ガルヴォルスMessiah 第25話「自由」
奈美とひとつとなった光輝が、メシアへ光の一撃を放った。その光に抱かれて、メシアは消滅していった。
力を抜いた光輝から光があふれ、奈美が姿を現した。直後、消耗した奈美がふらつき、光輝に寄りかかってきた。
「奈美ちゃん、大丈夫!?」
「うん・・ちょっとムリしただけだから・・・」
光輝が心配の声を上げると、奈美が微笑んで小さく頷く。
「メシアは、消えてしまったの・・・?」
「多分・・・だけど絶対に死んだという確証はない・・もしかしたら、まだ生きていて、いったん僕たちの前から姿を消しただけなのかもしれない・・・」
奈美の問いかけに、光輝が深刻さを込めて言いかける。
「どっちにしても、今回の僕たちの戦いはここまでだ・・引き返そう・・・」
光輝が言いかけると、奈美が小さく頷く。2人がメシアの部屋を出たときだった。
その廊下には、多くのガルヴォルスたちが待ち構えていた。
「貴様ら・・メシアの部屋に入り込むとは・・・!」
「絶対に許してはおけない・・・!」
「我々の手で、この2人の息の根を止めてやる!」
ガルヴォルスたちがいきり立ち、光輝と奈美に迫っていく。しかし2人とも臆してはいなかった。
「そこをどいてくれ・・僕たちはここを出るんだ・・・」
「もしも邪魔するなら、あなたたちの無事は保障できない・・・」
光輝と奈美が落ち着いた様子のまま言いかける。前進する2人に、ガルヴォルスたちが緊張を募らせる。
「怯むな!このまま逃がしたら恥だぞ!」
「全員で攻めれば怖くない!」
光輝と奈美を仕留めるべく、ガルヴォルスたちがいっせいに飛びかかる。
「シャイニングエナジー!」
だが光輝が放った閃光を受けて、ガルヴォルスたちが次々と撃退されていった。
「まさか、これほどの力とは・・・!」
「こんなの、オレたちに止められるわけがない・・・!」
ガルヴォルスたちが恐怖を覚えて後ずさりする。光輝と奈美は再び歩き出す。
2人の力に脅威を感じて、ガルヴォルスたちは追撃に出ることができなかった。
メシアが消滅したことで、彼女がかけていた石化が解かれた。女性たちは自分たちが元に戻れたことに、動揺や安堵など、いろいろな様子を見せていた。
だがその女性たちの多くは、未だに自分が石であると思い込んでいた。長い時間石になっていたため、彼女は自分が人間であるという自覚を失っていた。
「私は石・・私はオブジェ・・・」
「メシアのために存在するだけ・・・」
「メシア・・私を助けて・・私を救って・・・」
女性たちが弱々しく呟きかける。メシアに石化され、メシアに裸身を触れられてきた彼女たちは、メシアに完全に依存していた。
石化から解放されたにもかかわらず、彼女たちが救われたとは言い難かった。
同じ頃、麻子と理子も石化から解放されていた。2人は別荘のリビングの中央でひざをついて、当惑を浮かべていた。
「私たち、元に戻れた・・・光輝くんと奈美が、メシアを倒してくれたの・・・?」
「お姉ちゃん・・・お姉ちゃんが、私のところに戻ってきてくれた・・・」
自分の無事を確かめる麻子と、姉と本当の再会を果たしたことに喜びを覚える理子。
「理子・・・ゴメンね、心配かけちゃって・・・」
「ううん、私こそゴメンね・・お姉ちゃんの気持ちを無視して、メシアに石にされて・・・」
互いに謝る麻子と理子。2人は抱きしめ合い、再会の喜びを分かち合う。
「でも、これで全部が終わったわけじゃない・・サターンはまだ、世界を支配してる・・・」
「光輝さんと奈美さん、これからどうしていくのかな?・・また、戻ってくるのかな・・・?」
「1度は戻ってくるよ・・2人は自分たちが帰る場所は、私たちのいるここだって思ってるから・・・」
