ガルヴォルス
-New Generation-
第1章
ガルヴォルス。
人類の進化とされている異形の存在。
人間とガルヴォルスの宿命と対立の渦中に落ちた者たち。
それは長い時間を経て、再び現れる。
地面に突っ伏している1人の青年。彼の前には1人の女性が立っていた。
女性は青年の前でただただ立ち尽くしていた。
「ハヤト・・・早く・・逃げて・・・」
女性が青年に向けて声を振り絞る。彼女の体が徐々に蝕まれていく。
「私のことはいいから・・・早く・・・」
「ハルナ・・ハルナ!」
青年が叫ぶ前で、女性、花江ハルナが闇の中に消えていった。
「返せ・・ハルナを返せ!」
青年が立ち上がり叫ぶが、ハルナは戻ってこない。
「ちくしょう・・バケモノどもが・・許さねぇ・・絶対に許さねぇぞ!」
ハルナを連れ去られた怒りを爆発させる青年。次の瞬間、彼の姿が人から違うものへと変わり出した。
これが青年、竜崎ハヤトの悲劇だった。
横たわっていたベッドから突然飛び起きるハヤト。彼は呼吸を乱しながら、部屋の周りを見回す。
「夢!?・・またあの夢を見たのか・・・!」
今見たのが夢だったことを確かめて、ハヤトが呼吸を整える。
(ハルナ・・どこにいるんだ、ハルナ・・・!?)
ハルナのことを気にして、ハヤトが苦悩する。彼は過去の悲劇を抱えていた。
(今は寝ておかないと・・明日も仕事だ・・)
ハヤトは気持ちを切り替えて、再びベッドに横になった。
街外れにあるケーキ屋「SUITE」。小さなケーキ屋だが、口コミなどで人気のある店となっていた。
「いらっしゃいませー!」
2人のウェイトレスが挨拶して客を見送る。
「ん〜♪やっぱりケーキ屋の仕事はいいよ〜♪みんなの笑顔を見れて、あたしの笑顔ももっと輝くよ〜♪」
「ホントはケーキのまかないが目当て何でしょ、あかりは。」
ウェイトレス、朝比奈あかりに天河アイリがからかう。
「アイリちゃ〜ん、そんなことしないよ〜・・」
ふくれっ面を浮かべるあかりに、アイリが笑みをこぼした。
「私もこの仕事に充実を感じている・・ただ、1つを除いてね・・・」
アイリが表情を曇らせて、キッチンのほうに目を向ける。そのキッチンで皿洗いをしていたのはハヤトだった。
「皿洗いや掃除はきちっとやっているけど、不器用で無愛想で・・」
「それじゃケーキ職人には向かないよね・・ケーキ作りは繊細だし・・でも、あたしとしてはいい性格かな。」
「そうかな?性格悪いと思うんだけど・・」
「クールっていうのがいいんだよね〜♪チャラチャラより全然いい♪」
不満げに言うアイリに、あかりが喜びを募らせて言いかける。
「もう、すっかり舞い上がっているんだから、あかりは・・」
もう呆れるしかなく、アイリが肩を落としてため息をつく。
「2人とも、おしゃべりしてないでケーキをテーブルに持ってって。」
そこへスイート店長の戸部まりんがアイリとあかりに注意をしてきた。
「す、すみません、まりんさん!」
アイリがあかりと慌てて仕事に戻っていった。
(おしゃべりばかりじゃいけないけど、無愛想なのも逆によくないわよ、ハヤトくん。)
まりんがキッチンに振り向いて、ハヤトのことを気にする。ハヤトはスイートの仕事仲間にも冷めた雰囲気を漂わせていた。
ハヤトは仕事が終わると、いつも1人で先に帰る。今日も1人帰ろうとする彼に、あかりが声をかけてきた。
「ハヤトさん、今日もお疲れ〜♪一緒に帰ろう〜♪」
あかりが駆け寄ってきて、ハヤトが足を止めかける。しかし彼は答えることなく、再び進んでいく。
「待ってって、ハヤトくん♪これからあたしたち、ハンバーガー食べに行くんだけど、ハヤトくんもどうかなって思って・・」
「オレ、今月厳しいから、出費を抑えたいんだよ・・もう計算してるし・・」
「それだったらあたしがおごるよ♪ハヤトくんと一緒にお食事したいなぁって思っててね♪」
「もう帰るつもりでいるのに・・今じゃないといけないのか・・・?」
