ガルヴォルス -New Generation-

第3章

 

 

 アイリとあかりが住んでいるマンションの近くに、ライガは来ていた。彼はハヤトの弱点を狙おうと調べていた。

(この近くにヤツの知り合いがいるか・・利用してやるとするか・・・)

 ライガがマンションを見上げて不敵な笑みを浮かべた。しかし彼の顔からすぐに笑みが消える。

(ヤツ自身もこのマンションにいる・・手を誤ればオレの手が通用しなくなってしまう・・・!)

 ハヤトもマンションにいることに気付いて、ライガが目つきを鋭くする。

(ヤツらの動きを見定めてやる・・お前に地獄以上の苦しみを味わわせるために・・・!)

 ハヤトたちの動向を細大漏らさず把握することを決めて、ライガは移動した。

 

 アイリ、あかりとの朝食を済ませると、ハヤトはすぐに外に出ようとした。

「そんなすぐに出ていくことないのに、ハヤトく〜ん・・」

 あかりが困った顔でハヤトを呼び止める。

「オレはホントだったら家で休んでたはずだった・・だからオレはもう帰らないと・・」

「ここまで乗りかかったんだから、もっと付き合ってもいいんじゃないの?」

 言いかけるハヤトにアイリも声をかける。

「だからって、いつまでもここにいても退屈するだけだろ・・何かあるのか?」

「今日は私もオフだから、どこかにお出かけも悪くないかなって思って。買い物とか遊園地とか。」

 疑問を投げかけるハヤトに、アイリが誘いを持ちかける。

「買い物?だからオレは金は計算して使うようにしてるんだよ・・」

「まるでケチだよ、そういう考え方・・」

 不満を口にするハヤトに、アイリが呆れて肩を落とす。

「そうしないと安心して暮らせねぇんだよ・・」

「きちんと計画立てて暮らしてるんだねぇ〜。しっかり者だね、ハヤトくんは♪」

 憮然とした態度を取るハヤトに、あかりが憧れの眼差しを送る。

「しっかりってわけじゃない・・そうしないとやっていけねぇだけだ・・・」

 ハヤトは言いかけて、部屋の奥に戻った。

「出かけるなら準備しろよ・・グズグズしてると待ってやらないぞ・・」

 座って待つことにしたハヤトに、アイリとあかりが笑みをこぼした。

 