麻子が言いかけた言葉に理子が微笑んで頷く。
「それじゃ、今のうちに服着ちゃわないと。光輝くんに裸を見せるわけにはいかないからね。」
「もう十分見られてるんだけど・・・」
笑顔を見せる麻子に、理子が呆れ気味に言いかける。2人はひとまず服を着るため、別室に向かった。
サターンの本拠地から脱出した光輝と奈美は、一路街に出ていた。そこで2人は利矢と合流した。
「アイを倒したんだね・・・」
「オレがヤツに負けるはずがないだろう・・・そういうお前は、メシアを倒したのか・・?」
「多分・・・倒れたところを直接見たわけじゃないから、確証はないけど・・」
「そうか・・・今回はここまでということか・・・」
光輝の答えを聞いて、利矢が苦笑を浮かべる。
「吉川光輝、お前とはいずれ決着を着けることになる・・だが今は互いに力を消耗している・・」
「分かってる・・近いうちに、戦いの決着を着けよう・・」
利矢が切り出した言葉に、光輝が真剣な面持ちで答える。
「ち、ちょっと待って!どうして2人が戦わなくちゃいけないのよ!?」
そこへ奈美が深刻さを浮かべて口を挟んできた。しかし光輝も利矢も考えを変えない。
「ゴメン、奈美ちゃん・・でもこれは、僕としても譲れないことなんだ・・・」
「光輝・・・」
「利矢は僕を正義の象徴と見ている・・今まで自分を陥れてきた正義のね・・真の正義がどういうものなのか、伝えたい・・それが僕の考えだ・・」
困惑する奈美に光輝が自分の心境を打ち明ける。それを耳にして、利矢が不敵な笑みを浮かべる。
「傷を治しておくのだな・・それとひとつ気をつけておけ・・」
「ん?」
「オレたちがメシアたちを退けたことで、ガルヴォルスたちはオレたちを執拗に狙ってくるだろう。いつ奇襲が来るか分からない。覚悟しておくのだな・・」
利矢が後期に向けて告げた言葉に、奈美が息を呑む。今後もサターンのガルヴォルスたちが、自分たちを狙って襲い掛かってくるのだ。
しかし光輝は真剣な面持ちを崩さずに、小さく頷いた。
「ガルヴォルスは元々は人間だ。できることなら傷つけたくはない・・だけどもし奈美ちゃんやみんなに危害を加えるようなことがあるなら、僕は迷わずにこの力を使い、戦う・・・!」
「相変わらずの甘さと正義感だな・・そこがお前らしい、というのが妥当か・・」
光輝の決意に呆れて苦笑するも、利矢はきびすを返して歩き出す。
「首を洗って待っていろ、吉川光輝・・・」
光輝にそう告げると、利矢は立ち去っていった。光輝と奈美は彼の後ろ姿をじっと見送っていた。
「さて・・僕たちは帰ろう・・麻子ちゃんと理子ちゃんが待ってる・・・」
「光輝・・・そうね・・帰ろう、光輝・・・」
笑顔を見せた光輝に、奈美も笑みを取り戻す。彼女は光輝がいつもの光輝に戻ったと感じて、安堵を感じたのだった。
「ただいま、麻子ちゃん、理子ちゃん・・」
別荘に戻った光輝と奈美が声をかける。すると私服を着た麻子と理子が姿を見せる。
「奈美、光輝くん・・よかった・・2人とも無事だったのね・・・」
「麻子と理子ちゃんも、元に戻ったのね・・・」
麻子と奈美が再会の喜びを感じて、駆け寄って抱きしめあう。その2人に光輝も理子も笑みをこぼしていた。
「みんなが元に戻ったってことは、メシアが力を失ったということだ・・だけど、まだメシアがどこかで生きているかもしれない・・」
「生きているって・・そんなはずないでしょ!?だって、私たちが元に戻れたなら、メシアは死んでるんでしょ・・・!?」
光輝が口にした言葉に、麻子がたまらず声を荒げる。
「仮死状態になっている・・そういうことでしょう・・・?」
そこへ奈美が言いかけると、光輝が頷きかける。