あかりが誘うが、ハヤトは聞き入れようとしない。あかりは呼び止めることができず、立ち止まってハヤトを見送るしかできなかった。
「だから言ったじゃない。ハヤトを誘っても聞かないって・・」
アイリがやってきて、ため息まじりにあかりに声をかけてきた。
「アイリ〜・・だってハヤトくん誘いたかったんだも〜ん!」
「あかり・・ちょっとは人の注意を聞いたほうがいいって・・」
「だって気持ちは止められないもんだから〜!」
悲鳴を上げるばかりのあかりに、アイリは呆れるばかりだった。
「アイリ〜、こうなったら一緒に寄り道しようよ〜!」
「私を代わりにしないでって・・」
頼み込んでくるあかりに、アイリがまたため息をついた。
「仕方がない。私が付き合ってあげる。」
「アハハ〜♪アイリちゃん、ありがと〜♪」
アイリが聞き入れると、あかりが笑顔を振りまく。
「もう、単純なんだから、あかりは・・」
アイリは苦笑いを浮かべて、あかりと一緒に歩き出した。
食事のできる店を探しに行くアイリたちを、物陰から見ていた不気味な影が存在していた。
軽い食事と小さな買い物を楽しんだアイリとあかり。あかりは機嫌を直して、足取りも軽くしていた。
「プチ買い物、楽しんじゃったなぁ〜♪でもその分またダイエットのことも考えなくちゃね・・」
「でもあかりは考え直しなところが多いからね。私はちゃんと計算しているけど。」
「もー!アホ扱いしないでよー!」
笑顔を振りまいていたところでアイリにからかわれて、あかりがふくれっ面を見せる。
「すっかり遅くなっちゃったね。急いで帰らないと。」
「ゴメンね、アイリちゃん、付き合わせちゃって〜・・」
アイリが言いかけて、あかりが再び謝る。
「あかりはホントしょうがないんだから・・」
彼女に苦笑いを見せながら、アイリは街外れの道を歩いていく。
その途中、アイリが突然緊張感を覚えて足を止めた。立ち止まった彼女に疑問を感じて、あかりも立ち止まる。
「どうしたの、アイリちゃん?」
「うん・・誰かに付けられているような気が・・・」
あかりが聞くと、アイリが答えて後ろを気にする。
「ち、ちょっとアイリちゃん・・怖いこと言わないでよ〜・・・!」
あかりが不安を感じて震えだす。
「急いで帰るか、人のいる街に戻るかしたほうがいいかも・・・!」
「ここからだと帰ったほうが早いんじゃないかな・・!」
互いに意見を持ちかけるアイリとあかり。2人は自宅に向かって走り出した。
そのとき、アイリたちの前に1つの影が飛び込んで回り込んできた。
「えっ!?」
「おいおい、つれないじゃないか・・」
声を上げるアイリたちに、影が不気味な笑みを浮かべる。その正体はクモを思わせる姿の怪物。
「か、怪物!?あ、ああ、ありえなーい!」
あかりが怪物を見て悲鳴を上げる。アイリも怪物を目の当たりにして、驚愕を隠せなくなっていた。
「こうして面と向かえたんだ。オレとたっぷり遊んでくれよな・・」
怪物がアイリとあかりを見て笑みをこぼす。
「あかり、こっち!」
アイリがあかりをつかんで、怪物から逃げ出す。だがすぐに怪物に回り込まれる。
「だからつれないのはなしにしようぜ・・」
怪物がアイリたちに迫り、爪を構える。
「わー!来ないで!こっちに来ないでよー!」
あかりが悲鳴を上げてジタバタする。そこへ怪物が口から糸を吐き出して、あかりの体を縛り付けてきた。
「キャッ!」
「あかり!」
倒れるあかりにアイリが声を上げる。あかりに駆け寄るアイリが、怪物に視線を戻す。
「今度はお前の番だ・・一緒に捕まえてやるから・・」
怪物がアイリに目を向けて迫る。アイリはあかりを助けようとするが、糸をほどくことができない。
そのとき、アイリたちの耳に足音が入ってきた。アイリと怪物が振り向いた先の道から、1つの影がやってきた。
その影もまた異形の怪物。竜を思わせる姿の怪物である。
「何だ?お前もガルヴォルスってヤツか・・」
怪物、スパイダーガルヴォルスが新たに現れたドラゴンガルヴォルスを見て笑みをこぼす。
(ガルヴォルス・・このバケモノが・・・!?)