 ハヤトはアイリとあかりに連れられて、街に買い物に出ていた。

「オレは特に買う必要はない代わりに、荷物持ちをしろっていうことか・・・」

「それに、ハヤトくんのお昼ごはんも、あたしがおごっちゃうから♪」

 呟きかけるハヤトにあかりが笑顔を見せる。

「あんまり買いすぎるなよ・・持ち帰れなくなったら元も子もないからな・・」

「分かってるって。私たちの懐も無限じゃないんだから・・」

 憮然とするハヤトにアイリが肩を落とす。

「ということで、これもお願いね。」

 アイリが言いかけて、新しく買ったものをハヤトに渡してきた。

「あのなぁ・・ちょっとは自分で持てって・・」

 ハヤトが買い物の箱を受け取りながらも不満を口にする。

「そろそろ仕上げにしたほうがいいみたいだね。」

「ハヤトの機嫌を悪くするのはよくないしね・・」

 あかりが声をかけて、アイリが頷く。2人が最後に買うものを探しに移動を始めた。

「ったく、オレを都合よく使ってないか・・?」

 ハヤトも愚痴をこぼしながら、2人についていった。アイリとあかりはこの日最後の買い物を済ませて、3人は小休止のため、近くのレストランに来た。

「やれやれ・・振り回されたせいで、余計に腹が減ってたとこだ・・」

 ハヤトが注文したカレーを口に運んでいく。

「エヘヘ。おそまつさまですってね。」

 彼の食べっぷりを見て、あかりが笑顔を見せる。

「でも、本当に助かったよ・・思い切り羽を伸ばしたかったから・・」

「それでうまくガス抜きができたんならよかったな、お前ら・・」

 アイリも微笑みかけて、ハヤトが食べ続けながら言いかける。

「ガルヴォルスが出てきたとき、太刀打ちできるのはハヤトだけ・・私には、何もできない・・・」

 自分の無力を痛感して、アイリが表情を曇らせる。

「私も、怪物になったほうがいいのかな・・・?」

「いや、それはやめとけ・・・!」

 力を求めることを考えるアイリに、ハヤトが呼び止める。

「バケモノになっちまったら、その力にのまれる危険がある・・そうでなくても、バケモノとの戦いに巻き込まれるのは確実・・」

「だけど・・・」

「下手に首を突っ込むもんじゃない・・前々から思い知ってるはずだぞ・・」

 ハヤトから強く言われて、アイリが口ごもる。無力だと思っていた彼女は、本当の意味でハヤトの力になれないことを思い知らされていた。

「あ、あの〜・・ちょっと、飲み物のおかわりしてくるね。」

 あかりがたまらず気を紛らわせようと、ドリンクバーに向かった。彼女はコップを持ったまま、ドリンクバーの近くの物陰でため息をつた。

(何だか、すっごく気まずいよ〜・・あたしも、どうしたらいいのかな〜・・・?)

 あかり自身も気持ちの整理がつかず、悩みを深めるばかりになっていた。

「ちょっと、君・・?」

 そのとき、あかりが声をかけられて、驚きながら振り向く。彼女の前に1人の青年がいた。

「あ、あの〜・・何でしょうか・・?」

「もしかして、怪物の事件について知らないかな・・?」

 我に返ったあかりに、青年が質問を投げかけてきた。

「怪物?そんな噂を最近耳にするけど、それってあくまで噂でしょ?夢か作り話じゃなきゃありえないって〜・・」

 あかりが疑問を見せて誤魔化した。彼女は誤魔化すことでハヤトたちを守ろうとしていた。

「そうか・・それは残念だ・・」

 青年は肩を落とすと、あかりの体に手を当てた。次の瞬間、あかりが全身に衝撃を痛感して、意識を失った。

(お前を利用させてもらうよ・・アイツに地獄を思い知らせるために・・・)

 支えたあかりを見つめて、青年が不敵な笑みを浮かべる。その青年は、ハヤトへの復讐を企むライガだった。

 

 あかりが戻ってこないことに、ハヤトもアイリも疑問を感じていた。

「飲み物のおかわりに行ったんだよな?ちょっと遅すぎないか?」

「うん・・あかり、何かあったんじゃ・・・!?

 ハヤトが聞いてきて、アイリが席を立つ。

「オレが見に行ってくる・・アイリはここを払っていってくれ・・」

 ハヤトはアイリを呼び止めると、あかりを探しに飛び出した。彼はガルヴォルスの事件に巻き込まれたのではないかと予感していた。

 ドリンクバーの近くに来たハヤトだが、あかりの姿が見当たらない。

(どこだ・・どこに行ったんだ・・・!?

 ハヤトが周りを見回すが、あかりの姿はどこにも見当たらない。

(どこだ・・バケモノは近くに、必ずいる・・・!)

