚愕する。

「身の程知らずは破滅の末路を辿る。自業自得というものだ。」

 男は言うと空中に飛翔し、上に右手を向けた。彼の上に現れたのは、ガルヴォルス討伐のために発射されたミサイル。

「なっ!?

 兵士たちは現れたミサイルに目を疑う。

「自分が滅びをもたらそうとしたもので、自ら滅びることだ・・」

 男は右手を下ろすと同時に姿を消した。ミサイルが部隊に向かって落下してきた。

「緊急事態!ガルヴォルスがミサイルを・・!」

 監視員が必死に呼びかけて、状況を報告する。次の瞬間、ミサイルが爆発を起こして、彼らの声と姿をかき消した。

 

 監視員からの報告は上層部に伝わっていた。

「ガルヴォルスが、ここまで牙を立ててきただと・・!?

「どこまでふざけたマネを・・すぐに見つけ出して抹殺するのだ!」

 上層部の議員たちが憤りを募らせて、声を荒げる。彼らは他の部隊にも指示を送る。

「お前たちの駒は私がさらに減らしておいた・・」

 そこへ声がかかり、議員たちが振り返る。彼らのいる会議室に、白髪の男が現れた。

「何者だ、貴様!?部外者が勝手に入ることは許さん!」

「警備は何をしている!?すぐにこの男を追い出せ!」

 男の登場に議員たちが声を荒げる。

「お前たちを護衛していた者は、悪いが始末させてもらった。」

「何だとっ!?貴様、まさかガルヴォルス!?

 男の言葉を聞いて、議員たちが驚愕する。

「私の理想とみんなの楽園を壊そうとした張本人は、私が葬り去る・・己の愚かさを呪うしかない・・」

「おのれ!ガルヴォルスの分際で!」

 低く告げる男に言い返して、議員たちの数人が所持していた銃を手にして発砲する。しかし放たれた弾丸は男の力でかき消される。

「あくまで自分のみの安泰を望み、他の者を平気で切り捨てるか・・」

「来るな・・来るな、バケモノが!」

 目つきを鋭くする男に、議員たちが恐怖を感じながらさらに発砲する。しかしこの弾丸もかき消される。

「お前たちの心は、お前たちがバケモノと呼ぶ私を大きく上回るバケモノだ・・・」

 男は低く告げると、両手を強く握りしめる。すると議員たちが胸を締め付けられるような苦痛に襲われた。

「これは!?・・貴様、我々に何をした・・・!?

 議員たちが顔を歪めながら声を振り絞る。

「血をまき散らすようなことは、私のやり方ではない。おとなしくここで果てるといい。」

 男が言いかけて議員たちに背を向ける。議員たちが苦痛に耐えきれず、次々に倒れていく。

「ガルヴォルスの存在を、我々は認めない・・貴様らを野放しにすれば、必ず世界は混乱に陥ることになる・・・!」

「その混乱をもたらしているのは、お前たちのような人間のほうだ・・・」

 憎悪を口にする議員に、男は冷徹に告げる。

「どこまでもふざけおって・・バケモノが・・・!」

 議員が憎悪を募らせたまま、倒れて動かなくなった。男の手にかかり、議員たちも全員息の根を止められた。

「このような人間がいるから、他の誰かが傷つくことになる・・そのような不条理で傷つく人が出るのは、耐えられないこと・・・」

 男が自分の胸に手を当てて、辛さを噛みしめる。

「だから私はその苦痛を失くす・・自分の心を満たす代わりに至福を与える・・」

 男は笑みを浮かべて、自分の気分を確かめて喜びを実感していく。

「辛い思いをしている人は、まだまだいる・・その人たちのために、私は・・」

 自分が至福を与えた人のことを考えていく男が、会議室を後にする。廊下にも倒れた議員や職員、警備員たちが倒れていた。全員、男の手にかかった。

「元凶は葬った・・このまま私の楽園を広げていく・・」

 自分の欲望を募らせて、男がさらに笑みをこぼす。

(あのハルナという女性と一緒にいた人・・彼には悪いことをしたな・・・)

 男がハルナとハヤトのことを思い返して、沈痛さを感じていく。

(いつか彼とまた会わないといけない・・いや、会うときが必ず来る気がしている・・・)

 彼はハヤトと再び会うことを予感していた。

(そのときはもしかしたら、彼も私の楽園に招待することになる・・追い詰めてしまった謝罪を込めて・・)

 ハヤトをも掌握しようと考えて、男は期待を感じて笑みをこぼす。彼は欲情の赴くまま、会議場から姿を消した。

 

 

 

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