アイリが心の中で呟く。2人の怪物の出現に、彼女は危機感を募らせていた。
「お前も一緒に遊んでいけよ、コイツらと・・たまんないぜ、女遊びは・・」
スパイダーガルヴォルスがドラゴンガルヴォルスに近づいて、仲間に引き入れようとした。
その直後、ドラゴンガルヴォルスがスパイダーガルヴォルスの体に拳を叩き込んで突き飛ばしてきた。
「えっ!?」
思わぬことにアイリも驚きを覚える。
「なっ!?・・何でオレを!?相手はそこの娘2人だろ!」
立ち上がったスパイダーガルヴォルスがドラゴンガルヴォルスに対して声を荒げる。ドラゴンガルヴォルスが目つきを鋭くしたまま、スパイダーガルヴォルスに近づく。
「待て待て!オレたちは仲間だ!人間を相手に遊びをしていくのがオレたち・・!」
「ガルヴォルスは1人残らず倒す・・絶対に許しはしない・・・!」
呼びかけるスパイダーガルヴォルスだが、ドラゴンガルヴォルスは聞き入れようとしない。
「よ、よせ!手を出す相手がちが・・!」
呼び止めるスパイダーガルヴォルスだが、ドラゴンガルヴォルスが振り上げた右足に蹴り上げられる。
「がはっ!」
痛烈な攻撃で体に衝撃が走り、スパイダーガルヴォルスが悶絶して吐血する。
「お、お前・・同じガルヴォルスに手を上げるのか!?」
「ガルヴォルスは滅ぼす・・許さないと言ったはずだ・・・!」
抗議の声を上げるスパイダーガルヴォルスに、ドラゴンガルヴォルスが低く告げる。
「このまま死ぬなんて・・まっぴらゴメンだ!」
スパイダーガルヴォルスがいきり立ち、口から糸を吐いてドラゴンガルヴォルスを縛り付けた。
「邪魔する気ならちょっとおとなしくしててもらうぜ・・あそこの2人と遊んでから、ほどいてやるよ・・」
スパイダーガルヴォルスが笑みを浮かべて、アイリとあかりに目を向ける。
「それじゃ改めて遊び尽くして・・」
笑みをこぼしたスパイダーガルヴォルスだが、突然背中に激痛を覚える。ドラゴンガルヴォルスが右手を出して、爪をスパイダーガルヴォルスの背中に突き刺した。
「オ・・オレの糸を、簡単に・・・!?」
「そんなものでオレを止められるものか・・・!」
驚愕するスパイダーガルヴォルスに、ドラゴンガルヴォルスが鋭く言いかける。
「そんなことすれば・・お前は人間からもガルヴォルスからも、嫌われることになる・・・」
「オレから全てを奪ったガルヴォルスは、全員死ぬしかない・・このオレも・・・!」
忠告を口にするスパイダーガルヴォルスに言い返して、ドラゴンガルヴォルスが爪を引き抜く。スパイダーガルヴォルスが鮮血をまき散らして倒れる。
「イヤだ・・・オレは・・もっと・・この力を楽しんで・・・」
絶望感に襲われたスパイダーガルヴォルスが倒れて動かなくなる。彼の体が崩壊して、風に吹かれて霧散していった。
ドラゴンガルヴォルスは1つ吐息をついて、呆然となっているアイリたちの前から立ち去っていく。
「な、何なの、あの怪物・・・!?」
「あたしたちを、助けてくれた・・・!?」
