ガルヴォルス
-New Generation-
第4章
ガルヴォルスとの戦いを続けるハヤト。家に戻る彼は監視班に追跡されていた。
“データ照合完了。竜崎ハヤトです。”
監視員たちが検索結果を伝達される。
「監視体制を維持。ヤツの動きや情報を細大漏らさず収集せよ。」
「了解。」
兵士たちがハヤトの監視を続けたまま、捕獲のための体勢を整えることにした。
翌日もハヤトにはスイートの仕事があった。彼はいつもの調子で掃除と皿洗いをこなしていた。
(いつものハヤトに見えるけど・・やっぱりどこかに違う・・)
ハヤトへの違和感を感じずにいられず、アイリは気にせずにいられなかった。
「アイリさん、集中、集中。」
そこへまりんに声をかけられて、アイリが我に返る。
「あ、すみません、店長・・!」
アイリが慌ててテーブルにある皿やコップの片付けに向かう。
「ハヤトくん、集中しているように見えるけど、相変わらずのマイペースで・・」
まりんがハヤトに目を向けて呟く。
(悩みとか考え事とか、そういうのを表に出さない人だから・・)
相談に乗りに声をかけに行くのもはばかられると思い、まりんは自分から声をかけようとはしなかった。
昼間の書き入れ時が過ぎて、ハヤトは休憩に入っていた。軽く食事を取っていた彼に、アイリがやってきた。
「今日はあかりはオフなの・・と言ってもきっと、怪物のことを気にして、気軽に外に出られていないんじゃないかな・・」
「夜より昼間のほうが出てこないから、気にすることもないんじゃないか・・・?」
アイリが話を切り出すと、ハヤトが憮然とした態度で答える。
「ずっと考えているんだけど・・やっぱり私、強くなりたい・・このまま何もできずに怯えて待っているだけなんて・・」
「力を持つのが強くなることじゃない・・ガルヴォルスになろうとしてるなら、オレは許さないぞ・・・」
自分の気持ちを口にするアイリに、ハヤトが忠告する。
「ガルヴォルスの、バケモノの力はホントならあっちゃいけないもんだ・・関係ない人を平気で傷つけるためのもんだ・・」
ハヤトが語りかけて、手を強く握りしめる。
「使い方次第かもしれないけど、この力に心をかきむしらされずに使いこなせるのはホントに少ない・・オレぐらいだと言ってもいいくらいだ・・」
「ハヤトはその力をずっと使い続けて・・・」
「そうしなければ、オレは大切な人を取り戻せない・・ガルヴォルスになって、それでも自分を失わなかったのは、不幸中の幸いだ・・・」
アイリが戸惑いを感じている前で、ハヤトが自身の力を噛みしめていく。
「この力で、ガルヴォルスを滅ぼす・・必ず・・・!」
ガルヴォルスへの怒りを口にして、この場を後にした。
(ハヤト・・違う気がする・・ハヤトは囚われている気がする・・力というよりは、自分のその怒りに・・・)
アイリは安心できず、ハヤトへの心配を募らせていた。
(あのとんでもない姿と力もあるし・・何もなければいいんだけど・・・)
一抹の不安を感じながらも、アイリも仕事に意識を戻した。
そして仕事が終わって、ハヤトが1人スイートを後にした。その様子は、彼を追跡する監視班に見張られていた。
監視班の連絡を受けて、暗躍に長けた兵士の集う特殊部隊が駆け付けた。
「いつでも突撃可能だ。後はそちらの連絡待ちだ。」
「人気のない場所で待ち構える。合図で取り囲もう。」
兵士と監視員が作戦の確認を取り合う。
「既に各チームが展開している。この近辺でなら、どこでも突撃を仕掛けられる。そして他のチームも急行して、さらに包囲網を強化する。」
「もうすぐ作戦開始となるだろう。竜崎ハヤトの確保。不可能の場合は抹殺も考慮に。」
監視員と言葉を交わして、兵士たちは行動を開始した。
「同じバケモノだけじゃない・・ヤツの存在は、我ら人類にとっても危険なのだ・・・」
ハヤトへの警戒と怒りを強めて、監視員たちは作戦遂行を強く見据えていた。
家に向かって1人歩いていたハヤト。彼は人気のない道の真ん中で足を止めた。
(オレを付け狙ってるヤツらがいる・・気配が感じないからガルヴォルスじゃない・・・!?)