 ハヤトは直感も働かせて、あかりの居場所を探る。レストランの外に出た彼の前にいたのはライガだった。

「お前・・・!」

「話は場所を変えてからにしようか・・」

 目つき鋭くするハヤトに、ライガが不敵な笑みを見せて言いかける。しかしハヤトは怒りをあらわにして飛びかかってきた。

「そんなマネをしてもお前が不利になるだけ・・」

 ライガが忠告しようとするが、ハヤトは聞かずに殴り掛かってきた。

「聞き分けが悪いことだ・・相変わらず、オレの感情を逆撫でしてくれる・・・」

 ライガがいら立ちを噛みしめながら、人込みから遠ざかってハヤトをおびき寄せる。

「逃げるな!」

 ハヤトが怒号を放って、ライガを追いかける。2人は人気のない裏路地で足を止めた。

「これで思う存分やれるってことか?」

「お前らの思い通りには、オレがさせない!」

 笑みをこぼすライガに、ハヤトが鋭い視線を向ける。

「たいそうな正義感だな。だがこれでも攻撃できるか?」

 ライガが言いかけて、横の建物に目を向ける。その4階の部屋には、意識を失っているあかりが、ネコの怪物、キャットガルヴォルスに捕らえられていた。

「そこから少しでも動けば、あの小娘がどうなるか分からないぞ?」

「そうやってオレがおとなしくすると思ってるのか?オレにそんな卑怯な脅しは聞かないぞ・・!」

 脅しをかけるライガだが、ハヤトは聞き入れようとしない。

「アイツに何かしてみろ・・そのときはただじゃ死なせない・・徹底的に怒りをぶつけて、自分のしたことを悔い改めさせる!」

 ハヤトがいきり立ち、ライガに向かって飛びかかる。ハヤトの殺気を痛感して、キャットガルヴォルスが畏怖してあかりに手を出せなくなる。

「何をしている!?早くその小娘を仕留めろ!」

 ライガが呼びかけるが、キャットガルヴォルスは震えるばかりである。

「お前から仕留められたいか!?

 ライガに脅されて、キャットガルヴォルスが涙ながらにあかりに手を出そうとする。ハヤトが剣を具現化して、投げつけてキャットガルヴォルスにぶつける。

 窓を破って飛び込んできた剣に体を貫かれて、キャットガルヴォルスが昏倒して動かなくなった。

「くっ!役立たずが!」

 いら立ちを浮かべると、ライガが両側の壁に拳を叩きつける。壁が崩れたことで周辺に土煙が待った。

「どこまでも卑怯なマネを!」

 ハヤトも憤りを募らせて、ライガを追う。ハヤトがあかりのいる部屋の前までジャンプした。

 だがその先で、ライオンガルヴォルスとなったライガが待ち構えていた。

「思った通りこっちに来てくれたな!」

 あざ笑うライガが爪を突き出してきた。ハヤトが反射的に動くが、左肩に爪を突き立てられる。

「中途半端に心が残っているのは、実に滑稽なことだな!」

 ライガがさらに爪を振りかざして、ハヤトを地面に叩き落とす。ハヤトが血をあふれさせながら、苦痛を覚えて顔を歪める。

「お前には地獄以上の苦しみを思い知らせる!その後で徹底的に痛めつけてから息の根を止めてやる!」

「ふざけるな・・お前らの思い通りに、絶対にさせるかよ・・・!」

 不敵な笑みを浮かべるライガに、ハヤトが言い返して立ち上がる。出血も構わずに、ハヤトは力を振り絞りライガに向かっていく。

「お前らガルヴォルスは、1人残らずオレが叩きつぶす!」

「どこまでもいい気になって!」

 怒号を放つハヤトに激高して、ライガが部屋に飛び込んだ。彼はハヤトが来る前にあかりを手にかけようとした。

「あかり!」

 そのとき、アイリが部屋に飛び込み、あかりを抱えてライガから逃げ出した。ハヤトを追って、戦闘の爆発で居場所を突き止めたアイリは、建物の中に入ってきたのである。

「お前か・・2人まとめて八つ裂きにする!」

 ライガが笑みを浮かべて、アイリにも狙いを向ける。次の瞬間、ハヤトも部屋に飛び込んできた。

「逃げるなと言っている!」

 ハヤトが突き出してきた拳をかわして、ライガがアイリとあかりに迫る。

「逃げるなというのが分かんないのか!」

 怒号を放つハヤトの体に変化が起こった。彼の腕と背中から棘が生えてきて、体から禍々しい紅いオーラがあふれ出してきた。

「この力・・どういうことだ・・!?