アイリと糸から抜け出ることができたあかりが、ドラゴンガルヴォルスに対して戸惑いを感じていた。
スパイダーガルヴォルスを仕留めて立ち去ったドラゴンガルヴォルス。彼は人目に付かない裏路地で人の姿になった。
その正体はハヤトだった。彼はガルヴォルスとなって、スパイダーガルヴォルスを仕留めたのだった。
(こうしてヤツらを仕留めていけば、お前にたどり着けるのか・・ハルナ・・・)
ハルナへの思いとガルヴォルスへの憎悪を駆り立てられたまま、ハヤトは歩き出す。彼はハルナを連れ去った敵を追い求めていた。
ガルヴォルスによる事件は、各地で起こっていた。しかし警察は奇怪な事件としか分からず、それ以上の手がかりをつかめないでいた。
それでもガルヴォルスは暗躍して人を襲っていた。そしてハヤトのように、人の心を持ったガルヴォルスが他のガルヴォルスと戦い倒していた。
アイリとあかりは怪物と遭遇したことを警察に話した。しかし警察は現実離れと思われているこの話を真面目に聞こうとしなかった。
「もうっ!警察なのにバカにしてくれちゃってー!」
「私たちだって信じ切れていないのに、鵜呑みにしてくれるなんて、虫のいい話かもしれない・・」
不満いっぱいのあかりと、現実的に考えるアイリ。2人はモヤモヤした気分を抱えたまま、スイートに来た。
「おはようございまーす。」
「おはよう、アイリちゃん、あかりちゃん。昨晩のことは聞いているわよ。」
アイリが挨拶して、まりんが昨晩のことを切り出す。
「信じられないけど、本当のことなんです・・」
「あたしなんて糸でグルグル巻きにされて、死ぬかと思ったんです!これだけ必死に話したのに、警察ったら、全然信じてくれなくて・・!」
アイリが話して、あかりが必死に語りかける。
「私は信じないわけじゃないわ。でも私たちがどうにかできる相手じゃないということにもなるわ・・」
「それは・・・」
「警察も警戒を強めているそうよ。だからできるだけ夜は人のいないところを出歩かないほうがいい、ということね・・」
口ごもるアイリにまりんが言いかける。彼女の言葉を正論だと思うしかなく、アイリもあかりも頷くしかなかった。
「シフトは配慮するから、遠慮せずに言って・・」
「店長・・・はい・・分かりました・・・」
まりんに励まされて、アイリは小さく頷いた。アイリとあかりは仕事に気持ちを切り替えるのだった。
夕方に差し掛かる前に、アイリとあかりはこの日の仕事を終えた。
「ふぅ・・今日は早めに帰って、安心して休めるようにしないと・・」
「そうね。何度も昨日みたいなことになったら、身が持たないよ・・」
安堵を見せるあかりにアイリが頷く。そこへ同じく仕事を済ませたハヤトがやってきた。
「ハヤトく〜ん、一緒に帰ろうよ〜!」
あかりが声をかけてハヤトに駆け寄る。
「怪物がどうのこうのって話してたな。それでオレにボディガードをさせようって腹か?」
「だって怪物、すっごい怖いんだよ!あんな怪物がまた出てきたら、どうしたらいいの〜って感じだよ〜!」