自分が尾行されてることに気付いたハヤト。相手がガルヴォルスでないため、彼は気付くのが遅れてしまった。
(普通の人間がオレを追っている!?・・もしかして、人間がガルヴォルスを狙っていて、ガルヴォルスであるオレも狙って・・・)
違和感とともに警戒心を強めていくハヤト。彼は警戒を強めたまま、再び歩き出そうとした。
次の瞬間、ハヤトに向かって銃声が響き渡った。ハヤトがその瞬間にドラゴンガルヴォルスとなって、飛び込んだ弾丸に耐えた。
「どいつだ、こんなマネをしてくるヤツは・・・出てこいよ!」
ハヤトが怒鳴ると、特殊部隊の兵士たちが姿を現して、彼を取り囲んできた。
「ガルヴォルス、竜崎ハヤト、我々の指示に従ってもらおう。」
「抵抗するなら実力行使、最悪の場合は射殺も敢行する。」
兵士たちが呼びかけて、ハヤトに銃口を向ける。
「オレはガルヴォルスだけど、ガルヴォルスを憎んでいる・・ヤツらを滅ぼすために、この力を使っている・・・」
「すぐに人間の姿に戻り、我々についてきてもらう。」
ハヤトが言いかけるが、兵士たちは聞こうとしない。
「おい、待てよ・・オレはアンタたちの味方だって・・!」
「5つ数える。その間に従わなければ、撃つ・・!」
声を荒げるハヤトに対して、兵士たちが目つきを鋭くする。
「人の話を聞かず、相手のことを考えず・・お前ら・・人間のくせして、ガルヴォルスみたいなことをやってんじゃねぇよ!」
ハヤトが兵士たちの言動に憤りを覚える。
「5、4、3・・」
「心がバケモノになっちまいやがって!」
数える兵士たちに、ハヤトが怒号を放つ。彼が地面に拳を叩きつけて、衝撃を巻き起こす。
「ぐおっ!」
「ヤツめ・・ふざけたマネを・・!」
砂煙が舞い上がったことで視界をさえぎられ、兵士たちが毒づく。ハヤトは煙に紛れて兵士たちから離れていく。
「ターゲットが逃げます!」
「追え!逃がすな!」
兵士たちも煙をかき分けて、ハヤトを追う。
「別部隊に通達!ターゲットが逃走!包囲、拘束せよ!」
“了解!”
兵士たちが連絡を取り合い、ハヤトの行く手をサラに阻もうとする。
(アイツら、オレを確実に狙ってきている・・元に戻っても狙われることは変わんない・・!)
ハヤトは兵士たちの狙いに対して毒づく。彼はこの状況に対する打開の糸口を必死に探る。
(ガルヴォルスだったら容赦しない・・だけど、今オレを攻撃してきているのは人間なんだぞ・・!)
人間に危害を加えることを快く思わず、ハヤトは兵士たちに攻撃することをためらっていた。
(とりあえず人込みに紛れるか!人に戻ってそうすれば、いくらアイツらでも手出しは・・!)
ハヤトが思考を巡らせて、街中に飛び込もうとした。
「ぐっ!」
そのとき、ハヤトが突然体に痛みを覚えて顔を歪める。弾丸の直撃をされたが、彼は銃声を耳にしてはいなかった。
(サイレンサーってヤツなのか・・全然聞こえなかったぞ・・・!)
