ガルヴォルス
-New Generation-
第2章
ガルヴォルスの全滅を行おうとするハヤト。彼を天敵と認識して、ガルヴォルスたちが結託して倒そうとしていた。
「いいか・・勝負は一瞬だ・・・!」
「やられればやられるほど勝機がなくなる・・・!」
「全員が確実に仕留めなければ・・・!」
ガルヴォルスたちがハヤトに気付かれないように、散開して彼を追跡する。そして人気のない道の物陰に、ガルヴォルスたちは身をひそめた。
(あのポイントに来たのがタイミングだ。その瞬間に一斉に攻撃を仕掛ける・・)
ガルヴォルスの1人が飛び出すタイミングを見計らう。ハヤトは変わらぬペースで歩を進めていく。
(今だ!)
そのタイミングと判断して、ガルヴォルスたちが一斉に飛び出した。しかしハヤトはすぐに気付き、体を変化させてきた。
「大勢で攻めてきたか・・・!」
目つきを鋭くしたハヤトがドラゴンガルヴォルスになる。彼は前に迷うことなく走り出して、拳を繰り出した。
「おわっ!」
拳の衝撃波を受けたガルヴォルスたちが吹き飛ばされて転ぶ。その隙間を狙って突き進み、ハヤトがガルヴォルスたちの奇襲をかわした。
「しまった!仕留め損なった!」
唯一の勝機を生かせなかったことに、ガルヴォルスたちが毒づく。
「ガルヴォルスはオレが倒す・・1人も逃がさない・・・!」
ハヤトが憎悪をむき出しにして、ガルヴォルスたちを迎え撃つ。彼が拳を繰り出して、ガルヴォルスたちを突き飛ばしていく。
「な、なんという強さ・・・!」
「こうなれば、また同時に飛びかかれば・・怯まずに突き進めば、いくらヤツでも!」
ガルヴォルスたちが緊迫を募らせながらも、いきり立ってハヤトに飛びかかる。
「コイツら、寄ってたかって・・!」
ハヤトが目を見開いて、拳を地面に叩きつける。拳の衝撃と粉塵がガルヴォルスたちを吹き飛ばす。
ハヤトは剣を具現化して振りかざして、ガルヴォルスたちを切りつける。戦力の低下とハヤトの殺気に、ガルヴォルスたちは危機感を募らせていく。
「ダメだ・・コイツには、何をやっても通じない・・・!」
「もう逃げるしかねぇ・・アイツに見つからないようにしないと・・!」
ガルヴォルスたちが完全に恐怖して、たまらず逃げ出していく。
「逃げるな!」
ハヤトが怒号を放ち、ガルヴォルスたちに追い打ちを仕掛けて剣で切りつけていく。数人は逃げ切れたものの、ガルヴォルスの大半はハヤトによって息の根を止められた。
「だいぶ片づけたが・・それでもまだまだガルヴォルスはいる・・・!」
ガルヴォルスへの憎悪を心に宿したまま、ハヤトは呼吸を整えてから人の姿に戻る。
(叩きつぶしていけば、いつかハルナに行き着く・・それまでオレは戦い続ける・・ヤツらと・・・!)