聞いてくるハヤトに、あかりが涙目で訴えてくる。
「怪物・・どいつもこいつも自分のためだけに・・・!」
怪物への憤りを口にするハヤト。しかし泣きわめいているあかりには聞こえていなかった。
「オレを連れて帰るつもりなら、寄り道なしで行くぞ・・」
「ハヤトくん・・ありがと〜!」
ハヤトが聞き入れると、あかりが喜びを膨らませた。抱き付こうとした彼女だが、ハヤトにかわされて転んでしまう。
「そういうのはなしだ・・」
「う〜・・でも嬉しいよ〜・・」
見下ろすハヤトにあかりが苦笑いを浮かべる。
「あかり、本当に調子いいんだから・・・」
あかりとハヤトを見てアイリが呆れる。
「いくら男手があったって、あんな怪物に出てこられたら、さすがに太刀打ちできないって・・・」
ハヤトがそばにいても、アイリは安心することができなかった。それでも彼女は仕方なく、ハヤトとあかりに付いていくことにした。
アイリとあかりは同じマンションの隣り合わせの部屋に住んでいた。そのマンションの近くまでアイリとあかり、ハヤトは来た。
「ここまで来ればいいだろ?オレはそろそろ行くぞ。オレの家から離れちまう・・」
「え〜!?最後まで付いてきてよ〜!なんだったらあたしの部屋に来てもいいから〜♪」
きびすを返すハヤトにあかりがすがってくる。
「そこまで付き合う気がない・・オレをどうかするつもりなら容赦しないぞ・・・」
ハヤトに言われてあかりが逆に怖がる。彼女を見てため息をつくと、ハヤトは歩き出す。
「ボディガードを付けてりゃ、ビビッて出て来れねぇって企んだろうな・・」
そこへ声がかかり、ハヤト、アイリ、あかりが緊張を覚える。
「他のヤツらはそれに引っかかるんだろうが、オレはそうはいかねぇ!」
彼らの前に1体の怪物が現れた。背中から無数の針を生やしたハリネズミの怪物、ヘッジホッグガルヴォルスである。
「怪物!?また現れたの!?」
あかりが悲鳴を上げて、アイリと一緒に後ずさりする。ハヤトがヘッジホッグガルヴォルスを見て、目つきを鋭くする。
「男はズタズタにしたほうが面白みがあるからな・・まずはアイツを相手に派手にやってやるか!」
ヘッジホッグガルヴォルスがハヤトに狙いを定めて迫る。しかしハヤトは退こうとしない。
「コイツ、もしかしてオレに勝てるとか思ってるのか?えらく見くびられてるなぁ・・」
ヘッジホッグガルヴォルスが笑みをこぼすが、すぐにその笑みを消す。
「調子に乗られるのは我慢がならねぇんだよ・・・!」
いら立ちを見せて飛びかかるヘッジホッグガルヴォルス。次の瞬間、ハヤトの顔に異様な紋様が浮かび上がってきた。
「それは・・まさかお前も・・!?」
緊迫を覚えるヘッジホッグガルヴォルスがたまらず後ずさりする。ハヤトの姿がドラゴンガルヴォルスに変わった。
「えっ!?」
変貌を遂げたハヤトに、あかりが驚きをあらわにする。彼女は前に助けてくれた怪物がハヤトだったことを知る。
(ハヤトも、怪物だったっていうの!?・・でも、どうして同じ怪物を・・・!?)