ハヤトが痛みに耐えながら着地する。そこには兵士たちの包囲網が敷かれていて、ハヤトは取り囲まれた。
「どこへ逃げてもムダだ。お前は我々に従う他はない。」
「こちらの指示に従えば、これ以上の負傷は免れることになる。賢明な判断を求める。」
兵士たちがハヤトに忠告を送り、再び銃を構える。
「自分を押し付けて、他のヤツを平気で傷つける・・ガルヴォルスだけじゃないのかよ・・・!?」
ハヤトが徐々に兵士たちへの憤りを膨らませていく。
「そういうヤツがいると、みんな迷惑するんだよ!」
我慢の限界を迎えたハヤトが兵士たちに飛びかかる。
「おのれ!撃て!」
兵士たちがハヤトを狙って発砲する。ハヤトは弾丸をかいくぐり、銃を叩き落として壊していく。
「くっ!・・銃を壊して打つ手を潰す気か・・!」
「こんなことで、我々が引くとでも・・!」
兵士たちが毒づきながらも、携帯していた別の銃を取り出す。
「これなら手傷を負わせずに奪い取ることは不可能!」
小型の銃で再び射撃する兵士たち。ハヤトは素早く動いて弾丸をかわす。
「気絶させるしかないか・・・!」
思い立ったハヤトが兵士たちに握り拳を打ち込んでいく。彼は殺害や重傷に至らないように、極力力加減をした。
ハヤトの打撃を受けて、兵士たちが次々に気絶していく。
「ガルヴォルス・・これ以上はやらせるか!」
兵士たちが体勢を整えて、銃だけでなくナイフも手にする。しかし彼らはハヤトに次々に気絶させられていく。
「これでは太刀打ちできんか・・撤退する!」
兵士たちがハヤトの前から引きあげようとする。するとハヤトもとっさにこの場から離れて去っていった。
「くっ!・・逃がしたか・・・!」
ハヤトを拘束できなかったことに、兵士たちが毒づく。
「体勢を整える!一時撤退!」
兵士たちも改めてハヤトを拘束するため、撤退していった。
兵士たちの襲撃から逃げ切ったハヤト。人の姿に戻った彼は、兵士たちへの疑心暗鬼を感じていた。
(アイツら・・オレ以上に、ガルヴォルスのことを滅ぼそうと考えてやがるのか・・オレも、ガルヴォルスだから・・・)
兵士たちのことを考えて、ハヤトはやるせなさと自分への皮肉を感じていく。
(アイツらは人間だ・・人間のはずなのに・・考え方はバケモノと変わんないじゃないかよ・・・!)
込み上げてくる歯がゆさを噛みしめて、ハヤトが手を強く握りしめる。
(これじゃ、オレかアイツらのどっちかが、人殺しになるしかなくなる・・いや、アイツらは、人殺しの意識は全くねぇ・・・!)
憤りを募らせて、ハヤトが迷いを振り切る。
(これ以上ふざけたマネをしてきたら、オレは容赦しねぇ・・・!)