ガルヴォルスとの戦いを続ける決意を固めて、ハヤトは再び歩き出した。
ガルヴォルスの死は肉体の崩壊による消滅。そのため亡骸も残らず、ガルヴォルスの存在を示す証拠も、警察は見つけられないままだった。
「今度は奇妙な灰か・・何の残骸だっていうんだ・・?」
「これは例の怪奇事件とは関係なさそうだな・・」
警官たちが現場検証をするも、深く捜査しようとしない。
「それじゃ、その辺の見回りにでも向かいますか。」
「了解。」
警官たちは事件の警戒の意味を込めて、街の見回りに向かった。
「それにしても、犯人はどんなヤツなんだろうか・・」
「意外と痩せ細った、逆の意味で不気味なヤツかもな・・」
会話をして笑い声を上げる警官たち。彼らも異形の怪物の存在と猛威を知る由もなかった。
昨晩に起こった複数の轟音。それがガルヴォルスの戦闘であると、アイリは思っていた。
ハヤトも関わっていたのではないかとも思いながらも、アイリは聞けないでいた。
「やっぱりハヤトくんのことを気にしてるの?」
困惑を抱えていたところで声をかけられて、アイリが驚きを覚える。振り向いた先にはあかりがいた。
「あ、あかり・・おどかさないでよ・・・!」
「ゴ、ゴメン・・でもいろいろありすぎて、どうしても気にしちゃうよね・・」
胸をなでおろすアイリに謝って、あかりがハヤトのことを気にする。
「きっと、昨日の轟音も、ハヤトが関わってると思う・・でも、私たちには何もできない・・」
「あたしも、ハヤトくんをほっとけないけど、どうしたらいいのか分かんない・・・」
ハヤトのことを気に掛けながらも何もしてあげられないと思い、アイリもあかりも胸を痛めていた。
「でも、アイリがハヤトくんのことを気にするなんてねぇ。気に入らないみたいなこと言ってたのに〜・・」
あかりがにやけてきて、アイリをからかってきた。
「本当に気に入らないよ。私たちを巻き込んだも同然なのに、相変わらずの邪険で・・」
アイリが不満を見せて、あかりのそばから離れていく。
「そこまで気にしてるなんて・・アイリったら・・・」
アイリの心境を察して、あかりは笑みをこぼした。2人は気持ちを切り替えて、仕事に集中した。
ガルヴォルスが徒党を組むもハヤトに返り討ちにされたことは、戦いに参加していない他のガルヴォルスたちに伝わっていた。
「少しは知恵を絞ったようだが、雑魚が何をしようと強い者に勝つことはできないのさ。」
1人の青年が不敵な笑みを浮かべて呟く。
「力はあるが力任せだ。それだけでオレと張り合おうとは笑止千万。」
青年は自信を募らせると、ハヤトの動向に探りを入れる。
「オレならヤツの思い上がりを止められる・・思い知らせてやるさ。」
青年はハヤトを手にかけようと、悠然と歩いていった。
街外れの倉庫地帯。その路地に逃げてきた女性の前に、1人の怪物が立ちはだかった。
「鬼ごっこは終わりだ・・そういうのは好きじゃないからな・・・」
「来ないで・・来ないでよ・・・イヤッ!」
怪物、ホワイトベアーガルヴォルスが不気味な笑みを浮かべて、女性が悲鳴を上げる。
「そう邪険にしないでもらえるかな・・!」
ホワイトベアーガルヴォルスが口から冷たい突風を放つ。
「キャアッ!」
悲鳴を上げる女性の体が凍り付いていく。彼女は瞬く間に氷付けにされて、動かなくなった。
「ヒャハハハハ!またいい感じに凍ってくれたよ!」
ホワイトベアーガルヴォルスが高らかに笑い声を上げる。彼は女性を凍らせるのを楽しみにしていた。
「この調子でもっと・・もっともっと他の女を!」
「人間を食い物にするガルヴォルス・・・!」
そこへ声がかかり、ホワイトベアーガルヴォルスが振り返る。彼の前にドラゴンガルヴォルスとなったハヤトが現れた。