 その瞬間、ライガは変貌したハヤトの力を痛感して、緊迫を覚える。自分の力に絶対の自信を持っていた彼が、今まで感じたことのない畏怖を感じていた。

 ハヤトが伸ばした手がライガの左腕をつかんだ。

「ぐあっ!」

 ライガが左腕を折られて絶叫を上げる。さらにハヤトが拳を繰り出して、ライガを殴り飛ばす。

「ハヤト・・・今はあかりを・・・!」

 ハヤトに驚愕しながらも、アイリはあかりを連れて部屋を飛び出した。

「ぐあぁ・・オレをはるかに超える力だと!?・・あり得ない・・認めるものか!」

 腕の激痛に襲われて顔を歪めるライガが、ハヤトへの怒りを爆発させる。

「どいつもこいつも、オレの思い通りになればいいのだ!それをお前は!」

 いきり立ったライガが右の拳を繰り出す。拳はハヤトに直撃したが、彼はダメージを受けていない。

「バケモノはオレが潰す・・・!」

 ハヤトが目を見開いて、ライガの顔をわしづかみにしてきた。

「何度も言わせるな、ガルヴォルス!」

 ハヤトはそのままライガを壁に押し付けて、さらに力を込める。ライガが死に物狂いに手足を突き出して、ハヤトを引き離す。

「このままでは済まさない・・決して済ますものか!」

 ライガが声と力を振り絞り、アイリとあかりを追って部屋を飛び出した。

「どこまでも卑怯なマネを!」

 ハヤトが力任せに駆け出して、部屋を飛び出す。彼が出たところで天井が崩れて部屋が埋もれた。

 

 あかりを助け出して必死に逃げていくアイリ。彼女は人込みのあるほうに向かって急ぐ。

(人がいるところに行けば、アイツも迂闊には手を出せなくなる・・今はあかりを安全なところへ・・・!)

 あかりを助けようと躍起になるアイリ。彼女は自分たちが助かる最善手を探して、思考を巡らせていた。

 そのとき、アイリたちのそばで爆発が起こった。ライガが人目をはばからずに彼女たちに襲い掛かってきた。

「お前たちだけでも必ずこの手で始末する!」

「そんな!?

 右手を構えるライガに、アイリが驚愕する。ライガは自分のことが知れ渡ることを気にしなくなっていた。

「か、怪物!?