兵士たちへの敵意を抱えたまま、ハヤトは落ち着きを取り戻しながら家に戻った。
ハヤトの拘束に失敗した兵士たちは、監視班と合流していた。
「まさか、これほどの力を備えていたとは・・・!」
「しかもヤツ、我々を殺さずに気絶に留めて・・なめたマネを・・・!」
兵士たちがハヤトに対していら立ちを募らせる。
「捕獲しても抵抗され、被害が及ぶのは避けなければならない・・竜崎ハヤトを抹殺する・・・!」
「それ以外に手段はないですね・・・」
兵士たちと監視員たちが意見をまとめて頷き合う。
「他の部隊にも召集を。増員して任務にあたる。」
「了解。」
兵士たちは声をかけ合い、他の部隊に連絡して呼び寄せることにした。
上層部が特殊部隊を動かしてきたことは、ガルヴォルスたちにも話が伝わっていた。
「人間どもが・・いい気になりやがって・・!」
「何をしようがオレらのおもちゃにしかならねぇってのに・・」
ガルヴォルスたちが兵士たちに対していら立ちを見せる。
「この際だ・・ヤツらにオレたちの力を思い知らせてやるか・・・」
「2度とこんなふざけた考えを起こせなくなるようにな・・・!」
「思い切り派手にやれるし・・存分に力を発揮できるし・・ゾクゾクしてくるなぁ・・・」
ガルヴォルスたちが特殊部隊を壊滅させようと企む。
「ヤツら、あのガルヴォルスを今は狙っているんだよな・・・?」
「両者を同士討ちさせて消耗させて、生き残ったところを狙い撃ち・・・」
「漁夫の利というヤツか・・面白い!」
ハヤト打倒も念頭に置いて、ガルヴォルスたちが期待を膨らませる。
「人間どもに気付かれないように潜んで、チャンスをうかがおう・・」
「そのチャンスの瞬間が楽しみだぁ・・・」
野心をさらに膨らませて、ガルヴォルスたちは散開、暗躍していった。
兵士たちとの交戦に歯がゆさを感じながら、ハヤトは家に向かう。その途中、彼はアイリと遭遇した。
「ハヤト・・また怪物と戦っていたの・・?」
アイリが声をかけるが、ハヤトは答えず目をそらす。それを肯定と思って、アイリは話を続ける。
「また戦って、また傷だらけになって・・・」
「オレはガルヴォルスを滅ぼす・・大切な人を助け出すために戦っている・・前にも言ったはずだ・・・」
心配するアイリにハヤトが低い声音で言い返す。
「戦って、生き延びて、帰ってくる・・ハヤトはそう思い続けている・・・だったら、私も・・」
「だからお前らは首を突っ込むなってんだよ・・危険が過ぎるんだよ・・」
「わがままなのはお互い様・・このままあなたをほっとくなんて、いくらなんでも後味が悪いよ・・・!」
「それで死んだら世話ねぇだろうが・・・!」
気持ちを言い放つアイリに不満をぶつけて、ハヤトが歩き出す。
「オレは死ねない・・相手が誰だろうと、オレは誰の思い通りにはならねぇ・・・!」
ハヤトは言いかけて、アイリの前から去っていく。
(誰だろうとって・・ハヤト、まさか・・・!?)
彼の言葉を聞いて、アイリは一抹の不安を覚えた。
翌日の仕事の後、スイートを後にしたハヤトをアイリは追いかけた。彼女は彼に見つからないようにこっそりと後を付けていく。
(もう気付かれている可能性大だけど・・その素振りを見せないうちは、このまま付いていこう・・)
アイリは覚悟を決めて、さらにハヤトの後をついていく。
ハヤトは家ではなく人気のない廃工場前にやってきた。そこで足を止めて、ハヤトが周囲に目を向ける。
「また隠れてオレを狙い撃ちする気か・・今度は容赦しねぇぞ・・・!」
ハヤトが周囲に向けて声をかける。気付かれたことを確信して、アイリが顔を出そうとした。
次の瞬間、ハヤトに向かって弾丸が飛び込んできた。ハヤトはドラゴンガルヴォルスとなって、弾丸をかわす。
(な、何!?)