「オレはお前らを絶対に野放しにはしないぞ!」
「は?同じガルヴォルスなのに、何をそんなおかしなことを・・?」
怒号を放つハヤトに、ホワイトベアーガルヴォルスが疑問符を浮かべる。
「せっかくのすごい力なんだ。楽しまないと損ってもんだ!」
いきり立ったホワイトベアーガルヴォルスが口から吹雪を放つ。ハヤトは素早く動いて吹雪をかわす。
「お前も自分のために人を傷付けて苦しめて・・だからオレは、お前らを許せないんだよ!」
「ガルヴォルスのくせにガルヴォルスを憎むのか!?どうかしてるぜ、お前!」
怒りをぶつけるハヤトをあざ笑うホワイトベアーガルヴォルス。
「今のオレもどうかしてる・・けど、お前らのほうが圧倒的にどうかしてるんだよ!」
ハヤトが目を見開いて、ホワイトベアーガルヴォルスに飛びかかる。
「コイツ、完璧にとち狂ってるぜ!」
ホワイトベアーガルヴォルスが毒づき、再び吹雪を放つ。吹雪に巻き込まれたハヤトの体に氷が張りつく。
「いいぞ!このまま氷付けにしてやるぞ!」
「オレはお前らの思い通りにはならない・・・!」
笑い声を上げるホワイトベアーガルヴォルスに、ハヤトが鋭く言いかける。
「ガルヴォルスは1人残らずブッ倒す!」
ハヤトが全身に力を込めて、体に張り付いた氷を吹き飛ばした。
「何っ!?オレの氷を!?」
驚愕するホワイトベアーガルヴォルスに、ハヤトが拳を繰り出す。
「ぐおっ!」
重みのある一撃を受けて、ホワイトベアーガルヴォルスが吐血しながら吹き飛ばされる。壁に叩きつけられた彼に、ハヤトが迫る。
「お、お前が・・裏切り者のガルヴォルスか・・・!」
「裏切り者?・・オレはお前らの仲間になったつもりはわずかもねぇ・・反吐が出ることをぬかすな!」
声を振り絞るホワイトベアーガルヴォルスに、ハヤトがさらに憤りを募らせる。彼が繰り出した拳を、ホワイトベアーガルヴォルスがとっさにかわす。
ハヤトの一撃が壁を突き破り、建物の中をも揺るがす。
「オレだけじゃない・・コイツを野放しにすれば、他のガルヴォルスまで危険になる・・・!」
ガルヴォルスの存亡をも危険視するホワイトベアーガルヴォルス。
「お前だけは、ここで息の根を止めなければ!」
全身に力を込めて、ホワイトベアーガルヴォルスが猛吹雪を放つ。ハヤトの周りに強固な氷が張り巡らされていく。
「いくらお前でもこれは壊せはしない!このまま寒さでくたばるがいい!」
氷の壁に閉じ込められたハヤトに、ホワイトベアーガルヴォルスが高らかにあざ笑う。
「念には念を入れて、もっと氷を張って・・!」
ホワイトベアーガルヴォルスがさらに吹雪を放とうとしたときだった。氷の壁が一瞬にして粉々に吹き飛んだ。
「バカな!?この氷を破れるヤツ、見たことないぞ!」
驚愕するホワイトベアーガルヴォルスの前に、氷から飛び出してきたハヤトが降りてきた。
「何度も言わせるな・・オレはお前らの思い通りにはならないと!」
ハヤトが怒号を放ち、剣を具現化して振りかざす。
「ぐはっ!」
ホワイトベアーガルヴォルスが体を切りつけられて絶叫する。
「や、やめてくれ!助けてくれ!オレは死にたくない!」
必死に助けを請うホワイトベアーガルヴォルス。しかしハヤトは彼に鋭い視線を向ける。
「そうやって助けを求めたヤツに、お前はどうしたんだよ・・・!?」
ハヤトが口にしたこの言葉に、ホワイトベアーガルヴォルスが言葉を詰まらせた。次の瞬間、彼の体をハヤトの剣が貫いた。
「オ・・オレ・・オレは・・・!」
声を振り絞るホワイトベアーガルヴォルスから、ハヤトが剣を引き抜く。鮮血をまき散らして、ホワイトベアーガルヴォルスは倒れて動かなくなった。