「にに、逃げろ」

 周囲にいた人々が、ライオンガルヴォルスとなっているライガを目の当たりにして、恐怖を感じて逃げ出していく。

「どいつもこいつも、オレの思い通りになればいいんだよ!」

「そんなマネ、させないと何度も言っている!」

 目を見開いて言い放つライガの体を、1本の剣が貫いた。ハヤトが追いついて、剣でライガを突き刺したのである。

「お前・・どこまでもオレの邪魔を・・・!」

「お前らのようなヤツがいるから、幸せに暮らしている人たちが苦しむことになるんだよ・・・!」

 吐血するライガに、ハヤトが鋭く言いかける。ハヤトが剣をさらに食い込ませて、ライガを押し込む。

「オレを・・オレをなめるな、クソガキが!」

 ライガが全身に力を込めて、剣を引き抜いた。

「オレを思い通りにできるのは、オレだけだ!」

「そんな思い上がりの戯言は聞き飽きてるんだよ・・・!」

 怒号を放つライガにハヤトも怒号をぶつける。ハヤトが振り下ろした剣が、ライガの体を切り裂いた。

「オレは・・オレは・・・!」

 鮮血をまき散らしながら、抗おうとするライガが倒れて動かなくなった。ライガはハヤトによって息の根を止められた。

 力を振り絞っていたハヤトは、体力を大きく消耗して呼吸を乱していた。落ち着きを取り戻そうとする彼の体から出ていたオーラが、徐々に弱まっていく。

「また・・ガルヴォルスを仕留めたか・・・!」

 ライガを倒したことを喜ぼうとするハヤトが、人の姿に戻る。

「ハヤト・・・!」

 アイリが深刻な面持ちを浮かべて、ハヤトに歩み寄る。

「ハヤト・・大丈夫?・・何ともないの・・・?」

「あぁ・・ムキになった感じか・・少し力を出し過ぎたみたいだ・・・!」

 心配するアイリにハヤトが声を振り絞って答える。

「アイツみたいに、オレの周りの人を狙ってくるヤツがまた出てくるかもしれない・・そうなったら、また巻き込まれることになるぞ、お前ら・・・」

「ハヤト・・でも私たち、ハヤトをほっとけなくなってきた・・・」

 今回の戦いを振り返って、ハヤトがアイリに忠告を投げかける。しかしアイリはハヤトが気が気でなくなっていた。

「今みたいに、ハヤトがまたムチャするんじゃないかって・・・」

「今、出た力がどんなもんなのかは分かんないけど・・ガルヴォルスを全滅させるためには、この力が必要になってくる・・ムチャもしなきゃ、とても話にならない・・・!」

「それでもし、ハヤトの体に何かあったら・・・」

「何もできないままでいるよりは、ヤツらをブッ倒すためにどうかなっても構わない・・もちろん、オレは生きて帰るけどな・・・!」

 命を賭して戦うことをいとわないハヤトに、アイリは困惑を感じていた。

「あ・・あれ・・・?」

 あかりが意識を取り戻して、起き上がって辺りを見回してきた。

「あかり、気が付いたのね・・」

「アイリ・・ハヤトくん・・あたし、何してたんだっけ・・・?」

 アイリが声をかけて、あかりが疑問符を浮かべる。あかりは気絶させられたときのことを覚えていなかった。

「ハヤトくん・・もしかして、また怪物が出てきてた・・・!?

「あぁ・・けど、オレが仕留めた・・もうアイツに狙われることはない・・・」

 苦笑いを浮かべるあかりに、ハヤトが憮然とした態度で答える。しかしアイリもあかりも、心の底から安心することができなかった。

 

 ハヤトとライガの交戦は、一部の人々にガルヴォルスの存在を目撃させることになった。

「まさか人目に触れることになるとは・・」

「1人2人なら見間違いで済ませられるが、そのときその場には十数人の目撃者がいた・・」

 上層部の役員たちが議論を交わしていく。

「大人数を相手に封殺することは不可能。抹殺しようものなら国際問題になりかねない・・」

「目撃したと思われる者たちを洗い出し、措置を行う。映像の改ざんと規制も徹底する。」

「ここまで事が荒れるとは・・それでもガルヴォルスのことを国民に知られるわけにはいかない。」

「国や世界を混乱に陥れるわけにはいかんからな。」

「全ては国のため、世界のため、未来のために。」

 自分たちが理想としている平和や未来のための措置を、上層部は徹底しようとしていた。

 

 ライガの襲撃の騒動に巻き込まれることになったハヤトたち。しかしアイリとあかりが買ったものは無事だった。

「ふぅ〜・・今日も災難だったよ〜・・これで買ったものもおじゃんだったら最悪なところだよ〜・・」

 あかりが買ったものを確かめて安心を見せる。

「もう・・あかりは本当にのん気なんだから・・」

 彼女の様子を見てアイリが呆れる。アイリはハヤトを見て深刻さを感じていく。

「私が持つよ。自分で買ったものだからね・・」

「いや、オレもちょっとだけ持つ・・オレだけ手ぶらなのも気分が悪いからな・・」

 荷物を持つアイリにハヤトも言いかける。2人とあかりがきちんと荷物を持つ。

 アイリとあかりの住むマンションにハヤトは送った。

「今日は本当にありがとう・・荷物持ちだけじゃなく、私たちを助けてくれて・・」

「ホントだよ・・ハヤトくんに、ホントに感謝だよ・・」

 アイリとあかりがハヤトに感謝する。

「オレはバケモノを仕留めただけだ・・買い物も付き合わされただけだし・・」

 ハヤトは憮然とした態度を見せて、アイリたちに背を向ける。

「オレはガルヴォルスをブッ倒す・・それだけだ・・・」

 ハヤトはそういうと、アイリとあかりの前から立ち去った。

(ハヤト・・怪物を倒すために、そこまで入れ込んで・・・)

 アイリがハヤトのことがすっかり気が気でなくなっていた。

(ハヤトは怪物になったらいけないって言っていたけど・・私も、それだけの力があれば・・・)