突然のことに驚くアイリ。兵士たちがハヤトの前に現れて、銃口を向けてくる。
「今度は問答無用ってわけかよ・・・!?」
「竜崎ハヤト、お前をここで抹殺する・・ガルヴォルスが世界を支配することなど許されない。」
いら立ちを見せるハヤトに兵士たちが言いかける。
「オレはガルヴォルスを滅ぼす・・だけど、お前らがオレの命を奪おうとするなら、オレは容赦しねぇ・・のん気に殺されてやるわけにはいかねぇからな!」
ハヤトが怒りを込めて兵士たちに立ち向かう。
「撃て!一斉射撃だ!」
兵士たちがハヤトに向かって銃撃を仕掛ける。ハヤトが素早く動いて弾丸をかわしていく。
「弾幕を張れ!命中できればそれでいい!」
兵士たちがさらに射撃を密にする。弾丸の1つがハヤトの左足をかすめた。
「ぐっ!」
ハヤトが体に違和感を覚えて顔を歪める。彼は体勢を崩して地面を転がる。
「何だ、これは・・力が、入らない・・!?」
思うように動けなくなり、ハヤトがうめく。彼は意識がもうろうとなっていくのを実感していく。
「抵抗はムダだ。これは強力な麻酔弾だ。麻酔といっても、常人には強力すぎて、即死が確実だがな。」
「ガルヴォルス相手なら、たとえ死ななくても全身麻痺を起こせるはずだ。」
兵士たちが弾丸の効果を語りかける。ハヤトは体に麻痺を起して、動きが阻害されていた。
「今回は抹殺が目的だが、拘束も可能となった・・」
「せっかくの機会だ。さらに麻酔をかけて、竜崎ハヤトを連行する。」
兵士たちがハヤトを捕まえようと、再び銃を構えた。
「冗談じゃねぇ・・オレはガルヴォルスを倒して、生きて帰るんだ・・・!」
ハヤトが声と力を振り絞り、強引に体を動かそうとする。
「ヤツ、まだ動けるのか・・・!」
兵士が毒づきながら、ハヤトを狙撃する。ハヤトがさらに体の自由が利かなくなり、地面に突っ伏す。
「意識を失わせろ!人の姿に戻してから連れていく!」
兵士たちがさらに麻酔弾をハヤトに撃ち込んでいく。ダメージと麻痺の蓄積で、ハヤトは動けなくなる。
「もう撃つな!警戒を続けたまま、竜崎ハヤトを連行する!」
兵士たちが銃撃を止めて、ハヤトに近づく。
「ハヤト!」
そのとき、アイリが物陰から飛び出して、ハヤトに向かって叫んだ。兵士たち数人が振り返り、彼女に対して銃を構える。
「まさか民間人がいたとは・・・!」
「見られてしまった・・ここは処置を取るしかない・・・!」
兵士たちがアイリの拘束、または口封じを考える。アイリが緊迫を覚えて後ずさりする。
「くっ・・だから首を突っ込むなって言ったんだよ・・・!」
ハヤトがアイリに気付いて毒づく。
「どうして・・どうしてこんなことするの!?・・みんな、人間なのに・・・!?」
「確保しろ。竜崎ハヤト共々連行する。」
声を震わせるアイリを、兵士たちが狙撃しようとする。
「オレだけじゃなく・・関係のねぇアイリまで・・・お前ら・・どこまで性根が腐ってやがるんだ・・・!」
ハヤトが怒りを膨らませて、無理やり立ち上がろうとする。彼の体から紅いオーラがあふれ出した。
「また動けるというのか!?・・もっと撃ち込んで・・!」
「たとえこのまま射殺することになっても、刃向かわれるくらいなら!」
兵士たちが狙いをハヤトに変える。
「やっぱりお前らも・・自分勝手なバケモノと一緒だ・・許せない存在だ!」
激高したハヤトが刺々しいものへと変わった。兵士たちが射撃を仕掛けるが、弾丸は命中する直前に、ハヤトの出すオーラにかき消される。
「銃撃が通じない!?」
「お前らも許せない存在・・だからオレがここで叩き潰す!」
驚愕する兵士たちにハヤトが飛びかかる。彼が兵士たちに向けて拳を振りかぶる。
「ハヤト、ダメ!」