「何も悪くないヤツを食い物にするバケモノどもが・・・!」
ガルヴォルスへの憎悪を噛みしめて、ハヤトが両手を強く握りしめていた。
「やっと会うことができたよ、噂のガルヴォルス・・」
そこへ声がかかり、ハヤトが振り返る。1人の青年が彼の前に現れた。
「これから死んでいく者に自己紹介をしても意味はないが、一応しておこう。オレは吉野ライガ。お前が憎んでいるガルヴォルスの1人だ。」
「ガルヴォルス・・わざわざ出てくるとはな・・・!」
自己紹介をしてきた青年、ライガにハヤトが鋭い視線を向ける。
「ガルヴォルスは許さない・・1人残らず倒す・・・!」
「その怒りでガルヴォルスを潰して回っているわけか。だがそれも今日限りだ。なぜなら、オレがお前を潰すことになるからだ。」
敵意を向けるハヤトに言い返すライガの頬に紋様が走る。彼の姿がライオンの姿をした怪物に変わる。
「お前もいい気になりやがって・・!」
ハヤトが全身に力を込めて、ライガに飛びかかる。ハヤトが繰り出した拳を、ライガは軽々とかわす。
ハヤトがいら立ちを覚えて、さらに拳を繰り出す。しかしライガにことごとくかわされていく。
「どうした?裏切り者のガルヴォルスとして有名になったヤツの力は、その程度なのか?」
不敵な笑みを見せるライガに、ハヤトが憤りを募らせる。
「お前も、オレが必ずブッ倒す!」
ハヤトがライガに手を伸ばしてつかみかかろうとする。しかし逆にライガに手をつかまれる。
「オレに軽々しく触れようなど・・・」
ライガが目つきを鋭くすると、ハヤトに拳を叩き込んできた。
「ぐっ!」
重い一撃を体に受けて、ハヤトがうめく。彼はライガからさらに拳を叩き込まれて、続けて足を伸ばしての蹴りを受けて突き飛ばされる。
「口ほどの力はないようだ。生半可に力を持ったために過信するヤツはどこにでもいる。お前もその1人ということだ。」
倒れたハヤトを見下ろして、ライガが不敵な笑みを見せる。
「黙れ・・ガルヴォルスのくせに・・・!」
「そういうお前もガルヴォルスではないか。状況からして裏切り者のガルヴォルスだけどね。少なくとも、オレとお前には雲泥の力の差というものがあるのは確実。」
「どこまでもふざけるな!何が何でも、ガルヴォルスはオレが滅ぼす!」
嘲笑してくるライガにハヤトが憎悪をむき出しにする。ハヤトは剣を具現化して、ライガに飛びかかり振りかざす。
だがライガは軽々と剣をかわしてみせる。
「懲りないね、お前も・・しつこいのは嫌われるよ・・」
ライガはため息をつくと、ハヤトが振り下ろした剣を手でつかんで受け止めた。
「何っ!?」
「お前がオレに勝つ可能性は、万に1つ・・いや、億に1つもない・・」
驚愕するハヤトにライガが低く告げる。彼が力を込めて、ハヤトから剣を引き離す。
「そろそろ終わりにしよう。お前の息の根を止めて・・」
ライガがハヤトの体に爪を突き立てた。爪が食い込んで、ハヤトが激痛に襲われて吐血する。
「がはっ!・・オレが、このまま倒れるわけにいかない・・・!」
「これで死なないとは・・噂以上の力があるようだ・・」
声と力を振り絞るハヤトを見て、ライガが笑みをこぼす。
「それでも、オレに敵わないことに変わりはない。寿命がわずかに伸びるだけだ・・」
ライガがため息をつくと、再びハヤトの体に爪を突き立てた。
「ぐふっ!」
ハヤトが口と背中から血をあふれさせる。ライガが爪を引き抜いてから、力を込めてハヤトを蹴り飛ばす。
「これで息の根は止まっただろうけど、念には念を入れて、体をバラバラにしておくに越したことはないか・・」
ライガがハヤトへの警戒を抱いて、彼に近づいていく。
(オレは死ねない・・こんなところで死ねるかよ・・・!)