 ハヤトを思うあまり、アイリは徐々に力への渇望を持つようになっていった。

「アイリちゃん・・もう部屋に入ろう。今日はありがとうね、アイリちゃんも。」

 あかりがアイリに感謝して笑顔を見せた。アイリが我に返り、あかりに戸惑いを見せる。

「お礼を言うのは私のほうだよ。付き合ってくれてありがとうね、あかり・・」

「そんな改まってお礼言われると照れちゃうよ〜♪」

 お礼を返すアイリに、あかりが頬を赤くする。

「あかり・・こんなときでも相変わらずなんだから・・・」

 あかりの様子を見て、アイリは苦笑をこぼした。

(元気づけてくれて、本当にありがとう、あかり・・)

 アイリは心の中であかりに改めて感謝した。しかし彼女はハヤトのことを思って、深刻さを拭うことができないでいた。

 

 自分の家に戻ってきたハヤト。ガルヴォルスへの憎悪が心の中でくすぶっていた彼だが、アイリとあかりのことが気がかりになっていた。

(アイツら、オレのことをここまで心配するとは・・オレ、親切なんてのはガラじゃなくなってたのに・・・)

 自分の心境の変化にハヤトは皮肉を覚える。

(いや・・オレもハルナにはいつも優しくしてたじゃないか・・バケモノがアイツをおかしくしちまったから、オレは・・・)

 ハルナのことを思い出して、ハヤトが一瞬笑みをこぼす。が、すぐに彼の表情が曇る。

(だからオレは、ガルヴォルスをぶっ潰して、ハルナ、お前を取り戻す・・・!)

 ハルナを救う決意をさらに強固にして、ハヤトは次のガルヴォルスとの戦いを見据えた。

(けど・・アイリとあかりには感謝しないとな・・・)

 再びアイリたちのことを思い返して、ハヤトは笑みをこぼした。

 

 次のスイートでの仕事の日。ハヤト、アイリ、あかりはいつもと変わらない調子で仕事をこなしていた。

 しかしハヤトもアイリもあかりも、互いのことを気にするようになっていた。

(ちょっと気にはなってるか・・それでも普通にやるだけだけどな・・)

 アイリたちのことを考えながらも、ハヤトは皿洗いを続ける。

(ハヤトは相変わらず・・あまり他のことに流されないって感じ・・)

 アイリもハヤトのことを気にして目を向けている。

(それだけ決心が固いってことかな・・・)

「アイリちゃん、これ、3番テーブルに。」

 そこへウェイターに声をかけられて、アイリが我に返って振り返る。。

「あ、はい。分かりました。行ってきます。」

 アイリは料理をテーブル席に運んでいく。いつものように仕事を続けている彼女だが、まりんはいつもと違うのを感じていた。

(アイリさんもあかりさんもハヤトくんも、何かあったのかな?あまり軽々しく聞いてしまうのもよくないし・・)

 ハヤトたちの気持ちを考えて、まりんは話を聞こうとしなかった。

(ここは私がしっかりしないとね。)

 まりんが笑みを浮かべて頷いて、仕事に集中した。

 

 ガルヴォルスを目撃した人は増加していた。しかし目撃者の意見や報道は処置、規制され、ガルヴォルスの情報は封殺された。

 しかし問題の根源であるガルヴォルス。目撃されたガルヴォルスの行方は把握できていない。

 上層部の今の最大の問題となっていた。

「迂闊にガルヴォルスに手を出せないのが、厄介なところだ・・」

「正体をしっかりと把握しておかなければ、罪のない人を手にかけることになる・・」

 議員たちが思考を巡らせて、苦悩を深めていく。

「何としてでもヤツの正体を暴かなければ・・」

「他のガルヴォルスの行方も追う。1人を捕捉すれば、芋づる式に他の大半を見つけ出すこともできるだろう。」

「展開している監視班に監視の強化を・・」

「バケモノどもに人権はない。なぜならバケモノだからだ。」

 ガルヴォルス討伐と自分たちの権力の強固を決意して、議員たちが笑みをこぼしていた。

 

 夜の裏通りを必死に駆け抜けていく1人の女性。彼女は自分を狙ってくる者から逃げていた。

 女性が足の速さを弱めて、後ろの空に目を向ける。夜空は晴天で、影も形もそこにはなかった。

「逃げ切れたのかな・・・!?