アイリがとっさにハヤトを呼び止める。しかしハヤトは兵士の1人を力加減をすることなく殴り飛ばした。
殴られた兵士は首の骨を砕かれて事切れた。
「ハヤト・・人を、殺した・・・!?」
ハヤトが人殺しをしたことに、アイリは目を疑う。
「ガルヴォルス・・おのれ、我々の仲間を!」
兵士たちが激高して、さらに発砲する。しかしまたも弾丸をオーラでかき消される。
「いい加減にしろよ、お前ら!」
ハヤトがいきり立ち、兵士たちをさらに殴りつける。ハヤトの攻撃を受けて、兵士たちが次々と倒れていく。
「やめて!やめてって、ハヤト!」
アイリがハヤトに向かって言い放つ。しかしそれでもハヤトは攻撃の手を止めない。
「こ、殺される・・このままでは全滅してしまう・・!」
兵士たちがハヤトに恐怖を感じて、慌てて逃げ出していく。
「逃げるな!畜生が!」
ハヤトが逃げる兵士たちに追撃を仕掛けようとした。
「ハヤト!」
アイリがハヤトの前に飛び込んできた。怒りで我を忘れていたハヤトだが、アイリを目の当たりにして、我に返って動きを止めた。
「アイリ・・何のつもりだよ・・・!?」
「それはこっちのセリフ・・怪物じゃなくて、人間なんだよ・・それを・・・!」
声を振り絞るハヤトに、アイリも体を震わせて言いかける。
「違う・・アイツらも心はバケモノだ・・他のヤツのことを何とも思っちゃいねぇ・・!」
「それでも人間だよ!・・私だって、同じ人間なのにって腹が立っているけど・・・!」
「ああいうヤツらがいると、オレやお前だけじゃない・・他のヤツだって・・・!」
「ハヤトは、体は怪物になっていても、心は人間だったじゃない・・・!」
アイリに言われてハヤトは心を揺さぶられる。
「だけどアイツらは、体は人間でも、心はバケモノなんだぞ・・・!」
「それでも、人殺しをするのは・・・」
「人間って、何だって考えさせられる・・人間も、ガルヴォルスと大差ないっていうのかよ・・・!」
「ハヤト・・・」
人間のことを考えて、困惑していくハヤトとアイリ。2人とも人間とガルヴォルスの間で苦悩を深めていた。
「人間全員がそうでないと信じたいけど・・オレはアイツらを、人間とは認めない・・・!」
ハヤトはそう言って、1人歩き出そうとした。するとアイリが彼を後ろから抱きしめて止めてきた。
「ハヤト・・ハヤトは何を守ろうとしているの!?・・ハヤトの大切なものは、あなたが助けようとしている人だけなの・・・!?」
「アイリ・・・それは・・・」
アイリが投げかけてきた言葉に、ハヤトがさらに困惑する。
「ハヤトの心はまだ人間・・心まで、怪物にならないで・・自分を見失わないで・・・!」
「アイリ・・・オレは・・オレは・・・!」
アイリの言葉を耳にしたハヤトの目から涙があふれ出した。彼の姿がガルヴォルスから人に戻った。
「私は何も知らないけど・・あなたが心を失うことを望んでいるとは思えない・・・」
「ハルナ・・・ハルナは、オレのことを・・・」
アイリに言われたのをきっかけにして、ハヤトはハルナのことを考えていく。
(どうしたらいいんだ・・どうすればお前は納得してくれるんだろうか・・ハルナ・・・)
ハルナの思いを確かめようとするハヤト。しかし割り切ることができず、ハヤトは苦悩を深めるばかりになっていた。
「帰ろう、ハヤト・・私の部屋でも、ハヤトの家でもいいから・・・」
アイリが呼びかけてハヤトを連れていく。困惑していたハヤトは、アイリに反発することができなかった。
ハヤトの猛反撃を受けて、兵士たちは壊滅的な打撃を受けることになった。生き延びた兵士たちは監視班と合流した。
「やはりバケモノ・・人間を手にかけることに何の躊躇もない・・!」