空中から落下するハヤトが、心の中で激情を募らせていく。
(力の差も能力も関係ない・・ガルヴォルスを倒す・・それだけだ!)
激高したハヤトが全身に力を入れて、体勢を整えて着地した。
「オレはお前らを倒して、ハルナを見つけ出す!」
ハヤトがライガに向かって突っ込み、渾身の拳の一撃を繰り出す。ライガは回避が遅れて、体に拳を受ける。
突き飛ばされたライガが、受けた攻撃に激痛を覚えて顔を歪める。
「オレにこれほどのダメージを・・今のは、先ほどよりも力が上がっている・・・!?」
ライガが声を振り絞り起き上がる。激痛のあまり、彼はたまらず吐血して咳き込む。
「しかし今のは驚かされただけ・・速さはまだ俺のほうが上・・・!」
ライガが目つきを鋭くして、ハヤトに一気に詰め寄った。
「力の一辺倒ではオレをどうすることはできない!」
ライガに足払いをされて、ハヤトが転倒する。ハヤトは感情をむき出しにしたまま、起き上がりながらライガに突進する。
「けがれたお前が、オレに気安く触るな!」
激高したライガがハヤトに爪を突き立てる。体に爪を刺されるが、ハヤトも止まらずにライガの体に爪を突き立てる。
「けがれているのはお前らのほうだ・・お前らの存在がオレの、みんなを狂わせていく!」
ハヤトがさらにライガに爪を食い込ませる。ライガがそのまま体を切り裂かれて、鮮血をまき散らす。
「がはっ!」
ライガが体を突き動かして、ハヤトからとっさに離れる。
「逃がすか!」
ハヤトが怒りのままにライガに飛びかかる。ライガが爪を振り上げて、地面を削り砂煙を巻き上げる。
「オレにここまで傷をつけたのだ・・このまま野放しにはしないぞ・・絶対にな!」
憤りを口にして、ライガがハヤトの前から去っていった。
「逃げるな!お前らはオレが倒すんだよ!」
ハヤトが砂煙を振り払い怒号を放つ。しかしその先にライガの姿はなかった。
「どいつも・・どいつもこいつも・・・!」
ライガやガルヴォルスへの憎悪を募らせるハヤト。次の瞬間、彼は体から力が抜けて、人の姿に戻ってその場に倒れる。
「くっ・・オレはまだ・・倒れるわけには・・・!」
声と力を振り絞るハヤトだが、思うように動くことができない。彼はライガの攻撃を受けたダメージが大きかった。
「オレは連れ戻す・・・ハルナを・・オレが・・・!」
それでも動こうとして、ハヤトは傷ついた体を引きずっていく。しかし意識がもうろうとなっていき、ハヤトはだんだんと動けなくなっていった。
ライガとの戦いを経て意識を失ったハヤト。目を覚ました彼は、見知らぬ天井を目にした。
「ここは、どこだ?・・オレは、アイツを追って・・・」
「ボロボロに見えたのに、目を覚ますのが早いね・・」
周りを見回すハヤトに声をかけてきたのはアイリだった。
「お前・・・」
「あなたが倒れていたのを見つけたのよ。あなたのことだから病院に連れていくとまずいと思ったから、私の部屋に運ぶことにしたの・・」
声を上げるハヤトに、アイリが事情を話す。彼女は見つけたハヤトを病院ではなくマンションの自分の部屋に連れてきたのである。
「どうしてオレを助けた!?・・オレやバケモノには関わるなって言ったはずだぞ・・・」
「道に倒れてる人をほっとくなんてできないよ。たとえどんな事情だからって、ほっといたら後味悪くなるもの・・」
「それがバケモノだとしてもか・・・?」
「そこまでは、分かんない・・アンタが知ってる人だったから、なおさら助けなきゃって、思ったのかも・・・」
「おいおい・・物好きなヤツだな、お前も・・」
「いつも怪物を相手にしているあなたよりはマシなつもりだけどね・・」