 女性が一瞬安堵を感じたときだった。

「誰から逃げ切れたって?」

 その直後、投げかけられた声を耳にして、女性が再び緊迫を覚える。彼女の背後に不気味な影が飛び込んできた。

「キャアッ!」

 後ろから首に噛み付かれて、女性が悲鳴を上げる。彼女は血を吸われて、だんだんと力が抜けていった。

「やめて・・たす・・け・・・て・・・」

 女性が力尽きて動かなくなった。彼女から血を吸い取ったコウモリの怪物、バットガルヴォルスが笑みをこぼす。

「今夜もいい血にありつけたな・・まだまだ獲物はうじゃうじゃいる・・・」

 バットガルヴォルスが口元についている血を舌で舐めて味わう。

「この調子なら、まだまだ味わうことができるかもしれない・・もっと探してみるか・・」

 バットガルヴォルスが次の獲物を求めて飛び立とうとした。

「ここにもいたか、ガルヴォルス・・・!」

 そこへ声がかかり、バットガルヴォルスが振り返る。ドラゴンガルヴォルスとなったハヤトがやってきた。

「ガルヴォルスは1人残らずブッ倒す・・!」

「ずいぶんとおかしなことを言うガルヴォルスが出てきたな。だがそう言われて、おめおめとやられてやると思うなよ!」

 鋭い視線を向けるハヤトを、バットガルヴォルスがあざ笑ってくる。

「あんまりウロウロされると邪魔だからな・・悪いが仕留めさせてもらう!」

 バットガルヴォルスが飛びかかり、ハヤトに爪を振りかざす。ハヤトは爪を素早くかわして、バットガルヴォルスに拳を叩き込む。

「ぐおっ!」

 重い一撃を体に受けて、バットガルヴォルスが激痛に襲われて悶絶する。

「オ、オレのスピードを上回るとは・・なんというヤツだ・・・!」

「ガルヴォルスは逃がさない・・オレが必ず叩きつぶす!」

 うめくバットガルヴォルスに向けて、ハヤトが再び拳を繰り出す。バットガルヴォルスが即座に飛び上がり、拳をかわす。

「何度も食らったら死んでしまう・・それは避けなければ・・・!」

 バットガルヴォルスが空中に逃げて、呼吸を整えて体力の回復を図る。

「どこへ逃げても、ガルヴォルスはオレが倒す・・アイツを取り戻すために!」

 ハヤトが怒りを膨らませて、体を刺々しいものへと変化させた。

「こ、これは・・!?

 ハヤトの放つ力と殺気に、バットガルヴォルスが緊迫を覚える。彼はハヤトに威圧されて、攻撃を仕掛けることができなくなっていた。

「お前も逃がさない・・どれだけ高くいても、遠くいても、オレが叩き落とす!」

 ハヤトが言い放つと、両足に力を入れて飛び上がる。彼はバットガルヴォルスの眼前まで飛び込み、両手を振り下ろして叩きつける。

「ぐふっ!」

 頭が衝撃に襲われて、バットガルヴォルスが地面に叩きつけられる。殴られた衝撃で彼は首の骨が折れていた。

 ハヤトは剣を具現化すると、落下の勢いでバットガルヴォルスに剣を突き立てた。体を剣で貫かれて、バットガルヴォルスが息の根を完全に止められた。

 ハヤトが体から力を抜いて、元のドラゴンガルヴォルスの姿に戻る。

(人を弄ぶガルヴォルスを、オレは倒す・・そうすればハルナも・・アイリたちも・・・!)

 自身の決意をさらに強めて、ハヤトはこの場から立ち去った。

 

 ガルヴォルスと交戦するハヤト。ガルヴォルスを狙った彼は、監視班に目撃されていた。

「先日目撃されたガルヴォルスです。これより追跡に出ます。」

「警戒を怠るな。ヤツらの身体能力は常人を大きく上回るからな。」

 監視員たちが言葉を交わして、ハヤトの追跡を行った。

 

 

 

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