アイリはハヤトに対して様々な疑問を感じていた。
「まさか同じガルヴォルスがいたとはな・・けど、邪魔はしないでくれよな・・・!」
ヘッジホッグガルヴォルスがハヤトに言いかけて、アイリとあかりに視線を移す。しかしハヤトに行く手を阻まれた。
「だから邪魔すんなって・・それともおめぇからズタズタにされてぇのかよ!」
苛立ちを募らせるヘッジホッグガルヴォルスが、背中から針を飛ばす。ハヤトが右の拳を繰り出して、衝撃で針をはじき飛ばす。
「バカな!?オレの針を一撃で吹っ飛ばすなんて!?」
攻撃が通じないことに驚愕するヘッジホッグガルヴォルス。ハヤトが拳を下ろしてひとつ吐息をつく。
「ガルヴォルスは、1人残らず倒す・・この手で・・・!」
ハヤトが拳を握りしめて、ヘッジホッグガルヴォルスに迫る。
「裏切り者のガルヴォルスが・・どこまでもふざけやがって!」
ヘッジホッグガルヴォルスが背中の針2本を両手に持って、ハヤトに飛びかかる。
「直接ズタズタにしてやればいい!」
ヘッジホッグガルヴォルスが針を振り下ろすが、ハヤトが振り上げた拳を受けて吹き飛ばされる。
「ぐふっ!・・なんて力だ・・・!」
ヘッジホッグガルヴォルスが吐血して悶絶する。立ち上がれない彼にハヤトが近づく。
「やめろ・・オレはお前から恨みを買うようなことは何も・・・!」
「好き勝手にやっているお前らバケモノを、オレは許すつもりはない・・・!」
悲鳴を上げるヘッジホッグガルヴォルスに、ハヤトが鋭く言いかける。アレは剣を具現化させて、ヘッジホッグガルヴォルス目がけて振り下ろした。
剣を頭に叩きつけられて、ヘッジホッグガルヴォルスが昏倒して動かなくなった。
「これでまた1人、ガルヴォルスを倒した・・・」
ハヤトはまた1つ吐息をつくと、ドラゴンガルヴォルスから人の姿に戻った。
「ハヤト、くん・・・!?」
あかりが恐る恐る声をかけると、ハヤトが彼女たちに振り返る。
「見せることになったか・・このことはみんなには黙っててくれ・・ばれると仕事がやりづらくなるから・・・」
「ハ、ハヤトくん・・それは、言わないけど・・・」
ハヤトが口にした忠告に、あかりはただただ頷いた。
「ハヤト、あなた、何者なの・・・!?」
「オレはオレだ・・体はバケモノになっちまってるけど、バケモノは誰1人許しちゃおけない・・・!」
問いかけてきたアイリに、ハヤトがガルヴォルスへの憎悪を口にする。
「それじゃ、普通の人は襲っていない・・・!?」
「当たり前だ・・何も悪くない人間を襲うなんて、バケモノみたいなマネ、絶対にするか!」
問い詰めるアイリに、ハヤトが感情をあらわにしてきた。彼のその姿を目の当たりにして、アイリが深刻さを覚える。
「とにかく、他の人にオレのことは言うなよな・・・」
ハヤトはそういうと、アイリとあかりの前から立ち去っていった。
「ハヤトくん・・・」
怪物でありながら怪物と戦っているハヤトに、あかりは戸惑いを感じていた。
(ハヤト・・怪物を憎んで・・怪物と戦って・・・)
ハヤトの事情が分かってきたアイリだが、どういった経緯で怪物になったのかを疑問に感じていた。
ガルヴォルスを憎むガルヴォルスの存在。その中でも強い力を持っているハヤトのことは、ガルヴォルスの中で知れ渡っていた。
「アイツめ・・ことごとくガルヴォルスを始末していってる・・・!」
「ヤツのせいでオレも思うように動けなくなったぞ・・!」
「アイツを何とかしないと、好き放題にできなくなるばかりじゃねぇ・・」
ガルヴォルスたちが人の姿でハヤトについて話していく。
「このままじゃ人間どもや、人間に味方する裏切り者が付け上がる・・何とかしなければ・・・!」