ため息まじりに言いかけるハヤトに、アイリは憮然とした態度を見せる。
「助けてくれたことには感謝する。オレはもう行く・・」
ハヤトが起き上がろうとするが、体に痛みを覚えて顔を歪める。
「今は動いたらダメだって・・せめてひと眠りしてからにして・・!」
「くっ・・今はおとなしくした方がいいみたいか・・・」
アイリに呼び止められて、ハヤトはおとなしくするしかなかった。彼は再び布団に横になった。
「怪物はものすごく危なくて恐ろしい・・そんなのが自分のためだけに、人の命を奪ってる・・でもあなたが怪物を憎んでいるのは、それが許せないだけじゃない気がしてならない・・」
アイリがハヤトに気になっていたことを告げる。ハヤトは胸を締め付けられるような気分を感じながらも、話を切り出した。
「オレの大切な人を、バケモノにムチャクチャにされたんだ・・・」
「大切な人を・・・」
ハヤトの話を聞いて、アイリが当惑を覚える。
「バケモノのせいでおかしくされて、そのまま連れていかれて・・オレはアイツを連れ戻さないといけないんだよ・・・!」
「だから怪物を片っ端から倒して、その人を見つけようと・・・」
ハヤトの意思を聞いて、アイリは困惑していた。ハヤトがこれほどの深い苦悩と強い意思を抱えていたことに、アイリは心を揺さぶられていた。
「だけど手がかりもつかめない・・ガルヴォルスをたくさん倒してきて、オレのことがアイツらに知れ渡ってるみたいだけど・・・」
「あまりムチャを繰り返すのはやめたほうがいいよ・・ムチャを続けて、あなたに何かあったら、その人が悲しくなるはずだから・・・」
「オレは死なないし、助け出すためならムチャも繰り返す・・そうしないと助け出せないと思っている・・・!」
「本当に強情なんだから、ハヤトは・・・」
意固地なハヤトにアイリが呆れる。
「ところで、他のヤツにオレのことは言っていないのか・・?」
「まだ誰にも連絡していないよ。後であかりにだけ伝えようと思っていたけど・・」
ハヤトが問いかけて、アイリが落ち着きを見せて答える。
「言わないほうがいい・・?」
「アイツもオレのことは知っていたよな・・だったら別にいいんじゃないか・・・」
心配するアイリにハヤトが憮然とした態度で答えた。
「連絡するのは明日にする。私も寝るけど、勝手に出て行かないでよ・・」
「ホントにおとなしくするしかないな・・・」
アイリに言われて、ハヤトはため息をついてから目を閉じた。
(ハヤト・・そこまで大変なことに・・・)
話を聞いたアイリは、ハヤトの心境を察して心を揺さぶられる。
(私たちの手に負えることじゃない・・でも、なおさらハヤトをほっとけなくなった・・・)
自分の気持ちを裏切れなくて、アイリは困惑を募らせていた。
「寝よう、私も・・みんな明日になってからね・・・」
アイリは気持ちを切り替えて、自分もベッドに入って寝ることにした。
ハヤトに撃退されたことに、ライガは屈辱を感じていた。普段の悠然さは、今の彼からは全くなくなっていた。
「このままでは済まさないぞ、ヤツは・・必ずオレに刃向かった愚かさを思い知らせてやるぞ・・・!」
ハヤトへの憎悪を募らせて、ライガが体を震わせる。
「ただ思い知らせるだけではない・・徹底的に地獄を見せてから、息の根を止める・・・!」
野心をむき出しにして、ライガが笑みを浮かべる。
「ヤツの身近な連中を利用してやるか・・ヤツはガルヴォルスだが心というものを持っているからな・・・」
人としての心を利用してハヤトを追い詰めようと、ライガは企んでいた。