「それ以外にもまだ問題は残っている・・サターンのガルヴォルスが、僕たちを狙ってくるかもしれない・・」
「そんな・・私たち、もう前の生活に戻れないの・・・?」
続けて口にした光輝の言葉に、理子も不安の表情を隠せなくなる。
「だけど僕たちは負けない。平和を脅かす相手と、僕たちは戦い続ける・・・!」
「だから待ってって!光輝くんと奈美はともかく、私たちは普通の人間!戦えるわけないじゃない!」
決意を告げる光輝に、麻子が再び声を荒げる。
「戦ってほしいんじゃないよ・・戦うのは僕だから・・・」
「私も光輝と一緒に戦う・・麻子と理子ちゃんが戦いたくないっていうなら、私たちも戦わせたくない・・・」
光輝と奈美が弁解すると、麻子が思わず肩を落とす。
「光輝くんは相変わらずだけど、奈美までそんなこというようになったなんて・・」
「完全に光輝の影響よ。1年も一緒にいたんだから・・」
ため息混じりに告げる麻子に、奈美も呆れながら答える。
「そうそう。1年も裸で抱き合って1年間も・・フフフフ・・」
「し、仕方ないじゃないの!メシアに石にされて、指1本動かせなかったんだから!」
にやける麻子に、奈美が赤面して反発する。
「第一、麻子と理子ちゃんだってメシアに・・・!」
奈美が続けて言いかけようとしたときだった。突如体におかしな感覚を覚えて、彼女がその場に倒れ込む。
「奈美ちゃん!」
光輝が奈美を支えて呼びかける。すると奈美が弱々しく微笑みかける。
「ガルヴォルスの力を使った代償が、ここで来るなんて・・・我慢してたってことなのかな・・・」
「奈美ちゃん・・・麻子ちゃん、理子ちゃん、部屋、借りるよ・・・」
光輝が言いかけると、麻子が再び肩を落としてため息をつく。
「もういいわよ・・好きにしちゃって・・・」
「ありがとう、麻子ちゃん・・・」
光輝は微笑みかけると、奈美を連れて別室に移動した。
「もう付き合いきれないね、お姉ちゃん・・」
「そうね・・・奈美ちゃん、すっかり変わったわね・・体も、心も・・・」
理子が言いかけた言葉に、麻子が小さく頷いた。
その日の夜、光輝と奈美はベットの中で時間を過ごしていた。性欲の赴くまま、奈美は光輝に肌を合わせていた。
「いつもゴメン、光輝・・私のために・・・」
「言ったじゃないか・・僕と君は一心同体・・君が安らぐなら、僕はいつでも手を伸ばすよ・・・」
息を絶え絶えにする奈美に、光輝が優しく言いかける。
「光輝、私に触れて・・もっと私に触れてきて・・・」
奈美に促されるまま、光輝が彼女の体に触れていく。彼の手が彼女の胸、腰、尻、足を撫でていく。
(そう・・私と光輝は、今は一心同体・・どんなことも分かち合い、どんな考えも同じになっていく・・・)
光輝との交流を改めて実感する奈美。
(私はあなたを信じている・・あなたを信じることが、私自身を信じることになるから・・・)
自分の決心を思い返して、奈美は光輝と唇を交わす。2人はこの夜、快楽の海へと身を沈めるのだった。
その翌日、別荘には普段と変わらぬ日常が送られていた。だがその外では、その日常と明らかに一線を画すものが存在していた。
現在もサターンによる支配が続いている。人々はその世界を平和だと信じきっていた。
そこから本当にあるべき平和へと導くのは、不可能と呼べるほどに至難なこと。それでも実現させなければならない。それが光輝と奈美の決意だった。
だが光輝は、その前にやらなければならないことがあった。それは利矢との決着だった。
光輝は利矢と正義のあり方を巡って争い続けてきた。メシアという共通の目的から1度は手を組んだが、利矢は憎むべき正義の象徴として光輝を敵視している。