「一斉に攻撃するか・・いくらヤツでも数で押されれば・・!」
「それよりも弱みを握れば・・アイツにも弱点が1つぐらいあるだろ・・」
「その弱点って何だよ?分かるならそうしてるっての・・」
「やはり数で攻め立てるしかないか・・ヤツを倒す前に死んでも恨みっこはなしだ・・」
多数で一斉に責め立てることを決断したガルヴォルスたち。彼らはハヤトに狙いを定めた。
ハヤトが怪物の1人であることを知って、アイリとあかりの彼に対する感情や考え方に変化が起こった。何かで刺激させるようなことになったら襲われることになるとも思ってしまい、2人とも声をかけづらくなっていた。
一方、ハヤトはいつもと変わらない様子で仕事をしていた。アイリたちに正体を知られても、彼自身は意に介していない。
「アイリさん、本当に大丈夫・・?」
そこへまりんが声をかけられて、アイリが振り向いた。
「店長・・はい、大丈夫です。」
「それならいいんだけど・・ハヤトくんに何かあるの?」
「い、いえ、そんなことないです。ハヤトはいつものように、無愛想で黙々と仕事しているばかりです。」
アイリはまりんに答えると、仕事に集中して移動する。
(アイリさん・・あかりさんも・・・)
まりんがあかりのことも気に掛けて、表情を曇らせる。
(ハヤトくんに関して、何かあったってこと?・・でも、ハヤトくんも何も話さないし、そういうことをムリに聞くのはよくないから・・・)
自分から話を聞きに行くのを良しと思わなかったまりんも、仕事に意識を戻すことにした。
いつも通りの調子で仕事をしたハヤト。スイートを後にする彼に、アイリが意を決して声をかけた。
「ハヤトくん・・あなた、いつも怪物と戦っているの・・・?」
アイリの問いかけを聞いて、ハヤトが足を止めて頷く。
「やっぱり、人を襲う怪物が許せないから・・・?」
「それだけじゃない・・オレの大切な人を奪ったからだ・・・!」
アイリがさらに問いかけると、ハヤトが記憶を思い返して憤りをあらわにする。
「だから怪物を憎んで、滅ぼそうとしているんだね・・」
「ヤツらを叩き潰していけば、きっとたどり着ける・・そうとも思ってる・・・」
ハヤトの本当の目的を知ることができたと思い、アイリは戸惑いを覚える。彼女はハヤトが辛い過去を抱えていることを痛感していた。
「それであなたはこのまま戦い続けて、傷ついてもいいというの・・・?」
「ガルヴォルスになったオレの体は、人間より治りが早いみたいだ・・これでバケモノがいいとは思わないけど・・」
心配を口にするアイリに答えて、ハヤトが手を握ったり開いたりする。
「バケモノの力でバケモノを倒す・・周りからすればおかしなことだけど、これしかアイツらをブッ倒すことができないから・・・!」
「ハヤトくん・・・」
ガルヴォルスになったことを呪いながらも、ガルヴォルスを倒す力としているハヤトに、アイリは困惑していた。
「お前らもあんまり関わらないほうがいいぞ、このことには・・何とかしようとしても、それだけの力がなくちゃどうにもなんないんだから・・」
「私だって・・好きで関わったわけじゃない・・怪物たちが襲ってきて・・・!」
呼びかけてくるハヤトにアイリも感情を込めて言い返す。
「もしまた出くわしても、死に物狂いで逃げるしかねぇ・・そう思わないとな・・」
アイリに忠告を送ると、ハヤトは改めて歩き出した。
(そうだ・・ガルヴォルスを倒すには、それだけの力がないとダメだ・・たとえ受け入れることに吐き気を覚えるものだとしても・・)
ハヤトが現状と自分の意思を確かめていく。
(そしてオレは死なない・・ハルナ、お前を取り戻すまでは・・・)
ハルナへの思いも胸に秘めて、ハヤトはさらに戦いに身を投じていくのだった。