ハヤトを部屋に連れてきたアイリ。翌朝に2人は目を覚まして、アイリはハヤトの傷を診た。
「もう治ってる!?・・昨日あんなに傷だらけだったのに・・すごい回復・・・!」
ハヤトの驚異的な身体能力に、アイリが驚く。
「これがガルヴォルスってことだ・・力も体も感覚も、普通の人間を超えてる・・オレとしちゃ気にくわないけどな・・・」
「怪物だからってことね・・・」
憮然と答えるハヤトに、アイリが当惑を見せて言いかける。
「人の姿のままでいれば、人として過ごせるってことだよね・・・」
「だから人の皮をかぶって、ガルヴォルスは他の人に紛れて潜んでいるんだ・・本性を現さない限り、誰にもそのことを気付かれない・・・」
アイリが言いかけて、ハヤトが憤りを口にする。ガルヴォルスは人の姿で日常を装って、人目から離れると異形の姿になる。
ガルヴォルスの暗躍は、一般に気付かれることはない。誰かに知られても嘘や夢とされるだけである。
「だから正体を現したときに見つけるしかない・・夜に見つけやすい・・」
「でも、それだけじゃ・・」
「ガルヴォルスになったとき、ヤツらの居場所を感じることができる・・気配ってヤツなのか・・・」
ハヤトがアイリに語りかけて、握ったり開いたりする自分の手を見つめる。
「怪物を、感じ取ることができる・・・」
「本性を出した時点で、オレが逃がさねぇ・・見つけ出して叩きつぶす・・・!」
「あなたみたいに、怪物を憎んでいる怪物でも・・・」
「それは・・分からない・・もしもそんなヤツと会ったら、オレは・・・」
アイリが投げかけた言葉を受けて、ハヤトが歯がゆさを感じていく。自分の目的のために人を弄ぶガルヴォルスは許せないが、自分のように人でいようとするガルヴォルスに対しては、ハヤトは迷いを感じていた。
「それでも・・それでもオレは、立ち止まるわけにいかないんだ・・アイツを助け出すためには・・・!」
「ハヤト・・・」
迷いを振り切ろうとして自分に言い聞かせるハヤトに、アイリは戸惑いを感じていた。
そのとき、アイリの部屋にノックの音が響いた。
「誰かな・・?」
「気配も殺気も感じない・・バケモノじゃないか・・・」
アイリが立ち上がり、ハヤトが感覚を研ぎ澄ませる。アイリが玄関に行って、ゆっくりとドアを開けた。
「アイリちゃん、おはよー♪いきなり来てゴメンね、エヘヘ・・♪」
訪ねてきたのはあかりだった。彼女は顔を見せたアイリに笑顔を見せてきた。
「あれ?・・ハヤト、くん・・!?」
アイリの部屋にハヤトもいたことに、あかりが動揺を隠せなくなる。
「あ、あかり!?・・ち、違う!これには事情があって・・!」
「べ、別に悪いってわけじゃないよ!そういう仲なのが悪いってわけじゃ!」
「だから違うって、あかり!」
動揺しながら言いかけるあかりに、アイリが赤面しながら言い返す。
「ホントに違う・・倒れたオレをコイツがここまで連れてきたんだ・・」
ハヤトも不満を込めてあかりに言いかける。
「倒れてたって・・もしかしてハヤトくん、また怪物と戦って・・・!?」
ハヤトの事情を知って、あかりが戸惑いを見せる。
「ホントに世話になったな・・オレはそろそろ行くぜ・・・」
「あ、待ってって・・せめて朝ごはんを食べてからでも・・」
部屋を出ようとするハヤトに、アイリが声をかける。
「あたしも朝まだなんだよね。一緒に食べよう♪」
あかりも笑顔を見せて声をかけてきた。
「・・ったく、仕方ねぇな、どいつもこいつも・・・」
ため息をつきながらも、ハヤトはアイリとあかりの言葉を聞き入れることにした。それを見てあかりが笑顔を見せて、アイリも頷いた。