「我々はまだヤツを侮っていた・・それもまた我々の落ち度だが・・・」
兵士たちがハヤトに敗れて仲間を失ったことに強く憤る。
「このまま引き下がるわけにはいかない・・必ずヤツに引導を・・!」
「そうするにしても増員が必要で、体勢を整えながらそれを待つしかありません・・これでは確実に戦力不足です・・」
「だが、これ以上の戦力増加となると、他国にも協力を求めることに・・・」
「このままガルヴォルスを野放しにすれば、被害はそれこそ世界規模になりかねない・・それだけは避けなくては・・・!」
兵士たちが思考を巡らせて、ハヤトに対する打開策を見出そうとする。
「救護班への連絡を取っておきました。合流して手当てを受けてください。」
監視員が兵士たちに通達をする。
「全員、引き上げる。ガルヴォルス討伐の作戦を再び練り上げる。」
「了解。」
兵士たちが監視班とともに撤退した。ハヤトを確実に仕留めるため、彼らは体勢を整えるのだった。
ハヤトは連れられて、アイリの部屋に来た。戦う理由とそれぞれに対する思いへの迷いを、彼はまだ抱え込んでいた。
「ハヤト、しっかり・・もう大丈夫だから・・・」
アイリがハヤトに向かって呼びかけたときだった。ハヤトがふらついてアイリにもたれかかる。
「ハヤト!?ハヤト、しっかりして!」
アイリが呼びかけて、ハヤトが顔を歪めて苦痛を浮かべる。
「ハヤト・・・!」
心身ともに追い込まれているハヤトを見て、アイリは動揺を募らせていく。彼女は彼を自分のベッドに連れていく。
「わっ!」
その途中に床につまずいて、アイリがハヤトと一緒にベッドに倒れ込んでしまう。その直後、アイリはハヤトの顔を見つめて、さらに戸惑う。
(ハヤト・・・私・・あなたを放っておけない・・・!)
アイリが感情を募らせて、ハヤトを抱きしめる。アイリは抱擁でハヤトの心身に安心を与えようとした。
(これは私のわがまま・・許せなくなってもいい・・ハヤトの気分が落ち着くなら・・・)
アイリがさらに感情を込めて、ハヤトをさらに抱きしめていく。彼女はハヤトの体の震えがだんだんと和らいでいくのを感じていた。
(あなたも怯えていたのかもしれないんだね・・不安とか寂しさとか、自分を見失ってしまうことにも・・・)
ハヤトの心が伝わってくるような気分を感じて、アイリが辛さを噛みしめていく。
(私が思っていた以上に、ハヤトはいろんなものを抱えていたんだね・・本当に、私にできることなんてあるのかなって思ってしまう・・)
アイリは自分の気持ちも確かめていく。彼女はだんだんと自分の本当の気持ちが分かってきたと思うようになってきた。
(それでも・・私に何かできることがあるなら・・・)
自分とハヤトを信じることにしたアイリ。彼女はハヤトと抱擁したまま、眠りについた。
漆黒に包まれた大きな部屋。その中で1人の女性があえぎ声を上げていた。
「どうなってるの?・・こんなことになっているのに・・・」
弱々しく声を上げる女性。彼女は押し寄せてくる恍惚に、体も心も蝕まれていた。
「抗うことはない・・この気分に全てを委ねて、永遠の至福を味わっていくといい・・・」
女性に向かって声が響く。気分をよくしていく女性は、高まる恍惚に囚われた。
「これでいい・・これで君も、苦痛から解放された・・・」
声はさらに響いてきて、安堵が込められた。
「美しき者は私のものとなる・・代わりに苦痛を取り除いて幸せを感じさせる・・それだけの敬意を払わないと・・・」
欲望と感情を告げていく声。その声の主によって、女性も他の女性たちも恍惚に囚われて掌握されていた。
「しかしまだ満たされない・・私の心はまだ・・・」
欲望を膨らませていく声の主。暗闇の部屋の中、女性たちが恍惚を感じながらたたずんでいた。