正義はどうあるべきなのか。その意味で、光輝は利矢との戦いを決して避けられないものと感じていた。
「利矢さんと戦うのね、光輝・・・?」
奈美が問いかけると、光輝は小さく頷いた。
「利矢との戦い。できることなら避けたいのが僕の本音だよ・・だけど、利矢の心を開くためには、もう戦う以外に方法がない・・・」
「光輝・・・」
「言葉だけで、気持ちだけで分かり合えるなら、それが1番だ・・だけど石よりも、鉄よりも固い意思は、それだけでは揺るがすことはできないんだ・・」
戸惑いを浮かべる奈美の前で、光輝が自分の決意を告げる。光輝の決意もまた、揺るがない固いものとなっていた。
「それじゃ行ってくる・・必ずここに戻ってくるから・・・」
「待って・・・!」
光輝を呼び止めたのは奈美ではなく、麻子だった。
「私も一緒に行くよ・・理子も私と同じ気持ち・・」
「麻子ちゃん、理子ちゃん・・ダメだよ。激しい戦いになるのは眼に見えている・・2人を巻き込まずに戦うことはできないよ・・」
決心を告げる麻子に、光輝が不安を口にする。しかし麻子と理子の考えは変わらない。
「分かってる・・危ないのは十分に分かってる・・・それでも、私たちも最後まで見届けたい・・・」
「私も一緒に行きます、光輝さん・・私も、光輝さんの正義を、眼の前で見てみたい・・・」
麻子に続いて理子に自分の気持ちを告げる。真っ直ぐに向き合おうとしている2人に、光輝も迷いを捨てた。
「分かったよ、麻子ちゃん、理子ちゃん・・ただし、危なくなったらすぐに逃げて・・・」
「もう、みんなしてこれなんだから・・私も人のこといえないんだけど・・」
光輝の言葉を聞いて、奈美が呆れてため息をつく。それを受けて光輝も笑みをこぼした。
「それじゃ、改めて行くとするかな。みんな一緒に・・」
光輝が言いかけると、奈美、麻子、理子が頷く。4人は戦いの場に向かうため、別荘から歩き出していった。
光輝との最後の戦いに臨もうとしていた利矢は、1人荒野に立っていた。これまでにもガルヴォルスの奇襲を受けた彼だが、その全てを撃退していた。
(光輝、早く来い。お前を倒すことで、オレは正義を超えることができる・・)
光輝に対する敵意を募らせる利矢。彼は光輝が必ず自分の眼前に現れることを確信していた。
そして時刻が正午にさしかかろうとしていたときだった。
「・・・来たか・・・」
利矢がようやく振り返った。彼の視線の先には、光輝、奈美、麻子、理子が歩いてきていた。
「待たせたね、利矢・・」
「今日ここで、お前との決着を着けてやる・・・」
真剣な面持ちを見せる光輝と利矢。
「利矢、最後に1度だけ言う・・僕たちは、戦わなくちゃいけないのか・・・?」
「愚問だ。オレは正義を憎み、お前は正義を背負っている。互いがその信念を貫いている。戦いは避けられない・・」
光輝の問いかけを利矢が冷徹にはねつける。もはや戦いは避けられないものと確信し、光輝は改めて覚悟を決めた。
「分かったよ、利矢・・僕ももう割り切る・・正義を賭けて、僕は君と、全力で戦う!」
「お前の示す正義を覆すことで、この世界は進むべき道を指し示すことができる・・・吉川光輝、覚悟しろ・・・!」
光輝との距離を取る利矢。光輝は手を伸ばし、奈美、麻子、理子を促す。
「僕から離れて・・奈美ちゃん、麻子ちゃんと理子ちゃんをお願い・・・」
「光輝・・分かった・・・」
奈美は頷くと、麻子と理子を連れて光輝から離れた。
光輝と利矢。正義と自由を賭けて、2人の青年が最後の戦いに臨もうとしていた。
次回予告
正義とは何か?
何を救うことが正義なのか?
その問いに対して、明確な答えは見つけられていない。
その答えを見つけ出すため。
光輝と利矢。
2人の青年が全身全霊を賭ける。